【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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雄英白書見る限りだと夏休み中も授業をやっているという狂気の学校雄英高校ヒーロー科。夏休みってなんだっけ?


雄英観光と怪談騒ぎ

圧縮訓練4日目、初日にコスチューム変更をしていた連中のコスチュームが改良されてきた頃である。緑谷や上鳴、切島などがそうだ。

 

「あれ、緑谷。足だけじゃなくて腕も変えたのか?」

「うん。腕の動きをサポートしてくれるサポーター。こういうのがあれば多少の無理はできるかなって思って。」

「...一応聞くけど、お前の言う多少の無理って腕ぶっ壊す事じゃあないよな?」

「それはもうしないって...」

「前科がある奴は言われ続けるのさ。前科のある奴が言うブラックジョークだけどさ!」

「...団扇くん意外ときわどい所ネタにしてくるよね。」

「だって事実だしな。変わらない事は笑い事にするスタンスってどう思う?」

「返しに困るからやめて欲しいかな。」

「そっか、鉄板ネタにできると思ったんだがブラック過ぎたか...」

 

そんな事を駄弁りながら体育館γまでを歩いて行く。

 

「じゃ、頑張れよシュートスタイルの習得!」

「団扇くんも、桜花衝の調整頑張ってね!」

 

緑谷と別れて自分のステージへと登る。さぁ、今日も修行だ!

 

「サテ、今日も桜花衝の調整トスルカ?」

「はい、それと怪我をした人が出たら俺に教えて下さい。新技の練習に使いたいので。」

「ム...治癒能力を他人ニ付与デキルト言ウノカ⁉︎」

「リカバリーガールの個性の使い方を見る限り、ほぼ間違いなくいけます。身体エネルギーへのチャクラの調律にどれくらい時間がかかるかは未知数なんですけどね。」

「フム、ソノ調律トヤラハヤハリ印ヲ用イルノカ?」

「はい。昨日の夜のうちに大体の色への変え方は頑張りました。緑谷やオールマイトみたく虹色のエネルギーに対してはどうしていいかまだわかりませんけどね。」

 

それが今の写輪眼で身体エネルギーを見てチャクラをそれに調律するというやり方の問題点だろう。独特な身体エネルギーをしている人に対しては何もできないのだから。

 

「ナニハトモアレマズハ桜花衝ダ。主軸ニシテイク技ナノダロウ?」

「はい、でも今日は実戦形式でお願いできませんか?ちょっと試したい事があるんです。」

「ヨカロウ。催眠ハドウスル?」

「無しで行きます。では!」

「行クゾ!」

 

構えを取るエクトプラズム先生。今回はチャクラを一点ではなく三点に分散して格闘を行うテストだ。両足と右手にチャクラを分散して行く!

 

両足のチャクラを放出して高速接近、カウンターの蹴りよりも速く右拳を叩き込む!

 

「桜花衝!」

 

インパクトの瞬間にチャクラを放出する。チャクラの分配量は3分の1になった。これで威力は小さくなるはず!

 

エクトプラズム先生はダメージで消えたので、新しいエクトプラズム先生を呼んでもらい感想をもらう。

 

「スピードガ増シタ分余計凶悪ニナッタナ。ダガ破壊力ノ減衰ハ見ラレナカッタ。スピードガ拳ニダイレクトニ乗ッタカラデハナイカ?」

「良い考えだと思ったんですが、駄目ですか。」

「ダガアノ高速移動ハソレダケデカナリノ脅威ダ。技名ハ有ルカ?」

 

忍びの高速移動術といえば瞬身の術だろう。だがそこまでのスピードだとは思えない。だが何か他の名前は思いつかないので割と困った。

 

「...すいません、保留で!」

「珍シイナ、マァ技名ハ後デモ構ワヌカ。ダガソノ技、ジャンプニ似タ動キダ。敵ノ前デ身動キノ取レヌ状態ハ避ケタ方ガ良イ。要改善ダナ。」

「確かに、空中だと見えていても躱せないですからね。分かりました。今日はさっきの移動術の練習をしてみます。桜花衝の威力を減らすイメージは正直全く思いつかないので。」

 

そう言って移動術の特訓をする。原理は桜花衝と同じだ。チャクラを足裏に集中して踏み込みと共に爆発的に放出するというだけの技だ。

 

だが、だからこそ難しい。

 

「飛び過ぎたぁ⁉︎」

 

要はコントロール不能である。桜花衝の調整もできないのにチャクラコントロールのより難しい足でのコントロールなどできる訳もないのだ。ベタ踏みは出来るので使えなくないあたりが自分の事ながら呆れてくる。

 

そんな事をステージから落ちながら考えている俺は何なのだろうかと一瞬思った。

 

「団扇⁉︎」

「お前何飛んできたんだよ、驚くだろうが⁉︎」

「悪いな、上鳴、峰田、事故だ。」

 

そう言って再び移動術でステージへと戻ろうとする。今度はチャクラを少し抑え目にしてのジャンプでの移動術だ。

 

まぁ、ジャンプ力が足りないせいでステージの壁へと着地したのだが。

 

「うん、咄嗟に吸着ができて良かった。訓練の賜物だな。」

「大丈夫カ?」

「大丈夫です、今登りますねー。」

 

壁を歩いて登るその様にエクトプラズム先生は少し面食らったようだがすぐに手を差し伸べてくれた。その手を掴んで崖から登りきる。

 

「ありがとうございます。さて、特訓の続きと行きましょうか。」

「ドウスル?桜花衝カソノ移動術カ、ドチラノ技ヲ先ニ習得スルカ決メテイルノカ?」

「この移動術も桜花衝も原理は同じなんです。なので難しいこの移動術の方をしっかりと練習したいと思います。」

「ナルホドナ。シカシ移動術デハ味気ナイナ。」

「良い名前が思い付かないんですよね、なのでしばらくは移動術で通します。」

 

そう言ってエクトプラズム先生とある程度離れる。

とりあえずベタ踏みの移動術のコントロールの仕方は思いついた。要はチャクラの放出の向きなのだ。チャクラ放出のタイミングを足の離れる寸前、爪先から放出するのだ。これで水平方向にのみ勢いを乗せることができる。

 

これで宙に浮く事なく移動できる筈だ。

ブレーキは吸着を使えば大丈夫だろう。そう思ってエクトプラズム先生の前にて吸着を使用した。

 

その結果、足を支点にしてビタンと思いっきり倒れて鼻から地面に激突する羽目になったあたり俺は色々考えが足りない。

 

「...大丈夫カ?」

「...鼻血出ました、今治します。」

 

そう言って寅の印によりチャクラを調律して鼻に手を当てて掌仙術を使用する。チャクラを鼻の内側へと流し込み細胞を活性化させ、切れた鼻の内側を治療した。

 

そしてポケットティッシュを取り出し鼻血を拭いて治療は完了だ。

 

「治しました。特訓の続きといきましょう!」

「...タカガ鼻血トハイエコノ短時間デ治スコトガ出来ルノカ...他人ニ付与出来ルノナラバ頼モシイ個性ダナ。」

「なので早いとこモノにしたいんですよね。モルモットになる奴はまだ出てこないんですか?」

「今日ハマダ負傷者ハ出テナイナ。」

「ま、こればっかりは時の運ですしね。今は移動術の練習の方を頑張りますよ。」

 

エクトプラズム先生から背を向けて、ステージ端へと移動する。

ステージ端から端までのコントロールをとりあえずの目標としよう。

 

「セメントス、コノステージヲ覆ウヨウニ壁ヲ出シテクレ。」

「あいよ、ちょっと待っててね。」

 

セメントス先生の個性により円形に壁が作られた。これでステージから落ちる事はないだろう。

 

「ありがとうございます、エクトプラズム先生、セメントス先生。」

「サア、思ウ存分壁ニブツカルガ良イ。」

「物理的にぶつかりそうですけどね。それじゃあ行きます!」

 

チャクラの量を制限しつつ足に集中。踏み込みのタイミングでチャクラを放出して移動術を使う。

チャクラを集中させすぎた。飛びすぎた勢いで壁に衝突しかねない。体勢を立て直し壁に着地して勢いを殺す。

 

もう一度だ。

 

チャクラをフルカウルの要領で全体に張り巡らせた状態で移動術を試してみる。

放出の勢いが足りず大したスピードにならなかった。これでは必殺技とは呼べない。

 

「んー、難しいです。俺のチャクラ量だと一点集中しないと爆発力に欠けますからね。」

「ウム、ダガ今ノ動キモ悪クハナカッタ。不意ヲ付ク形デノ使イカタナラソノスピードデモ使エル筈ダ。」

「覚えておきます。それじゃあ、次行きます!」

 

次は下半身全体にチャクラを集中させての移動術を行ってみる。

 

「お?」

 

なんか良い位置に着地できた。壁の直前だ。

 

「あれ、出来た。」

「ホウ、距離ノ調整ハ掴メタノカ?」

「チャクラの量は掴めたかもしれません。もう一回行きます。」

 

エクトプラズム先生の前に目標を定める。今度は下半身全体ではなく先ほど放出したチャクラ量のみを足裏に集中させて移動術を使う。

 

エクトプラズム先生の前にきちんと着地できた。

 

「ホウ、モノニシタナ。」

「みたいです。つまりこのチャクラ量を拳に流用したらいける筈!」

 

尚、その後の桜花衝でセメントス先生の用意してくれたターゲットは粉々に砕けて散った。

 

その日は、やはり桜花衝の練習で1日が終わった。桜花衝と違い移動術は割とすんなりモノにできたのに何故だ...

 

そんな事をエクトプラズム先生に相談してみた所、思いもよらない意見を頂けた。

 

「技術面デモ肉体面デモ問題ハ無イ。ナラバアト考ラレルノハ精神的ナ面ダ。拳ヲ放ツ事ニ緊張感ヲ覚エタリシタ事ハアルカ?」

 

思い返すのは戦いの日々。俺が拳を振るってきたのは体育祭や授業以外では大体が命のかかった場面だった。その強烈な経験が自分に根付いているから、強力な力を手に入れた今でも殺さない攻撃なんて生温い事を行う事を心が拒んでいる。そういう事なのだろうか...

 

「...正直思い当たる節はあります。何か改善の手はありますか?」

「近道ハ無イ、慣レロ。」

「...オールマイトにも同じ事言われました。案外良い事言ってたんですね、あの新米教師。」

 

調整を拒む精神的なモノ、戦いの記憶についての事を考えながらその日は寮へと帰った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そんな特訓の次の日、入寮から初の休日である。洗面所ですれ違った皆はどこかしら浮き足立っていた。いつも通りなのは焦凍くらいだろう。いや、焦凍も母さんの見舞いに行くとかでちょっと浮かれてるかもしれない。

 

そんな中、自分は移動術を使ったランニングに励んでいた。

移動術により移動距離がかなりのものになっているためちょっとした雄英観光となっている。移動術にはチャクラをそれなりに使うのでそのスタミナコントロールの修練も兼ねている。

 

すると珍しい奴が同じようにランニングしているのを見つけた。なのでペースを合わせて挨拶といこう。

 

「よ、心操。久しぶり。お前もランニングか?」

「...団扇⁉︎」

「そ、団扇巡だよ。体育祭ぶりだな。」

「ああ、そうだな。」

「ぱっと見でもガタイが良くなってるのが分かるぜ。鍛えてるな!」

「まぁな。」

 

そう言った心操は、どこか何かを切り出し辛そうな顔をしていた。

思い当たるのは一つしかない。自分が元(ヴィラン)だという話だろう。同じような洗脳系の個性として、思う所があったのだろう。

 

「さて、俺が元(ヴィラン)だって事は聞いてるか?」

「...ああ、聞いてるよ。ニュースで見た。...大変だったんだなお前。」

「そうでもないぜ?出会った人には恵まれて、その上かけがえのない親父に出会えたからな。」

「そうか...なぁ団扇。お前の立場に俺がいたとして、俺はヒーローを目指せたと思うか?」

「思う。」

 

何を迷っているかと思えばそんな事か。似たような個性故にそんなもしもを考えてしまったのだろう。だが、それなら断言できる。心操という人間の表面しか知らない自分でもそう思えるほど心操の憧れは強いものなのだから。

 

「お前も俺もヒーローを夢に見た。ならきっと辿る道も近しくなるよ。」

 

心操は、少し黙った後「そうか...ありがとな。」と言った。

 

「そんな心操人使くんに提案です。アドレス交換しね?ヒーロー科のこと興味あるだろ?」

「...そうだな、頼むわ。」

「おうさ。」

 

そう言ってSNSのアドレスを交換する。

 

「じゃ、またな心操。」

「ああ、またな。」

 

そう言って心操と別れて雄英観光ツアーへと戻る。移動術を使いながら高速で走り始める俺を見て

 

「鍛えてるって凄えな。」

 

と心操は呟いたとか。ごめん、ちょっとじゃなくズルしてる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

体育祭に使ったスタジアムに着いたくらいでチャクラの残量が不安になってきたので一旦歩きで休憩に入る。するとなんとなくスタジアム裏の人気のない森へと足が向いた。

 

「懐かしいな、ここで死にかけたんだっけ。」

 

そこは、雄英体育祭にて死柄木と怪人脳無がやってきた場所だった。

 

何となく構えをとる。あの黒い怪人脳無とも今のチャクラを扱える自分なら催眠がなくてもそこそこの戦いが出来るだろう。それくらいには、この精神をエネルギーに変える個性は強力なモノになっていた。

 

想像の中の死柄木と脳無と相対してまず使う術は影分身の術とチャクラによる足の吸着だ。上体を逸らして脳無の拳を躱し、その風圧を吸着で耐えて脳無のゴーグルを奪う。そして影分身が即座に催眠解除と催眠をかけるという算段だ。残った死柄木は脳無を使って倒せばいいだろう。

 

「楽観的すぎるな。そろそろ死柄木たちも新しい催眠対策をかけてくるだろうし、なにより死柄木がフリーになってるうちに俺を殺しにくるだろうし。」

 

強くなるというのもある意味考えものだ。あの日俺が生き残れたのは、死柄木が遊ぶほどに俺が弱かったからなのだから。

 

「人生万事塞翁が馬だな。」

 

幾たびも思うその言葉を、口に出して言う。

 

体力とチャクラは回復してきた、そろそろここを後にしよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そうして何となく始めた雄英巡りを終えて寮に戻ろうとすると、発目明とすれ違った。

 

「おや、マグロさんじゃあないですか!」

「おっす発目。なんかの実験の帰りか?」

「いいえ、A組女子の皆さんのご要望に応えまして、覗き対策のセキュリティアイテムを設置させて頂いた帰りです!」

「へー、それは峰田が悔しがりそうだ。」

「ミネタミノルさんとやらが性欲の権化だと聞いていたので、その人にだけは夜間にきちんと部屋にいるか確認する機能もつけさせて頂きました!」

「...うん、峰田にちょっと逆風過ぎないかこの寮生活。あいつにもちょっとくらいは癒しはあっても良いと思うんだがなぁ。」

 

そう思うのは俺が男だからだろうか。被害を受けるかもしれない女子からは峰田のことが恐れられているのだと思うと、峰田の理想郷への道は遠いのだなぁとしみじみ思う。

 

「それでは、コスチューム変更についての諸々が終わったらまたマグロさんにテストを頼むと思います!その時はお願いしますね!」

「お前のアイテムは何だかんだ使ってて楽しいからな、次のも期待してるぞ。」

 

発目はぐわんと俺に近づいて、「ハイ!任せて下さい!」と大声で言った。

 

「近いわ!そして声デカイわ!」

「フフフフフ、これは失礼しました!それではまた!」

「おう、またなー。」

 

発目はどこか楽しそうに校舎の方へと歩いていった。

 

「...工房に行くのを帰るって言ったぞあいつ、大丈夫か?」

 

そんな疑問を俺に残しながら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日の真夜中、事件は起きた。

ヴィ...とのどこか家鳴りとは違う機械音に似た音が廊下から響いてきたのだ。その異音は廊下を移動し、峰田の部屋をノックしてその名前を呼んだのだ。「ミネタ...ミノル...」と。

ハイツアライアンスに自分たち以外の何かが居る。その異音はそれを告げていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日の休み時間の教室はその異音の話題で持ちきりだった。

「ちょっ、何でオイラだけ名前呼ばれたんだよ⁉︎誰か嘘だって言ってくれぇ!」

「ごめん峰田くん、昨日は特訓の疲れでグッスリで...」

「俺は聞いたぞ、その異音。ヴィ...って感じのモーター音みたいな感じの音だよな。」

「あ、実はウチも聞いてたわその音、確かにモーター音みたいな感じの音だった。朝方まで続いてたよ。」

 

俺と耳郎がその音を聞いたという事で、怪談をした事による呪いだという線は消えた。当たり前だと言い切れないのは、篝さんという前例を知っているからだろう。あの人幽霊ってより呪いだしなー。

 

そんな事を考えていると、いくつかの要素が頭に浮かんできた。

 

朝方まで続くモーター音、峰田に対してのみ呼びかけた声、異音が始まったのは昨日からだということ。

 

繋がった。

 

「幽霊の、正体見たり、枯れ尾花。」

「団扇くん?」

「何か気付いたのか?団扇。」

「今日の夜、今回の異音騒ぎの原因を見つけてみせる。恐怖の夜は今日までだ。」

「マジで頼むぞ団扇!オイラだけ眠れぬ夜を過ごすのとか嫌だからな!」

 

そう言って縋り付いてくる峰田。男に抱きつかれる趣味はないが今日は許そう、恐怖体験をして参っているのだろうから。

 

「まぁそうビビるなって。オチを見たら何じゃそりゃってなる話だろうからさ。」

「信じるからな、信じるからな団扇!」

「ああ、信じてくれ。」

 

その後、葉隠による「そういえば常闇の言った怪談ってどんなのだったの?」という軽率な言葉により、常闇により怪談が語られた。

常闇の祖父が話したという百物語と金髪の鬼に関わる奇妙で恐ろしい話が。

それを聞いたクラス一同の中で、爆豪が「妙な話してんじゃねぇぞクソが!」といって教室から離れていったのが印象的だった。怖かったのな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日の夜。自分と「委員長としてクラスの皆の安眠を守る責任がある!」と言った飯田は徹夜で張り込みをしていた。

 

まぁ飯田は生活習慣がきっちりとしているタイプなのか眠そうにしていたが。

 

「飯田、いいんだぞ別に眠っても。」

「いいや、僕には責任が...」

「半分寝てんじゃねぇか。」

 

眠気を覚ますために馬鹿話をするべきか、それとも黙って眠らせてやるべきか割と本気になやんでいると、ヴィーンという音が聞こえ始めた。

 

ハッと起き出す飯田。自分は手の懐中電灯を使って異音の原因に光を当て続けていた。

 

「団扇くん⁉︎」

「ほら、言った通りだろ?ここで張り込んでいれば原因がわかるって。」

「まさか、こんな場所に原因があるとは思わなかった...」

「ま、アイツは相変わらずお騒がせな奴だって事だな。それじゃあこの小さいのを追いかけていくか。」

「ああ、だが今捕まえるのでは駄目なのか?」

「いや、現場を押さえないとコイツが犯人だって言い切れないからな。今日は興味本位で皆起きてるだろうしちょうどいいだろ。」

 

天井を移動していくその黒く小さい物体を追いかけていく。するとその物体は案の定二階へと登っていった。飯田と二人で追いかけて歩いていく。

物体は、廊下をゆっくり動いたのち、峰田の部屋のドアへとアームを伸ばしノックをした。その後声がした。「ミネタ...ミノル...」と。自分と飯田は共に聞き覚えのある女の声で。

 

二階の緑谷、常闇、青山、そして峰田は恐怖から扉を開けて外に出てきた。その後自分と飯田がいることに安心した後、自分が懐中電灯で照らしている先を見て唖然としていた。

 

「コイツが幽霊騒ぎの正体で間違いないな。この、発目明作のセキュリティアイテムがな。本人に聞いたが、夜間に自動で見回りしてくれるサポートアイテムらしいぜ?」

「オイィイ⁉︎オイラの理想郷だけじゃなく安眠まで妨げるのかあのサポート科のナイスおっぱいはぁ!」

「さて、犯人だって確証も取れた訳だしこの小さいのは回収するわ...発目の奴に騒音被害も考えろってクレームつけないとな。」

 

そう言って上空に移動術でジャンプ。片手を使い天井に吸着したのちもう片方の手でアイテムをしっかり捕まえる。そして落下し着地。

携帯でクラスのSNSに「悪霊の原因特定、発目作のアイテムの巡回機能でした。」とパシャりとアイテムの画像を貼り付けて投稿。

これで今日はもう何もしなくていいだろう。寝よ寝よ。

 

「まさかこんな小さいのが原因だったなんて...」

「ちなみにコイツ自動で巡回したあとで充電スタンドに自動で戻るらしい。小さいのにハイテクな奴だよまったく。」

「原因がわかって何よりだ。昨日眠れなかった分しっかりと眠るとしよう。」

「んー、メルシィ。まぁ僕は全然怖くなんかなかったけどね!」

 

そんな一幕のあと、皆の睡眠は守られたのだった。

 

「しかしこのアイテムどうしよう。ずっと握ってる訳にもいかないし。」

「それなら俺の部屋で引き取ろう。委員長としてこの程度はしなくてはな。」

「そうか、じゃあ頼む。」

 

尚、飯田はアイテムの騒音によりよく眠れなかったのか、翌日珍しく眠そうにしていた。

 

 




雄英白書、怪談編終わり!
あともう一つエピソードを挟んで入寮編は終了となります。思ったより長くなってびっくりです。

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