【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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遅くなりました。その上リカバリーガール登場させれないとかいう構成ミス、あかんわコレ。
あ、執筆遅れた理由はやっぱりイカです。射程が欲しい!キルタイム欲しい!塗りたい!そうだ、竹だ!という謎の発想から生まれてしまったS+竹使い。意外な事にそれなりに勝ててます。


発目明と性質変化とレポート

「団扇くん、なんかげっそりしてない?」

「いや、ちょっとリカバリーガールに出されたレポートが思った以上に難敵でな。今も部屋で影分身が作業続けているのさ。そのせいでスタミナが半分近く持っていかれててなー。」

「分身できるって便利な個性やと思ったけど、デメリットもあるんやねー。」

「俺に無尽蔵のスタミナがあればいいんだが...やっぱランニングの距離増やすかなー。」

「...団扇くんって毎朝雄英一周とかやってなかったっけ、まだ増やすの?」

「いや、じゃないといざって時動けないし。」

 

0限始まる前のちょっとした会話である。

ヒーロー基礎学演習を乗り切れるか少し不安だが、授業聞きながらチャクラを回復させればきっと大丈夫だろう。

...きっと大丈夫だろう(震え声)

 

そんなことを頭の隅に置きつつプレゼントマイク先生の英語の授業を聞き流す。この世界に生まれ変わって唯一前世の知識がまともに使える科目なので多少集中が途切れても問題はない。プレゼントマイク先生の授業もぶっちゃけ普通なので教科書から大きくずれた問題がテストに出ることはない。つまり教科書および単語帳の英単語をしっかり覚えておけば困る事はないのだ。なぜ単語を覚える必要があるかって?

 

「ヘイ!そこの珍しく眠そうなリスナー!この文を訳してみな!」

「はい。ジュディは個性:感覚鋭敏化を用いて(ヴィラン)の姿を察知しようとしたが、その考えを読まれたのか(ヴィラン)に音響閃光弾を使われ絶体絶命の窮地に陥った。です。」

「オーケー、ちゃんと授業は聞いてるようで安心だぜ!それじゃあ今日はここまで、ジュディがこれからどうなったかについてはきちんと予習しておくんだぜ!シーユーネクストタイム!」

 

使われる英単語が、前世でお目にかからないような物騒なものばかりだからである。いや、フラッシュバンとかはまだいい、たまに当然のように型番で銃の事を書いたりしてるのだこの教科書は。まぁ、確かに海外でヒーロー活動をすると仮定するならば必要な知識であるから文句はないのだが。こういう物騒な会話が日常で必要になる世界だと考えると、少し悲しくなる訳だったりする。

 

そんなことを考えていた0限を終えると、教室の外で待っていた飯田が真っ先に「おはよう皆!」と入ってくる。

0限が始まってから今日まで皆勤賞だ。流石のA組委員長である。それから朝早い連中から遅い連中まで大体決まった順番で入ってきてホームルームの開始だ。

 

それからはいつも通りの授業を2限まで行い3、4限の演習が始まる。今日はヒーロー基礎学の山岳救助訓練、又の名を地獄の崖登り。俺がインターンでいない時に一度行った訓練だそうなので、皆は2度目の訓練なのだそうだ。

遅れをとる訳にはいかないと、念のためこのタイミングでレポート書いてる影分身のチャクラを回収したが、必要なかったかもしれない。

 

「団扇お前どうなってんだ⁉︎崖を垂直に走ってやがる!」

「個性のちょっとした応用だ!」

 

なかなか役に立つ壁走りの術大活躍の瞬間であった。

 

そして体力をいい感じに消費した頃に昼食だ。とろろ定食ご飯大盛り(290円)は貧乏学生の強い味方である。

ステーキ定食(720円)に憧れる気持ちが無いわけではないが、それはインターンの給料が出て、サイフポイントの憂いがなくなってから自分へのご褒美として頂くとしよう。

 

早くインターン再開しないかなー。

 

そして昼が終わってからが本当の勝負だ。残り6限とか考えるだけでも嫌になってくる気持ちはないではないが自分で選んだ道なのだ、頑張ろう。

 

だが、今日の本当の試練は6限終わってすぐの休み時間にやってきた。

 

「マグロさんマグロさんマグロさん!」

 

ドカンとドアを開けずざざーっと俺の元へやってきて肩をぐわんぐわん揺らして来たこの発明ガールの来訪によって。

 

「いきなり何だ発目!まだ6限終わりだぞ!」

「そんな些末な事はどうでも良いのです!実験しましょう研究しましょう解析しましょう!できるのならば解剖しましょう!」

「実験研究はともかく解剖は出来るか!死ぬわ!何をトチ狂った、訳を話せ発明バカ!」

「褒めないで下さいよマグロさん。」

「今に限っちゃ褒めてねぇよ!」

 

そういきなりのスーパーハイテンションに巻き込まれるものの、トチ狂った原因は発目の持つ携帯端末が開いている論文のタイトルを見て納得した。

タイトルは、『身体エネルギーと精神エネルギーの混合による新エネルギー"チャクラ"による治癒能力の付加についての報告』著者は白鳥識目、つまり俺の治験データの報告書だろう。

 

「水臭いじゃないですか!個性エネルギーの一段先のエネルギーを使っていたなんて!技術革命ですよマグロさん!そしてその革命的データを取るチャンス、燃えない訳ないじゃないですか!」

「まぁ待て、ヒーロー科はこれから7限だ。それに補習が3限ついてくる。だからデータ取るのは7時以降になっちまうが構わないか?」

「駄目です、増えて下さい。今すぐやりましょう。」

「...いや、何故に主導権がそっちにあるんだ?」

「もう機材を借りてしまったからです!サーモグラフィーに個性因子測定機器!そしてパワーローダー先生の知り合いが作った個性エネルギー測定機器のプロトタイプ!どうです?燃えて来ませんか!」

 

なんだかよくわからない測定機械たちにプロトタイプという言葉、乗りたくなる気持ちがちょっと湧いてきた。

 

「そう聞くとなんだか興味は出てくるな。」

「でしょう!さぁ増えて下さい!そして偽物を教室に置いて一緒に研究の旅に出ましょう!」

「逆だよな!分身をお前の実験に付き合わせるのにはギリギリ納得できる。けどなんで本体が補習サボってお前に付き合わなくちゃなんないんだよ!」

「本体じゃないと測定に影響が出るかもしれないじゃないですか!ほら、時間がありません、増えて下さい!」

「無茶言うな!」

 

「今度ステーキ定食奢りますので!」

「......すまんが断る。ステーキ定食は食いたいけど、食いたいけど!」

「団扇くん!君はたかだか一食で発目くんの悪の誘いに乗りかけていなかったか⁉︎」

 

様子を見ていた飯田が思わず口を挟んでくる。いや、貧乏学生にとっては一食は大きいのだ。仕方なかろうに。

 

そして7限のエクトプラズム先生がやってきた事で「くっ諦めませんからね!」と一旦引き下がった。

 

そう、一旦だ。ホームルームが終わってから奴は再びやってきた。

 

「マグロさんマグロさんマグロさん!」

「答えはノーだよ馬鹿野郎!」

「野郎ではありません!機材の貸し出し時間はギリギリですが今ならまだ使えます、さぁ増えて下さい!」

「ノーだって言ってるよな⁉︎」

「お願いします、焼肉定食奢ってあげますから!」

「グレード下がってんじゃねぇか!」

「そんな些細なことはどうでもいいじゃないですか!さぁ早く!」

「だからノーだって言ってんだろ!」

 

そして8限で一旦間を開け諦めたのかと思った次の休み時間、9限終わりに発目は再びやってきた

 

「測定装置は駄目でしたけど、個性実験室借りる事に成功しました!時間は7時からです!」

「あれ、当然のように俺が行く事を前提にしてない?お前。」

「マグロさんなら来てくれるでしょう?」

「まぁ補習終わった後でいいなら行くけどさ。」

「団扇くん、行くんやね...リカバリーガールのレポート大丈夫なん?」

「多分な。まぁ明後日提出だから大丈夫だろ。」

「レポート?何か課題出ているんですかマグロさん。」

「ああ、超常発生以後の医術の変化についてだよ。」

「それはなかなかに重い課題ですね。参考文献探し手伝いましょうか?」

「お、頼むわ。超常発生××年までは纏まったからそれ以降な。」

「それ、そこから個性医療が本格化し始める頃じゃないですか。」

「あーそっか、リカバリーガールが活躍し始めるのこの辺りからか。やべ、レポートの本番ここからじゃん。」

「そこに気付かないとかマグロさん地味に抜けてますよねー。」

「うっせ、自覚してるわ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして10限が終わり夜7時、10限を担当してくれたエクトプラズム先生が授業を早く切り上げてくれたお陰で特に時間の遅れと発目の暴走もなく発目と合流することができた。まぁ余った時間であっさりと新アイテムを作っていたというのだから発目明という女は侮れない。

 

「さて、これからどうするんだ?」

「ハイ!個性実験室を借りれましたので、そこで実験となります!」

「個性実験室か、まだ行ったことないな。」

「あの部屋結構便利ですよー、主にサポート科の装備実験場となってますけど。」

「...いや、個性実験はどこ行ったよ。」

「そんな細かいことはいいじゃないですか。」

「細かいか?...まぁいいや、個性実験室ってどんな部屋なんだ?」

「耐火、耐水、耐電、耐衝撃性能が高くて各種センサー機器も揃ってる部屋ですよ。...本当は最新機器をいろいろ搬入する予定でしたのに、マグロさんがすぐに頷いてくれないから...」

「いや、頷けるかあんな提案。先生方はわざわざ時間を割いて俺たちの補習に付き合ってくれてるんだぞ、そこに真剣に向き合わないのは失礼だ。」

「ステーキ定食で迷った癖に。」

「実行はしてないからセーフだ、多分。」

 

そんなこんなで個性実験室にたどり着いた俺と発目、発目は部屋のセンサー類をシュバババっと調整して、窓越しにあるオペレータールームに移動した。

 

「では、測定を始めます!マグロさん、まずは個性を使わない状態で測定装置に映って下さい。」

「場所はここで良いか?」

「...はい!オーケーです!では次に、精神エネルギーを体に纏わせて下さい!チャクラとやらにはしないままで!」

「オーケー。精神エネルギー、展開!」

「うーん、変化は見えませんねー。まぁ予想済みでしたが。それでは、本命の新エネルギーをお願いします!」

「あいよー」

 

深呼吸一回。一度全身に巡らせた精神エネルギーを消し、寅の印を組んで丹田にて身体エネルギーと精神エネルギーを混合させチャクラを生み出す。

 

「マグロさんの体温が約一度上がりました。でも観測できるのはそれだけです。個性エネルギー測定装置があればもっと違うものも見えたと思うんですけどね!マグロさんが授業をサボってくれれば...」

「サボるか馬鹿野郎。一応優等生なんだよ俺は。」

「野郎じゃないですー。」

 

発目が測定できているのはおそらくチャクラの性質変化したものだ。

 

寅の印を結ぶことでチャクラが火遁の性質変化を潜在的に帯び、それが熱エネルギーとして現れたのだろう。他の印なら違う結果が現れるかもしれない。

 

そんな事を発目に伝えると「じゃあ見つけ出した全ての印を使って下さい!」と当然のようにのたまってきた。

 

子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥の基本印12個でチャクラを練り上げたときの変化を科学的に観測することで性質変化へのアプローチになれば良いなあという期待から、まぁこのオーダーは受け入れた。水遁と土遁は使って見たい術だらけなのだ。

 

「じゃあ行くぞ!」

「はい!」

 

結果、寅の印での体温上昇以外に、酉の印にて空気の流れが発生し、巳の印にて俺の体重が土がまとわりつくことにより2g程度上昇し、卯の印にて体表面に微弱な電位が発生するということがわかった。あれ、水遁先輩の霊圧はどこいった?

 

「面白いエネルギーですね。火に風に土に電気、関連性のなさそうな4種類のエネルギーに変換可能だなんて。」

「写輪眼で見た色の具合から言って水遁もいけると思うんだが俺には発動できなさそうだわ。体の相性かねー。」

「ま、そういう事は比較対象が現れてから調べましょう。今はマグロさん自身のデータ取りの時間です。...フフ、フフフ!こんなエネルギー変化を起こせる人が使い手ならばあんなベイビーやこんなベイビー!いろんなアイデアが湧いてきますよマグロさん!」

「それのテストするの俺だろうから言っておくけど、安全第一なアイテムで頼むぞ。」

「マグロさんなら多少の問題大丈夫じゃないですか。治せるんですし。」

「そう言って妥協していくと即死レベルの事故が起こりそうで怖いんだよ!」

「そんなもしも、考えるだけ無駄ですよ!さぁ、続きといきましょう!マグロさん、そのエネルギー変化を使った技を使ってください!」

「よしきた、と言ってもそんな術は一つしかないんだがな!」

 

巳未申亥午寅と印を結び、大きく息を吸い込んでそこに火の性質変化を加え、それを全力で吐き出す事で豪火と成す!

 

「火遁、豪火球の術!」

 

チャクラ消費をケチるため、ちょっと抑えめの豪火球を放つ。すると発目は「おお!」っと目を輝かせてきた。嫌な予感がする。

 

「マグロさんマグロさん!予想以上のデータですよ!ただ火を吹く個性とは似ても似つきません!チャクラによって肺から先を擬似的な火炎袋にしたんですかね!そこんところどうなんですかマグロさん!」

「すまん、実は原理は感覚でしかわかってないんだ。」

「じゃあ実験して確かめてみるしかありませんね!もう一回お願いします!センサーの感度を変えてみるので!」

「チャクラ消費大きいからあんま乱発したくないんだがなぁ。」

 

再び印を結んで豪火球を放つ。火を吹き終わった後で発目を見ると凄い良い笑顔をしていた。

 

「凄いですどうなってるんですかマグロさん!体内で炎を作ってるんじゃなくて、口から空気が出た瞬間に炎が出来上がってます!それが新エネルギーの性質なんですか⁉︎」

 

未知の現象に喜んでいたのか...やはり発目は大した奴だ。

 

「すまん、エネルギーの性質うんぬんはまだ分からん。」

「というのはわかっていました!なら実験です!マグロさん新エネルギーを口以外から出せますよね!」

「一応な、じゃなきゃ医療忍術なんて出来ねぇよ。」

「では何か火を使う技をやってみてください!」

「とは言ってもなぁ...」

 

即興で忍術が成功するほどの天才ではないのだが、一応思いついている術はある。せっかくなのでテストといこう。

 

寅の印により火の性質変化を、薄く広く地面にチャクラを形態変化をするイメージで適当にチャクラを流す。

 

「即興忍術、火焔流しの術!」

 

地面についた手から火が広がる。弱火だから戦闘時には脅しにすらならないが、災害救助時などの種火に使う分には十分だろう。

 

「多芸ですねーマグロさん。」

「...正直自分でも成功するとは思わなかった。豪火球で火遁に慣れたからかね。」

「まぁいいじゃないですかそんな事は!センサーは捉えましたよそのプロセスを!手のひらから熱が地面に伝わりそれが床の材質の発火点に達していないのに燃え上がった!間違いなくそこにあります、それが新エネルギー!...何かの容器に保存できませんかね。」

「ちょっとした火炎瓶になりそうだな...うん、使えそうだ。今度やってみるか。」

「流石マグロさん話がわかりますね。とはいえこの結果は新エネルギーを観測できていないという事の裏返し、やっぱりマグロさんがサボってくれれていれば...」

「いや、サボりはしねぇよ。てか何度目だよそれ。」

「さぁ?数えてなんかいませんから。それよか他のエネルギー変化現象でいまの地面に流すの試してくださいよ。発生の前兆を比較する事で新エネルギーの正体に迫れるかもしれません。」

「...期待するなよ?火遁以外はへっぽこなんだから。」

 

とりあえずイメージのしやすい雷遁の流し、千鳥流しを試してみる。組むのは卯の印だ。形態変化のイメージは先程と同様に、性質変化のイメージは上鳴の帯電を意識して行う。ゆっくりとチャクラを練り上げていざ発動する!

 

「即興忍術、千鳥流し!」

 

チャクラはしっかりと床に伝道した。それは写輪眼で見えたから確かな事だ。だが、バチバチと雷が流れる事は無かった。うん、予想通りの結果である。

 

「マグロさん、手を抜いてません?」

「言っただろ火遁以外は苦手だって!」

「まぁ、センサーはしっかりと電気の流れを捉えてるんですけどね、5V程度の電位差ですけれど。」

「うわ、俺の電圧低すぎ...」

「ま、そんな低い電圧でも流れているという事は新エネルギーが伝導体になっているという事ですから、おそらく火の時と同様のプロセスでしょう。次行ってください!」

「よし、次は風遁行くか。」

 

組む印は酉、性質変化のイメージは夜嵐の烈風だ。

 

「即興忍術、烈風流しの術!」

 

手をついた地面から、団扇で一度仰いだ程度の微風が流れ出た。術の名前を微風流しに改名しようか悩む所である。まぁ今後烈風にしてみせるという思いを込めて烈風流しのままにしよう。

 

「うーん、微妙ですね。風は新エネルギーからの変化プロセスが見えませんでした。データとしては残しておきますけど新エネルギーの証明には使えませんね。次行ってください。」

「最後は土遁だな。巳の印組んで、と。」

 

イメージはピクシーボブの土流操作と八百万の創造の合わせ技だ。チャクラをただ流すだけじゃなく、土を創造するようにチャクラを編んでいき、それを手のひらから流しだすイメージで。

 

「即興忍術、土流流しの術!」

 

手をついた地面から土が流れ出ていく。その量はそう多くなかったが、薄く広く広がっていき、周囲1mほどまで広がった。

 

「これはちょっと手応えありだわ。俺は火遁の次に土遁が得意なのかね。」

「マグロさんマグロさん。センサーで見てますけど、体に何か異常はありませんか?」

「いや、特に何も。せいぜいちょっと疲れたくらいだよ。」

「体重変化なし、となるとスタミナを使った土の創造?新エネルギーが土に変化する瞬間を動画で見てもエネルギーを測定できなかった。...新エネルギーには未知の部分が多いです。あ、その土はサンプルなので今から回収します。マグロさん動かないで下さいね。」

「はいよー。」

 

そうして発目が掃除機みたいなアイテムで土を回収した後で、「実験室の使用可能時間は終了だよ」とパワーローダー先生がやってきた。

 

「じゃあ、続きはまた今度に「何言ってるんですかマグロさん。これから外で実験ですよ」...はい?」

「当たり前じゃないですか、まだ私は新エネルギーの理解の入り口にも立っていないのですから!」

「一応聞くが、そろそろ帰らないと晩飯片付けられるんだがどうするんだ?」

「抜けばいいじゃないですか。一食抜いた程度で人は死にません。」

「明日も演習あるんだよ!エネルギー補給サボれるか!」

「...仕方ありませんね、晩御飯食べてきていいですよ。そのかわりご飯食べ終わったらすぐ来てくださいね!」

「...てか、夜間外出は基本禁止だろ。どこで実験する気だ?」

「あ、そんなルールありましたね。でもバレなきゃいいじゃないですか。」

「この学校監視ロボに見張られてない場所なんかねぇよ!」

「じゃあ私の部屋はどうですか?」

 

一瞬頭がフリーズする。何を言っているのかわかっているのだろうかこの女は。

 

「行く訳あるか。なんでわざわざ夜に女子の部屋に踏み込むなんて自殺行為をせにゃならんのだ。バレたら退学モノだぞ。」

「じゃあ私がマグロさんの部屋に行きます?」

「...いや、お前は自分が外見だけを見ると発育よろしい魅力的な女だって事を自覚しろ。」

「あ...マグロさん、エロい事考えてるんですね!」

「そうだよ悪いか!男子高校生なんだよ俺も!」

「なら仕方ありませんね。今回は潔く引き下がりましょう。マグロさんみたいな人、正直異性としては見ていないので。」

 

転生してからこのかた、そこそこイケメンに生まれ変わった筈なのにモテた試しはない。無情だなぁ...いや、よく考えてみたら発目みたいなのに惚れられる自分というのが全くもって想像できなかったから別に構わないのだが。

とはいえ女子に男として見られていないというのは地味に心に刺さる。だがちっぽけなプライドを総動員して虚勢をはることにする。

 

「...うん、まぁいいよ引き下がってくれるなら。」

「その代わり!明日も実験に付き合って貰いますからね!」

「いや、明日はレポートやらなきゃなんないから無理だって。」

「今夜終わらせればいいじゃないですか!そうすれば明日はフリー、つまりまた実験できます!」

「おかしい、俺のスケジュールが勝手にタイトにされていく。」

「なぁに、徹夜すればレポートなんてすぐ終わりますよ!」

「明日演習だって言ったよな⁉︎寝て体力回復させないと死ぬわ!」

「むぅ、わがままですねマグロさん。」

「お前にだけは言われたくないよ発明バカ。」

 

とりあえず自寮に帰って飯を食うところまではお互いに納得できたので一旦寮に戻る。夕食はバイキング形式なので目立ったおかずは全て取られている可能性はあるが最悪白米と味噌汁があればいい。ランチラッシュの米はそれだけで十二分に美味いのだから。

などという微妙に悲壮な覚悟は、いい方向に裏切られた。

 

「あ、団扇くんお帰り。おかず取っておいたよ、チキン南蛮。」

「出久、お前の背中から後光が見えてくる気がするわ。」

「何言ってるのさ。」

「ありがたやー、ありがたやー。」

「拝まれた⁉︎」

 

ありがたい出久大明神のお陰で貴重なおかず、しかも肉を補給することに成功した。これで今晩のレポートも乗り切れる!

 

と、いい方向に意気込んでいられたのは今日ここまで。発目からメッセージアプリの着信が来た。しっかりと味わって食べている途中だというのに。とはいえ無視すると余計に面倒になるのが発目明という女、一応電話には出るとしよう。

 

「もしもし、何だ発目。」

『マグロさんがレポートに取り掛かっているかの監視です。』

「いや、まだ飯食ってる最中なんだが。」

『遅いです、時間は有限なんですよ?早くレポートに取り掛かりましょう!私もお手伝いいたしますので!』

「あー、うん。それじゃあ参考文献くれ。」

『もう纏めてあります!今から送りますね!』

「おう、それじゃあ飯食べながら文献読ませて貰うわ。ありがとなー。」

 

と言ったあたりでメッセージアプリの着信音が届いたので一旦携帯を耳元から離す。添付ファイルとして送られてきたのは文献のpdfファイルのようだ

 

タップして中身を見ると、文献のタイトルは『最新の個性医療分野の変遷』、しかも原著論文ではなく総説論文、これは期待できるな。というかこれだけでいいんじゃないか?と思うレベルに今回の課題とベストマッチである。本当にありがとう発目。

 

「しかし意外だな、発目が医療系の事勉強してるなんて。」

『授業で出た課題です。正直サボりたかったんですがベイビー開発を人質に取られ仕方なく...』

「うん、誰だかわからないがグッジョブだわ。」

 

成る程、教師側としては発目はそう操っているのか。確かにこいつの場合、工房への立ち入りを禁止にすると脅せばイヤイヤながらもそれなりの事はするだろう。

 

そんな事を思いながらレポートを読む。内容はタイトル通りリカバリーガール登場以後からの医療分野について説明しているものだった。よし、これの核になってる部分をコピペして参考文献の欄にこれを入れよう。それでこの課題は8割終わりだ。あとはレポート書いた感想をでっちあげれば完成だろう。やったぜ。

まぁコピペする内容をしっかりと理解していなければこの課題の趣旨に反するのでしっかりと読み込まなくてはならないが。

 

「異形型個性の治療用に細胞や臓器のクローン生産、AIサポートありの手術ロボ、本当に未来だねぇ...」

 

超常が発生していなかったら人類は恒星間宇宙飛行を楽しんでいただろうとはエラ・イヒトの言葉だったか。調べれば調べるほどこの世界が未来なのだと感じる。21世紀に生きていた身としてはちょっとだけ疎外感を感じなくはない。

 

『何言ってるんですか、この技術が現代ですよ。』

「...確かにそうだな。よし!レポートは今日中に終わらせてみせる。明日も補習あるから7時以降になるけれど、それでも良いなら実験にも参加させて貰うわ。良い文献教えてもらったしな。」

『言質取りましたからね!バックれたら怒りますよ!』

「これでも約束は守る方なんだ。安心してくれ。」

『じゃあ明日はよろしくお願いします!』

 

とそんなで発目からの連絡は切れた。

さて、レポートをちゃちゃっと終わらせて睡眠を取らなくては。

 

尚、明日の実験で最新の観測機器というおもちゃを与えられた発目明という少女が大暴走をするという事実は、この時の俺には知るよしもなかった。いや想像するべきだったんだけどね。




というわけでチャクラ感応紙があれば一瞬で片付いたイベントでした。尚、メグルくんの性質変化の才能を10とすると、火遁6、水遁0、土遁2、雷遁1、風遁1くらいの強さです。何故水遁は犠牲になったかって?印のパターンがガチで全くわからないからです。風遁雷遁もかなり怪しいんですが、そこは独自設定とか使用者の体質に依るとかで納得してください。

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