【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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さて、今回からは迷走編の本筋に入っていきます。前回のラブラバ&ジェントル回はぶっちゃけ思い付きだったのだ。


お節介な男との出会い

ラブラバから送られたIPアドレスを元に陰我の現在地を割り出す。多くの削除したログデータは最近のモノだ。それをラブラバ謹製の追跡ソフトに入れるだけの簡単な作業である。

 

正直このソフトが彼女のウィルスである事は疑いようはないのだが、彼らに盗られて困る情報は俺のスマートフォンの中にはない。犯罪の中継利用されたら困るという事ももはやなくなっているからそちらの問題もない。

 

スマートフォンを起動させる事は警察、ヒーローからのGPSによる追跡が行われる事が怖いがラブラバ謹製のソフトは俺のスマートフォンにしか入れられていない為仕方がない。

 

...通知の多い留守番電話やメール、SNSの事は今は無視する。どんな言葉を投げかけられても道を違えるつもりなどもはやないのだから。

 

「ここか...」

 

ソフトの示した住所は神奈川県神野区のネットカフェだ。神野事件により半壊した神野区であるが、修復系、建築系の個性の使用などで前世とは比較できないハイペースで進んでいる。このネットカフェもその一つだ。

 

「...ネットカフェからのアクセスか。ハッキング対策か?」

 

ネットカフェは町中にあるフリー無線とは違いセキュリティがほどほどに整っている。拠点を持たない陰我にはうってつけだったのだろう。

 

陰我が拠点を持たないというのは、ほとんど勘だ。だが陰我と戦ったときの感覚からなんとなくそうなのではないかと思えている。

 

奴は自分の欲が無い。それが故に柱間細胞と共生できているのだろう。俺の体にある柱間細胞も基本的に俺の意思に従ってくれるが、越えられない最後の一線がどこかに存在している。それがこの細胞をもたらした者の意思なのだろう。

 

「思考が脇に逸れたな。...とりあえず中に入るか。」

 

今回の目的は、ネットカフェの無線に残っている筈のログと監視カメラ映像の確保だ。最高は中に陰我がいる事だが流石にそこまでは望めまい。最悪はこのネットカフェ自体が罠であるという事。

 

一応どちらも警戒しよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

受付のバイトっぽい子を催眠眼で洗脳して通る。このネットカフェは完全個室型、俺が来店した事を室内にいる人物が察知するのは難しいだろう。火隠のように散布している身体エネルギーはない。フラットな状態だ。

 

とりあえずは今ドリンクバーや漫画を取りに個室の外に出ている人物を把握しておけばいいだろう。

 

軽く見回った所、今個室の外に出ているのは三人。ガタイの良い青いシャツの男、スーツの女性、黄色いパーカーの男だ。三人とも催眠眼で確認したところ特に襲撃、監視などを依頼されている訳ではないようだ。

 

よって店内のクリアリングは一先ず切り上げ、スタッフルームへと入る。

 

「ちょっとお客さん、困る...」

 

店長らしき人が自分から出てきたのはありがたい。楽でいい。

 

「いくつか聞きたい事がある。とりあえず奥に行け。」

 

店長も襲撃、監視の依頼は受けていない。こちらの動きが速すぎたか?

 

「10月2日午後6時頃の監視カメラ映像を見せろ。」

 

言われた通りにパソコンを操作する店長。スタッフルームには他に人はいないようだ。まぁ今は深夜、無理もない。

そうして監視カメラ映像を見せてもらった所、陰我らしき人物がこのネットカフェに入店した証拠は見つからなかった。木遁には木遁変化という術もある。それで誤魔化しているのだろう。

 

「...映像から割り出すのは難しいか。」

 

少し考える。この店の監視カメラは個室内部まではカバーしていないためログデータとデバイスの操作から逆算して陰我を見つけ出すのは不可能だ。ならばどうする?

 

「仕方ない、 この線は警察に投げるか。」

 

ネットカフェのサーバーを洗い、メッセージのログデータがラブラバの抜いたモノと違いがない事を確認した後でそのデータを携帯にコピーし店を出ようとする。

 

その寸前に、ネットカフェにいた人々に身体エネルギーの変化が見られた。何者かの個性攻撃だ。

 

「一応聞くが、何者だ?」

 

返答はなく、ただ拳だけが飛んできた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

8人、それが俺に攻撃を仕掛けてきた人数だ。だがいずれも素人、脅威に値しない。

それでも不意を撃てばそれなりになったと思うのだが、それができない理由でもあったのだろうか。

 

そんな事を考えていると、個室のドアが開いた。増援かと警戒して身構える。

 

「ドタバタうっせーんだよ!...なんだこれ?」

「お前は正気のようだな。」

「...一体何が起きた?」

「わからん。だが攻撃を受けた。」

 

声をかけてきた男は最初に見回った時に見た青いシャツの男だった。歩いてる姿を見てわかったが、この男そこそこできる。重心の動かし方が武道経験者のそれだ。鍛えている体といい、コイツが敵方にいたら少し手こずっていただろう。だが倒れている人の中には見回りで見た黄色いパーカーの男もいた。

 

何が原因で攻撃のスイッチが入ったのかは明らかにしなくてはならない。敵は、陰我に繋がる貴重な線なのだから。

 

「とりあえずコイツらから個性を取り除く。身体エネルギーの乱れ方が洗脳系のそれだ、それを外から整えるのはそう難しい事じゃあない。」

「待て、お前みたいなガキが仕切ってんじゃねぇよ。」

「一応まだ仮免ヒーローだ。あんたは?」

「...チッ、ただの予備校生だよ。」

「なら今はじっとしててくれ。いつどんな個性を食らったか聞き出さないと面倒な事になる。もっとも、俺に直接個性を使ってこないってことはそれなりに面倒な条件なんだろうけどな。」

 

男をわざと視界の外に置く。敵の可能性は低いが、コイツがそうなら仕掛けてくるだろう。

 

八人に対して程なくしてエネルギーを整え終わった。その間に仕掛けてくることはしなかった。コイツが本体なら面倒は少なかったものを。

 

だが、その時から男は何故かぜひぜひともだえ苦しみ始めた。呼吸困難だろうか?

 

「薬はあるか?」

「ねぇよ畜生!なぁあんた!」

 

そうして男は何故か変顔を何種類も見せつけてきた。行動の意味がわからない。だが苦しんでいるという事はわかる。

 

「ああもうこの氷みたいなクソガキ!頼むから笑ってくれ!」

 

こんな状況で笑えるか。

だが男を注視する事でその苦しみの原因と思わしきモノは分かった。

 

「あんた、感知タイプの個性か?」

「ああッ!他人の心がなんとなくわかる個性だよ!」

「...じっとしていてくれ、今治す。」

 

この男が苦しんでいる理由はわかった。個性の暴走だろう。それの原因はわからないが、見えている現象は洗脳系個性による身体エネルギーの乱れと同じだ。なら身体エネルギーを整えれば良い。

 

へたり込む男の背中に手を当てて自分のチャクラを流し込む。

 

「...ッ⁉︎呼吸が、出来る!凄え治ったぜ!」

「そうか。」

 

男は何やら感極まったようで俺の手を握りブンブンと振り回した。

 

とはいえ奇襲が狙われている今両手の自由を奪われるのは危険だ、振り払って立ち上がる。

 

「俺は店の中を見回る。あんたは自室でじっとしていてくれ。」

「いや、そうはいかねぇ。俺も行くぜ!お前には聞きたい事があるからな!」

 

面倒な事になった。この様子では来るなと言っても付いてくるだろう。まぁこの男の個性が申告通りのものなら使えなくはない。利用させてもらおう。

 

「じゃあ、このネットカフェの中に焦りや憎しみの感情が感じられたら言ってくれ。」

「おうさ!任せな!...ところでお前の名前なんて言うんだ?」

「団扇巡だ。」

才賀鳴海(さいがなるみ)だ、よろしく頼むぜ巡!」

 

その日、俺はお人好しの予備校生と知り合った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ドアを開ける、誰もいない、閉じる。ドアを開ける、誰もいない、閉じる。ドアを開けようとする、鍵がかかっている。店長からくすねたマスターキーを使い開ける。その中にはスーツ姿の女性が眠っていた。

 

「才賀、どうだ?」

「...寝てるだけだぜ。ぐっすりとな。」

「無視でいいな、この人の裏は取れている。」

 

ドアを閉め、鍵を閉じる。これで全ての個室を見回ってしまった。敵の姿はどこにもない。

 

「襲撃した奴らはまだ目覚めない。さて、襲撃犯はどこに行ったのやら。」

「俺の感知にも引っかからなかったぜ。」

 

それが信用できるのなら良いのだが...

 

「そういやお前の個性について聞いてなかったな。」

「ああ、でも大した事ないぞ?範囲は2m程度、その中にいる連中の心がなんとなく分かる程度だ。交感神経と副交感神経?がどっちが優位か分かるって医者は言ってたな。」

「...なら俺の側は辛いだろ。」

「...まぁな。」

「じゃあ、手っ取り早くこの件を終わらせて別れよう。」

 

そう言って、最後の確認に入る。ドリンクバー下のタンクへの扉の鍵は壊されていた。つまりそういう事だろう。

 

水のタンクを取り出し開けると、そこには身体エネルギーの込められた液体が混ぜ込まれていた。

 

「才賀、お前ドリンクバー飲んだか?」

「いや、今日はまだだ。」

「じゃあ決まりだな。この水に混ぜ込まれてる何かが原因だ。これだけ探して見つからないという事は、犯人はもう逃げてるか...出店記録漁るか。」

「漁るって、どうやって?」

「お前に言う必要はない。」

 

スタッフルームへと足を向ける。襲ってきた連中はまだ目を覚ましていない。洗脳の後遺症だろうか...まぁ死んでないならどうでもいい。

 

「巡、お前はこんな状況でも心が乱れないんだな。」

「どうでもいいだろ、そんな事。」

「...ああ、確かにそうだな!でも俺は許せねぇ!無関係な人たちを使って人を襲うような卑怯者はよぉ!だからお前がこんな事をしてる奴と戦うってんなら手を貸したい!」

「...そうか、じゃあ好きにしろ。」

 

とはいえこいつとの付き合いは長くはならないだろう。監視カメラ映像で顔を見て、出店記録と照らし合わせて情報を抜けば後は警察に投げる案件なのだから。

 

その時はまだ、そう思っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「全くよぉ、男と二人でラブホテルなんて行く事になるとは思わなかったぜ畜生。」

「ここまで付いてこいとは言ってない。」

 

ネットカフェで情報を取り終えて通報した後、才賀は俺に付いてきた。家に帰りたくない事情があるらしい。だから深夜のネットカフェにいたのか。

というかここまで付いてくるとは思わなかった。いや、逃亡生活をしている自分の寝ぐらはこう言った身分認証のない場末のラブホくらいしかないのだ。

 

「それで、聞きたい事ってのは何だ?」

「お前のやった俺への治療の事だ。医者に行っても薬の一つも出やしなかったのに、お前はあっさりと治しちまいやがった。だからどうやったのか聞きてぇんだよ、俺の命に関わることだからな。」

「はぁ...お前の個性は、周囲の人間の心の感知とそれに伴った微弱な増強型の複合型だ。んで周囲の緊張が優位になりすぎているとお前の呼吸器官にマイナスの増強が働く。だからお前は発作が起きた時に俺を無理矢理笑わせて緊張をほぐそうとした。ここまでは良いか?」

「...ああ、てか医者に言われた事よりわかりやすいな。どうやって調べたんだ?」

「おれの目はそういうのを見抜く、それだけだ。続けるぞ。...俺が行った治療法は身体エネルギーの調律だ。お前の逆増強は体の外側からの指令による動作の強制、つまり洗脳を受けている状態と同じなんだ。それを解除した事がお前に行った治療法の答えだよ。」

「...てことは俺自身がその洗脳解除、身体エネルギーの調律を自力でやれりゃあ、この体質も何とかできるって訳か!」

「そうだ、話はもういいか?俺は寝る。」

「ああ、ありがとよ。」

 

話は終わり才賀は、外に出ようとした。だが何故か踏み止まった。

 

「...なあ巡。お前の事聞いていいか?」

「寝るっつったろ浪人生。明日もまた戦闘がある。コンディションを整えさせろ。」

「ほんといけすかねぇガキだなお前。...正直今落ち着いてようやく気付いた。お前みたいなガキがこんな逃亡生活みたいな事してるのはどう考えてもおかしい。一体なんなんだ?」

「あんたには関係ない。」

「いいやあるね。お前は俺の恩人だ、恩人がそんな氷みたいな顔をしてるなら、なんとかしたくなるもんだろうが。」

 

押しが強い。こういう奴は下手にあしらったら余計に付いてくるだろう。触りだけ話して帰ってもらおう。

 

「長野病院怪死事件、俺はその生き残りだ。」

「...この前あった病院にいた奴らが全員死んだって奴か。」

「だから、その首謀者を追っている。これで良いか?」

「...ああ、お前に詳しく話す気が無いって事はよく分かった。」

「自分の傷自慢をする趣味はない。それだけだよ。」

 

その言葉と共に会話は途切れた。そうして俺はベッドで横になり、才賀は床で眠りについた。面倒なのに絡まれたものだ。最悪写輪眼であしらうしかないな。

 

そう考えながら、眠りについた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

才賀鳴海は考える。団扇巡は氷みたいな奴だ。それは感じる心からいって間違いはない。だが、こいつは俺を見捨てなかった。俺の体質を真っ直ぐに見て、その原因を突き止めてくれた。

今まで原因不明と言われ続け、対症療法以外何もできなかった自分にとってはまさしく晴天の霹靂だった。

 

こいつの心は氷で覆われたが、本当は暖かいものなのだと鳴海は分かってしまった。

 

この少年を一人にしては置けない。不思議とそう思った。

 

「チッ、大学受験で手一杯の俺が何と考えたんだか。」

 

でも思うのだ。この少年を放っておいたまま平穏に戻ったとして、俺は誰かを笑わせられるのだろうかと。体質を改善できたとして、俺は笑う事ができるのかと。

 

その時声がした。ベッドの上を見ると、そこには苦悶の声を吐き、涙を流しながら何かを必死で耐えている少年の姿があった。

 

その姿を見て、才賀鳴海の覚悟は決まった。

 

「一人にはしておけねぇな、こんな子供をよぉ。」

 

はだけた布団をかけ直し、そんな事を思ったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今日は、昨日より少し良く眠れた。正直不眠症なんてものに対処する余裕はないためそれはありがたかった。

 

だが、この男が自分より先に目覚めているのは少し驚いた。置いておく気だったからだ。

 

「よぉ、起きたか巡。」

「...まだいたのか。」

「ああ...色々考えたんだが、俺はお前についていくことにした。」

「理由は?」

「俺の為さ。」

 

正直言って足手まといなのだが、それでも付いてくる気だろう。頑固な男だ。

 

「お前が次に行く所は覚えてる。俺が付いていく事を認めないと、そいつを警察に言っちまうぜ?」

「...一つ約束してくれるなら、付いてくる事を認めてやる。」

「なんだ?」

「死ぬな。お前を待つ家族の元に必ず生きて帰れ。」

「...ああ、たりめぇだ!」

 

そうして、才賀と共に洗脳犯の住所へと向かう事となった。それが罠だと知りつつも。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

洗脳犯の住所は、同じ神奈川県内にある教会だった。

掲げられている看板は、西神奈川グリーンチャーチ。そこそこ歴史のありそうな教会だ。

陰我は100年の経験を持っている化け物だ。そういったツテもあるのだろう。

 

「じゃあ入るぞ。お前は危ないと思ったら...いや、言っても無駄か。」

「なんだそりゃ。」

「お前の事が少し分かったって事だよ、才賀。」

 

そうして教会のドアを開けようとして、背後から襲いかかってくる人を回し蹴りで迎撃した。

 

「なんだこいつ?」

「洗脳されてるな。まぁ今はいいだろ、向こうはこっちが来るのを知っていたようだ、案の定な。」

 

鍵のかかっていた正面の扉を、桜花衝でぶち破る。

 

「策は単純、正面突破だ。」

「わかりやすい作戦だこって!」

 

中の礼拝堂で棒や工具で武装している洗脳兵が一斉に襲いかかってくる。それを俺と才賀で迎撃する。ドライバーによる突きを躱し顎を打ち、棒による打撃をいなし腹を打つ。そんな事を繰り返して敵を倒しつつ才賀の様子を見る。敵を倒しつつも常に背後を俺に向けている。視界外からの攻撃を警戒しているのだろう。

 

思ったよりも才賀の立ち回りが上手い、どうやら道場拳法だけの男ではないようだ。かなりの実戦経験がある。

 

「お前、自警団(ヴィジランテ)でもしてたのか?」

「ああ!それがバレて決まってた大学蹴っ飛ばされたよ!」

「馬鹿じゃねぇの?」

「うっせぇ!」

 

襲ってきたのは二十人前後、いずれも洗脳兵だった。念のため洗脳を解除しておく。

 

「随分と盛況な教会だな。金には困ってなさそうだ。」

「そんなもんかね?」

 

才賀を後ろに置いて奥に進む。こいつの個性ならば不意打ちはある程度防げる。今はセンサーとして利用させてもらおう。

 

「うぐっ、ぜひっぜひっ、すまん巡!」

「それ戦闘中になったら助けないからな。」

 

こいつの体質という問題はあれど、順調に教会探索は進んでいった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時折襲ってくる洗脳兵をあしらいつつ、鍵開け(物理)を駆使して探索範囲を広げていき、ネットカフェの監視カメラに映っていた洗脳犯を探し続ける。正面口と裏口に置いている影分身から連絡がないという事は、逃げた奴もいないという事だ。つまり迎撃の策があるという事、警戒は怠れない。

 

「しっかしお前さん、躊躇いがねぇな。」

「敵の策が分からない以上、時間の浪費は敵の利に転ぶ。」

「確かにそう..,待て巡、敵だ。左から来る。」

「...個性か、隠し通路か、なんにせよ...」

 

左にあるのは壁だ。エネルギーの異常も見られない。だがそこから来ると分かっているのなら。

 

「ぶっ壊しとけば問題はないだろ。桜花衝。」

 

拳で壁を破壊し、奥に潜む敵をそのまま吹き飛ばす。どうやら隠し通路の方だったようだ。

 

「当たりだな。奥に行くぞ。」

「ああ。」

 

桜花衝で吹き飛ばされた敵は2人、どちらも洗脳兵だ。怪我のチェックと洗脳の解除を行なって奥へと進む。隠し通路は地下へと続く階段のようだった。

 

この教会の図面を事前に取れなかった事が響いてくる。とはいえ今の逃亡者である自分にはそんな物を手に入れる手段はハッキングくらいしかないのだが。

 

そんな事を考えながら地下を進んでいくと、この教会の基礎部分へとたどり着いた。嫌なタイマー表示のある機械と共に。

 

「おいおいおいおい!冗談だろ!あと10分しかねぇぞ!」

 

その正体はすぐにわかった。(ヴィラン)学のテキストでよく見ていた旧型の爆弾だったからだ。

 

考える。普通なら実行犯は逃げ出しているだろうが、これは陰我の関係する事件だ。洗脳犯は奥にいるのだろう。情報はそこにある。

 

「才賀、教会内部に散ってる人達を礼拝堂に集めてくれ。」

「外に逃がさなくて良いのかよ!」

「気絶した30人余りを10分で安全圏まで運べるか?」

「...そうだな、動ける奴が少なすぎるか...うし、信じるぞ巡!」

 

才賀は来た道を戻っていった。言った通りに動いてくれるのだろう。自警団(ヴィジランテ)経験者だけあって動きが良い。あの動きならヒーロー科のある所なら引く手数多だろう。

 

念のため影分身に伝達して、チャクラを回収する。

敵の狙いは見えたが、乗るしかない。悪辣な手だ。

 

だが、まずは洗脳犯を瞬殺して礼拝堂へと連れて行く事からだ。敵の手の考察などは後で良い。

 

そうして入った地下室の奥の部屋には、この教会をモニターしている多くの隠しカメラの映像と、その前の椅子に座っている修道服の女がいた。

女の顔は、ネットカフェで見た洗脳犯と同じものだ。

 

「来たネ、団扇巡。」

「来たさ、お前の目論見通りな。」

「ワタシの直接戦闘能力は大した事ないからネ、言葉で戦わさせて貰うヨ。」

「大方、教会自爆での被害者は俺のせいだとでも言うんだろ?悪いが被害は出させない。お前も含めてな。」

「どうやって?」

「お前に言う必要はない。」

「まぁ関係は無いけどネ!」

 

修道服の女は手に持ったスイッチを押した。すると、上にあるスプリンクラーが起動した。そこから流れ出る水からは、女の身体エネルギーが強く込められていた。

 

「ワタシの個性は洗脳水(ヒプノウォーター)!飲んだ人間を操る悪魔の水ッ!このスプリンクラーにはそれが詰められている!ワタシの水が密閉空間を満たすこの状況は覆せないヨ!」

「そうでもない。」

 

チャクラを練り上げて身体エネルギーの流れを整える。向こうの個性の詳しい理屈は知らないが、洗脳系である以上これで弾く事ができる。要するに、幻術返しである。

 

「何で効かないッ⁉︎」

「お前に言う必要は無い。」

 

移動術で接近し、顔を掴んで無理やり目を合わせ写輪眼を使う。そうして女を担ぎ上げてこの礼拝堂へと向かう。

 

「巡!散ってた連中は全員集めたぜ!」

「感謝する。...ああ、あとは出来るだけ人を一纏めにしておいてくれその方がやりやすい。」

「おう!んで、お前はどうやってこの人数を守る気だ?」

「俺の切り札を使う。最も、それを使うように誘導されていたみたいだけどな。」

 

才賀と共に人を運び終え、才賀に残り時間をカウントさせる。

 

「5、4、3、2、1!」

「須佐能乎。」

 

発動した瞬間から身体中に激痛が走る。だが前回陰我相手に使った時ほどではない、柱間細胞の治癒能力のおかげだろう。この細胞は、俺の事をとりあえずは生かしておいてくれるようだ。

 

「何だぁ⁉︎髑髏の巨人⁉︎」

「騒ぐな、俺の力だ。」

 

須佐能乎で全員を纏めて抱え込む。その瞬間に地下で爆発が起き、この教会が崩れ落ちる。

落ちてくる瓦礫、抜ける床、それらから人々を須佐能乎で守り切る。

須佐能乎の防御能力なら行けると踏んだが、どうやらその想定は正しかったようだ。

 

「凄え、本当に守り切りやがった!」

「...今上の瓦礫を退かす。お前は気絶した人達に瓦礫がいかないように注意してくれ。」

「おう、任せろ!」

 

須佐能乎の態勢を変え、上に乗ってる瓦礫を払いおとす。これならもう大丈夫だろうと思い、須佐能乎を解除する。

 

そのあたりで、洗脳されていた人達は徐々に起き上がり始めてきた。

 

「ここは?一体何があったんだ?何故こんな瓦礫の中に...」

 

混乱しているように見せているが、まぁ想定通りだ。動きが明らかにおかしい。当たって欲しくない想定ばかり当たるのは、一体何故だろうかと少し嫌になる。

 

呑気に「大丈夫か!」とか言いながら近づいていくこの状況を全く分かっていない馬鹿の肩を掴んで距離を取る。

 

「...ってオイ、どうした巡?」

「お前、感知タイプなんだから気付け。」

「いや何を言ってるん...ハァ⁉︎なんでこんな事になってるんだ!」

「見せ札が洗脳兵で、切り札が今この状況って事だろ。」

「ああ、畜生!だったら何で助けたよお前さん!」

「敵は、奴に繋がる糸だ。」

 

とはいえ手荷物チェックくらいはしておくべきだったかもしれない。流石に、策が割れたと気付いて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状況は面倒この上ない。

 

須佐能乎のダメージで十分に動けない今となっては特にだ。

 

「才賀、銃とやりあった経験は?」

「何度かある。だがこんな数とやるのは初めてだよ。」

「構え方から言ってあいつらは素人だ。...すまんが1分任せる。さっきのダメージの治療をする。」

「へっ、やっとまともに俺を頼ったな巡!任せときな!」

 

その言葉と共に、銃声が響き渡った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

瓦礫の隙間に身を隠して自身に対して新たな医療忍術を行う。柱間細胞のエネルギーを与え、それを全身に行き渡らせるというものだ。柱間細胞にエネルギーを与えるのは危険な気がするが、背に腹は変えられない。この治療法の方が早く済むのだから。

 

「...良し、行ける。」

 

そうしてしっかり1分間治療してから瓦礫から身を乗り出した所、そこに見えた光景はちょっと驚きだった。

 

才賀は、銃相手に一歩も引かず戦っていた。自分の方へと敵が向かってこないように立ち回りながら。

 

「...あいつ、絶対ヒーローレベルの実力者だろ。」

 

そう呟いた所で、才賀の視界外から銃を構えている少女が見えた。さて、十分に守ってもらったのだから、ここから先は俺がやらせてもらおう。

 

移動術で少女の前に立ち、銃口を下に逸らして目を合わせる。これで一人。こちらに気付いた何人かが銃を向けるも、それを弱火の火焔鋭槍で纏めて払い落とし連続で催眠をかける。これで10人。

 

「おう、生きた心地しなかったぜ巡!」

「そいつは悪かった。まぁ傷がなくて何よりだよ。」

 

残った連中は俺か才賀かどちらに銃口を向ければいいか迷う事なく、俺に銃口を集中させてきた。それは悪くない。悪くないが。

 

「あいにくと、拳銃程度ならどうにでもなる。」

 

連続的に放たれる銃弾、それをチャクラで作った巨大な団扇で纏めて外に流す。奴の挿し木を払うために作ったこの術は、なかなか使い勝手が良いようだ。名付けるとするならば、

 

「...うちは返しならぬ、うちは流しって所かね。」

 

俺に銃口が向いているその隙に、才賀が残った連中を瞬時に昏倒させていった。自警団(ヴィジランテ)として戦い慣れているのは伊達ではないようだった。

 

「お前で、」「最後だ!」

 

そうして残った最後の一人は、諦めて自分の頭に銃口を向けて、それを才賀に払い落とされ俺の一撃で気絶した。

 

「あー、やってらんねぇぜ!爆弾で死にそうになった癖にこんなに拳銃揃えて殺しにくるなんざまともじゃねぇ!しかも最後にゃ自殺だぁ?命を何だと思ってやがる!」

「それがコイツらだ。...警察が来る前に情報を抜くのは無理そうだな、俺は逃げる。お前はどうする?」

「お前に付いていくさ。」

「...まぁ、手数は欲しかった所だ。お前が良いなら別に良いがな。」

 

いまいち釈然としない所はありつつも、コイツの同行を認める事にする。

 

そんな時、ドリフト音と共に何者かがやってきた。

 

「お坊っちゃま!ご無事ですか!」

「げぇ!フラン!何でこんな所に!」

「GPSで追いかけました!この惨状...またおやりになったのですね!旦那様とあれほど話し合ったというのに!」

「仕方ねぇだろ!成り行きだ!」

「それでご自分の進学をまた棒に振るつもりですか!幸いまだヒーローは現着していません。逃げましょう、お坊っちゃま!」

 

どうにも、この女性は才賀の身内のようだ。お坊っちゃまと呼ばれた事から、才賀はどうやら金持ちの家系らしい。コイツが?という疑問はあるがまぁどうでもいい事だ。

 

この馬鹿の次の一言が飛び出てくるまでは。

 

「仕方ねぇ...巡、一緒に行くぞ!」

「いや、何でだよ。」

「うっせぇ、こうなりゃ一連托生だって事だよ!」

「...まぁ、今すぐ行くあてもない今はいいけどな。」

「そこの少年も早く!ヒーローが来ます!」

 

そんなわけで、流されるままに才賀の家に行くこととなった。

尚、警察の捜査がやりやすいように写輪眼で倒した連中には自白するように催眠をかけた。爆発なんて目立つ真似をした以上ヒーローはすぐにやってくる。始末係がいても実行は難しいだろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「でかいな...」

 

たどり着いた家、というか屋敷は豪邸であった。写真で見せて貰った八百万の家とどっこいどっこいだろう。世の中には金がある所にはあるものだ。

 

「さ、ご主人様がお待ちです。お坊っちゃまも少年もどうぞ中へ。」

 

中も豪邸に相応しい高そうなモノばかりだった。だがそれは屋敷の雰囲気にしっかりと調和しており、成金という感じはしなかった。

 

フランさんに連れられて屋敷の一室へと連れられる。どうやらここがこの屋敷の主人の執務室のようだ。

 

「...親父、帰ったぞ。」

「どうも、お邪魔してます。」

 

「待っていたよ鳴海、それに団扇巡くん。私の名前は才賀善一郎(さいがぜんいちろう)という。さぁ、話をしようか。」

 

その顔は、無茶をした子供達を叱る大人の顔をしていた。

 

「まず団扇くん。君に聞きたい。何があったんだい?」

「昨日の深夜のネットカフェにおいて(ヴィラン)による洗脳兵の攻撃を俺が受けました。鳴海さんとはその時に知り合い、洗脳犯を共に追いかける事になりました。そして今日の朝、洗脳犯の拠点を襲撃しました。その戦闘結果がフランさんの報告したであろう事件の事実です。」

「簡潔な説明をありがとう。それで団扇くんはこれからどうするつもりだい?」

「敵の使った短機関銃、大量の拳銃、プラスチック爆弾にその信管。そのあたりの入手経路から黒幕を追いかけるつもりです。ルートには心当たりがありますから。」

「そうか、それなら私の方からも調べてみよう。」

「...やけに協力的ですね。」

「君のことは調べた。あの病院にはウチの社員も入院していたからね。その黒幕を追い詰めるというのならば手を貸すさ。」

 

その言葉を聞いて、心に黒いモノが溢れるのが分かった。

だが、このお節介な大人はその内心を見抜いて言葉をかけてきた。

 

「君のせいだなんて誰も思っていないよ。悪いのは陰我という男だ。」

「...それは違います。」

 

「あの日、俺だけはあの惨劇を止められた。それは変わらない事実です。」

 

あの日、俺がもっと早く事件が起きている事に気付いていれば。

あの日、俺が写輪眼をもっと早く発動していたら。

あの日、俺が病院に向かわなければ。

あの日の惨劇はなかったのだなら。

 

ただ静かに死んでいる人たちがいた。その寝顔のような死に様は忘れられない。

俺が間に合わなかったせいで死んだ人たちがいた。その苦しみもがいた死に様は忘れられない。

俺を守って死んだ後輩がいた。何度も苦難を繰り返した末に見せた、あの死に様は忘れられない。

 

決して忘れない。そう決めている。

 

「それは違うと言っても、聞かないんだろうね。...鳴海。」

「なんだよ親父?」

「私は立場のある人間になってしまったからね、今は好きに動けない。だからお前に頼むよ。お前のやりたいようにやりなさい。私はそれをサポートする。」

「親父...」

「ただし、フランをお付きとしてお前に付けるからね。くれぐれも無理だけはしないように。」

「ああ、わかった。約束する。」

 

「俺の側にいると、ご子息に危険が及びます。なのに止めないんですか?」

「止めて止まる子なら子育てに苦労してないよ。」

「ま、そういうこった。親父からの許可も出たし、俺はお前に付いていくぜ!巡!」

「はぁ、旦那様にも困ったものです。」

 

 

こうして俺は、大財閥サイガの次期党首である才賀鳴海とそのお付きの加藤フランシーヌと共に行動するようになった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

転生者を事故で殺す陰我という(ヴィラン)。その存在を知ったのは偶然だった。だがそのお陰で善一郎は気付いた、妻と息子を失ったあの交通事故は偶然ではないという可能性に。

 

息子の異常な利発さと才能を感じていた自分だからこそ気付けた事だった。

 

故に才賀善一郎は鳴海を認めたのだった。

 

表向きはお節介な馬鹿息子の手助けという名目で陰我を調査することができる。異常でも、それでも愛していた息子の仇討ちの相手を探すという裏の目的を達成するために。

 

もっとも、鳴海に引き継がれたそのお節介さは本当の物なので、団扇巡という少年を助けたい気持ちに嘘はないのだが。




というわけで迷走編では、どっかで見た事のあるキャラをモデルにしたキャラが多くなっていきます。彼らが生きた爪痕は何処かに残っているのです。

ちなみに迷走編のコンセプトは、『人は一人にはなれない』です。全てを捨てて戦うと決めた少年の周りに、何故か人が集まってくるそんな話だったりします。

闇落ち展開を期待していた方は御免ね!
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