【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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ようやく始まる林間合宿本番、まずは第1戦目です


林間合宿襲撃事件、その始まり

時は流れ、三日目夜

 

豚肉の肉じゃがも案外いけるものだと認識を新たにしたところで待ちに待った肝試しの時間である。尚、補習連中は日中の訓練が疎かになっていたという理由から肝試しに参加する事を許可されず、あえなく連行された。さらば赤点ファイブ、お前らの事は忘れない...

 

「肝試し楽しみにしてた連中が軒並みいなくなった感じだな。」

「そうだね...ねぇ団扇くん、聞いていいかな。」

「なんだ?」

「なんで腰にホルスター付けてるの?銃っぽいグリップ見えてるけど...」

「ああ、これか?ティザーガン。幽霊には電撃が有効だって聞いたから一応持っとこうかなと。」

「団扇くんなんでそんなトンデモ知識を間に受けるのさ...」

「そっちの方が楽しいからな。まぁ本来の目的は護身用に買ったこれに慣れることなんだけどさ。」

「いや、そっちを先に言ってよ。」

「さて、じゃあ俺マンダレイにちょっと話あるから行くわ。」

「何か用事あったっけ?昼食作ってる時も何か相澤先生と話してたけど。」

「何、大した事じゃねぇよ。この合宿のセキュリティの確認とかだ。」

 

そう言って緑谷たちから離れマンダレイの元へと行く。

マンダレイは俺に気づくとため息を一つ吐いた。

 

「来たわね心配性。イレイザーから聞いてるわセキュリティの確認でしょ?」

「ええ、B組連中が散らばる前に確認しときたくて。」

「この合宿場が決められたのは本当に直前だったから(ヴィラン)に知られてるというのは考え辛いわよ?」

「入学してから(ヴィラン)と会いまくった俺の直感が言ってるんです。来るなら生徒の守りの疎かになる今日みたいな日だって。」

 

マンダレイはもう一つため息を吐いた。いや、自分でも「ちょっと心配し過ぎかなー」とは思うが、うろ覚えの知識が警告を鳴らしているのだ。「ヤバイ」と。

 

「...心配性もここまで来ると一つの個性ね。でも安心して、イレイザーから君の話を聞いた時点で一度肝試しルート周りのパトロールをしてみたけど特に危険はなかった。(ヴィラン)が潜伏している可能性はかなり低いわ。」

「そうですか...杞憂ならそれに越したことはないんですけどね。一応B組が展開し終わったあとのそれぞれの位置情報を先生側で共有しておいて下さいな。」

「それは安心して、ラグドールがいるからそういうのは得意なの。それにピクシーボブの個性なら一度にどんな数の(ヴィラン)が来ても生徒を守り切れるわ。」

「ありがとうございます。つまり...最初に狙われるのはラグドールかピクシーボブって事ですね。」

「...そうね。一応2人には声をかけておくわ。生徒の1人が(ヴィラン)襲来を予見していたって。」

「お願いします。」

「来なかったら君の名前出してネタにするから、恥ずかし悶える覚悟はしておいてね?」

 

予想外の切り返しだ。まぁこっちもヤケだ、来なかったら来なかったで万歳でいいのだから。

 

「...いいでしょう、ビビりと晒すなら晒して下さいな!実際嘘じゃないですし構いませんよ!」

「ヤケにならないの。君のその(ヴィラン)を恐れる感性はとても大事なものだから、大切にしなさい。さ、肝試しの準備が始まってるわよ、クラスのとこに戻りなさい。」

「はい...マンダレイ。」

「何?」

「話を聞いてくれて、ありがとうございました。」

「いいのいいの、気にしないで。」

 

そうしてくじ引きの結果最終組の8組目、緑谷とペアで回ることとなった。

 

「よろしくね団扇くん。」

「ああ、よろしくな緑谷。お前の超パワーと俺の写輪眼、合わせればどんな幽霊も怖くない!」

「幽霊って殴れるのかなぁ。」

「多分オールマイトなら殴る。つまり似た個性の緑谷でも殴れるだろ。」

「...なんかそんな気がして来た。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

12分後 麗日と蛙吹のペアが行ってから少ししてから森から焦げ臭い匂いが漂って来た。

即座に写輪眼を発動ピクシーボブに何かのエネルギーによる干渉が見えた。

 

「ピクシーボブ、攻撃です!狙われてますどこからか!」

「身体が、引っ張られてる!」

 

茂みの方へと身体が引っ張られているピクシーボブ、あのままでは危険と判断した自分は抱きつくことで無理やり引っ張られる速度を落とそうとするも、投げナイフによりその行動を阻止されてしまった。

 

が、武器の提供ありがとう。飛んで来たナイフを掴み茂みの中へと投げ返す。そのナイフは金属に弾かれた音がした。

 

とはいえ対応に一手使わせた、これでピクシーボブは大丈夫だと高をくくったところにそのサングラスの男性は見えた。手には巨大な棒を持って迎撃体制万全の状態の男が。

 

「ピクシーボブ!」

「ダメ、引っ張る力が強くて地面に手が届かない...ッ!」

 

サングラスの男による引っ張られた勢いを十全に使った棒によるカウンター、ピクシーボブは頭から血を流して倒れてしまった。

 

「何で...!万全を期したハズじゃあ...!!何で...(ヴィラン)がいるんだよォ!!!」

 

それは、楽しい筈の林間合宿にやってきた再びの悪意だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ご機嫌よろしゅう雄英高校!!我ら(ヴィラン)連合開闢行動隊!!」

「こんな森林深くまでやって来るとか、随分と暇なんだな連合は。」

 

写輪眼発動、この程度の煽りで目線が合うとは思わないが試すだけはタダだろう。

 

「ヴィラン潰し!貴様には我々と一緒に来てもらう!」

 

ナイフの男は首にかけていた鏡のゴーグルを目に掛けてそう言った。またマジックミラーゴーグルかい。ワンパターンだが対処できない厄介なアイテムである。

 

「悪いね、名前も知らない人にはついて行くなって親父に言われてるんだ、その答えは当然ノーだよ。」

「フン、我はスピナー。ステインの夢を紡ぐものだ。」

「本名を名乗れよトカゲ野郎。それと俺の名前はメグルだ!」

 

足元に転がっていた小石を拾って投げる、狙いはゴーグルだ。

当然のように手に持っていた刃物をツギハギして作られた大剣により防がれた。ナイフを弾いたのはそれか...ッ!

 

「団扇くん、逃げなさい!委員長は引率!広域テレパスで大体の指示は出した!イレイザーたちのいる施設へさっさと行って!」

「承知致しました!さぁ団扇くん、皆、施設へと逃げるぞ!」

 

鏡をポケットから取り出して自己催眠。身体機能のリミッター解除、これで逃走速度は稼げる。あとは逃げれば先生たちがなんとかしてくれるだろう。

そう楽観的に考えていた。緑谷のその一声を聞くまでは。

 

「...飯田くん、先行ってて。」

「何言ってんだ緑谷!ヴィランはあいつらだけじゃないんだぞ!」

 

そう緑谷に言ったが、緑谷は覚悟を決めた顔をしていた。誰かを助けるヒーローの顔を。

 

「マンダレイ!!僕、知ってます!!」

 

そう言って緑谷は走り出した

 

「クソ!緑谷を1人にはしておけない!すまん飯田、俺は緑谷を追いかける!」

「だがヴィランの狙いは君だぞ!単独行動は...ッ!」

 

飯田の声を待たずに走り出す。フルカウルの緑谷のスピードを追えるのは飯田かリミッター外した俺だけだ。飯田は皆を避難させるために動けない。なら自分しかいない!

 

「緑谷!」

 

前を走る緑谷は一度こちらを振り返る。

 

「団扇くん!何で⁉︎」

「1人で行く馬鹿がいるからだよ!スピードは落とさず話せ、どこに行く気だ!」

「洸太くんの秘密基地!洸太くんはあそこで1人なんだ!」

「なら気にせずトップスピードで行け!俺はお前を追跡して行く!」

「...ありがとう!」

 

徐々に先に行っている緑谷に追いすがるべく全力で走る。5%のフルカウルでこれなのだから先が恐ろしい男だ。

完全に離され背中すら見えなくなったところで少しスピードを落とす。ここからは足跡による追跡になる。

 

「緑谷、無茶はするなよ...」

 

そう言うが間違いなく無茶するだろうなぁと思い苦笑する。何せ緑谷の行く先には守るべき者がいるのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

足跡による追跡をしていると、頭上から破壊音が聞こえ始めた。

 

「緑谷の奴、おっ始めやがった!」

 

上の戦闘で崖が崩れて登りやすくなった、とはいえそれは緑谷に匹敵する超パワーの奴が敵だという事だ。崩れた崖をダッシュで駆け上って行くと、筋肉の塊のような奴に押しつぶされている緑谷が見えた。

 

「緑谷!抜けろぉ!」

 

さらば一発3500円、できれば使いたくはなかったッ!

 

筋繊維の薄い背骨部分めがけてテイザーガンを抜き放つ。ちょっと外して筋肉に当たったが、命中は命中だ。

 

「アア?なんだこ...⁉︎」

「ん!団扇くん!」

「よう緑谷、随分格好よくなったな。...あとは俺に任せろ。」

 

筋肉男を挟んで緑谷に言う。緑谷は両腕がボロボロで戦えそうにない。...間に合って良かった。

まぁテイザーガンは大の大人でも電流により動けなくなる高圧電流を流すものなのでもう終わったも同然なのだが。

 

「け、スタンガンかよ、痺れたぜ。だが残念だったなぁ!俺の筋肉は作り直せる!痺れた筋肉は取っ払えばいいだけなんだよ!」

 

そう言って振り返ってきた男の左目に写輪眼を当てる。これで終わりだ。

とは手応えの無さから思えなかった、こいつ、義眼だッ!

 

「ヴィラン潰しか...このダッセェマスクかぶんなきゃダメじゃねぇかよ。」

 

そう言って筋肉男は足元に転がっていたマスクを被った。となるとあのマスクは催眠を無力化するギミックが仕込まれていると言うことか...

 

「さぁ俺はどっちを優先すりゃあいいと思う?ぶっ殺せって言われたそっちの緑髪のガキか、連れてこいって言われたヴィラン潰しか。」

「僕を「俺を優先するべきだろ、連れて帰りたいんだろ?俺はお前が緑谷に向いた瞬間に逃げる。お仕事失敗は(ヴィラン)の恥だぜ?」団扇くん⁉︎」

「は、言いやがる。そんじゃあお前を優先するとしますか、ね!」

 

筋肉男の筋肉がまた盛り上がる。戦闘モードに入ったのだろう。

 

「緑谷、相澤先生連れて来い、時間は俺が稼ぐ!急げ!」

「...わかった、信じるよ団扇くん!さぁ洸太くん、しっかり捕まって!」

 

そう言って緑谷は洸太少年を連れて施設へと去っていった

 

「さて、タイマンだな筋肉男。...メグルだ。お前は?」

「マスキュラーで通ってるぜ、ヴィラン潰し。お前を連れて帰るのがお仕事だ。簡単には倒れてくれるなよ?」

 

そう言ってマスキュラーは高速でパンチを放ってくる。だが写輪眼には見えている、ただ早いだけで筋肉頼りのストレートだ。体を一歩内側に潜り込ませて腕を両手で掴む。そしてパンチの勢いを殺さずにぶん投げる。投げっぱなし一本背負いである。

 

「カハッ⁉︎」

「そんな安っぽいのが当たる雑魚に見えたか?心外だ、な!」

 

倒れたマスキュラーの仮面を蹴り飛ばす、これで催眠を通せば俺の勝ちだ。とはいえマスキュラーも一角の者、筋肉を増やすことで咄嗟にクッションを作ったようだ、そのせいで与えられたダメージはそう大きくない。まぁ少なくもなかったようで立ち上がるまで少し時間がかかった。

 

起き上がるついでに軸足を掴まれそうになったのでバックステップで退避

 

手をクイっと示して挑発する

 

「立てよマスキュラー、大して効いてないんだろ?なら続きと行こうや。」

「ケッ、気に入ったぜテクニシャン!さぁ続きをやろうや!」

「...ああ、上等だ!死ぬんじゃねぇぞ筋肉ダルマぁ!」

 

向こうの攻撃は全て一撃必殺のパワー、こっちの火力は殴る蹴る投げるのみ、締め技はあの筋肉を作る個性により防がれるのでおそらく無理。

ゲームなら投げ出している所だ。だが幸いにも勝機は一つ、奴の右目に催眠を当てること。そのためには奇襲が必要だ。

 

さて、マスクのギミックは蹴り飛ばしたので使えない、となると奴の次の手は...

 

「ヴィラン潰し。お前の驚く面が見れないのが残念だぜ!」

 

マスキュラーは突如地面に拳を刺しめくり上げた

 

意図が読めた時点で崖から飛び降りる。奴の狙いは岩を散弾のようにぶちかます事だッ!

 

「さぁ、死ねぇ!」

 

さっきまで自分がいた場所に石飛礫が滝のように飛んで来ていた。流石にあれは避けきれないだろう。

 

さて、崖から降りるついでに言っておこう。

 

「じゃあなマスキュラー、俺はお前を倒そうと思ったけど別に必要がない事に気付いた、俺は逃げるぜ!」

「ハァ⁉︎」

 

崖の上のマスキュラーが間抜け面晒しているのが想像できる。

 

「嘘だろ、本当に逃げやがった⁉︎あいつ散々俺を倒すとか言ってたのにどんな神経してんだ⁉︎」

「こんな神経をしてるよ。」

「ア?」

 

崖からひょっこりと顔を出した俺の目と、思わぬ状況に顔を向けてしまった間抜けの両目が合う。マスキュラーは赤い目に回る三つ巴を見ると共に、意識を失った。

 

「さて、マスキュラー君。色々と話して貰おうか。敵の配置に人数に個性、全てをな。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

全力で施設へと駆け抜ける緑谷、状況を確認しようとマンダレイの元へ向かおうとしていた相澤先生と運良く鉢合わせる事が出来た。

 

「相澤先生!」

「緑谷か⁉︎お前、またやったな?」

「それどころじゃないんです、(ヴィラン)と遭遇して足止めを団扇くんがやっています。でも(ヴィラン)の狙いは団扇くんで...!」

「落ち着け緑谷、要点を話せ。」

「団扇くんを助けて下さい、相澤先生!」

 

その言葉と共に相澤先生の携帯が鳴った。

 

「なんだこんな時に...団扇から⁉︎」

「団扇くんから⁉︎無事なんですか⁉︎」

「アイツ...一斉送信で送られてきた。(ヴィラン)を1人で倒して尋問に成功したんだとさ、敵の目的と人数、集合場所なんかが添付されてる。要するに団扇は無事だ。」

「良かったぁ。じゃあ後はかっちゃんが危ない!相澤先生、洸太くんをお願いします。水の個性です、守って下さい!」

「待て緑谷!!!その怪我、また...やりやがったな?」

「あ...いやっ、でも...」

「だから彼女にこう伝えろ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

体勢を崩したマンダレイに向けてスピナーの大剣が迫る

 

「とっととシュクセーされちまっえぇ⁉︎」

 

その大剣を横から蹴り砕き、緑谷出久は現れた。

 

「マンダレイ、洸太くん無事です!」

「君...」

「相澤先生からの伝言です、テレパスで伝えて!!A組B組総員、プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!!」

 

「もう一つ伝言お願いします、マンダレイ。皆の携帯に団扇くんが尋問して得た情報がメールされてるって!敵の狙いはかっちゃんと団扇くん!僕はこれからかっちゃんを助けに行きます!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「やっべ戦闘許可出てねぇのに個性使いまくっちまった。正当防衛通るよなぁ、どう思うマスキュラー。」

「さぁな!法律とかは知らねえわ!」

「脳筋め。」

「褒めるなよ、ご主人。」

「褒めてねぇよ。...さて、爆豪か俺のどっちかをとっ捕まえたら逃亡って流れで良いんだよな?」

「ああ、ついでに言うなら集合場所はガスと煙で死角になるような場所だって話だぜ?地図情報だけでちゃんと伝わったか?」

「だいたい伝われば良いだろ。相澤先生たちもプロだしなんとかなるって」

 

ここが自分の分岐点だと後から考えると思った。

 

自分はこの時点でも役割を十分に果たした。だが欲が出てしまったのだ。襲撃犯は11人、対してプロヒーローはたったの6人、1人倒されているので今は5人。加えて守るべき生徒は41人。明らかに不利だ。

この事件を終わらせるには(ヴィラン)全てを催眠にかけるしかない。そう思えてしまった。

 

強敵を倒した奢りが目を曇らせているとも知らずに。

 

「それじゃあ伝えて貰おうか、『目標Bを確保、これより回収地点に向かう』ってのを自分の言葉でな。」

 

「んで、行くのかい?ご主人。」

「ああ、俺を肩に担いで回収地点まで頼む。この事件を終わらせてみせる。それとマスキュラー、こっち見ろ。」

 

マスキュラーへの保険の催眠をかける。これで万が一の時も大丈夫だ。

ついでにテイザーガンのカートリッジを取り替えておき、いくつか石飛礫に使えそうな石を拾っておく。

 

「さあ、行け怪人マスキュラー!俺を捕まえた的な体でな!」

「了解だぜご主人!」




キリの良いところで一区切り、ちょっと短いですけどねー。
林間合宿編は割と原作の流れとは変わります。ツッコミどころあったならじゃんじゃん行ってください、修正入れます。

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