【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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団扇巡迷走編、まずはこの出会いから。



団扇巡迷走編
飛田弾柔郎と相葉愛美と団扇巡


「お前達に仕事を頼みたい。」

 

黒く靡くコート、三つ巴の映える紅の瞳、そして氷のようなその表情。目の前の少年は、こんな自分以上に(ヴィラン)らしい姿で、そんな事をのたまってきた。

 

「ジェントル、どうするの!今日はもうアレは使っちゃったわ!」

「ハッハッハッ、何、心配することは無いさ。彼が本気なら私はもう倒されている筈だからね。」

「彼を知っているの?流石ジェントル、博識ね!」

「いや、知らずとも分かるさ。彼は強い。私たちの切り札を使って尚勝てるかどうかといったところだろう。伊達ではないのだね、ヴィラン潰しというのは。」

 

ジェントル・クリミナルとラブラバ。二人の世間を騒がす(ヴィラン)系動画投稿者は、その日、迷いながらも戦い続ける少年と出会った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時は少し遡る。少年にとっては犯行の下準備を終えて休憩を挟もうとした時だった。

そのコンビニには、たまたま彼等がいた。

 

五人のヒーローをいともたやすくあしらった紳士然とした中年と、その相棒のカメラを持った小柄な女性。

 

「そういや、Jストアってこいつらのターゲットだったな...」

 

そう呟いた少年には、閃きが走った。正直彼らのような(ヴィラン)が何をしようが今ではどうでもいいが、これからやる事を考えると彼らのような腕利きの助太刀は欲しい。

 

幸いにも脅すネタは持っている。

 

「...行くか。」

 

少年は、空を飛び華麗に去って行く男を追いかけて、飛んだ。

 

「ジェントル!後ろから追いかけてくる奴がいるわ!多分ヒーローよ!」

「なんと、気概のある者がいるものだね。」

 

そう言って振り返ったジェントルは、驚きを隠せなかった。少年は、ジェントルの個性弾性(エラスティシティ)で作った空気のトランポリンを寸分違わず足場にして飛んできているのだから。

 

「フッ、だが私は動じない。これならどうかね?」

 

ジェントルは空気のトランポリンの他に、空気の膜でトランポリンの前に壁を作った。彼が追いかける事ができている理由は、自分の飛んだ足場を違わずに追っているからだと推測したからだ。

 

だが、少年はいともたやすくその膜を回避した。壁とした空気の膜の端を掴み乗り越えたのだ。

 

「どうするのジェントル。このままじゃ追いつかれちゃう!」

「...仕方ない、優雅ではないがもう一戦闘といこうか。」

 

ジェントルはそう言って近くのビルへと着地した。少年もある程度の距離に離れつつそうした。

 

そうして向かい合うジェントル達と少年。その目を見た瞬間ジェントルは動けなくなった。体の至る所に巨大な杭が刺さるヴィジョンとともにだ。

 

「ジェントル⁉︎」

 

ラブラバが不安げに声をかける。ジェントルの顔から笑顔が消えたからだろう。

これで自分たちの犯罪浪漫も終わりかと諦め、せめてラブラバだけでも逃げろと言おうとした時に、体は自由になった。

 

「ジェントル・クリミナルにラブラバだな?」

「...ああ、そうだ。」

 

問いには素直に答える。金縛りにあった瞬間に感じた感覚は、ヒーローのものでは決してないからだ。

冷たい、(ヴィラン)のものだった。

 

それが、テレビで見た少年の姿と重ならなかったから今まで繋がらなかったが、今ならわかる。黒いコートに紅い催眠眼。

 

彼は、ヴィラン潰しだ。

 

だが解せない。それならば先程の金縛りを解く理由などないはずなのだから。

その疑問は、次の彼の言葉で氷解した。

 

「お前たちに仕事を頼みたい。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さて、仕事の依頼とは?私を知っているという事は私が義賊の紳士である事は承知しているだろう。そんな私に頼むのだから、それ相応の相手なのだろう?」

「...運命予報というアプリを知っているか?」

「知っているかねラブラバ。」

「ええ、占いアプリよジェントル。顔写真と実名を必要とするハードルの高いアプリね。なかなか評判には上がらないけど、結構歴史の長いアプリよ。ジェントルといつ会いに行けばいいかを占ってもらったから記憶に残っていたの。」

「なら話が早いな。そのアプリが(ヴィラン)に悪用されている。」

「ほぅ。」

「それが本当なら由々しき事態ね!ジェントル、どうするの?」

「うむ、現代の義賊として見過ごす訳にはいかない。...それが本当ならだがね。」

 

流石に素直に頷いてはくれないか。まぁ当然だな。情報ソースを明かしてはいないのだから。

とはいえ一応(ヴィラン)であるコイツらにあまり警察の内情を知らせるのも気が引ける。脅す方向で行くとしよう。

 

飛田弾柔郎(とびただんじゅうろう)。」

「ッ⁉︎」

「これをもって信じる理由としてくれ。」

「...脅すと言うのかね、我々を。」

「情報ソースの正確さの開示ついでにな。一応言っておくが、受けないって言ったとしてもこの情報を警察にバラすような事はしない。そこは安心してくれ。」

「...奇妙な事だ。君は(ヴィラン)に堕ちている、それでも尚そのように生きるのか。」

「外道に落ちる事で奴を殺せるならそうするが、それができるなら苦労はしない。それだけの事だ。」

「...わかった、受けようその話。」

「ジェントル⁉︎」

「ラブラバ、私は彼の中にある暗くも気高い魂を信じてみようと思うのだ。君はどうする?」

「...行くわ。私はジェントルについて行くって決めているもの。」

「感謝する。決行は今日の夜8時だ。その時にレンタルサーバー会社内部への内通を催眠眼で仕込んでいる。作戦目標はアプリの個人情報を利用しているターゲットの特定、及びその情報の拡散によるアプリの信用の破壊だ。」

「一つ疑問がある。(ヴィラン)はなんの犯罪にそのアプリを利用したのだ?」

「少なくとも1件の殺人教唆。(ヴィラン)の私兵の調達、及び洗脳。」

「...ッ⁉︎」

「その私兵は数多くの人間を殺している。この前の病院怪死事件のようにな。」

 

ジェントルとラブラバはその悪意のスケールの大きさに戸惑ったようだ。まぁ無理もないか。

 

「臆したのなら帰っても構わない。元々は一人でやるつもりだった。」

「待って、そのレベルの案件ならどうして警察に頼らないの?私たちに頼るよりも正確性の高い情報が得られる筈よ?」

「警察に頼れば、奴を殺すチャンスが狭まる。」

 

これは本音だが、それだけではない。本部長が殺された事によってイレギュラー以外は奴に手を出せないとわかってしまったからだ。

...犠牲になる人は、少ない方がいい。

 

「...狂ってるわね。」

「自覚はしている。」

「ラブラバ、それが彼の信念なのだろうさ。レディならばそれを受け入れてやるものだよ。」

「...そうね。」

「じゃあ集合は7時55分に...」

「いや、君を私たちのホームへと招待しよう。」

「ジェントル⁉︎」

「...いいのか?」

「フッ、紳士たる私の犯行には詳細な計画を詰める必要がある。それに...」

 

ジェントルは奇妙な笑みを携えてこう言った。

 

「君は、紅茶を嗜んだ方がいい。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺は、都内にあるジェントルの拠点の安アパートへと招かれた。

それからすぐに作戦会議だ。向こうが何故乗り気なのかはわからないが、そこはどうでもいいことだ。

 

ラブラバが奥のキッチンへと向かい、紅茶を淹れて来てくれた。

出された紅茶の匂いが香ばしい。良い茶葉を使っているのだろう。

 

「ふむ、仕事の後の紅茶と前の紅茶を一緒にしてしまうのは些か勿体ないが、まぁ急な話だったからな。それにこのフォートメイソンはこれからの仕事に見合った紅茶だ。...さぁ、犯罪計画を練るとしよう。」

「じゃあ確認よ。目的はリーフレンタルサーバーのデータセンター。そこからアプリの通信記録を盗み見るって事でいいのね。」

「ああ。」

「でも、ぶっちゃけこの程度のセキュリティ私ならここから抜けるわよ。データセンターまで行く意味あるの?」

「俺が行く事に意味があるんだ。最悪データは取れなくていい。奴らに俺が手段を選ばなくなった事を分からせる事に意味がある。」

「ふむ、なら犯行予告でもするかね?」

「いや、監視カメラに映る程度でいい。俺の背中には目立つ家紋があるからな。それで伝わるだろ。」

「...それでは君が戻れなくなるのではないかね?」

「戻る気はない。俺はこれから、殺しをするんだから。」

「ふむ、やはり君は紅茶を嗜むべきだ。」

「ジェントル、話の繋がりがわからないわ!」

「ハッハッハッ、単純な事さ。」

 

ジェントルはヒゲを撫でながら言った。

 

「紅茶は人生を豊かにする。道が一つだけではないと教えてくれるのさ。君のように凝り固まってしまった人間でもね。」

「...そんなものか。」

 

紅茶を一口飲む。そのおかげなのか、ある事を忘れていた事に気付いた。

遅くなったが、やらないよりは良いだろう。

 

「団扇巡だ。ヴィラン潰しとも呼ばれてる。」

「フッ、私は紳士、ジェントル・クリミナルだ。よろしく頼むよ少年。」

「...ラブラバよ。ジェントルの相棒をしているわ。今回はよろしくね、団扇くん。」

 

この時、奇妙な三人組が出来上がった。

 

「さぁ、作戦会議の続きといこう。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時刻は夜8時。事前に催眠眼で仕掛けておいた社員さんによる内部からの手引きにより俺たちは裏口から楽々と潜入を果たした。ついでに彼のアクセスコードとID、パスワードなどの諸々を拝借させて貰った。

 

そして手慣れている彼女は、すぐに警備システムの無力化を果たした。恐ろしきはラブラバの手腕といったところだろう。

 

ついでにジェントルに向けてカメラを回し始めているのは配信者としてのサガだろうか。

 

「これでサーバールーム前までは障害はないわ。でも注意して、監視カメラに変な奴が映っていたわ。サーバールームの扉の前で陣取ってる。」

「...念のために聞くが、今日の襲撃を誰かに話したか?」

「そんな暇あるわけないじゃない。」

「そうだな。じゃあ待ち伏せか、何らかの要因で会話が漏れていたかだな。」

「団扇くん、運命予報の入ったスマホは持っている?」

「スマホは電源を切ったままだ。盗聴系のウィルスが入っていたのが原因とは考えられないぞ。」

「ハッハッハッ、そんな事は本人に聞いてみればわかることさ。」

「それもそうか。」

 

写輪眼で見る限りでは、個性の攻撃がもう始まっているという事は無いようだ。

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「角を曲がればサーバールームよ。」

「...戦闘開始だな。」

「フッ、優雅でないが待たれているのなら仕方あるまい。」

 

斥候として影分身を放つ。こちらの戦闘員は二人、初見殺しの個性を持たれていたら面倒だからだ。

 

ゆっくりと角を曲がって男と相対する。不意打ち催眠は躱された。俺が来るという事を知っていたのだろう。足元を見てこちらの位置を判断している。

 

「お前は誰だ?」

 

その言葉への返答は、男が背中に隠していたモノによる銃撃だった。発射音からしておそらく短機関銃。

 

分身は、男が構えた瞬間に射線から身体をずらしたが、この通路では躱しきるには狭すぎる。壁走りで上下に揺さぶってもしっかりとこちらに射線を合わせて来たため、分身はあえなく蜂の巣となった。だがチャンス、銃撃が終わった。リロードしているのだろう。

 

「ジェントル、行くぞ。」

「銃とは優雅さの欠片もない。無粋な連中だな。」

「頑張ってね、ジェントル!」

 

ラブラバを残し、ジェントルを連れて角から出る。短機関銃のリロードが終わり、再び銃撃を放とうとしてくる。だが先程とは違い、こちらにはこの男がいる。

 

「フッ、そこの男、怪我をしたくないならしっかりと躱すといい。ジェントリーリバウンド。」

 

弾性を付与された空気によって短機関銃の銃撃は全て受け止められ、その威力のまま跳ね返しされた。それを見た男は、サーバールームに転がり込む事でその反射を回避した。動きに迷いがない。こういった襲撃に慣れているという事だろうか。

 

「チッ、面倒なところに逃げ込んだな。」

「それもあるが...少年、今の男がどんな顔をしていたか覚えているか?」

「それは...なるほど、そういう個性か。」

 

短機関銃の男について、思い出せる事は少ない。顔や装備が靄のかかったかのように記憶の中に残っていないのだ。おそらく常時発動型の認識を阻害する個性だろう。発動型なら写輪眼で見切る事ができるからだ。

 

「ジェントル、団扇くん。これが監視カメラに映っていた男よ。」

 

だが、その手の個性はデジタルに弱いのが常である。そうして見えた装備の中で目を引くのは腰に刺した小刀だ。

 

「近接戦闘タイプだな。短機関銃は見せ札か。」

「となると...先にデータを盗るとしよう。私はラブラバの護衛だ。他に待ち伏せがいないとも限らない故にな。」

「襲撃が予見されていた以上、データは消されてる可能性が高いぞ。」

「デジタルである以上、データを完全に消すことなんてできないわ。データ復旧用のソフトはパソコンにあるから安心して。」

「...流石だなラブラバ。」

「ハッハッハッ、私の自慢の相棒だからね。」

「やだ、ジェントルったら!」

 

軽く打ち合わせも済ませた所でサーバールームへと入る。ドアを開けた瞬間に短機関銃が飛んでくる事を警戒したが、それはなかった。かくれんぼをする訳だろうか。

 

「...トラップの類は見当たらないか。」

「仕掛ける時間がなかったんじゃない?行きましょう。」

 

コンソールへとたどり着くラブラバとジェントル。先程手に入れたアクセスコードを使いデータを抜きにかかる。

 

その間に俺はサーバールームを見回るが、敵の姿は見えない。

なかなかの広さだ。隠れる場所には事欠かない立地といい奴に利する領域だ。こちらの目的がデータである以上サーバーを破壊するような荒い攻撃はできない。なかなかに辛い状況だ。

 

「消えた...?」

 

敵はサーバールームから忽然と姿を消していた。認識阻害の個性を使って隠れているかと思って隅々まで探したのに見つからない。

 

「...戻るか。」

 

そう気を緩めた瞬間に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の上からその男は襲いかかって来た。

 

だが、見えてなくても予想はできていた。俺が(ヴィラン)だとしたらこのタイミングで仕掛けるからだ。

 

首を狙う一つの斬撃を紙一重で回避する。そうして反撃に移ろうとした所で、二の太刀が飛んできた。...疾い。

 

小刀故に刃渡りはそう長くないが、それが故に切り返しが速いのだろう。防刃コートで受け止めなかったら深手を負わされていた所だ。

 

とはいえこれで向こうの攻め手は止めた。反撃だ。

 

と拳を握った所で男の事を見失った。

 

「...厄介だな。」

 

原理は分からないが、奴は消えられる。もっと正確に言うなら認識の外に出られるのだろう。見えていた筈の体や装備が認識できなくなるのだ。

 

「周囲にエネルギーの散布は無し、広域発動型の個性ではない。じゃあ何だ?」

 

考えた所でなかなか答えに繋がるヒントは出て来ない。ここは一旦見に回ろう。影分身を背中合わせに作り、ゆっくりとコンソール側へと移動していく。

 

だが男は、サーバーラックの上から再び奇襲を仕掛けて来た。標的となった分身が躱しきれずに首の動脈を切られて消えた。

 

再びサーバーラックの上からの奇襲。男の個性の条件か?あるいはミスリーディング狙い?

 

...コイツとここで戦うにはあまりに不利過ぎる。だがコイツは陰我へと繋がる確かな手がかり。見逃す訳にはいかない。

 

「ハッハッハッ、手こずっているようだね少年!」

「...ジェントル?」

「コンソールから君の戦いが見えたからね。他に待ち伏せもいなさそうなのでこのジェントル・クリミナルが君の助太刀といかせてもらおう。」

「...何か策でもあるのか?」

「あるとも、まぁ見ていたまえ。ジェントリートランポリン!」

 

ジェントルは、トランポリンで室内を高速で跳ね回りながら全てのサーバーラックに弾性(エラスティシティ)により弾性を与えた。

 

「さぁ少年、上に上がるのだ!」

 

意味は分からなかったがジェントルの言う通りにサーバーラックの上に上がる。すると、男の姿は靄がかってはっきりと認識できないものの見ることができた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()

 

「昔の学友に似た個性の者がいてね、すぐに気付けたよ。奴の個性は触った物の存在感を薄くする個性の系統。それの応用で存在感を薄くした遮蔽物の裏に隠れると近くにいる少年からは消えたように見える。奴がラックの上からしか攻撃してこなかったのは、今のように、目線が通るのを防ぐ為。そんな所だろうさ。」

「存在感の薄い物でも物は物、その後ろにいる物を見ることはできない、か。」

「だが、その個性は決して透明人間になる個性ではない。故に...」

 

「「居場所を割れば何も問題はない」」

 

その言葉が的を射ていたのか、男は短機関銃で迎撃しようとしてきた。だが一瞬迷ったのだろう。どちらに対して銃撃を加えるべきかを。

 

「クッ!」

 

苦し紛れに俺に向けて短機関銃が向けられる。こうして注視すれば持っているものが短機関銃だと分かるのは、少し不思議な感覚だ。同様に男がフルフェイスのヘルメットを着けていることとミリタリージャケットを着ている事が見て取れた。

 

だが、男の行動はもう遅い。弾性と移動術を組み合わせた高速移動によりもう既に男は俺の射程圏に入っているのだから。

 

火焔鋭槍(かえんえいそう)

 

短機関銃を貫くチャクラの槍。槍状に形態変化させたチャクラに火遁を流し込んだ新術だ。

陰我を殺す為編み出した、術の一つである。

 

短機関銃が使い物にならなくなった事で小刀を抜こうとするも、その手も火焔鋭槍で弾く。そして返す刀で男のヘルメットを弾き飛ばし、目と目をあわせる。

 

写輪眼発動だ。

 

「さぁ、吐いて貰うぞ。陰我の事を、知る限り全て。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

襲ってきた男。現無隼人(げんむはやと)というその男は、あいにくと陰我の占いアプリ運命予報に洗脳されたただの鉄砲玉だった。襲撃に至るまでの経緯は、霊堂のようにメッセージで徐々に洗脳していってから一線を越えさせ、自分に依存させたという所だ。

言い方は悪いが、新しい事実が出てこなかった事を残念に思う。

 

俺が来ることはいつになるかは予想できなかったため、今日から警察のガサ入れが入るまでずっとサーバールームで張り込む予定だったのだとか。

 

「俺の動きが読まれてる。...まぁ今回は当たり前の手を打っただけだから当然か。」

 

些かの違和感は残るものの、まぁいいだろう。

そんな時、コンソールでハッキングをしているラブラバから吉報が届いた。

 

「ちょっと来てジェントル、団扇くん!大当たりよ!最近削除されたデータを修復してみたらメッセージのログだったわ!一人のホストと多くのクライアントの!」

「ホストのIPアドレスは!」

「ジェントル・クリミナルの相棒を舐めないで!抜いてるわ、当然でしょ!」

「ハッハッハッ、有能な相棒で私も鼻が高いよラブラバ!」

「...悪いがこのメッセージログの公表まで頼んでいいか?俺は、IPアドレスを追いかける。」

「男はどうする?」

「催眠眼で自首させる。コイツには抗精神操作薬が入れられていないから問題はない。」

「IPアドレスは団扇くんの携帯に送っておくわ。...でも、その前に一つ思ったことがあるの。聞いて。」

 

ラブラバの言葉を聞いて、しっかりと彼女と目を合わせる。このIPアドレスが手に入ったのは彼女のお陰だ、敬意は払っておいて損はない。

 

「団扇くん、人が生きるのには光が必要よ。私にとってのジェントルがそうであるように。ジェントルにとっての夢がそうであるように。...復讐に取り憑かれるのは悪いとは言えないわ、私たち(ヴィラン)だから。でも復讐を生きる為の光にするのだけはやめて。それは、酷く寂しいから。」

「...頭の隅には入れておく。」

「ええ、是非そうして。...悲しいけど、団扇くんを変えられるのは私たちじゃあないから。いつか団扇くんを変えてくれる誰かが現れた時に今の言葉をちょっとでも思い出してくれたら嬉しいわ。」

「フッ、流石私の相棒。良き事を言う。...私からは言う事は全て言ったよ、紳士は多くを語らないものさ。」

「まぁ、素敵よジェントル!」

 

そんな言葉と共に、ジェントルとラブラバは颯爽と去っていった。

 

「行くぞ。」

 

自分は一人、内応に応じさせた社員さんに諸々の物を返すなどの事後処理をした後、現無を連れて警察署へと向かうのだった。

今日の奇妙な出会いを記憶に残しながら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

後日、一つの動画が世間に注目された。迷惑系動画投稿者であるジェントル・クリミナルが匿名のタレコミの元動き、隠された真実を白日のもとに晒したのだ。

 

その動画により、現代の義賊の紳士というお題目が少し世間に浸透していった。しかし当の本人はというと。

 

「少年の手前格好つけてしまったが、腰が抜けた...銃とか相手したくない...」

「ジェントル!ちょっと情けないところも素敵よ!」

 

まぁ、平常運転だった。




この二人好き、原作での再登場が楽しみなキャラですねー。

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