【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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難産でした。お陰で1話から続いていた連日更新を途切れさせてしまいました。お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。


倍率300倍を超えられなかった少年の話

未成年ヴィラン保護入学制度、その手続きには意外と時間がかかった。

あの面談の後日、自分は財前組の皆と根津校長とともに警察に自首した。

結構な人数が同時に自首したもんだから警察署はちょっとした祭りであったが、要の爺さんが事前に話を通していたらしく、なんとか対応してくれていた。

自分は根津校長立会いの元、警察から取り調べを受けた。なので順当に、根津校長に話した事と同じ事を警察に話した。警察には8歳の時の事を詳しく聞かれるかと思ったが、根津校長のとりなしのお陰で自分で自分を売ったという1番の爆弾を言わないで済んでしまった。

...こういう守られている感じが嫌になる。未成年だからといって取り調べの手を緩めるのはどうなんだろうかと感情の部分は言う。それは、自分がまだ守られるべき子供でしかないからだと理性の部分が言う。

早く大人になりたい、そう思った。ヒーロー以外に何かになりたいと思うのはこれが初めてだったかもしれない。

 

話が終わったあと、色んな書類にサインをさせられ取り調べは終了した。

 

 

そうして、外に出た自分が見たのは、椅子に座って取調室が開くのを待っていた親父の姿だった。

 

「おう、初めての取調室はどうだった?」

「...普通だった。もっとじめじめしてて暗いもんだと思ってたから割と驚いた。」

「そうか普通か、俺の若い頃から人権とかうるさかったからな。そりゃまともな部屋になるか。」

「父さん...部屋空いたからそろそろ呼ばれるんじゃない?話す事とか纏めといたら?」

「何ヶ月、いや何年前から組をたたむ話になってると思っているんだよ、資料も自白する内容もカンペキだぜ。」

「そ、なら良いや。」

 

こうこう話しているうちに親父の取り調べの番が来て、親父は立ち上がり、取調室へと入っていった。

 

根津校長は言った

「君のお父さんの取り調べは長くなりそうだ。先に帰っているかい?もう書くべき書類にサインは終わったから保護入学制度の準備なら大丈夫さ!」

「いえ、待っています。それに疑問に思っている事もあるんで、校長と少し話したいなとも思っていたんです。」

「僕に話?なんだい、何でも言ってみると良いさ!」

「未成年ヴィラン保護入学制度ってのは初めて聞いたんですけど、そんな制度があるなら雄英に入るためにわざとヴィランになる受験生も出てくるんじゃないんですか?」

「その答えは簡単さ!まず、制度の対象になるのは実技、筆記共に100位以内の好成績者でなければならない事、行ってしまったヴィランとしての行為が、自身の責任ではない事、その二つを満たした上で僕ら教師陣との面談で自身の善良さを示すことが必要だったのさ!つまり、君は結構狭き門をくぐり抜けての制度適用者だったということさ!だから君は裏口入学なんじゃないかとか不安に思う事はないのさ!」

「...特に善良さを示した覚えはないんですけどね。」

「それは、君が自然に善良さを示し続けているということさ!」

「そうなんですか。それなら次の質問です。要の爺さんと先に話をして、財前組の悪事の証言を掴んだ訳ですよね。一体どうしてすぐにその悪行を世間に公表しなかったんですか?」

「それも単純、僕達が財前組の組長を信じたからさ!彼の組をあげて自首をするという言葉に嘘はなかったと感じられた。だからさ!」

「そんな理由でヤクザを信じるってどうかしてるんじゃないですか?」

「ヒーローは時にヴィランすら信じて動かなくてはならない時もある。そういうことさ!」

「...ヴィランを信じる事ってヒーローが一番やってはいけない事のような気がするんですが。」

「時と場合によるのさ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

根津校長とはいろんな話をした。入試にはレスキューポイントという制度があったお陰で、実は自分はあと1pで普通に入学できたということ。

雄英高校には今年の4月からオールマイトが新人教師として赴任するということ。自分の保護入学は世間的には37位の生徒が優秀な成績を残したので特例として入学を許可したと発表するということ。...財前組は組をたたむ際、自分に罪がいかないように色々な細工をしていたということ。

 

思い返せば色々な違和感はあったのだ。自分は仕事中ずっとマジックミラー越しに個性をかけるだけで、特に姿を晒してはいなかった。

それに、組をたたむ事を決めた後でサロンに雇われたステファニーさん。おそらく彼が自分の罪をまるごと背負い、自分は晴れて無罪となる。そういう流れだったのだろう。

 

自分が色んな善意に守られている事が辛い、自分が皆を守れる大人でない事が辛い、もっと力が欲しい、そんなことばかり考えていた。

 

根津校長は言った、自分を元気付けるような声色で。

 

「今日君が書いた書類で、君には個性不正使用の前科が付いてしまった。でもその代わり、日本最高のヒーロー養成学校雄英高校への正式な入学が決定したのさ!本来あり得ざる41人目の合格者、僕たちも極力君を守るつもりではいるけどそれに対する誹謗中傷は多いだろう。だが、君の実力ならそれらの声を振り切って立派なヒーローになれると僕は信じている!Plus Ultraさ!これからの君の活躍を期待しているよ!

さて、僕はもうそろそろ学校に戻らないといけない時間だ。お先に失礼させてもらうよ!」

「...ありがとうございます、校長先生。」

 

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取調室の親父を待って3時間、自分は何をするでもなくぼーっとしていた。そんな自分を見かねたのか一人の女刑事さんがコーヒーを入れてくれた。

 

「あったかいもの、どうぞ。」

「あったかいもの、どうも。」

 

女刑事さんは言った。

「君の取り調べは終わったんだから、もう帰っていいのよ?君は確かに犯罪を犯した。けれどそれは大人に強要されての事よ。君に責任は無いの。君はまだ、子供なんだから。」

「...刑事さん、もし俺が今から個性の不法使用は自分の責任だって証言を変えたら、何かを起こせますか?」

「...何も起こせないわ。君はまだ子供、法律的に責任能力を持っていないの。だから、君の言い変えたことが真実だとしても責任を君に取らせることはできないわ。」

「そうですよね、子供には何もできない。どんなに体を鍛えても、どんなに個性が強くても、子供だってだけで何もできなくなる。」

「でもその代わり、子供は次の世代の大人になれる。次の世代の誰かを救える。それは、今の大人にはできない大切な仕事なの。」

 

その言葉に、つい声を荒げてしまった。

 

「俺が救いたかった人は次の世代じゃなくて今の大人なんですよ!次なんてない、次なんてないんです!」

 

女刑事さんは少し考えたあと、優しい声でこう言った。

 

「いつだって、何にだって次なんかないわ。でも、だからこそ次を思う事は大切なの。自分の感じた悔しさを次の世代に引き継がせないために。自分の感じた後悔を、後悔のままで終わらせないために。そして次を、ちょっとでも良いものにするために。

...君はヒーローになるんでしょ?だったらこの心構えは持っていなさい。」

 

その優しさは、自分の熱くなった頭を冷ましてくれた。

 

「すいません、少し感情的になりました。」

「いいのよ、それくらい。そんな感情的になるくらい大切だったんでしょ?財前組の人達は。君が待ってるあのおじさんは。その誰かを大切に思う気持ちを忘れなければ、君は良いヒーローになれるわ。ヒーローをよく見るヴィラン受け取り係の私たちが言うんだから間違いないわ!」

「...自分で言うんですか、ソレ。」

「実は私、ヴィラン受け取り係って名前気に入っているの。ヒーローと助け合ってる感じがして。少数派なのはわかっているけどね。」

「凄いプラス思考だ...」

「覚えておいた方が良いわよ?プラス思考は最強なの。」

 

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女刑事さんと会話をしていると、親父が取調室から出てきた。

 

「親父!」

「なんだお前、待っていたのか。...俺はお前と違って明確に罪を犯したわけだから、これから留置所だぞ?待ってる意味なんかなかったろうに。」

「あ、忘れてた。」

「忘れてたんかい...ま、そんな訳だからお前とはここでしばらくお別れだな。次に会うのは出所した後だな!」

「面会行くよ。行けるようになったら。」

「アホ、来なくて良いわ。お前はお前のためになる事をしとけ。せっかく入れた雄英だ、授業についていけないとかのオチは笑えねぇぞ?」

「でも!」

「良いんだよ、俺たちの事なんか気にしないで、お前はもうヒーローの卵なんだから。」

「...それでも、面会行くよ。親父達に出会えたことは、間違いなんかに思いたくないから。」

「強情だなぁ、誰に似たんだか。」

「多分、ヤクザの癖に優しさを誰かに投げることをやめなかった変なオッサンにだと思うよ。」

「...そうか、それならまぁ仕方ないか。」

 

親父は、そう言って警官に連れられ、去っていった。

何かもっと言うべきことがある気がして、何かもっと伝えるべき思いがある気がして、心のままに叫んだ。

 

「親父!」

 

歩きながら右手を上に上げ、こう返してくれた。

 

「面会来るんだろ!なら話は次にしようや!お前も俺も、まだまだ人生に先はあるんだから!」

 

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「次か、そうだよな。親父達が捕まるのは今の俺には止められないけど、生きている限り次はあるもんな...まだ、死んだわけじゃないんだから。」

 

そんなことを一人ごちながら警察署を去り、家路に着いた。

だが、そんな言葉とは裏腹に、顔は上を向くことはなかった。

 

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歩きながら自分の半生を振り返る

 

4歳の時に親父に逃げられ

それから母の心を作り変えた。

8歳の時自分をヤクザに売った。

...親父が俺を買ってくれた。

それから6年、犯罪を犯し続けた

その結果、自分の罪は暴かれ、親父達を売ることになってしまった。

 

だが、自分は人に恵まれた。自分は出会いに恵まれた。

悪いことばかりの人生だったが、幸せだった。

でも、善行が報われるのと同様に、悪事もまた報われるのだ。

自分が社会のルールを破る行為を犯してしまったために自分は新たに得た家族と離れることになってしまった。

 

因果応報だ。

 

自分は、何を考えていたんだろうか。

犯罪であることから目を逸らし、金のためだと目を曇らせ、親父のためだと思考を止めていた。

でも、社会のルールを破ることは問答無用で悪なのだ。親父のことを本当に思うならば、個性を使ってでも店を辞めさせるべきだったのだ。

 

自分は本当に親父を愛していたんだろうか。

そんな俺は、なりたいヒーローになる事が出来るんだろうか。

 

そんなゴールのない問題をぐるぐる考えながら歩いていると、良く見覚えのある女子が目に入った。

 

自分の友人、坂井誠であった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あれ、団扇君じゃないですか!こんな所で奇遇ですね!」

「坂井か、確かに奇遇だな。...凄い荷物だけど、持つか?」

「団扇君、ちょっと暗い顔してますけど平常運転ですねー。それじゃあ、半分荷物お願いしましょうかね!でも、団扇君の用事とかは大丈夫だったんですか?」

「用事は終わって、家に帰る所だよ。だからもう用事は無いんだよ。」

「嘘はないみたいですねー、良かったです。それじゃあ、警察署までお願いしますね!」

「...まあ良いか、こういう事もたまにはあるだろ。」

「どうしたんですか?...まさか用事とは、警察署に行くことだったとか?」

「今日は珍しく冴えてるな。その通りだよ。」

「ええ⁉︎大丈夫なんですか、それって雄英受験に差し支えのあることになりそうじゃないですか!」

「ああ、そういや連絡忘れてた。雄英受かったよ。警察署に行ったのはその手続きがあったからだったり。」

「えええ⁉︎合格通知来たんですか!おめでとうございます!団扇君なら受かるって信じていました!」

「まあ、補欠入学みたいなもんだけどな。」

「それでも凄い事には変わりませんよ!早速皆に伝えないと!」

「歩きスマホは危ないから、信号待ちとかでなー。」

「はーい。」

 

 

「にしても団扇君さっきまで警察署にいたんですかー。ちょっと悪い事しちゃいましたかね。」

「別に良いよ、暇だったし。」

「団扇君の暇は割と信用できないんですけどねー。人助けのためなら5分だろうと時間があれば暇だって言う人ですから。」

「そうか?」

「そうですよ。ま、今回は嘘ではないみたいなので良いですけど。

さて、団扇君に質問です!」

「急にテンション変えるなびっくりするだろ。それで、質問ってのは?」

「団扇君、警察署で何をしていたんですか?手続きとかなら普通市役所に行くはずです。それなのに警察署に行くなんて、何かありそうじゃないですか。団扇君関係はわからないですけど、ヤクザの関係者だって言葉に嘘もなかった訳ですからちょっと心配していますよ?」

「ちょっと前科付いただけだよ。心配するな。」

「ちょっとの内容じゃない⁉︎何ですか前科って、高校受験真っ只中の受験生から出る言葉じゃありませんよ!」

「雄英高校の校長に俺の違法労働がバレちまったってのと、それ関係で俺を保護してくれた人達の違法行為が暴かれてしまったってのがあってさ。いろんな人と一緒に警察に自首してきた所なんだ。」

「衝撃の真実すぎません⁉︎嘘がないのが怖いのとか初めてなんですけど!...団扇君がなんか暗い顔してたのはそのせいですか?」

「暗い顔云々は自分では分からないけど、ちょっと違うな。俺に前科がついたのは正直納得できているんだ、犯罪をしていた訳だからな。

でも、そのせいで俺の親父が余計に罪を被っちまった事があってさ、まるで俺は自分の為だけに親父を売ったんだ、俺は親父を愛してなんかいなかったんだって考えが止まらなくてさ。」

「団扇君のお父さんですか...どんな人だったんですか?」

「生き方を間違えてる優しい人、だな。ヤクザの癖に人に親切のボールを投げる事をやめないから損ばっかりしてる人だよ。...俺に、親切のボールの投げ方を教えてくれた恩人でもあるな。」

「...団扇君、答えがわからないなら私に言ってみてください!

私の個性を知っていますよね、私には嘘がわかるんです!団扇君が自分の気持ちを分からないって言うなら、別の視点から答えを出せば良いんです!さぁ、言ってみてください!」

「...物は試しって言うからな、それじゃあお願いするわ。」

 

正直、藁にも縋る気持ちだった。だから、迷った心の弱い部分をさらけ出してしまったのだと、後から考えると思えた。

 

「質問1、俺は、自分の為だけに親父を売った。」

「嘘です、団扇君は自分の為だけにお父さんを売ったんじゃあありません!」

「質問2、俺は、親父を愛していなかった。」

「それも嘘です!団扇君はお父さんをしっかり愛しています!」

「質問3、俺は、ヒーローになって良い人間じゃない。」

「...嘘です!団扇君は、ヒーローになって良い、いろんなレッテル貼られながらもお人好しをやめなかった優しい人です!」

 

3つの質問への3つの回答は、自分の心のどこかに響いた。

 

「そうか...ありがとな、坂井。」

「いえいえ、今助けられてる私の言うことじゃないかもしれませんけど、友達って、助け合いですから!」

 

友を信じる、そう決めたからもう一度試そうと思った。

だから、深呼吸して、自分に都合のいい考えをまとめ、声に出した。

 

「俺は、親父の想いを思ったからこそ親父をヒーローに売った。でも俺は親父のことをしっかり愛している。だから、俺はまだヒーローを目指しても良い。今の言葉、嘘はあったか?」

 

坂井は、満面の笑みでこう答えた。

 

「今の言葉に、嘘は全くありませんでした!」

 

心が、軽くなった気がした。

親父達を売った罪悪感はまだ胸の内に残っているが、友が教えてくれたのだ、俺はまだヒーローを目指しても良いと。なら、俺は友を信じて夢を追う、それが今の俺のやらなきゃならない事だと思った。

 

「さて、警察署に着きました!もう大丈夫ですよ、団扇君。荷物、ありがとうございました!」

「そういや聞きそびれていたんだが、親父さんでも警察署に勤めているのか?」

「いえ、お母さんが刑事やっているんです!ただ、ちょっと立て込んでて泊まり込みになりそうだから、着替え持ってきてくれって話になったんですよ。なんでも、沢山の人が一斉に自首してきたとか...団扇君、まさか関係してたりします?」

「します。千葉の指定暴力団財前組の最後だよ。」

「へー、団扇君はもう暴力団の影に怯えずにいられるって事ですね。つまり高校では友達作り放題ですね、良かったじゃないですか!」

「でも、こうも思うんだ。俺に暴力団関係者だってレッテルがあったから、お前と俺は友達になれた。お前がきっかけで、俺には沢山の友達ができた。それは、俺に暴力団関係者ってレッテルがなかったらあり得なかった、奇跡みたいな出会いだと思うんだ。

だから今俺は、暴力団関係者で良かったと思えてるよ。坂井、お前と出会えたから。

坂井、俺と友達になってくれてありがとう。」

 

「団扇君...はい!私も、団扇君と友達になれて良かったって思います、断言できます!こちらこそ、ありがとうございました!」

 

そんな言葉と共に、坂井は警察署に入り、俺は再びの家路に着いた。

ただ、今度は少しだけ、上を向いて歩けた気がした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

千葉県の指定暴力団財前組の一斉自首は、ニュースで少しだけ騒がれた。ヒーロー社会がヴィランの元締めを戦わずに倒した!と。だが、その中にヤクザに売られ、個性使用を強要され続けた少年がいたとの報道は無かった。おそらく根津校長や警察の人たちが手を回してくれたのだろう。

親父は未成年への個性使用強要で捕まったが、要の爺さんが事前に準備していた敏腕弁護士の綾里さんのお陰で起訴猶予がつきそうだという話になった。引き取った子供をしっかり学校に行かせていた事が猶予処分の決め手になったのだとか。人生万事塞翁が馬、何が自身を救うものとなるかは分からないものである。

 

まぁヒーロー飽和社会の昨今である、どんなセンセーショナルなニュースでも3日で忘れられるものだ。無情だなー。

 

さて、めでたく前科者となった自分だが、少年院に入る事はしないで済んだ。その代わり俺の保護責任者が雄英の校長となった。保護者として自分を見張ることで再犯を防ぐという意味合いからだろう。

 

だが、根津校長の温情からか住所の変更はしないで済んだ。親父との思い出の詰まったこの家を守ること、それも今の俺のするべきことの一つだということなのだろう。

そんなことを考えていると来客がやってきた。

ステファニーさんと、見たことの無いスウェットの美人さんであった。

 

「やっほー、巡君、お寿司持ってきたけど食べる?」

「どうも、ステファニーさん。それとそちらの女性は?」

「財前扉だ、こうして直に出会うのは初めてだな。」

「扉の個性の!女の人だったんですねー。」

「それと、財前の直系の娘さんでもあるのよ?そのせいで就活失敗して今ニートしている子でもあるけど。」

「ステファニー、滅多な事を言うな。私はちょっと就活を休憩しているだけだ、ニートではない。」

「どういう人かは大体わかりました。とりあえず中へどうぞ、狭いですけど。」

 

3人は、部屋の中へと入っていった。

 

ちゃぶ台を中心に座る3人、初対面の人物がいるから少し空気は固かったが、筋骨隆々な黒人はそんな事を構わず言葉を綴っていった。

 

「さて、それでは財前組居残り組お疲れさま会を始めたいと思います!」

「いまいち流れが読めないのは俺だけですかね。」

「正直私もステファニーに突然連れてこられた側だからなんとも言えんな。」

「あらあら、まぁ予想外のタイミングで財前組がなくなって、微妙に暇してたから騒ぎたかったってだけなんだけどね。」

「そんな理由ですかい。」

 

 

「そういえばステファニーさん、本来ならステファニーさんが俺の罪を被って捕まる予定だったって本当ですか?」

「あら、どこで聞いたのかしら。でも本当よー、私は組をたたむ時に罪を被ってくれって話で、この組に雇われたの。まぁ巡君の事がヒーローにバレちゃったから私は普通に退職になるんだけどね。」

「ついでに言うなら私は組がなくなった後の君の保護者になる事になっていた。まぁこれも君の事がヒーローにバレたお陰でこっちもおじゃんになったわけだがな。こんな所でもお祈りになるとか私呪われているんじゃないか?」

「別に面倒が減ったと思えば良かったんじゃないですか?扉さん、これから就活な訳ですし。」

「君はそんなに手間のかからない良い子だと小指から聞いていたから負担になるとは思っていない。むしろ家事の負担が減るとも聞いていたから期待していたくらいなんだがな。」

「そういや扉さん、あの屋敷で一人暮らしになるんですか?」

「いいや、ステファニーとか家の無い連中に部屋を貸している。集団自首によって、住み込みで働いていた連中の中には住む場所を失った者も多いからな、部屋と次の職が見つかるまで、なるべくウチで世話をしているんだ。組をたたむのは予定されていた事だから、そんなに数は多く無いがな。」

「そういやステファニーさん住み込みでしたねー。」

「そうよー。そのまま捕まる予定だったから転職活動も部屋の確保もしてなくて、結構困っていたのよ。だから扉ちゃんの話は、渡りに船だった訳。」

「へー、そうなんですか。あ、赤身系もうなくなってる。」

「あら本当ね、扉ちゃん、こういうのって普通一人一種一つずつよ?」

「あ...すまん、実家にいた時の癖だ。ウチで寿司が出た時は大体早い者勝ちだったからな、つい急いでしまった。」

「 俺、財前組のヤクザっぽい面初めて聞いた気がします。」

「こんなしょぼい事でヤクザっぽいとか感じなくていいわよ。まぁ、財前組がヤクザっぽくないという点に関しては物凄い同意するけど。」

「いいや、ウチはヤクザだ、なにせそのせいで私はいろんな企業からお祈りメールをもらっているんだからな!」

「それって扉さんの努力が足りないだけだと思うんですが。」

「うぐ...そ、そんなことはないよな?」

「さぁ、私たち扉ちゃんがどんな就活してるとか知らないから何も言えないわね。」

「皆冷たくないか⁉︎寿司代払ったの私だぞ!」

「「ごちそうさま」です」

「それだけか薄情者ども!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その後、3人でテレビ見ながらとりとめのない話ばかりしていた。

そんな折、ステファニーさんがこう言った。

 

「にしても巡君、思っていたより元気でよかったわ。」

「そうだな、君は小指を実の父親以上に慕っていたと聞いていた。てっきりもっと落ち込んでいるのだとばかり思っていたよ。」

「...友達が、俺を励ましてくれたんです。俺はちゃんと親父を愛していて、俺はヒーローになって良いって言ってくれたんです。

なら、俺はその期待に応えないと嘘ってもんですよ。」

 

ステファニーさんは、優しい顔でこう言った。

 

「そう、良い友達を持ったわね。大切にしなさいよ?」

「ええ、友達は俺の宝物です。」

「そんなに思える良い友達がいるのは良いな、私もヤクザの娘というだけで結構敬遠されていたから、どれだけ友人を作るのは難しいかはわかるつもりだ。そんな中でも友人ができたというのは君が思う以上に凄いことなんだよ。誇りに思いたまえ。」

「はい、わかっているつもりです。」

「なら良し、さぁステファニー、もう良い時間だ、帰るぞ!」

「そうね、ではこれにて財前組居残り組お疲れさま会を終了します!巡君明日卒業式でしょ?私達のどっちも保護者って訳じゃないから出られないけど、ちゃんと背筋伸ばして頑張りなさいな!」

「まぁ、卒業生代表は元生徒会長の奴なんで、気楽に構えて行きますよ。」

「そう、それじゃあね巡君!もうお互いヤクザ者じゃあないから、今後は気楽に付き合ってくれると嬉しいわ!」

「そうだな、次に会う時は恐らく私は社会人だ。人生の先輩として良い経験を積んで、君に良いアドバイスをしてみせよう!」

「ありがとうございます、お二方。ただ一つ言っておきたいんですが、使い捨てだからって食ったものそのままで帰るのは大人の女性としてどうかと思いますよ?」

「あはは、まぁお寿司奢ったんだし良いじゃない。」

「金払ったのは私だがな。」

「まあ、大した手間でもないので別に良いですけどね。」

 

そんなぐだぐだの後、二人は帰っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

卒業式は特に何事も無く終わった。

自分が雄英のヒーロー科に受かったという噂は広まっていたが、それは自分の暴力団関係者だというレッテルを払拭するほどのものではなかったようだ。特に友達が増えたりする事はなかった。まぁ、小学校の時とは違い友人は少しだがいたので、退屈する事はなかったが。

 

「写真撮りましょ写真!皆で!」

 

坂井の声に集まるように沢山の人が集まってきた。自分の元クラスメイトがいた、運動部で頑張っていた連中がいた、文化部の部長達がいた。

友達も、そうでないのも混ぜこぜで撮った謎の集合写真、自分は中央にいる坂井の隣で写った。坂井の顔では満面の笑みであった。その笑みにつられて、自分も笑顔を作れたと思う。

 

この光景を、親父に見せられなかったことが少し後悔ではあるが、写真と共に、思い出話で語ってみよう。きっと親父も笑顔になる筈だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

雄英高校ヒーロー科、倍率は狂気の300倍

自分はその300倍を超えることは出来なかったが、自分の16年間が導いた奇妙な縁から入学を許可された。

だが、あり得ざる41人目の入学者としてのレッテルはこれからの自分を苦しめるだろうという。

また、自分には幸運も不運もある、奇運としか言いようのない人生を送ってきた。これから先の人生でも恐らくそれは変わらないだろうと予測できてしまう。

だが、自分は大丈夫だ。なぜなら自分はもう一人ではない。暴力団関係者というとんでもないレッテルを乗り越えてなってくれた友達ができたのだ。その奇跡を信じてこれから先の人生を頑張っていきたいと思う。

 

あぁそうだ、ずっと言い忘れていた事がある。

この物語は、自分団扇巡が奇妙な運命を乗り越えて、お節介なヒーローになるまでの物語だ。

 




第1部完!
なお、この物語の続きはしっかりプロット練り直した上でやりたいと思ったので当分更新は無しになりそうです。行き当たりばったりでは長編小説は書けないのだという事、自分自身の表現力の足りなさがいろんな場面で現れてしまったという事、自分の様々な課題が見えた小説になりました。
正直一回消して始めから書き直したい感はありますけど、自分への戒めとしてしっかり残しておきたいと思います。

誤字報告をしてくださった方々、感想を書いてくれた方々、このような稚拙な作品をここまで見て下さった皆様方、本当にありがとうございました!
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