【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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ヴィランとのコミュニケーションの1ターン目です。先攻は巡くん。後攻はみんな大好きなあの人です。


神野編
ヴィラン連合と新しい力


携帯などを取り上げられ、数度の転移のあと自分はどこかに連れてこられた。目隠しと手枷をつけられたまま。

 

「さて、事ここまで来たらどうしようもないぞ。俺を殺す様を動画にでもする気か?」

「そんな事はしないさ、団扇巡くん。俺たちはお前に話があってこうしてここに連れてきたのさ。」

「この声は死柄木か、話ってなんだ?」

「単純な話さ、俺たちの仲間になれ。」

 

予想だにしてなかった展開である。ヒーローの卵が(ヴィラン)堕ちすると本気で思っているのだろうか。

 

「とりあえずなんで俺を仲間にしたいなんて思ったのか、理由を聞かせてくれないか?死柄木弔。これでもヒーロー志望の品行方正な学生をやってたつもりだぜ?」

「お前の過去を調べた。団扇巡、お前は俺たち側の、社会に押しつぶされて苦しんでいた人間だからだよ。」

 

その言葉に、死柄木の傷が少し見えた気がした。もしかしてこいつの原点(オリジン)は俺と近しいのかもしれない。少しだけそう思った。

 

「...否定はしない。けど肯定することもできないな。なにせ俺は、お前たちのことを知らない。なぁ、まずは会話から始めないか?死柄木弔、俺はお前に興味が湧いた。」

「ああ、いいぜ団扇巡。話を始めよう。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こういうのは言い出しっぺの法則って奴だ、まずは俺の過去から話そう。調べたのと話を聞いたってのとじゃあ受ける印象も違うだろ。」

「...随分と積極的なんだな。」

「考えてもみろよ死柄木、今の俺の命ってお前の命令一つでお陀仏だぜ?この状況で協力的にならない奴なんて爆豪くらいだって。」

「へぇ、パニックにはならないんだな。」

「そりゃあ...鍛えてますから。」

 

内心はバックバクであるが表には出さない。ポーカーフェイスは得意なのだ。

 

「さて、俺の半生のお話だ。合いの手はお好きにどうぞ。誰がいるのかは見えないからわからないけどさ!」

「弔くん、つまんなかったら刺していいです?」

「やめろトガ、今は話し中だ。」

「話一つも命がけかぁ、辛いな!」

 

そうして自分は話した、自分の半生を。

生まれて4年後に個性を発現し、父親に逃げられたこと。

その後4年間母の心を守るために間違った方法を選んでしまったこと。

ヤクザに自分を売り、新天地へと向かったこと。

そこで親父と会い、ヤクザの元で8年間仕事をしながら生きていたということ。

そのヤクザは今は組を畳んだ結果、自分の前科一つと共に無くなったということ。

これが、自分の過ごした半生だ。恥ずべきところも隠したいところもあるが今は死柄木たちに自分を知ってもらうために何も隠さずに言おう。

 

「ざっとこんなもんだな。どうだ?俺の人柄くらいはわかったか?」

「ああ、だいたい調べた通りだ。だが質問がある。」

「なんだ?」

「お前の原点(オリジン)である母親を洗脳していた4年間のことだよ。お前は何を憎んでその時期を乗り越えたんだ?」

「...これ、相澤先生にもぼかしてしか伝えてない事だからあんま言いふらすなよ?」

「ああ、約束する。」

「自分を助けてくれるヒーローが扉をあけてくれるのを願ってて、けどそんな奇跡は現れる事はなかった。だから、俺が変えようと思ったんだ、この社会の糞みたいなシステムを。ヒーローとして先導者となる事で。」

 

いろんな理由で「助けて」を言えない人がいる。そんな人を1人でも多く助けられるようにするために俺はヒーローを目指している。それだけは曲がらない。

 

「そうか、ありがとう団扇巡。お前は半分合格だ。」

 

そう言って死柄木は自分の目隠しを取った。

 

瞬時に状況判断。バーのような風体の隠れ家、周囲には死柄木の他にトガ、黒霧、コンプレス、トゥワイス、スピナー、荼毘、グラサンの男、の7名。手枷は手全てを覆う形で自力での抜け出しは不可能。

 

糞、マスキュラーがいれば一手動けたというのに...とはいえ一手程度でどうこうできる状況でなし、今は流れに身を任せよう。

 

「半分ってのは、俺が社会に対して不満感を持っている人間ってところか?」

「そうさ、お前は俺たちの同志になれる。何故なら俺たちの目的はこの社会をひっくり返す事なんだから。」

 

そう言った死柄木の目は鏡のゴーグルに覆われて見えなかった。

 

「お前だけマジックミラーゴーグル着用とか、以外とちゃっかりしてるんだな。」

「そういうお前は写輪眼を展開していないんだな。」

「警戒されるだけだろ。なら使わないのも一つの手だよ。」

 

「へぇー、団扇くんって黒目だったんだね、綺麗!」

「ありがとさんトガちゃん。...ところでマスキュラーはどこに?」

「別室で待機させています。あなたを主人と誤認させ続けるとは卑劣ですが有効な手ですね。」

「それなら呼び出してくれや、催眠解除するから。」

「...手駒をわざわざ減らすのか?」

「警戒心を解くためには必要だろ。お前たちも仲間が洗脳されてるなんて嫌だろう?」

「コンプレス、マスキュラーをここに呼んで来い。」

「死柄木弔、よろしいので?何かの罠の可能性もありますが。」

「コイツは俺たちの信用を得ようとしている、ならこっちも信用で返すのが礼儀って奴だろ?」

「それにマスキュラー1人なら暴れてもすぐに制圧できる。」

「決まりだな。行って来いコンプレス。」

 

コンプレスは別室へと行き、3分程度で戻ってきた。大人しくしているマスキュラーを連れて

 

「よう、ご主人。無事か?」

「おうマスキュラー、無事だぜ今のところは。ちょっと俺の目を見てくれるか?」

「おう。」

 

写輪眼発動、表層催眠解除だ。これでマスキュラーは俺を主人と認識する事は無くなった。

 

「...あー、糞みてぇな気分になった。このクソガキが!」

 

マスキュラーは大股で自分に向けて歩いてきた、何をする気かは一目瞭然だ、コイツの思考はシンプルなのだから。

 

「マスキュラー止まれ、コイツは大事な客だ。」

「大丈夫だ死柄木、一発くらいなら受ける覚悟はある。来い、マスキュラー。」

 

俺の言葉で手を下ろした死柄木、マスキュラーは自分の胸ぐらを掴み持ち上げた。

 

「何で催眠を解いた!あんな幸せな気分は初めてだったってのによぉ!」

「お前を素に戻すことで信頼を得るためだ。わかってくれ。」

「わかるかよ畜生!」

 

そう言ってマスキュラーは自分に頭突き一発いれてきた。

 

「気は済んだか?」

「とりあえず今はな!バーテン、ビールくれ!」

 

頭から血が垂れてくるのを感じる。マスキュラーの怒りの頭突きで皮を切ったのだろう。

 

「団扇くん、消毒と絆創膏よ。ちょっとしみるけど我慢しなさいな。」

「ありがとうございますグラサンさん。」

「マグネよ、マグ姉で良いわよ?」

「それじゃあ改めて、ありがとうございます、マグ姉さん。」

「素直な子は好きよー。」

 

「さぁ、俺の話はしました。半分ですが味方認定も貰えました。次は皆さんの番です。話してくださいな、あなた達がどんな理由で社会に喧嘩を売ろうって思ったのかを。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「黒霧さん、買い出しお疲れ様です。」

「いえいえ、大した手間ではありませんよ。さて作りましょうか。」

「ええ、作りましょう。冷しゃぶを!」

 

今は俺が連れ去られてから数時間。(ヴィラン)連中の過去話を聞いて回って気付けばもう10時、夕食を食べずに襲いかかって来た(ヴィラン)連合連中の腹の虫が鳴り響く頃であった。

 

半分は味方だと認めて貰えたからか、食事の時とその準備を手伝う今だけは手枷を外して貰えた。

だが今は脱出の機ではない。助けが来るのを待つのだ。

 

決して冷しゃぶの魔力に引き寄せられた訳ではない。

 

酒、塩、ネギを入れたお湯を沸騰させたものにしっかりしゃぶしゃぶした肉を常温の水につけて熱をとる。あとはサラダと一緒に盛り付けてゴマだれをかければ完成である。さっと作れて美味しい冷しゃぶはこういう時間をかけない料理には最適だ。買い出しもワープゲートで楽チンなのだから良い。ちょっとかなり(ヴィラン)連合は良い職場なのではないかと思い始めてきたぞ?

 

「おお、できたか肉!食わせろ!」

「つまみ食いは許さんぞマスキュラー。ささっ皆さんどうぞ。どうぞ、バー席に座って下さいな。」

 

そう言って皆の席に肉とサラダと白米を並べていく。黒霧さんとは今日一日でかなりの親密度を稼げた気がする。なんで(ヴィラン)やってるか不思議なくらい良い人やねん黒霧さん。

 

「なぁ、団扇。」

「なんです?荼毘さん。」

「お前馴染むの早すぎやしないか?」

「ストックホルム症候群って事で納得して下さいな。ささ、荼毘さんの分です。」

「おう、ありがとう。」

「団扇くん、君も席に着きなさい、あとは私がやっておきます。」

「それじゃあお言葉に甘えて、頂きます。」

 

しゅっと締まった肉がゴマだれと絡み合いハーモニーが生まれる。美味い、白米が止まらないぜ。

 

「マスキュラー、サラダもちゃんと食えよ?」

「食うわ!お前は俺のお袋か!」

「仲良いわねー、あんたら。」

 

マスキュラーと会話しながら肉を食う。何をするにもまずは体力だ。腹が減っては死柄木たちに取り入るのもここから逃げ出すのもできないのだから。

 

まぁ逃げ出すには常に誰かが一息で自分を殺れる位置にいるこの現状をなんとかしなければならないのだが。やっぱこいつら場数踏んでるわ。半分くらい受け入れても油断はしないのな。

まぁ、さっきの過去話とてまともに話してくれたのはマグ姉くらいだったのだが。あとはだいたいはぐらかされた。荼毘の過去とか超興味あったのに...

 

「ご馳走様でした。黒霧さん、皿洗い俺がやりますよ。」

「いえいえ、団扇くんはまだゲスト、ここは私が。」

「...そうですか、それならよろしくお願いします。それじゃあコンプレスさん、手枷を。」

「...あの残虐無比な戦い方をした人物とは思えない従順さですね、何を狙っているんです?」

「取り敢えず手枷無くてもいいと信用してくれることを祈ってはいますけどね。」

「無理でしょう。何故なら貴方は光の側の人間だ、その個性も、過去も、闇の側であるはずなのに。その原因がわかるまでは私は貴方を心から信用する気にはなれませんよ。」

「団扇巡の半生は、語った通りなんですけどねぇ。」

 

『ああ、手枷は無くて構わない。彼と話がしたくてね。黒霧、彼をここまで連れて来てくれ。』

 

テレビからそんな声がした。

 

「先生?」

「...先生って事は(ヴィラン)連合の裏ボスさんですか?」

『いいや、僕は死柄木弔の先生なだけさ。』

「じゃあ取り敢えず大先生、お話ってなんです?」

『それは会ってからのお楽しみさ、君と話したいだろうゲストもいるんだ。来てくれないかな?団扇巡くん。』

「ちなみに聞きますけど拒否権ってあります?嫌な予感しかしないんですけれど。」

「あるわけないだろ団扇、行って来い。」

「そりゃそうか。承知しました、死柄木さん。それじゃあ大先生と面会に行って来ますわ。」

 

そう言って黒霧さんの作ったワープゲートを通る。

 

モニターの光だけが照らす暗闇の中、その人物は座って俺を待っていた。

体に伸びる幾本ものチューブ、点滴などが光に照らされて見えた。

そんな病人とも取れる外見なのにその身にあるのは威圧感、オールマイトを彷彿とさせる強靭さが見て取れてしまう。

 

間違いなく、この大先生が(ヴィラン)のボスだ。

 

とはいえ自分は今(ヴィラン)連合の新入社員(予定)としてここに立っている。すぐに殺されるとかはないだろう。そう信じることにする。どうせ今の状況は詰み一歩手前なのだし。

 

「はじめまして団扇巡くん、僕はオール・フォー・ワン。」

「はじめましてオール・フォー・ワン大先生。団扇巡、あおぐ団扇に巡り合わせの巡です。ところでこの部屋暗いですね、電気つけて良いですか?」

「ああ、構わないよ。スイッチは君の後ろにあるはずだ。」

「それじゃあ失礼して、ポチッとな。」

 

そうして振り返った自分を待っていたのは予想外の再会であった。

その顔は忘れもしない、忘れるものかと心に決めていた人物だ。

自分によく似た目元と唇、黒い瞳、整った容姿のその顔は

 

自分の父親、団扇貞信のものだった。

 

「は?」

 

一瞬思考が停止した。

 

「紹介するまでもないかな、団扇巡くん。彼は団扇貞信、君の父親だよ。まぁ今はまともに会話出来るような状態ではないんだけどね。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ただいま!巡、良い子にしていたか?」

「父さん、おかえりー。」

「お帰りなさい、貴方。晩御飯にしますね。」

「ありがとう善子。もしかして待っててくれたのかい?」

「巡が待つって聞かないのよ。」

「ご飯はみんな食べた方が良い!そっちのが美味しいし!」

「ハハハ、その通りだ。それじゃあご飯にしようか。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一度深呼吸、落ち着け。相手のペースに乗るな。

 

「へぇ、生きてたんですかそいつ。」

 

返答はこれでいい。興味を示さない事がこちらに出来る唯一の抵抗だ。下手に興味を持っていると思われて人質に使われたら詰みだ。俺は(ヴィラン)の元から離れられなくなる。こんな奴でも人命なのだから。

 

「ああ、12年前君を捨ててから職を転々としていたから探すのに苦労したよ。まぁ、お陰で良いものが手に入ったんだけどね。」

「良いもの?」

「写輪眼の個性さ。」

「...親父は無個性の筈。他に血縁者がいたんですか?」

「いいや、僕の『個性判別』によって君の父親にも写輪眼は宿っていることがわかったのさ。どういうわけか『強制発動』でも発動はしなかったけどね。」

「それで俺を攫おうって死柄木を唆した訳ですか。サンプルを取るために。」

「その通りさ、まぁちょっとした好奇心だよ。さて。」

 

オール・フォー・ワンは自分に手を向けてきた。

警戒して半歩下がった。だがそんなことお構い無しにオール・フォー・ワンは手から棘のようなものを出し、俺に刺してきた。

 

「個性強制発動。さて、君には効くかな?」

 

身体の奥底が無理矢理操られるイメージだ。強烈な気持ち悪さと共に自分の意思でなく写輪眼が勝手に瞳に現れた感覚がある。

 

そして自分が目にしたオール・フォー・ワンの身体エネルギーはドス黒い混色だった。オールマイトや緑谷の綺麗な虹色とは違う。多種多様な色を無理矢理煮詰めたような邪悪で、しかし力強い色だ。

 

その色を見て、自分は思わず後ろに後ずさった。単純な、根源的な恐怖からだ。こんなモノが存在してはいけない。そう思った。

 

「個性の強制発動は通じたようだね。ふむ、となると団扇貞信の写輪眼が発動しなかったのはどうしてだろうか。長いこと生きてきたがこんな事は初めてなんだ。何か思い当たる事はあるかい?団扇巡くん。」

「...俺の写輪眼は開眼し始めたころの紋様は一つ巴だった。でも成長した今は三つ巴になってる。多分だが写輪眼には特別な成長の仕方があるんだと思う。」

「興味深いね。君自身はその特別な成長に心当たりがあるのかい?」

 

心当たりは正直ある。俺が写輪眼を成長させたタイミングはいつだって母に催眠をかけることに抵抗を覚えて死にたくなった時なのだから。今でも忘れる事はできない。

 

「写輪眼を成長させるのは、使用者の心の傷だ。」

「なるほどねぇ。それなら弔にはこの個性は渡せないね。弔向きの良い個性だと思ったんだが。」

「個性を渡す?...まさかオール・フォー・ワン。あんたは個性を操る魔王⁉︎ネットの噂じゃなかったのか⁉︎」

 

最悪だ。こんな奴に勝てる訳が無い。あらゆる個性を奪い、万能の力を超常黎明期から示していた魔王だ。なんでもありって事である。

だから写輪眼に対しても無警戒に顔を晒しているのだと今更ながらに思った。

 

「さて、それじゃあ本題に入ろうか。団扇巡くん。君はまだヒーローを諦めては無いね?」

 

答えられない。嘘探知のような個性を持っていたら隷属を誓ってもそれが嘘だとわかってしまう。かといって諦めていないと口にするのも論外だ。今ここで殺されかねない。

 

「沈黙は肯定とみなそう。だから君には弔と道を同じくできるように道しるべをあげよう。」

 

そう言ってオール・フォー・ワンは再び手をかざしてきた。手に身体エネルギーの球みたいなものを集中させながら。

 

手から出てきた針が俺の腹を貫く。そしてその針を伝って身体エネルギーの球が自分に流れ込んできた。

 

その瞬間から、地獄が始まった。

 

「恐怖という、道しるべをね。」

 

身体が、作り変えられていく。

痛みで、恐怖で、気が狂いそうになる。

俺は、この男に根源的な恐怖を植え付けられて支配されようとしているッ!

 

「さぁ、身体に馴染むまで時間がかかりそうだね。それならその間に君のルーツ、団扇一族について講義をしてあげよう。」

 

気が狂いそうになりながら耳を傾ける。他の何かに集中していないと気が狂いそうだ。

 

「君の一族は元々は幕府に仕えていた隠密の家系でね、なにか大業をなしたとかで今の長野に忍び里をもらうほどのものだったそうでね、そんな血筋の団扇一族は超常黎明期にも当然のようにその隠れ里を牛耳っていた。そして個性の発現により団扇一族の多くが写輪眼に開眼するようになり、その支配は力を持っていた僕でも手を出せないほどの強固なものとなっていた。」

 

そりゃあ写輪眼なんてものを支配層が持てば完全無欠の帝国が出来上がるだろう、気にくわない意見を言う奴は洗脳してしまえば良いのだから。

 

「だが、話が変わり始めたのはちょうど君のお父さんが生まれ始めたあたりからでね。団扇一族内部で意見が分かれ始めたのさ、写輪眼を使って支配圏を広げに行こうとする急進派と今の地域支配だけを盤石にしようとする保守派でね。その争いは日に日に大きくなり、いつしか人死にが出てくるようになった。そして、あの日が来た。君も歴史の授業で習わなかったかい?長野黒炎大災害を。」

 

知識としては知っている。長野黒炎大災害とは未だ原因の明らかとなっていない個性災害であり、その死者は500名を超える。

村一つを巻き込んだ大火災であり、その水でも砂でも消えない黒い炎の性質により被害が大きくなったのだとか

 

「その、黒炎で滅んだ、村が、隠れ里、だってか?」

「ほう、もう喋れるのか。君に与えた個性は『精神をエネルギーとする』という個性だ。案外君と相性が良かったのかもしれないね。」

 

そう言ってオール・フォー・ワンは床に転がる自分に改めて向き合ってきた。

 

「さて、講義の続きと行こう。とはいっても君の言った通りなんだけどね。長野黒炎大災害で滅ぼされた村こそ団扇の隠れ里であり、その里に住む人間は1人残らず焼き殺された。ここにいる団扇貞信を除いてね。君が雄英の体育祭に出てからは下手人は君のお父さんだと思って色々な手段で尋問をしたんだけど結果は白、実に無駄な時間だった。」

 

身体の痛みは引いてきた。が、体を作り変えられた恐怖、体を流れるもう一つのエネルギーの恐怖、そしてこんな狂気の沙汰をいとも容易く行ってしまうこの男への恐怖が、自分の体を縛っていた。

 

「これで僕の知る団扇一族についての講義は終わりだ。あとは自分で調べるといい。さぁ、そろそろ立てるだろう?バーに戻りたまえ。」

「待ってくれ...」

「なんだい?」

「そこにいる、団扇貞信はどうする気だ?」

「ああ、もうだいたい遊び終わってしまったからね、脳無の素材にしようかと思っているよ。とはいえドクターの都合が悪いらしくあと一週間くらいはここで預かることになるね。」

「...わかりました、答えてくれてありがとうございます。」

「構わないよこれくらい。でも一つ忠告だ。」

 

そう言ってオール・フォー・ワンは手から針を出し自分へと刺す寸前で止めた。

 

「君が弔に逆らったら今度は君の個性を奪う。自慢のその写輪眼をね。その時の苦しみは与えられた今とは比べ物にならないほど苦しいよ?」

 

その言葉に軽口を返せなかった時点で、俺の心はもう折れていたのだろう。

 

そうして後ろに現れたワープゲートから部屋を去る、生みの父親を邪悪の手に残して。

 

一週間という示されたタイムリミットについても、自分の脱出方法についても何も考える気にはなれなかった。

 

今はただ眠りたかった、それが逃避だとわかっていても。

 




先攻で制圧できなかったらこうなるのは当然だよなぁ!(決闘者感)
さて、巡くんのパワーアップイベント(デバフ付き)です。それに伴いちょっとタグを変更します。気に入っていたんですが設定は更新されていくもの、致し方なし。

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