これからの2ヶ月に入る為のプロット練るのに時間がかかってしまっています。空白期間でもインターン続けられれば楽だったんですけど学校側でインターン中止の号令出しちゃってますからねー、難しいです。
人型を取ったモヤを追いかけて地下施設を歩く。時たま壁をすり抜けて移動するのは腹立つが、そういう時は壁を壊して直進してるので見失う心配はない。
まぁ、結構な枚数の壁をぶち壊して進んでいるのでこの地下施設が崩壊する心配が出てきたのは内緒だ。
「にしても、罠にしては仕掛けてくるのが遅いですね。休憩できちゃいましたよ。」
「うん、水分補給もできちゃったしね。...罠にしては通る道も妙だ。本当に真っ直ぐ本体に向かってる感じじゃない?これ。冗談のつもりだったけど、バテてるってのは本当かも。個性の時間制限とか。」
「集中しなさい。...角を右に曲がった先、歩いてる音がする。1人...違う、1人が何か重いものを背負ってる。1人がもう1人を背負ってると見ましょう。」
「奇襲は?占い師の個性が予知なら躱されるでしょうけど。それならそれで情報になります。」
「待って、止まった!」
咄嗟に腰を落として警戒する。見えてる範囲に鏡はない。
「モヤは人の方向に向かってます。...まだ、騎士にはなってません。」
「仕方ない、奇襲かけましょう。メグルの影分身と私の砂で様子見しつつ取り押さえるわ。バブルビームは待機で。」
「「了解」」
方針が決まれば後は速いのが良いヒーロー。さっと影分身を発動し角を曲がり移動術で突っ込ませる。
だが、少しの時間を置いたのち、ダメージによる経験の共有がやってきた。胸を切られたダメージが幻痛となり俺を襲う。
「最悪です!鏡の壁があってそこでガン待ちされてました!」
「壁⁉︎私には感知できなかったわ!」
「多分誰かの個性です!身体エネルギーが見えました!」
「待って、個性の鏡ってことは...ッ⁉︎2人とも、来るよ!鏡が動く!」
バブルビームさんのその一言がなかったら反応できなかっただろう。鏡が壁の向こうからヴェールのようにするりと鏡が現れた。
その鏡に取り付いている騎士を伴って。
閃光のような斬撃。ギリギリ回避が間に合ったサンドウィッチさんの前髪が数本切り飛ばされる。
だが、騎士は動じず、切り返しのもう一撃放とうとしてきた。それを放たせないために騎士の剣を蹴り上げる。ギリギリだったが届いた。
相変わらず心臓に悪い鋭さだ。だが鏡が大きく、見えているという事は弱点でもある!
「バブルビームさん!」
「一切承知!バブル、光線!...ッ⁉︎」
バブルビームさんの光線はしっかりと鏡を貫いた。はずだった。
その鏡は割れる事なく、壊れる事なく、光線をすり抜けた。
「嘘だろ⁉︎苦労して暴いた弱点を補強してきやがった!」
「触れない鏡とか悪い冗談ですか⁉︎どーすんですこの無敵ナイト!」
「とりあえず逃げ...ちょっと待った、悪い冗談にも程があるだろそれは。」
「一周回ってクールになるくらいヤバイなら、状況教えてください、俺騎士から目を逸らせないんですよ。」
「僕ら、鏡で囲まれた。」
騎士の後ろの鏡を見ると、そこには自分たちの姿の後ろに自分たちの背中を映す鏡が見えた。
嫌な予感しかしねぇ!
騎士は、鏡から最速で飛び出してサンドウィッチさんの首を取りに来る。当然自分が迎撃するも、騎士は剣を腕ごとパージする事でその迎撃を回避した。
そこから先は飛び跳ねるスーパーボールという表現が一番正しかったと思う。
スピードを落とさず鏡に突っ込んだ騎士は、全くスピードを落とさずに、それどころかむしろ加速して鏡から現れた。一度目は驚きはあれど写輪眼で見えていた、再構成した剣による斬撃をいなして回避する。
二度目の時点で体勢的に無理が出てきたが、小さな移動術を駆使して体の向きを無理目にコントロールし、バブルビームさんを狙ったその斬撃をチャクラを込めた手で払う。スピードの乗ったその斬撃は重かったが、なんとか払う事ができた。
だが、その反射は全て俺に隙を作るための罠だった。
三度目の反射にて、最速で、最短で、一直線に俺の首を取りに来た。
この一撃は躱せない。腕を持っていかれる覚悟でガードをしようとするも間に合わない。
だが、その一瞬でどこかからの閃きが、俺の体を突き動かした。
まぁ実際には無理な機動の更に無理な機動で体を倒しただけなので、次に反射が来たら実際お陀仏だろう。
「やらせはしない!即興必殺、バブルヴェール!」
その自分の窮地を救ってくれたのは、バブルビームさんの出した泡のヴェールだった。
「バブルビームさん⁉︎そんな泡だけじゃあ...そうか!」
「僕の泡も光を反射する、鏡だ!なら騎士は突っ込めない、鏡に反射されてしまうからだ!」
その仮説が正しいかは、騎士の動きを見ればわかるだろう。騎士は泡に突っ込まず、剣を振るって泡を払う事もせず、ただ、立ち止まった。
「バブルビームさん、大当たりです!騎士は泡をどうにもできません!」
「でもこの泡の密度を維持するのはそう長くできない。そろそろ水切れだ!だから、その隙に打開策を!」
「大丈夫。あと1分時間を頂戴。この状況を打開してみせる!」
サンドウィッチさんの言葉に、無言で頷く俺たち。
「1分持ちます?バブルビームさん。」
「両面は無理、だから片面だけに絞る。もう片面はメグル、任せたよ。」
「責任重大ですね。皆で死ぬか、皆で生きるか!任せてください、お二方の命、預かりました!」
バブルビームさんの奇策のお陰で体勢は立て直せた。敵の高速反射も泡で防げる。ここからは、純粋な近接勝負だ。奴の剣戟か、俺の格闘か、どちらが強いかの。
印を結ぶ隙などないだろう。小細工は不可能だ。
「かかってこい!鏡の騎士!」
『フッ、行くぞ団扇巡。』
「唐突に喋るなびっくりするだろうが!」
すり足で寄ってくる鏡の騎士。1分で終わらせないといけない筈なのに欠片も焦りやしねぇ。本当に厄介だ。
こちらもすり足で近づく。リーチは向こうの方が長い。先手は向こうだ。その先手をどう捌けるかが鍵だ。
『お前の存在は世界を滅ぼしかねない。故に切る。』
「世迷言言ってんじゃねえよ、人1人で世界が滅ぶ訳あるか。」
『滅ぶさ、貴様のようなイレギュラーがまかり通ってしまうのならば。』
非常に興味深い話だが、そういうのは捕らえた後で聞こう。
もう、奴の攻撃圏内だ。
走る横一線、半歩退がり回避。
そのまま一歩踏み込まれ、勢いを乗せたままの回転斬り。首を狙うその一撃をしゃがむ事で回避。
移動術で踏み込み桜花衝、回転の勢いのまま盾を叩きつける事で迎撃された。
衝撃でお互いに吹き飛ぶ。俺はバブルビームさんとサンドウィッチさんの目の前に。騎士は鏡のヴェールの目の前に。
再びすり足でお互いに近づく。ここまでで約20秒、あと二度だ。
再び奴の攻撃圏内。胴狙いの刺突、左手で逸らす。そのままチャクラの吸着を使い剣を固定。騎士は即座にモヤと化して剣を逃す。
剣に意識が取られているうちに腹に桜花衝を叩き込む。だが、騎士は
『終わりだ、イレギュラー。』
「まだ、終わりたいほど生きてはいねぇよ!即興必殺、怪力乱心!」
腹に腕を絡め取られた自分は、チャクラコントロールを足、腰と流動させてその腕を使って騎士を上に無理矢理投げる。天井咄嗟に放たれた騎士の斬撃により右腕に傷がついたものの深くはない。まだ戦える。
天井に叩きつけられかけた騎士は、一瞬モヤとなったのち、天井に着地した体勢へと変化した。天井を蹴り、落下の力を利用した大上段が来る。
無理矢理投げた反動で動けない今、その斬撃は致命的だ。だが、もうこんな状況からの回避行動は慣れたものだ。今日だけで何度死にかけたことか。
チャクラを爆発的に放出して体勢を立て直し、両足の小さい移動術で大上段を回避する。そのついでに横腹に向けて桜花衝を放つ。今度はすかされずに直撃し、騎士は壁に激突した。
コレで約40秒、おそらくあと一度の交錯で1分だ。
「バブルビームさん、泡は?」
「ごめん、そろそろきついかも。ラスト10秒は反射使われると思っておいて。」
話しつつハンドサインで示されたやりとりに思わずクスリとする。相変わらず食えない人だ。
「さ、ラストよろしくね。」
「嫌ですねガチに。このまま倒れたままでいてくれませんかねーあの無敵ナイト。」
案の定一瞬モヤとなった後で無傷となり立ち上がる騎士。実はダメージが蓄積していた!というオチを期待してもバチは当たらないんじゃあないだろうか。
まぁ、人の夢と書いて儚いと読むものだ。期待せずにいこう。
すり足でお互いに近づく。三度目の交錯だ。
三度目の正直で殺されない事を祈ろう。
騎士の攻撃圏内に入る。すると騎士は一体化している盾と剣を外し、剣を両手で持った。
その構え、剣術にそう詳しくない自分でも知っている。
「今まで三味線弾いてやがったのかこの無敵ナイト。冗談は能力だけにしてくれよ...ッ!」
その天高く剣を構える、一の太刀を信じぬく流派。
「示現流...ッ!」
一瞬の静寂の後、騎士は叫びとともに斬りかかってきた。
『チェストォオオオオオオオオオ!』
思考よりも速く身体は動いた。左右に躱すのも後ろに下がって躱すのも無理だ、剣速が速すぎる。捌くのも同様に無理だ。
故に、俺が生き残る道はただ1つ、前だ。両手で剣構えるようになった事で生まれた握りの部分、剣が最高速に達する前にそこを撃ち抜く!
「桜花衝!」
握りを弾き飛ばされたことで剣を落とす騎士。剣の再構成のためモヤと化して逃げられる。
だが、このタイミングでバブルビームさんの泡が尽きた。またあの超速機動が来る!
案の定、騎士は鏡に最高速で突っ込んだ。
「という罠を、僕たちは仕掛けていたのでした。」
向かいの鏡に騎士が入った瞬間に、貯めていた泡を使って壁全体をバブルヴェールで覆うバブルビームさん。騎士は、鏡と泡で挟まれ、身動きを取れなくなっていた。
「
「ハンドサイン出された時笑い堪えるのちょっと大変だったんですからね。後でなんか奢ってください。甘いやつ。」
「やだ。」
「後輩サービスが行き届いてない先輩ですね。エンデヴァーさんに訴えたいです。」
「エンデヴァーさんそういうとこ疎いから、訴えるならサンドウィッチさんかライズアップさんに言った方が良いよ。...さて、そろそろ時間だ。」
「ええ、もう1分です。サンドウィッチさんが失敗してたら死にますね俺たち。」
「ま、大丈夫でしょ。」
バブルビームさんの泡が途切れて、騎士が再び俺たちの前に現れる。
念のため戦う体勢を取るも、鏡のヴェールが消えていき、それに伴い騎士も姿を形作れなくなっていった。俺たちの勝ちだ。
「サンドウィッチさん、お疲れ様です。」
「あー、神経使った。バブルビーム、メグル、角曲がって5mの所に2人倒れてるから捕縛しちゃって。」
「了解。」
角を曲がった先に、砂で首を絞められて倒れている青いスーツの男と、黒いタンクトップにミリタリーパンツの筋肉質の男性が倒れていた。筋肉質の男性には、騎士のモヤが向かっている。遠隔操縦の個性とは、意識を飛ばして個性を操作するというものだったのだろう。
まぁ、こうして寝起きを叩けるのだから無力化は容易だ。
「というわけで写輪眼!さぁ、言いなりになってもらうぜ鏡の騎士。とりあえず青スーツを運んでもらおう。」
「...承知した。」
「出た、メグルの鬼畜催眠。味方だと頼りになるねー。」
そうして、青いスーツの男性を見る。その顔を見て、自分とバブルビームさんは一瞬言葉が出なかった。
「2人とも、どうしたの?」
「サンドウィッチさん、件の占い師の顔って、クリスタルアイさんに見せてあの男ってことになったんですよね。」
「ええ、そうよ。」
「で、鏡が消えたことから考えると、サンドウィッチさんが倒したのは鏡の個性の人物に間違いない。だとすると、
占い師を捕らえた事でかえって謎は深まってしまった。個性の複数持ち、あるいは複合型の個性という可能性が頭をよぎる。だがまぁとりあえずはいいだろう。あとは取り調べでわかる事だ。
「2人とも、コイツらは重要参考人よ。さっさと上あがって警察に引き渡しましょう。」
「ですね。とりあえずメイデンに入れとけば間違いはないですし。」
サンドウィッチさんの方針通り、とりあえずこの2人を引き渡そう。
「一応だけど、メグルもバブルビームも周囲の警戒を怠らないで。何かトラップが仕掛けられている可能性はゼロじゃないわ。」
その言葉とともに行動を開始しようとすると、地下施設を揺るがすような大きな音が鳴り響いた。
方向的に言って、自分たちが歩いてきた方だ。
「影分身を警戒に出します。下手したら地下が崩壊するかもしれないので、移動は急ぎでいきましょう。」
「お願い。」
影分身を先に走らせる。直線ルートなので迷う事はない。安心だ。
軽く見たところ崩壊の前兆のようなものは見られない。この違法地下施設って思ったよりもちゃんと作られているのかもしれないと思った。
すると、影分身の経験が共有され自身に今の状況を告げてくる。
時間がない。急がねば。
説明する時間も惜しいのでサンドウィッチさんに催眠の応用で情報を伝達。戸惑う事なく「行きなさい、メグル!」とゴーサインを出してくれた。ありがたい。
今は走る。ただ命を救う為に。
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影分身が伝えた位置に辿り着く、そこには力を敵の個性で吸い取られたらしいリューキュウがいた。
「リューキュウさん、サー・ナイトアイは⁉︎」
「ウラビティに運ばせて上にいる!急いで!」
「了解!」
移動術で上に空いている大穴に向けて飛ぶ。影分身の位置をついでに目視できた。サー・ナイトアイの治療中だ。
サー・ナイトアイは、治崎の個性により作られたコンクリートの槍によって腕をもがれて腹を貫かれていた。おそらく主要臓器のいくつかにも傷が付いているだろう。影分身を槍を抜く担当と掌仙術で治療する担当の2人で作業を分担しているが絶対的に治療の手が足りてない。すぐに近寄り印を結んでチャクラを調律する。
「遅くなった、出血は!」
「かなりある!捥がれた腕からかなり持っていかれたらしい!でも止血は終わってる!」
「わかった。助けるぞ、この命!」
「待て、メグル。君は、君の行動は見えてなかった。もしかしたら、君なら救えるかもしれない。緑谷を...」
「怪我人が喋らないでください、あなたの命は俺が助けます。まずはそれからです。」
写輪眼による麻酔で痛みを消しているとはいえ、喋るには相当の力が必要な筈だ。それなのに話すとは、それだけ大事な話なのだろう。
だが、出久の事に関してなら、言えることは1つある。
「俺は、誰かを救けるために走る緑谷出久は本物のヒーローだって信じてます。だから、大丈夫ですよ。」
理由など考えるまでもない。ただ信じられる。それだけの事を緑谷出久という奴はやってのけてくれていたのだから。
まぁ、事が終わるたびにいつもボロボロになっているのでその辺はかなり心配なのだがそれは別の話。
治療を進める。チャクラを流し込み徐々に傷ついた臓器を再生させていき、それに伴いコンクリートの槍を引き抜いていく。難しい手術だ。だが、やらなければ間違いなくこの人は死んでしまう。それしかないのだからやるしかない。
写輪眼による自己暗示で集中力を高め、どうにか治療を進めていく。
だが、傷が深すぎる。臓器の損傷が大きすぎる。
槍が、邪魔だ。
そのうちチャクラ切れで治療役の影分身が1人消える。本体の俺もチャクラ切れ寸前だ。だけど、ギリギリまで治療を続ける。
影分身を解除して再展開。槍を抜くチャクラ担当のチャクラ消費は少なかったためまだあと少しだけ治療ができる。
槍を少しずつ抜きながら治療を行う。もはや止血は応急処置キットで行うモノと諦めて、臓器の治療にのみ集中して取り掛かる。
もう少しで槍が抜ける所まで治療を行った段階で完全にチャクラが切れた。
「今の状況で槍を固定して救急車を待ちます。すいませんサー・ナイトアイ、俺が出来る事はここまでです。」
「いいや、大分楽になった。君の手の暖かさが、そう思わせてくれた。君は、よくやってくれたよ。」
「それ、多分催眠で痛みを誤魔化されてるだけなんで過信はしないで下さいね。あと、怪我人が喋らないでください。」
バックパックから応急キットを取り出し包帯などを使って止血とコンクリートの槍の固定を行う。コンクリートの槍は治療開始前と比べたらかなり抜けたが、それでも体の中に異物が刺さっている状況、予断は許されない。
「サー・ナイトアイ。救急隊員呼んできます。死なないで下さいね。死んだら殺します。」
「それは、怖いな。」
そう言葉を残して、サイレンの音の方へと急ぐ。誰かが救急車を呼んでくれたのだろう。ありがたい事だ。
「こっちです!重傷者!背中から腹部にかけてコンクリの槍に貫かれてます!」
「わかった、今行く!」
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そうして、午前9:15分。突入開始から45分でエリちゃんの救出、負傷者の保護などの諸々が終了した。
救急車へとサー・ナイトアイが乗る時に緑谷に告げた言葉が耳に残っている。
「緑谷...おまえは未来を、捻じ曲げた。」
緑谷が未来を捻じ曲げたこと。それも鏡の騎士の言うイレギュラーなのだろうか。悩みは尽きないが、今はとりあえず緊張が解けて立ち上がれないこの状況をどうにかできるように休息を取ろう。
「団扇ちゃん。大丈夫?」
「蛙吹か。チャクラ...体力切れに集中切れが重なって立ち上がれない。ちょっと肩貸してくれ。」
「ケロケロ、梅雨ちゃんでいいのよ?」
「恥ずかしいんだって。察してくれ。」
蛙吹の肩を借りて立ち上がる。
かなりあると噂の場所に手が当たりそうになるのを気合いで阻止しながら歩く。
「メグル、無事かい⁉︎」
「バブルビームさん...はい、俺は無事です。でも、サー・ナイトアイを治療しきる事はできませんでした。」
「...そっか。」
「はい。」
「団扇ちゃんは立てなくなるくらい本気で頑張ったわ。なら、あとはお医者さん達に任せましょう。」
流石蛙吹だ。冷静で、でもどこか暖かい。まさか、これがバブみと言うやつなのか⁉︎
「団扇ちゃん、変なこと考えてる?」
「女子とこんな急接近してて変な事を考えない男はいない。これは断言できる。」
「落とすわね。」
「前もって言ってくれるだけ有情だな。」
「ケロケロ。」
蛙吹が掴んでいた腕を離す。多少回復した体力でどうにか体勢を立て直す。というかバブルビームさんの方に倒れこむ。
「キャッチ成功っと。本当に自力で立てないんだね。」
「すいません、ガチに体力が切れてるんで。」
そんな体力がないどうしようもない状況でも可能な事を探すために周囲の警戒をすると、どこか暗い顔している麗日が見えた。
思えば、ナイトアイを地上に運んだのは麗日だ。なにか思うことがあったのだろう。
「人事尽くして天命を待つ、とは言うことだけれども、俺は、本当に人事を尽くせたのかねぇ。」
もっと出来ることがあったのではないか、そんな事ばかりが頭をよぎる。
サー・ナイトアイが死ぬかどうかは、正直五分五分だ。
救命講習だけで大した経験のない俺がそう思えるのだから、実際にはもっと生きられる確率は低いかもしれない。
その時、携帯に電話がかかる。相澤先生からだ。
「サー・ナイトアイが話したい事があるって、俺を呼んでいる見たいです。」
「...そっか、行ってあげて。」
「...はい。」
近くにいた警官の1人に事情を説明して、病院までの足になって貰った。
正直、嫌な予感しかしない。だけれども行かなくてはならない。俺が、俺の処置がどのような結果を招いたのかをこの目で確と確かめるために。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「メグルです。入りますね。」
手術室のドアをノックして入る。部屋にはナイトアイ事務所のバブルガールさんとセンチピーダーさんがいた。
「随分いろんなものが腕に刺さってますけど、大丈夫なんですか?サー・ナイトアイ。約束、忘れた訳じゃないですよね。」
心配させないように強気の仮面を被って声をかける。少しでもナイトアイの心に生きる気力を与えたいが為に
その言葉に答えたのは、涙を堪えているバブルガールさんだった。
「メグルくん。サーは、明日を迎えられるかは五分五分だって。でも、臓器の損傷がほとんど治されていたから、もしかしたら生きられるかもしれないって!今なら、点滴で体力が回復すればリカバリーガールの治癒でなんとかなるかもしれないって!...ありがとう、メグルくん。」
強い感情のこもったその言葉に、仮面が外れかける。だがダメだ、命の危機にいるサー・ナイトアイに心配などかけさせられない。強く心を持とう。
「団扇巡、君に頼みたい事があって、こうして呼ばせて貰った。」
「はい、聞いてます。でも、下らない要件だったなら催眠で黙らせます。貴重な体力を無駄にしないでください。あなたには、明日があるんですから。」
「フフ、そうだな。」
サー・ナイトアイは一度深呼吸をした後、こう告げた。
「私の勘違いかもしれない。だが、君の、君にあるかもしれない運命を変える力を信じて頼みたい事がある。」
「...なんですか?」
「オールマイトを助ける、緑谷を助けてくれ。」
そこで直接オールマイトを助けてと言わないあたり、サーにとって緑谷も大きな存在になっているのだと思うと、少し嬉しくなった。
「頼まれるまでもありません。友人と恩師、どちらが危機に陥っても必ず助けてみせます。俺、そこそこ強いですから。」
そう言って力こぶを作る。
「そうか、それなら安心だ。」
サー・ナイトアイは、笑顔を見せてくれた。こんな風に笑う人だったのかと、ちょっと驚いたのは内緒だ。
「言いたい事はそれだけですか?なら自分はこれにて。詳しい話は明日にでも聞きますよ。」
「フッ、そうだな。そうしてくれ。」
その言葉とともに、俺は手術室から去っていった。
まぁ、案の定ドアを閉めた瞬間に倒れかけるレベルの体力事情だったのだが。ランニングの距離増やすかなぁ...
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不思議な少年だとサー・ナイトアイは思う。
違和感に気付いたのは治崎の未来を見た時だ。自分の救出に駆けつけるヒーローのなかにその少年の姿は見えなかった。
なのに現れた。運命など知らぬと言わんばかりに。
そして自分の命を全身全霊で助けてくれた。
彼には、いずれ礼をしないといけないな。なんて事を思いながら意識を保つ。
運命の内側から未来を変えて見せた緑谷出久。
運命の外側から未来を変えようとする団扇巡。
そして、未来に立派なヒーローになると確信できる通形ミリオ
この3人がいるのなら、きっとこの先の未来も大丈夫だろう。
ただ、その中の1人にまだ何も教えられていない事が気がかりになって、それが明日を生きる気力に繋がってきた気がした。
きっと未来は明るい。だから自分も頑張ろう。
死穢八斎會編、一先ず終了!
次話でエピローグ兼プロローグを投げて空白期間編へと突入ですねー。雄英白書4とかで書かれそうな期間です。コワイ!