【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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なんか平均7000文字目標にしていたのがこの小説のそもそもの失敗な気がしてきた次第です。やっぱ3000〜4000字で毎日投稿するのがランキング的に良かったんですかねー。この小説を書く前のリサーチ不足でした。

あ、今ではもうそんな事は考えずに、一話1万文字オーバーを平気でするようになったので更新ペースはお察し下さいな。


サイコダイバー

「野郎3人でラブホテルとかギャグかなんかか?」

「そう思うよなお前も!」

「俺とジャンクドッグの市民IDが使えないんだからラブホは仕方ないだろ。」

「待て、じゃあ俺はどうしてこっちなんだよ!フランみたく普通のホテル泊まるので良いだろうが!」

「...すまん、忘れてた。」

「まぁいいじゃねぇか。金払っちまったんだし。」

「釈然としねぇぜ。ていうかジャンクドッグよぉ、成り行きで連れてきちまったが、お前って何者なんだ?」

「大したもんじゃねぇよ。ただの捨て子で、闘技場のチャンピオンになった奴さ。」

 

ジャンクドッグは、過去を深く語る気にはなっていないようだ。まぁそれはそうだろう。誰だって過去の傷など思い出したくはないのだから。

 

「...じゃあ名前、それくらいは言え。ジャンクドッグが本名って訳じゃねぇんだろ?」

「ねぇよんなもん。必要なかったからな。」

「かぁー、こいつも重いなぁ畜生!」

「才賀のやらかしレベルが最底辺ってこの集団割とおかしいよな。」

「コイツもなんかやった奴なのか?」

自警団(ヴィジランテ)やってたのがばれて大学蹴られたんだとさ。」

「...馬鹿じゃねぇの?」

「うっせぇ、仕方ねぇだろ!目の前でピンチな奴がいたのを見過ごせるかってんだ。」

「損するタイプの奴なんだな、才賀って。」

「いいじゃねぇか。俺は気に入ったぜ才賀のオッサンの事。」

「オッサンじゃねぇ、まだ19だ。」

「「マジで⁉︎」」

「お前ら2人とも俺をどんな目で見てやがった!」

 

そんなちょっと気の抜けた会話を最後に、自分たちは眠りについた。

明日に待つであろう激しい戦闘の事を思いつつ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

眠りにつくやすぐに魘される巡を見て、ジャンクドッグは顔をしかめた。

「なぁ才賀、大将っていつもこんななのか?」

「俺が見たのは二度目くらいだが、こんなんだよ。コイツ、まだ16のガキのくせしてこんな辛そうにしてよ、自分の全部を捨ててでも復讐しようだなんて考えてやがる。...コイツよりちょっと大人な俺としては、ほっとけねぇんだよコイツの事。」

「...なるほどな、どう見てもカタギのお前さんがこいつに着いて行く理由がやっと分かった。嫌いじゃないぜそういうの。」

「男に好かれても嬉しくはねぇよ。」

「それもそうだな。」

 

ジャンクドッグは苦笑しつつも眠りにつく。受けた恩とは別に、この少年についていく理由が心にできた夜だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

早朝、昨晩のうち用意したジャンクドッグの服に着替えさせつつフランさんとの集合場所に向かう。

 

「おはようございます。お坊っちゃま、団扇様、ジャンクドッグ様。」

「よぉフラン。昨日は眠れたか?」

「ええ、ぐっすりと。」

「じゃあ運転よろしくお願いします。目的地は埼玉県名部山中、素晴らしき個性生活の会本拠地です。どんな罠が待ってるかわからない以上、慎重に行きます。」

 

無言で頷く皆。ここにいる全員がかなりの戦闘力を持っている。罠だとしても突破は容易だろう。

 

問題は、罠を用意していなかった時だ。果たして俺は、素晴らしき個性生活の会という()()()()()()()()()()()()()()()()()()()慈善組織相手にどこまで非情になれるだろうか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

守衛に催眠眼で自分たちがプロヒーローだと誤認させて私有地の中に入る。山中に広大な土地を持っているこの組織から陰我の手掛かりを掴むのは難しいだろうが、やると決めているのだ。

 

「才賀、ジャンクドッグ、騒ぎは極力起こすなよ。」

「わかってるよ、大将。」

「俺としては、お前が騒ぎを起こす気がしてならねぇんだが。」

「ですね。団扇様はなんというか、トラブルの引き金になっているように思えますので。」

「...まぁ良い、行くぞ。」

 

不本意ではあるが、行く先々でトラブルに見舞われているのは確かだ。それの原因が俺であると取られてもおかしくはないだろう。不本意ではあるが。

 

そうして敷地内を車で走って5分程度の所で、その施設はあった。

3階建の大きい建物に、山のスペースをふんだんに使った運動場で遊ぶ子供達が目につく。

 

予想していたような初見で全てを殺しに来るようなトラップはないようだった。

 

「陰我に先んじられた、と今は思っておくか。」

 

なら、子供達を巻き込まない内に手早く済ませてしまおう。

 

「3人は車で待機していてくれ。俺の催眠眼だけで終わらせたい。」

「でもよぉ、中はトラップ地獄ってこともあるかもしれないぜ?」

「それで俺が死んだら、それをネタに警察を引っ張ってくれ。」

 

後の指揮を才賀に任せて俺個人は施設に走り寄り、見られていない事を確認してから壁走りの術で屋上へと駆け上がった。

 

屋上に子供はいなかったが、タバコを吸っている職員がいたのですかさず催眠眼をしかける。手応えありだ。

 

「質問に答えろ。この施設にヴィラン潰し、団扇巡が来るという事は知らされていたか?」

「ああ、知らされてたぜ。」

「なら、何故罠が無い?」

「裏園長があんたに会いたいそうで。」

 

いきなり裏園長とかいう謎ワードを出さないで欲しいのだが、今は良い。携帯で才賀に連絡を取る。

 

「才賀、無事か?」

「何があった、巡?」

「侵入が予見されていた。侵入した事もバレていると見た方がいい。いつでも動けるようにしておいてくれ。」

「...助けは要るか?」

「今のところは大丈夫だ。俺はこれから向こうの誘いに乗ってみる。裏園長とやらが俺を呼んでいるらしくてな。」

「...なんだそのネーミング。」

「知らん、本人に聞け。」

 

通話を切って再びタバコの男と向き合う。

 

「案内してもらうぞ、そいつの所に。」

「へぇ。お任せくださいな。」

 

タバコの男を先導にして、施設の中へと侵入していく。施設の中にも罠の類は見当たらなかった。

 

屋上から入ったこの施設は、学校のようだった。あらゆる個性に対応するためにバリアフリー設計になっているのはこの施設の表の方針通りなのだろう。

 

「ぱっと見は、ただの学校なんだがな。」

「学校てーよりかは、孤児院って方が正確かもしれやせんね。金はかかってやすが。」

 

見れば、清掃用ロボットが稼働してるのが見える。あれを導入できるという事はかなりの資金がこの施設に注ぎ込まれているのだろう。

だが、この施設は大物ブローカー義爛のお墨付きでクロなのだ。どんなに表を綺麗にしても、その事実が変わる事はない。

 

「さ、ここに隠し扉があるんでさ。」

 

タバコの男は慣れた手つきで火災報知器のランプに偽装されていたダイヤルを回した。すると後ろの壁が縦に開いた。この世界からくり屋敷多すぎだろ。

 

「この奥でごぜぇやす。あっしはここで。」

「何故一緒に入ろうとしない?」

「あんまり見たくねぇんですよ。裏園長のあの姿は。」

 

こいつを無理矢理連れて行く事はできる。だがそれに意味あるのだろうか。こいつは明らかに場数を踏んでいる。立ち振る舞いがそれを物語っていた。だがだからこそ解せないのだ。

 

こいつは、明らかに()()()()中に入る事を拒否している。

 

「中に何がある?」

「裏園長が居るだけですよ。あとあるとしたら連絡用のパソコンとかですかね。」

「...わかった。罠ではないと信じさせてもらう。」

 

中に入り階段を降りる。3階分ほど降りた所にもう一つドアがあった。

木製の小さなドアが。

開けるのを少し躊躇ってしまう。なにかこの向こうにはイヤなものがあると感じられたからだ。

 

「なんじゃ、何を恐れておる。早う入らぬか。」

「...ああ。失礼する。」

 

扉越しにかけられた言葉に答える形で扉を開ける。

 

するとそこには、心臓に木の杭が突き刺さって壁に貼り付けられている金髪の美女の姿があった。

 

「あんたが、裏園長か?」

「そうじゃ。妾がこの施設の裏の支配者じゃよ。まぁ、今はこんなナリじゃがな。」

 

写輪眼に見えるのは、木の杭が女の身体エネルギーを留めているという事だった。丁寧に、長い時間をかけて一体化したのだろう。そのエネルギーだけを見ると木の吸い上げるエネルギーと身体エネルギーの区切りが見えないほどだ。

 

相手は無警戒に俺の目を見た。ならとりあえず催眠をかける。

だが、催眠により乱れた身体エネルギーは、すぐに元に戻ってしまった。心臓に刺さった木が身体エネルギーを調律しているのだろうか。あるいは、洗脳が解ける程の強烈な痛みを感じ続けているのか。

 

「今、何かしたかえ?」

「ああ、無駄だったがな。」

 

「それで、話ってのは何だ?俺を殺したいって訳ではないみたいだが。」

「...頼みたい事があるのじゃ。まぁ、それ以外にも見てみたかったという事もあるのじゃがな。あの日の結果を。」

 

「近う寄れ」と囁くように言われる。それを信じて彼女の近くに寄ってみる。

 

頰を触られた。その優しい手つきは、俺がそこにいる事を丁寧に確かめるかのようだった。

 

「もういいか?」

「...ああ、もう十分じゃ。誠に面白きものじゃのう。人の運命という奴は。」

「じゃあ早く頼み事を言ってくれ。ついでにその対価も。」

「頼みというのは他でもない。ある男の事を救って欲しいのじゃ。その対価として、妾の持つ陰我の情報全てを渡そう。これでも奴との付き合いは長い。おそらくこの世界で二番目じゃろうな。」

「...だから陰我はお前を殺していないのか?」

「かっかっかっ!あ奴がそのように迷えるものか。妾が殺されていないのは、単に奴の取り得る手段で妾の事を殺しきれなかったからじゃ。なにしろ妾、吸血鬼じゃからな。」

「なら天日干しにしたらそのうち死ぬだろ。」

「それは試されたが、痛いだけじゃったわ。」

「...不死身か。」

「じゃからこうして縛られておるのじゃよ。」

 

ある程度は納得した。こいつは陰我に何かしらの反逆をして、それで殺される所を死なないという理由で封じられているのだろう。

 

「それで、俺は誰を救えば良いんだ?」

「団扇貞信。汝の産みの父親じゃよ。」

「...どうやって?」

「子飼いの使い手に、サイコダイバーというものが居る。その者は他者を他者の心の中へと送り込む事ができるのじゃ。血縁者である必要があるがな。」

「...流石、なんでもありだな個性って奴は。そいつとの合流地点は?」

「病院でそのまま合流させよう。符丁は必要かえ?」

「俺の目があれば必要はない。じゃあ、俺は行く。」

 

今回の話は終わりだと判断して踵を返す。

 

「聞かんのか?汝の父との関係を。」

「興味がない。必要なのは陰我の情報だけだ。」

「...陰我の情報はサイコダイバーからの報告がありしだいメールで送らせて貰おう。各地に散る陰我のペーパーカンパニーと子飼いと化した者たちのリストだ。」

「陰我本人の居場所は、やはり無いのか。」

「そうじゃ。奴は金にも物にも拘らぬ。一つ所に留まったりはせぬのじゃ。」

「...なんとなくわかっていたが、面倒だな本当に。」

 

だが、子飼いを潰して回れば必ず奴は出てくる。出てこざるを得ない。奴の組織状況とイレギュラーの発覚には因果関係はないのだから。

 

「じゃあ、行ってくる。」

「達者でな。」

「...ああ、一つだけ確認したい。」

「なんじゃ?」

「お前は、生きたいからそうしてるのか?死にたいからそうしてるのか?」

「さてな、忘れてしまったよ。」

「じゃあ、好きなように取らせて貰う。」

 

今度こそ扉を開けて、外に出て行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

車に戻ると、何故かそこには子供達に絡まれている才賀の姿があった。むしろ子供に絡んでる才賀の姿と言い換えても違和感はないかもしれない。

 

「おう巡、遅かったな。」

「...なんでそんな状況になってるか聞いて良いか?」

「お前の様子を探ろうとしたら、なんか知らんが懐かれた。」

 

「ナルミにーちゃん遊んでー!」と無邪気に笑う子供たち。その笑顔には一切の陰りはなかった。才賀の人徳だろうか。...まぁいいか。

 

「行くぞ。」

「ああ。ガキども、またな!」

 

「えー、ナルミにーちゃん帰っちゃうのー!」と俺を責めるような目で見る子供達。それを痛いと感じるあたり、俺にもまだ良心という奴は残っていたようだ。

 

「ジャンクドッグ、お前止めろよ。」

「うっせぇ。ああいうガキは嫌いなんだよ。」

「それでは行きますよ皆様。団扇様、目的地は?」

「神野区にある病院だ。そこにサイコダイバーという奴が来る。そいつと協力して一人の男を救うのが情報を貰う交換条件だ。」

「今回は催眠でパパッとしなかったんだな。」

「やったが効かなかった。じゃなきゃ取引なんてするか。」

「へぇ、催眠が効かないなんて事あるのか。」

「ああ。個性による催眠ってのは往々にして相手の身体エネルギーを乱す事で意識をコントロールするものだからな。身体エネルギーの調律、外部からの衝撃による意識の覚醒、そのあたりで洗脳は解けるんだ。今回のは多分後者だな。」

「てことは誰か洗脳食らった奴がいたら、ぶん殴るのが一番早い解決策なのか。」

「そうだ。ただ洗脳の深度は個性によって異なるから、やる時は全力でな。それで解けなきゃ別の手を探せ。」

「団扇様、無実の市民に対して全力で殴れとはヒーローとしてどうなのでしょうか。」

「...もうじき免停くらうからセーフだろ、多分。」

「お前ってどっか適当だよな。」

「ま、大将も気が緩んでる時はそんなんでいいだろ。」

「...緩んでたか、俺。」

 

まぁ、時間が経つとはこういう事なんだろう。傷がある状態を自然だと受け入れてしまうのだ。そうじゃないと心が保たないから。

 

俺の心は、鋼だけでできている訳ではないのだから。

 

それを悔しいと今は少し思う。

 

「まぁ、いいか。」

 

自分の心なんて見えないものについて悩んでもしょうがない。やるべき事はあの日に既に決めているのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

神野区の病院に着き、父さんの病室へと向かう。サイコダイバーの個性がどんなものかはわからないが、おそらくダイブ中は無防備になるだろう。なのでその護衛を才賀たちにお願いしている。

もっとも、流石にギアやあるるかんは持ってきてはいないのだが。

 

そうして病室の前についた所で、どこか落ち着きなさげな少女が見つかった。

 

「あの!あなたが団扇巡さんですか⁉︎」

「ああ。お前がサイコダイバーだな。だがここは病院だ、静かにな。」

「...すいません。」

「じゃあ確認させて貰う。」

「...はい。」

 

少女と目を合わせ、写輪眼による催眠を行う。命令は単純に“質問に答えろ”と。

 

「お前はサイコダイバーか?」

「はい。」

「ここに来た理由は?」

「裏園長から指令を受けて、団扇貞信さんの治療を行うためにです。」

「お前は陰我の命令で動いているのか?」

「いいえ、今は裏園長の命令で動いています。」

 

催眠を解除する。どうやら彼女が罠という可能性はないようだ。

 

「確認はできた。段取りはどうなってる?」

「はい。私の個性で巡さんを貞信さんの精神にダイブさせてからは、貞信さんを精神崩壊に至らせた出来事を順次辿って行ってもらいます。」

「それだけでいいのか?」

「はい。そうすれば見つかる筈ですから。貞信さんを精神崩壊に至らせている負の感情の結晶体、夢魔が。」

「んで、見つけた後は?」

「...成り行き任せで大丈夫です。多分。」

「なんでそこに確証がないんだよ。」

「いや、治療を行った方々が何故か言い澱むもので。」

「...まぁわかった。とりあえずノリでなんとかしてみるよ。」

 

いいのかコイツ?という視線を無視して病室内へと入り込む。

父さんは、痩せていた。弱っていた。生きる意志を失っていた。

それが酷く心をざわめかせた。

 

「行きますよ、巡さん。」

「...ああ、任せた。ダイバーさん。」

 

才賀たちに目で任せたとだけ伝えて、父さんの精神へとダイブする。

陰我の情報を得るという、ただそれだけの目的の為に。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さぁ、ここからは巡さん自身が頑張って下さい。出入り口は私が守りますから。」

「そうか。なら頼む。俺は行く。」

 

そう背をサイコダイバーに任せて前に進む。奇妙な光景だ。いくつもの泡のような記憶が鎖のように繋がっている。入り口近くの記憶は朧げで小さい。泡に映る光景から察するに父さんの子供の頃の記憶のようだ。

 

「父さんって、晴信さん達と結構年の離れた兄弟だったんだな。」

 

泡の中に映る俺と瓜二つな少年を見て、そう思う。彼が団扇晴信。うちは村を焼き滅ぼした天照の男だ。

 

その優しげな目つきは、いつか俺がしていたものだったのだろう。吐き気がする。殺してやりたい。

 

「今考えても仕方ないな。先行こう。」

 

泡の鎖を辿って、奥へと進んでいく。徐々に泡は大きく、情景は鮮明になっていっている。

 

幸せそうな一族の暮らしがそこにはあった。

 

それが濁り始めるのは父さんが小学校を卒業したくらいからだった。記憶が所々鎖から抜け落ちている。抜け落ちた記憶を見てみると、そこには個性の発現した分家の者の写輪眼で催眠をかけられていたという事がわかった。

 

写輪眼を持てなかった父さんは、時々こうして写輪眼を開眼した子供の実験台にされていたのだろう。

 

写輪眼の力が子供達を狂わせていた。

 

そして流れ出る父さんの無個性疑惑。里を治める写輪眼の一族の中から無個性が生まれ落ちるのはかなりのスキャンダルだったのだろう。父さんはうちは村から孤立していった。

 

そうして、父さんはインターネットを通じてのやりとりに依存した。それがきっかけとなり村の外の高校に進学することになったのが、父さんを変えたきっかけだろう。

 

母さんに出会ったのだ。無個性でどこか適当で、笑顔の素敵な人に。

 

その姿を泡の中に見て、あの日の事を思い出して死にたくなった。

あの日死なせた、もう見えない笑顔の一つだったから。

 

でもまだ死ねない。そう決めている。

 

「先に行こう。」

 

言葉にして、割れそうな心を補強する。

今は陰我の情報を得る為に、前に進むのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからの日々は、見ていて辛くなるばかりだった。

それでも鎖を追う過程で目に入ってしまう。母さんと父さんの馴れ初めが。

 

同じ高校の先輩と後輩。そんな普通の出会いから、普通じゃない大恋愛へと発展していた。ネットでできた友人達のからかい混じりのアドバイスを間に受けた父さんがいたり、それを笑って流す母さんがいたり。本当に幸せそうだった。

 

でもその幸せは、俺にとって傷にしかならない。

 

そうして、父さんを蝕む夢魔の一匹目が現れる。

黒炎を纏った鴉だった。

 

鴉は、俺を見つけるや否や炎の燃える景色の泡の中へと入っていった。付いて来いと目で伝えて来て。

 

「ああ、行くさ。」

 

泡に触れて、中へと侵入する。

自意識が解けないように強く自分を意識しながら。

 

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その炎の原因は、俺には分からなかった。でも、あの家の中には巡がいる。兄さんは投獄されたとかで今は居ない。姉さんは家の仕事で出かけている。

助けられるのは俺しか居ない。たとえ無個性だと蔑まれても、それで命を見捨てたのだとしたら、善子に笑顔で会えないだろうから。

 

「貞信様、いけませんぜ!火の回りが早い!無個性のあんたに何ができる!」

 

使用人の男に中に入るのを止められる。だが今は行くしかないのだ!

 

「火事に対しては写輪眼も無個性だろうが!巡がまだ中にいる!助けないと!」

「...なら、あっしに命令して下さいな。行けと。」

「何を⁉︎」

「貞信様、あっしは外の人間で個性持ちです。貞信様が無策で突っ込むよりは巡坊ちゃんを助けられる可能性は高い。任せて下さいな。貞信様は他に人を呼んで下さい。」

 

そう言って男は家事の中へと突っ込んでいった。

 

「クソ、信じるからな穂村!」

 

そう言って近くの家に走る貞信のその背中に、鴉は黒炎の翼を広げて貫こうとして

 

それを俺は、火焔鋭槍で刺し貫いた。

 

「どんなに願っても、過去は変わらない。それは絶対の絶対なんだ。」

 

火焔鋭槍を伝ってやってくる黒炎。それに触れないように槍を消し、鴉を見る。鴉は、掠れた鳴き声で父さんを呼び止めようとしていた。

 

その結末を知っているだけに、鴉の気持ちがわかってしまう。

 

もしこの時に火の中に飛び込んでいたら篝さんの子供を助けられたかもしれないという後悔から産まれたのだろう。

 

俺は黒炎の消えた鴉を抱きしめようとして、鴉がそれを拒むように俺を泡の外へと吹き飛ばした。

 

「一先ずは、これで良いのかね。」

 

そうぼやきつつ先に進む。夢魔はまだいる。一匹目を見つけた事で気配がなんとなくわかるようになったのだ。

 

そうして、長野黒炎大火災の当日にも夢魔はいた。今度も黒炎を纏った鴉の姿だ。俺に付いて来いと目で語り、中へと入っていく。

それを追いかけて俺も泡の中へと入る。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「貞信、あんたはこの村から逃げなさい。私と兄さんはやらなきゃならない事があるから。」

「姉さん?何言ってん、だ...」

「写輪眼が無いと、抵抗が少なくて楽で良いわね。」

 

篝さんと父さんは二人でゆっくりと村の外へと向かっていった。

 

そして、うちは村で最初に黒炎を見たあの入り口へとたどり着いた。

 

「...姉さん、写輪眼を使ったの?」

「ええ、そしてこれがその先の力。」

 

篝さんと父さんを分かつように、泣澤女で再現された天照が現れる。

 

「今日、この村から誰も逃さない。ただ一人巡を助けようと動いてくれたあんた以外は。」

「...姉さん、それは巡の復讐?」

「ええ、そうよ。あの火を放った奴を探し出して殺す。それが私の兄さんの復讐。」

「...狂ってる。」

「ええ、そうよ。...じゃあね貞信。あんたが兄さんにネットを教えた事、今では少し恨んでるわ。」

 

確かに、子供を殺された親の狂気かもしれない。だが、だが!

 

「納得出来るかぁ!」

 

だから黒炎を避け、山道から無理矢理村へと入ろうとして

 

そこで、美しい金色を見た。

 

「なんじゃ、汝は何故こんな山道におる。迷子か?」

「いや、違う!あんた外の人間だな、今すぐ逃げろ!村で何かやばい事が起こる!」

「ならば何故汝は村に戻ろうとするのじゃ?」

「助ける為だ。命を!」

 

そう言い捨てて彼女の脇を抜けようとして、彼女に蹴り飛ばされ、木に叩きつけられた。

 

「妾は、この村の中から外に出る人間を殺せと命じられている。じゃが汝は外から中に入ろうとしておる。それを殺すのはちと忍びない。」

「...お前の都合なんか知るか!俺は行く!助けたいから、守りたいから!」

「...その目、写輪眼とやらを持たずとも誠に強く眩いな。」

「だったらその目に免じて退いてくれよ。」

「それはできぬ。...じゃが問いの答え如何によっては考えてやらん事はない。」

「なんだ、問いってのは。」

「汝、写輪眼を持っておらぬな?」

「...悪いか!」

「かっかっかつ!妾は決めたぞ、汝を生かすと。」

 

その瞬間、目を合わせた貞信は動きを止められた。

 

「写輪眼ほどでは無いが、妾も魔眼を持っておるのじゃよ。催眠の魔眼をな。さぁ逃げると良い、勇気ある汝の事を、妾は見逃そう。」

 

その瞬間に女に飛びかかろうとする鴉を俺は火焔鋭槍で止める。

 

この鴉の後悔は、屈してしまった後悔だろうか。ここで死ねなかった後悔だろうか。

 

なんにせよ、鴉の火は消えて、俺は再び泡の外へと吹き飛ばされた。

 

「...人生万事塞翁が馬だな。裏園長の気まぐれが無かったら俺産まれてないのかよ。」

 

意外な所で見つかった恩人である。それと裏園長の陰我への反逆の理由も分かった。彼女は父さんを筆頭に人を生かし、その結果として囚われたのだろう。

 

奇怪な女性だ。なぜあんな人が陰我と組んでいたのかが本気でわからない。

 

「まぁ、どうでもいい事だな。」

 

人に歴史あり。その程度の事だろう。

 

次の夢魔へと向かい鎖を辿る。大火災の後、茫然自失とした父さんは、一月ほどゆっくりと時間をかけて立ち直った。いや、立ち直ったように見えるようになった。

 

それを見抜いたであろう母さんは、それでも何も言わないで父さんのそばにいた。それがどれだけ父さんの救いになったのだろうか。

そうして二人は結ばれて、されど無個性の子供を産んでしまう事を危惧しての母さんの父親からの反対に耐えかね、二人は駆け落ち同然に大阪へと旅立った。

 

それから俺が産まれて、4歳の時に俺の写輪眼が目覚めた。

 

案の定そこに夢魔はいた。黒い炎を纏った鴉の夢魔が。

 

夢魔と同時に泡の中へと入る。

 

正直、何を思っていたかが分かってもこの事を許すつもりはないのだが、まぁいいだろう。今は、陰我の情報を得る為に前に進まなくてはならないのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

俺が写輪眼に目覚めてから、父さんが逃げ出すまでにはそう時が無かった。突発的な逃亡だったのだから当たり前なのだろう。

 

だが、その思いを通じてわかってしまった。同じ血を引く者として、今俺は同じような行動をとっているのだから。

 

父さんは、俺から逃げ出したのではない。自分を襲うであろう災厄から、俺と母さんを逃したのだ。

 

「あの日、俺を逃した女は俺が生きていると知っている。巡の写輪眼が知れ渡れば必ず殺しに来る。」

 

あの日の事を思い出さない日はない。長野黒炎大火災の主犯は兄さん達だろうけど、それを手引きした何者かがいる。そしてあの女の問いの理由。それは、写輪眼が狙いだという事の証明ではないか?

 

だから、俺は俺の子のそばにいてはならない。

だから、俺は善子のそばにいてはならない。

俺には戦う力は無く、敵は途方もなく強大なのだから。

 

「力が無いのは今更だ。出来る事をやろう。今度は、絶対に失わない。」

 

善子にこの話をするかは迷ったが、それはしなかった。善子には巡と一緒に怯える事なく生きていて欲しいから。

 

その独白じみた心の声に反応して、鴉の突撃と俺の拳は同時に放たれた。独善を是としていた父さんの顔面に向かって。

 

「ふざけんな!俺と母さんに生きていて欲しいだ⁉︎だったら守れよ側で!守って欲しかったよ俺も母さんも!待ってたんだよ、お前を!」

 

鴉の黒炎が父さんへと燃え移り、その身を焼き焦がす。

 

それに構わず、父さんの胸ぐらを掴みもう一度殴り飛ばす。

 

「お前が逃げ出してから俺と母さんは苦労した!でもそんな過去もあったなって笑えるくらいにはなってた!だけど、母さんはもう死んだんだよ...」

 

その言葉に、夢魔の炎が止まる。

 

「みんな死んだ。あの日うちは村を焼かせた一党に殺された!うずまきさんも、ヒカルも、母さんも、妹も、後輩も!俺を狙った奴に!」

 

心の黒いものが溢れるのが止まらない。

 

「お前の選択の結果がコレだよ!誰も救われたりなんかしねぇんだよ!ただ、俺が無駄に生き延びているだけなんだよ...」

 

これは、八つ当たりだ。

 

今、俺が生きているのはあの日あの時の選択を誤ったが故なのだから。それを誰かのせいにするのは筋違いだと分かっている。

 

それでも、誰にも見られていない今だからこそ出てしまった本音がある。

 

俺は、あの日を誰かのせいにしたいのだ。他でも無い自分のせいだとわかっているから。

 

鴉は俺の肩に乗り羽ばたいて、俺と鴉はこの記憶の泡の中から飛び出した。

 

それからしばらくは、夢魔のいない日々だった。各地を転々としながらただ生きていくその日々には、彩りというものがなかった。

 

それだけ俺たちを愛していたという事実を突きつけられて、俺はまた拳を握り締めていた。

 

「馬鹿野郎、この時俺はヤクザの下働きだよ。」

 

肩に止まった鴉が、驚いたように俺を見た。その動きでなんとなくこいつの正体がわかってきた。

 

まぁ、これから長い旅路だ。道連れがいても良いだろう。

 

泡の鎖を辿って歩いていく。ここからの半逃亡生活はただひたすらに長かった。イベントの無い道をひたすら歩いていくだけだったからだ。そして、ついに辿り着いた。夢魔の大本命、魔王オール・フォー・ワンに捕まった時の記憶だ。

 

黒く染まった泡の中には、蜘蛛のような異形がひたすらに泡の中の父さんを嬲っていた。

 

「じゃあ、行くぞ父さん。」

 

コクリと頷く鴉、こいつ素直に頷きやがったぞ。

 

泡の中へと入り、蜘蛛の異形をぶん殴る。

こいつが、オール・フォー・ワンの行った拷問の記憶の象徴だ。

 

痛みや苦しみから父さんは拷問の記憶をこんな結晶にしてしまったのだろう。それはきっと当たり前の事だ。過去の記憶を否定しようと飛びまわる鴉のように、人の心の中にはこんな異形がいくつも存在するのだ。

 

「まぁ、お前みたいなのに関してはボコって大丈夫だろ。」

 

蜘蛛の異形は矛先を俺に変え、襲いかかってきた。とはいえそのスピードもパワーも大した事はない。弱者を嬲ることしかできないただのデカイ蜘蛛だ。

 

飛びかかってきた蜘蛛の下に潜り込み、桜花衝にて胴を砕く。

 

再生の様子はなく、他に数がいる様子もない。ただの雑魚だったか。

 

「巡、どうして、俺を助けに?」

 

嬲られていた父さんが掠れた声で俺に問う。

 

「あんたの為じゃない。成り行きだ。」

「...巡。」

「俺はあんたを許さない。それで俺たちの関係は終わりだ。」

 

それ以上、俺は何も話すつもりはないと判断したのか、鴉は羽ばたき、俺は泡の外へと吹き飛ばされた。

 

再び俺の肩に乗る鴉。払いおとす気にはなれなかった。

 

夢魔の気配はもうこいつ以外に無い。これでダイブによる治療は完了だろう。後は帰るだけだ。

 

歩きながらポツリポツリとなんとなく話す。俺の事を。

俺は、父さんが逃げた事を決して許しはしないけれど。父さんが逃げたから出会えた出会いがあった。その事だけは感謝していると。

 

その出会いが大切だったからこそ、俺はもう止まるつもりは無いのだと。

 

「巡さん。その夢魔は?」

「過去の自分を否定したい夢魔だ。ほっといても大丈夫だろ。」

 

肩の鴉はここが出口だとわかったのか、肩から飛び去っていった。

 

「さ、帰ろう。戦いの続きが待っている。」

「...はい。」

 

何かを案じるダイバーさんの目を無視し、現実に戻る。

語るべきはもう何もない。後は進むだけだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目を覚まして始めに目にしたのは、フランさんの糸で雁字搦めに縛られている白衣の男の姿だった。

 

「コイツは?」

「さぁな。いきなり適当な事をぬかしてお前たち以外を追い出そうとしたもんだから、縛った。」

「ポケットからナイフなんかが出てきたから、コイツらも刺客って事だろうぜ。」

「...俺とダイバーさんがダイブするのを知っていた?」

 

その言葉にハッとしたダイバーさんは、携帯で連絡を取ろうとしていた。

 

「駄目!繋がりません!」

「施設とか?」

「はい。まさか子供達になにかあったんじゃッ⁉︎」

 

その不安気な表情と、このままでは情報が貰えないという事実から、次のやるべき事は決まった。

 

「...才賀、フランさん、ジャンクドッグ。次の目的地は決まりでいいな。」

「お前さん、こういう決断は本当に早いのな。」

「ですが、その目は悪くありませんね。」

 

縛られた男に写輪眼で自首の命令を刷り込んでからダイバーさんを連れて車に乗る。

 

目的地は、再び素晴らしき個性生活の会本拠地だ。

 

「それでは、行きますよ皆様方!」

 

5人を乗せた車は、法定速度ギリギリで走っていった。




サイコダイバーで真女神転生を思い浮かべるのは実はにわからしい。元ネタの小説があるのだとか、作者は読んだことないけれど。

正直かなり読みたいが、スマブラ買っちゃったので使えるサイフポイントがあまりないのですよねー。DLC2500円が地味に響く訳ですよ。
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