盾の少女の手記   作:mn_ver2

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ロストベルトNo.5-2クリア記念
ネタバレ回避のため、数行空白。

すごく久しぶりに活動報告にコメント来て驚いた。


それでも私は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うたガ キコえ ル。

 

 

 何ともない平和な広場。両脇にはずっと向こうまでびっしりと売店が並んでいる。人々が行き交い、とても賑やかな声が聞こえてくる。

 てぶらの私はなんの目的もなくそんな広場に出てきてしまった。頭が痛い。気分が悪い。今すぐにでも頭を割って脳を取り出し、直接冷水に浸したいほどだ。

 誰も私のことを構ってくれない。視界が定まらない。わたしは今何を見ている。すぐ横で美味しそうなリンゴを売っている女店主目の下のほくろか? それとも私を映さない女店主の瞳か?

 あ たマ が、 イタ イ。

 その場に倒れ込むも、立てと何かに脅されたような気がして急いで立ち上がる。そんな私を、誰も見て見ぬふりをする。まるで私が誰にも認識されていないかのようだ。

 人酔いしているのだ、きっと。ヒトの善意に触れすぎた。ヒトの悪意に触れすぎた。なるべく人気のないところへ行こう。血走った目で私は周囲を見渡し、偶然見つけた裏路地に逃げ込む。

 レンガで建てられた建物の壁に背を預け、解放された安心感とともに大きく息を吐いた。

 ……………………私は今、どうして解放されたと感じた? 何から?

「――おい、お前」

 私は振り向く。そこには獣のような体毛が身体中に生えている男が立っていた。銃を背中に背負っている。それほど外は寒くないというのに、どうしてこの男は暑そうな格好をしているのだろう。

「眠そうな顔をしているな。眠いのなら寝とけ。だが、起きてる理由があるなら寝るな」

「えっと……ちゃんと起キてますよ?」

 眠くなんてない。私はただ……ただ、なんだろう? どんな顔をしているのだろう?

 男は目を丸めて私の匂いを嗅いだ後、首を傾けた。

「おいおい、流石に寝ぼけすぎじゃないのか? 誰が見てもそう思わないぞ。まったく、お前は疲れてるんじゃないのか?」

「あなたは誰、ですカ?」

 すると男は気難しそうに眉をひそめる。

「……『忠告』はしたからな」

 何が言いたいのか全くわからない。忠告も何も、私は至って普通だ。頭痛はひどいが、まったく眠くなどない。

 こんな妙な姿の男に構っている暇はない。どこかに消えてしまおう。踵を返し、さらに奥へ逃げ込もうとする。しかし、いつの間にか目の前にひとりの少女が立っていた。腰の辺りまでブロンズ色の髪を伸ばし、北欧の民族が着そうな衣装を身に着けている。

「あら、おはようございます! お久しぶりですね。どちらに行かれるのですか?」

「あナたも私を知って……?」

「? ……おかしなことを言いますね」

 少女は小さく首を傾げ、私を見る。おかしなことを言っているのはこの少女の方だ。私はこの子のことなんて知らない。初めて会った。なのに馴れ馴れしく話しかけてくる。

 声を大にして自分から言うことはないが、私は人理を救った実績がある。それなりに名を知られているであろう自覚もある。だからこそ寄ってくる人間と安易に接することは危険だ。それに今はひとり。マシュもいない。襲われても対して抵抗もできない。

 ……ああ。でも。もしかすると私が忘れてしまった、決して忘れてはいけない人なのかもしれない。頭が痛い。どうにかなってしまいそうだ。判断力が鈍くなる。どう行動したらいいのか、わからなくなってしまう。

 人の機微がわからない。このふたりのことがわからない。

「ずっとこの調子なんだ。変なものでも喰ったのか、変な歌でも聴いたのか」

「お歌?」

「……ああ、お前の故郷には歌があったんだったかな」

「はい。お歌は七つありました。御使いのお歌が四つと、巨人のお歌が三つ。私、特に御使いのふたつ目が好きで……って。そんなことよりも、すごく調子が悪そうですよ。大丈夫ですか?」

 私の顔を覗き込んでくる。ここで取るべき適切な対応がわからない。適当の微笑んで誤魔化そうとするが、うまく口角を上げられない。

 誰か、安心できる人に会わなければ。マシュ。マシュ。どこにいるの? 私を独りにしないで…………。

「寝床で休んだほうがいいのでは?」

「あるいは医者に診せるかだな。……っと。ちょうどいいところに。おーい、アーシャ! こっちに来てくれ! ついでに馬も!」

 男は表の方を見て誰かの名前を呼ぶと、少女よりもさらに五つほど年の低い子供が走り寄ってきた。赤いインド風の民族衣装が魅力的な、髪を後ろで結いでいる女の子だ。

 とてとてとアーシャという名前の子供は背伸びをして私の顔にぺたぺたと触れる。「うーん」とひとつ唸る。

「おねえちゃん、おなかいたい……?」

「オ腹は……大丈夫だよ」

 所詮は子供のお医者さんごっこのようなものだ。可愛らしいと思えただろうが、今の私にそんな心の余裕なんてない。

「――馬、と。馬と私を呼んだのはどなたですか? ええまあ、呂布は馬の如き巨躯の将ではありますが」

 そう言ってアーシャの後ろからひとりの馬人間が歩み寄ってくる。彼は……どこかで見かけた馬だ。

「私はアーシャ殿と父君を背に乗せて、朝の清涼な空気の中を駆けなくてはならぬ身。ですので失礼しますよ。さ、アーシャ殿。我が背に」

「でも、おねえちゃん元気なさそう……」

「……おや、確かにそのようですね」

 この人たちは私が安心して身を預けられる人間ではない。知らない人たちの言葉を鵜呑みにすることはできない。でも、そんなことを考えられないほど……。

「ツらい……デス」

「そうよね、やっぱり! でもどうしたらいいのかしら……」

 少女が私の肩を支えてくれる。男も反対側を支えてくれるが、身長差のせいでバランスが非常に悪い。だがその善意は素直に嬉しかった。

「どうもこうもありますまい。この御仁、どうやら『歌を聴いている』ようですし」

 アーシャを背に乗せた馬がよくわからないことを言っている。歌を聴いているから頭が痛くなったのか。なら耳を塞ごう。だが両手で耳に蓋をしてみるも、まるで意味がない。耳で聴いているのではない。脳が直接歌を聴いているのだ。

「やっぱりそれか」

 男は納得した様子で私を裏路地から連れ出そうとする。人がたくさんいるところへ連れ出そうとする。

 ――嫌だ。やりたくない。これから人を殺すなんて、やりたくない!

 抵抗したかったが、そんな力もない。私はふたりにされるがまま運ばれてゆく。足に力が入らない……というより、足が浮いている。私はふたりに肩を支えられるだけで持ち上がるほど中身が軽いのか。

「…………ァ、ゥァ゛」

「――わかってるんだろ。お前は」

 鋭い眼光で射抜かれる。私は萎縮し、目を逸らす。人々が私を見ている。それがとてつもなく怖くて、いっそ消えてしまいたいと強く願って目を閉じた。

 

 再び目を開けると、私を支える二人はいなくなっていた。アーシャも、馬もいなくなっている。ふと、私は死の臭いに気づく。後ろを振り返るとそこには死体の山が広場を覆い尽くし、遥か彼方……地平線の果てまでも埋め尽くしていた。

 皆が皆、生きているように綺麗な状態だ。でも死んでいる。見るだけでそれがわかってしまう自分自身が嫌だった。

 誰かに肩を叩かれる。前に向き直ると、人々が私を見つめていた。まるで視姦されているような不快感に私はえづく。隅から隅まで、私というずるい人間性を暴こうとしている視線が貫く。

「――これはあなたがやったのですか?」

「チがっ……」

「違いませんよね? 自分勝手な理由で皆を殺して、どこが違うのですか?」「俺たちは怯えている! オマエが俺たちの領域にずかずかと入り込み、荒らし、殺し、終らせる蛮行に!」「……そう、あなたは悪い人だ。悪魔だ。いや、悪魔でもこれほど人を殺しはしないだろう」「あなたは何様ですか? 神様? もしくはそれ以上の存在? だからといって人殺しをしていいわけじゃない」「まさか、自分が正義だなんて思ってないよな?」「我々の生きた証を無かったことにされてたまるか!」「死んでもなお許されない罪と知れ」「君に歴史を否定する資格はない」「リーダーとして責任を取れ」「いったいどうしてそんな悪の諸行ができるんだ?」「いつかお前以外の全員が死ぬ」「死ぬのはあんただ」「手前らのためにオレたちが受け入れると思っているのか。死ぬ気で殺してやる」「神様はどうしてこいつを真っ先に始末してくれないの?」「おんたこそ死んでしまえ! 俺たちの大切の人を奪うな!」

 一方的に浴びせられる現実な声が胸を灼く。苦しい。痛い。苦しい。痛い。苦しい。痛い。苦しい。痛い。

 暴言はしだいに暴力となり、石を投げつけられる。私に当てられることは別に良かった。でも、私の後ろにいる死体たちを傷つけるのは何があっても許されることではない。私が殺したのは事実だが、それ以上に陵辱するのは望んでいない。矛盾した思考。相手の尊厳を自分で犯したくせに、誰かに犯されることは許せないときた。

 なんという身勝手。もはや、私は救いようのないくらい狂った女だ。

 懸命に立ちはだかり、両手を広げ、背後の死体たちを守る。でもとても全部は守りきれない。私の小さな身体では皆を守り通せない。

 内蔵が傷つく。歯が落ちる。骨が軋む。砕ける。目が潰れる。鼻が抉れる。腕が千切れる。頭が割れる。

 痛みはすでに消え、ぐちゃぐちゃになって崩れ落ちた私は血の海に沈んでゆく。誰も手を差し伸べてくれるはずもなく、暗くて冷たい底に沈んでゆく。

 ――私は、最期に咆哮した。

 

「うむ……幻覚に幻聴、幻痛。味覚障害、記憶障害。自傷。感情異常。右半身の麻痺。PTSD、鬱。どれをとっても無視し難い症状だ。言うまでもなく即入院ものだよ」

「――――――――ゥ?」

 椅子に座っていた。服も普段カルデアで着ているものだ。対面に同じく椅子に座っているのは昔のダ・ヴィンチちゃんだ。バインダーに挟まれた数枚の紙をペラペラと捲りながら言葉を紡ぐ。

「これまでは呆れるくらいに健康優良児だったのに、まるで別人のようだね」

「…………」

「今までよく貫き通せたものだよ。これまでずっと、問診を上手くやり過ごしてきたんだろう? 君は別にテスト満点を取る必要はなかったんだ。ありのままの自分で失敗するべきだったんだ」

 私はだらだらと口からよだれを垂らしながらダ・ヴィンチちゃんの話に耳を傾ける。口元を拭えない。右半身が動かない? いいや。いいや。それは大げさだ。現に私はオリュンポスでここまで戦い抜いてきた。神を斃した。ならゼウスをも必ず殺してみせる。

 私は何も異常はないと努めて朗らかに返答する。

「ううん、ダメだよ。もう私達にそれは通用しない」

「いあゥ」

「ずっと君に無理をさせ続けていたんだろうね。もう休むといい」

 休めない。休むことは許されない。やることは無限にある。だからマスターとしても、人間としてもここで終わるわけにはいかなかった。

「うタ が、きこエ マ す ね?」

 苦しい。歌が聴こえる。脳汁をストローで吸い取られるような奇妙で耐え難い感覚だった。心臓? これも違う。私という存在そのもの。魂の在り処を探られているのだ。

「ああ、うん。そういう事だよ。まさしくそれでいいんだ。――その通り、君は『歌を聴いている』。耳で聴くものではなく、魂で聴く女神の旋律だ。すでに脳の大部分が掌握されているから、いつ精神崩壊が始まってもおかしくない。医師を、探さないと。……しかし、君なら克服できるかもね」

 椅子を蹴り飛ばし、ダ・ヴィンチちゃんに肉迫する。代わりなんていないから、私しかマスターを頼めないでしょう⁉ と縋りつこうとした。

「それでも私は――――」

 しかしその瞬間、彼女の身体は霞がかって消えてしまった。

 

「おはようございます、先輩。……先輩?」

 マシュがいた。

 呆然としている私の前で手を振っている。今の私はどうにかなっている。確信できる。自分でも何を考えているのかわからないままマシュに抱きついた。訪れる安らぎに、このまま死んでしまってもいいとすら思うほどだ。

 力いっぱい抱きしめ、暖かさを身に染み渡らせる。

「わっ。な、なんですか?」

「――おはよう。朝からマグマのように熱いわね」

 知らない声が聞こえた。

 そこには見覚えのある女がいた。名前はたぶん覚えているけど間違えたら怖いから口にしない。確か、何かしらの感情を向けたことがある。

「?……なんだかずいぶん顔色が悪いようだけど」

「……真っ青です。尋常ではない状態に見えます! 普段の先輩と全く違いますし、危険な状態と思われます! すぐにドクターのところへ行きましょう!」

 体調はいつにもまして悪い。歩くことすら億劫だ。実際マシュに直立を支えられている現状だ。何も考えられない。考えることが難しい。思考することすら放棄してしまいたい。

 歌が聴こえる。細胞一つ一つを正確に巡回し、音ではないものが届けられる。

「い っ シ ョニう た わな イ?」

 今、私は何を口走った? 思い出せない。

 マシュが豆鉄砲を食らったような顔をしている。きっと変なことを言ってしまったのだろう。

「――いいえ」

 女が語りかける。

「女神の歌は、あなただけに聞こえている。急ぎなさい。すぐにでもあなたの中心部を掌握する。……それは愛の歌。魂を『ねじる』歌。尊きものすべてを殺す強制反転、精神汚染」

 わからない。聞こえにくい。女の大事なアドバイスが聞こえにくい。この歌が精神汚染であることだけわかった。

 精神汚染? 何を今更。背負えるもの以上のものを背負った私にはちっぽけな石ころのような存在だ。

 何を馬鹿な、と言いかけて気づく。私の手はマシュの首に伸びていたのだ。その意図なんて考えるまでもなくわかってしまった。咄嗟にマシュと距離を取る。それは絶対にしてはならない。守り、守られの大切な人。殺してしまいそうになれば、その前に私が死ぬ。

「急ぎなさい。目覚めて。バレルに触れた今のあなたは危険な状態なの。『ここ』に長く留まってはだめ。お願い。目覚めて。でなければ……あなたはマシュを殺すわ」

「そんなこと、しない!!」

 そう言って、私は虚ろなナイフで胸を深く突き刺した。

 

 食堂で私は人肉のハンバーグを食べていた。もちろんスープも一緒だ。ハンバーグの味付けにソースをまるまる一本。あとケチャップも二本ほど。これがなければ食事は始まらない。誰もいないからゆっくり右手で箸を使う必要もないから両手で手掴みして食べる。

 静まり返った食堂に、ふたりの人物が入ってきた。シオンとゴルドルフだ。急いで手拭きで口元と手を拭く。

「所チョウ?」

 私が呼ぶと、所長は数秒無視したが、やがて自分が呼ばれたのだと気づいた。

「所長? 何だねそれは? 私は時計塔から派遣された歴とした査問官だが?」

「あ、アれ……?」

 彼はカルデアの現所長だ。ほぼ毎日顔も合わせているし、彼を忘れるはずがない。しかしこの口ぶり、旧カルデアが襲撃される前の肩書きと同じだ。ということはつまり、過去へ逆行? 記憶の追体験? ……いや、それはない。

「困るよシオン君。部下の教育は徹底してもらわないと。……よく見ればこの若者、顔色がヘンではないか。どう見てもまともではないぞ」

 そんなはずはない。きちんと食事をとったから元気一杯だ。歌がまだ聴こえているのが不快だが、少しは気分が楽になったはず。だから今出撃命令が出てもすぐに出られるほどだ。

「あら、本当。これはいけません。至急治療が必要かと」

 そう言うと、シオンは踵を返して急いで食堂のドアを開けた。首だけ外に出し、「ドクター! ドクター! お忙しいところすみませんが、急患です!」と声を張る。すると瞬く間にひとりの男が食堂に入ってきた。白衣に身を包んだ、柔らかそうな男だ。

 私は男を見ていると、いつの間にか頬に熱いものを感じていた。ああ、これほど汚れてしまった私がこの人に出会うことなんてどれほど罪深いことか。しかし意思に反して身体は勝手に動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――歓喜と、感謝と、恐怖だ。

 

 

 

 

 

 

 逃げるように隅に飛び移る。

 この熱いものは偽りのない喜びである。しかし、「ごめんなさい」という気持ちと、情けないという自罰も含まれていた。

 あれだけ私を支えてくれた。あれだけ私を助けてくれたこの人に果たしてきちんと報いることができているのだろうか? そう考えると、歌が聴こえていることなんかよりも遥かに恐ろしさが勝った。声にならぬ奇声を上げ、私は隅っこにうずくまる。

 しかしドクターは私に近づき、話しかけてきた。

「縺?s? 縺ゅ≠縲∽ケ?@縺カ繧翫□縺ュ縲ゆサ翫∪縺ァ縺壹▲縺ィ縲∵悽蠖薙↓鬆大シオ縺」縺ヲ縺阪◆縺ュ縲ゅ?繧ッ縺瑚ィコ縺ヲ縺ゅ£繧医≧縲」

「ぉアア゛あ、アあぁあ゛ッ!!」

 歌が聴こえる。怖い。身体中を蛆虫が這いずり回っている。なんだか私を私が見ているような奇怪な体験。完全に異常者となった私を私が側で見下ろし、見下している。私はそんな滑稽で憐れな私を見つめている。でも私はそれを否定しようと千切れんばかりに首を振っている。だからといって全てから解放されるはずもなく私は項垂れる。それでも希望を見い出そうともがく私はいずれ無意味であることを知る。知っている私はそんな私を嗤う。いつの日か、誰かとふれ合えた喜び、暖かさを忘れてしまった私は結局のところ、人でなしであると揶揄する。私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私はわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはわたしはワタシハワタシハワタシハワタシハワタシハワタシハワタシハワタシハワタシハワタシハワタシハワタシハワタシハ――――――――……………………。

 …………………?

 

 

 

 

 

 

 

 あれ……? 私は、どこにいるノ…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――たぶ ンゆ めを 視タ。

 私はいつだって、最善を尽くしてきた。

 ――シラ ナいひ と タ 違イた。

 それがどれだけ困難であろうとも。

 ――うた がキ 声 る。

 私は、危険を顧みず、私を貫いた。

 ――デも この 夢 ニはシラ な い人 タチ がい た。

 これでいい。これでいい。

 でも……でも。忘れてしまっても、完全なゼロとなったわけではない。あったものを、なかったことにするなんて、私自身に対してだとできない。

 ぼんやりと。雪の結晶のように。見ることはできる。触ることはできる。でも、触れた途端に消えてしまう。そんなもどかしさがどうしても胸の奥に潜んでいる。たくさん。たくさん。

 それらに苦しめられるのだ。あの人たちは何も悪いことはしていない。私がただ、これを完全に克服できていないだけだ。しかし克服はしない。それは真の意味で、私が人でなしに堕ちると同義だ。

 ――もっと皆と一緒にいたいな。

 すると、何者かが現れた。獣のような男だ。

「なら立ち止まれ。俺の言ったことも何もかも忘れて、立ち止まれ」

 すると、何者かが現れた。北欧の民族衣装の少女だ。

「無理をしなくてもいいのですよ? 少し休みましょう?」

 すると、何者かが現れた。インド風の子供だ。

「おねえちゃん、だいすきだよ」

 すると、何者かが現れた。右目に眼帯をした女だ。

「目覚めて。でも、本当にここにいたいのなら……いいわ。歓迎はしないけど」

 皆、知らない。忘れてしまった。

 それでも言葉は確かに私の荒んだ心に届き、癒やしてくれる。ありがとうを何度も言った。感謝の涙を流し続けた。

 ……でも、私はここで立ち止まることはどうしてもできなかった。

 立派な理由? そんなものはない。私はズルくて、臆病で、バカで、愚かなくせに皆の前では明るく振る舞う救いようのないくらい女だ。だからカッコイイことなんてなにも考えられない。

 私はいつか無理に無理を重ね、壊れる。そんなのわかりきっている。回避しようなんて余裕は残念ながら私にはない。

 胸を張って堂々とできない私だ。それでも私には、やらなければならないことがある。そのためにも、あらゆる犠牲を積み上げてでも進まなければならない。私自身の魂までも。

「――そうか。誰もが綺麗な生き方ができるわけではない。私の屍を乗り越え、さらに先を征く。その結末を、見届けさせてもらうぞ」

 ……そうだとも、ゲーティア。

 私はあなただけではなく、たくさんの誰かと約束を交わした。それを果たすことが私のやるべきこと。だからここで足を止められない。たとえどんな敵、どんな障害が行く手を阻もうと――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それでも私は、立ち上がるよ」




誰よりも強い葦よ。

もうひとつクリア記念書きたいけどいいネタが思い浮かばない。でもその前にリクエストもあるからできるだけはやく消化したい。どうしましょ笑

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