思わずスクショしてツイッターに上げました。
「駄目、血が止まらない!」
「諦めない!訓練通りやればこの人は助かる!絶対の絶対に!」
頭から血を流すHUCの人を必死に応急処置しようとする絹川先輩と渋川先輩。だがガーゼが赤くなるのが止まる事はなかった。
周囲で呆然としている奴を捕まえて話を聞く。
「状況は⁉︎」
「あ、ああ!脈拍数でトリアージ赤、頭部から出血あり!今止血中!」
「原因は⁉︎」
「試験が終わったと思ったらビルが崩壊して!HUCの人が俺を庇って!」
「原因は高所からの瓦礫か!わかったありがとう!」
「なぁ、あの人。助かるよな!」
「あの人は死ぬような真似はしていない。だから助ける。その為のヒーローだ!」
深呼吸一回、集めるべき情報は2つだ。
第1に、医務室で脳へのダメージのありそうなこの怪我を治療できるかどうか。
第2に、救急車は呼ばれているのか。
「HUCの皆さん、ここの医務室について知ってますか!」
「ああ、ここの医務室にはCTやMRIは無い!だから救急車は呼んである!」
「流石プロ!それじゃあ渋川先輩たちの応急処置はどうですか?」
「文句の付け所がない、理想的な処置だ。それに今倒れている先輩の個性は増血、血が多いから出血多量でどうにかなったりはしない!しないはずさ!」
「ですって先輩方!出血量は気にしないで止血に専念してください!」
渋川先輩は、「ナイス情報!いい後輩だね!」と軽口を叩いてきた。応急処置は任せてしまって大丈夫だろう。強い人だ。いや、強がっているのかもしれない。どちらにせよやる事は変わらない。
「今のうちに担架作るぞ!」
「それなら私にお任せを!」
そう声を上げたのは我らがA組の副委員長だ。来てくれたのか!
その隣にはいつのまにか姿を消していた緑谷がいた。
「八百万!ナイスタイミング、」
「必要だと思って連れてきた!」
「ありがとう緑谷!八百万、早速担架頼む。」
「はい!」
八百万の創造により台車付きの担架が作られた。これで応急処置が終わると共にすぐスタジアム外に患者を搬送できる。
担架を作り終えたあたりでギャングオルカたちがやってきてくれた。
「ホウ、良い手際だ。そうとう鍛錬したのが見える。」
「ギャングオルカさん、黒タイツさん達の中に治療系の個性の方はいますか?」
「いいや、すまないが俺のサイドキックにはいない。」
という事は最後の手段としての治療行為ができるのは俺だけだという事だ。まだ未熟な掌仙術なれどそれしかないならやるしかない。
深呼吸して状況を見る。どうやら止血は終わったようだ。今絹川さんの作ったネット包帯を使ってガーゼを固定している。
「処置終わり!とりあえず救急車来るまではこれで良いはず!」
「よし、担架で外に運ぶぞ!」
「準備がいいね後輩!」
集まった数人で怪我したHUCの人を担架に乗せる。
その中にはギャングオルカさん、先程HUCの人に庇われたといった少年、緑谷、応急処置を行った渋川先輩に絹川先輩にギャングオルカさんのサイドキックらしい黒タイツの方々がいた。
「後は大人に任せて...と言っても聞かないだろうな。引き渡すまでならついてくる事を許す。気張れ卵ども!」
ギャングオルカの激に、皆は「はい!」と答えた。
集まった皆で走って、しかし振動を与えないように気をつけてHUCの人を運ぶ。後ろから何人かのHUCの人が付いて来ているのが見えた。
きっとこの人は慕われている人なのだろう。そう思うと、身体の底から力が湧いて来る気がして来た。
「次を右だ!」
「はい!」
今は走る。命を救うために。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
競技場の外に出て救急車を待つ。だが、ギャングオルカさんが無線で連絡を受けたとかで話を始めた。俺たちにとっては最悪な話を。
「お前たちはここまでだ。後は俺たちがなんとかする。」
そう言ったギャングオルカさんの顔は、付き合いの浅い俺たちにもわかる程苦渋に満ちた顔をしていた。
「待ってください納得できないです!救急車に乗せて安全が確認できるまでは俺は離れません。この人は俺を庇って頭に瓦礫を受けたんです!だから!」
「落ち着け!」
少年の言葉を遮るように大声をだす。ギャングオルカさんとはいえ好きで俺たちを遠ざけようとしているわけではないのは表情からわかるのだから。
「理由を話してください。通報は会場でされた筈、なのにそれなりに時間の経った今でも救急車がまだ来ないって事は何かあったんですね?」
ギャングオルカさんは少し黙った後、単刀直入に言った。
「
「なんですかそれ!脳へのダメージのあるかもしれないんですよ⁉︎治療が遅れる事で後遺症のリスクが跳ね上がるんですよ!」
「だから落ち着け!ギャングオルカさんのせいじゃないだろ!...ドクターヘリや近くの他の場所からの救急車は来れないんですか?」
「ドクターヘリは今別件で使用中で、使えないそうだ。他の消防署からの救急車は先程呼んだ。だが到着はかなり遅くなりそうだ。」
沈黙が皆を包む。そんな時担架の上から「うう...」と声がした。
担架の最も近くにいた渋川先輩がすぐに駆け寄る。
「大丈夫ですか?私の手を握ってください。握れますか?」
返答は無かった。「うう...」という声にならない声のみが響く。
だが、その声と共に、頭を抑えていたガーゼが再び赤く染まり始めた。
「嘘、出血がまた始まった⁉︎」
「とにかく止血!ガーゼ頼みます絹川先輩!」
「...うん、任せて!」
応急処置を始めようとした自分たち。だがギャングオルカさんはその手を一度止めさせた。
「待て、傷口を見せろ。」
「...はい。」
頭のネット包帯とガーゼを外した先には、傷口が内側からの血により無理矢理こじ開けられている光景が見えた。これは、ただの出血じゃないッ!
「この青年の個性は増血だったな?」
ギャングオルカは極めて冷静について来たHUCの人に尋ねていた。
「はい、先輩の個性は増血です。体外に出た血を増幅させる事ができるって言ってました。」
「やはり、個性の暴走がこの再出血の原因のようだ。」
「個性の...暴走...⁉︎」
救命講習でレアケースだが注意しなければならないと言い聞かされていた項目だ。脳にダメージを負った患者が自分の意思によらず個性を暴発させてしまい、多くの負傷者を出した事件が過去にあったからだ。
だが、それなら止めようはある!
「催眠で暴走を抑えてみます!」
そう言った俺は即座に青年の目を見開かせて自分の写輪眼と合わせ、催眠を行う。
だが、手ごたえはあったにも関わらず出血の暴走が止まる事は無かった。
「何で、催眠は成功したのに⁉︎」
「催眠の届かない傷ついた脳の部分が自動的に個性を暴走させているのだろう。それも傷口の付近をこじ開ける形でな。...悔しいがこの青年を助ける術は、個性の暴走が止まることを祈る事しか無い。僅かずつでも体内の血が減っているのだから、いずれ出血多量に陥る。」
「そんな、嘘ですよねギャングオルカ!この人を助ける手段はきっとありますよね!」
「...お前たち卵は会場に戻れ、後の処置は俺たちがやる。」
そのギャングオルカの苦渋が分からない人はこの場にはいない。
だが、皆の血が出るのではないかと思うほど強く握りしめられた拳を見て、今尚血を流し続ける青年の姿を見て、そして、誰にも助けを求められずに苦悩し、涙をこらえている少年を見て、覚悟は決まった。
「あります、手段なら。」
「団扇くん...まさか、あの技を⁉︎」
「何か手段があるのか⁉︎」
皆の視線が俺に集中する。
ミラーダートを取り出して自分の指を少し切る。そして掌仙術を使って傷を治すのを皆に見せる。
「俺の技、掌仙術です。細胞を活性化させて傷を癒す事ができます。これで脳のダメージを治癒する事で個性の暴走を止めてみせます!」
「おお!」と沸き立つ皆。だがギャングオルカさんと緑谷は顔を強張らせたままだった。
「その技、完成していないな?」
「今、完成させます。」
強がりだ。できる保証などどこにもない。
「強がるな。もしその技に自信があるのなら応急処置の段階で使っていたはずだ。そうでないという事は自分でも不可能だとわかっているからだろう?」
事実故に、一瞬言葉を返せなかった。
だが、俺がやらなければ人が死ぬ。ここでは強がらなければ駄目だ。
「でも、他に手はありません。やらせて下さい。」
「駄目だ。この国には未だ、善きサマリア人の法はない。お前の治療が及ばずにこの青年を死なせてしまったらそれはお前の責任になる。人の死は、重いぞ。」
「...はい、承知の上です。」
一度深呼吸。俺の心を伝えよう。
「それでも助けたいんです。皆で命を繋ごうとしたこの人を。それが俺のなりたいヒーローの形ですから。」
ギャングオルカさんはハァと一度ため息をついたあと言ってくれた。
「プロヒーローギャングオルカの名において、個性の使用を許可する。俺が責任を取ってやる。行け、団扇巡。」
「はい!」
「団扇くん、待って。」
だが、俺の行動に待ったをかけたのは緑谷だった。
「どうした緑谷。」
「団扇くん、君の掌仙術の助けになるかと思っていろんなヒーローの個性を調べたんだ。」
「マジか、ありがとう。」
「フィルターだよ、団扇くん。エネルギーを流し込むときに調律が必要なら、エネルギーを変換するフィルターを付ければ良い。僕の想像でしか無いけど。」
思い返すのはNARUTO主人公うずまきナルトの螺旋丸修行における一コマ。あれは、右手と左手で役割を分担すれば術の効率は良くなるという例の筈だ。思いがけずに貰う事のできたフィルターという発想のお陰で思考はクリアになった気がした。
「ありがとう、緑谷。」
手の甲の鏡を見て自己催眠をかける。これで集中力は最大に、イメージは先程の緑谷が補完してくれた新しいイメージで。
身体エネルギーの色を印で調律して発動する!
「行くぞ!秘術、掌仙術!」
皆の祈るような視線を背中に受けて、俺の初めての本格的な治療行為を開始する。
手のひらに青年の血の暖かさが感じられる。命の暖かさだ。
この命を、繋いでみせる。必ず。
左手を調律のフィルターに、右手で繊細なチャクラコントロールを行うマニピュレータにする。
チャクラは血を伝い、脳の細胞一つ一つに身体エネルギーを与えていく。
1秒が一時間にも思えるほどの深い集中の中で、チャクラをひたすらに制御する。
そうして体感時間数十時間の激闘の先に、手のひらから血が溢れ出る感覚が止まったのを感じられた。まさか、間に合わなかったのか⁉︎
「個性の暴走が止まった!バイタルは⁉︎」
「脈速いけど生きてる!個性の暴走が止まったんだ!最高だよ後輩!」
渋川先輩のその声によって、張り詰めていた集中が切れてしまった。
ストンと崩れ落ちる俺、立とうと思っても力が入らない。安心で腰が抜けたようだ。そんな俺をギャングオルカさんは片手で持ち上げて青年から離した。
「最後まで気を張っていろ、ヒーロー。」
そんな言葉と共に俺を下ろすギャングオルカさん。ハッと気付いた渋川先輩と絹川先輩がガーゼで出血を止めようとすぐに動き出した。
そんな時、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
皆の緊張が解けるのを感じる。あとは医療のプロに任せれば大丈夫だ。そう思うと立ち上がろうとしていた力が抜けて、俺は地面に倒れ伏してしまった。
「大丈夫?団扇くん。」
「大丈夫じゃない。力抜けて立てないどころか起き上がれないわ。こんな感覚初めてだ。」
「それが、人の命を救った感覚だ。これからお前が幾度も経験するであろう感覚だ。しっかりと味わっておけ。」
そうか、命を救えたのか俺は。だが、まだだ。頭部の傷は精密検査を終わらせるまで何が起こるかわからないのだから。
「CTとかでちゃんと脳を治せたか精密検査しないと駄目ですけどね。人の脳みそを治すなんて経験初めてなんで油断は出来ませんよ。」
「それを自覚しているなら安心だ。さて、救急車の到着だ。引き渡しは俺がやってやる。お前らはしっかり休んでおけ。」
ギャングオルカさんのその言葉に完全に緊張が解ける皆。
今回の功労者である渋川先輩など、俺同様崩れ落ちてしまっていた。
「大丈夫?渋川さん。」
「ありがと、絹川ちゃん。」
渋川先輩に肩を貸す絹川さん。2人は倒れ伏している俺の元へとやってきて、座り込んだ。
「お疲れ後輩。最後に良いとこ持ってかれちゃったね。」
「お疲れ様です先輩。俺はやりたくはなかったですけどね、あんな博打なんか。」
「勝てば良いのよ博打なんか。今日の後輩みたいにね!」
「渋川さん、それ駄目な奴だよ?」
皆で救急車へと搬入されるHUCの青年の姿を見届ける。付いてきていたHUCの人が同乗するようだった。
「んー、今日は後輩に助けられてばっかりだったねー。先輩として恥ずかしいや。」
「こっちこそ、渋川先輩に助けられてばっかりですよ。今日の試験、渋川先輩がいなかったら間違いなくパンクしてましたから。」
「そう?もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
「今日の渋川先輩は最高でした。ありがとうございました。」
「ふふん、褒められるって気持ちいいね!ね!」
「そうだね、渋川さん。今日の渋川さんは格好良かったよ。」
「「予想外の所からの援護射撃⁉︎」」
「仲良いね2人とも。」
救急車が去っていくのを見届ける。一抹の不安はあるもののやれる事は全てやった。あとは祈るだけだ。
引き継ぎを終えたギャングオルカさん達が戻ってきた。そうして、自分がすっかりと忘れていた事実を告げた。
「さぁ、仮免試験の結果発表までそう時間はない。結果発表は着替えてからだ。急げ卵ども。」
「あ」という声が響いたあたり忘れていたのは自分だけではなかったようだ。緑谷も忘れていたあたり本当にやばい事態だった。これがプロヒーローとの差だろうか...
「忘れるな馬鹿ども。さあ走れ。」
「は、はい!」と反射的にに答えて走り出す皆、ちょっと待って!
「「待って、腰が抜けて走れない奴がいるのを忘れないで!」」
今日の功労者だと思われる2人は、どこか締まらないオチを迎えたのだった。
尚、気付いて戻ってきてくれた緑谷とギャングオルカさんのお陰で無事俺と渋川さんは着替えには間に合った。危なかったぜ...
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『皆さん、長いことお疲れ様でした。これより発表を行いますが、その前に二言。まず、試験終了直後に起きた不幸な事故のせいで、HUCの1人に重傷者が出ました。』
息を飲む声が聞こえる。自分たちの頑張りがどうなったのかがわかる瞬間だ。この日本にはまだ善きサマリア人の法はない。ギャングオルカが責任と取ると言ってくれたが、最後に治療行為をした俺に責任がないわけはない。目良さんの次の言葉は、仮免試験の結果によらず、俺の運命を決める言葉になるだろう。
『ですが、居合わせた受験者たちの適切な処置と勇気ある行動によって、青年は目立った後遺症もなく無事に目を覚ましたそうです。その事についてHUCの社長からメールが届いていますので読み上げます。
私たちの仲間を助けてくれて本当にありがとう。助けに走ってくれた方々の勇気を私たちは決して忘れる事はない。私の仲間の未来を守ってくれた皆さんの未来に幸あらん事をここに祈らせていただく。
以上です。私からも助けに走った勇気ある皆さんにお礼を言わせていただきます。本当にありがとうございました。』
思わずガッツポーズを取った。すると隣で安堵の溜息を吐いた緑谷の腕に肘が当たってしまった。
「悪い」と小声で言うと、「大丈夫だよ」と返してくれた。
周りを見ると、同じような事を渋川先輩がやっていたのが見えた。本当にあの人と気が合うなーと何となく思う。
『さて、それでは二つ目、今回の試験の採点方式についてです。我々ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんの二重の減点方式であなた方を見させて貰いました。つまり...危機的状況でどれだけ間違いのない行動を取れたかを審査しています。とりあえず合格点の方は五十音順で名前が載っています。今の言葉を踏まえた上でご確認下さい...』
バンとスクリーンに表示される名前たち。かなりの数が合格しているようだ。
まず自分の名前を確認する。こういう時に”う”から始まるこの苗字は確認が早くて楽だ。
団扇巡の名前はスクリーンに載っていた。仮免試験は合格だ。やったぜ。
そして次に気になっていた救護所に詰めてくれていたメンバーの名前を確認する。幸いにも覚えてる限りの皆は合格しているようだ。
皆の反応を見るに、A組の皆も大体が合格していたようだ。キレ顔の爆豪とどこか暗い顔をしていた焦凍を除いて。
念のため焦凍の名前を確認して見る。やはり名前は載っていなかった。
すると、夜嵐が焦凍の元へとやってきて思いっきり頭を下げた。
「ごめん、団扇が言ってくれていたのに今のお前じゃなく昔のお前を見てた!俺の見る目のなさがお前を不合格にさせちまった!ごめん!」
「いいよ、元は俺のツケだ。それにお前が直球で言ってくれたから気付けたこともあるからな。」
焦凍が落ちた事に気付いた皆がわいのわいのと集まってきた。
皆、うちのクラスのツートップが共に落ちているという事に驚きを隠せないようだった。
『えー、全員ご確認頂けたでしょうか?続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されていますのでしっかり目を通しておいて下さい。』
貰ったプリントを見る。93点、超高得点だ。思わず二度見するレベルでの驚きの結果だ。これはトップクラスの成績だろう。そう思っていたら耳郎の声が聞こえた。「ヤオモモ94点だ」と。
畜生、こんな所でも俺は八百万に勝てないのか...
「団扇くん落ち込んでるね、点数悪かったの?」
「八百万に一点負けたッ!中間といい期末といい、何故俺は八百万に勝てないんだ!」
転生というド級のズルをしているにも関わらず尚も勝てない八百万百、やはり天才か...
「焦凍はどうだった?」
「ああ、49点、ギリギリ不合格だな。」
「おお轟!お前も49点か、お揃いだな!」
「てことは俺がもっとちゃんと夜嵐に話していれば2人は合格できたかもしれないって事か...」
「気にすんな団扇。」
「そうっス、そんなもしもは後の祭りっスよ。」
「そうか、それなら謝りはしない。次の仮免試験は来年の4月。頑張れよ!」
そんな会話をしていると、また目良さんの放送が始まった。
『合格した皆さんはこれから緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使できる立場になります。すなわち
神野事件、俺を助けにオールマイトがやってきたあの事件だ。オールマイトが力尽きたのは俺に責任の一端がある。たとえあの魔王に直接の原因があるとしてもだ。
その話題になったとき、周りの目が一瞬俺を見たのはきっと他の受験者たちも俺に責があるとどこかで思っているのだろう。
『彼の存在は犯罪の抑止になるほど大きなものでした。心のブレーキが消え去り、増長するものは必ず現れる。均衡が崩れ世の中が大きく変化していく中、いずれ皆さん若者が社会の中心となっていきます。次は皆さんがヒーローとして規範となり抑制できるような存在にならねばなりません。今回はあくまで仮のヒーロー活動認可資格免許、半人前程度に考え、各々の学舎で更なる精進に励んでいただきたい!!
そして...えー、不合格になってしまった方々。君たちにもまだチャンスは残っています。三ヶ月の特別講習を受講の後、個別テストで結果を出せば君たちにも仮免許を発行するつもりです。』
「⁉︎」と驚く不合格者たち。まさかどんでん返しのパターンか!
『今私が述べたこれからに対応するには、より質の高いヒーローがなるべく多く欲しい。一次はいわゆるおとす試験でしたが、選んだ100名はなるべく育てていきたいのです。そういうわけで全員最後まで見ました。結果、決して見込みがないわけでなく、むしろ至らぬ点を修正すれば合格者以上の実力者となるものばかりです。学業との並行でかなり忙しくなるとは思います。次回4月の試験で再挑戦しても構いませんがーー...』
「当然、お願いします!」と声が響く。
「やったじゃねえか焦凍、夜嵐!再試験のチャンスに特訓のオマケ付きだぜ!」
「特訓!そう考えると講習も熱いっスね!」
「確かに特訓と考えると悪くねぇな。団扇、緑谷、すぐに追いつく。」
格好いい事言いやがって、だが言ってる事がちょっと違う。
「焦凍、そこは"追い越す"だろ?」
「...そうだな、すぐに追い越す。覚悟してくれ。」
そうして、激動の仮免試験は終了した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これが仮免許か...」
そこには、MEGURUとヒーロー名の書かれた免許証があった。ローマ字にすると少し間抜けに思えてくるのは何故だろうか...
「後輩!」
「お、渋川先輩。合格おめでとうございます。」
「後輩も、おめでとう!ちょっとお礼が言いたくて追っかけてきたのさ。この子がね!」
そう言って背中を押されたのはHUCの人に庇われたあの少年だった。
「団扇くん、ありがとう。本当に心からそう思う。君がいないとあの人は深刻な後遺症に、いや、下手したら死んでいたかも知れない。俺は、何もできなかった...」
「いいえ、何もできなかった訳じゃありません。あなたの声にならない声が俺に覚悟をくれた。だから俺は踏み切れたんです、あの大博打に。」
「団扇くん...本当にありがとう。この恩は決して忘れない。」
「じゃあ恩返しついでにいいですか?」
「ああ、なんでも言ってくれ。」
「名前教えて下さい。自己紹介もしていませんでしたから!俺は団扇巡、ヒーロー名はメグルです!」
「ああ!俺は塩田剛力、ヒーロー名はソルティマスクだ!」
「そして私は渋川真壁、ヒーロー名はヴァイオレットシェル!」
「なんで渋川先輩まで自己紹介してるんすか」
「ノリよ!」
「ノリなら仕方ないですね!」
「思ってたけど君たち仲いいね。幼馴染とか?」
「「今日初対面です。」」
「凄いな君ら!」
そんな会話が行われていたところ、飯田の声が響いてきた。
「団扇くん、そろそろバスが出るぞ!」
「応!それじゃあお二方、お元気で!」
「「元気でね、メグル!」」
そう言って2人の元から去って行く。ヒーローを続けるのならまたどこかで出会うだろう。
そんな偶然の出会いくらいなら願ってもバチは当たらないだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「にしても、あんな良い子が元
「られる訳ないよ、メグルの性根は間違いなくヒーローのものだ。自己犠牲を厭わないで、縛りを振り切って誰かを助けるために動く事ができる、そんな格好いい奴だ。元
「まぁ、そーいう事はきっとそのうち自伝とか出すでしょ。気にしない気にしない!さて、私試験場まで電車だけどソルティくんは?」
「俺も電車。地味に交通費かかるよな、ヒーロー科って。」
「なら駅まで一緒に帰りましょうか!二次まで残ったの私だけだったから一緒に帰る人いなくって。」
「それならちょっと待っててくれないか?2次試験見学してる奴らがいるんだよ。同じ学校の奴で。」
「真面目だねー。どんな人?」
「蜘蛛頭と畳って奴らで、うちの高校のエース級だったんだよ。まぁ一次試験では2人ともメグルにやられたんだがな。」
「やっぱメグルくんって強いんだ。催眠眼とエネルギーを見る目に身体強化に治癒能力、まるで個性のデパートだね。」
「うちの教師のウィッチクラフト先生みたくかなり応用性のある個性なんだろうな。羨ましいぜ。」
2人はそんな駄弁りをしながらも仮免受かった高揚感を隠さずにいた。
「ねぇねぇ飛糸くん、あれってナンパ成功って感じなのかな?」
「...まさか、塩田先輩にあのような特技があるとは驚きですね、畳先輩。」
「気を遣って先に帰るべきかな?」
「どうでしょうね。この辺りの機微は男子校生徒である我らにはわからない事ですから。」
「悩むねー。」
そんな嬉しさを隠さない2人を見て、そんな会話をした2人がいたとか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その夜の事だった。
明日から普通の授業だねー、とか一生忘れられない夏休みだったよなーとか皆が話す中、自分はちょっと珍しい人物から誘いを受けた。
「なぁ、何の用なのか聞いていいか?爆豪。」
「黙ってついて来いクソ目。」
「かっちゃんと団扇くん?」
深夜の雄英を歩く俺たちを、見ている奴が1人いた。
という訳で掌仙術習得イベントでした。
ちなみに巡くんのいなかった場合の世界線
空から瓦礫が!
気付かない塩田!気付いたHUCの人!
命懸けで未来ある少年を守ろうとするHUCの人!
その時、宙を舞い現れた男!
手首から糸を出して瓦礫を弾き飛ばし、結果皆無傷で終わった。
どうしてあの距離から気付けたんだと尋ねる塩田。その男はこう答えた。
「スパイダーセンスだ。」