【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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はじめての戦闘回です。
戦闘描写って難しい。その分遊戯王って楽ですよね。会話だけで全ての状況を説明できるんですから。(自作のステマ)



雄英高校受験当日

雄英高校ヒーロー科、倍率は狂気の300倍。だが、胸の内には数多の頑張れの声が響いている。今だけは、誰にも負ける気がしなかった。

 

実際筆記テストの成績は上々だった。自己採点の結果から見るに、合格ライン越えは間違いないだろう。何せ9割以上解けたのだ、流石にこれ以上でないと駄目だとかは無いはずだ。筈だよな?倍率300倍を相手にしているからには、実は満点以外通さないとかありそうで少し怖い。

まぁ、そんな事は無かった訳なのだが。

 

よって、最後の関門は実技試験だけとなった。

実技試験、嫌な響きだ。

 

実の所実技試験の内容はうろ覚えだがわかっている。何せ自分は転生者、ヘドロ事件の一年後であるこの年のこの試験の内容に限って言うならば、受験前に内容を把握する事ができた。今まで自分をロクに救いもしなかった前世知識の有効活用である。

まぁ、その内容は自分の個性が欠片も役に立たないという現実も教えてくれた訳なのだが。

だからこそ、この日の為に自分で自分を虐めぬいてきたのだ。

この試験を想定して。個性抜きの身体能力のみでこの難関を突破する為に。

 

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ヴォイスヒーロー、プレゼントマイクの説明する実技試験の内容はこうだ。

 

試験時間は10分

ターゲットは1ポイントから3ポイントまでの3種類のロボット

それらを行動不能に陥らせれば得点が得られる。

ただし、ポイントにならない0ポイントのロボットがステージのギミックのような妨害役として現れるという事。

また、当然ながらアンチヒーロー行為はご法度だと言うこと。

 

「俺からは以上だが、最後に我が校の校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った。"真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行く者"と。更に向こうへ!Plus Ultra!それでは、良い受難を!」

 

 

「"真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行くもの"か、良い言葉だな。」

 

指定された試験会場に移動しながら、今世の記憶を思い返してみた。

4歳の時に俺の個性を恐れた父親は逃げ出した。

それから4年間、時間をかけて母を洗脳した。

そして自分をヤクザに売り、千葉県の土を踏んだ。

それから何故かヤクザの恩人になり、6年間ヤクザの元で仕事をしながら生きてきた。

 

良い人生か悪い人生かで言えば悪い人生だと断言できる。

だが、幸運か不幸かで言えば答えはこちらも断言できる。

自分は、幸運だ。何故かと言えば単純、出会いに恵まれたからだ。

 

小指のオッサンに要の爺さんに坂井達

皆の暖かい頑張れが心に響いてる。

だから俺は限界を超えて頑張れる。

「Plus Ultra やってみせるさ!」

 

その時アナウンス音声が聞こえた。

「ハイスタートー!」

 

自分にとって丁度いいタイミングでのスタート開始だった。

だから、迷わず走り出せたのだと思う。

 

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先頭を走る俺の前に立ちはだかるは1pヴィラン。

やる事は単純だ

「よく見て、躱して、ぶん殴るッ!」

1pヴィランの攻撃を余裕を持って回避し、踏み込んで、腰を入れて、ぶん殴った。砂鉄入りのグローブで。

その手によってロボットは中心部をブチ抜かれ、停止した。

 

「成る程、試験用に脆く作られているのか...良し、これならいけるッ!」

 

俺は次のターゲットへ向けて走り出した。1p処理にかかった時間はそう多くない、まだ自分が先頭だ。

走りながらも思考は止めない、カラテの未熟な自分にとって、今使える最大の武器は頭の回転だけだ。

後ろの受験者を確認した、数えるのも馬鹿らしい数の受験者が後ろから追いかけて来た。

 

「受験者の数が多すぎるッ、中央通りは駄目だ、火力の高い個性に根こそぎ持っていかれる。脇道に行くしかないか!」

 

そうして脇道に逸れた自分を待ち構えていたのは4体のロボット

1pが一体、2pが二体、3pが一体

 

「...意外と当たりか?このルート。」

 

4対1だが、冷静に対処すれば問題はない。

まずは先頭の1p、さっきと同じ要領で、避けて、踏み込み、腰を入れて、ぶん殴る。

そうして停止させた仮想ヴィランを持ち上げて2pヴィラン二体に突撃、1pの残骸で2p二体の足を同時に破壊した。

そうして俺の方に倒れてきた勢いを利用して拳を2発、2pヴィランの頭部を破壊した。

 

残り一体

3pヴィランは戦車のようなタイプで、破壊するのに手間がかかりそうだった。

 

周りに使えるものを探した所、2pヴィランの足の破片がいい感じの大きさの鈍器になりそうだった。

その時、3pヴィランは攻撃を開始した。

 

「ブッ殺ス!」

 

二門のミサイルポッドからの砲撃、咄嗟に2pの足の破片を持ち上げ、盾にした。

衝撃はあったが破片が壊れる事は無かった。恐らく仮想ヴィランの攻撃も受験生に怪我をさせないように威力を抑えたものだったのだろう。

 

ならば恐れず前に出れる。3pヴィランが次の攻撃をする前に、破片を持ってジャンプ、空中で勢いを乗せ回転、破片を3pヴィランの中心に縦に真っ直ぐ叩き込んだ。

 

破片は3pヴィランに深く突き刺さった。

ジジジ、と音を立てた後、3pヴィランは停止した。

 

「これで9ポイント、経過時間は1分、この調子でいけるといいんだが、そう簡単にはいかないよなぁ...バールとか持って来れば良かった。」

 

自分には索敵力も攻撃力も足りない、ならば残りの9分でできる事は

 

「打開策は、走りながら考えるのみッ!」

 

まず、全力で走り抜くことからだ。

 

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細い路地に配備された仮想ヴィランを主なターゲットとし、走り続けて残り5分、倒したヴィランは16ポイント、最初のペースを維持できていない。だが、体力はまだ残っている。

 

「クソッ、最初の小道が美味すぎただけか。作戦をミスったな...高火力個性の横槍覚悟で大通りに出るか?...いや、この広さだ、まだ細道は多い、大通りに出るのは残り2分からだ。それまでは走る!」

 

そう考えると、2p仮想ヴィランが三体集まっている場面に遭遇した。

何かに集まって「ブッ殺ス!」だの「ザッケンナコラー!」だの言葉を発しているが、攻撃は行なっていない。

 

「不自然でも据え膳!6ポイント頂き!」

 

幸いにも三体の仮想ヴィランは自分を認識していない。

なので当然奇襲である、ビル壁を蹴り三角飛びの応用で3体の上を取った。

2pヴィランは四脚であり、メインカメラと思わしき頭部は長い首の先にある。よって、奴の真上は死角なのだ。

 

2pの上に乗って拳を打ち下ろし、一体破壊。

もう一体の2pの上に飛び移り、拳を打ち下ろしてもう一体破壊。

 

その時点で、目の端に赤い色が入ってきた

 

三体目の2pヴィランは自分を認識したが、何故か動き出さなかった。

 

まずは、優先順位通りの行動だ。三体目の2pの上に飛びつき破壊した。

 

そうして落ち着いた自分が目にしたのは、頭から出血を伴って失神している少年の姿だった。

 

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「試験とかやってる場合じゃねえ⁉︎こういう時は、まず...止血!」

少年がどういう状況で失神したかは不明だ。が、頭部の傷跡から見るに仮想ヴィランの足が頭部に当たったのだと仮定する。

 

頭部への衝撃は重症の可能性があると、どこかで聞いた記憶がある。

 

少年の体を起こし、傷口である頭部を心臓より上に持っていった。

そして手持ちのハンカチを巻きつけ、簡単な止血を行った。

 

「クソ、応急処置の知識とか仕入れておくんだった!最適な行動が分からないッ!あとは救急車待つくらいしか思いつかない...ぞ...」

 

その時、自分は思いついてしまった。この少年を救急車が来るまで見守ること以外に自分ができる事を。だがそれは、この試験を棒に振る事と同義だった。

 

それは、自分が少年を入り口まで運ぶという事だ。

 

自分のポイントは現在22ポイント。レスキューポイントがあるとは知っているがそれはあくまで審査制。自分の行動がどれほどのポイントになるか不明瞭だ。下手をすれば、この行為によって自分は合格できる試験を棒に振る事になるのかも知れない。

それに、一応だが応急処置はしたのだ、自分にできる事は全てやったと考えても良い筈だ。

 

合格のみを考えるなら自分は少年を置いてヴィランを倒しに走るべきだ。だが、心のどこかが自分の行動を縛っている。

 

そうして、ある約束を思い出した。

 

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「俺は高校に入っても、そこから先の人生でも、親切のボールを投げる事を辞めない。約束する。」

 

「はい、約束は確かに聞きました!嘘ついたら針千本のんで下さいね。」

 

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「はぁ、畜生もうどうにでもなれ!雄英じゃなくてもヒーローにはなれるんだ、それなら俺は、俺のやり方を通す!

...それに、針千本飲むのはごめんだしな。」

 

俺は少年を背負い、大通りに出た

少年を一刻も早く救護員の元へ連れて行くために。

 

大通りは、まさに戦場であった。ロボたちの射撃に突撃、それを捌きロボを破壊する様々な個性たち。

 

最短で走り抜けるには障害となる流れ弾が多すぎる

でも、ここにいるのは皆ヒーロー志望の受験生だ。その正義感を利用させてもらおう。

 

「皆!ここに気を失った怪我人がいる!一刻も早く救護班に見せたい!俺に道をくれ!」

 

反応は様々だった。この試験で人助けとか馬鹿じゃねえの?という反応が一番多かった気がするが。

だが、自分の存在を主張する事に成功した。

これで、流れ弾が飛んでくる確率はだいぶ低くなっただろう。

ならば最速で最短で、でもなるべく少年を揺らさないように、走り抜けるのみ!

 

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最速で走ってスタート地点までは2分だった。

「すみません、この人をお願いします!気を失っていて、頭部からの出血ありです!リカバリーガールの治癒個性をお願いします!」

白衣を着た小さな老婆が出てきて、少年を触診しながら答えた

「はいはい、私がリカバリーガールだよ、ちょっと待ってねー。血圧、脈拍共に正常、呼吸に異常も無いみたいだね。」

「状況から見るに、頭を打ったみたいなんです。ベッドはどこですか?」

「いや、多分大丈夫よー。この子のバイタルは至って正常、多分頭を切った時に血を見て驚いて気絶しちゃったんじゃないかねぇ。よくある事なんよ、これ。」

「へ?...でもあんなに血が出てて、しかも頭部の傷は命に関わる事があるって。」

「出血量が多くてびっくりしちゃったんだねぇ。この子の頭部の傷跡、そんなに深く無いし、打撲痕も無い。大丈夫、この子は軽症だよ。頭部の傷は傷が浅くても出血は酷くなるから素人目じゃ重症に見えるのも無理はないけどね。」

「つまり放っておいても命に別状は無かったと。」

「そういう事になるねぇ。」

 

俺は、少年を地面に優しく下ろし、市街部に向かって走り出した。

 

「すいません、俺まだ試験の途中なので戻ります!」

「もう残り時間は少ないけど、頑張んな。」

 

畜生、こんなオチか!

 

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気絶している少年に治癒の個性を使い終わった老婆は言った。

 

「まぁ、試験を投げ打って人助けをする様な子だ、結果は決まったようなもんだろうけどね。」

 

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「畜生!ヴィランはヴィランは何処だぁ!」

 

「あいつって確かさっき怪我人背負ってた奴だよな?なんであんな荒れてんだ?」

「さぁ、無意味な人助けしてポイント足りなくて焦っているんだろうよ。さ、あとちょっとだ。ラストスパート、頑張ろうぜ。」

 

入り口付近にもうヴィランはいない。ならもっと深い所まで走らないと!時間が無い、時間が無い!

 

そう走っていると、状況に混乱している緑のもじゃもじゃ頭の少年とすれ違った気がした。

 

そう思い全力で走っていると、周りの空気が死んだ気がした。

ビルの陰から、ビルを壊しながらそれは現れた。

周りのビルが霞むほどの巨体、圧倒的脅威

 

ステージギミックと言われたお邪魔虫、そういうには凶悪過ぎる巨大ロボット、0pヴィランが現れた

 

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0pを見た受験者達の反応は一様だった。皆背を向け走って逃げ出した。そうで無いものは数人、足がすくんで動けない者、0pが破壊した道路の瓦礫に足を取られ動けない者、そして、その子を助けようと判断した二人の馬鹿野郎(ヒーローの卵)たちだった。

 

二人が走り出したのは同時だった。

だが、目的は異なった。

足を取られた少女を逃すために走り出したのは自分。

足を取られた少女を救けるために飛び出したのは緑髪の少年。

 

走り出す地点は自分の方が近かったが、一瞬のうちに追い抜かれた。

そして、0pヴィランは少年の一撃の元に破壊された。

少年の体の破壊と引き換えに。

 

自分が少女の元へたどり着く頃には、もう少女は自力で抜け出し、落下してきた少年を救わんと動き出していた。

 

少女は3pヴィランのミサイルポッドを自分の個性で浮かし、その上に乗ることで空を飛んだ。そして、空中で少年に手を触れ個性を発動し、少年の落下速度をゼロにした。

 

少女は顔色を悪くしながら

「解除」

と両手の指を重ねた。

 

それがトリガーとなり、浮いていた多数の仮想ヴィランと少年、少女自身は皆地に落ちた。

 

少年は言った。

 

「せめて...!!1ポイントでも...!!」

 

そんな声に絶望を叩きつけるように、

 

「終了〜!!!!」

 

と試験終了の宣告が告げられた。

 

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優先順位通りに動こう、まずは少年からだ。

「おい、大丈夫か?...いや大丈夫じゃ無いな、片手と両足が俺にもわかるほど逝ってる。とりあえず、俺の目を見てくれ。...いや、目を開けるだけで良い。無理に動こうとするな。」

 

少年の顔を掴み、地面から少し浮かせた。

そして、自分の顔を地面につけることで無理矢理少年と赤い目を合わせた。

 

「うぐっ...あれ、痛みが引いた?」

「俺の個性、催眠眼だ。催眠でお前の痛みを誤魔化してる。でも誤魔化してるだけだから腕も足もやばい状態のままだ。」

 

涙を目に溢れさせながら、少年は答えた

 

「あ、ありがとう。」

 

「正直腕も足もとんでもないダメージを負っている程度にしか俺には分からん。だから治療できる個性の人が来るまで体勢はそのままにしておけ。骨の破片が散っていたら事だからな。...向こうにもう一人嘔吐している奴が居たから俺はそっちを見て来る。くれぐれも、動こうとするなよ。」

 

少年は答えなかった。

 

ミサイルポッドの上で嘔吐していた少女は、今は出す物を出し切ったのか落ち着いていた。

 

「おい、大丈夫か?凄い吐いてたみたいだが、緑髪の少年を助ける時に腹でも打ったのか?」

「だ、大丈夫...個性の反動で酔ってるだけですから。」

「酔ってるだけか...それなら、ちょっと俺の眼を見てくれ。」

 

少女は顔を上げ、少年の赤い眼と目を合わせた。

 

「あれ、気持ち悪いのが抜けた?」

「俺の個性だ。お前の平衡感覚を正常だと誤魔化す催眠をかけた。

しばらくは動きにくいだろうが、ちょっと手を貸して貰いたい事が出来た。お前の個性は、物を浮かせる個性だよな?」

「う、うん、そうだよ。」

「なら、大丈夫だろう。お前を助けるために飛び出した緑髪の少年を入り口付近まで運びたい。運ぶのを手伝ってくれないか?お前の個性なら、多分少年の体勢を変えずに運ぶ事ができる。」

 

「そう、さっきの髪もっさもさの人!わかった、今行く!」

 

少女は覚束ない足取りで、だが少年を救うための確かな覚悟で歩き始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

左側で無重力少女に肩を貸し、右側で個性で宙に浮かされている緑髪の少年の唯一無事な左手をゆっくり引っ張っていた自分は、遠くに見覚えのある白衣の老婆を見つけた。

 

「リカバリーガール、怪我人です!」

「あら、またまた怪我人連れかい。そういう星の元に生まれた子なのかねぇ。それで、どっちが怪我人だい?」

「こっちの浮かせている方です。個性の反動だと思うんですが、右腕と両足を酷くやっています。複雑骨折かどうかはわかりませんでしたから、体勢は変えてません。あと、痛みが酷そうだったので、自分の個性で催眠状態にして痛みを誤魔化しています。」

「なるほどねぇ、あんたは知識が足りない割に良い応急処置をしたよ。誇って良い。それにしても...自身の個性でこうも傷が付くかい...まるで体と"個性"が馴染んでないみたいじゃないか。」

 

老婆は、軽く傷の状態を見たあと、唇を伸ばし、少年の腕にチューをした。

老婆の個性、治癒の発動である。

 

「幸いにも骨は綺麗に折れてたから破片の心配はしなくて良いね、筋繊維の断裂も私の個性で充分治せるものだった。もう安心して良いよ。」

 

少女は安心からか、腰を落とした。

「あぁ、良かったぁ。この人もう大丈夫なんだ。」

「ついでに言えばお前の酔いもな、そろそろ平衡感覚が馴染んできた頃じゃないか?」

「あ、ホントだ。もう一人で歩けそう!ありがとね...えっと。」

「俺は団扇...いや、今名乗るのはやめておくよ。多分俺試験落ちたし。」

「ええ⁉︎あんなに落ち着いて私たちの処置をしてくれたのに⁉︎」

「アクシデントがあってヴィランポイントそんな稼げなかったんだよ...ま、自業自得ってやつだ。」

「...そういえば人を背負って全力疾走してた人だ!あの人大丈夫だったの?」

「ヴィランの攻撃で頭を切って、出た血に驚いて気絶しただけだったよ...

側から見たらどう見ても重症だったんだけどなぁ。」

 

少女は乾いた声で

 

「あはははは、ドンマイ!」

 

と言ってくれた。

 

「ありがとさん。それでこっちの少年は...寝てる。まぁ試験ハードだったしあんな凄い事をしたんだ、無理もないか。

もう傷は癒えたんだし個性解除して良いぜ?あとは普通に背負って運んで大丈夫っぽいから。」

 

自分は浮いたままの少年を背負う形に体勢を変えた。

 

「...そうだね、私もやる事が出来たから、その人の事お願いしても良い?」

「乗りかかった舟だ。別に構わんよ。」

「それじゃあ、お願い!解除!」

 

少女は両手の指を重ね、そう言った。

 

「色々ありがとねー、催眠の人!」

「合格を祈ってるぞー、無重力ガール!」

 

少女はそう言い残し、走っていった。

 

「さて、少年起きてるか?...ぐっすり寝とるわ。

試験の事とか聞いてみたかったんだがなぁ。ま、いいか。

にしてもヴィランポイント22点、個性無しでは良くやった方だろ。多分。雄英もその事を考慮してくれれば良いんだけどなぁ。」

 

少年を背負った自分は、そう愚痴を零しながら歩みを進めていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

少年を医務室のベッドに置いて家路につこうとすると、昇降口で無重力ガールとばったり出会った。

「つくづく縁があるな、無重力ガール。」

「あ、催眠の人!もじゃもじゃ君は?」

「医務室のベッドだよ。ぐっすり寝てた。んで、無重力ガールはなんでこんな時間に?」

「いやーちょっと職員室に直談判に行ってまして。」

「へー、試験に何か文句でもあったのか?俺は正直文句しかなかったが。」

「そういや催眠の人って個性ロボに効かないもんね、大変だった?」

「そりゃあもう。砂鉄入りグローブ持ってきてなかったらロクにポイント稼げず終わってた所だよ。」

「へー、用意がいいんだね。」

「それで、無重力ガールは何を文句言いに行ったんだ?」

「ほら、もじゃもじゃ君いるじゃん。あの人、最後にせめて1ポイントでもって言ってたの。多分ロクにポイント稼げてなかったんだと思うんだ。だから、私を助けてくれた分、私のポイント分けてくれないかって頼みに行ったの。」

「それで自分が落ちるかも知れなくてもか?いい根性してるな、無重力ガール。んで、結果は?」

「断られちゃった、当然だよね。でもその時、プレゼントマイクが変な事を言ったんだ。分ける必要も無いって。...どういう事だと思う?」

「...多分だけど、この試験で見ていたのはどれだけヴィランを倒したのかじゃなくて、どんな風にヴィランを倒したのかって事だったんじゃないか?

いかにヒーローらしい行動をしたかでボーナスポイントが貰えるとか。」

「あぁ、成る程!それならもじゃもじゃ君がヴィランポイント0点でも合格できるかもね!」

「ま、これは俺の都合のいい妄想だ。あんまり信用しすぎるなよ?俺の無駄だった行為にポイントが付いたらいいなーってだけなんだから。」

「でも、そうだといいね!良いことした人が報われないなんて、なんか変だもん。」

「ああ、そうだと良いな。」

 

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そうして無重力ガールと俺は、筆記試験のことや実技試験のこと、その他他愛もない話をしながら家路についた。

 

「それで、結局自己紹介しないで駅まで着いちゃったけどどうする?」

「やめておこうぜ。何だかんだここまで来たんだ、自己紹介は雄英ヒーロー科でやった方が格好良いしな。お互いに受かるかどうか微妙なラインだけどさ!」

「それは言わないお約束ですよ。それじゃあ催眠の人、またね!」

「おう、またな!」

 

 

自分と少女は別れ、それぞれの家路についた。

 

敵は雄英高校ヒーロー科、倍率は狂気の300倍

戦い抜く事は成功したが、実技ではミスが多すぎた。特にあの気絶した奴、これで落ちたらあいつの事を当分の間許せないだろう。

まぁ、命に別状が無くて良かったとも思っているんだが。

 

さて、運命の一日は終わった。後は、結果を待つのみだ。

 




ヴィランポイント22点、レスキューポイント不明!
ついでに言うなら合格基準最低点も不明!
果たして、主人公は実技試験を突破できるのか!
待て、次回!

4/19 こっそり描写を修正しました。叙述トリックとか自分には無理だったという事です。

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