戦闘訓練から数日たった。新聞でオールマイトが教師として勤めているという報道があり、雄英高校の前にはマスコミの山。そんなマスコミの一人が正門を潜ろうとして発動した雄英高校のセキュリティ、通称雄英バリアー。
そんな様を報道陣の後ろから見ていた俺は、冷静に相澤先生へと電話をかけた。
「相澤先生、ちょっとトラブルがあって遅刻しそうです。」
「...何があった、団扇。」
「正門前の報道陣にセキュリティ踏んじゃった人がいて、正門が閉じました。雄英って裏口とかありましたっけ。」
「...ちょっと待ってろ、今マイクが正門に向かってる。そのうちバリアーは解けるはずだ。遅刻は無しにしてやるからゆっくり来い。」
「了解です。」
そんな会話をしていると、報道陣が自分へと矛先を向けてきた。
「すいません、インタビュー良いですか?」
「構いませんよ、あなた方のお陰で今暇になりましたから。」
インタビューワーはその毒を気にもせず、普通に質問を投げかけてきた。
「オールマイトの授業はどんな感じですか?」
「新人教師って感じですね。授業はカンペ見ながらですけどとても丁寧にやってくれています。時々うっかりして言葉を間違えるようなところも新人って感じですね。」
「"平和の象徴"が教壇に立っているという事で、様子など聞かせて!」
「さっき言った通り、教壇ではまだまだ新人のうっかり教師ですから、特に"平和の象徴"だと感じる場面はまだないですね。」
そんな会話をしたいるとバリアーが開いた
プレゼントマイクは言った
「HEY報道陣!あんまり前に出過ぎないように気を付けてくれよ!」
報道陣に向かって自分は一言
「門が開いたので、自分はこれにて。遅刻しちゃってますから。」
そう言って自分はするっと報道陣を振り切り、門の中へと入って言った。
すれ違いざまにプレゼントマイクが言った
「災難だったな、お前さん。」
「今度からはあと1本は電車早いの乗るようにします。」
自分が教室に入ると、皆はワイワイと騒ぎながら黒板の前に集まっていた。
「すいません、遅くなりました。...なんの騒ぎですか?コレ。」
相澤先生は寝袋を着たまま、こう答えた。
「学級委員長決めだ。団扇、お前も投票しろ。」
「随分と票が割れてますねー。それじゃあ。」
自分は、何故か皆1票の中0票だった飯田に1票を入れた。
ちょっと感動しながら飯田は声を上げた。
「団扇くん、君って人は!」
その声が何でそんなに感動しているのか分からず、普通に答えた。
「いや委員長つったら飯田か八百万だろ、真面目さ的に考えると。」
そこで、自分の勘違いに気付いた相澤先生は言った。
「団扇、この投票は自薦ありだ。だからこんなに票が割れてるんだよ。」
「あー、みんな自分で自分に投票しているから1票なんですか。まぁ今更変える気は無いんでいいですけど。」
そんな投票の結果、学級委員長は、3票を獲得した緑谷、副委員長は2票を獲得した八百万となった。
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食堂にて、緑谷、麗日、飯田、そして俺の4人は一緒に食事を取っていた。
「人がすごいなぁ...」
「ヒーロー科の他にサポート科や経営科の生徒も一堂に会するからな。」
「お米がうまい!」
「本当にな。俺、かれこれ10年くらい家事してたけど、この味は出せねぇわ。」
「へー、団扇君って意外と家事手伝いとかしてるんやね、意外!」
「オイなんで意外って2回言った麗日。」
そうして自分はご飯にとろろをザバーッとかけて一気に食べ終えた。
「ご馳走さま!ちょっとトイレ行ってくる!」
「だからそんなに急いで食べてたんだね...食事の前に行ってくれば良かったのに。」
「いや、並んでる最中で催してな。せっかく並んだ列から外れるのに抵抗があったんだよ。あと、ついでに食器も返しちゃうから教室でな。」
「それじゃあねー。」
そうして食堂近くのトイレに行った、凄い行列だった。
「あー、こりゃ職員室の方に行った方が早いな。」
そうと判断した自分は、職員室の方へと足を向けた。
職員室の近くのトイレは大体空いている。これはこの雄英高校でも変わらなかったようだ。
トイレの個室にすわって一息ついたとき、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。
「セキュリティ3が突破されました、生徒の皆さんはすみやかに屋外に避難してください。」
「セキュリティ3ってどのくらいの危険性だ?...取り敢えず逃げるにしても出すもの出してからだな。」
少ししてからトイレを出ると、目の前には2人の不審者がいた。
一人は黒い霧を身に纏うバーテン服の男性
もう一人は黒一色の上下に、顔に謎の手をつけている男性
手の男は、自分にこう言った。
「はぁ、このガキも運が無いな。見られたし、殺すか。」
滲み出てくる悪意に呑まれないように、強気を保ってこう言った。
「運が無いのはそっちかもしれないぜ?侵入者さん達。」
そう言いながら、写輪眼を発動し、腰を落として半身に構え、両手でガードを作った。臨戦態勢である。
黒い霧を纏った男はその目の色の変化に
「目が...紅くなった?」
と一言零した
そんな霧の男の警戒など気にせず、手の男は無言で自分に襲いかかって来た。
写輪眼が見せるのは、奴は右手で触ってくるという相手の動き。
相手の個性がわからない今、その手に近づくのは危険と判断し、大きくバックステップ。
躱されるとは思ってなかったのか、顔の手の隙間から自分の目を見る手の男。
目線が合った
手の男は、目の前の少年の赤い瞳の3つの点が車輪のように回るのを見た。その後の記憶は彼には無い。写輪眼の能力、幻術である。
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手の男は意識を朦朧とさせながら、自白を始めた。
「俺の名は死柄木弔、個性は崩壊、この学校に来たのはオールマイトを殺す下準備の為。」
死柄木の異変に気付いたのか、霧の男は目の力にあたりをつけた。
「まさか、紅くなったのは催眠の魔眼ッ!死柄木弔、撤退します!」
目を閉じた黒霧により死柄木は霧の中に引きずり込まれ、消えていった。
自分は奴の霧が毒である可能性を考慮して、追撃はやめておいた。
そうして霧が晴れたあと、そこには誰も居なかった。
「転送系の個性って、なんでそんな強個性がヴィランなんてやってるんだよ。監視カメラはこの辺りには無いって事は俺の証言だけがヴィランのやってきた証拠か...信じて貰えるか?元ヴィランの俺の言葉を。」
念のため職員室の扉を開けて誰かがいるのか確認、セキュリティ3が突破されたというのは結構な大事なのか職員室内部には誰も居なかった。
「仕方ない、一旦指示通り外に出て先生を探すか。」
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警察が突入してきて、セキュリティ3が突破された主な原因とされた報道陣は撤退していった。
その後の帰りのホームルームで、緑谷がクラス委員を飯田に譲るというハプニングがあった。八百万のなにか言いたげな顔が印象に残っているが、それはいいだろう。
帰りのホームルームのあと、自分は相澤先生に職員室近くで不審者を見たと証言した。
「団扇、そいつはどんな風体のやつだった?」
「口で言うより、見せた方が早いですね。個性を使います。良いですか?」
「?おう、やってみろ。」
相澤先生に目線を合わせ、写輪眼を発動した。
そうして幻術で映像を見せた。自分がトイレを出てから2人のヴィランが消えるまでの一部始終を。
相澤先生は正気に戻ったあと、自分を心配して、されどこの情報を広めないように小声会話を始めた
「団扇、お前ヴィランと交戦したのか。」
「背を向けたら殺されると思いました。個性の分からないのが2人、なら戦う以外に生きる道は無いかと。」
「そうだな、本来教師としちゃ逃げろと言いたいところだが、良い判断だ。お陰で襲撃者の顔と個性と1人の名前まで分かった。お手柄だよ、お前が生きている事も含めてな。」
だが、相澤先生は俺の言葉に疑問を持ったようで、問いを重ねてきた。
「しかし、この情報を外で生徒の誘導をしていたヴラドキング先生たちにすぐに渡さなかったのは何でだ?」
「単純に忙しそうだったってのと」
「てのと?」
「自分の、元ヴィランの言葉をどれだけ信じて貰えるか疑問だったからです。相澤先生はともかく、他の先生がどんな人なのかはまだ良く知りませんから。」
相澤先生は少し思案したあと、自分を諭すように言葉を発した。
「まぁ、確かに交戦したのはお前だけ、勝ち組確定の転送系個性、そして何よりオールマイトを殺すという目的、お前が嘘を吐いていると考える奴も出てくるかも知れないな。
だがな団扇、雄英教師を、ヒーローを舐めるな。お前が元ヴィランだって言う程度でお前の証言を信じないような奴はこの学校には居ない。お前は素直に大人を信じて良いんだ。」
「ありがとうございます、相澤先生...ただ、その言葉は正直寝袋を脱いでから言って欲しかったです。」
「まぁいい、俺はこのことを職員会議に上げる。団扇、お前はもう帰れ。」
「いいえ、帰りません。催眠かけた自分にはわかります、相手の言葉の真意は荒唐無稽なものでも確かな事実です。警戒できるようにオールマイトへも相手の顔と個性を伝えたいと思います。」
相澤先生は、ポーカーフェイスのまま、何かを隠していることを悟られないようにしつつ言葉を重ねた。
「安心しろ、それは俺から伝えておく。お前の個性のお陰で俺にも顔と個性の情報はしっかり伝わっている。オールマイトは歴戦のプロヒーローだ、言葉だけで十分に伝わる筈だ。」
「でも!」
「でもじゃない。大人を信じて任せておけ、子供のすることは無い。いいから帰れ。」
「...わかりました。オールマイトにこのことをよろしくお願いします。」
また、子供扱いだ。自分が守られる側だと自覚はしているが、それでも嫌なものは嫌だ。親父を売ったあの日から、ずっと早く大人になりたいとばかり考えている気がする。
そんな負の考えのループに入ろうとしていたところを、飯田の声が止めてくれた。
「団扇くん!君にお礼を言いたい!ありがとう!」
「突然なんだ?特にお礼を貰う理由は無いぞ。」
「いいや、ある!僕は緑谷くんに学級委員長を譲ると言われたとき、一瞬迷ったのだ。だがその時頭をよぎったのは、団扇くんが俺に入れてくれた1票だった!君が応援してくれたから、僕は委員長を引き受ける覚悟ができたのだ!」
「おい、お前そんなこと考えていたのか...本当に真面目な奴だな、飯田って。それなら、どういたしまして!だな。」
「相澤先生との話も終わったのだろう?なら一緒に帰ろうじゃないか!」
「そうだな。緑谷、麗日、帰ろうぜ。」
会話をしていた麗日と緑谷はこっちを振り返った。
「あれ、相澤先生との話終わったんだ。何話してたの?」
「ちょっとな、避難の時不審者を見つけたって話だ。」
「結構重要な事ッ!団扇くん大丈夫だったの⁉︎」
「不審者は転送系の個性みたいでな、すぐに帰っていったよ。」
「へー、何にせよ怪我無くてよかったよー。」
「本当にな、ヴィランに出くわした経験なんてなかったから結構ビビったわ。」
「無事で何よりだ、団扇くん!」
「あ、そうだ団扇くん、パンフレットのことは相澤先生に聞けた?」
「あ。」
「また忘れてたんだね。どうする?パンフレットの地図の部分だけ写真撮る?」
「...緑谷、その提案は最初の日にして欲しかったわ。もう地図は大体覚えたし、今更パンフレットとかもう良いかなってかんじだな。」
「結構適当だよね、団扇くんって。」
「そういや程々に適当なのが生きるコツだって親父が言ってたわ」
そんな会話をしながら4人は家路につく。気付けば心のモヤモヤは気にならなくなっていた。
もうすぐやってくるかもしれない悪意を気にし過ぎないように心がけながら。のんびりと家に帰ろう。そう思った。
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緊急職員会議にて相澤は発言した。
「ウチの生徒が職員室前で2名のヴィランと遭遇しました。その生徒の個性、催眠で聞き出した情報と交戦の結果から導かれた結論を話します。
1人の名前は死柄木弔、個性は崩壊、条件はおそらく触ること。雄英のセキュリティを突破したのはコイツの個性でしょう。
もう1人は名前は不明、個性は身に纏った黒いモヤを利用した転送系の個性。ウチの生徒が魔眼系個性と見抜いて即座に目を閉じる機転のある、厄介なヴィランです。
そしてその2人が雄英にやってきた理由はオールマイトを殺す下準備の為だそうです」
「生徒がヴィランと交戦したのか⁉︎クソ、マスコミめ!奴らに気をとられていなければ職員室近くでの狼藉など見過ごす訳などなかったはずなのに!」
「それよりもその情報の正確性を問うべきじゃない?オールマイトを殺すなんて普通考え付かないわよ。その生徒の個性がかかってなくて、嘘の情報を流されたって可能性は?」
「団扇、交戦した生徒は体育祭にもまだ出ていない一年です。そんな生徒の個性が漏れているとは考えにくい。荒唐無稽ですが、オールマイトを殺すという目的は真実でしょう」
「...私が狙われるのはいつもの事だ、納得はできる。だがそのせいで生徒に危険が及んでしまうとは...」
「大丈夫さ!幸いにも交戦した生徒は無傷、訓練の浅い一年生にも関わらず敵の情報を持ち帰るなんて大金星を挙げたのさ!なら、その頑張りに答えようじゃないか!まずは警察に連絡して死柄木弔という青年とモヤを利用したワープの個性の人間の調査!そしてオールマイトがいつ襲われても対処できるようにカリキュラムの見直し!やれる事をしっかりやろうじゃないか!」
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「黒霧、どうなってる。なんで俺はアジトに戻ってるんだ?」
「死柄木弔、あなたは遭遇した生徒の魔眼系個性によって催眠をかけられました。そのせいでオールマイトを殺すという目的もヒーロー側にバレてしまったようです」
「あー、畜生そんな反則みたいな個性の奴がいるとか聞いてねぇぞ。目が合ったら終わりとか、チートかよ。」
「体育祭にも出ていなかった個性なので、おそらくまだ1年生でしょう。頂いたカリキュラムからオールマイトが教えているのは1年生だとわかりました。本襲撃の際にも邪魔される可能性は高いでしょう。...どうします?死柄木弔、襲撃を中止しますか?」
「中止はしない、だが先生から託されていたもう一体のアレを準備しておこう。集めた雑兵が役に立たなくなっても、アレが2体いればどんな状況でも対応できるだろ」
今回はちょっと短め
ちなみにここで死柄木とエンカウントしたのは、主人公の個性を知られていなかったらUSJ事件が一行で終わりかねないという裏事情からです。洗脳系の個性ってやっぱチートだわ。