「貴様から連絡が来るとは思わなかったぞ、団扇。」
「俺も、もうヒーローであるあなたと関わるとは思いませんでした。でも、伝えなきゃならない事があります。」
「...なんだ?」
「神郷数多がイレギュラーであると陰我にバレました。殺害計画が動き出してます。」
「それは確かな情報か?」
「いいえ、証拠となる犯罪計画のデータは消されました。物的証拠では残っていません。」
「なら、ヒーローとしては動けないな。違法な手段で手に入れた情報に価値がない事はよく知っているだろう?だからお前は、施設の首謀者の自首を催眠で仕込む事で無理矢理証拠を作り出している。」
返す言葉はない。全て事実だからだ。
「警察としても、洗脳による自白を証拠として認めるかどうかで意見が分かれていると聞く。陰我という凶悪な
「そんなに酷いんですか?いまの警察の対陰我本部は。」
「でなければ、貴様らを泳がせておく意味などあるものか。」
「...確かに、警察が本気を出したら俺たちはもう捕まってますか。」
「まぁ、それ以外にも理由はあるのだがな。」
「理由?」
「...失言だ、忘れろ。」
「まぁ、いいです。それで、結局警察やヒーローはどう動くつもりなんですか?」
「現状、動かすための駒が足りん。陰我の襲撃に対してそれ相応の実力を持ちながらイレギュラーである者など、貴様らと私しか居ないのだから。」
これが、今の警察たちの現状か。イレギュラーでなければ前本部長のように必然の事故により殺されてしまう。それが今も警察の動きを縛っているのだろう。
「つまり、俺たちが行くまで神郷は現状の護衛状態のままって訳ですか。」
「ああ。だが、エンデヴァーヒーロー事務所のバブルビームとサンドウィッチが来週から応援に来る。これでこちら側も幾分か動きやすくなるはずだ。」
「...だから、犯行は今から6日後なのかッ!」
「増援の来る直前、最も危機感が薄くなるタイミングか。その策を練った
「...多分、デジタルデータによる通信は全て傍受されてると見て間違いありません。陰我の組織の幹部の個性は、電子機器にダイブしてそれを操作する能力。おそらく既存のセキュリティでは個性による侵入を防げませんから。」
「...厄介な個性だな。とすると、この通話も危険か?」
「でしょうね。でも連絡にはこれしか手はなかったものですから。」
「わかった、詳しい事は会って話そう。」
「いえ、それはやめておきます。」
「何故だ?」
「俺のやるべき事は、変わりませんから。」
そう言って通話を切る。おそらくナイトアイは俺と会ってからは説得するつもりなのだろう。復讐をやめろと。
だが、そうはいかない。あの日に心に決めたのだから、戦うと。
「皆様、もうすぐフェリー乗り場に到着します。念のため偽装を。」
「わかった。」
そうして、変化の術で姿を変えた俺と簡単な変装をしたジャンクドッグたち。受付はネットで済ませているため、問題なくフェリーに乗船する事ができた。
念のため、車内確認をした係員には催眠をかけて俺たちの事を気にしないようにしておいたが。
そうして一等船室に男女で別れて入る。ちょっとした贅沢だが、大企業サイガのスポンサードを受けている自分たちには特に問題はない。
まぁ、慣れはしないのだが。
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そしてフェリーが出港してから一時間程経った頃、事件は起こった。
鳴り響く悲鳴と銃声。どうやら只事ではないようだ。
「おいおいおい!シージャックでも起こったのかよ!」
「まったく、退屈とは無縁だねぇ。」
「才賀、ジャンクドッグ、とりあえずフランさんたちに連絡してから様子を見に行くぞ。少人数なら即制圧、10人以上なら静観だ。行くぞ。」
そう言って、無線を皆で装備してフランさんと合流する。フランさん達も無線を装備していたので連絡は早くて助かる。どうやらフランさんとアセロラは銃声を聞いてからすぐに車庫へと向かい、あるるかんを回収したようだ。
現在は、船室と車庫に分かれての二小隊。状況はどうであれ即詰みではなさそうだ。
「じゃあ男組は銃声のあったエントランスへと向かう。女組は船底か機関室に向かって爆弾の類がないか調べてくれ。」
「わかりました、団扇様。お坊っちゃまの事をよろしくお願いします。」
「了解だ。」
ジャンクドッグと才賀と目配せ。今回はこの3人で行く事になりそうだ。
エントランスへと向かう。そうすると、柄の悪い男が少女を人質に取って船員たちに色々指示を出していた。拳銃を持っていることから、奴はリーダー格。奴の周囲には一様のコートを着た奇妙な一団がいた。人数を確認したところ、丁度10人。今は静観しようと伝えようとした時に、先走った奴がいた。
「ガキを人質に取るなんざ、許せるわけねぇぜ!巡、これで残りは9人だよなぁ!」
それを見て爆笑するジャンクドッグと、頭を抱える俺。
「確かに、これで残りは9人だな。行くぜ大将。」
「はぁ、多分他にも散ってると思うんだがなぁ...」
一撃で主犯格をぶちのめして人質を救い出した才賀。あいつ本当にプロヒーロー顔負けの思い切りの良さしてやがる。
「ザッケンナコラー!」と一様に口を揃えて言う他の男たち。ネオサイタマ出身かお前ら。
まぁ、なにかをさせるつもりなど毛頭ない。少人数なら即制圧と言ったのは、敵が手練れでも不意を打てば何もさせずに制圧できる実力が俺たちにはあるからだ。
才賀に目を向けている連中をジャンクドッグと二手に分かれて落としにかかる。一度に4人の連中が才賀に襲いかかる。だが、目にも止まらぬ連撃により一蹴された。未だに慣れない、才賀の恐ろしき中国武術、形意拳の腕である。
そして、才賀が4人を瞬殺した瞬間には俺とジャンクドッグが2人ずつ潰したため、残りは一人になっていた。
「...は⁉︎」
ようやく状況を理解した三下は個性と思わしき指を刃にする個性の矛先をどこに向ければいいかおろおろしていた。
「本当はボスに聞きたかったんだが、まぁいいか。お前吐け。お前たちの目的を。」
写輪眼により残った一人を洗脳し、情報を吐かせる。
どうやらコイツらはインターネットで集められた三下
シージャックに使う爆弾は全て主催者によって配布されたものであり、現在機関室にプラスチック爆弾が仕込まれているのだとか。
爆破のコントロールは船内カメラをハッキングして見れるという主催者による遠隔操作らしい。
「それで、お前たちの目的はなんだよ。」
「知らねぇ!本当なんだ!交渉は全て主催者側がやるって話だったんだ!」
その言葉は本来見苦しい言い訳にしか聞こえないが、こいつが催眠状態であるという事を加味すると...
「こいつら、本当にただの鉄砲玉臭いわ。」
「だな、同じコートを着ていたのは、多分同士討ちを防ぐためだろ。」
「てことは、本命は機関室の爆弾か!フランが危ねぇ!」
そう言って駆け出そうとする才賀の肩を掴んで止める。
「なにすんだ巡!」
「落ち着け才賀。フランさんは今あるるかんを持ってるんだから鉄砲玉程度に負けることはない。それに、あそこにはアセロラがいる。忘れたか?アイツの個性のあの能力を。」
「...そうか、今回の爆弾はリモコン式!てことは!」
「そう言うこと。てな訳でやって良いぞ、アセロラ。」
無線越しに「かっかっかっ」と特徴的な笑い声が聞こえる。どうやら、一瞬で事は終わったようだ。
「すまない、船長の鰤野だ。つまりどう言う事なんだ?」
「ヒーローのメグルです。俺の仲間には物を影の中に入れる能力を持ってる奴が居ます。そしてその中は電波を通さない。」
「...爆弾を無力化したという事か!」
「そういう事です。ま、シージャック犯も運が悪かったんでしょう。相性最悪の相手が乗り込んでいたんですから。」
その後、船室をくまなく巡ったが怪しげな人影はいなかった。まぁシージャックに必要だったのは機関室の爆弾のみ、後はスケープゴートとなる実行犯さえいればよかったのだろう。
どうせ、敵は実行犯ごと海に沈めるつもりだったのだから。
「にしてもフランさん。どうして部屋を離れていたんですか?」
「妾のちょっとした冒険心じゃよ。船での長旅なんぞ久しぶりじゃったから色々見て回っていたのじゃ。絡繰女はまぁ、財布じゃ。」
「歯に衣着せないなぁお前...」
そうして、明日の朝刊の一面を飾りかねなかったシージャック事件は、一瞬のうちに終了した。
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「うーん、なんでこううまくいかないかなー。」
電子の海を漂う少女は言う。今回はほとんど即興の作戦だったが、限られた準備期間内でプラスチック爆弾と拳銃一丁を用立て、団扇巡一行が一手間違えればそこで海の藻屑となる筈だった。スケープゴートなど立てずにすぐ爆破してしまうべきだっただろうか。だがそれでは通信ログから自分の存在が露見してしまう可能性がある。
わたしは陰我の計画において中核を担っている存在だ。大きく事を起こすわけにはいかない。
わたしの監視網を避けるために、全ての情報をオフラインにするなんて手を取られたら、陰我にかかる負担が増えてしまうのだから。
「裏サイトでの賞金首にしようとしても、義爛の手駒が止めちゃう。なんで団扇くんって
集めた情報では、神野事件の時に確かに
奇妙としか言いようがない。
「ま、いいや。本命はもう動き出してるし。この作戦なら命か矜持のどちらかは折れる。矜持が折れた人は脆いからねー。」
そう言って少女は再び電子の海に潜る。超常黎明期に止まってしまったインターネットセキュリティの技術では、彼女を止める事は不可能だった。彼女は、文字通り次元違いの行為を行っているのだから。
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催眠で諸々を誤魔化してから港から降りて一路都内を目指す俺たち。ネットニュースは見ても天才子役死亡のニュースは流れていなかったが、万が一の事を考えて再び神郷に連絡をする。
「神郷、無事か?」
「ええ、無事っちゃ無事ですよ!気分は最悪ですけど!」
「...そうか、無事ならいい。」
「聞いてくださいよメグルさん!ムカデさんが私を汚したんです!」
「おまえセンチピーダーさんに謝れよ。」
「あのうねうねっとした部分で私を抱き上げたんです!自分の性癖を満たす為だけに!」
「おまえセンチピーダーさんに土下座して謝れよ。」
「あの人は男にしてはわきまえてると思ったんですが、やっぱり獣です!きっと毎夜私の事を想像して自分を慰めているに違いありません!」
「違いしかないと思うぞ。どれだけ風評被害まいてんだバ神郷。助けられたならちゃんとお礼を言え。」
「...バブルガールさんには言いました。」
「それ余計に傷つくやつだろ!センチピーダーさんすっげえ良い人だからたぶん表には出さないけどさ!」
思わず大声を出してしまう。馬鹿じゃねぇのこいつ、ガチで。
だが、その大声でどこかツボに入ったのか神郷はクスクスと笑い出した。
「...大丈夫そうですね、メグルさん。」
「いや、大丈夫じゃないのはお前の頭だろ。」
「電話越しじゃあんまりわかりませんけど、メグルさんはあんまり変わっていないようで安心しました。」
「...変わったよ、俺は。」
「いいえ、あなたはメグルさんです。誰かのために走って飛んで駆け抜ける。そんな人です。」
「それは...」
「今はそれを死んだ人の為にってばっかり見てるから変わったように見えているだけですよ。あなたは、あなたです。」
「...安否確認は終わったから、切るな。」
「メグルさんもお気をつけて。」
通話を切る。なんだか周囲からニヤニヤした目で見られているのが癪だ。
「なんか文句でもあるのか?」
「いんやぁ?巡が珍しく感情を出すから驚いただけだぜ?」
「じゃあその目はなんだ。」
「そんなもの決まっておろう。面白いモノを見た目じゃ!」
「確かに、団扇様の今のお声は面白かったです。仲がよろしいんですね、その神郷様という方と。」
「...まぁ、妙に波長の合う奴ではある。」
「そりゃ、会うのが楽しみになってきたな。」
「まぁ、才賀とジャンクドッグは覚悟しろよ。あいつちょっと度が過ぎた男嫌いだから。」
「なんじゃそりゃ。」
道中の交通事故を避けながら着実に神郷の家へと近づいていく。事故が陰我の手によるものなのかを考えると心に暗いものが出てくるが、今はいい。どうでも良い事だ。
「...まーたいつもの顔に戻りやがったか。」
才賀のその呟きが妙に響いた。俺のいつもの顔とは何だろうか。まぁきっと、復讐を心に決めた悪鬼の顔だろう。
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「着きましたね、この家が神郷様の家ですか。」
「ああ、とりあえず俺は護衛している奴に挨拶してくる。」
「...大丈夫なのか?」
「駄目なら目を使う。」
「それなら安心じゃの。早く行くがよい主様よ。」
「それじゃあ私は今日からの宿とこの家の警護の強化の手配をしておきます。」
「フランさん、いつもありがとうございます。」
「いえ、好きでやってる事ですから。」
車を出て、こちらを監視している車に近づく。車からは、いつか見た女性警察官、里中さんが出てきた。
「どうも、お久しぶりです里中さん。」
「...君が来るのは聞いてた、メグル。一人の警察官として本当はしちゃいけないんだけど、私は君を歓迎するよ。」
「...それじゃあ、とりあえず神郷の警備お願いします。敵の犯罪計画の実行は6日後ですが、それまでに犯行がないとは限りません。」
「任せて。あと一つ言いたいんだけど。」
「何ですか?」
「君のことをよく思っていない人も警察にはいるんだ。だから警察全部が君の味方だとは思わないで。」
「それなら安心してください。逃げ足は速いんで。」
そんな会話をしたのち、警察の借りている近隣の物件についてや、警備のローテーションなどの情報を貰い、車に戻る。
「団扇様、近隣のホテルの予約が取れました。」
「なら行こう。警備のローテーションとかを決めておかないと6日目まで保たないからな。」
「それなんじゃが、妾は別行動でよいかの?」
「何でだ?」
「護衛対象の神郷といったか?其奴の影に潜り込む。」
「成る程、頼む。」
「それでは4人でのローテーションですね。免許を持っている私と誤魔化せる団扇様は被らないように...」
「あ、それなんだがよぉ、巡のアレなら常時警備いけるんじゃねぇか?」
「アレ?」
「ほら、変身する技あったろ。精神エネルギーの操作でなんで変身できんのかわかんねぇけど。」
「成る程、任せろ。」
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翌日、神郷家の玄関前に一頭の白犬が現れた。
それを不審に思う者はいたが、特に気に留めたりはしなかった。演技に関する事についてはちょっとどころでない才能を発揮するこの少女以外は。
「...何やってんですかメグルさん。」
「いや、何で初見で気付くんだよお前。」
「かっかっかっ、面白き童よな!主様も形無しじゃ!」
団扇巡(犬)とアセロラ(鬼)と神郷数多(人)の異色のトリオが、ここに結成した。
変化の術を一瞬で見ぬく神郷ちゃんは割と書きたかったシーンだったりします。ホンモノは誤魔化せないのだ。