完全オリジナルストーリーのインターン編スタートです!
「お久しぶりですバブルビームさん、今大丈夫ですか?」
「今休憩時間だから大丈夫。久しぶり、メグル。色々ニュースは見たよ、大変だったね。」
「...あれから大変な事が多すぎてどれの事を言ってるかわかりません。」
バブルビームさんの苦笑が聞こえる。だってしょうがないだろう。職場体験終わってからもトラブルだらけの日々だったのだから。
通形先輩にボコられたその日の夜、俺は職場体験でお世話になったエンデヴァーヒーロー事務所のサイドキックであるバブルビームさんに電話をしていた。
「それで、何の用?いや、用なんか無くても連絡くれるのは嬉しいんだけどね。」
「あ、
「微妙だねー、焦凍くんが仮免受かったなら制度を変えてでも受け入れると思うけどメグルだし。」
「なんですかメグルだしって。」
「いや、メグルのトラブルダイバーっぷりはHNでもちょっとした話題になってるから。」
「知らないところでも晒されてるんですか俺は⁉︎」
衝撃の真実である。まぁヒーローに名前が知られるのは良い事なのだが、良い事なのだが!
「まぁ僕個人としてはメグルに手伝って欲しい案件があるから来て欲しいんだけどね。だから本人も来たがってるって感じにエンデヴァーさんに伝えちゃうけど構わない?」
「むしろありがたいです。まぁインターン行けるかどうかは先生のGOサインが必要なのでまだわからないんですけどね。」
「雄英も大変だねー。」
「じゃあそろそろ休憩終わるから切るね」とバブルビームさんとの久しぶりの会話は終わった。変わらないようで何よりだ。
さて、しっかり筋トレして風呂入って寝よう。
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「1年生の
「えー、あんな説明会までして⁉︎」
「でも全寮制になった経緯から考えたらそうなるか...」
皆の空気が落ち込む中、一人だけ「ざまァ!!」と吐き捨てる勝己、おまえと焦凍は行けないもんな...
だが、相澤先生は「が」と話を続けた。
「今の保護下方針では強いヒーローは育たないという意見もあり、方針として『インターン受け入れの実績が多い事務所に限り1年生の実施を許可する』という結論に至りました。」
勝己の「クソが!!」という声が響く。おまえのそういうところが駄目だと思うんだがなぁ...
その日の午後、バブルビームさんからメールが届いた。
『受け入れOK出たよ!今週末面接やってそれに通ったらインターン開始だ!待ってるよ、メグル!』と。
思わずガッツポーズを取ったのは仕方ないだろう。
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時は流れて週末、早起きして新幹線で都内に向かう。交通費の支給はあるので安心だ。
事務所の受付を通り会議室へと向かう。そこには、赤い魔女風コスチュームに箒を持った女性であるサンドウィッチさんと泡を模した模様のヒーロースーツの男性であるバブルビームさんがコスチューム姿で待っていた。
「よろしくお願いします。」
「ハイ、合格ね。」
「面接の意味は⁉︎」
「サンドウィッチさん、流石に省略しすぎですよ。まぁ同意見ですけど。」
「だから面接の意味は⁉︎」
早速緩い空気になってきたあたりこの人たち大丈夫なのだろうかと不安になる。ここ現No.1ヒーローの事務所だよな...?
「私達は職場体験でメグルの人柄も実力も把握してるからね。その辺はすっとばしても大丈夫だと思うのよ、今差し迫ってる捕物にメグルの写輪眼が必要だから。...最悪雄英に捜査協力頼もうかと思っていたくらいには。」
「差し迫ってる捕物?」
「インサート、覚えているよね。」
ゴクリと息を飲む。忘れる訳もない、あの最悪の愉快犯の事を。
インサート、存在しない家族の記憶を挿入し自殺に追い込む謎の
職場体験の時に自分たちが犯行を見つけた
「警察を通じて各地の不審な自殺事件を洗い出した結果、見つかったんだよ、年の頃は12かそこらの不審自殺の現場に必ず居合わせる少女が。んで、当然警察が確保に行ったんだけど、その結果個性を使われて間違った情報が流れに流れ大混乱。声をかける事が個性の発動条件だとはわかったのは良いんだけど、個性が解除される時に記憶が一緒に消える性質のせいで集団による連携がぐちゃぐちゃにされちゃったのさ。」
「そこで、腕の良いヒーロー達による問答無用の奇襲戦法が警察から提案されたのよ。でも、以前のインサートを取り逃がした時の教訓から個性を受けているかどうか判別できる要員が欲しいの。つまりメグル、あなたがね。」
なるほど、と思った。インサートの個性は返答を待たなくて良い心操の個性のようなものだ。どんなに気をつけても引っかかってしまうのだろう。強力な個性だ。
いきなりこんな責任重大な案件を任せてくれるとは、流石エンデヴァーヒーロー事務所だ。Plus Ultraの精神でいこう。
「ま、今度の捕物の時は全員に防音ヘッドセットが配られる予定だから、メグルは保険の域を出ないんだけどね。」
思わず椅子から転びそうになる。この話を聞いて使命感を燃やしていた自分は何だったのだ。
まぁ、保険とはいえ必要とされているのだ、頑張らせてもらおう。
「ハァ、わかりました。存分に保険として頑張らせて貰います。それじゃあ、インターンの書類にハンコお願いします。」
「はいどうぞ。これでメグルはエンデヴァーヒーロー事務所の新米サイドキックよ。存分に励みなさいな。」
「はい、よろしくお願いします。」
そうして、その日はエンデヴァーヒーロー事務所のシステムについて話して貰った後で、早速パトロールに駆り出される事となった。
「コスチューム持ってこいってこういう事だったんですね。」
「そ、エンデヴァーヒーロー事務所に無駄な時間はあんまりないのさ。」
「地元のパトロールはこれからずっとする事だから早めに慣れておいた方が良いって事よ。」
「勉強になります。ところで疑問に思ってたんですが、エンデヴァーさんは何処に?」
「今日は福岡。HNで応援を求められてサイドキック何人かと出張してる。実質的なNo.1ヒーローになってからは割と忙しくしてるよ。」
「へー、そうなんですか。」
その時、目の前の公園で風船を空に飛ばされたのが見えた。
「ちょっと行ってきます。」
「行ってらー。」
移動術を二回、距離を詰め、上空へとジャンプをする。
うまく風船をキャッチできた。やったぜ。
下でぽかんとしている男の子の近くに着地、その手にしっかりと風船を掴ませて言う。
「はい、どうぞ。しっかり握ってないとダメだよ?」
「うん、ありがとう!ヒーローのお兄ちゃん!」
「メグルだ、売り出し中の新米ヒーローなんで覚えておいてくれよ、少年!それじゃあまたな!」
そう言ってバブルビームさんとサンドウィッチさんの元に戻る。
が、二人もどこかぽかんととしていた。
「どうかしましたか?バブルビームさんもサンドウィッチさんもそんな顔をして。」
「いや、何今の高速移動。メグルの個性って目だよね?」
「ああ、ちょっとニューパワーに目覚めてました。精神をエネルギーに変える個性です。」
「凄い精度の増強系じゃない。そんな個性が隠れてたなんてこれはウチの事務所の最強レースに新しい風がやってきたわね!」
「メグルの動体視力に増強系レベルの超スピード、ちょっと先輩の面目が保てないかも。」
「ちなみに分身や変化、火遁の術なんかも使えます。」
「...忍者?」
「はい、リアルニンジャです。壁走りや水面歩行もできますよ?」
「ニンジャ!エッジショットさんが好きそう!」
「ちょっと事務所戻ったら忍者っぽい動きでPV取らない?楽しそう。」
「良いですね、楽しそうです。」
「メグルってクールそうな見た目の割にノリ良いよねー。」
だが、その日のパトロールはそんなほんわかした話だけで終わる事はなかった。
「こちらサンドウィッチ...了解、現場に急行します。バブルビーム、メグル、◯×銀行で強盗よ。エンデヴァーヒーロー事務所のお膝元で罪を犯す事が何を意味するのかを教えてあげましょう。
「「承知しました、サンドウィッチさん。」」
ちょっと怒っているサンドウィッチさんを先頭に、◯×銀行へと急ぐ。
「先行しますか?」
「いいわ、ちょうどいいから私達の実力を見せてあげる。これでも私達、強いのよ?」
そんな頼もしい言葉を吐かれたのだから、今回は見物といこう。
「そんな訳で、頑張るわよ?バブルビーム。」
「そうですね、頑張りますか、サンドウィッチさん!」
銀行の前に着く。野次馬をかき分けて警察にご挨拶。そうして、シャッターの前に立つ。警察から話を聞く限り人質は数人の客と従業員。犯人は2人組で拳銃は無し、だが1人が指から空気の弾丸を放てる個性を持っているため突入は慎重になっているようだ。もう1人の個性は見た目から岩石の異形系であると推測されている。
事件の流れはこうだ。
弾丸の男が個性を使い強盗を開始、岩石の男がカウンターの男性を脅し現金を奪い取ろうとするも、勇気ある従業員により対
「さて、典型的な成り行き任せの籠城事件ね。バブルビーム、あれやるわよ。」
「了解、穴開けますねー。」
そう言ってバブルビームさんはシャッターに向けて個性を発動した。泡を手のひらで高速回転させて作ったカッターでシャッターに穴を開けたのだ。そしてサンドウィッチさんは穴を覗いた後、その穴に箒を突っ込んだ。
「OK、犯人達は見えたわ。行くわよ!必殺、サンドバインド!」
その言葉とともに穴に入った箒が砂に変わり銀行の中へと入っていった。箒の大きさの小さくなるスピードからかなりのスピードで砂は移動しているのだろう。というかあの箒って妙に身体エネルギーが込められていると思ったら砂で作られていたのか...
サンドウィッチさんはすぐに穴を覗き、その後警察に突入の指示を出した。
現着から2分の、流れるような
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銀行強盗を警察に引き渡して事務所に帰還する道すがら、3人で今日の事を話す。
「どう?先輩ヒーローもなかなかやるでしょ。」
「ええ、見事でした。凄いですねサンドウィッチさんの砂を操る個性は。ほとんど見えていないのに的確に
「フフン、経験が違うのよ。」
「ですね。」
「ちょっとお2人さん、僕の事忘れてない?」
「忘れてないですよバブルビームさん。見事な壁抜きでした。泡ってあんな風に使えるんですね。」
「そうなんだよ。ま、訓練したからね。」
「今日の捕物、本当に見事でした。今後の参考にさせてもらいます。」
そう言って貴重な経験をさせて貰った礼をしたら、2人は「ああ、こういう子だったなぁ」と生暖かい目を向けてきた。
「え、俺何か変な事言いました?」
「いや、メグルだなーって。普段は普通の良い子なのが。」
「普段はって何ですか、常時良い人であろうと努力してますよ俺は。」
「有事にはヴィラン潰しとか言われてる残虐ファイターなのにね。」
「売られた喧嘩は買う方ですよ俺は。」
「喧嘩で謹慎くらうくらいだもんね。」
それを言われると痛い。もっとスマートな解決策があったのではないかとはあの日からずっと思っているのだから。
「って忘れてた。俺、喧嘩したどころか知っての通り元
「エンデヴァーさんがそんな一般論で採用するしないを決めると思う?」
「完全に実力主義って感じですねー、納得しました。」
そんな会話をしながら事務所へと戻る。
この時は思いもしなかった、こんな頼りになる先輩方と敵対しなくてはならない未来がやってくるなどとは。
「そういえばインサートの件っていつなんですか?」
「ん?明日会議で明後日実行かな。」
「展開が早すぎる⁉︎」
「ヒーローの世界なんてそんなものよ。慣れなさい。」
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そうして、その日はエンデヴァーヒーロー事務所に泊まり込み、早朝から車で向かうは長野県穂村市の警察署である穂村署、そこで今回の奇襲作戦の打ち合わせをするのだとか。
道中、小学生高学年くらいの女の子が道を尋ねに来たのは少し参ったが、サンドウィッチさんとバブルビームさんがこの穂村署に来るのは初めてではなかったため、なんとか無事に案内する事が出来た。
「にしても可愛い子でしたね、10年後が楽しみです。」
「確かに、あの子は絶対に美人になる。だけど手は出せないねー。」
「そうね、あの子ここの警察署の署長さんの娘さんだもの。手を出したら貴方達みたいな弱小サイドキックなんか国家権力に潰されちゃうわ。気をつけてねメグル、バブルビーム。」
「「はーい。」」
そんな馬鹿話をしながらもインサートの事を考える。奴は他人にありもしない記憶を挿入して操る悪魔だ。決して許す事はできない。
何故なら、奴は俺の妹を自殺に追い込んだ悪鬼なのだから。必ず殺す、そう心に決めている。
「メグル、殺気が漏れてるよ。確かにインサートは憎むべき悪魔だけど僕達はヒーロー、捕まえるのが仕事だ。気持ちは抑えて仕事をしよう。」
「...はい、理解しています。」
だが、そうたしなめたバブルビームさんの顔も、見た事がないくらいに険しい顔であった。バブルビームさんもあの悪鬼の所業に思うところがあるのだろう。
そして先頭を歩くサンドウィッチさんは、無言を貫いていた。
悪鬼であろうと殺さずに捕らえなくてはならないヒーローの性が、今は無性に憎かった。
会議室に集まる5人のヒーロー。自分、サンドウィッチさん、バブルビームさん、長野のご当地ヒーロー、俺の母さんの再婚相手である螺旋ヒーロースクリューさん、そのサイドキックのクリスタルアイさんの5名、全員知り合いなのが世間の意外な狭さを表しているようで少しおかしかった。
まぁ今は、笑う気になど欠片もなれないのだが。
「えー、それではインサート捕縛作戦についての話し合いを始めます。私は長野県警の賽ノ目と申します、以後お見知り置きを。ターゲットはこの少女。本名不詳、経歴不詳、
プロジェクターで投影されている写真を見る。長い黒髪がポニーテールで束ねられている活発そうな少女がそこに写っていた。
これが俺が殺すべきターゲットだ。絶対に妹の無念は晴らしてみせる。そう心が叫んでいる。
「現在、ターゲットはあろうかとかこの穂村署の署長である
返答はなかった。この重苦しい雰囲気に呑まれて発言ができないのだろうか。
皆、インサートの悪行に対して激しい怒りを覚えているのがわかる。もしかしたら殺意を抱いていると言い換えても問題はないかもしれないくらいに。
「ないようですね。それでは会議を終了します。決行は明日の正午、それまではターゲットに出くわしても何も行動を起こさないように。」
重苦しい雰囲気のまま、その会議は終わった。
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「スクリューさん、クリスタルアイさん、お久しぶりです。」
「やぁ、メグル。エンデヴァーさんの所のサイドキックになるなんて出世したね。」
「まだ採用されたばかりなのでこれから先どうなるかはわかりませんけどね。」
「そんな問題など実力でどうにでもなる問題です。決してチャンスを逃さないようにすれば問題は無いのです。」
「クリスタルアイさんもお変わりないようでなによりです...」
そんな旧交を深める会話のはずが、誰も笑顔にはならなかった。俺の暗い想いが伝わっているからだろうか
「スクリューさん、母さんの具合はどうですか?」
「うん、善子は大丈夫。本当に元気にしているよ。僕もこのヤマが終わったら育児休暇を取るつもりだからそれまではヒカルに頑張って貰うよ。ヒカルもお兄ちゃんになる訳だからね。」
「もうすぐですもんね、生まれるの。」
「うん、もうすぐだ。だからそれまでにちゃんと清算しないといけない。」
「...清算?」
「ああ、ごめん。こっちの話。」
「ボス、滅多な事は考えてはいけません。」
「ありがとうクリスタルアイ。でもボスはやめてね。」
「それはできない問題です。」
「このクソ重い空気の中でもクリスタルアイさんは流石ですね。」
「プロヒーローですから。普段通りにできない方が問題なのです。」
その言葉にグサリとくる。自分は普段通りにできていないのだから。
はぁ、とため息を1つ。一旦MAXコーヒーでも飲んで頭を冷やそう。
「ちょっと外出てきます。」
「うん、今日は僕たちビジネスホテルだから気分転換に穂村市を見て回ると良いよ。そんなに眉間に皺を寄せたままじゃあ土壇場でミスるからね。」
「...ありがとうございます。気分が晴れたら携帯に連絡する感じで良いですか?」
「うん、構わないよ。」
警察署を出て1人思う。長野ってMAXコーヒー売ってる所あるのかと。最悪見つからなかったら加糖のコーヒーで我慢しよう。たまにはそんな日もあるさ。
そんな事を考えながらぷらぷらと歩いていると、歩道橋の階段から足を踏み外して顔面から転げ落ちそうになっているポニーテールの少女が見えた。
落ち込んだ気持ちとは裏腹に、体は助けるために走り出していた。
一歩目の移動術で歩道橋下まで辿り着き、二歩目の移動術で少女を抱えて空中に飛ぶ。これで少女が怪我をする事はないだろう。
だが、少女の方はパニックになってしまったようで、体や頭をよじらせた。
その結果、空中で、俺と少女は、始めて唇を合わせた。
この瞬間が、俺と彼女の経験するインサート事件、その始まりだった。
童貞なりに動揺しつつも着地に成功した自分、そんな俺に、彼女は予想外の言葉をかけてきた。
「■■■■さん、付いてきて下さい。」と。
俺しか知るはずのない、前世の俺の名前を呼んで。
インターン編はキスから始まるストーリーです。ダリフラは良いアニメだった。