【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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作者は筋トレにわかです。
調べたところ小中学生の間はスクワットや腕立てのような自重トレーニングが良いとの事なので、この小説ではそれを取りいれています。
なので、指摘があったらバンバンやって下さいな。


日常

財前小指は自分団扇巡の保護者である。彼は組の名前財前を苗字にしているが組の直系の家系という訳では無い。孤児だった小指のオッサンを拾って養子にしたのが財前組の若頭だったらしい。それ以来小指のオッサンは組の忠実な兵隊として働いていたのだそうだ。

ちなみに、戸籍の手続きを行う際、自分にも財前の姓にならないかと小指のオッサンは尋ねて来なかった。

自分がヤクザ者から足を洗いヒーローになろうとしている事がバレたのだろうかと疑って軽い感じで尋ねてみたら答えは単純、オッサンは独身なので、俺を養子にする事が出来ないのだそうだ。なので自分の苗字は団扇のまま、団扇さんちの巡くんなのだ。

 

昼は学校、夜はヒプノセラピーサロン、深夜にトレーニングの日々が続いて早4年、小学校に入って早々に「団扇は暴力団関係者だ、近寄らない方がいいぜ。」という風潮を作ってしまう事となった。その上自分の個性が催眠系能力であるというダブルパンチ。友達?なにそれ架空の生き物?というレベルで自分には友がいない。話しかけてくるクラスメイトも居ない。

正直めちゃくちゃ寂しい。学校に通いたかった理由の何割かは確実に友達が欲しかったからだと言うのに!どうしてこうなった。

さらに言うなら小学校高学年では教師からもビビられている感すらあった。いや、教師が生徒を特別扱いするなよ。

 

が、そんな事に悩むのは今日までだ!なんと自分、中学校は私立に通う事となった。

これは別に小指のオッサンが金持ちだったとかそう言う話ではない。この世界、優秀な人間が社会に出て来やすくなるように、奨学金や給費生などの制度が発達しているのだ。流石地味に未来世界、社会福祉のレベルが前世とは違うぜ。

そんな訳で自分は金を払って学校に通うどころか、金を貰って勉強し、高い成績を残すことを義務付けられた給費生として私立の名門私立中学に通う事となった。

ちなみにその学校にウチの小学校から通う子は俺だけだ。俺は、風潮による束縛から解放されるのだ!やったぜ。

 

なお、ウチの小学校の奴とピアノ教室が同じ子がいて、自分が暴力団関係者だということは一瞬でバレた。解せぬ。

 

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「そんな時の人、団扇巡君にインタビューがあります!雄秋中学新聞部の坂井誠です!良いですか?」

「あぁ、別に構わない。ただ一つ言っておきたいんだが、俺が暴力団関係者だって風潮が一瞬で広まったのが学級新聞のせいだよな。どういう面の皮して俺に顔出せたんだよお前ら。」

「真実を最短で、真っ直ぐに、一直線に伝える事が新聞部のモットーですから。それに間違った事は発表していないので、特に問題はありません!」

「凄えコイツ真顔で言い切りやがった。プライバシーの侵害とか考慮しようぜ、お陰で俺の中学生活もお先真っ暗ですよ畜生。別に俺自身は特に悪いことしていないぞ?むしろボランティアとかに積極的に参加する優良市民であると自負するレベルだ。」

「嘘、ですねそれ。」

「?特に嘘はついていないぞ?」

「いいえあなたは嘘を吐きました。私にはわかります!貴方は自分が悪いことをしていないと言いましたがそれは嘘です!」

「...無断で個性を使われたんだ、こっちも使わせて貰って構わないな?」

「へ⁉︎なにを突然にッ!」

 

すると突然、少年の瞳は赤く染まった。

 

「お前の言葉には確信があった。事前情報の殆ど無い俺のインタビューなのにだ。もし、俺が何か悪いことをしてるって事前にわかっていたら一人でインタビューをしにくる訳はない。先生を同伴させるとかもっと大人数で来る筈だ。だから、お前が俺の悪事に確信を抱いたのは俺の言葉を聞いた瞬間だ。つまりお前の個性は。嘘を見抜く個性だな。」

「こんな一言から私の個性を見抜くとは、なんて切れ者。」

「いやあんな反応されたら誰でもわかるわ。」

「いや、あなたの個性は催眠系ッ、さては私に個性を使いましたね!」

「Noだ、あんたに俺の眼はまだ使っていない。」

「嘘を言っていない⁉︎という事は本当に推理だけで私の個性を見抜いたの⁉︎...まるでホームズですね。」

「探偵イコールホームズとか、さっきの反応とかから見るに、お前割と頭悪いだろ。」

「辛辣ですね⁉︎」

「事実だろ。嘘を言っていない事はわかるんだろ?」

「うっ、今だけはこの個性が憎いッ!本心からだとわかってしまう!」

「さて、放課後は用事があるんだ。さっさとインタビューを終わらせてくれ。」

「...意外ですね、私の個性を知った上でインタビューを続けてくれるなんて、普通無いですよ?」

「だって、昼休みに約束したろ?放課後インタビュー受けるって。俺は約束はちゃんと守る男なんだよ。」

「ふふ、団扇君って意外と変な人だったんですね。」

「そこは優しいとかのプラス表現で言ってくれよ。」

「ふふ、そうですね、団扇君は優しい人です。何か悪いことをしている人でもありますけど。」

「さて、誠を見抜く個性で俺の悪事を暴けるかな?」

「やってみせますとも!だって、真実は一つですから!」

 

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「それではまず直球から!ズバリ、団扇君のご両親はヤクザ屋さんですね?」

「いいや、俺の実の両親は極普通のサラリーマンと専業主婦だよ。大暴投だな、1球目」

「あれれ?いきなり嘘を言っていない。じゃあ叔父さんや叔母さんがヤクザ屋さんなんですか?」

「さぁ、俺の両親は結婚を反対された口らしく、親戚付き合いとかは無かったんだ。わからないな。」

「またしても真実?じゃあヤクザ屋さんの関係者だってのは嘘ですか?」

「実はな...俺がヤクザの構成員なんだ。」

「な、な、なんですとー⁉︎」

「嘘だよ。中学生が構成員とかどんだけ困窮したヤクザだよ。いくらヤクザ屋さんが絶滅危惧種だとしてもそこまで落ちぶれちゃいないだろ。」

「で、ですよねー。いやちゃんと嘘だって分かりましたよ私には、なにせ私にはこの真実を見抜く眼があるのだから!」

「一つわかったんだが、お前の個性目じゃなくて耳だろ。」

「何故に⁉︎どうして気付いたんですか?親かお医者さん以外に個性のこと話したことなかったのに!」

「単純って言っても俺だけに見えるものだがな。俺が嘘をついた時にお前の体内エネルギーが集まったのは耳にだった。それだけの事だよ。」

「へー、催眠眼って意外と色々見えるものなんですねー。」

「まぁ、俺の個性は催眠眼っていうより催眠もできる眼だからな。実は人の体内のエネルギーの流れとか見えたりする。むしろそっちの方がメインだったりするくらいに便利だぞ、この眼。」

「なんと、催眠とエネルギーを見る能力の複合個性だったんですか。良い個性を引き継いだんですね!」

「それには同感、この眼がなかったら一体どうなっていた事やら。少なくともこの中学に入れたかどうかは分からないなー。」

「え、でも団扇君給費生じゃないですか。頭は良いのですし私立中学に入るのはむしろ当然なのでは?」

「いや、俺の生まれって実は大阪なんだよ。」

「なんと関西圏ですか!それが一体どうしてこの千葉県に?」

「個性関係でなー。色々あったんだよ。詳細は話さないって約束だから言えないけど。今は両親と離れて暮らしているわけさ。」

「なんと、意外と苦労してるんですねー団扇君って。」

「ちなみにそんな団扇君は君たち新聞部の書いた記事による風評被害で余計にとっても困っています。何か言うべき事は?」

「ご、ごめんなさ...いいや謝りませんよ!さてはあなた、私に謝らせてあなたが暴力団関係者だという記事を撤回させるつもりですね!」

「チッ、バレたか。」

「おのれ卑劣な...」

「んで、卑劣な団扇くんは質問をします。

1つ、俺の両親は暴力団員ではありません。

2つ、俺の親戚も暴力団員ではありません。

3つ、俺自身も暴力団員ではありません。

さて、俺と暴力団との関係とは一体なんでしょう?」

「そ、それは...そう、個性関係です!」

「例えばどんな?個性関係では範囲が広すぎて何を言っているのか分からんぞ。」

「それは、えっと...催眠系の個性に強い人が暴力団にいて、その人に個性のコントロールを教えて貰っているとか!」

「残念ハズレだ。特に推理とかなく思いつきで言ったろ、お前。」

「せめてヒントを!」

「それではヒントを教えてしんぜよう...とはならないからな。」

「何故に!」

「インタビュー時間、30分の約束だったろ?今何時だ?」

「今、午後4時です...でもでも!確かな記事を書くためにはちょっとばっかしの延長も仕方ないのでは?」

「だから約束したろ?30分なら付き合ってやるけどそれ以降は用事があるから無理だって。俺は約束を守ったぞ?」

「うぐ、わかりました今日は引き下がりましょう!でも、必ず真実を暴いてみせますからね!」

「その真実が捏造されたものでない事を祈るよ。それじゃこれにて、坂井先輩も気をつけて帰れよ。」

「あ、いえ私団扇君と同じ1年ですよ!...そんなに大人の女に見えましたかー?」

「まだ入学して二週間だぞ⁉︎それがもうインタビュー任されるって行動力の化身かお前⁉︎」

「いやー実はまだインタビュー任されてはいなかったりして。でもでも!先輩は特ダネ見つければ私に一面任せてくれるって約束したんですよ!」

「んで、俺へのインタビューから特ダネは見つけられたか?」

「う、見つけられてないです。」

「じゃあこの30分はお互い徒労だったって事で、お疲れ様でしたー。」

「こうなりゃ意地です!家までついて行ってインタビュー続行してやりますからね!」

「はぁ、じゃあちょっとこっち向いてくれ。」

「はい、なんですか...」

 

少女の瞳は、少年の赤い眼にある3つの点が車輪の様に回るのを見た。

 

「幻術成功。5分くらいぼーっとしててくれよ?新米記者さん。」

 

虚を見る少女を置いて少年は教室を去っていった。

その5分後、少女は正気を取り戻した。

 

「え、え、え?何が起こったの?団扇君?何処?...催眠眼の個性!あの男、個性使って逃げたの⁉︎...あんな一瞬見ただけで発動できるなんてなんて強力な個性なの、団扇君の眼って。」

 

強力な個性に驚愕していた少女は気づく。

 

「あ、団扇君の悪事のこと聞くのすっかり忘れてた!まさかそれも催眠眼の仕業⁉︎団扇君、恐るべし...」

 

一応補足しておくが、催眠を使ったのは最後だけである。この少女、嘘を見抜く個性の割にごまかされやすいのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

所変わって財前ヒプノセラピーサロン、Closedとかけられた扉を無視し、少年はサロンの中に入っていった。

 

「ちわーす、遅くなりましたー。」

 

そこでは、筋骨隆々な黒人男性が、くねくね動きながらエントランスの掃除をしていた。

 

「あら、遅かったじゃない。そろそろ連絡入れようかと思ってた所よ?」

「ステファニーさん、ご心配をかけて、すいませんでした。いやちょっと、新聞部の奴からインタビュー受けてて。」

「何?自分は財前組の若衆だーとか言ったの?」

「構成員だーって言いましたけど信じてもらえませんでした。インタビューしてきた奴が嘘を見抜く個性なんてものを持っていて、大変でしたよ。」

「まぁ、巡君って準構成員扱いだものね。そんな個性相手に嘘を言わずに騙すなんて、巡君、あなた詐欺師の才能もあるんじゃない?」

「そもそも眼を合わせるだけで騙すことなくお金ふんだくれますよ、俺。詐欺のテクニックとか要らずに。」

「そうねー。ほんと強個性だわ巡君は。羨ましいわ。」

「俺の境遇を知っていてそれを言いますか...いっぺんステファニーさんも売られてみますか?強個性の子供って高いらしいですよ?」

「そういえば巡君って売られた子だったわね。あんまりにもサロンに馴染みすぎてて忘れてたわ。」

「忘れないで下さい。そんでもって違和感を持って下さい。中学生がこんな怪しげなサロンに入り浸るのはどう考えてもおかしいですよ。」

「それは無理ね。」

「何故にですか?」

「だって巡君、私より長くここに勤めているんだもの。言うなれば先輩よ?巡君のいるサロンが私の見てきたサロンなんだから違和感なんか持てるわけないわ。」

「...俺、予定通りなら高校入る頃にはこのサロンからいなくなるんで、そんなに頼られても困りますよ?」

「頼っている訳ではないの。ただ、巡君の作る空気が、このサロンをこのサロンらしくしているってこと。君は、そこにいるだけでも十分ここに貢献しているのよ?個性の有無じゃなくて。

しっかしあと3年でこのサロンも無くなっちゃうのねー。寂しくなるわ。」

「いや、サロンはなくならないのでは?そのためにステファニーさんみたいな催眠系個性の人が雇われた訳ですし。」

「あぁ、そっか巡君構成員じゃないから噂とかも聞いてないのね。

実は財前組、組をたたむって話なのよ。だからこの店みたいなアングラなのはそれを機に辞めちゃうっていう噂。」

「組をたたむって、穏やかじゃないですね...まぁ、財前組の歴史に幕が降りるって訳ですか、何年の歴史かは知りませんけど。...小指のオッサン大丈夫かなぁ。」

「あら、お父さんのことが心配?」

「親父じゃないです保護者です。まぁ心配っちゃ心配ですね。ずっとヤクザの兵隊やってたオッサンですから、組が無くなったあとちゃんと食べていけるのかなぁって。」

「大丈夫じゃない?大の大人なんだから自分の食い扶持くらい自分で稼ぐわよ。自分の子供がそれをやっているんだから尚更ね。」

「だから子供じゃないです被保護者です。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おーい様子見に来たぞー。って相変わらず筋トレか、お前客がアヘ顔晒しているときずっと筋トレしてるんじゃないか?」

 

スクワットをしながら少年は答えた。

 

「鍛えて、いないと、俺みたいな、催眠系の個性は、殴られて終わりですから。カラテ、無き者に、未来は、無いって、誰かが、言って、ましたしね。ふぃー、1セット終わり、次は腕立てだー。」

「ちゃんと客の状態も確認しろよ?お前この前筋トレに夢中になって客の催眠解くとかいう大ポカやらかしているんだから。」

「いや、あれはステファニーさんからの提案だよ。どうにも個性の不法使用を疑った警察っぽかったから、個性は弱いのを使えって。

んでムード音楽と催眠音声もどきで誤魔化して帰らせようって作戦だよ。なんで店長のオッサンが聞いてないのさ。」

「本当か?あとでステファニーに確認とらねぇとな。」

 

「あ、そうだ。オッサンに聞きたかったことがあったんですけど。」

「なんだ?まーた別の金策の話じゃないだろうな。言っておくがお前はまだウチの組の所有物、勝手は許さんぞ?」

「オッサン。ウチの組たたむって本当?」

「...何処から聞いた。」

「ステファニーさんから、あくまで噂って話でしたけどね。」

「...その話は本当だ。うちは3年後を目処に、組をたたむ。」

「あらら、せっかく親孝行がわりに警察に突き出してやろうと思ってたのに、残念です。」

「お前そんなこと考えていたのか⁉︎」

「当然、財前組が潰れれば俺の経歴は闇に葬られる。そうすれば俺は完全に自由ですからね。過去をネタに脅される心配がなくなるってのは結構なメリットですからねー。」

「アホ、そんな心配しなくてもウチの組がそんな外道な真似をするかよ。ウチは外道じゃなくて極道だ。」

「全員が全員オッサンみたいな良い人なら心配はしてないんだけどね。そんな事はない訳で、警戒しておくべき事なんですよ。俺みたいな後の無い人間にとっては。」

「...後ならあるさ、俺はお前の保護者だ。だから俺はお前を裏切らない。」

「それって、もし俺がヒーローになりたいって言っても?」

「とっくに知ってるよそんな事、だから鍛えているんだろお前は。」

「嘘だろ⁉︎...ちなみに聞くけどいつバレたの?」

「"もし、俺がヒーローだとして、ヤクザ者だとか脛に傷がある人だとかだからと言って、助けを求める人の声を無視したなら、多分俺は俺を許せません。だからです。"だっけか?あの籠城未遂事件の時お前はこう言った。その時のお前は、ヒーローの顔をしていた。だからわかったんだよ。」

「ヤクザの息子が被保護者をヒーローにするとか、単なる自滅じゃねぇかよ。」

「いいや、良いじゃねえか別によ。俺たちを捕まえてくれるくらい凄腕のヒーローになるなんて、それは俺たちへの良い恩返しだ。ま、その前に財前組は無くなっちまうんだけどな!」

「恩返し、したい時には、親は無し。ってことかー。」

「そういう事だな。おい、客が起きそうだぞ?」

「みたいだね。追加で催眠かけとくわ。」

 

ヤクザに引き取られてもう3年、正直ヒーローになりたいという夢は最後の最後まで隠さないといけないと思っていた。だから、応援してくれる人がいるとは思わなくて、驚いた。

 

目指すはヒーロー科最高峰の雄英高校、入学試験の倍率は狂気の300倍。

一人で挑まなくてはならないと思っていたその頂に、応援してくれる人ができた。

正直、物凄く元気が出た。

さぁ、筋トレに勉強に、頑張るぞー!

 




ヤクザの呪縛から離れ、主人公はヒーローになれるのか!
財前組の中に個人情報を売る輩がいたら詰むぞ!どうしよう!
雄英の実技試験に個性はかけらも役に立たないぞ!どうしよう!

正直ロボ相手には写輪眼あってもどうしようもない感はあるので合格させるか不合格で別のヒーロー科行くかは正直書いてる今でも悩んでいます。
あとは、書いている自分の指に全てを任せています。つまり行き当たりバッタリです。

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