【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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ウルトラアーカイブにてエンデヴァーの戦闘スタイルが近接格闘型とかいう面白い設定が書かれてたのでつい文量が膨らみました。
とはいえ1万文字の大台には届かなかったのでそのまま投稿します。

ちなみに作者は格闘技にわかなので特訓シーン、戦闘シーンともに不自然な点があるかもしれません。気付いた方はビシバシご指摘下さい、可能な限り直します。


格闘術と"インサート"

職場体験5日目。特訓とかエンデヴァーに言われたものの、とりあえずはパトロールである。

ヒーロー殺しの確保が伝わり、本名赤黒血染の来歴なとが報道された今、ヒーロー殺しに影響を受けた奴らにとって保須はある意味聖地である。模倣犯が出てくる可能性がある。

 

しっかり睡眠をとって体力を回復させた自分とバブルビームさんはヒーロー殺しの犯行が主に行われていた町の死角となる路地裏を注視しながら、ヒーロー殺しの影響は関係なく『ヒーローは健在である』という事を知らしめるために堂々とパトロールを行なっていた。

 

「とはいってもヒーロー殺しの思想に当てられた連中は模倣犯として活動するのではなく、脳無の供給元である敵連合に吸収されるっぽい流れですよね。」

「そだね、僕は敵連合について詳しく知らないけれど、ヒーロー殺しには信者ができるレベルのカリスマ性があったからね。ネットを見る限りだとその信者を敵連合が受け入れる流れが作られてる感じがしてるよ。雄英襲ったときに敵連合のトップが来てるんだよね?頭は相当切れる感じだった?」

「正直、わからないです。敵連合のトップとは3回ほど会ったことはあるんですがどの時も修羅場だったんで。」

「なんでただの学生が敵組織のトップに3回も会ったことがあるのさ。」

「知らないですよそんなこと、死柄木に聞いてください。」

「それもそうだね。」

 

人混みに飲まれて転んで荷物を道路にぶちまけてしまった女性がいた。

怪我がない事を確認した後、荷物を拾うのを手伝ってあげた。

 

「ありがとうございます、ヒーローさ...ヴィラン潰し⁉︎」

「どういたしまして!ですけど自分はメグルです!自分はパトロールの続きがあるのでこれにて、転ばないように気をつけて下さいね!」

「は、はい。」

 

若干ヤケになってるのは気にしてはいけない。昨日の夜からこんなのばっかりだよ畜生。

 

「流石時の人、顔が知られてきたねぇ。」

「この流れ割と傷つくんですけどいつまで続くんですか?」

「悪名の覆し方は2つ、悪名よりデカイ功績を挙げるか時が過ぎるのを待つかだよ。」

「地道にイメージを変えていくとかは無いんですか?」

「無いよ、どんなにまともに仕事してても良いイメージなんて全然広がらないから。皆他人を褒めるより他人を貶める方が好きなんだよ。」

「世知辛いですねー。」

 

路地裏を見ると顔を伏せてうずくまっている男性を見つけた。

急病かと思い駆け寄ったところ。

 

「すいません、二日酔いがきついだけです。」

「それならちょっと待ってて下さい。バブルビームさん、個性使用許可下さい。」

「時間がある時は個性を何に使うかを端折らない事。」

「すいません、バブルビームさん。この人に二日酔いの頭痛を誤魔化す催眠をかけてあげたいと思います。良いですか?」

「そんな事出来るの?なら許可するよ。二日酔いの辛さは分かるからねー。」

「それでは、ちょっと自分の目を見て下さいな。」

 

男性に個性を使う。

 

「凄い、頭痛が消えた嘘みたいな解放感だよ!」

「個性はあくまで頭痛を一時的に誤魔化しているだけなので、楽になってるうちにウコンの力飲むとかビニール袋用意するとか対策をして下さいね。」

「ありがとうヴィラン潰し...これで今日のプレゼンは何とかなりそうだ!」

 

男はルンルンと擬音がつきそうな足取りで去っていった。

 

「いや、プレゼンの前日に酒飲むなよ大人...」

「正直気持ちは分かる。プレゼン前日の緊張感で眠れなかったんだろうね。それで飲み始めたら止まらないとかよくあるもん。」

「それがよくあるって人としてちょっと駄目じゃないですかねぇ。

...そしてあんな呑んだくれにもヴィラン潰しで通るとかちょっと悪名轟き過ぎてません?」

「気にしない気にしない、この業界ではよくある事さ。」

 

そんな言葉を言うバブルビームさんは、自分から数歩離れた所に居た。

 

「そういえば思ったんですが、バブルビームさんだけじゃなく1、2日目のエンデヴァーさんとかもなんですけど、俺が人助けしている間離れて周囲を見渡してますよね、あれって何でですか?」

「んー、ヒーロー業界のローカルルールって奴かな。イメージアップに直結する人助けは、始めに声をかけた人が助けを求めるまで他のヒーローが手出ししてはいけないっていう暗黙の了解があるのさ。よっぽどの大事なら話は別だけどね。」

「へぇ、初めて知りました。」

「あと、ヒーローが人助けしている間はその人だけしか見てないでしょ?その隙に悪さしようって輩が出てもいけないから、ヒーローが2人以上いるときは1人は人助け、それ以外は周囲の見張りって役割分担をするってのもあるね。」

 

そんな会話をしているとバブルビームさんのスマホのアラームが鳴った。

 

「あれ、まだ9時半ですよ?」

「今日から特訓だし、早上がりしろってエンデヴァーさんのお達しだよ。さ、車に戻るよ。」

「はーい。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

エンデヴァーヒーロー事務所のトレーニングルーム。

 

一面畳のその部屋へとやってきた自分を待っていたのはトレーニングウェアのエンデヴァーさんとバブルビームさんに赤い魔女のようなヒーローコスチュームに砂でできた箒を持った女性ヒーロー"サンドウィッチ"さんの3人だった。

 

「さぁ、貴様の特訓を始める。準備はいいな?メグル。」

「準備万端です!エンデヴァーさん!」

「ちなみにエンデヴァーさんが特訓に来てるのは、本来の予定だと焦凍くんの相手もする筈だったからよ。」

「余計な事は言うなサンドウィッチ。さて、まずは軽くスパーリングだ。催眠無しでどの程度使えるか見せてみろ。」

「それじゃあ...行きます!」

 

写輪眼を発動し、ガードを作って腰を落とす。

 

エンデヴァーへと向けて様子見の左ジャブを放つ。エンデヴァーはその拳を左手で掴む動きが見えた。

体格差がある以上掴まれるのは危険だと、そう判断した自分は拳を引いてエンデヴァーの掴みをギリギリで回避する。そして拳を引いた勢いで右ストレートを放った。が、エンデヴァーの右肘でブロックされた。

 

そこからは流れるような動きだった。

手首、肘、肩と関節を極められ、気付けば腕を後ろに極められたまま地面へと頭を向けられていた。

 

「今のは"Lock Flow"という技術だ。今の技ではなく関節技を連続で繋げる技術のことを指す言葉だがな。まぁこの特訓でこの技を習得しろとは言わん、いくつもの技を複合的に使う相当な難易度の技だからな。だが有用な技でもある。職場体験終了後も練習しておけ。さぁ、お前の攻撃の腕は分かった、次はこちらから攻撃する、防げ。」

 

エンデヴァーの右ストレートが写輪眼で見えた。

その攻撃に対する最適解はさっき見せて貰った。意趣返しと行かせて貰おう。

 

エンデヴァーの拳を右肘でブロックする。そこから手首、肘、肩の順に関節を極め顔を地に向けて拘束する先程のLock Flowをやり返した。

エンデヴァーは驚愕からか、自分の関節技になされるがままとなっていた。

 

「...貴様、一度で盗み取ったな?」

「ええ、目が良いので。」

「フン、レクチャーのしがいのあるガキだ。」

 

写輪眼でエンデヴァーの背中に身体エネルギーが集まるのが見えた。炎で拘束を外すつもりだろうと見抜けたため拘束を解除しバックステップで距離を取る。

離れた瞬間、エンデヴァーの炎が自分が先程いた位置を焼いた。

 

「...身体エネルギーを見る目か、催眠眼が目立っているが、そちらの個性も予想以上に使えるな。」

「エンデヴァーさん⁉︎あの、さっきの炎って人に向けて良い感じのヤツじゃないと思うんですが!」

「虚仮威しの低温だ、当たった所で大した事にはならん。さてメグル、先程の炎で何が言いたいかは伝わったか?」

「...個性によって有効な拘束方法は異なる、ですかね。エンデヴァーさんを拘束するには俺を拘束する時のやり方では個性で返されてしまうって事ですか?」

「フン、頭も回るようで何よりだ。さて、それでは個性別に有効な拘束方法を実地で教えてやる。貴様にはこちらの方が為になるだろうよ。」

「ありがとうございます!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

特訓に励む巡とエンデヴァーを見て、サンドウィッチとバブルビームは巡の才能に驚愕していた。

 

「ねぇ、バブルビーム。あの子凄すぎない?一度見た技をすぐ自分のものにしてる。もう殆どの個性に対する拘束技を身につけているんじゃない?」

「元々鍛えているってのと目が良いってのの相乗効果だろうね。...ああ、目が良いってのはそのままの意味もあるけど観察力が良いって方もね。身体エネルギーを見れるって事がここまで武術とマッチするとはいい誤算だよ。」

「もうアンタより格闘上手かったりして。」

「ありそうですね、メグルはこの特訓始める前ですら自分より体格の勝る敵をボコボコにしてたくらいの技のあるファイターですから。」

「そういう所で競争心を持たないから2年目なのにまだ目立った功績がないのよ。」

「事実は事実として認めてるだけですよ、まぁそれ以外ではまだ負けるつもりは無いですけどね。」

 

そんな会話をしていると巡とエンデヴァーは投げを絡めた拘束技のレクチャーを終了していた。

 

「バブルビーム、こいつの絞め技の練習を始める。来い!」

「あ、僕が呼ばれた意味ってそういう事だったんですね。」

「人を殺さない落とし方は実地で慣れていくしかないからね。がんばんなさい被害担当。」

「はぁ...まあ前途ある若者のためだと思えば安いものですね。逝ってきまーす。」

 

バブルビームは微妙に顔を引きつらせながら特訓中の巡とエンデヴァーの元へと赴いた。

 

「さぁ、来い!ちなみに僕はそんなに素の格闘強くないから簡単に締め落ちるぞ!」

「なんかヤケになってません?バブルビームさん。」

「フン、特訓を続けるぞ。」

 

バブルビームさんが絞め落とされ、活を入れられ、また落とされの技の練習台と化したのは言うまでもないだろう。

 

「しっかり訓練開始から1時間、エンデヴァーさんはともかくバテないわねーあの子。鍛えてるって公言するだけのことはあるわね。

...しかしこの分だと私を使った自分の個性のコントロールトレーニングを見せるとか頭からすっぽ抜けてんでしょうねーエンデヴァーさん。」

 

そう呟いたサンドウィッチは特訓に熱中する男2人とそれに巻き込まれる犠牲者1人を見て、自分だけは巻き込まれないようにこっそりと部屋の隅へと移動したのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「バブルビームさん、大丈夫ですか?結局トータルで3回くらい落としちゃいましたけど。」

「まぁちょっときついかな、なので今夜のパトロールは君に前を頼むよ。僕に楽にさせてくれたまえ。」

「バッドコンディションでもいつも通りのパフォーマンスを出すのがプロじゃなかったんですか?まぁ良いですけど。」

「良いんだ...まぁ予定通りなんだけどね。行けそうだったら君か焦凍くんにパトロールの先導任せてみようってのは。」

「って事は行けそうと判断してくれたって事ですか...信頼してくれてありがとうございます。パトロールのルートはいつも通りでいいんですか?」

「大丈夫だよ。さ、行こうか。」

「わかりました、バブルビームさん。あ、1つだけ良いですか?」

「何?」

「個性の使用許可お願いします。今日特訓してるときにエンデヴァーさんに言われたんですが、個性の長時間使用を続けるの試した事がなかったんですよ。デメリットも特にないですし試してみて良いですか?」

「いいよー、ただし何か危ない兆候を感じられたらすぐ止めること。まぁそんな事言い出すって事は大丈夫って感覚はあるんだろうけどね。」

「はーい。」

 

夜の保須市をパトロールする自分とバブルビームさん。

 

今日も保須は平和であった。

自分が、ある1つの違和感に気付くまではであるが。

 

「...バブルビームさん、あの赤髪の女性を見てくれませんか?」

「どうしたのさ、何か困りごと?」

「身体エネルギーの流れが乱されています。誰かから個性を受けてる可能性があります。」

「...とりあえず軽く話し聞いてみようか、案外医者からそういう処方を受けているだけかも知れないし。」

「ですね。」

 

「すみません、ちょっとよろしいですか?」

 

赤髪の女性は憔悴しきった顔と声で

 

「ヒーロー、さん?」

 

と答えた。バブルビームさんと目配せ、事件性ありと仮定する。

 

「ええ、ちょっとお話しを聞きたいんですがよろしいですか?」

「よろしく、ありません。行かないといけないんです。」

「何処へですか?」

「すみません、行かないといけないんです。」

「捜査の一環なんです、教えてはくれませんか?」

「すみません、行かないといけないんです。」

 

バブルビームさんは『コイツ話しても無駄だ』と判断したようで。

 

「メグル、個性ゴー。『質問に答えろ』で。」

「わかりました。」

 

女性と自分の目を合わせ写輪眼を発動する。

 

「さて、改めて質問です。貴方は何処に行かないといけないんですか?」

「どこか高いところに。」

「...それは何故ですか?」

「9時までに私が死なないと妹が殺されてしまうんです。」

 

バブルビームさんと目配せ、バブルビームさんは即座に携帯を取り出し連絡準備を済ませていた。

 

「殺されるとはどういう事ですか⁉︎警察に連絡はしたんですか⁉︎」

「警察には言うなと言われました。私の生命保険で借金を返済できなければ妹は殺されてしまうんです。」

 

その言葉に激怒し、声を荒げようとした自分を止めたのはバブルビームさんだった。

 

「なんで止めるんですかバブルビームさん、たかだか金の為に命を粗末になんかさせちゃ駄目ですよ!」

「優先順位を考えるんだ、メグル。まずは彼女から話を聞いて、その情報を元に彼女の妹を殺そうとしている人物の情報を集めること。それが最優先だ。君の感情を彼女にぶつけるのは後でいい。」

「...すみません。」

「いいよ、君はまだ学生なんだからこういう心構えはこれから学んでいけばいい。さて、質問役変わるね。」

 

バブルビームさんは彼女と向かい合い質問を始めた。

ある意味でこの事件の始まりを告げる質問を。

 

「質問の順番が前後してしまい申し訳ありません。まず貴方と貴方の妹さんのお名前を教えては頂けませんか?」

「私は北風読子、妹の名前は、名前は、名前は?」

「北風さん?」

「妹の名前は、名前は!名前は⁉︎どうして、なんで、わからない、わからない!わからない⁉︎嫌、嫌!嫌ァァァァア!!!」

 

そう言って北風さんは風の個性を暴走させて暴れ始めた。

 

ヴィランかと周囲の人間たちはこぞって集まってきた。面倒な野次馬である。バブルビームさんに目配せすると、バブルビームさんは両手に泡を溜め風により飛んでくるかもしれない飛来物の迎撃に当たるようだった。

 

「メグル、止められる⁉︎」

「余裕です!」

 

北風さんの作り出す風はせいぜい強風というくらいだろう。人1人吹っ飛ばすことすら難しい強さだ。

鍛えているヒーローにとってこと程度の風は障害にはならない。

 

エンデヴァーとの特訓を思い出す。

 

「思念発動タイプの個性を拘束するのは至難の技だ。何せどこからでも個性が飛んでくる訳だからな。」

「つまり絞め落とせって事ですか。」

「個性を使えない場面ではそうだな。だが貴様には催眠眼という便利なものがある。ならば...」

 

北風さんの正面まで辿り着く、目線は安定しない狂乱状態だ。つまり目線を合わせるには痛みというショックで目線を一点に絞らせる必要がある。

 

頭を抑えていた右手で空を払い更なる風を放つ北風さん。

だがその風とてこの近距離でも十分耐えられる程度のただの風だ。なら前に出れる。

空を払った右手を掴む。その手を起点に合気道の投げ技、"小手返し"を仕掛ける。

 

相手の手首を回して手首と腕と肩でコの字を作り、その状態で前に一歩前にでる。すると手首の関節を守るため体が自然と崩れてしまうのだ。その体の反応を利用したのが小手返しという投げ技である。

 

女性からの抵抗は特に無かったため、投げ技は綺麗に決まった。

 

彼女は背中を打った痛みで目を見開いた。その目線は手首を掴んでる俺の目へと自然に向く。

 

写輪眼発動である。『個性を使うな、落ち着け』と。

その瞬間、どこかから僅かな身体エネルギーが飛んできて、彼女にかかっていた自分と異なる色による身体エネルギーの乱れが戻った。

 

「野次馬が集まってきた、場所を移そうメグル。」

「待ってください、彼女への洗脳が消えました!犯人の意図的にです!」

「まさか、野次馬の中に犯人がいる⁉︎」

 

携帯を取り出し周囲の野次馬を撮影しながら周囲の野次馬全ての身体エネルギーの色を確認する。

カッコよかったぞヴィラン潰し!という声援がいまは鬱陶しい。

 

「メグル、犯人はいた?」

「いいえ、飛んできたのと身体エネルギーの色が同じ人は見当たりません。もう逃げた臭いです。」

「まぁ今は彼女という証人を守る事を優先しよう。君の目だけじゃあ証拠能力に乏しいからね。」

「ですね。生命保険の受取人の線から犯人の特定は余裕でしょう。」

 

野次馬の誰かが通報したのか警察はすぐにやってきた。

 

正気を取り戻した北風さんは混乱したものの

 

「大丈夫です。あなたは誰も傷つけてはいませんし、貴方が正常な状態でなかったことは自分が証明できます。大丈夫。」

 

という自分の言葉を信じてくれたのか落ち着いて自分とバブルビームさんと共にパトカーへと乗り込んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

警察署内にて、警察からの取り調べを終わらせた自分はバブルビームさんと北風さんに合流した。

そこでの会話は、信じられない事実の連続だった。

 

「北風さんは生命保険に入っていない⁉︎」

「うん、ついでに言うなら戸籍上妹は無し、妹のように慕っていた子がいるとかも無し、なので当然借金も無し。捜査は手詰まりだ。」

「待ってください、それじゃあ犯人は何のために北風さんを死に追いやろうとしたんですか⁉︎金目的じゃないなら...ッ!」

「愉快犯だろうね。妹という発言を信じるなら...洗脳系の個性を持て余した子供の遊びだろう。」

「...狂ってる。」

「同感だ。多分だけど、発覚していなかっただけでこれが初犯じゃない。」

「...そうだ、個性届け!あれで犯行可能な子供を割り出せないんですか⁉︎」

「それは警察がもうやった。もうやった上で手詰まりなんだ。」

「個性届け、あるいは出生届が出ていない裏関係の子供...」

 

俯きながらも北風さんは言った。

 

「ごめんなさい、私が犯人を思い出せていれば済んだ話なんですけれど、思い出せなくて。」

 

そんな北風さんの心情を慮ってか、あるいは単に意見が欲しかったのかバブルビームさんは北風さんに言った。

 

「北風さん、もう一度警察に言った事を自分たちに話してくれませんか?こちらのメグルは催眠系の個性を持っています。なにか新しい意見が得られるかも知れません。」

「お願いします、北風さん。何でもいいから情報が欲しいんです。」

「わかりました。とは言っても言える事なんて殆ど何もないんですけどね。仕事帰りに子供に声をかけられたと思ったら3日も経っていたって感じなんです。ごめんなさい。」

「3日間も休んだって事は仕事関係の人から何か聞けませんかね。」

「警察の方もそう思って確認したそうなんですが、私が体調悪いので有給使うと言ったそうなんです。」

「...待ってください、3日も仕事を休ませて犯人は何がしたかったんでしょう。」

「わかりません、何も覚えていないんです。」

「...個性による催眠を試してみて良いですか?」

「ええ、それが犯人逮捕に繋がるのなら。」

 

北風さんに目を合わせ写輪眼を発動する。『思い出せ』と。

 

「催眠はかかりました、どうですか?」

「...いいえ、さっき言った以上の事は何も思い出せません。」

「こっちでも手詰まりだね...一旦気分転換だ、コーヒーでも買ってくるよ。」

 

バブルビームさんの買ってきたコーヒーで一旦休憩を挟む。

 

こういう時の基本は犯人の気持ちを考えることだ。自分は幸いにも同じ洗脳系の個性であり子供だ。思考は高い精度でトレースできるだろう。

何が欲しくて犯罪を犯したのかそれを考えるとある考えが浮かんできた。

 

「...バブルビームさん、家宅捜索って警察に頼めます?」

「人死にとかは出てないから理由次第だね。何か思いついたの?」

「俺が犯人で、身寄りの無い子供なら何が欲しいか考えてみたんです。欲しいものといえば着るもの、食うもの、寝る所の3つです。となると...」

「犯人が3日間一緒に住んでいたという可能性か!それなら家宅捜索すれば犯人の毛髪あたりが採れるかも知れない!それに監視カメラあたりから犯人の顔が撮れるかもだよ!」

「とはいえ可能性でしかありません、それにこの考えだと北風さんを殺そうとする理由がわからなくなるんです。個性の時間制限とかも考えたんですが、洗脳解いた時に完全に記憶が無くなる訳ですから普通に逃げればちょっと奇妙な出来事くらいで済むと思うんです。」

「...メグル、ヴィランの思考をトレースしようとするのは良いけれどまだ自分のまともな価値観が混ざってるよ。本物のヴィランってのは理解も納得もできない連中なんだから細かい事は考えるだけ無駄無駄。徒労でしかないよ。」

 

そう言ってバブルビームさんは自分たちに移動を促した。

 

「さぁ、家宅捜索を頼みに行こうか。北風さんには悪いけどね。」

「いいえ、犯人逮捕のためなら協力は惜しみません。家宅捜索、お願いします。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

保須市から帰る車の中で、バブルビームさんは自分に言った。

 

「家宅捜索の結果、出てきたらしいよ謎の人物の毛髪が。それも北風さんのパジャマとベッドから。同じベッドで抱きしめさせて眠っていたんだろうね、そんな北風さんを死なせようとするとかマジで意味が分からない。こんなヴィランは久しぶりだよ。

...(ヴィラン)名は決まった。"インサート"だってさ。」

 

インサート、挿入という意味だ。存在しない家族を挿入するという手口から取られた名前だろう。

 

「ヴィラン名が決まったって事は初犯じゃなかったって事ですか?」

「各地での不審な自殺事件で念のため行われていた家宅捜索で出てきた不審人物のDNAと今回北風さんの家から出てきた毛髪のDNAが合致したらしい。発覚しているのは少なくとも4件、連続殺人犯確定だ。」

「...俺たちで捕まえられますかね、インサートを。」

「多分無理、インサートはまず間違いなく保須から離れている。保須を担当している今の僕たちには追いかける権限が無い。」

「でも、追いかけないと次の犠牲者が出るかも知れないんですよ⁉︎」

「それは次の現場の警察やヒーローに任せるしかないんだよ。なんたって僕等は今、犯人がどんな顔で何処へ向かったかも何も知らないんだから。」

「でも...ッ!」

「これ以上今の僕達に出来ることは無いよ。僕達は職業ヒーローとその卵であって神様じゃないんだから。」

 

その一見淡々としたその態度の中にバブルビームさんの強い憤りが含まれているのが分かる。バブルビームさんとて狂気の連続殺人犯を放置などしておきたくはないのだろう。

 

「すいません、生意気言いました。」

「別に構わないよ。ただ1つだけ覚えておいてほしい。

僕達は優先順位を決めて、それを上からどうにかしていく事でしか人を救えない。だから、1人じゃ絶対に救けられない人が出てくる。」

 

その言葉にはバブルビームさんの後悔の詰まった重みがあった。

一人ではどんなに頑張っても助けられない人が出てきてしまう。頑張れば誰でも自分で助けられるというヒーローにありがちで、自分が気付かぬうちに取り憑かれていた万能感を叩き潰す言葉を、バブルビームさんは言葉に紡いでくれたのだ。

その自分の傷を晒しても自分に道を示してくれた姿にバブルビームさんはやはり自分より大人で、ヒーローなんだと思い知らされた。

 

そんなバブルビームさんの言葉だからこそ次の言葉は自分の心の深い所に響いたのだろう。この社会に生きる一人のヒーローとして心に置くべき答えは。

 

「だから、ヒーローは1人じゃないんだ。その事を決して忘れないで。」

 

一人で救けられないなら皆で救けに行けばいい。答えはそれだけの単純なことなのだ。

 

 

「まぁ、この持論は他力本願って言い換えられちゃうから、僕が言ったって言いふらさないでね!」

「台無しですよ!」

 

シリアスのままでは決して終わらせない。バブルビームさんはそういう人である。




誰得な情報ですが、プロット書いてたオリジナル小説はあえなく没となりました。理由は「あ、これCaligulaの影響受けすぎだわ。」と気づいてしまった為です。アニメしか見てないのにここまで侵食してくるとは流石サトミタダシ作品です。

オリジナル書くのって難しいですねー。

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