せや、このまま投げよ!
という事で最高文量記録大幅更新です。やらかした感が否めない。
「NARUTO...?」
神郷の言ったその言葉は、俺を戦慄させるに十分なモノだった。
この世界にはNARUTOやBORUTOという漫画はない。それは俺が転生し、写輪眼を手に入れた時にすぐに調べたのだから間違いはないだろう。
そのほかにも多くの作品が前世と異なるモノとなっていたのは確認できている。
だから、この世界の住人が団扇一族の家紋を見てNARUTOという単語を思い浮かべる筈がないのだ。
「まさか、お前もなのか?」
「も...という事はメグルさんは⁉︎」
「...お互い、一旦落ち着こう。それはこんな人前でする話じゃない。」
「...確かにそうですね。」
その様子を見て、マネージャーさんとリカバリーガールは、「ちょっと外行ってくるよ」と空気を読んでくれた。ありがたいが、あとで話を聞かれるだろうから何かカバーストーリーを考えておかないといけないだろう。
「気を使われたな。」
「ええ、マネージャーさんって良い人ですから。ちょっと気弱ですけどね。」
「そりゃお前みたいな大問題児を抱えたんなら相対的に気弱にもなるだろ。」
「何ですか大問題児って。私これでも仕事に関しては真剣にやってるんですよ?」
「いや、真剣にやってる奴が腕の治療から逃げるなよ。」
「治療から逃げてたんじゃありません、仕事以外で男の人から触られるのが嫌で逃げてたんですー。それに腕の治療のアテもありましたから。」
「アテ?」
「私の個性です。見せた方が早いですかね...チェンジ、オヤユビヒメ。」
目の前の神郷の雰囲気が変わったのが感じられた。だが、見た目には何が変わったかはよくわからなかったので写輪眼を発動させてみる。すると、神郷の身体エネルギーの色が変わっていた。というよりも、違う色が被さっているという表現の方が正しいかもしれない。
「写輪眼!カッコいいですね。」
「そっちの個性もな。常闇の
「いいえ、今のところ使えるペルソナは4種類!ワイルドですよ私は!」
ペルソナという単語にうろ覚えの前世知識が引っかかる。ペルソナとは心の内に眠る神や悪魔の姿をした『もう1人の自分』を顕現させることができる能力のことだ。そしてワイルドとは複数のペルソナを付け替える事ができる能力者のこと。主人公の証みたいな能力だなこの自称天才子役は。それにしても...
「ペルソナかぁ...懐かしい、階段で反復横跳びしてた記憶があるわ。」
「まさかの初代⁉︎」
「やばい、懐かしの前世トークできそう。」
「ですねー。でも今は時間がないので要点だけ。私のペルソナ、オヤユビヒメには治癒促進の力があるんです。なのでオヤユビヒメを憑けていれば骨折なんて明日には治ってた筈なんですよ。」
「その程度の治癒能力かぁ...」
「なんですか!精神力を使わない貴重な使えるスキルですよ!オヤユビヒメちゃんを馬鹿にしないで下さい!」
「いや、腕切り取られてもすぐに生え変わるくらいの力だったら安心だったんだがって話。命を狙われる身としてはさ。」
「...はい?」
おそらく予想外だった言葉に、神郷は固まった。
「いやさ、転生者とその関係者を殺して回ってるっぽい陰我って奴がいるんだよ。」
「...なんですかそのテンセイシャ=スレイヤーは。」
「組織化してる分フジキドケンジよりタチ悪いぞ。1000年後の繁栄の為に平然と命を投げ出すカルト組織だから。」
「...現実感がなさ過ぎて受け止められないんですけど。」
「ま、そりゃそうか。とりあえず詳しい話はナイトアイに会ってからだな。」
「ナイトアイ?」
「そ、サー・ナイトアイ。頼れるヒーローだよ、知ってるだろ?」
「いえ全く、ヒーローにはあまり詳しくないので。」
「...待て、一応聞くんだが、僕のヒーローアカデミアって知ってるか?」
「どっかで聞いたことはあるかもしれませんが、思い出せませんね。」
「この世界の原作だよ...あー、成る程。お前が俺を見てすぐに転生者だってわからなかった理由はそれか...」
なんか微妙に認識がズレている感じはしたのだ。雄英体育祭であれだけ暴れた俺を見たらすぐに転生者だ!とわかる筈なのだから。
「お前年齢一桁に加えて原作知識なしってどれだけハンデ背負ってるんだよ。」
「いいですよ別に、私は!天っ↑才↓子役としてスターダムにのし上がってお母さんを楽にさせてあげるんですから!異能バトルなんてする気はありませんよ。」
「しないと多分死ぬけどなお前。」
「...そんなにヤバい組織なんですか?陰我って人たちは。」
「ヤバイ。マジで自分の命を投げ捨ててくる。イレギュラーは皆殺しだって感じで。」
「...関わり合いたくないですねー。」
「向こうから関わってくるけどな。」
その言葉に一瞬愕然とした後、ペルソナチェンジして雰囲気を変えた神郷は目をウルウルさせて言った。
「...私を守ってくれますよね?メグルさん。」
「いや俺まだ仮免だし、学生だし。」
「そこは任せろ!って格好つけて下さいよヒーローなら!」
「言えるか。というかそんなあからさまな演技に引っかかりはしねぇよ。そして素に戻るの早ええよ騙す気ゼロか。」
「というか地味にショックです。このプリティフェイスの上目使いウルルン目攻撃が通じないなんてッ⁉︎」
「自分で言うなよ台無しだろうが。いや、もう台無しになってるけども。」
「という冗談は置いておいて。」
カチリと再び雰囲気が変わる。この色は元の白猫だろう。あの由来のイマイチわからない白猫が彼女の最初のペルソナなのだろうか。
「実際問題私はどうするべきですか?次のお仕事のCM撮影は。」
「...悪い、正直どうしたらいいか思いつかない。ナイトアイに相談してみるが、最悪は考えておいてくれ。命あっての物種だからな。」
「...まぁ!天っ↑才↓子役のこの私の魅力を持ってすれば次のCMなんてすぐ決まりますから問題は何もないですけどね!」
「阿呆。」
ドヤ顔決めるバカ娘に軽くチョップを食らわす。
自称天才子役のその大根役者っぷりに、思わず手が出てしまった。
「俺みたいな素人騙せないような演技するな天才子役。やりたいんだろ?CM撮影。」
「...やりたいですよそりゃあ!一生懸命頑張ったオーディションを乗り越えて、やっと掴んだチャンスなんです。そんな突然湧いてきた命の危機なんかに邪魔されたくありません!」
「じゃあ、そういう方向で頼んでみるわ。安心しろよ神郷。」
「なんとかなるさ。じゃなかったら俺がなんとかする。」
「...なんですかそれ、さっきは無理とか言った癖に。」
「無理とは言ってない。」
「...元詐欺師とかです?メグルさんって。」
「いや、そんな訳でないだろ。」
「怪しい...」
「勘違いで人を怪しんでんじゃねぇよ。」
そんな風に会話が馬鹿な方にズレ始めたころ、病室のドアが開いた。
「数多!無事なの⁉︎」
入ってきたスーツ姿のその女性は、まさしく美人秘書といった風貌だった。目元がよく似ていることから、神郷の身内であることは見て取れる。姉だろうか?
何にせよ、俺の好みのどストライクだ。どうにかして口説かねば!
「お母さん⁉︎」
その言葉でどうやって口説こうかクラス2位の脳細胞を回していた馬鹿な男は思考停止した。なんだよ所帯持ちかよ畜生、人の夢は儚いのだなぁ...
馬鹿なこと考えてないで切り替えよ切り替えよ。
「数多さんのお母様でしたか。私は雄英高校に在学している仮免ヒーローのメグルと申します。」
「あ、これはご丁寧に。私は数多の母親の
「メグルさん⁉︎私の時と態度違いすぎません⁉︎」
「まぁそれは置いておいて。今回の誘拐未遂事件では、数多さんの救出と腕の治療に当たらせて貰いました。数多さんは幸いにも怪我はなく、PTSDのような症状を発症してもいません。極めて健康な状態です。」
「それはありがとうございます。メグルさん。」
「いえいえ、ヒーローとして当然のことですから。それでは親子で積もる話もあるでしょうし、私は一旦離れさせて貰いますね。」
その言葉と共に、神郷の手元に自分の電話番号を書いたメモを渡す。それを受け取る際に、神郷は誤って俺の手に触れてきた。まぁ良くあることだろうと思ってドアの方へと向いたら、なにかとんでもないものを見たかのような顔の結衣さんがいた。
思わず神郷の顔を見ると「あ、」といった感じの顔をしていた。え、何かあるの?
「あ、数多が、男の人に触ってる⁉︎目を合わせてる⁉︎」
「それが驚かれるってどんな生活してんだバ神郷⁉︎」
「仕方ないじゃないですか!男の人との接し方なんて分からないんですから!」
「学べよ!学校とかで!」
「ずっと女子校なんです!察して下さい!」
「察せるか!俺と話す時は結構普通にできてただろうが!」
「アレは!...その、メグルさんには素の自分を見せても大丈夫だと思えたから喋れてたんです!」
「...いや、それができるなら同じ要領で他の男相手にも飾らず喋れるだろ。」
「ちょっと待って下さいメグルさん。」
グイッと首根っこを掴まれて結祈さんの耳元に引っ張られる。近い近い、恋に落ちそう。
「今の会話で確信しました。数多は、貴方に恋をしています!」
「いや、まさか。」
「間違いありません!...あの子があんなに男の人に心を開くなんて他に考えられませんから。」
「だからどんな生き方してたんだあのバ神郷は...」
「ですから、メグルさんにはあの子の男性恐怖症を改善するために協力して欲しいんです!」
「いや、無理です。忙しい学生の身なので。」
「そーこーをー何とかー!」
ぐわんぐわんと肩を掴んで前後してくる結祈さん。ギャップ萌え狙いまでしてくるとは、俺を恋に落とす気満々ですかこの人は!
「お母さん、お母さん。」
「何?数多。」
「聞こえてる。」
「...いつから?」
「最初から。」
「...お母さん、ちょっと暴走しちゃった?」
「うん。」
「あははー...ハァ、またやっちゃった。」
落ち込んでる姿も良い。子持ちだとわかっていなかったら求婚していたレベルだこれは。何故こんな美人さんが既婚者なんだッ!考えてみれば当然のことだけれども!
「というか私がメグルさんの事好きな訳ないじゃないですか。そんなイベント踏んでませんよ。」
「確かに、好感度も足りてないだろうしな。」
「第一、歳が離れすぎですよ。大人になってからは兎も角、子供にとって7年差は大きいです。それでヒロインを張るにはメグルさんがロリコンじゃないと..,」
「何言ってんだバ神郷。そして俺の好みは大人の美人秘書系のお姉さんだ。お前はストライクゾーンの大外だよ。」
「え、それってお母さん?」
「既婚者に手を出すほど落ちぶれているように見えるか⁉︎これでも一応ヒーローだぞ!仮免だけど!」
再び話が逸れ始める。正直さっさとナイトアイに連絡したいのだがこのままでは既婚者に淡い想いを抱いている事がバレてしまう。それは避けたい、男のちっぽけなプライド的に。良し、適当言って逃げよう。
「...時間も押しているので自分はこれにて。今後の事がありますので...」
「あ、引き止めてしまってすいません。あの子が活き活きとしていたものですからつい。」
「いえいえ、上への連絡が終わったらまた来ます。お話はその時にでも。」
病室から逃げるように去っていく。背後から「その顔、やっぱりメグルさんの事...」「何でも恋愛に持っていかないですくださいお母さん!スイーツですか!」と話し声が聞こえてくるが、無視だ無視。
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病室から出て通話可能エリアに行き、ナイトアイの携帯へと電話をかける。
「ナイトアイ、今大丈夫ですか?」
「ああ、問題はない。団扇くんから連絡が来るとは珍しいな。」
「あんまし時間もないので要点だけ。新しいイレギュラーらしき人物を見つけました。」
「何⁉︎」
「名前は神郷数多、まだ9歳の女の子です。」
「...どうやって見つけた?」
「イレギュラー特有の共通点があるんです。正直信じてもらえないでしょうし、頭の回る奴なら隠すでしょうから今回見つけられたのは偶然としか言いようが無いですけれど。」
「信じるかどうかは私が決める。言ってみてくれ。」
一旦深呼吸をする。この事を他人に話す日が来るとは正直思ってみなかった。だが、今回神郷数多という二例目を見つけてしまった以上もうこの事を黙っている事にメリットはなくなった。
イレギュラーは自分の事をイレギュラーだと自覚できている理由、それは前世の記憶を持って生まれたという異常さからだろうと断言できる証拠が揃ってしまったのだから。
だから言おう。自分の影響で命を繋ぎ、自分の影響でこの世界の運命から外れてしまったサー・ナイトアイという人物を信頼して。
「...イレギュラーの特徴は、前世の記憶を持っている人物です。」
「...確かに荒唐無稽だな、だがとりあえずは信じよう。」
「ありがとうございます。その辺の詳しい話は神郷を見てもらう時にでも。」
「そうだな。では、今回の目的はその娘の警護依頼か?」
「はい。今は静岡の円扉総合病院にいるんですけど、神郷はこのまま病院に一日泊まって、明日早朝から撮影スタジオに入るそうです。」
「撮影スタジオ?...HNに記事があったのを思い出した。今日起きた子役誘拐未遂事件の被害者のイニシャルはたしかAK、神郷数多という少女と知り合ったのはその縁か。」
流石オールマイトの元サイドキック、仕事ができるってレベルじゃあない。話が早くてありがたい限りだ。
「周辺のヒーローと警察に警戒レベルを上げておくよう進言しておこう。生憎とセンチピーダーたちは出払っているので直接護衛につくことは出来ないがな。...本人の精神状態はどうだ?」
「問題はなさそうです。まぁ精神年齢いってるんできっとそのせいでしょう。問題は、本人が明日のCM撮影に出たいって言ってる事なんですよね。」
「確かに、大衆の目に触れるCM出演は危険を伴うか。」
「その辺のこと、ナイトアイとしてはどう思います?」
「微妙なところだな。まず前提として言えるのは、陰我たちのイレギュラー探知能力はそう高いものじゃあないことだ。」
「それはどうして?」
「君が今生きているからだ。体育祭で君が世間の目に晒された時にイレギュラーとして認識できているならば、私なら雄英が寮制になる前に仕留めにかかる。ミラー・ヤマザキという手駒があった以上不可能な事ではなかったはずだ。」
「...なるほど。」
つまり、陰我たちが雄英体育祭であれだけ目立っていた俺をすぐにイレギュラーだと認識できなかった以上、テレビに出た程度では何も問題はないということか。
「じゃあCM出演の件はオーケーという事ですか。」
「ああ、特に問題はないだろう。とは言っても今回の事件が陰我たちの手引きという可能性もゼロではない。念のための警戒は必要だろうがな。」
「それなら俺が。明日は幸いにも日曜日です。リカバリーガールの許可さえ貰えれば付きっ切りで護衛に付けます。」
「...君が行く必要はあるか?」
「さぁ、でも行かないといざって時が怖いですから。」
「なるほどな...なら雄英と撮影スタジオの方には私から話を通しておこう。捜索中の
「ありません。ありがとうございます、ナイトアイ。ついでと言っては何なんですけれど、撮影スタジオは都内なんで撮影終わってからすぐにナイトアイの所に神郷を連れていきたいと思います。」
「ああ、待っているよ。君と君の仲間を。」
さて、次はリカバリーガールへの連絡だ。こちらから頼んだ課外授業をいきなり休ませて貰うなど、意外とスパルタなリカバリーガールが許すかは少し不安だが、まぁ説得するとしよう。
「リカバリーガール、すいません話し込んでしまって。」
「構わないさ、今日はもう患者はいないからね。」
「それで明日の事なんですけど...」
「あんたの好きにすると良いさ。」
「...いいんですか?話も聞かないでそんな事言って。」
「ま、この課外授業は強制じゃあないからね。やりたい事が別に出来たならそっちを優先しても文句は言わないよ。」
「すいません、でも次からはきちんと参加させてもらいます。」
「当たり前さね。」
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再び神郷の病室に戻る。今度はマネージャーさんもいた。
「神郷、明日の撮影お前の護衛につく事になったぞー。」
「あ、どーもです。これで安心ですね、メグルさんがどれくらい強いかは知りませんけど。」
「そこそこ強いから安心していいぜ。これでも現No.1の元でインターンしてた身なんだ。」
「へー、凄いですねメグルさんって。」
「お前、良くわかってないだろ。」
「...バレました?」
「忠告しておくが、社会はしっかり勉強してないと後に響くぞ?特に現代社会。」
「いいんですー、私クイズ系のバラエティにはまだ呼ばれませんから!」
「その時が来てバカを晒さない事を祈るよ。」
「数多ちゃんが普通に男の人と会話してるッ⁉︎」
「恋よねあれは絶対!」
「ありませんからそれは!」
「あ、数多さんにはもう確認を取ったんですが、明日の撮影に念のため護衛として自分も同行させていただきます。数多さんが捜索中の
「それはわざわざ!ありがとうございます。」
「いえいえ。」
「...確認して良いですか?」
「はい、何なりと。」
「貴方は、何故数多を守ろうとしてくれるんですか?あなたのそれはヒーローとしてではなく、私的な理由に思えます。」
驚いて神郷の顔を見る。その質問に驚いたのは神郷も同じようだった。だが、俺にとってはそう難しい問いではない。しっかりと俺の心を伝えよう。
「何ですかメグルさん、やっぱロリコンだったんです?ま、この天っ↑才↓子役の魅力にメロメロになるのは仕方ないですけどね!」
「んなわけあるかバ神郷。...単純な話です、もう関わっちまったんですよこの面白娘と。」
「なんですか面白娘って!」
「仲良くなったんですよ死んで欲しくないって思うくらいには。だから、守ります。」
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翌日、早朝に病院で合流し、都内の撮影スタジオへと向かう。
「メグルさん、変なことしないで下さいよ?」
「まぁ今日はコスチューム着てないしな、自重するさ。」
残念ながら自分たちは今インターン活動を止められている身なので、ナイトアイの指示があってもコスチュームを着られないのだ。まぁ、防弾防刃コートが必要になる鉄火場になる時は、警備の皆さんと周辺のヒーローの皆さんで
「さ、着きましたよ。数多ちゃん、メグルさん。ここが今回の撮影スタジオ、スタジオアラヤです。」
「ち、な、み、に!私が初めて出たドラマの撮影もここだったんですよ?」
「へー。頑張ってるんだなお前。」
「ま、その時はセリフは貰えませんでしたけど。」
「ま、最初なんて誰しもそんなもんだろ。」
「はい。それじゃあマネージャーさんと楽屋回りしてきますね。」
「おう、俺は警備の人に挨拶してくるわ。流石にスタジオ内で待ち伏せされるとかは無いと思うけど、注意だけはしておけよ。」
「はい。いつでも逃げる準備はしておきます。白猫ちゃんはトラエストトラフーリトラポート完備のガン逃げペルソナですから!」
「凄え、戦おうとする気持ちが一切感じられねぇ。」
「逃げるが勝ちって奴ですよ。」
そう言って神郷と別れる。ナイトアイからこのスタジオのマップなどの警備データは貰っているので、どこの警備が手薄かはわかっている。なので、ウィークポイントとなりうる屋上からの侵入を警戒して影分身を念のため屋上に向かわせておく。
「さて、行きますか。」
警備の人に挨拶した結果、ナイトアイから話が通っており少しピリピリしている事がわかった。ちゃんと警戒してくれているのなら、正面きっての襲撃に関しては問題はないだろう。
あと警戒するべきは、葉隠のようなスニーク系個性による襲撃だ。まぁこの類は写輪眼で見切れるからこちらも問題はない。万全の警備体制だ。
そして影分身からの情報フィードバックが来る。屋上には私服警備員が配備されており、ウィークポイントはしっかりと塞がれているようだ。
仕事ができる警備チームが味方で、心強い限りである。
そんなこんなでCM撮影のリハーサル。写輪眼でスタジオをくまなく見回してみたが、潜伏系の個性は見えない。壁走りの術の応用で天井まで上がってみてもどこにも
というのを警備責任者である
そして始まるCM撮影本番。神郷ともう1人の子役の
だが、あの神郷である。男性陣とうまくやれるのか物凄く心配になり演技をする神郷を横目に入れる。
するとそこには、神郷数多という少女はいなかった。いたのはCMの登場人物である1人の少女だった。
思わず声が出そうになる。演技に詳しくない自分ですらわかる。自称ではなかったのだ。神郷数多という少女は、文句なしに天才だった。
だが、その天才に周りがついていけるかといえばそうではなく、今回が初めての撮影らしい緋乃眼くんは何度もミスを犯し、その度に撮り直してテイク数が増えていっていた。
そしてテイク12も緋乃眼くんがNGを出し、休憩時間に入った頃に事件は起こった。
大地が揺れ、セットが揺れ、照明が揺れ始めた。地震かと思ったが、地面の揺れる感覚的に自然のものではない。これは、人為的なもの、もっと言えば巨大な何かが歩いた事で発生するものだッ!
「照明やセットから離れて!
「そんな事言われても、振動で立てないッ!」
「まずは机の下に子供達を入れるんだワン!責任ある大人として、這ってでも!」
神郷は幸いにも近くに女優さんがいて、その人に引っ張られる形で机の下に隠れる事に成功した。だが、セットの裏で落ち込んでいた緋乃眼くんの側には誰も大人がいない、助けてくれる人がいない!そして何より
気合いを入れろヒーロー!今この場で緋乃眼くんの危機を察知できているのは俺しかいない!
振動の緩やかなタイミングで移動術を発動、それと同時に照明は揺れにより落下し始める
「緋乃眼くん、手を!」
「怖い、怖いよお母さん!助けてよぉ!」
「目を開けて前を見ろ!男だろうが!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
緋乃眼君は俺に手を伸ばしてはくれなかった。移動術のスピードで緋乃眼くんを掻っ攫う事はこれではできない。
だが、緋乃眼くんを救う手はまだこの手にある!空中で体勢を整え影分身を使用、それに自分を投げさせる事で速度を落とさずに無理矢理方向を宙へと変える。
落ちてくる照明を空中で迎撃できる位置へ!そしてチャクラの形態変化で桜花衝を新たな形に変化させ、解き放つ!
「即興必殺、桜花衝・遠当て!」
形態変化させ伸ばしたそのリーチは、桜花衝の威力を大幅に減衰させるのと引き換えに確かに落ちてくる照明をなんとか逸らす事に成功した。
「ふぃー、なんとかなった。無事か、緋乃眼くん?」
緋乃眼くんは、ようやくこっちに目を向けてくれた。涙にあふれたその瞳で、俺の目をようやく見てくれた。
そんな子供の瞳を見て、今のような事件時にパニックになられても困るので、しっかりと落ち着くように催眠をかけておく。これ結構な卑劣ポイントだよなぁと思うが、まぁ今は仕方ないだろう。
「ヴィラン潰し、団扇巡...」
「知っててくれてありがたいね。さぁ掴まって、早く安全な所に行こう。」
そっちで知られていても嬉しくはないがな!という心の声は一旦無視して、移動術でスタッフさんたちのいる所へ行き、緋乃眼くんを机の下に押し込む。
さぁ、ようやく戦いのスタートラインだ。
想定できる
サイズは大型、目的は不明。重量は怪獣クラスのトンデモスケールで間違いはないだろう。歩く事で地震を発生させる化け物とかプロヒーローでも困るレベルだわ。当然警備員たちの装備では迎撃しきれない為、おそらく素通りのような状況になっているのだろう。
地震を起こす関係でスタッフさん達を避難させるのは無理、となると被害を最小にする為には俺が
スタジオのドアをこじ開け、窓を突き破り外に出る。案の定外には超大型の
どっからどう見ても怪獣である。
「お前はどこのウルトラ怪獣だ⁉︎光の国から僕らのために来てくれる我らのヒーローはいないんだぞこの世界!」
怪獣はスタジオの前に到達している。そしてその尾を叩きつければ怪獣の目的と思わしきスタジオ内にいる誰かの殺害、もしくは何かの破壊は可能だろう。だが、怪獣はなぜかそこで動きを止めた。
尾を振り上げる所までは行なっている。なのにそれを叩きつけようとはしない。
俺はそこに、あの怪獣の最後の躊躇いを見た気がした。
ならばやるべき事はただ一つ!
壁走りで屋上に登り、腹の底から声を出す!
「聞けぇええええええ!」
怪獣はピクリと反応した。これならいける!
「その躊躇いは!迷いは!お前が人として捨てちゃあいけない大切なものだ!だから、思い止まってくれ!」
「...うるせぇ!私はアイツのせいで全てを失った!だから私がやるしかないんだよ!私みたいな被害者をもう出さない為には!」
そう言って、尾を叩きつけようとしたその怪獣はピタリと動きを止めた。
「何を...した⁉︎」
「金縛りの催眠だ。お前を拘束できるヒーローが来るまで、ここで拘束させて貰う。お前に、罪は犯させない。」
「何が思い止まってくれだ!お前は催眠なんて卑劣な手段で私の願いを踏みにじるのか!」
「ああ、踏みにじる。無理矢理にでも止めてやる。あんたが取り返しのつかない所に行ってしまう前に。」
「あんたの罪は不法侵入と器物破損だけだ。だからちょっとの間刑務所入って頭冷やせ。そんでもって正しい手段で復讐をしろ。それなら俺たちヒーローはあんたの味方になるから。」
「...復讐するなとは言わないんだな。」
「少しだけだけど、気持ちはわかるから。」
その言葉に、怪獣は金縛りに対抗しようと力を入れていたのを止めた。俺の言葉を信じてくれたのか、それとも無駄だと諦めただけなのかはわからないが。
とりあえず催眠を深くかけよう。ヒーローや警察達がやってきた。暴れ出して被害者が出たら事だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「メグルさん!大丈夫でしたか⁉︎」
「ああ、なんとかな。神郷、他の人達はどうだった?」
「皆さん無事です。他の階の人たちもちゃんと机の下に隠れたりしてなんとかなったみたいです。...日々の避難訓練って凄いですね。」
「当たり前だ、この世界の人災レベルに合わせた訓練だぞ。無駄になんてなるものかよ。」
「へー。」
「そこでへーとか言ってるとガチで現代社会つまずくから。転生知識とか欠片も役に立たないからな現代社会。」
「うっ、大丈夫ですよ!ていうか現代社会をそんなに怖く言うのってメグルさんが苦手だからってだけでしょう⁉︎」
「そうだ。」
「認めた⁉︎」
「ま、演技だけじゃなく勉強も頑張れって事だ。」
そう言って神郷と別れて大道具の片付けを手伝う。警察からの取り調べにはまだ時間があるため、やれる事をやっているのである。
今回の怪獣襲来事件により起きた地震により、スタジオのセットの多くは壊れてしまった。そのためCM撮影は延期となった。元々撮影の予備日を取っていたらしいのだが大道具はその日までに直せるのだろうか、ちょっとスタッフさんたちの今後が心配でならない訳である。
倒れたり壊れたりした大道具をどかしていくと、後ろから声をかけられた。
「あの!」
「どうした?緋乃眼くん。」
そこには、母親らしき人を連れた緋乃眼くんがいた。
「どうしたら、あなたみたいなヒーローになれますか!」
「君はヒーロー志望なのかい?」
「この子、この前の個性一斉診断まで個性があるってわからなくて、ヒーローになるなんて思ってても言えてなかったんです。」
「そうでしたか...君の個性は?」
「これです。」
そう言って、緋乃眼くんは右手に五本の鎖を発現させた。写輪眼で見るに身体エネルギーが強く練りこまれている。おそらくただの鎖ではないだろう。
「個性は良いよ、拘束系の個性は需要あるからヒーロー向きだ。けど...」
「けど?」
「君、さっき目を閉じて何も見てなかったよね。」
「...え?」
固まる緋乃眼少年。まぁ子供にそんな事を要求するのは酷かもしれないが、出来るやつは生まれつき出来るのだ。鉄火場で考え続けるという事が。
「俺は無駄に命をかけたりする経験が多い。だから言えるんだけどさ、命を懸けた場で考えることを止めるとその先に未来は無いんだ。」
「...それって、俺はヒーローになれないって事ですか⁉︎」
「違うよ、ヒーローになるには向いてる人よりも沢山の努力が必要だって言ってるんだ。努力を続ける事は、辛いよ?それでもヒーローを目指すのかい?」
「...目指します!俺はずっと、ずっとヒーローに憧れていたから!」
そんな小さな少年の声に応えるのは言葉では不足だろう。
拳を少年の前に出す。
「なら、先にヒーローになって待ってるぜ、緋乃眼!」
「ああ!待っててくれヴィラン潰し!」
そう言って、俺と緋乃眼は拳を合わせた。
「あと、ヴィラン潰しは地味にメンタル来るからやめて。好きで殴る蹴るやってる訳じゃないんだよ俺は。」
「あ、すいません団扇さん。」
「わかってくれれば良いよ、うん。」
少年のヒーローになる決意と、どこかグダグダな俺の話をしてその日は緋乃眼とは別れた。
それが緋乃眼との今生の別れになるとは、その時の俺には思いもしなかった事だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
警察の事情聴取も終わり神郷と共にナイトアイのいる病院へと向かう。すると駅で、「や!来るって聞いて待ち伏せていたんだよね!」と通形先輩が現れた。
「お久しぶりって程でもないですね、通形先輩。」
「うん、大して時間は経っていないからね!そっちの娘が噂のイレギュラー?」
「どうも、神郷数多と申します。けどあんまり近寄らないでください。メグルさんの知り合いだとしても男の近くに居たくはありません。」
「ハハッ!嫌われてるねー!そして好かれてるねー団扇くん!」
「すいません、このバカが...」
「謝ったら負けですよメグルさん!」
「とりあえずサーの所に案内するんだよね!」
3人になった一行でナイトアイのいる病院へと向かう。ナイトアイは未だリハビリの最中なのだ。だが、義手をサポート会社に依頼しているらしく、日常生活くらいなら送る事が出来るようになるとの事だ。
事務に復活する未来を自在に変えられるナイトアイの活躍が待たれるばかりである。
「来たね、団扇くん、神郷数多さん。」
「どうも、ナイトアイ。連れてきましたよ神郷を。早速ですが確認をお願いします、神郷が本当にイレギュラーなのかどうか。」
「ああ。では神郷数多さん、こちらへ。」
「嫌です。」
「こんな時でも平常運転だなお前は!」
「あんなリーマン野郎に近づくなんてゴメンです!絶対童貞ですよドルオタですよあの人!」
「見当違いな第一印象で人を括ってんじゃねぇよバ神郷!」
心なしかナイトアイちょっと落ち込んでるぞ!
「私の一億円のボディに軽々しく近づけると思わないで下さいね!」
「神郷。」
「なんですかメグルさ...ん⁉︎」
写輪眼発動。わがまま言う子はこうするのが手っ取り早いのだ。
「催眠成功。さ、やっちまってくださいナイトアイ。」
「メグルさん裏切りましたね!鬼!悪魔!ちひろ!」
「うわ、懐かしいなー。」
「嫌です嫌です!こんな大人になってもプリユア見てそうな人の近くになんか行きたくありません!助けてください!止めてくださいメグルさん!」
「...二つ、言っておく事がある。」
ナイトアイが結構怒った声でそんな言葉を言い始めた。
「まず、私はアイドルオタクではない。オールマイトオタクだ。」
「もっと酷いですよ!ガチムチ好きのホモ野郎って事じゃないですか!」
「そしてもう一つ、プリユアは大人が見ても楽しめる日本のエンターテイメントだ。プリユアを大人の私が見ている事に恥じる事は一切ない。」
「開き直ったオタクですよこの人!嫌だ嫌だやめてやめて近づきたくないんです触られたくなんかないんです!助けてメグルさん!」
「諦めろ。」
「いやぁああああああああ!!!!」
その後、ナイトアイに肩を触られ目を合わせられた神郷は、ナイトアイの予知に一切映る事なく、無事に(?)イレギュラーであると確定した。
「...ヴィラン潰しに女としての尊厳を踏みにじられたって拡散してやる。」
「お前それやったらガチで戦争だからな?」
「上等じゃないですか、この一億円のボディを汚した罪は償って貰いますからね!」
「ナイトアイの個性の都合だよ。好き好んでお前みたいなロリの事触る人に見えるか?」
「見えます。」
「お前の目節穴だな本当に!」
「そんな事知ったこっちゃありませんよ!無理矢理肩を触るなんて!...訴えます!」
「受けて立とう。だが、たかだか子役と元オールマイトのサイドキック。どちらの財力が強いかはわかるだろう?」
「うううううう!」
完全なる論破である。そりゃいくら神郷が天才でも、9歳ではトップヒーローの財力には敵わないよなぁ...
「このオタリーマン!変態貴族!タンスの角に小指ぶつけて入院伸びろ!」
「フッ」
「通形先輩、ナイトアイちょっと楽しんでません?」
「ハハハ!神郷ちゃんが面白いから遊んでるんじゃないかな!」
「いたいけな女の子で遊ぶとか最悪ですオタリーマンさん!」
この辺りで「病院ではお静かに!」と看護師さんがやってきた。
謝る俺と通形先輩。ナイトアイと神郷は口では謝りつつも互いに睨み合っていた。子供かあんたらは。あ、神郷は子供だったわ。
「話は逸れに逸れましたけど、本来の話に戻りません?」
「本来の話?」
「お前の事だよバ神郷。」
「ああそうだ。神郷数多。お前は
「...正直メグルさんの勘違いを期待していたんですが、オタリーマンさんの言葉なら信じざるを得ませんね。この人、無駄な嘘をつく人じゃあありませんし。」
「聡明な子で良かったよ。話が早い。」
「見ての通り、天っ↑才↓子役ですから。」
意外とメンタルの強い天才子役である。その片鱗はあったけれども。
「では話そう。君たちと私、この世界の運命から外れたイレギュラーを狙う陰我について。」
「それから、俺たちが転生なんて妙な事になっている事についてもですね。」
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ナイトアイとの話もひと段落し、通形先輩がお茶を買ってくると一旦離れた。
「しかしおっそろしい話ですね。何が楽しくて自殺覚悟で殺しに来るんでしょうか。」
「それは現在調査中だ。」
「なんか適当な理由付けて別件逮捕とか出来ないんですか?ヒーローって。」
「そもそも逮捕すべきホシが見つかってないんだよ。捜査線上に上がってきた占い師は陰我の身代わりだったみたいだしな。現在は向こうのアクション待ちってとこだ。」
「意外と頼りにならないんですねヒーローや警察って。」
「お前それ頑張ってるヒーローや警察の人達の前で言うなよ?結果は出てないかもしれないけど、出来ることを必死でやってるんだよ皆。」
「はーい。」
「...私の時と随分態度が違うな。転生者同士の仲間意識か?」
「さぁ、なんとなくです。」
「...なるほど、とりあえず理解した。」
「なんか勝手に変な理解をされた気しかしないんですけど。」
「俺も多分サーと同じ事思ったんだよね!助けた人と助けられた人の吊り橋効果!」
ふらりとお茶を持って帰ってきた通形先輩。いや、態度が柔らかくなった時に俺も思ったのだが、神郷からの視線にそんな熱はないのだ。恋に必要なときめきとかが欠如している。いや、ときめきの視線とか向けられた経験あんまりないけども。
「何言ってんですかムキムキさん。メグルさんにはきっぱりさっぱりときめいていません。恋とかでは絶対にないですよ。」
「あれ、名乗ってなかったっけ?俺の名前は通形ミリオなんだよね!」
「名乗らなくていいですよ、覚える気はありませんから。」
「お前本当に男に対しては辛辣だよな。そんなんで芸能界やっていけてるのか?」
「立場のある人には思ってても口出ししたりはしていないので大丈夫です、まだ。」
「そのうちやらかすだろう自覚はあるのな。」
「その前に芸能界での立場とキャラを確立してみせるので問題はありません。」
その言葉にナイトアイがピクリと反応する。神郷数多という人物をあまり知らないナイトアイにとって、予想外の言葉だったからだろうか。
「...君は今後も芸能界でやっていくつもりなのか?
「そっちの方が助かるんでしょう?オタリーマンさん達的には。私が餌になっていれば陰我とやらはいずれ食いつくから。」
「...正直に言おう、その通りだ。陰我たちの現状がわからない今、餌は多い方が良い。」
「じゃ、決まりですね。私は芸能界から、オタリーマンさんはヒーロー業界から、メグルさんは医療方面から、3つの餌での
「...凄いなお前。」
「当然です。天っ↑才↓子役ですから。」
その人並み外れたメンタルの強さは流石自分の心を扱うペルソナ使いといった所だろうか。何にせよ心強い限りだ。
「今後は陰我の関係する事件を追うヒーローに
「ええ、構いません。ま、私に食いつくよりオタリーマンさんに食いつく方が早いと思いますけどね。本当は結構動けるのにまだリハビリしてるのはそれが狙いでしょう?」
マジで?と通形先輩に目配せする。通形先輩も結構驚いているようだ。敵を騙すにはまず味方からという事だろうか。というかそれに気付くあたり演じる事に通づる事に関しては本当にコイツは天才なのだと改めて思い知った。
「...凄まじい洞察力だな。」
「私、天才ですので。」
「ちょっとサー!聞いてないですよそんな事!」
「言っていないからな。さぁ、もう良い時間だ。君たちは帰りなさい。」
「俺は納得していませんからね、サー!また明日話しましょう!」
「ああ、ミリオ、また明日。そして団扇くん、神郷、また。」
「ええ、また。」
「ま、私はオタリーマンさんとはまた会いたくはないのでさようならと言わせてもらいます。」
「お前は本当に...」
そんな会話とともに皆で病室から出て行った。
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駅に着く俺と通形先輩と神郷。そこには神郷のお父さんらしき人が待っていた。
「今日はウチの娘がお世話になりました、団扇くん。通形くん」
「ハハハ!面白い娘さんでしたよ!
「ここはいえいえ、と返したいところですが...ええ、お世話しました。」
「何ですかその言い方、お父さんに変なこと言わないでください。」
「...想像以上に数多と距離が近いッ!団扇くんには何としてでもウチに婿に来て貰わなくては!」
「お父さん!そんな未来はノーサンキューです!さっさと車出して下さい!帰りますよ!」
そんな一幕の中、俺の携帯に電話がかかってきた。リカバリーガールからだ。嫌な予感がする。
「もしもし!」
「まだ都内かい。」
「ええ、西東京の〇〇区です!」
「なら話が早いね、保須駅に向かいな。鉄道事故さね。」
「ハイテク時代な今時にッ!了解!今すぐ向かいます!」
神郷と通形先輩先輩に事情を話して別れる。保須駅ならここから移動術を使えば5分で向かえる!
「頑張って下さいね、メグルさん。」
「傷を治すのは俺にはできない事だからね!任せるよ後輩!」
「ああ、行ってきます!」
そんな言葉を後ろからかけられながら。
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その鉄道事故は奇妙なものだった。昨今の
結果電車は横転し、多数の被害者が出た。
幸いだったのは事故の起こった時刻が通勤ラッシュの時間帯からズレていて、乗車率がそこまで高くなかったことだろうか。
と、事故の説明を受けながら治療を進める。先頭車両に乗っていた見覚えのある女性の治療だ。その人は横転の際に
咄嗟の事故に対して素晴らしい判断力を発揮できた。彼は間違いなくヒーローになれた。なのに。
「お前が死んでちゃ意味ないだろうが、緋乃眼...」
その少年、緋乃眼鎖は横転のショックで壁に叩きつけられ、即死だったようだ。
どこかで、お前が関わったから殺されたんだという声が聞こえたような気がした。
総計、17073文字でございました。馬鹿じゃねえのとは自分でも思います。
さて、なんで切らないでこんなに長くなってしまったかは、感のいい人なら気づいてしまうでしょう。次の話でネタバレする予定なので感想はご自由に。
後悔があるとすれば、この展開を感想くれた人に若干読まれてた臭いという所ですねー。やっぱりありきたりなんでしょうか。