【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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雄英白書1、授業参観編。

雄英白書はなかなか面白かったのでヒロアカ好きなら是非買うべき。という露骨なダイレクトマーケティングを挟んでみる


授業参観

職場体験が終わり、やってくる期末テストにそれぞれが備えはじめた春と夏の間の穏やかに晴れたとある日

 

今日の授業は垂直式救助袋やヘリなどの救助器具を使った避難訓練の授業であった。

 

「ヘリに吊られる経験ってなかなか無いよな。」

「うん、でも風を切る感覚がちょっと気持ち良かったかも!」

「麗日は個性の関係上凄くお世話になりそうだよな、ヘリって。」

「うん、だから今日の授業は為になった!ちゃんと復習せんと!」

 

そんな話をしていると相澤先生が教室に入ってきた。瞬間皆が席に戻り背を伸ばす。その様を一番後ろの席からみると、「調教されてきたなー」と感じた。

 

「はい、おつかれ。早速だが再来週、授業参観を行います。」

 

どこからか「授業参観ー⁉︎」と声があがる。

 

「プリントは必ず保護者に渡すように。で、授業内容だが保護者への感謝の手紙だ。書いてくるように。」

 

その発表に教室は一瞬静まり、それからドッと笑い声が響いた。

 

「まっさかー、小学生じゃあるまいし!」

 

明るい調子で上鳴が言った皆の総意を、相澤先生がぶった切る。

 

「俺が冗談を言うと思うか?」

 

相澤先生の静かな威嚇に瞬時に静まり返る教室。

 

「いつもお世話になっている保護者への感謝の手紙を朗読してもらう。」

 

どうやら本気だと悟った皆は困惑を隠せないようで

 

「マジでー⁉︎冗談だろ!」

「流石に恥ずいよねぇ...」

 

と零した。

そんなざわつく中、飯田がさっと立ち上がり叫んだ。いつも通り腕をブンブン回しながら。

 

「静かにするんだ、みんな!静かに!静かにー!」

 

「飯田ちゃんの声が一番大きいわ。」

「ム、それは失礼。しかし先生、みんなの動揺ももっともです。授業参観とはいつも受けている授業を保護者に観てもらうもの。それを感謝の手紙の朗読とは、納得がいきません!もっとヒーロー科らしい授業を観てもらうのが本来の目的ではないのでしょうか⁉︎」

 

鼻息荒く話した飯田に、相澤先生が答えた。

 

「ヒーロー科だからだよ。」

「それはどういう...」

 

相澤先生がクラスを見回し、話し出す。

 

「お前たちが目指しているヒーローは、救けてもらった人から感謝されることが多い。だからこそ、誰かに感謝するという気持ちを改めて考えろって事だ。ま、プロになれるかどうかまだわからないけどな。」

「...なるほど!ヒーローとしての心構えを再確認する、そしてヒーローたる者、常に感謝の気持ちを忘れず謙虚であれ、という事を考える授業だったのですね!納得しました!!」

「納得はやっ」

 

飯田の変わり身の早さに苦笑しながらも、クラスはあきらめ承認ムードだ。

なんでもありなヒーロー科、いちいち動揺して立ち止まってはいられない。

 

「ま、その前に施設案内で軽く演習は披露してもらう予定だが。」

「むしろそっちが本命じゃねえ⁉︎」

 

相澤先生の言葉に、上鳴が全員の心の声を代表して叫んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「団扇、お前に少し話がある。付いて来い。」

「?分かりました、聞きたい事もあるので。」

 

「質問なんですが、授業参観って血縁とか繋がってない人呼んでも大丈夫ですか?お世話になってる人がよく考えなくても他人なんで。」

「ああ、事前に言う分にはその辺は考慮してやる。お前は妙な人生を歩んでる訳だからな。」

「ありがとうございます。でも妙な人生って酷くないですか?」

「事実だろうが、さぁ入れ。」

 

ノックを2回、「失礼します」と声をかけて入るのは職員室。

「オーウヴィラン潰しじゃあねぇか!説教か?」というプレゼントマイクの声は相澤先生のひと睨みで収まった。というかヴィラン潰しって教師陣にも広まってることに少し絶望を感じる今日この頃である。

 

「さて、話ってなんですか相澤先生。」

「授業参観の話なんだが、その前に確認だ。お前の身体エネルギーを見る目だが、それは俺たち教師が変装した場合でも見抜けるのか?」

「ええ、変装しようが変身しまいが人固有の身体エネルギーの色ってのは変わりませんから。日頃見ている先生がたやクラスの連中くらいは特殊メイクされようが見抜ける自信はあります。」

「なるほど、なら仕方ない。お前には先にネタばらしだ。」

「...嫌な予感がするんで聞かなかったことにしてもよろしいでしょうか。」

「駄目だ。」

 

「授業参観の日だが、お前たち生徒には保護者を人質に取られた状態での訓練を受けて貰う。ただしその事は訓練が終わるまで他言無用だ。」

「つまり訓練中に犯人が先生の誰かだって気付いても言わずに成り行きに任せろって事ですか?」

「いいや、訓練の筋書き通りに全力で対処しろ。訓練だとわかってるからって手を抜いたり、人質を軽視した行為を見つけたらマイナス評価を付ける。いいな?」

「...分かりました、つまり知らないふりをしながら全力で訓練に挑めと。」

「そういう事だ。さて、戻る前にお前が授業参観に呼びたい方の連絡先書いてけ、保護者方には俺が電話で訓練の事を伝える。」

「...この事を聞いたら途端に呼びたくなくなってきたんですが。」

「呼べ。保護者代わりの人なんだろ、なら成長した姿ってやつをしっかり見せてやれ。」

「...はい、わかりました。」

「ならいい、さっさと帰れ。」

 

この話を纏めると、自分だけドッキリ内容を知らされてしまったのに知らないふりしてドッキリにかかれという無茶振りをされたという事で間違ってないだろう。なんで俺にだけこんな試練が訪れるのか...

 

自分の演技力でクラスの皆を騙し切れるだろうか...

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そんな訳でやってきました授業参観当日、時間になっても相澤先生が現れない、ナンデカナー。

 

もういい時間なのに保護者の人達も誰も来ないナンデカナー。

 

相澤先生からメッセージが来た。「模擬市街地に来い」とのこと、ナンデカナー。

 

正直だいたいのことに想像がつく。時間になっても相澤先生や保護者の方々がやって来ないのは模擬市街地にて人質の打ち合わせをしているからだろう。そしてその準備ができたからこそ自分たちを呼んだのだと。

 

気が、重いッ!

 

バスの中で轟に「大丈夫かお前?」と聞かれた。コイツ天然の癖に鋭いんだよなぁ。「いやちょっと扉さんが何かやらかしてないか心配で。」と誤魔化す。

 

「扉さんってのはお前の保護者か?」

「そ、現在就活中の24歳。今一人暮らしになってる俺の事を心配して色々世話を焼いてくれる良い人だよ。ただちょっとイタズラ好きな所があるから何かしでかしそうで怖いのさ。」

「そうか...お前のお袋さんは来れなかったのか?」

「ああ、再婚相手の連れ子さんの授業参観が被ってな、そっちを優先させた。」

「お前んちって複雑な家庭だったなそういや。」

「複雑なだけで、産んでくれた母さんも育ててくれた親父も悪い人じゃ無いから何も問題はないさ。」

「そうか。」

「そうだよ。さて、そろそろ着きそうだ。準備は大丈夫か?」

「ああ、ちゃんと手紙は持ってる。問題はねぇ。」

「それなら安心だ。」

 

誤魔化しきった。

 

この辺で"別に普段通りでも大丈夫じゃね?"と気付いた。何せ隠し事の多い人生故にナチュラルに嘘を付くのは慣れたものなのである。

考えてて悲しくなってきた。

 

そんな陽気に考えられていたのはこれまでである。

 

ビルを破壊して作られた空き地。

そこに見えるのは大きな穴、半径数十メートルはある。

そしてその穴の中央にポツンと取り残された大きなサイコロの様な檻。浮いているように見えるのは丸かじりして残されたリンゴの芯のように削り残された塔のような地面の上に檻が置かれているからだ。

 

この時点で既に思う、どういうシチュエーションやねん。

 

檻の中から聞こえる悲鳴につられて穴の淵までたどり着いたクラスメイト達が気づくのは、穴の深さが8〜9メートルありその底にはガソリンと思われる淀んだ液体が浮いているという事。

 

「なんだよ、これ?なんで親があんなとこ...」

「つーか相澤先生は⁉︎」

「アイザワセンセイハ、イマゴロネムッテイルヨ。クライツチノナカデ。」

 

機械で無機質に変えられた声が響く

 

「暗い土の中って...?」

「相澤先生、やられちゃったってこと...?」

「嘘だよ!なんかの冗談だろ⁉︎もうエイプリルフールは過ぎてんだぞ!つーかお前誰だよ⁉︎姿を見せろ!」

「サワグナ。ジョウダントオモイタイナラ、オモエバイイ。ダガ、ヒトジチガイルコトヲワスレルナ。」

 

 

そして檻の中から現れるフード付きの黒マントに黒いフルマスクをつけた人物。

 

丹田に溜まってる虹色のエネルギーを見間違える訳もない。アレはオールマイトのガリガリフォームである。

 

「サキニイッテオクガ、ガイブヘモ、ガッコウヘモレンラクハデキナイノデアシカラズ。」

 

今すぐぶっちゃけたい。あのガリガリマンはオールマイトの変装で相澤先生は建物の影辺りで俺らを採点してます!とかぶっちゃけたい。

 

だって茶番過ぎるのだ。ビルなぎ倒して広間を作って保護者を集めて檻の中に入れて謎の穴を開けてガソリン流し込んで...とかどう考えてもヴィラン1人の個性で行える仕事量じゃねぇ。おそらくパワーローダー先生あたりの協力あっての事だろう。

 

なのでさらっと終わらせよう。

 

クラスの集団から2歩程外に離れてから思いっきりパンと両手で叩く。

全員の視線が突然の異音に驚いてこちらに向く、それが当然の反応だろう。根が単純なオールマイトも当然こちらを向いた。

 

写輪眼発動である。

 

ヘルメットはこちらを向いた。目線は確かに合った。が、手応えがない。

 

何故だと疑問に思っているとオールマイトがわざわざ説明してくれた。

 

「メグルクン、キミノコセイハシッテイル。トウゼンタイサクズミダ。コノヘルメットハサイシンシキノARシステムヲナイゾウシテイル。シュウイノケシキヲデジタルニヘンカンシテウチガワノガメンニトウエイシテイルノサ。」

「...デジタルを一度挟まれると俺の個性は通らない。そういうことか。」

「ソノトオリサ。サテ、ボクニキガイヲクワエヨウトシタキミニハペナルティヲアタエナクテハネ。キミノカゾクハ、コノジョセイダネ。」

 

そう言ってオールマイトは人質の中から扉さんを引き寄せた。

 

...俺の力を過信しすぎた結果がこれだ。もし本当に犯人であったなら、扉さんの命運は決まっていただろう。

 

その考えをしたときに気づいた。この状況を自分が本当に実際の事件だと思いきれていない事を。その結果があのスタンドプレイだ、笑えない。

 

だが、まだ終わりではない。

 

一旦深呼吸。俺の個性が通じず、俺の身体能力ではあの檻へ干渉することはできない。俺1人では詰みだ。

しからば俺のやるべき事は犯人の気をそらす事だ。

打開は、緑谷達がやってくれると信じる。この場にヒーローは1人ではないのだから。

 

「...お願いします。扉さんに、その人に手を出さないで下さい。大切な、家族なんです。」

 

声を震わせて言う。自分が心底ショックを受けているのだと。

 

今この瞬間からこれが訓練なんて甘えはやめだ。今の自分の全力を持って犯人の気をそらす。さしあたっては。

 

膝をつき、絶望を演出する。

 

「お願いします、本当に大切な人なんです。」

「巡...」

「フン、ヴィランアイテ二ヒザヲツクカ。コンナナンジャクモノガユウエイセイダナンテワラエルネ。」

 

そう言って犯人は扉さんから手を離した。

 

人質の中に母の姿を見つけた緑谷は、血の気を引かせながらも、犯人の目的を探るために声を発した。

 

「なんで...なんでこんなこと...⁉︎」

 

心配そうに自分を見る緑谷と目線が合った。

写輪眼を発動し、メッセージを伝える。

 

「気を引く役は任せろ。お前はこの状況を打開してくれ。俺はお前を信じてる。」

 

緑谷の目が変わったのが見えた。覚悟を決めたヒーローの目に。

後はしっかり気を引こう。

 

 

「ボクハ、ユウエイニオチタ。ユウエイニハイッテ、ヒーローニナルノガボクノスベテダッタノニ。ユウシュウナボクガオチルナンテ、ヨノナカマチガッテイル。セケンデハ、ボクハタダノオチコボレ。ナノニ、キミタチニハ、アカルイミライシカマッテイナイ。ダカラボクハケツイシタンダ。カガヤカシイキミタチノ、アカルイミライヲコワソウト。ソノタメニダイジナカゾクヲ、キミタチノメノマエデ、コワシテシマオウトオモッテネ。」

 

「...それだけのためにかっ?」

「俺たちが憎いなら、俺たちに来いよ!家族巻き込むんじゃねぇ!」

 

尾白と切島が怒りとともに叫ぶ。

だが、そう言う切島たちをあざ笑うかのように犯人が言う。

 

「ボクガコワシタイノハ、キミタチノカラダジャナイ。ジブンヲキズツケラレルヨリ、ジブンノセイデ、ダイジナダレカガキズツケラレルホウガ、キミタチハイタイハズダ。ヒーローシボウノキミタチナラネ。」

 

「...あなたもヒーロー志望だったのなら、こんなバカなこと、今すぐやめなさい!」

「そうだよ!こんなことしてもすぐ捕まるんだからね!」

 

八百万と芦戸が叫ぶ。だが狂ったヴィランたる犯人には届かない。

 

「ニゲルツモリハナイ。ボクニハ、モウウシナウモノハナインダ。ダカラ、キミタチノクルシムカオヲ、サイゴニミテオコウトオモッタンダ。キミタチモ、ダイジナカゾクノサイゴノカオヲ、ヨクミテオクンダナ。ーーサァ、ダレカラニシヨウカ...?」

 

切り返すならここだと俺の心が判断した。

 

「そんな悲しいだけの事言わないでくれ。お前にはまだ、未来を選ぶ権利があるんだから。」

 

顔を上げて犯人の目を見る。写輪眼発動のためではなく、説得を始めるために。

そして一雫目から涙を流す。顔を伏せていた時から貯めていた涙である。

 

「ナニ?イマナントイッタ?」

「お前にはまだ未来を選ぶ権利がある。そう言ったんだ。」

「コノジョウキョウガワカラナイノカ!モウアトモドリナンテデキルジョウキョウジャナイ!」

「それでもだ。生きていれば、生きていれば未来を選び取れるんだよ。」

 

空気が淀む。俺の反論の意図は今は誰も理解できないだろうから当然だ。だから俺は、言葉を重ねる。

 

「俺の、俺の話をしよう。俺は生まれは大阪で、働き者の父親と優しい母さんの元で生まれた。」

「ミノウエバナシカ?クダラナイ!」

「でも、俺の父親は、俺の写輪眼が発現してすぐ、この眼を恐れて逃げ出した。」

「⁉︎」

 

周囲の皆の息を飲む声が聞こえた。犯人はともかく、場の空気の掌握には成功したと判断して言葉を重ねる。

緑谷が、反撃の手立てを整えるまでゆっくりと。

 

「それからの4年間は最悪だった。最初の頃はな、母さんと2人の暮らしになって子供心になんとかしないとって思ってネットで色んなことを調べてやったんだよ。掃除や洗濯、料理なんかをな。でも、それがかえって母さんを追い詰めてしまった。」

「...ソレデ?」

「母さんは酒に溺れて何もしなくなった。でも、そんな母さんをなんとかしたくて俺は俺の個性を母さんに使った。でも発現したての個性なんてたかが知れてるだろ?催眠はすぐ不安定になった。だから俺はその度に催眠をかけ直した。催眠をかけるたび心は凄く痛かった。ヒーローに助けてほしいと何度も思ってた。でも誰も、俺を助けてはくれなかった。」

 

犯人の男もすっかり俺の語りに飲まれたようで

 

「ソンナコトガ...」

 

と呟いていた。まぁ純度100%の実話故の説得力だろう。そう何度も使える手ではないが、今はこれが頼りになる。

チラリと横を見ると、緑谷達は動き出していた。葉隠が何かを持って麗日の個性で飛んでいっているのが見える。

 

想定していたより早い、流石緑谷だ。

葉隠が手に持っているものをスタンガンのような短射程武器と仮定、苛立たせて檻の方へと歩かせる語りを組み立てよう。

 

「でも、そんな地獄みたいな日々の先にも、光はあった!一時は生きる事を諦めかけた俺だけど、俺を育ててくれた親父に会えた!だから!...畜生、上手くまとまらねぇ!」

「...サッキカラグチグチト!メグルクンノミノウエバナシナド、ソレハメグマレタイマダカライエルコトダ!ボクハイマキミミタイニメグマレテイルワケジャナイ!」

「恵まれてるよお前は十分に!」

「ダマレ!モウボクニハウシナウモノナンテナイ!ダカラ...!」

「だって、お前は今生きているんだから!」

 

犯人はその言葉に一瞬飲まれ、その後に檻の中をウロウロと歩き始めた。

しかし、葉隠の射程圏内に入った途端、その動きは一変した。

 

葉隠に持たされた武器を蹴り飛ばしたのだ。

 

「ドウヤラ、ミエナイコバエガ、マギレコンデイタナ...!...アノコトバトテ、ボクヲマドワスタメノウソダッタンダナ!」

 

男が怒りに肩を震わせ、乱暴に鍵を開けて檻の外に出る。そしてマントの中からライターを取り出した。

 

ガソリンの中にライターを落とすつもりだろう。

 

「ヒトリヒトリ、ジックリクルシメタカッタガ、ヤメタ。ミンナ、ナカヨク、ジゴクニイコウ。」

 

咄嗟に声が出た。

 

「瀬呂!止めろ!」

「責任重大だ、ね!」

 

瀬呂は腕からテープを射出し、空中でライターを巻き取った。

 

「お見事!」

「ナニ⁉︎」

 

その動きから先は速かった。

 

「何止まってやがるクソデクが!今が、チャンスだろうが!丸顔、俺を浮かせろ!」

「え、あ!そうだよ!今犯人は檻から出てる!轟くん!」

「わかってる!」

 

爆豪が飛び出すのと焦凍が犯人目がけて氷結で橋を作るのは同時だった。

氷が犯人の足元を凍結させ、動けなくなった犯人に爆豪が馬乗りになり掌の上で爆発を起こして威嚇していた。

 

氷で道ができたので保護者達の救出も容易だろう。ついでに言うなら緑谷、飯田、常闇と焦凍が氷の橋を渡った。これで犯人が暴れ出しても問題はなし。一件落着かと気を抜いた瞬間、爆音が響いた。

 

りんごの芯のようになっていた地面の部分が爆発により崩されるのが見えた。

 

「爆豪のヤツ、犯人の拘束しくじりやがった!」

「言ってる場合か、何とかしないと!」

「...いいや、幸いにも爆発はガソリンに引火はしてない。それなら焦凍が何とかできるさ。俺や尾白の個性でできる事は無いよ、悔しいけどな。」

 

その直後、轟は大氷結で穴全てを塞ぎ、人質となっていた保護者達を救出していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その後は消化試合である。

穴の中心から氷の橋を伝って人質にされていた保護者達は救出され、犯人は瀬呂のテープにより拘束されてひと段落。

 

「オメデトウ、コレデ、ジュギョウハオシマイダ。」

 

そのタイミングで倒れたビルの影にいた相澤先生がやってきた。

 

「みなさん、お疲れ様でした。なかなか真に迫っていましたよ。」

とさっきまで恐怖におののいていた保護者の皆様と和気藹々と話を始めた。

 

「すいません相澤先生、皆困惑しているので説明をお願いします。」

「はぁ、まだわからねぇか?わかりやすく言うとドッキリってヤツだな。」

 

「はー⁉︎」という皆の声が響く。そうだよな、納得いかないよな。だって聞かされてた俺もそうなんだもん。

 

「は、犯人も...⁉︎」

「えー...この人は劇団の人です。頼んできてもらいました。」

「エ...ア、ハイ。オドロカセテゴメンネ?」

 

黒ヘルメット黒マント姿で可愛らしく首をかしげる犯人に、「マジかよ〜っ」と上鳴が脱力する。

てっきりマントを取って「ハハハ!実は私はオールマイトだったのさ!」とかやるのでは?と思っていたので少し驚いた。

 

え、これ中身オールマイトだって隠す感じですか?とオールマイトに目配せ。

ハハハ、ごめん知らない。とアイコンタクトで返ってきた。使えねぇなこのポンコツ新米教師め。

 

そんな馬鹿をしているうちに八百万と相澤先生の行っていた口論が終わり相澤先生のまとめが始まっていた。

 

「身近な家族の大切さは、口で言ってもわからない。無くしそうになって初めて気づくことができるんだ。今回はそれを実感して欲しかった。

いいか、人を救けるには力、技術、知識、そして判断力が不可欠だ。しかし、判断力は感情に左右される。お前達が将来ヒーローになれたとして、自分の大切な家族が危険な目にあっても変に取り乱さず救けることができるか。それを学ぶ授業だったんだよ。授業参観にかこつけた、な。わかったか、八百万。」

「...はい。」

「それともう1つ。冷静なだけじゃヒーローは務まらない。救けようとする誰かは、ただの命じゃない。大切な家族が待っている誰かなんだ。それも肝に銘じておけ。」

 

クラスの皆は、「はい」と神妙に頷いた。

 

「で、結果的に全員救けることができたが、もうちょいやりようあったろ。」

「は?」

「犯人は1人だぞ。わらわらしすぎだ。無駄な時間が多い。それにスタンガン?もっと合理的なもんがあるだろ。それから犯人の注意を引きつける役を団扇1人に押し付けたのも芸がない。犯人に無視されたらどうすんだって話だ。他にも色々言いたい事はあるが...まぁギリギリ合格点だ。今日の反省点を纏めて、明日提出な。」

 

ギリギリ合格点を貰えた。とはいえ払った代償は大きい、さっきからなんか同情の目でみられているようだ。

 

「ねぇ、団扇くん。」

「どうした?緑谷。」

「さっきの犯人に言ったアレって、どこまで本当なの?」

「...嘘にあんだけの説得力を持たせれるような詐欺師スキルは持ち合わせてないよ。今回の件で必要だなぁと思ったけどさ。」

「じ、じゃあ!団扇くんは...!」

 

緑谷のその声をぶった切るつもりで声を出す。今となってはもう、折り合いのついた事なのだ。

 

「昔の事だよ。それに、4歳からの大やらかしがあったから俺は親父と出会えた。それは本当に奇跡だと思ってる。それになんだかんだで母親とも和解はできてるしな。だからもう昔の事で、終わった事なんだ。」

「...そう言うなら、とりあえず納得しておくね。でも、辛かったり、辛くなったら言って欲しい。友達でしょ?」

「...おう。ありがとな緑谷。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

訓練が終わった後自分は相澤先生に呼び出された。

 

「団扇、なぜお前が呼び出されたか分かるか?」

「オールマイト絡みですか?あのガリガリモードの。」

「...団扇、お前知ってるのか?」

「体育祭前の訓練の時にちょっと。理由は聞いてないですけどね。」

「はぁ、あの人はまったく...団扇、オールマイトの理由を聞きたいか?」

「いいえ、オールマイトはオールマイトですから。」

「それなら良い。まぁその話は本題ではないんだがな。」

 

嫌な予感がした。自分の息を飲む音が聞こえる。

 

「団扇、お前が財前組に引き取られた経緯を話せ。」

「嫌です。」

「即答か、理由を聞いてもいいか?」

「...親父は、禁固3年で決着がついたんです。下手な事を言ってそれを伸ばす結果になるのも嫌なので。」

「安心しろ、これを聞くのはお前を守るためだ。それに一度刑罰が決まった事件ならよっぽどの事じゃなきゃひっくり返ったりはしない。

...今回の件でお前の過去はスキャンダル性が強すぎると改めて分かった。だから話せ。お前の人生は奇妙すぎてどんな爆弾が飛び出てくるか分からん。そんなんじゃお前の事を十分に守る事が出来ないかもしれん。」

「...わかりました、話します。」

「ああ。」

 

「俺は、俺を売りました。それで買ったのが財前組だった。それが経緯です。」

「...まぁ想定内だな。」

「ちなみに売値は840万で、完済済みです。」

「そこは聞いてねぇよ、ていうか完済したのかよ。」

「そこはちょっとした自慢です。」

「違法労働で稼いだ事を自慢するな馬鹿野郎。さて、聞きたいことは聞けた。あとは信頼できるヒーローに情報を回して情報が外に出回らないように根回ししておく。お前はもう帰れ。...いやもう1つ聞きたい事があった。」

「何ですか?相澤先生。」

 

相澤先生は真っ直ぐ俺の目を見てきた。

 

「お前だけは今回のが訓練だって知っていた筈だ。なのにどうして自分の傷を開くような真似をした?他にいくらでも方法はあったろうに。」

「...訓練だって事を忘れたら、犯人役の人にちょっと同情してしまって...だから自分の全身全霊で声は届けたいと思ったんです。」

「...その同情心はヒーローとしての弱点になる。過剰に囚われすぎるなよ。」

「はい。わかっているつもりです。」

「それならいい。さぁ帰れ、家族を待たせてるだろ?」

「そうですね。それじゃあ、失礼しました。」

「おう。」

 

職員室を出て校門前で待ってる扉さんの元へと急ぐ。

授業参観は終わりだ。家に帰ろう。

 




何気に難産な話でした。プロットにない話を差し込んだ時はだいたい難産なんですけどねー。雄英白書が面白いのが悪い。


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