「行ってきまーす!」
「「行ってらっしゃい、ヒカル。」」
昼頃、ヒカルは友達と遊ぶ約束があるとかで外に遊びに行った。
「それじゃあ、俺はちょっとやりたい事あるから風呂場使っていい?」
「いいわよー。んで、何するの?」
「水面歩行の修行。」
「...あんた忍者にでもなるつもり?分身の術とか水面歩行とか。」
「良いかも、忍者ヒーローメグルとか。祖先が忍者だったらしいし。」
「え、嘘、なにその面白エピソード。」
「父さんが起きたら先祖伝来の忍術とか教えてもらいたいなと思ってる。まぁ無いと思うけど。」
「馬鹿言ってないでしっかり頑張りなさいよ?あと、滑って頭とかぶつけないように。」
「はーい。」
そう言って風呂場に向かう。木登り修行もとい壁走り修行は割と簡単にできた、自分にはチャクラコントロールの才能があるのでは?と思えていた伸びた鼻をこの水面歩行修行は見事にへし折ってくれた。
チャクラを足から放出して体重を支える。言葉にすれば簡単だがこれがなかなかに難しい。
放出が弱ければ当然足は浮かばない。こっちの失敗は予想できたのだが失敗にはもう一つのパターンがある。放出が強すぎれば足が滑ってしまうのだ。これでは水上歩行はできない。水という不確かな足場に対しての放出による丁寧なチャクラの放出。それが出来なければ水上を自由に歩くことはできない。
「こう狭いと影分身修行も出来ないしなぁ...」
足が滑ったり沈んだりして壁に頭をぶつける事数回、何かいい方法はないかと一度止まって考えてみる。
「誰かの個性で手本でも見れたらいいんだが、そんな個性の人はいないしなぁ...」
水上を走るという点では焦凍の氷結で足場を作るのを思い出すが、あいつの個性はスケールが違う。そして氷結を司る氷遁は血継限界であり自分には習得が不可能だ。特にヒントにはならないだろう。
他のクラスメイトの個性を考える。例えば飯田、あいつはプールの時にエンジンの個性を使って水上を滑っていた。コースロープの上だったが。だが飯田の水上の走り方はスピードで落ちないうちに移動しているだけだ。水上に足の裏を浮かせているわけではない。
うんうんと頭を悩ませていると、なんとなく前世の記憶を思い出す。ああ、そういえばアイススケートの練習する時もこんな風に転んでいたなと。
ん?スケート?
「そうだ、滑って転ばないように支えの役がいれば放出量の調整でいけるかもしれん。」
というわけで影分身の術、分身には足裏をバスタブに吸着させてしっかりと立ってもらう。
さて、補助輪付きの水上歩行だ、分身と手を繋いで水中から足を上げる。そしてチャクラの放出を開始、この時点で滑るが分身のお陰で転びはしない。もう片方の足も持ち上げてチャクラ放出開始。両足が逆方向に滑って股が開いた。身体の硬かった前世では致命傷だっただろう。
「柔軟サボらなくて良かった...」
「とりあえずちゃんと立て。支えてやるから。」
「ありがとよ、俺。」
分身の俺に励まされてバランスを取る。
とりあえずつかまり立ちはなんとかなった。あとはチャクラの放出量を徐々に減らして水上に立てるようにするだけだ。
「離すなよ、絶対離すなよ⁉︎」
「フリか?」
「本気だよ!」
下手な命令を下すと影分身に裏切られるかもしれない。気を付けよう。
「んじゃ、離すぞー。」
「待て待て、ちょっと待て!フリじゃなく今足ガックガクなんだよ、産まれたての子鹿なんだよ!」
「ハイ離した。」
「おのれぇ!」
「あ、立てた。」
「ぶっちゃけ、写輪眼で見てていけるって思ったから離した。」
「先に言え!」
怒りでチャクラコントロールが乱れ、滑って頭を打った。
爆笑する分身がちょっとどころでなく憎い...ッ!
「畜生、もう一回だ!」
「はいよー。」
その後何度も試して見た結果、なんとか集中していれば一人で立てる所までは習得できた。あとは反復練習で慣れるしかないな、とチャクラ切れかけの体で思った。
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「ただいまー。」
「お帰り、あなた。さぁ、ご飯にしましょう。」
「ああ、それなんだけど今日はいらない。ちょっと厄介な犯罪があってね、事務所に泊まり込みになりそうなんだ。」
「もう、何度も言いますがそういうことはメッセージで送って下さいよ。それならお弁当用意したのに。」
「ハハハ、ごめんごめん。次からは忘れないようにするよ。」
「お父さん、お仕事?」
「ああ、ごめんねヒカル。でも、困ってる人を放って置けないんだ。巡くん。」
「はい、任せて下さい。ヒカルも、母さんも、お腹の子も俺が守ります。」
「かっこいいね、ヒーローの卵!」
そう言ってうずまきさんは寝室へと着替えを取りに行った。
「こういう事って多いの?母さん。」
「ええ、メグルさんは皆の暮らしを守る長野のご当地ヒーローだからね。格好いいでしょう。」
「うん、格好いいよ。流石はプロヒーローだなって思う。」
「えー、エンデヴァーの方が格好いいよ。」
「まさかのエンデヴァーファン⁉︎」
「そうなのよ、ヒカルは何でか父さんよりエンデヴァーに夢中になってて。」
「エンデヴァーはね、頑張ってる所が良いんだよ。」
ヒカルくんはキメ顔でそう言った。
「エンデヴァーファンの子供って初めて見たかも知れません、俺。」
「私なんてエンデヴァーのファンを見たのがヒカルが初めてよ。」
「「なんであんな格好いい父親を放っておいてエンデヴァーファンになったんだ...」」
うずまき家最大の謎である。
「それじゃあ行ってくる。皆、今日は帰ってこないから不用意に扉を開けちゃあダメだよ?」
そう言ってうずまきさんは家を出て行った。
「ちゃんと戸締りして、と。それじゃあヒカル、巡、ご飯にしましょう。」
「「はーい」」
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事務所の車に戻った螺旋ヒーロースクリュー、それを待っていたのは170センチはある長身の女性ヒーロー、クリスタルアイであった。
「ふぅ、車ありがとうね、クリスタルアイ。」
「構わない問題です、ボス。」
「ボスは止めて。」
「いいえ、あなたは私のボスなのです。私を拾ってくれた恩人に対して最大の敬意を払っている問題です。」
「...2人でいるときくらいそのキャラ止めない?」
「いいえ、いつ何時カメラに映るかも知れない問題なので、この語尾は崩さない問題です。」
「そのキャラがズレてるってのが大問題だと思うんだけどなぁ...」
2人のヒーローは車に乗って事務所へと向かっていく。
だが、その顔は険しかった。
「なんで長野くんだりまで来ちゃったんだろうねぇ、"アンダーウェアーズ"」
「駅で発見した時に捕らえられなかったのが問題でしたね。まさか神野事件の裏で長野に侵入していたとは考えられない問題です。あの事件、合計視聴率98%だという問題ですのに。」
「警察もヒーローも皆オールマイトを見ていたからあの時間だけは空白の時間になっちゃったんだよねぇ...そこを突ける
「信念に生きている奴らだという問題ですね。」
「なんで女の子のクリスタルアイが奴らの行動原理を納得してるのさ...」
「一生懸命に頑張る姿はどんな形であれ格好いいものなのだという問題です。」
「いや、努力の方向性がアレ過ぎない?だって
連中やってる事はただの下着泥棒だよ?」
「いいえ、数多の県で犯行に及びつつも逃げ切り続けている超凄腕の下着泥棒だという問題です。私の下着も取られてしまうかも知れない問題ですね。」
「そうさせないためのヒーローの筈なんだけどなぁ...」
どこかぐだぐだとしながらも、2人のヒーローは夜のパトロールへと向かっていった。
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さて、晩御飯を食べて母さんもヒカルも寝た。
修行再開の時間である。とは言っても大したものではないが。
「簡単な術の印はどうにか思い出せたな...でもNARUTOって後期の強力な術ほど印を結ばなくなるのなんなんだろうなぁ...」
鏡を使っての自己催眠による記憶のサルベージである。
「畜生、強力な術を楽々身につけて最強チート!ってのを期待したのに、水遁水龍弾とか無理ゲー過ぎて笑えねぇ。」
水遁水龍弾の術の印は基本である十二支を司る印を
丑申卯子亥酉子寅戌寅未子壬申酉辰酉丑午未酉巳子申卯亥辰未子丑申酉壬子亥酉
の順で結ばなければならない。無茶を言うなという話である。
まあ多分法則性とかあるのだろうとは思う。俺が生きていられる間に見つけられるかは知らないが。
「さて、NARUTO忍術修行第一弾、変化の術、やってみますか!」
変化の術は未の印一つで行える基本忍術だ。とはいえ体を変化させるなど自分でそのまま試すというのは怖いのでこういう時に便利なあの術を使わせてもらおう。
「影分身の術!」
イメージとチャクラのコントロールも慣れてきたため、少し分身作りも早くなったと自分では思う。こんどストップウォッチで計ってみよう。
「さて、分身の俺、わかってるな?」
「おうさ!未の印を組んで、チャクラを全身に漲らせる!そして違う自分の姿をイメージして...変化の術!」
ぼふんと煙が巻き上がった。
「なんだこの煙。」
「さぁ、わかんね。」
そこには20代後半くらいの青年が立っていた。普通の顔の、でもよく見覚えのある顔の。
「お前、何になろうって変化した?」
「...特に考えてなかったわ。」
「自分の事ながらなんて阿呆な事を。しかもそれでそうなるのか...ちょっと背比べしてもいいか?」
「?構わないから俺が何に変化したか教えてくれよ。」
「俺にだよ、昔の、前世の俺に。」
「マジか...俺自身のイメージがまだ前世のままなのか。」
そう言った分身を横目に背比べをする。身長はいつしか前世の時よりも大きくなっていたようだ。
「変わったんだな、俺。」
「誰もが羨むイケメンフェイス(笑)にな。」
「確かに、でもモテた試しはない。何故だ。」
「やっぱり男は中身って事なんじゃないか?」
「峰田が聞いたらガチギレしそうだな。」
「確かに、でもあいつも期末試験見る限り結構なヒーロー根性据わってると思うんだけどなぁ。」
「A組は女子の絶対数が少ないからその魅力に気付けるやつがいないって事じゃないか?」
「悲しい事だな。」
ついつい話し込んでしまったが、今は修行中だ。切り替えよう。
「次は話に出た峰田に変化してみよう。」
「オーケー本体、未の印を結んで、イメージを峰田の形にしっかり結んで、チャクラを流す!変化の術!」
ぼふんと煙が出た。だからなんなんだこの煙は。
そうして煙が晴れたその先には
峰田の顔の男がいた。ただし、首から下は俺の筋肉質な体のままの。
思わず吹き出した自分は悪くないだろう。鏡を見せた分身も思わず吹き出したくらいなのだから。
「写真撮ろう、クラスに回そう!これは拡散すべき奇跡だ!」
寝巻きのシャツを脱いでポージングを決める。ここは基本のダブルバイセップスでいいだろう。
写真撮って即拡散。夜更かししていた上鳴みたいな連中から即返信が飛んでくる、このコラ画像上手すぎだろうと。ちなみに本人である峰田からは「おい!男の筋肉なんて見せてくれるなよ!せっかくいい所だったのによぉ!」と返信が来た。ナニが良いところだったかは聞かない。でも気持ちはわかるので「すまぬ、魔がさしたのだ」とだけ送っておいた。
またもや脇道にそれた変化の術の修行、果たして俺は変化の術を習得できるのか!
結論、今日は無理でした。
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「あら巡、寝坊なんて珍しいわね。朝ごはんもう出来てるわよ。」
「ちょっと新技の練習に手間取ってて。」
「兄ちゃん、また分身みたいな変な術練習してるの?」
「おう、今度は変化の術だ。」
「変化!やって見せてー!」
「おうとも!それじゃあ行くぞ、変化の術!」
少し慣れてきたチャクラコントロールとイメージの形成、ここまではできるようになった。
「凄い、オフモードのエンデヴァーになった!顔だけ!」
「まだ顔までしか変化できてないけどな。体の変化は練習中だ。」
「...写真撮りたいけど、エンデヴァーはオフモードの時に写真は撮らない!僕はどうしたら良いんだ!」
「そこで悩むのがエンデヴァーガチ勢なのか...」
「馬鹿やってないで早く朝ごはん食べなさい。」
「はーい。」
変化の術を解除、パンとサラダをさらさらっと食べてしまう。さぁ、修行の続きだ。
「ご馳走さま!それじゃあ客間で修行の続きしてくるわ。」
「ああ、それなら布団干しちゃいたいから分身くん助けに頂戴な。」
「...俺の扱いに慣れてきたね母さん。」
「便利なものは使わないと損でしょ?」
渋々と影分身の術を発動。分身くんの背中が哀愁漂う感じなのは気のせいだろうか...
「兄ちゃんの修行、見て良い?」
「おう、失敗ばっかで面白くはないかもだけどな。」
「失敗は成功の母だよ、兄ちゃん。」
「ありがとよヒカル。それじゃあ、いっちょ頑張りますか!」
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変化の術に必要なのは変化先のイメージだ。それが明確であれば前世の自分に変化できたようにきちんと変身する事ができる。
それは逆に言えば明確なイメージがなければ変化の術は成功しないということでもある。
変化の術のチャクラコントロールは特に問題なくできている。まぁ若干チャクラを使い過ぎている感覚はあるのできちんと変化できるようになったら使用チャクラを最小限にとどめる修行もしなくてはならないだろうが。
「では兄ちゃん、やるのです。」
「何様だよヒカルお前、まあやるんだけどな。」
イメージするのはヒカルにちなんでエンデヴァー、身長195センチの巨漢だ。髭からの炎は出せないからそこは事務所で見たオフモードの顔をイメージする。
「変化の術!」
相変わらず出る謎の煙、その先には若干身長の低く見えるようになったヒカルがいた。自分の身長が伸びたためだろう。これは成功か?と期待したところヒカル先生からダメ出しが入った。
「エンデヴァーの腕と足はもっと太い!やり直し!」
「承知!イメージ修正、変化の術!」
変化の術で腕と足の筋肉を増量、変化で作った虚仮威しだがこの腕の太さはちょっと嬉しい。細マッチョの自分ではあるが、砂藤やオールマイトマッスルモードのような丸太のような腕には憧れがあったのだ。
「腕が窮屈でなんか変!肩幅が違う!」
「さすがヒカル先生、妥協しやがらねぇ。でもわかった。肩幅、てことは骨格か。」
イメージを一旦リセット、エンデヴァーのあの巨体を支える骨格からイメージし直してそこに肉を加えていく。時間はかかったがイメージはできた。
「変化の術!」
謎の煙が晴れるとそこには満足した顔のヒカルがいた。
「凄いよ兄ちゃん!エンデヴァーだ、オフモードのエンデヴァーだよ!」
「ありがとうなヒカル、お前のおかげでコツが掴めたかもしれない。」
ヒカルの頭を撫でる。ヒカルは嬉しそうに「やめてよー」と言っていた
「でも聞いて良い?兄ちゃん。」
「なんだ?」
「なんで裸なの?」
「え?」
下を見る、そのには一糸纏わぬ筋肉とマイサンがあった。え?
「ヒカル、巡、おやつ出来たわよー...え?」
タイミングの悪さの産んだ悪夢だろう。母さんの視点からではヒカルの頭を掴む裸の巨漢という絵面になっている。
「へ、変態よー!」
「ち、違うんだ母さん!これは事故で!」
「えっと、110番!もしもしヒーローですか!」
「110番は警察だよ母さん、というか声で気付いて!」
「...巡?何やってるの貴方!まさか、ヒカルに変なこと教えてるの⁉︎」
「ちゃうわ!俺は大人な美人秘書が好みなチェリーボーイだよ!
「ねぇ兄ちゃん、取り敢えず言い合うのは変化解いてからにしない?」
「...ありがとうヒカル、お前がいてくれて良かった。」
そう言って変化の術を解除。服装は元に戻った。
「良かったわ、せっかく結び直した親子の縁を切るような事態にならなくて。」
「あ、警察さんすいません、なんでもありませんでした。」と母さんは携帯に向けて話す。冗談でなく警察沙汰になりかけていたッ!
そんな一幕ののちに、変化の術は使用可能なレベルへと至った。
変化の術、習得!
なお精神的被害は考えないものとする。