アタシはさ。今のこの生活に満足してんだ。だからこれはアタシ自身の責任。アンタがそんなに泣くなって。
そういって彼女、僕の担当アイドルの桐生つかさは病院のベッドの上で疲れたような、少し寂しい笑みを浮かべた。
それは昨日
のことだった。
次の日の速水奏とのライブバトルを控えたつかさはいつも以上に張り切って練習に望んでいた。
「大丈夫か?つかさ。張り切りすぎてもダメだぞ?」
「アタシのことは自分が1番よくわかってるからそう心配すんなって。」
そう言いながらニシシと笑うつかさをみて、僕は何かとても嫌な予感を覚えた。ドロドロとした足元にまとわりつくよえな不安を。
「明日のこと心配してくれてんのか?」
「……ああ。そうだ。」
「それならいらねえよ。アタシは勝つ。例え相手があの速水だろうとアタシは勝つよ。」
「……そう、だよな。ごめん。」
「謝んなって。アンタはアタシを信用して見てな。」
「ああ。そうだな。このあとも練習してくのか?」
「あと1時間くらいしてから帰るよ。」
「そうか。まあ明日に向けてゆっくり休むことも大切だぞ。」
「わかってるわかってる。」
そういって僕は彼女と別れたがやはりどうしてもあの予感が取れることは無かった。
そして次の日。ライブバトルの当日。開場時間になっても彼女は現れなかった。現れなかったのだ。今まで一回も遅刻などしたことのない彼女がこんな大事な日にそんなことありえない。そう思った僕は逸る気持ちを抑えながら彼女に電話をかける。プルプルプルと鳴らしても彼女は一向に出る気配はなく。やっぱりあの予感を伝えておくべきだったかと考えながら速水さんのプロデューサーにそのことを伝えると、
「早く行ってあげなさい。場は持たせておくわ。」
「ありがとうございます!」
「でも、そうね。どんな状態だったにしても早く連絡しなさい。」
「わかりました。それでは!」
そう言って駆け出すと、
「ほれ!」
そういって車のキーを投げて渡してくる。
「車使っていけ。車で来てないんだろ?」
「はい!ほんとにありがとうございます!出来るだけ早く返します!」
「あったりまえだ!」
そして会場から車を飛ばすこと数十分。寮にたどり着いて管理人さんにつかさの部屋を開けてもらうと、飛び込んでくるのは倒れているつかさと、その真っ赤な顔だった。
「インフルエンザですね。」
「インフルですか……」
「無理はさせない方がいいでしょう。彼女はアイドル。体が資本です。」
「分かっています。」
そして場面は最初に戻る。
「アタシはさ。今のこの生活に満足してんだ。だからこれはアタシ自身の責任。アンタがそんなに泣くなって。」
「そういうわけには行かない。昨日ちゃんと伝えておくべきだったし、病院に行っておくべきだった。」
「なんでだよ?昨日は調子良かった。」
「そんなはずない。つかさの体の調子が本当によかったなら、前日に追い込みなんてしないはずだ。体調、何日か前から悪かったんじゃないか?」
「っ……だけど、ライブバトルは休めないだろ?それもあの速水とのだ。せっかくアンタが取ってきてくれたのに。」
「そんなこと……!俺にとって1番大切なのはつかさだ!仕事なんていくらでもとってきてやる。やり直したいなら速水さんとのライブバトルだってまたセッティングしてやる!そんなこと気にしなくていいんだ。俺はつかさをトップアイドルにするってそう約束した!だからお前はもっと自分を大切にしてくれ……つかさの夢は俺の夢なんだ……」
「……ごめん。悪かった。」
時は少し流れて一月後。
「つかさ。体調はどうだ?」
「万全。」
「ステージの方は盛り上がってるぞ。緊張は?」
「もちろんしてる。でもこんなんで潰れるアタシじゃない。」
「それもそうだ。それじゃあ張り切って行ってこい!」
「悪いな。お前ら全員アタシのファンにしちまうぜ?」