最近シリアスを身近に感じられなくて悶々とした日々を送っていませんか?
さて、こんなに遅くなったのは、
・リアルが忙しかった
・ゆゆゆの執筆に浮気していた
からです。一つ目がひと段落ついたので投稿しまーす。
以前アンケートしましたが、活動報告に来たリクを消化しますね
マスターの役割は、なにも戦闘だけではない。こうして人理を護る戦いは長期化し、契約したサーヴァントは百を軽く超える。それぞれに部屋が割り当てられ、それでも特に問題なく稼働するカルデア。しかしそのひとりひとりは人間(人間ではない者もいるが)であり、心というものがある。
それのケアというのは建前で、ちゃんとサーヴァント全員と偏りなくコミュニケーションをとって絆を深めることもマスターとして大事な仕事だ。
とはいってもマスターが勝手にそう考えて動いているだけだから、別段忙しくはなる。
そうまでしようとするマスターの人柄に皆は惹かれているのかもしれない。
「ヘイ、マイフレンド! そこの煎餅とって頂戴!」
とはいっても誰のところにお邪魔するかはその日の気分次第だ。今日は、ふと目に止まったアサシンにも負けないほど存在感を消してミーティングルームから察そうと去ろうとするマンドリカルドの後をつけて、勢いのままに乗り込んだ。
部屋の中はとても簡素で、特徴的なものは特になかった。強いて言えば、本棚にヘクトールに関する本で埋め尽くされている程度だ。
「俺はマスターの雑用AIではないんですがね……っと。ほい」
マンドリカルドはそうやさぐれながらも渋々と箱の中の煎餅を一枚差し出した。
「サンキューマイフレンド!」
「……っす」
マンドリカルドは椅子に座って本棚に手を伸ばし、本を手にとって読み始める。
マスターも同じように本を一冊手にとって読むことにした。とはいってもどれもヘクトール関連のものしかなく、どれがいいかわからないから適当に薄いものを選んでベッドに腰を下ろした。
それはヘクトールの英雄として活躍を絵本にしたものだ。明らかに子供向けではあるが、別に構わないとマスターはページを捲り始める。
するとしだいにマンドリカルドがちらちらとこちらの様子を窺うように見てくるのに気づいた。
自他認める陰キャだから、こうして他人と閉鎖空間に無言でいることにもしかするとストレスを感じてしまっているかもしれない。
「……ごめん、マンドリカルド。私、邪魔だった?」
「え、あ、いや、そんなことは……ないっす」
突然にそんなことを訊かれて驚いたのか、しどろもどろになってしまう。
「ちょっと強引に押し入った感あったから、嫌だったら出ていくよ」
本を閉じる。
あの時マンドリカルドは独りを望んで場から離れようとしていた。それはつまり、ひとりになりたいと考えたからだろう。でもマスターは後をつけ、部屋に戻ろうとしたマンドリカルドに声をかけたのだ。
「別に……嫌では……ないっすよ。まあ確かに最初は驚いたけど、そういうところがマスターなんだなって」
「そういうところ?」
「それは……サーヴァントたちを気にかけてくれていることとか? こんなトップ陰キャサーヴァントの俺に気を配って、こうして一緒にいようとしてくれてるんすから……まあ、嬉しい気持ちはありますよ」
やけに早口言葉になっている。
照れ臭いのか、俯きながら喋るせいで後半の言葉は少し聞きづらかった。しかし言いたいことはちゃんと伝わった。
「……俺だって知ってるんすよ。毎日ずっとカルデアを歩き回って、色んな人たちと話しているのを。あれってきちんと全員と仲を確かめ合って、深めるためっすよね?」
鋭い……というわけではないが、そんなことをしていれば誰かの目に止まるのは必然か。
マスターは指先を弄りながら少し気恥ずかしそうに言った。
「そうだね。でもそれは私がマスターだから……」
「……そうだとしてもっすよ。中身のない会話じゃなくて、ちゃんと歩み寄って話そうとしてるのがわかるんで」
マシュと話す時。訓練後のブリーフィングでカエサルとの意見交換の時。アルテラサンタを刺激するため文明について話す時。モリアーティと悪巧みをする時。
そのどれもが本物の会話で、差し当たりのないふわふわした会話などではなかった。陰の者だからわかる話の雰囲気というか、とにかくそういうのはよくわかる。
「――私のこと、よく見てるんだね」
「あー……ごめん。なんか、ごめん。陰キャ特有の変な方向に考える癖が」
『誰か』が気にかかってしまうと、自然と目がいってしまう。行動を知ろうとしてしまう。それに何の意味があるのかと問われると、特にないというのが正直なところだろう。苦し紛れに人間観察だと誤魔化せば『変な奴』という印象を与えて終わるだけだ。
マンドリカルドのはまさにこれで、世間一般からすれば変なことなのかもしれない。カルデアに来てまだ日が浅い。すでに何年もマスターと共に過ごしている古参と違って新人もいいところだ。
なのにこんなストーカーじみたことは……。
「気にしないで。マイフレンドが思ってるようなことは絶対にないから。なんならヤンデレみたいな子もいるしね」
まだ全員を把握しきれていないマンドリカルドにもすぐに思い当たる人物を複数人思い浮かべることができた。
陰の者でも陽の者でもないオーラは未熟なマンドリカルドにはまだはやい領域だ。
マスターはにんまりと微笑むと拳をマンドリカルドの胸に当てた。それだけで動揺が最高潮に達し、目の前が真っ白になってしまう。
――知ってる! これ知ってる! これが男が勘違いするやつっすね!!
立派な黒い髭を生やした、海賊風の男からもらったアドバイスが脳裏をちらりとよぎった。
『いいか新入り、よく聞け。このカルデアは我々には地獄であり、天国だ。拙者は何度も過ちを繰り返し、地獄を見てきた。だがこれらの原因はすべて拙者が受動的に行動したせいだけではない……そう! 天国が向こうからやってくるのだッ!! これほど最高なものがあるだろうか⁉ いや、ない!! 絶対ない!! だがここで注意するべきなのは、地獄がハッピーセットとしてついてくることだ。いいか? キャッキャウフフはほぼ不可能と思え。向こうからすり寄ってくることがあっても心を許すな。……そして最後に、我らがマスターとキャッキャウフフしてみろ、翌朝お主が目覚めることはないだろう。……だろう……だろう……』
ありがとう! 髭の人!!
おかげでマンドリカルドは陰キャである自分を保ち、貫くことができた。マスターはなんて犯罪的な立ち回りをするのだろう。もうすぐでふたつの意味で逝きそうになってしまった。
音が聞こえるほど大きくかぶりを振り、現実世界に戻ってきた。
「最近来たばっかりで不安かもしれないけど、なんだかんだ皆いい人だから仲良くしてね。……あ、そうだ。マイフレンドはゲームは好きかな? 似たような属性の人を三人ほど知ってるから今度紹介しようか?」
「もしかしてそのうちの一人ってダサ……文字がプリントされたTシャツの、角を生やした女性ですかね?」
「そうそう!」
『おっきーのゲーム部屋』によく入り込んでいる人物の一人だ。白地のTシャツに『0分針』とよくわからない文字がデカデカと書かれているが、マンドリカルドにはそれが何を意味するのかわからない。ちなみに角のありなしで興奮状態かどうか判別できる。
その人物と同じくらい目立つのが、サンタが持つような大袋に限界までお菓子を詰め込んでゲーム部屋に突入しようとしていた小太りな象だ。
見事失敗し、袋が破けて中身が濁流のように溢れ、集めるのを手伝った記憶がある。
そのどれもが手を汚さないようなお菓子ばかりで、本気度が窺える。
カルデアに来たからには是非ヘクトールと色々話などがしたいが、ひとりに執着するのはあまりにもったいないことだとマンドリカルドは自身を戒めた。せっかくヘクトールだけでなく大勢の英雄たちが集う場に自分はいるのだ。
全く知らない人と会話をすることでもしかすると新たな発見ができるかもしれない。それに、マスターの好意を無駄にしたくもない。
「ゲームは普通ですけど……まあ、お願いします」
「よしきた、任せて! すぐにでも話をつけておくね!」
パッ、と勢いよくベッドから立ち上がったマスターはトタタと別れを言って部屋を出る。
そのままの足で『おっきーの部屋』に向かったが、ドアの前に『入るな!』と立て札があったのでまた時間を改めることにした。きっと今ゲームに必死にプレイしているのだろう。マスターはふと最後にゲームをしたのはいつだろうと振り返るが、わからなかったからそこで考えることをやめた。
手記に書かないと。マンドリカルドと話して、少し仲が良くなったことを書かないと。記憶が零れ落ちないように今のうちに、はやく視覚化するのだ。
「――おお、クリスティーヌ、クリスティーヌ……」
突然後ろから話しかけられ、マスターは足を止めた。
振り返ると、半分だけの狂人の仮面を被ったファントムが氷のような目でマスターを見下ろしていた。
ファントムはマスターの周りを犬のように歩き回り、顔を覗かせてマスターの後ろを見る。
「うん? どうしたのかな?」
「我が眼、クリスティーヌを見たり。その声をもっと聞かせておくれ……その顔をもっと見せておくれ……」
「ああさっきの? さっきはマイフレンド……マンドリカルドと話してたんだよ! まだここに来たばっかりだからね。私が積極的に話して皆との繋げてあげたいんだ」
するとファントムは嬉しそうに鋭利な鍵爪をカチカチと鳴らしながら口角を上げた。
「美しきものよ、美しくあれ。醜きものよ、私が排す」
思わぬ申し出にマスターは目を丸くした。
普段ならそんなことは言いそうにないのに、どうしてなのだろうと考える。いつもクリスティーヌクリスティーヌと言っているから、好んで近寄る人がいないのかもしれない。だからきっと、寂しがっているのだ。
「りょーかいっ。マイフレンドと一緒にゲーム部屋は……うーん、ファントムはゲームとかあまりするような印象ないけどそこのところどう?」
「今こそ耳を傾ける時……」
「ま、そうだよね。そんな気はしてたよ」
人というのはどうしても相性というがあるし、こればっかりは仕方ないだろう。絶対にいがみ合うと思っていたキアラとカーマだと、一方的にキアラがちょっかいを出したりしてカーマが毎回キレるがなんだかんだ上手くいっている。逆にアルトリアは若き日の自分と必要以上のことを話そうとしない。歩んできた人生に無意識に引け目を感じてしまっているからだろう。同じベクトルの人間だと思ってアサシンエミヤとエミヤオルタを同室にする機会を与えても泥のような空気が流れるだけだった。
「嗚呼、クリスティーヌ……その歌声で私を震わせておくれ。それに酔うことができれば、私は何も要らない……」
「そうだねぇ……最近思うんだけど、私って実はもう成人しているんじゃない? って考えたりするんだよね」
「一時の愛は実に甘美……」
「まさにその通り。確認しようしようって常に思っててもまた今度でいいやってなっちゃうんだよね」
「歌え歌え……安らかな死を!」
「お酒⁉ それは駄目だよ! まだ私本当に成人してるかわからないし!!」
「歌姫よ、君こそが最高の歌姫だ」
「そりゃあ……ね? ちょっとは気になるよ」
「世界は私を見ない。だから私も世界を見ない」
「マシュに怒られるからそれは駄目だよ。すぐに酔っちゃう体質かもしれないし」
「私は……おお……クリスティーヌ……愛しき我が歌姫……! 参ろう。永遠に、どこへでも……」
「一理あるね。……あっ、今のなんだかホームズっぽいセリフがふわっと出てきた! あの人の口癖って結構あるから印象に残ってるんだよね」「その歌声を私だけに……」「今は語るべきではない。なるほど。実に興味深い。とか?」「君こそ君こそ君こそ……。今を生きているのだ」「いやーそれはないでしょ! あははは!」「美しい君に私は歌う」「うん……うん。ありがとう。ファントムは優しい人だね。でも私以外にそんなこと言ったらだめだよ?」「ララララッ」「もう、何言ってるの。私は変な人じゃないよ。こうして生きているし、
◆
「何しているのですか、先輩?」
食堂の一角から全体を見渡していたマスターは中腰の姿勢から戻り、後ろを振り返った。その手にはカメラマンが持つようなごついカメラがあった。
マシュがカメラを覗き込むと、その最新履歴にはがやがやとサーヴァントたちが集っている食堂の写真が映されていた。
「ちょっと面白そうだから始めてみたんだ。どう? 一枚撮るよ〜」
「じゃ、じゃあ……お願いします」
パシャリ、とフラッシュを切って後輩の姿を映す。マシュはてっきりOKサインを送ってくれると思っていたが、マスターの表情はなぜか曇ってしまった。
「先輩……?」
「……ダメ。ぜんっぜんダメダメだよ! マシュの! 魅力は! こんな程度じゃないの!!」
「えぇ……」
悔しそうに地団駄を踏むマスターに呆れつつも、その仕草がなんだか可愛らしく、くすりと微笑を漏らした。
マシュにはカメラの仕組みはわからないが、色々ボタンなどを押して設定を弄っているマスターを見るのは新鮮さがあった。
「よし、撮影会をしよう! さあこっちに来るんだぐへへ……」
いやらしいおじさんのようにちょっと汚い笑みを浮かべたマスターは、マシュの手首を握って食堂を出た。そのまま若干駆け足で通路を過ぎ、マイルームへと連れ込む。
「さあさあ、ポーズを取ろう! うーん……そうだね……腰を捻って……それに右手をそえてみようか」
マスターがとてもやる気になっているのが面白くて、撮影会に付き合ってあげることにした。マスターの実演を真似てポーズを取る。
「そう! それで! そのまま目線はこっちで!」とやけに細かい指示が飛ぶ。これは戦闘時よりも熱が籠もっているとみて間違いないだろう。
ちらりと横目で見るような構図でマシュはマスターを見る。するとなぜかマスターは小刻みに震え始め、梅干しのように渋い顔をして鼻を摘んだ。
「はあ……尊いかよ。人間の神秘を見てしまった私はいったい何者……」
「先輩さっきからテンションがおかしいですよ?」
「あれ……そう? じゃあちょっと下げるね」
そう言うとマスターは興奮しきった熱を一気に下げた。まだ変態的な目はしているものの、明らかに落ち着きを取り戻したのがわかった。
テンションを下げると言って下げるのはなんだか違和感の残る言動だが、これでマシュも落ち着いて被写体になれる。
ローアングルからの一枚。スカートの下にぎりぎり潜り込まない絶対領域をよく理解した角度でシャッターを押した。このチラリズムがなんともいえない興奮を呼ぶのだ。
そしてカメラの位置を変え、上目遣いになるような構図でまたシャッターを押す。
素材が素材だからどれだけ撮っても飽きることはない。しだいにマシュも乗り気になり、自分からポーズを取るようになっていく。
可愛らしい仕草からカッコいいものまで。満足する頃には熱が入りすぎて汗をかいてしまっていた。
「すごくいいのが撮れたよ。ありがとう、マシュ」
重そうなカメラを丁寧に机の上に乗せ、マスターは椅子にゆっくりと腰を下ろした。そして引き出しから一冊のアルバムを取り出すと、割れ物を扱うように優しく触れた。
「写真を撮るなんて、どうしたんですか先輩? それにデータ化するんじゃなくて、こうして印刷までして」
「思い出を残しておきたくて、ね。印刷したのは……なんだろ。アルバムに一枚一枚納める作業に意味があるからかな」
「そうですか……思い出、ですか」
「うん。写真を見たらさ、あの時あんなことがあったなぁ、とかって振り返れるじゃん」
まだアルバムは三ページ程度しか埋められていない。写真もそれほど大量にあるわけではなく、ほんの少し前から始めたことがわかる。
透明なフィルムを剥がしてしまわないように念入りに指を這わせてページを捲る様は、言葉が正しいかわからないがなんだか過保護な気もしなくもない。
その様はなんだか我が子を優しく宥める母親のような……。
ぶんぶんとかぶりを振ってマシュは曖昧な考えをどこかに捨て去った。
「じゃあ今度は私が先輩を撮りましょう」
そう言ってマスターの今まで使っていたカメラに手を伸ばそうとしたが、「あ、なら待って」と呼び止められた。
「そのカメラだと大きいから撮りにくいでしょ。それだったらこっちの方が……」
マスターは机の下の引き出しを開いた。すると中には丁寧に並べられたカメラがたくさんあった。棚の壁にあたって傷つかないように、きちんと衝撃吸収用のスポンジがセットされている。
マシュにはカメラに関する知識は乏しいが、調整するための小道具のようなものまで完備している。
「すごいでしょ。これ全部ゲオルギウスから借りたんだよ。アルバム見てもいいけど大事に扱ってね」
「わかりました、先輩」
特に表紙には何のタイトルも書かれていない、本当に新品のアルバムだった。新品特有の涼しい匂いもする。マシュはそれを手にとって開いた。さっきは遠目で覗くことしかできなかったからよく見えなかったが、これでよく見える。中に丁寧に入れられている写真は何の他愛もないものばかりだ。
エミヤとキャットが一緒に料理をしていたり、カメラを構えるゲオルギウスだったり、ギョロ目のジル・ド・レェに追いかけられるラクシュミー。
どれも印象に残るようなシーンばかりで、ある種のセンスを感じる。
そんな中、マシュは一枚の写真に目が止まった。
それはモノクロで、被写体もないただマイルームを写したものだった。
「先輩、これは何ですか? モノクロになってるんですけど、何かのミスでしょうか?」
「ああそれ? それはミスじゃないよ」
ごそごそとマシュ用のカメラを取り出しながらマスターは答えた。その大きさは掌に収まる程度で、カバーを外して手渡した。
「っと、はいこれ。持ち歩きやすいからふとした時に使ってみるといいよ。見返すといろいろ面白いから」
色は薄い灰色で、角が丸くなっていて可愛らしい外見をしている。
そもそもそれほど数のない写真だから仕方ないがすぐにアルバムを見終えてしまったマシュは初めのページに戻り、指さした。
「ありがとうございます。その……やはりどうしてもこの写真が気になってしまうのですが、何か写ったりしているのですか? 例えば壁のシミが人の顔に見える……とか」
と尋ねられて、マスターは薄っすらと微笑を浮かべた。その意味がマシュにはわからなかったが、別に嫌がっているわけではなさそうだ。
マスターが手を伸ばしてゆっくりとモノクロ写真を指で撫でる。
そして、
「ううん、
と真っ直ぐに答えた。
(見ないほうがいいよ!)
だから『見ないほうがいい』ってちゃんと警告したのに……
ファントム以上に意思疎通ができないなんて……。そもそも、マスターちゃんは誰と話していたのだろう……?
それではまた次回!