旧うちは村と壁歩き修行
「巡くん、ガム取ってくれないか?」
「はい。ブラックの奴で良いんですか?」
「うん。眠くはないんだけど運転するときは常に噛んでるよ。念のためにね。」
「流石うずまきさん、ヒーロー根性座ってますねー。」
「よしてくれよ、僕は所詮君の奪還作戦に呼ばれなかった弱小なんだから。」
「あ、まだ根に持ってるんですか。」
「そりゃそうさ、義理の息子の危機だったんだから。」
現在俺は、うずまきさんと一緒の車に乗って長野へと向かっている。
これがなぜかというと少しややこしい状況に自分が置かれているからである。
神野事件の後、自分は
なのでセキュリティのしっかりしていてかつ保護者代わりの扉さんの元へと転がり込もうとしたら、扉さんからそれはやめておけと言われてしまった。何故なら今、財前組元本部にはマスコミが群れをなして集まっているのだから。
なので自分は相澤先生や校長との相談の元、マスコミから逃亡するために実母であるうずまき善子の現在の旦那、長野のご当地ヒーローである螺旋ヒーロースクリューことうずまきメグルさんの元へとしばらく身を寄せよう決めたという次第である。
まぁ長野には行きたい所もあったので丁度いいといえば丁度良いのだが。なんか解せない。マスコミが苦手になりそうだ。
「さて、うちは村に行きたいんだよね巡くんは。」
「はい。実は俺はあの村の遺族だった!って事実がヴィランの口から明かされてしまった訳なので、献花くらいはしておこうかと。」
「それはありがたい。あの大災害は遺族がほとんどいないからね、年々献花の数は減っていってるんだ。巡くんが献花してくれるようになるなら嬉しいよ。」
「流石長野のご当地ヒーロー、そういう情報に詳しいですね。」
「うん。追悼イベントのスタッフもやってるからね。まぁ追悼イベントに来るのはオカルト好きな若者か個性学者さんかの二択ってのが被害者も浮かばれないなーとは思うよ。」
「来てくれるだけいいじゃないですか。」
「プラス思考だね、巡くんは。」
「プラス思考は最強らしいですから。」
「誰から聞いたの?それ。」
「昔世話になった警察の人からですね。」
「へー、良い出会いがあったんだね。」
「はい。そう思います。」
そう言ったあとなんとなく外を見る。森が深くなって来た。忍びの隠れ里だったというのはこういう立地だったからだろう。
「そういえば、うずまきさん今日は仕事は良かったんですか?」
「ああ、最近雇ったサイドキックが優秀でね、ちょっとくらいなら抜けても問題はなくなったのさ。」
「へぇ、なんてヒーローです?」
「クリスタルアイってヒーローだよ。」
「クリスタルアイって知ってる?と。今ヒーロー博士に聞いてみました。」
「ヒーロー博士...緑谷くんだよね、あのボロボロの。」
緑谷と聞けばボロボロと返ってくるのはそれだけあの体育祭が凄惨だったということだろう。まぁ録画見て俺も思ったわ、こいつヤベーと。
「最近はボロボロ克服して超強くなってます。お、返信きた。
『クリスタルアイは東京出身のヒーローだよ。だけど地元でイマイチ活躍できなかったから長野に移動したっていう経歴を持ってる。必殺技はクリスタルビーム、眼から光線を出して敵を切り裂くってモノ。実は光線というより水圧カッターみたいなものの可能性もある。』ですって。」
「凄いな緑谷くんって、全部正解だ。あと付け加えるなら猫が好きだけど猫アレルギーという悲しみを背負ってることくらいかな。」
「悲しい体質ですねー。」
そんなヒーロー豆知識を緑谷に返す。緑谷は、ありがとう!とスタンプを使って返してきた。
「さて、そろそろ着くよ。...一つだけ、初めてうちは村跡地を見る人は圧倒されると思うけど、それは人として、生き物として当然のことだから気にしないでね。」
「?はい、よくわからないですけどわかりました。」
「わかったと受け取るよ。」
そう言ってうずまきさんは車を止めた。
助手席のドアを開けて周囲を見渡す。深い森林の中にその村はあった。廃墟という言い方で間違いはない筈だ。だがこの村を眺めるだけで出てくる根源的な恐怖のようなものは何だろうか。
オールマイトやオール・フォー・ワンの見せた力による恐怖とは違う、静的な恐怖というワードが浮かんだ。
「相変わらずだな、この村は。黒炎の影響なのか知らないけどなんか怖いんだよね。村の跡地に入るのが。」
「ちょっと見てみます。写輪眼で。」
そう言って目を閉じ、写輪眼発動する。
そこに見えた光景は幻想的で、狂気的だった。
「まだ、燃え続けてる...ッ!」
写輪眼には見えた。未だにこの村に人を入れまいと燃え盛っている黒炎が。
木の棒を拾って火に近付けてみるもその炎が燃え移ることはなかった。
「幻の炎が、村を覆っているのか。一体何のために?」
「君の目には何かが見えたみたいだね。でもここから先は立ち入り禁止だよ。燃えた建物とかがあって崩落の危険性があるんだ。だから献花台はあそこ、村の外に置いてあるの。」
「はい、わかりました。」
献花台に花屋で選んでもらった花を置く。花は詳しくないのだ。
その後、ちょっとした好奇心から幻の炎に触れてみた。すると何故だか写輪眼から涙が流れてきた。
「炎から、心が伝わってくる...」
炎から伝わってきた感情は『悲しみ』だった。誰か大切な人と別れたときのような、そんな悲しみだ。
一体誰が、なんの理由でこんな幻の炎を撒いているのかはわからない。だけど無性にその人に会ってみたいと、そう思った。
まぁ、その人が故人の可能性もあるので、とりあえずこの炎を放った人がせめて救われている事を祈ろう。事件から18年も経ったあとの祈りなど、だれが聞いているかわからないが。
「巡くん、行くよー。」
「はい、今行きます。」
そういって旧うちは村から去って行く。未だ幻想の中で燃え続ける奇妙な村から。
「ところで巡くん。追悼イベント来週なんだけどなんで今日村に来たかったの?」
「あ...すいません、覚え違いしてました。」
「巡くんって現社苦手だったり?」
「します。近代の事件とか覚えるの苦手なんですよ、事件のスパンが短すぎて。」
「でもそういう歴史があるからヒーローは成り立ってるわけだからしっかり覚えておいた方がいいよ。失言とか怖いし。」
「確かにそうですね、気をつけます。」
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うちは村から車に揺られて30分、結構大きな一軒家へとたどり着いた。稼いでんなぁローカルヒーロー。
「兄ちゃん!いらっしゃい!」
「おう、久しぶりヒカル。元気にしてたか?」
「うん!僕ももうすぐお兄ちゃんだからね!」
「いま何ヶ月でしたっけ。」
「今8ヶ月だよ。高齢出産だしそろそろ入院するべきだと思うんだけど、善子が妊婦とは思えないほど元気にしてるんだよ。」
「2人目ですし、慣れてるって事ですかねー。」
「男3人で突っ立ってないで早くお入りなさい。それと、いらっしゃい巡。」
「お邪魔します、母さん。しばらくお世話になります。」
「いいわよそんな堅苦しい挨拶なんて。ご飯の用意は出来てるわよ。」
「今日は母さん特製のオムライス!美味しいよ。」
「知ってる。でもあの味はうまく出せない。母さん、今度レシピ教えてよ。」
「レシピ?無いわよ、全部目分量なんだから。」
「それで美味しい料理作れるのが善子の凄いところだよなぁ。」
「あなた、料理からっきしだものね。」
「父さんの料理は焦げの味しかしなかったよ。」
「さ、さぁ団扇くんは移動で疲れてる訳だし、早くご飯にしよう!」
「「「あ、誤魔化した」」」
「仲良いな君達!」
特製オムライスは久しぶりの母の味で、ちょっと涙にきた。
「そういや母さん、ちょっと話あるんだけど時間いい?」
「後でね、お皿洗わなきゃだから。」
「そのくらいは俺がやるよ。」
「妊婦と思って気を使ってる?」
「そりゃあね。」
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うずまきさんがヒカルを寝かせた後、リビングで母と二人で話をする。こうして向かい合って話すのはいったい何年ぶりだろうか。
「さて巡、話って何?」
「母さんはさ、父さんのこと恨んでる?」
重い話を唐突に切り出してみた。
「今はもう恨んでないわ。お陰で新しい命と幸せをメグルさんから貰えた訳だし。そんなこと聞くって事はやっぱり、貞信さんと会ったの?」
「うん。話はできなかったけど。会えたよ。」
「ニュース見てびっくりしたわよ。巡が
「本当に大変だったよ。でも、お陰でギリギリ父さんは助かった。奇跡みたいな必然を友達が掴み取ってくれたから。」
「...いい友達を持ったのね。」
「うん。みんな良いやつらだよ。」
「なら、誇りなさい。」
「うん。わかってるつもりだよ。」
「ならよし。んで、なんの話だっけ。」
「父さんの話。父さんはさ、今
「そう...この子を産んだらお見舞いに行かなくちゃね。文句言いたいし。」
「だから話ができなくて、今俺が父さんをどう思ってるか納得がまだついてないんだ。」
「そんなの付かなくて良いのよ。」
「え?」
母さんは、俺の胸の内にある悩みを鋭い言葉でスパッとぶった切ってきた。
「愛しいのか憎いのか、そんなの割り切れるものじゃないわ。だから適当で良いのよ、そういう心と向き合うのは。」
「適当って...」
「そ、私はそうしてきた。だって今でもあんたのこと全部許してるわけじゃないもの。」
「...誠に申し訳ありません。」
「でもあんたの事を嫌いだなんて思ってない。そういう事よ。」
「んじゃ、あとは一人で考えなさい。私は寝るわ。」と母は去っていった。
「割り切れるものじゃない、かぁ。」
父さんのことは憎い。けど死んで欲しいとは思っていない。それで良いのだろうか。
「納得がしたいんだけどな、このモヤモヤした感情に。」
そうごちながら、客間に敷いてもらった布団に入り眠りについた。
寝て起きたら心の整理が付いているという可能性に期待して。
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朝食の時に「閉じこもってるだけじゃ巡くん暇でしょ?トレーニングルーム自由に使って良いよ。」とのお許しを貰った。
なのでやる事は一つ、修行である。
持ってきたトレーニングウェアに着替えて準備は万端だ。
まずは、魔王に貰ったこの新しい力の把握だ。NARUTOのチャクラがイメージに近いが、厳密にそれが同じものであるとは限らないからだ。影分身とかできたし大体は同じだと思うのだが。
「まずは、精神エネルギーの個性。」
精神エネルギーだけを身体中に満たした後、軽くシャドーをしてみる。相変わらず特に何かが変わる事はなかった。
精神エネルギーを掌から放出してみるイメージでやってみるも、特にビームが出たりとか光ったりとかはしなかった。本当にそのままだと何も使えないなこの個性!
「次は、チャクラを練る個性。」
両手で印を結ぶ事で丹田を中心に身体エネルギーと精神エネルギーの融合が始まる。このとき精神エネルギーは全身に巡らせるよりも丹田に集中させた方がより効率よくチャクラを精製できる。ここまでは連合のアジトで訓練できた。
チャクラを緑谷のフルカウルのイメージで体全体に纏わせてシャドーをする。踏み込みの強さ、拳の鋭さ、動きの速さ、全てが段違いだ。
トレーニングルームにあったスタンド型のサンドバッグを殴ってみる。パンチの勢いでサンドバッグを支えている土台ごと倒れてしまった。
「思った以上の強さだな、チャクラって。」
取り敢えずサンドバッグを元に戻し、今度は全身にではなく足にのみチャクラを集中させてフットワークをしながら軽くサンドバッグを叩いてみる。
思った以上のスピードにうまく細かいステップができない。飛びすぎてしまうのだ。
「オール・フォー・ワン戦でこの弱点が露呈しなくて良かった...」
あの魔王との戦いは向こうの遊び心とオールマイトの援護と運に強く依存したものだったのだなぁと改めて思った。
このフットワークは後々の課題としよう。だが今現在、目下の課題はベタ踏みしか出来ていないこのチャクラコントロールを習得し、最後マスキュラーに運ばれるという醜態を次は晒さないようにすることだろう。
その為の修行は知識の中にある。
「木登り修行、影分身モードで!」
チャクラを伸ばして形作るイメージで印を結び術を使う。
「影分身の術!」
多重影分身は作りすぎると死ぬという知識がある上これからチャクラを使った修行をするのだから分身は一体だ。だがこれで修行の経験値は2倍ッ!
「やるぞ、俺!」
「おうさ、俺!」
二人で部屋の壁を駆け上がる。勢いあまって二人で天井にぶつかった。
「なぁ、俺。」
「なんだ?俺」
「これさ、やり方変えね?天井低すぎる問題があるぞ。」
「思った以上に俺のチャクラコントロールが出来てたって事かな。」
「まぁ写輪眼でずっと皆の個性見てたからな。イメージだけは完璧だ。」
「素人童貞?」
「いや、俺たちただの童貞DKだよ。」
「それもそうか。取り敢えず長時間壁に立つ耐久レースをやろう。」
「ああ、良いなそれ。」
そう言って二人で壁に立つ。
「「腹筋きつくね?」」
考えてみればそりゃあそうである。壁を起点に足腰と腹筋で無理矢理体を起こしているのだから当たり前だ。
これは新しい筋トレのメニューに入れようと心に決めた次第であった。
考えている事はチャクラコントロールの精密性、自分の体重を支えるギリギリになるように足元のチャクラを削っていく。だが、それだけでは少し芸がない。
「歩くか。」
「そうだな、吸着のオンオフを切り替えるのも修行になりそうだ。」
そう言って壁を歩いていく。最小のチャクラで体を支えていくのと、片足ごとに吸着、反発を繰り返していくのはなかなかに頭を使う。
「「あ、」」
二人同時に壁から滑り落ちる。影分身ってこういう所まで本人と同じになるのかと戦慄していながらもしっかり受け身を取る。ヒーロー科での訓練は伊達ではないのだ。
「うん、一回分身を解いて経験のフィードバックをしてみよう。」
「ああ、やってみる。」
そう言って分身の俺は体を構成するチャクラを解いて自分の体をチャクラへと戻した。
影分身に使ったチャクラが戻って来るのと、その経験のフィードバックが起きるのとは同時だった。一瞬で分身が行なっていた経験が頭にくるのはなんだか不思議な感覚だ。
そして思った、1000人とかの大人数で経験の共有とか頭パンクするだろと。NARUTOの主人公うずまきナルトの超人っぷりは参考にするのはやめよう、そう決めた。
再び影分身を出して修行再開。これで残りチャクラは半分以下の筈だが、感覚的にはもう少しあるように思える。自然回復でもしたのだろうか。
「まだまだチャクラには謎が多いな。」
「でも、俺がヒーローになる為には使いこなさないといけない武器だ。そこだけは大先生に感謝しないとな。」
「確かに。」
修行再開、木登り修行改め壁歩き修行だ。
最小限のチャクラで壁を歩く、天井にタッチして床までもどりタッチというシャトルラン的な感じで繰り返していく。
「この修行、ゴールが見えないんだが。」
「俺も思った。案外簡単にできたからな。取り敢えず今から100往復で。」
「おうさ。」
初めはゆっくりと、次第にスピードあげて、最後には走って壁シャトルランとなるまでになった。
だって仕方ないのだ、これは競争になってしまったのだから。自分には、自分自身にだけは負けられない!
「「99、100!」」
腹筋背筋足腰をかなり駆使して行ったレースだ。疲労はかなりあるがそれよりも気になるのは...
「「どっちが勝った⁉︎」」
尚、ジャッジはいないので勝敗は迷宮の中である。
そうして壁をドタバタと走り回っていたならば文句を言われない訳もなく。
「うるさいわよお馬鹿!ドタドタするなら外行きなさい!」
「「はーい。」」
「って巡が増えてる⁉︎」
「影分身の術、解除」
影分身を解いてチャクラと経験を還元する。2度目だがこの感覚は慣れない。まぁ意図的に分身を解く分には影分身に使ったチャクラは戻ってくるというのは幸いだ。自分のチャクラ量はおそらくそう多くはないのだから。比較対象は前世の記憶の中にしかいないが。
「あ、消えた。あんたの催眠かなんかだったの?」
「新しい個性の応用だよ。」
「新しい個性?」
「そう、影分身の術!」
そう言って母に見せつけるように影分身を出す。
「へー、便利ね。ならその増えた労力を使って掃除手伝ってくれない?流石にソファの下とか掃除機かけるの辛くなって来てて。」
「「はーい。」」
そう言って母とともに家の掃除を手伝う。子ども部屋で遊んでいたヒカルからは「兄ちゃんが増えてる⁉︎」と驚かれた。
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「へぇ、巡くん分身なんか出来るようになったんだ。調書には新しい個性を与えられたせいで精神が不安定になっているかもしれないってあったんだけど、そこは大丈夫?」
「今のところは大丈夫です。新しい個性もなんだかんだと受け入れられていますから。」
「それは良かった。」
「でも本当に便利よ?巡が二人に増えるのは。今日なんてお風呂掃除と料理の下ごしらえを同時にしてたんだから。」
「二人に増えたら2倍働かせられるとは思わなかったですよ...」
「ハハハ、お疲れ様。」
うずまきさん宅滞在は、なんだかんだと平和であった。
原作で捕まった爆豪同様、警察からなるべく外出はしないようにと言われているために木登りではなく壁歩き修行となりました。この設定割と困る(自縄自縛)