まぁそんなこと気にするなら面白くかつ丁寧な文章を書けという話なんですがねー。
9月も終わりの時期が近づいてきたある日、自分は今日も今日とてリカバリーガールの元で修行であり、それを終えて雄英へと帰っている最中である。
陰我のことは気にかかるものの、一学生である自分に出来る事はあまりない。大人しくナイトアイたちプロヒーローに任せよう。今はそう思っている。
そんな事を考えていると、隣に座るリカバリーガールから声をかけられた。
「今日はどうだったかい?」
他愛のない会話に思えるが、今日に限ってはその言葉は棘を持っているように聞こえた。
今日の三件目の病院の病院でのことである。
治癒巡りで病室を移動している時、病室から苦しむ声が聞こえたのだ。まさか急変かと思い病室を開けると、そこには
そんな患者さんを写輪眼で見てみると、身体中に広がっている別人の身体エネルギーが見えた。これはいけるかもしれないと過信した俺は、その患者さんの治療を行えるかもしれないとこぼしてしまった。
それを聞いた患者さんと看護師さんたちは、是非よろしくお願いしますと強く迫ってきたのだ。
それを断れず、漫画で見た描写と自分の掌仙術で培ってきた感覚を信じて治療行為を行った。
静脈の一部を切断した後、毒のエネルギーのみを動かすように調律したチャクラを用いての毒の収束と、傷口側を抑えた側でその毒を引っ張るチャクラコントロール。それが必要だ。
理屈は理解できているので、役割は分担できる。なので影分身を用いて施術を行った。
その結果、体内に残っている毒の大部分を除去する事が出来た。ぶっつけ本番にしてはよくできた方だと自負できる。
だが、問題が起きたのはそこから。取り出した毒の扱いである。
今回の事件での個性毒は、高い揮発性を持っていたのだ。なので取り出したはいいもののそれをポイと捨てられるゴミ箱などあるはずもなく、30分ほどチャクラで毒を包み込む事になってしまったのである。看護師さんが機転をきかせて私物のジップロックを持ってきてくれなければあと一時間は動けなかっただろう。
そんな事件があった今となっては思う事はひとつだ。
「個性由来の毒ってのがどれだけ面倒かを身に染みてわかりました。今回の患者さんは幸いにも毒の効果は弱いものでしたけど、あれが強い毒だったとした場合は想像したくないですね。」
「ま、個性由来の毒ならあんたが干渉できるってのは言っていた通りだったねぇ。」
「解毒のあとはグダグダでしたけどね...」
「本当だよ、治療の前にちゃんとカルテを読まないからそうなるのさ、今回は別に緊急ってわけじゃあなかったんだから時間はあった筈さね。」
「...はい、以後気を付けます。」
耳が痛い話である。反省点ばかりだ。
そんな会話をしていると、携帯が振動をした。
ナイトアイから何か連絡があったのかと思い携帯を開くと、発目からメッセージが届いていた。開けないでスルーしようか迷うところだが、もう既読をつけてしまった。なんたる失態である。
『マグロさんの新エネルギーに合わせたベイビーが完成しました!ちょっとテストして下さい!工房で待ってますね!』
『今日帰るの9時くらいになるんだが大丈夫なのか?』
『終夜申請通しましたので!』
『まさかの徹夜コースッ⁉︎』
正直断りたい気持ちは半分くらいあるのだが、チャクラ対応の装備というのには非常に興味がある。これから陰我達との激戦が予想される今だから特に。
『まぁ今回は素材以外そう難しいモノではないのでテストはすぐに終わると思いますのでご安心を!』
『お前の言葉ってことを除けば信頼できるんだがなぁ...』
発目明という女と知り合ってから、彼女の『ご安心を!』に安心できたためしはない。なぜなら彼女の発明品は大体において事故と隣り合わせだからだ。今回はどんなゲテモノが来るのかと戦々恐々する次第である。
『それで、今回の発明はどんなものなんだ?簡潔に教えてくれ。』
『今回のベイビーはシンプル!新エネルギーの貯蔵を目的としたカートリッジ!マグロさんの言い方を借りるならば、チャクラカートリッジといった所です!』
その後チャクラと素材の関係性について長々とメッセージが続いたのは語るまでもないだろう。
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校内に入り工房を目指す、明かりの少ない夜の学校はちょっとホラーであるがそこは気にしない。発目に夜に呼ばれるのは初めてではないのだ。悲しいことに。
だがワイヤーアロウやミラーダートの細かい改良をしてくれていたりするのでこっちにも得はある。一応win-winの関係なのだ。だから止められずにぐだぐだと続いているとも言う。
「発目、来たぞー。」
「あ、マグロさん。遅いですよ。まぁちょうど空いた時間で新しいベイビーの図面引けたのでいいですけど。」
「今度はどんなゲテモノ作ったんだ?」
「あいにくと依頼品なので普通のベイビーですよ。手のひらから出る個性の収束をしたいとのことで、手袋型の収束機を作っていたんです。」
「図面見る限りだと、どっかのスイッチ押すと手首に砲身が出てくる感じなのか。使う人の個性に耐えられる強度かが問題だな。」
「マグロさんもだいぶわかる人になってきましたねー。」
「誰かさんが図面見せてあれこれ説明してくるからな。」
「感謝してくださいね。具体的にはチョコの差し入れとかで。」
「その願いは俺の
そんな会話が続くと俺まで発目の終夜に巻き込まれる羽目になりそうなので、さっさと話を切り上げて実験室に移る。
発目から渡されたアイテムは、単1電池ほどの大きさの金属で覆われたものだった。これなら複数個携帯できるだろうし、そこそこ頑丈そうだから投擲物としても使えるだろう。第一印象はいい感じだ。
「さぁ!この前の測定結果から考えるに新エネルギーを込めることによりこのカートリッジはそれを熱エネルギーに変換して貯蔵できる筈です!エネルギーを込めてくださいマグロさん!」
「おうさ!と言いたいところだが、込めるチャクラはなんの性質が良い?やっぱ火遁か?」
「あ、エネルギーはなるべく無色でお願いします。貯めこんだ熱エネルギーと反応したらまずいですから。」
「具体的にはどうなる?いや、お前が妙に離れていることから考えると嫌な予感はしてきたが。」
「まぁ、エネルギーを使って発火を始める程度でしょう。大丈夫ですよー。」
「うん分かった、爆発するのな。チャクラの性質変化は集中してやるわ。始めるぞー。」
「はーい。」
危険性を事前に認識できたところで実験の開始である。
物にチャクラを込めるのはちょっと不安なことだったが、そこは割とすんなりできた。発目の選んだこの金属素材がチャクラの通りを良くしているのだろうか...後で聞いてみよう、チャクラ刀とかに応用できるかもしれない。
写輪眼で込めたチャクラが結構な量になったところで、発目からストップの声がかかった。
「いい感じに熱エネルギーが溜まってます。とりあえず実験の第一段階は成功ですね!次は込めたエネルギーを回収できるか試してみてください。」
「あー...一応やってみる。」
そうは言ってもどうしたものか、チャクラを外から取り込むというのが可能であることはNARUTO原作で行われていたが、いざやれとなるとイメージが湧かない。チャクラを込めるときと同様にエネルギーの流れる経路のようなものを作りそこから引っ張るという感じだろうか。
とりあえずそのイメージでチャクラをコントロールしてみる。
どうにかチャクラを吸引できはした。だが、
「...うん、効率悪すぎて使えそうにないわ。」
「可能なら、後はマグロさんの問題ですね。頑張ってください。さ、次の実験です!」
「ん?まだなんかやるのか?」
「ええ、新エネルギーを過剰に溜め込んだ場合に本当に爆発するのかの実験です。」
やっぱり爆発するのか...
「ちょっと影分身作るから待っててくれ。実験に巻き込まれて死ぬとか洒落にならん。」
「流石マグロさん。増えれるって便利ですね。それじゃあ増えたマグロさんには爆発実験を。本体のマグロさんにはエネルギーの保存実験のためのカートリッジに新エネルギーを溜めて下さいな。」
「あいよー。」
言われた通り発目と共に影分身くんとは離れて、チャクラをカートリッジに溜める。影分身が「俺だって痛いのは嫌なんだぞ」と目で訴えている気がするが、その情報フィードバックは俺も喰らうから諦めてくれ。
「新エネルギー貯蔵想定量を超えました!さぁどうなりますかねぇ!爆発するのか、はたまた違う結果が得られるのか!楽しみです!」
「俺はこの程度の距離で大丈夫かが割と不安になってきた訳なんだが。」
「大丈夫ですよ、あのカートリッジに内蔵できるエネルギー量的にそんなに大きな爆発にはならない筈ですから。」
「不安だ...」
念のためもうちょっと離れようと提案しようと思ったその時、それは起こった。
カートリッジのオーバーロード。チャクラを過剰に溜め込んだ事により生まれた爆発的な炎上が。当然影分身はダメージにより消え去った。
「発目!」
ヤバイと感じた自分は、咄嗟に発目を庇い、爆発に背を向ける。
その瞬間にカートリッジの破片が背中に当たるのを感じた。面倒だからとコスチュームから着替えないで防弾防刃コートのままだったから衝撃で済んだが、もし制服に着替えてから実験に来ていたらどうなっていたかはあまり想像したくないものである。
「何をするんですかマグロさん、貴重な爆発シーンが見れなかったじゃないですか!」
「命を助けられた事に気付け発明バカ!」
実験室の一角は焼け焦げていた。当然耐火性のある素材でできているので延撚はしなかったのが救いだ。でなければ消化やら先生への報告やらで徹夜コースだったろう。
だがそんな事を考えもしない発明バカは、実験結果に目を輝かせていた。
「実験は思った以上のものでしたね!ちょっとした爆弾ですよこれは!」
「その爆弾に殺されかかった事とか忘れてるんだろうなコイツ。」
使い方を誤る厄介極まりないアイテムである事が分かった次第である。うん、今回のアイテムの事は折を見てパワーローダー先生に報告しよう。発目が爆弾を作ったと。
「まぁ色々と言いたい事はあるが、お互いに無事で良かったよ。」
そんな会話と共に爆発実験は終了した。
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「それでは、実験も終わりましたのでマグロさんは帰っていいですよ。」
「あれ、お前はどうするんだ?」
「私は依頼品の作成がありますので、今日は徹夜なんですよ。」
「オイお前、依頼品ほっぽって実験してたのか。」
「いやー、つい実験データを見返していたら閃いてしまって。」
「...お前は本当に発明バカなんだな。」
「褒めないで下さいよマグロさん。」
依頼した人にとっては災難この上ない話だが、まぁ発目明という女なら仕上げるだろう。コイツは本当に有能なのだから。
まぁ、自分のアイテム作ってたせいで納期に間に合わなかったなんてのは依頼した人に対して申し訳がない。
「何か手伝える事はあるか?」
「じゃあ差し入れ下さい。チョコとあの甘いコーヒー擬きを。」
「了解した、友達価格で350円な。」
「...相変わらずみみっちいですねマグロさん。」
「金ないんだよ察しろ。」
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コスチュームを返却し、寮に戻る頃にはもう10時過ぎになっていた。これは大きなミスだ、主に晩飯的な意味で。バイキング形式の夕食が片付けられるのは9時頃なのだ。これは夕食はカップ麺だなーと諦めつつドアを開ける。談話室には砂藤と障子、上鳴と峰田がテレビを見ながら談笑していた。
「ただいまー。」
「お帰り団扇。今日は一段と遅かったな。」
「ちょっと発目に付き合っててな。」
その一声に反応するのはA組の性欲大魔神峰田実と普通にエロい上鳴電気である。俺の素はクラスの面々に知れ渡っているので上鳴と峰田は平然と猥談を仕掛けてくるのだ。
「サポート科のおっぱい女子と夜の学校でナニしてたオイ団扇!」
「まさか狙ってんのか!あのおっぱい大きい女子を!」
「...いや、あいつと付き合うとか考えたくないわ。身体がどんなにエロくても中身がアレだぞ?付き合った3日後くらいには実験に巻き込まれて死ぬ。間違いない。」
「それほどなのか...」
「障子は発目の世話にはなっていないんだっけか?」
「ああ...だが団扇の話を聞く限りでは関わり合わない事が懸命に思えてくるな。」
「でもあいつはガチで天才だから程々に関わる分には良い奴だぞ。深く関わると地獄を見るけど。」
「そういや俺のポインターもあっさり作っちまってたなぁ。やっぱ凄えのかあのおっぱい女子。」
「待て団扇、おっぱい女子と深く関わるとか羨ましすぎるぞお前!匂いとか嗅いで妄想したりしてたんだろ!」
「いや、発目の匂いは鉄と油の匂いだぞ?流石にそんなんで勃つかよ。」
「「嗅いでんのかよ!」」
「最初の頃は発目の事を女子として見てたからな、そりゃ嗅ぐさ。」
「お前ら女子がいないからってオープンすぎやしないか?俺と障子まで巻き添えで女子から白い目で見られるのは御免だぞ。」
「そうだな。」
砂藤と障子がやんわりと止めにかかる。だが知っているぞ、この前峰田が「女子大生の自撮り写真にさくらんぼが映ってる!」と言った時に砂藤も障子もしっかり反応していた事を。
まぁ飛びついた俺と上鳴は峰田の果物の方のさくらんぼが映ってるという巧妙なトラップに引っかかって女子からの好感度を下げられたという話なのだがな。
峰田はたまに俺と上鳴の顔面がそこそこ整っている組の好感度を下げにかかるトラップを仕掛けてくるのだ。でも結構な頻度で本当にエロい画像も見せてくれるので飛びつかざるを得ない、なんたる知略だろうか...
「あ、そういや団扇。お前の分もガトーショコラ作っといたぜ。キッチンにあるから食っとけよ。」
「流石パティシエ砂藤。俺はそろそろお前に大明神とか付けないといけない気がするぞ。あと材料費の方は待っていてくれ、インターンの分が出たら必ず払う。」
「毎度言うが別に構わないって。」
「俺が構うんだよ。お前のスイーツは金取れるレベルなんだから。」
砂藤の言う通りキッチンに一人分のガトーショコラがラップして置かれていた。なんたるふっくら感か、見た目だけで美味しそうなのは嬉しい限りだ。
早速食べようかと思うが、一人で食べるのも味気ない。そんな時に思い出すのは今日徹夜だという彼女のこと。
「...ま、たまには半分でもいいか。」
そんな考えからお徳用チョコレートの袋とMAXコーヒーを一本、ついでに二つに切り分けたガトーショコラを発目の元へと持っていく事に決めたのだった。
尚、その際に聞かされた事なのだが、チャクラの保存可能期間が少なくとも数日以上であり、エネルギーの減り具合から計算すると1ヶ月以上持つ可能性すらあると言うのだ。それを聞いてチャクラカートリッジの危険性を無視してコスチュームに取り入れる事を決めた。いや、チャクラ量は自分の課題だったのだ。それをアイテムで改善できるとか飛びつかない訳ないという話だ。
爆発するのも、脳無みたいなの相手にするなら使えそうだし。
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日課のロードワークを終えて朝食を取り分ける。今日は秋刀魚とあさりの味噌汁にサラダとご飯だ。当然ご飯は山盛りだ。
朝食時に一緒になった常闇と出久に昨日の話をする。やはりカップ麺一つではランチラッシュに染め上げられた俺の胃袋と舌は満足できず、微妙に寝苦しい夜を過ごしたのである。
「てな事が昨日あったわけなんで、今日は腹減りなんだよ。」
「通りでご飯が山盛りなんだね...」
「漫画盛りと言っても良いぜ?...やばい、ランチラッシュの米が美味すぎて箸が止まらん。秋刀魚が余るかもしれん。」
「おかわりすれば良いんじゃないかな。」
「暴食の定めか...」
「いや、この程度で暴食とか言うなよ。一応朝遅い組の為に白米をセーブしてんだぜ?本当ならあともう一杯はご飯行きたいんだから。」
「いや、それは食べすぎだと思うよ?量的にご飯3杯分くらいはあるだろうし。」
「そうか?」
「そうだ。とはいえ団扇の運動量ならば、エネルギー摂取の必要があるのは理解できるがな。」
「今日もやったの?雄英一周。」
「まぁこういうのは習慣だからな。でも調べたら短距離ダッシュ何度もやった方が戦闘用の筋肉がつくって話らしい。ランニングが有効だと思ってた浅い考えの昔の俺を殴りたい気分だよ。」
「あー...そういえばトレーニング方法のビデオとか売ってるヒーローいたなー、ライズアップだったっけ。」
予想外のところで予想外の人の名前を聞く事になってちょっと驚きである。
「ライズアップさんって今エンデヴァーヒーロー事務所にいるあの?」
「そう、ビデオあんまり売れなかったんで事務所が傾いたんだって。それでサイドキック落ちしたんだとか。」
「世知辛い...いや、エンデヴァーに拾って貰ったんなら栄転か。人生何が起きるか分からんなー。」
「塞翁が馬...」
「ライズアップはシンプルな全身強化タイプの増強系の個性だから最近動画とか探してるんだよね。動きのパターンをもっと増やしたいし。」
「流石ヒーロー博士。引き出しが多いな。」
そんなことをぐだぐだと話しながら食べていたら3人纏めて遅刻しかけたのは、きっと只の笑い話だろう。
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その日の授業及び補修も終わり、さぁ復習とトレーニングだと意気込んだその時、一通のメッセージが届いた。
送信者は坂井誠、俺の中学時代の同級生で恩人だ。
文章はかなり乱れていたが、なにやら差し迫った状況である事とその為にヒーローを紹介して欲しいと言う事は読み取れた。
そして読み取れた事はもう一つ。最近ネットで噂になっている、というかヒーロー達が情報を求める為に噂にしている陰我の事件、その一端を掴んでしまったのだと。
即座に返信する。そういう事ならオールマイトの元サイドキック、サー・ナイトアイを紹介すると。だから安心してくれと。
返信と同時にナイトアイにメールをする。送られてきたメールをそのまま添付して、坂井誠には嘘を見抜く個性があると追加で情報を加えて。
「これで俺に出来ることは終わったけれど...嫌な予感がする。無事でいろよ坂井。」
学校に縛られ、駆けつける事のできない今の俺には、そう祈ることしか出来なかった。
久々に日常回。もっと高校生の猥談をカッ飛ばしたかったですが、R-18ではないのでこのあたりで。