【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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久々の時間通り投稿。ヤッター。



彼女と巡った日々の事

「先輩、タイムリープなんて無茶苦茶をしている私が言うのもなんなんですが、時々頭おかしいって言われません?」

「さあな。でも割とおかしい奴だって自覚はあるよ。」

 

サンドウィッチさんの砂に体を蝕まれた俺は、医療忍術による解毒を一瞬で諦めた。いきなりそんな高度な事をやれと言われても無理があるのだ。なので、ミラーダートでサンドウィッチさんの身体エネルギーの通っている砂のある血管を切り裂き、物理的に砂を取り除いたあとで掌仙術による治療を行うというウルトラCを決めたのだ。やったぜ。まぁ次同じことやれって言われても出血多量で死ぬ自信があるが。

 

「まぁ、先輩が生きていてくれて良かったですけど。ですけど!」

「ああ、今敵襲が来たら完全に終わるわ。パターンから言ってうずまきさん...スクリューさんもクリスタルアイさんも襲いに来る感じだろ?」

「はい。ですがあの2人は穂村署長の家の前で張り込んでいるので、そうそう遭遇する事はありません。あ、先輩、この先の角を右です。」

 

後輩に肩を貸されながら後輩の指示する道を行く。 そろそろ体力が回復してきた。もう大丈夫だろう。

 

「ありがとう、楽になった。」

「構いません。私と先輩は運命共同体ですから。」

「俺は巻き込まれた感じだと思うんだがなぁ...」

「巻き込んでいいって先輩が言ったんですよ?絶対に味方になってやるって。」

「そうなのか、格好いい事言うな未来の俺。同一人物か不安になってきた。」

「転生なんて不思議な現象起こしてるのは先輩しか居ませんって。」

「いや、1人いたら100人いると思うべきだろ。割と探してるんだぜ、俺以外の転生者。」

「そんなゴキブリじゃないんですから...」

 

ぐだぐだと、されど何故か楽しそうに後輩は話してくる。ここまでの好感度を稼ぐとか未来の、あるいは過去の俺は一体何をやったんだ?割と気になってきた。まぁおそらく地雷なので掘り返しはしないが。

 

「さあ、もうすぐ着きます。おそらく唯一私たちを受け入れて貰える所に。」

「本当だろうな?」

「はい、先輩がいれば絶対に受け入れて貰えます。まぁ、辿り着けた事なんか一度しかないんですけど。」

「ループによっていろんな人の行動が異なるからか?」

「...はい。特にバブルビームとサンドウィッチの行動はまだパターン化できなくて。いつも先輩に無理させちゃってます。」

「ま、この程度の無理は雄英生徒にとっちゃ日常さ。Plus Ultraってな。」

「...本当に何の気負いなく言うんですね、死ぬかもしれない目に何度遭っても。」

「それが、ヒーローだからな。」

 

そう格好をつける。まぁタイムリープによって俺よりも俺を見ているかもしれない後輩のことだ、格好をつけたことに気付いてるかも知れないが、クスリとでも笑ってくれたのだから良しとしよう。

 

「ここです。」

「ここって、忍術学校?...ああ、あの時のお爺さん。」

 

思い返すのは団扇村追悼イベントにおいて知り合った老人。自分の叔父にあたる人物、団扇晴信と自分が瓜二つだと言った団扇の家に仕えていたお爺さんだ。

 

「おい、縁がないとは言わないが受け入れて貰えるのか?」

「貰えます。まぁ何にせよインターホンを押して下さいな。」

「はいよ、ポチッとな。」

 

インターホンのカメラに自分の顔を映す。すると少ししてからドタドタドタっとインターホンから音が響く。何だ?

 

「団扇巡様!ようこそお越し下さいました、我が道場に!」

「どうも、お久しぶりです。今良いですか?」

「何を仰いますか。団扇晴信様の血を引くお方のご来訪、何があろうと優先すべき事は決まっております!」

 

あれ、この爺さんこんなテンション高かったっけ?訪ねて来てくれた事がよっぽど嬉しいのか?

 

「ささ、中へ!」

「「お邪魔します。」」

 

そう言って中に入る。結構大きな和風建築の建物だ。だが、なぜか忍者屋敷というイメージが思い浮かぶ。仕掛けでもあるのだろうか。

 

そう言って老人の案内で屋内に入る。

だが、いきなりの行き止まりだ。どうするのかと思えば壁が回転して奥への通路となった。

 

「本当に忍者屋敷⁉︎どうなってるんですこの浪漫建築は!」

 

ワクワクが止まらない、血が足りなくてボーっとしていた頭が一瞬で覚醒したぞ!

 

「先輩、こういうの本当に好きですよね。」

「断言できる。これを好きにならない男子はいない。」

「そういうものなんですかね。」

「おや、そちらのお嬢様はあまり驚かれない様子。どこかで仕掛けについてお知りになったのですかな?」

「ええ、そんな所です。」

 

未来で見たとは流石に言えないよなぁ。そんな事を考えると後輩が「私も嘘のつき方くらいは学んでいます。誰を見てると思ってるんですか。」と小声で囁いてきた。地味に心が痛いッ!

 

「ほほっ、随分と仲がよろしいようで。」

「濃い時間を共に過ごしましたから。」

「本当にな。」

 

出会ってから半日も経っていないのに俺視点で2度、後輩視点では何十度と共に死線を潜り抜けてきているのだ。そりゃあ仲も良くなると言うものだろう。

まぁ向こうからの高い好感度に引っ張られている気がしないでもないがそこは気にしない。少女からとはいえ好意をむけられて嬉しくない訳はないのだから。

 

「ささ、こちらです。」

 

そうして通されたのは寝室と思わしき場所だった。

 

「すいません、どうして俺たちを寝室に?」

「ハハハ、ここからでなければ入れない部屋があるのですよ。」

 

そういってお爺さんは高そうな壺を一回転させた後に掛け軸をめくった。すると掛け軸の裏がドアのように開き地下へと続く階段が現れた!

 

「掛け軸の裏が地下へと続く階段になった⁉︎浪漫だ、浪漫が溢れて止まらない!」

「そうでしょうとも!この私、穂村収納(ほむらしゅうのう)がこの屋敷を建築する際に職人にオーダーメイドした秘密の部屋でございます!この部屋の存在を知る者は何人と居ません!なので今の巡様のようにワケありの状況のお方のかくれる場所としては適切かと愚考しました。」

「...ワケありとわかっていて受け入れるんですね。」

「ええ、晴信様には大恩があります。その恩の一端でもお返しできたらと思っております。」

 

3人で階段を降り地下へと向かう。そこには、旧式のパソコンと古めかしい本の置かれた本棚のあるそこそこ大きな部屋があった。

 

「では、お話し下さい。何故私を頼りにこの屋敷にやってきたのかを。」

「はい。とは言っても状況が状況なので、他言無用でお願いします。」

 

そうして自分は話した。今わかっているインサートの計画を。

 

穂村署にその事実を挿入する個性により入り込み、ヒーローによって自身の身代わりを殺させる事で自身にかかった容疑をなかった事にするという最悪の計画を。

 

「インサートの目的はそれだけじゃないです、先輩。」

 

だが、その説明に待ったをかけたのは後輩だった。

 

「後輩?」

「うん、状況が落ち着くまで言わないって決めてたことがあるんです。聞いたら先輩は迷わず穂村署に戻ろうとする筈ですから。」

「今聞いただけでも十分に恐ろしい計画でしたが、その上があると言うのですか?お嬢さん。」

「インサートの個性は、解除すると個性のかかっていた時の記憶が消えてしまうんです。だからヒーローに私を殺させても警察官の人たちにかけた個性が解けたらインサートの犯行に気付かれてしまう。だから...」

 

ゴクリと息を飲む。一瞬脳裏によぎったその最悪の更に下の想像が、杞憂である事を信じて。

 

「インサートは、自分の個性が解ける前に焼き払おうとしているんです。個性のかかった人達を、穂村署ごと。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

穂村さんから借りた電話でエンデヴァーさんへと連絡をする。俺の携帯?砂の雨の犠牲になったのだ...まぁバックアップはちゃんと取っているので大きな問題ではない。きっと経費で落ちるし。

 

最初の声が「貴様なにやっている!」だったのはバブルビームさんあたりの報告が先に入っていたのだろう。バブルビームさん達と戦闘になった事を謝りつつ現状を報告する。殺意を持たされてしまったヒーローたちがいるという現状を。

後輩のタイムリープという事実を隠しながら。

 

「それが現在の状況です、エンデヴァーさん。」

「そうか...貴様が(ヴィラン)に寝返ったと聞いてインターンを受け入れた事を後悔しかけたが、そういうカラクリだったか。...良くやったメグル。本気のバブルビームとサンドウィッチ相手によく生き延びたものだ。」

 

後輩の反応から考えるに、2人には何度となく殺されていたという事実は黙っておこう。2人の名誉のために。

 

「それでどうしたらいいですか?エンデヴァーさん。後輩...インサートの身代わりにされた彼女は簡単には見つからない場所に隠す事ができました。単身特攻ならかけられます。」

「いいや、今から俺達が行く。幸いこちらの要件は終わった所だ。貴様たちの想像するXデーがいつになるかは分からんが身代わりが殺されるまではインサートは警察の力を借りるはず。その隙に俺たちが叩く。」

「お願いします。...エンデヴァーさん、インサートにやられたりしないで下さいね?そしたら詰みなんですから。俺達の命が。」

「誰にモノを言っている。」

「いや、エンデヴァーさんって焦凍の親父さんなんでどっか抜けてないか不安なんですよ。」

「阿呆め、要件は以上だな?切るぞ。」

「あ、待ってください。インサートの居場所がまだ分かっていません。」

 

エンデヴァーさんは「はぁ」とため息を吐いたあと、こう言った。

 

「インサートの性格は知らん。だが目的を考えるとどこにいるかは想像がつく。」

「インサートの目的?」

「身代わりを殺させた事を確認しなくてはならないのだろう?ならインサートは必ず情報が集まる場所にいる。」

 

情報が集まる場所...まさか⁉︎

 

「自分を捕まえるための捜査本部に居座ってるんですか⁉︎」

「その可能性が最も高い。この程度のロジックは組み立てられるようになっておけ、俺の元でヒーローを学ぶならな。」

「...はい。精進します。」

 

その言葉を最後にエンデヴァーさんは電話を切った。

 

続いて相澤先生への連絡だ。話を通しておくべきだろう。明日からも休まなくてはならないのだから。俺を先輩と呼ぶ彼女のために。

 

「相澤先生、団扇です。今大丈夫ですか?」

「団扇⁉︎...大丈夫なのか?警察から苦情が来た、お前が(ヴィラン)に洗脳されたってな。」

「はい、俺は正常...じゃないかもしれませんけど正気です。」

「どっちだ...まぁ良い、事情を話せ。」

「今インサートという(ヴィラン)を捕まえるために動いている穂村署がそのインサートに乗っ取られていました。個性でヒーローに殺意を持たせて身代わりを殺させるという策が向こうの本筋のようです。実際俺も殺されかけました。」

「...警察署が乗っ取られるか、最悪の状況だな。インサート本人の顔は見たのか?」

「いいえ、顔は見ていません。ですがインサートはおそらく幼い少女、男所帯の警察署内にそんな奴は2人といない...なのでそうなんじゃないかとアタリを付けている奴ならいます。」

「容姿を話せ。雄英生徒の後始末は教師がつけるって事で俺が長野まで行く事になった。」

 

ありがたい増援だ。相澤先生の抹消ならインサートを何をさせるでもなく無力化できる。

 

「容姿は小学校高学年程度の青髪の少女で、顔は整っている方です。署内には署長の娘として潜入していました。」

「そうか、警戒する。お前はこれからどうする?」

「身を隠す場所に恵まれたのでしばらくここで潜伏していようと思います。できればエンデヴァーさんか相澤先生がインサートを捕まえるまで。」

「合理的だな。...よし、お前はそのまま潜伏を続けろ。後は俺たちがなんとかする。」

「ですが気をつけてください。未確認ですが警察署を焼いて個性を当てた人達を皆纏めて焼き殺すっていう策をインサートが練っているという情報があります。」

「そのことはエンデヴァーさんには?」

「話しました。」

「良くやった、ヒヨコとしては十分な成果だ。もう一度言うが、後は俺たちがなんとかする。くれぐれも無理無茶はするなよ?」

「はい。心配してくれてありがとうございます、相澤先生。」

 

そう言って電話が終わった。さて、やるべき事は全て終わった。緊張を解いてしまってもいいだろう。

 

「お疲れ様でした、先輩。」

「ありがとよ、後輩。」

 

後輩も命の危険のない状況にようやくやってこれた事で安堵しているのか、どこか表情が柔らかく見えた。

今なら、聞いてもいいだろう。ずっと疑問に思っていた小さな事を。

 

「なぁ後輩。」

「なんですか?先輩。」

「お前、どうして俺を先輩と呼ぶんだ?確かに俺はお前より歳上だけどさ。多分。」

「簡単な事ですよ。記憶がなくなってから初めて先輩と会ったときに言ってくれたんです。『俺は、お前より早く罪を犯した先輩だから、後輩の命くらいは助けてやるさ。』って。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「記憶喪失にするなんて初めてだからちゃんとできているか不安だけど、まぁ喋れないんじゃあおんなじかな?まぁホケンって奴だから良いんだけど。じゃあね、お姉ちゃん。」

 

そう言って去る青髪の少女。だが、様々な疑問が頭に浮かんで消えていく。それを口にしようとしたが声が出せない。口枷が付いているために声を外に出すことができないのだとすぐに気付いた。

身振り手振りで彼女に待ってと伝えようとするも彼女はこちらを向きさえしない。

ここはどこなのか、私は誰なのか、何故私はこんな場所に閉じ込められているのか、その全てが思い出せない。

 

そのうち彼女はいなくなり、自分は1人になった。寂しいという感情を始めて味わったのはその時だった。

 

そうして、1人の時間をしばらく過ごした後で、煙がこの部屋にも溢れてきた。

 

どこかで火事でもあったのだろう。だが一人で、誰もいないこの牢屋の中からは何もできる事はない。

私の考えを支配したのは、ここで私は死んでしまうのかという事だった。

 

その人が、ドアを突き破ってやって来るまでは。

 

「生きてるか⁉︎生きているなら返事をしろ、インサート!」

 

その声が自分を呼ぶものだと思って、手錠のついた手をひたすらに鉄格子へと叩きつけた。

 

「そこか!待ってろ、今出してやるからな!」

 

沢山の鍵を慣れない手つきで順番に使い、何番目かの鍵でようやく格子のドアを開けてくれた。

 

私を牢屋の中から外の世界に連れ出してくれた唯一の人が彼だった。

 

どうして、と口枷がついた口から声にならない声を出す。

 

「俺は、お前より早く罪を犯した先輩だから、後輩の命くらいは助けてやるさ。」

 

何故だか、涙が止まらなくて、笑顔が止められなくて、私は相当に不細工な顔になっていたと思う。それでも先輩は躊躇わずその手を差し伸べてくれた。

 

先輩とともに火の海を駆ける。時に壁を殴り壊し、時に抱えられて壁や天井を走りながら。

 

でも、完全に火に覆われたフロアを見て、そこで絶望している多くの人々を見て、先輩と私は完全に止まった。ここが私の命の終着駅だと知識だけの頭が言っていたような気すらした。

 

そして、火の海の中を駆け続けた先輩は抱えられていただけの私よりも先に限界がきてしまった。煙を吸いすぎたのだろうと知識だけの頭が言う。でも、そんな先輩を助ける手段は頭に浮かんでこない。

 

助けたいと思った、救けたいと思った。私のために火の海を駆けてくれた先輩の事を、心の底の底にある私の感情の全てがそう思った。

 

その感情の爆発が、私の個性のトリガーだったのだと経験を積んだ今だからわかる。

 

そうして私は、身に覚えのない、でも心が覚えていた初めての瞬間に意識を飛ばす事となったのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うわー、恥ずかしい。助けに走った挙句道半ばで死ぬとか...何のためにヒーロー講習受けているんだよ...」

「格好良かったです、先輩は。それは、先輩にだって否定させません。」

 

恥ずかしい事を言わないでほしい、こちらは後輩の命を守りきれなかった駄目男の末路に頭を抱えたい気分なのだから。

 

「まぁわかったよ、後輩の1周目の事は。何かの原因で後輩をインサートとして捕らえた世界があって。そこで記憶喪失を挿入された後俺に会ったって事だよな。」

「はい、そうです。」

 

殺意のエピソードを挿入された5人のヒーロー達を相手に生き残るとは、後輩には生き残る事に対する天性の才能があったのだろうか。まさか無意識的にタイムリープを発動していたとか?

 

そんな事を後輩に聞いてみると、「なんで自分自身ではわからないんでしょうねこの先輩は」とどこか呆れていた。

 

「まぁそれから色んな事がありました。でも、右も左もわからない状況に投げ出された私を助けてくれたのはいつも先輩でした。私のもう投げ出したいと折れかけてた心を救けてくれたのはいつも先輩でした。先輩には本当に感謝しています。私の心の底の底から。」

 

そう言って後輩は目を閉じた。辛い思い出も、苦しい思い出も、全て受け入れて、前に進む強い思いにしているのだろう。

 

そんな後輩を見て、なんとなくでない本当の覚悟が決まった。

 

「後輩、俺はお前を守るよ、必ず。」

「はい、私を守ってください。ずっと先の未来まで!」

 

どちらが言うでもなく、約束の指切りをした。嘘ついたら針千本飲む事になってしまうと考えると、この約束は破れないなと思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日の夜、穂村のお爺さんは個性の収納を使って様々な物を持ってきてくれた。食事、布団、雑誌に囲碁などだ。ありがたい。

 

「やっぱり初めてきた時と同じレパートリー、タイムリープして変わるものと変わらないものの違いってなんなんでしょう。」

「そういやバブルビームさんやサンドウィッチさんの動きがパターン化できてないとか言ってたな。」

「ええ、そうなんです。何度繰り返してもあの2人は違う動きをするんです。前の周の動きと。」

「事象は収束する!とかのお決まりの理屈は覆している訳だしな。」

「ええ、先輩は前に負けた戦いでも適切なアドバイスをすれば勝ってくれる。生き残ってくれる。」

「あ、ついに零したな俺が死にまくってる事。」

「すいません、不快になると思って口に出さないようにしていたんですけど...」

「こっちこそ申し訳ない。俺の実力不足が何十回とタイムリープを繰り返してる原因みたいだからな。」

「いいえ、そんな事は!」

「あるんだよ、だからもっと精進あるのみだ。Plus Ultraってな!」

 

そう言って夜の習慣の筋トレを始める。まずは腕立てだ。

 

「...先輩は不思議な人です。普通なら、自分が死ぬってわかるともっと取り乱すものだと知識は言っているんですが。」

「それはきっと俺が変って事だよ。自慢じゃないが俺には死んだ記憶があるんだ。きっとそのせいだよ。」

「...本当に不思議な人です、先輩は。」

 

そう言って後輩は何を言うでもなく俺の筋トレを眺める。

何となく無言で筋トレを続ける。若干気まずい状態だが、後輩は何故か楽しそうに笑っていた。

 

「そんなに面白いか?筋トレ。」

「面白いって言うより嬉しいのが強いですね。先輩は私だけじゃなくていつかの誰かを助ける為の訓練を怠らない人なんだなーって。」

 

相変わらず好感度が高いその感想に「うっ」となる。そんな格好良い理由やない、ただの習慣だとは言いだせぬ。

そんな内心すらお見通しのようで後輩はクスリと笑っていた。

 

「そういや、多分だけど俺の写輪眼なら俺たちにかかったインサートの個性を取り除けるぞ?相澤先生もエンデヴァーも来るわけだしもう勝ったも同然だ。解いちまうか?」

「正直に言うなら、しないで欲しいです。」

「何でだ?」

「私はタイムリープの記憶を保っておきたいのでまだ個性の解除はいいです。それと...」

「それと?」

「先輩から初めてのキスの記憶がなくなってしまうのは、少し嫌です。」

 

そう言った彼女の顔は、少しだけ恥ずかしそうに見えた。

そんな顔もできたのかと少しだけ驚いた。彼女が年頃の少女としての表情を残していた事が少し嬉しくて甘い事を言ってしまった。

 

「そっか、ならインサートが捕まるまでお互いに解除は無しにしよう。」

 

そんな話をしながらのんびりと眠りにつこうとする。すると後輩が布団から手を伸ばしてきた。タイムリープによって走り続けていた彼女だ、きっと眠る事に不安があるのだろう。その手をしっかりと握って離さないようにする。

 

か細い声で、後輩の「ありがとうございます」という声が聞こえた。「おう。」と短く返して眠りにつく。

暖かい手の温もりが心地よくて、今日はよく眠れそうだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ゆさゆさと体を揺すられる、折角気持ち良く寝ていたのになんだと後輩をにらむと、切羽詰まった表情で自分の顔を覗き込んでいた。

 

「先輩、起きてください!」

「後輩、何があった!」

「この屋敷が包囲されています、警察に!」

 

早朝からこの感じ、今日もハードな一日になりそうだ。

 

「じゃあ、頑張って逃げるか!後輩!」

「...はい、よろしくお願いします、先輩!」




特に理由もなく打ち切り感のある引きにしてみました。でもちゃんと続きます。ご安心を。

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