【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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ギリギリ連日投稿ひゃっはぁ!
あ、次回くらいからは投稿ちょっと間が空くと思います。虚淵シナリオとかしっかり読み込みたいので。


犬の一日

神郷に一瞬で見抜かれたこの変化の術は、意外にも他の人には見抜かれる事はなかった。やっぱ神郷は演技に関する事だけは頭おかしいわ。

 

「ま、本来の目的の神郷の影にアセロラを仕込む事には成功したんだからいいんだけどさ。」

 

犬の姿のまま一人ごちる。なんか納得いかない。

 

「フランシーヌです。問題はありましたか?」

「今のところは問題ない。ただ学校のセキュリティには問題ありだ。誰も不審な犬に気付かない。動物に変身する個性の(ヴィラン)がいるかもしれないってのにな。フランさんから才賀の親父さん経由で伝えてくれ。」

 

そう言いながらてちてちと四足歩行で校内を歩く。小学校をこうして歩くなんて久しぶりだ。

 

友達作ろうとしてもヤクザ関係者だったため親の命令で避けられていたという割と暗黒の時代だった。まぁイジメには発展しなかったので大きな問題にはならなかったが。

そういえばあの多感な小学校時代になんで俺はイジメに合わなかったのだろうか、同じ小学校の奴にちょっと聞いてみたいものだ。

 

ちなみに、それを中学時代に坂井に聞いてみたら「なんでこの人自分の事となると気付かないんですかねー」と言われた。

 

さて、この小学校の話。

この小学校では新世代の個性が多く集まっているようで、授業中も愉快な音が絶えない。子供は割と好き勝手に個性を使うからだ。

にしてもドジャアン!とかピピルピルピルとか妙な音が聞こえてくるのは何故だろう。擬音の個性?

 

まぁ害がないならいいだろう。学校内の散策を続ける。すると、校舎裏に上履きが落ちているのが見えた。遊んだ結果なのか、あるいはそういう事なのか。

 

まぁどちらにしてもやる事は変わらない、本人の所に持っていこう。と思った所で衝撃の事実に気付く。やばい、俺今犬だと。

 

小学生の上履きを口に咥えて運ぶ野郎とか事案にしかならんわ。

 

作戦変更、暇そうにしてる人を探そう。用務員さんとか。催眠でここの上履きを拾わせるのだ。

 

そうして再び校内散策を始める。すると、体育倉庫裏でまたしても発見してしまった。今度は落書きされた教科書だ。バカとか死ねとかブスとか酷いものだ。この学校風紀荒れてるなーと思いつつこの場所も記憶する。この際生徒でもいい、探さねば。

 

そんな時に見つけたのが、銀色の煌めく髪を持った彼女だった。

 

「犬?こんな所に?」

 

今授業中だぞ、サボってるとかこの歳でロックだなこの女の子。

とはいえようやく見つけた人である事には変わりない。催眠で落し物拾いウーマンになってもらおう。

 

犬となっても写輪眼は健在なのだ。

 

「うん、わかった。拾いに行くよ。多分私のだし。」

 

今の言葉でこの子が心配なのはなんとなくわかった。好き好んでサボってる訳ではないという事も。

 

どうせ神郷が学校内にいるうちは暇なのだ、損はないのだし人助けといこう。

 

校門までついていき靴に履き替えた少女をゆっくりと誘導する。この学校かなりセキュリティガバガバだわ。犬が校舎内に入っても警備員一人飛んでこない。個性があるとはいえ、小学生にとって野犬はかなりの脅威のはずなのにだ。

 

なにか嫌な予感がする。警戒しよう。

 

「あった、私の上履き。」

 

その顔に笑みが浮かばないのが、この少女の傷の深さを物語っているように思えて、無性に腹が立ってきた。

 

だが、本当の問題はそこではない。俺は今に至るまで用務員さんも警備員さんも見ていないのだ。これはいくらなんでも異常だ。

少女に先に体育倉庫裏に行かせて無線でフランさんと連絡を取る。

 

「フランさん、学校周辺に異常はありませんか?」

「異常は見当たりません。何か問題でも?」

「もう一限終わりそうになるまで校内をうろついていますけど、用務員とも警備員とも会いません。嫌な空気です。」

「...学校に電話してみます。」

「ありがとうございます。」

 

さて、これで学校に異常があるかはわかる筈だ。電話が繋がらなければ、行動に移る。

 

「あ、わんちゃん。」

 

彼女は、教科書に書かれた落書きを見ても、諦めているようで特に表情を動かしてはいなかった。

 

だからつい、口を出してしまったのだろう。

 

「話し相手が必要か?」

 

少女はピクリと反応して、こちらを見た。叫ぶ事なく、落ち着いて。

 

「...喋るんだ。」

「犬も喋るさ。こんな社会だしな。」

「そうなんだ...」

「聞き役くらいにはなってやる。話してみろ。他人に言う事で多少は楽になるだろうさ。」

「そんなものなのかな。」

「そんなものだ。」

 

その言葉に納得したのか、少女はゆっくりと話始めた。自分の話を。

 

「私さ、いじめられてるんだ。」

「ああ。」

「原因は多分、私が違うものを見てるから。私の個性って、人の感情みたいなものが見えるんだ。みんなそれを気持ち悪いって言うの。」

「そうか...お前はいじめの解決を望んでるのか?」

「わかんない、私が変なのはわかってるから。仕方ないかなって思う。」

「一つ、戯言だと思って聞いてくれ。」

「なに?」

「この社会で、変じゃない奴はいない。だから変なお前は、ある意味普通だ。」

「...慰めてくれるの?」

「そんなところだ。」

 

そんな会話をしていると、無線から連絡が入った。

 

「団扇様、学校と連絡がつきません。何かあったのだと想定して動いてください。」

「わかった。フランさんは才賀たちに連絡を付けてからあるるかんと来てくれ。俺は警察に連絡してから校舎を巡ってみる。」

 

犬の状態で変化の術を解き、本来の俺の姿へと戻る。

少女は、ぽかんとした顔で俺を見た。

 

「わんちゃん、人だったんだ。」

「騙して悪かったな。...これから校内が騒がしくなるかもしれない。そうなったらしっかり先生達の指示に従って避難するんだ。良いな?」

「...あなたはどうするの?」

「ちょっと人助けをやりに行く。」

「人助け...」

「じゃあ、俺は行く。...ああ、もうちょっとだけ言っておくわ。」

「何?」

「いじめに耐えきれなくなったら、逃げていいんだ。君には戦う自由も、逃げる自由もあるんだし、その事を助けてくれる人は君が思ってるよりもいるからさ。」

「...いないよ、そんな人。」

「いるさ。君は一人じゃあないんだから。」

 

「じゃ、元気でな。」と言って少女から離れる。そういえば少女の名前を聞いていなかったと今気付いた。

 

「まぁ、犬やってればまた会うだろ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

とりあえず職員室に突撃する。神郷の護衛をするにあたって学校、事務所、撮影スタジオの図面とその周辺の地図は頭に入れていたのだ。

 

万が一に備えての事が役に立って良かったと思う次第である。

 

職員室の扉は施錠こそされていなかったが中には誰もいなかった。いくら授業中とはいえ、誰かしらはいるものじゃないのか?

 

そのあたりで鳴るチャイムの音。1限は今終わったようだ。

 

「授業してた教師に話を聞くか。その後は事務室か校長室だな。」

 

そう呟いたところで、小さな叫び声がどこかから聞こえた。

 

音の出る方に目を向けると、そこには小人サイズの男性がいた。

 

「おーい、ここだ!助けてくれ!」

「どういう状況だこれ...」

 

とりあえず小人となっている男性に近寄る。写輪眼で見た限り、小人化は本人の個性ではない。誰か別の人物の身体エネルギーが覆っているのが見える。

 

とりあえず安心させるために仮免許(失効間近)を見せつつ話を聞くことにする。

 

「メグルです。事情を聞いても?」

「わからない!気付いたら皆小さくされていた!だが犯人の言葉から察するに、やったのは(ヴィラン)だ!はやく皆に知らせなくてはならないんだ、手を貸してくれヒーロー!」

「了解です。他に人は居ますか?」

「いや、特殊教員で出勤してきているのはまだ私だけだ。」

「じゃあやりやすいですね。手に乗ってください。(ヴィラン)の目的がわかりません、とりあえず事務室に行きましょう。電話しても出られなかったという事は、あなたと同じ状況に陥っている可能性があります。」

「何⁉︎事務室と連絡がつかないのか!」

「ええ、その事を不審に思った人の情報で俺は来ました。...敵の個性は“小さくする”こと。でもそのサイズになったあなたを殺していない事から無差別殺人が目的じゃないみたいです。なにか思い当たることはありますか?」

「...ああ、うちの学校の問題児が一人3年にいるんだ。」

「バ神郷か...」

「知っているのか?」

「知人です。一応。3年3組ですよね。事務室行っても(ヴィラン)が見つからなかったら顔出してみます。」

「頼んだぞヒーロー...ところで君のこと何処かで見た事がある気がするんだが、有名なヒーローなのか?」

「まぁ、それなりには。」

 

廊下に出て個性ぶっ放して遊んでる子供達を見るに、今すぐこの学校がどうなると言う訳ではなさそうだ。それだけは楽で助かる。

 

「着きました、事務室です。」

「ありがとう。...受付にもやはり人はいないか。」

「ですね。鍵かかってるか、仕方ない。」

 

ノックして、「今からこじ開けます!ドアの近くから離れてください!」と声をかける。

念のため先生を床に下ろして、ドアをチャクラを乗せた蹴りで吹き飛ばす。これに慣れたあたり俺の思考はバイオレンスに染まっているなぁ。

 

「誰か居ませんか!」

 

「いるぞー!」

「ドアってあんな漫画みたいに吹っ飛ぶのか...ッ!」

 

なんとか脱出しようともがいていたのか、ドアのあった場所の横に小さくなった用務員さんが二人いた。

 

「状況はわかりますか?」

「わからない!俺たちは窓口から個性を使われてこうなった!」

「犯人の顔は?」

「見た!」

「背の高い筋肉質の若い女性だったぞ!」

「目的の検討はつきますか?」

「...すまんがわからない。」

「いえ、情報感謝です。...敵の目的がわからない以上、生徒をそのままにしておくのは危険です。(ヴィラン)侵入の情報を流しましょう。ここから放送の操作できますか?」

「いや、うちの校舎は古いから放送室でしか放送はできない。」

「なら、すいませんがまたしばらくよろしくお願いします。」

「ハハッ、手乗り先生とでも呼ばれそうだ。」

 

先生を持って放送室に急ぐ。道中不審者がいないかくまなく見たつもりだったが子供としかすれ違わない。教師は何処だ?

 

というか「ヒーローだ!」とか絡んでくる子供達よ、いまちょっと手が離せないのでやめてほしい。

 

「ヴィラン潰し、アレやってー?」

「...青少年の健全なる育成の為に控えさせて貰う。先生、ちょっと壁走ります!」

「壁って...うぉお⁉︎」

 

窓の出っ張りを足場にして子供達を避けて走る。「すげー」という声が響くが、子供達に真似して欲しくはない。

 

そうしてようやくたどり着いた最上階、放送室はこの階にある。

 

鳴り響く授業開始のチャイム。それにしても廊下側から聞こえる騒音が止まない。授業開始すぐくらいはおとなしくするもんだろうに。

それができない理由は一つか。

 

「大人が狙われてる?何のために?」

「僕にもわからない。とにかく子供達を避難させよう!」

 

放送室の鍵なんてものは持っていないので当然鍵開け(物理)を行う。良いとこの学校ならこれで警備会社が気付くんだろうが、あいにくこの校舎ではそうはいかないんだろう。

 

「先生、符丁教えて下さい。」

「ああ、この学校では(ヴィラン)が現れたとき高階先生という架空の先生の呼び出しでそれを伝える。」

(ヴィラン)の現在地が不明の時には?」

「その時は、教頭室という架空の部屋に呼び出すんだ。」

「了解。」

 

放送室の中身はそこそこ新しい型になっている。パソコンで機器を操作する型だ。なのでやり方は何となくでわかる。

 

そうして、放送のスイッチを入れた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『高階先生、高階先生、至急教頭室までお越しください。繰り返します。高階先生、高階先生、至急教頭室までお越しください。』

 

今朝きいたばかりの声で、そんな放送が流される。周りの皆は高階先生って誰だっけ?とか呑気に騒いでいる。

それもそうだ。避難訓練での符丁の事など、子供達が気にする訳ないのだから。

 

実際、私も自分の身に危険が迫ってるなんて事態にならなければこんな符丁を覚えておこうとはしなかっただろう。

 

「皆!校庭行くよ!」

 

皆の視線が集まる。男どもに見られるのは正直御免こうむりたいが今は緊急時なので仕方ない。

 

「かっかっかっ」と私の影の中で笑うアセロラさんも今は役に立たない!

 

「委員長!皆を纏めて!」

「いや、待って神郷さん。何で?」

(ヴィラン)が来てるの!避難訓練で言ってたでしょ!」

「でもさー、そんな大変なときなら先生を待った方が良くない?」

 

クラスの無駄にチャラチャラしてる連中が私の声を否定してくる。私だって先生を待つべきだとは思うが、()()()()()()()()()()()1()0()()()()()()()()()()()()()

生き残るには、自分で動くしかないのだ。

 

「もういい、私は行くから!」

「ダメだよ神郷さん。」

 

後ろの席の獣が私の腕を掴んでくる。」

 

「なんでよ!」

「だって、先生から何も言われてないし。」

「...あーもう面倒くさい!シロ!」

 

目の前に現れたカードを握り潰し、ペルソナを発現させる。行き先は今安全が確保されている唯一の場所!

 

「トラポート!」

 

自身を生体磁気(マグネタイト)に分解し、放送室にて再構築する。

そうして現れた瞬間に、私はメグルさんに首を掴まれた。この人、躊躇いがないッ!

 

「なんだ神郷か、(ヴィラン)かと思った。」

「けほっ...人の首絞めるとか正気ですか⁉︎しかもこの100万ドルの美声を持つ私の首を!」

「...すまん。」

「謝ってくれるなら許します。さて、現状分かってます?」

「多少はな。小さくする個性の(ヴィラン)が大人たちを狙ってる。最終目的は不明だが、嫌な予感しかしないな。」

「それじゃ、一芝居打ちますか。安全が確認できるまで校庭に子供達を集めるので良いんですよね。」

「何か策でもあるのか?」

「ええ、(ヴィラン)から子供たちの避難させるなら、シンプルなやり方の方が良いですから。」

 

そうしてマイクの前に立つ。自分の中のスイッチを切り替えるイメージだ。今回演じる役は初めてだが、役作りはできている。

 

「...放送のスイッチ入れるぞ。」

「...ええ。」

 

「この放送を聞いている皆さん、おはようございます。私たちは“チャイルドプレイ”。この学校を襲った(ヴィラン)です。」

 

隣のメグルさんと、小さくなってる湯波先生が息を飲むのが聞こえる。どうやら反応は悪くなさそうだ。

 

「先生方が居ない事で皆さん不安でしょう?ですがご安心下さい。私達の手の者によって丁重に保護されています。」

 

「さて、私たちの目的は単純、この学校の破壊です。この学校に爆弾を仕掛けさせてもらいました。30分後、この学校にいるのなら...」

 

「死にます」

 

「前途ある子供の皆さんは、理性ある行動をしてくれる事を願います。避難訓練をやったでしょう?なら、大丈夫です。」

 

「せいぜい足掻いて、醜く生き延びて下さい。」

 

そう良い放って、放送を終了する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

圧巻の演技力だ。俺は目の前の神郷数多という少女が(ヴィラン)に見えて仕方がない。そんな訳がないと知っているのにだ。

 

「これ、オファーの来てるドラマの役なんですよ。どうでした?(ヴィラン)を見てるメグルさん的に。」

「凄かった。思わず手が出そうになる程だよ。」

「割と命の危機だった⁉︎」

「...神郷、お前何やってるんだ!パニックになるとは考えなかったのか!」

「大丈夫ですよ、パニックの収集役はいますから。頑張ってくださいね、メグルさん。」

「...ハァ、やるしかないか。アセロラ。」

「なんじゃ?」

 

影の中からひょっこりと顔を見せるアセロラ。そのリラックス具合からいって、影の中は割と快適なようだ。

 

「神郷を頼む。しばらく見れそうにない。」

「心得たぞ、主様。」

「じゃ、行きますよ湯波先生。」

「あ、ああ。」

 

神郷は先生を握って転移をするようだ。白猫のペルソナが背に現れる。

 

「トラエスト!」

 

その声と共に、神郷は転移した。便利な個性だよ本当に。

 

「さて、行きますかね!影分身の術!」

 

分身は6人、1学年につき一人の割り当てだ。

 

急ぎ生徒の避難を終わらせるとしよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「大丈夫!避難訓練を思い出して!押さず、走らず、喋らず、戻らない!大丈夫だ!」

「ヒーローさん!学校壊れちゃうの?」

「大丈夫!でも危ないのには変わりないからしっかり避難しような!」

「ヴィラン潰し!(ヴィラン)なんてやっつけて!」

「任せとけ!」

 

様々な声援を受ける。話すなってのに。

だが、悪い気分にはならない。皆を安心させるヒーローの仮面を被る事で、心の方も多少影響を受けているのかもしれない。

 

しかし、俺の中で皆を安心させるヒーローの仮面は、出久を思い起こさせるものになってしまっている。郷愁か?これは。

 

そんな事を考えていると、6階の影分身から情報フィードバックが起きる。奇襲で小さくされてからの踏みつけ。避難の終わった後から狙われたようだ。だが、これで顔は見た。

 

背後を取られないように壁を背にして子供達を誘導する。

5年生を階段まで誘導したあたりで視界の端から身体エネルギーが走るのが見えた。反射で回避行動を取る。

 

体のどこかから出す広範囲型の個性、自分の体を小さくする事で奇襲性を高めていると見た。

指先がエネルギーに触れたが小さくなる事はなかった。全身が覆われることが条件か。

 

視界入る、1センチ2センチ程度の大きさの女と向き合う。

 

「念のため聞くが、お前は何者だ?」

「チャイルドプレイという事になっているな。」

「意外と話せる奴か、珍しい。」

「何、軽口が好きなだけの女さ。」

 

小さいが、速い。筋力が落ちていないのか?

だとすれば打撃力は恐ろしい事になる。圧の加わる点が小さければ、その分力は集中するのだから。

 

豪火球で面で殺す。そう判断した時に来訪者はやってきた。

 

「ヒーローさん?」

「戻るな!避難するんだ!」

「おや、丁度いい所に。少年を守れるかい?偽物ヒーロー。」

 

一瞬大きくなりまた小さくなる女、大きくなった始点と小さくなった終点が違う。170センチ程度の体の大きさで距離を一瞬で詰めてきたッ!

 

予想していた攻撃点から大幅にズレた事で少年を守るには、腕を犠牲にするしかない。でなければ、少年の頭蓋が弾けるッ!

 

弾ける衝撃、防弾コートのお陰で貫通はしていないが、右腕が折れた。見えないが恐らく開放骨折。柱間細胞で無理に治すと後で痛い目を見るやつだ。

 

それに、このコンディションじゃ印が結べない。最悪だ。

 

「随分頑丈な服だな。」

「防弾防刃なんでもござれの頑丈コートさ。知ってるだろ。」

「知ってはいたが、貫けると思っていた。鍛えているからな。」

「おっかねぇ女だ。」

「そう褒めるな。」

「...ヒーローさん?」

「大丈夫だ。君は助ける。」

「そう上手くいくかな!」

 

再び飛んでくる弾丸のような突撃。...仕方ない、ここで仕留める事は諦めよう。

 

「あいにくと、直線スピードに関しては俺の方が速い!」

 

左腕でしっかりと少年を抱えて、移動術で階段の窓に突っ込む。右肩で窓を破り、チャクラ放出で体勢を整えて両足でしっかりと着地する。チャクラで強化していなければ骨折コース待ったなしだな。

 

「大丈夫か?少年。」

「う、うん。」

 

影分身の俺がやってくる。それに写輪眼で情報を伝えて、分身を消す事で残りの分身たちに情報共有を起こす。

 

これで残りの子供達の避難も大丈夫なはずだ。

 

「大丈夫!落ち着いて!もうすぐ警察が来る!他のヒーローもだ!」

 

不安な表情をしてる子供達を元気付けるように笑顔で言う。大丈夫だと。

 

神郷はアセロラが守ってくれている。足の速いヒーローは今到着した。後の心配事はないだろう。フランさん達と無線で連絡を取る。

 

「5階です。大きさは170台から1センチ程度まで。潜伏されると発見はほぼ不可能でしょう。追撃は無しで。」

「敵の詳細は?」

「筋肉質の女、戦闘経験は恐らく豊富。踏み込み方から見て恐らく空手系の武術を習得してます。個性は他人に使う分には10センチ程度まで小さくしていました。そこまでしか小さくできないのか、意図的にしているのかは不明です。」

「相変わらずおっかねぇ観察眼だねぇ、大将。でも、大将の目なら追いかけられるんじゃねぇか?」

「...片腕持ってかれた。」

「マジかよ!無事なのか巡!」

「ああ、開放骨折程度で済んだ。」

「程度ってお前...」

「死ななきゃ治る。そういう体だ。」

「敵からの追撃はありそうですか?」

「分かりません。ですが向こうの個性は暗殺向き、警戒しない訳にはいきませんよ。」

 

通話を切り、駆けつけてくれたヒーローに写輪眼で戦闘情報を伝える。ついでに俺たちを見逃すような催眠も。

 

「わかった、後は俺たちに任せてくれ!」

「お願いします。」

 

各階に散っている影分身は、どうにか小さくなっていた先生方を見つけ出して用務員室へと集めていた。死傷者はいない。気を失っているだけのようだ。

その事がますますあの女の手練れっぷりが際立たせる。なんて面倒な敵だ。才賀の金で寝返ってくれないだろうか。

 

「ふぃー...」

 

とはいえ今は自分の事、まず治療をしなくてはならない。

開放骨折である今回は、単純に柱間細胞の再生力に頼る訳にはいかない。骨を抜かなければならないからだ。

 

流石にその手術の様を子供に見せる訳にはいかないため、体育倉庫の裏へと行く。そこには、銀髪少女がまだ残っていた。

 

「...子供達はいま校庭に集まってる。人数確認が始まる筈だから、行くといい。」

「やだ。ここにいる。」

「...まぁいいが、こっちを見るなよ。」

 

鏡で自身に痛覚遮断の催眠をかけ、コートの袖をまくる。右腕は血まみれだった。

 

右腕をチャクラの吸着で足に固定し、左手の先にチャクラの形態変化でピンセットを作り出して砕けた小さな骨を抜き出し、骨の位置を整える。それから柱間細胞のエネルギーを流し込む事によって骨を急速に成長させる。まだ違和感はあるが、取り敢えずはこれでいいだろう。

 

「すごい、もう治った。」

「見るなって言ったろうに。」

「だって、さっきまで痛いの我慢してた。」

「やせ我慢は男の勲章なんだ、見抜いてても言わないでくれ。」

「今度からはそうする。」

「そうしろ。」

 

なんとなくそのまま体育倉庫を背に座る。一息つきたい気分だったのだ。

 

「ねぇ。」

「なんだ?」

「人助け、できたの?」

「取り敢えず、死人は出てない。」

「人の命を助けるのが、人助けなの?」

「...お前の言う通り、本当は心まで救うのが正しいんだよ。でも、今の俺にはやる事がある。だから命しか救えてない。」

「やる事って?」

「戦う事だ。」

「なんのために?」

「...さぁな。」

「復讐のため?」

「お見通しって訳か。」

「...ごめん、嫌だった?」

「いや、事実だよ。俺は復讐の為に戦ってる。」

「でも、それだけじゃないよ。」

「...どうしてそう思う?」

「冷たくても、あったかいから。」

「...悪いな、哲学はさっぱりなんだ。」

「あ、誤魔化した。」

 

前に言われた事がある。お前の心は冷たいが、暖かいと。

その意味は俺にはイマイチわからない。復讐に生きている俺に、それ以外の何かが残っているのだろうか。

 

そんな事を考えながら、事態の収拾がつくのを待っていた。




学校にテロリストが来るとかいう厨二シチュエーション。想像した事のない奴はいない(確信)
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