【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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呼符で朕さん引けました。やったぜ。
ついでに虞美人さんと馬も一枚ずつ引けました。やったぜ。

でも項羽を引きに行くべきかクリスマスに備えるべきか超迷います。虞美人と項羽を会わせてあげたいってのに!課金力が足りないッ!

まぁ残りはたった70連、クリスマス待とうが項羽狙おうがそれで星5とか来る訳ないですけどねー。悲しい。


巡の須佐能乎

「トリガー使ってブーストすんのは、やっぱ気持ち悪いな...」

 

スタジオから3キロほど離れたビルの屋上から、男は個性を発動し続けていた。指示はないが、あれだけの人数がいるのだから一人くらいは消火に使える個性が居ると踏んでの行動だった。

 

男の個性は、火眼(ひがん)。視界内に捉えたものの温度を上げる事ができる個性だ。それを使って撮影スタジオおよびその周辺を焼け野原にした張本人でもある。

 

長年のパートナーである、小成葵(こなりあおい)を犠牲にしてだ。

 

「...あー、畜生。未来のために必要な事なのに、あいつが生きてたら良いなんて思ってやがる。何人殺したと思ってんだ、あいつだけ特別扱いは違うだろうが。」

 

愚痴りながらも、個性を使う事だけは止めはしない。男はそう訓練されている。正しき運命の為にと。

 

だが、消防車の音が聞こえ始めた辺りで違和感を覚えた。

 

この一帯は、指揮官の個性により基地局を停止されている為電話の類は使えない。通報されるにしては早すぎる。火災報知器の類とて、指揮官がそれぞれのリンクを切断しているため、ベルは鳴ってもスプリンクラーは作動せず消防への通信もできないのにだ。

誰かが直接消防署に駆け込むなんてローテクな真似をしたのだろうか。

 

まぁ、消防車が何かする前に中の奴らは死ぬだろう。最大の難敵である団扇巡とて、人間である以上一酸化炭素中毒になれば死ぬのだから。

 

「さて、俺は退散するとしますか...ッ⁉︎」

 

だが、そんな多くの絶望を作り出す邪悪の企ては、崩れ去ったのだとその瞬間理解した。

 

崩れ落ちていくスタジオの中から現れた、紅のマフラーの巨人を見た瞬間に。

 

「オイオイオイ!なんだありゃあ!聞いてねぇぞあんなもん!」

 

その一瞬、迷った。あれが単なる巨大化の個性ならば、火眼により体温を上げるだけで簡単に殺せる。

あれが精神を実体化させると言われる神郷数多の個性でも、ダメージフィードバックが起きるという情報が確かなら火眼で焼き殺せる。

だが、万が一だ。万が一あれが団扇巡の使う切り札、須佐能乎という足のない巨人を作る個性が進化したものだったのならば、攻撃はこちらの位置を知らせてしまうだけになる。

 

...決断を決めたのは、自分の攻撃を確実に成功させる為に表に出た相棒の存在だった。彼女が命を懸けているのに自分だけ命をかけないのは違う、そう男のプライドが告げたのだ。

 

「焼き殺す!」

 

そう決意したなら後は見て焼くだけ。その判断だったが

視界が焼け消える前に、巨人は轟音と共に消えたのだ。

 

「...は?」

 

その困惑は、現実が想定の斜め上をいったからだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

須佐能乎を神郷の光で強化した後、俺は須佐能乎の中に総勢32名を入れて火の海から脱出しようと試みた。

しかし、スタジオ外から須佐能乎が見えた瞬間に身体エネルギーの流れが見えたものだから、咄嗟に回避したのだ。移動術を使ってのジャンプをして。

 

その結果

 

「いやぁああああああ!高い!速い!死ぬ!」

「お母ぢゃぁああああん!」

「光が...逆流するッ!」

「あはははは!たーのしー!あはははは!死ぬー!」

「メグルさんメグルさんメグルさん!死にますよコレ!ヒロインムーブした後にコレですか!死にますよコレ!」

「一番困惑してんのは俺だよちくしょぉおおおおお!」

 

32名一斉に起きた超高速ジェットコースターである。しかもエネルギーを制御できていない超回転付きの。無事なのは催眠で寝ている女だけだろう。

 

さて、困惑している心を置いておいて、起きている現象を考えるとこれは須佐能乎のジャンプ力が強すぎたという事だろう。雲の上まで飛んでいるのだからそれは相当なものだろう。

まぁ、あの超広範囲攻撃から逃れられた事は違いない。プラス思考かつ冷静に、冷静になれ!

 

「すまん、吐く。」

「俺も無理だわ。」

「おろろろろろろ」

「人の心の中でリバースしてんじゃねぇよ!ゲロの雨を降らす巨人とかなんのコントだ!ゲロスプリンクラージャイアントか!」

「大丈夫ですよ!皆で落ちて死ぬので汚さは変わりません!」

「死なないように色々考えてんだよぉ!」

 

皆で愉快に騒いでいるが、現状ガチでやばい。須佐能乎のスペックを把握できていない以上、着地できるかどうかわからないのだ。

 

飛ぶしかない。飛ぶしかないのだが!

 

「俺の須佐能乎なんで翼すらないんだよ!飛ばせろや!」

「...諦めましょう。ふわっとしました。今から落ちますよ私たち。」

「こんな死に方できるかぁああ!」

 

落下へとエネルギーが変わる瞬間、発想が出てきた。

 

チャクラによる空中機動、あれを応用すれば落下速度を抑えるくらいはできるのではないかと。

 

「よし、やるぞ!」

 

とりあえず調整の効きやすい両手からチャクラを放出し、体勢を整えようとした結果、

 

更に回転が暴走した。

 

この須佐能乎、チャクラ放出が凄まじい。普通の体での空中機動が自動車なら、須佐能乎はジェット機だ。使ってるチャクラ量は大差ない筈なのに出力が違いすぎる。これが須佐能乎ッ!

 

「リバースやめろとか言いながら更にぶん回してどうするんですかぁあああ!」

「あはははは!ごめん私も吐く!あはははは!」

「うるせぇ!俺も吐きそうなの堪えてんだよ!我慢しろ頼むから!」

 

出力を絞り制動をかける。とりあえず回転を止めなくては。

 

「...止まった、俺の心の中は汚れたけどなんとか止まったぞ!」

「...メグルさん三半規管強すぎないですか?後、私もリバースしそうなのでなんか光とか出してください。」

「リアルに謎の光とかはねぇよ!子役としての根性でなんとかしろ頼むから!中でのゲロスプリンクラーで被害者出てんだよもう既に!」

 

チャクラ放出での飛行はだんだん慣れてきた。微量のチャクラでもホバリングできるとか俺の須佐能乎は力のブースターとしてはとんでもなく優秀なようだ。

だが、須佐能乎の体内の臭いは嗅ぎたくない。飛び散る吐瀉物によりいろんな人が被害を受けているのだ。

 

「うん、とりあえず人を下ろそう。なんか知らんが消防車とか来てるし。」

「ですねー、メグルさんの言った嘘が本当になってるあたり運が良いんですかね?」

「だよなー。いや、才賀達ならそう動くと思ったんだけどさ。だから外を任せたんだし。」

「信用してるんですね、お仲間さん達を。」

「ああ、向こうに裏切る理由はないからな。...寝てる一人以外。」

「ああ、アセロラさんが寝てるっての嘘ですよ?なんでメグルさんが知らないんですか。」

「...どーりで今になっても出てこない訳だ。何やってんだあの吸血鬼は。」

「メグルさんの指示だと思ってたんですけど。え、実はやばい感じだったんです?」

「...まぁアセロラなら死なないから大丈夫だ。」

 

アセロラの事は気がかりだが、今はこの人々を下ろす事が先決だ。心の中の換気をしたい、物理的な意味で。

 

「皆さん、降下します。」

「おう、正直欠片も意味わかんないんだが、助かるならなんでもいいさ。」

「だねー!ヒーローくんに感謝だよ!あの超回転も楽しかったし!」

「いや、あれを楽しかったって言えるお前のメンタル凄えよ、お前のゲロ俺にちょっとかかったんだぞ。」

「やっぱテレビ業界って濃い人多いですねー。」

「いや神郷、お前人のこと言えねぇだろ。」

「そりゃあ、天っ↑才↓子役ですから。濃いのは当然です。」

 

ゆっくりと降下していく。チャクラによる飛行も慣れた。とすれば後の問題は...

 

「この、広範囲個性だよな!」

 

チャクラを放出し、横に急速移動。個性の発動点は見えた。おそらくあれが温度を上げる魔眼系個性の(ヴィラン)だろう。あのビルの位置からならば、正面口、非常口を共に焼く事ができる、合理的な狙撃地点だ。

 

まぁ、だからとて見られてやるつもりなどないのだが。

 

「楽屋ビルを壁にしたところまで移動します!敵の攻撃が来てる!」

 

飛行により超速移動し、ビル陰まで隠れる。奴の個性に当たっていないが、コンクリート造りのスタジオを焼けるほどだ、人を殺すのには数秒いらないだろう。

 

まぁ、ようやく足手まといを地面に下ろす事ができた。あとは視界外からの奇襲で敵は落とせるだろう。

なにせ、今の俺は空を飛べるのだから。

 

と、甘く考えられていたのはそこまで。人を下ろしていくに連れて、須佐能乎を維持していくのが辛くなってきた。

 

「なんだ、コレッ⁉︎」

 

あまりの辛さに一旦須佐能乎を解除する。神郷の光で完成体須佐能乎となったが、まだ時限式という事か?

 

いや、細胞が壊死していくような感覚はなくなった。体は須佐能乎を受け入れている筈だ。今でも使おうと思えばすぐに使える感覚はある。

 

「メグルさん、どうしたんです?」

「須佐能乎の負荷が来た。どうにも、使い放題って訳じゃなさそうだ。」

「ま、スーパーパワーなんてそんなもんですよ、多分。初登場補正が切れたんじゃないですか?」

「いや、ゲロスプリンクラーで切れる初登場補正とか嫌すぎるだろ。販促する気ゼロか。」

 

まぁ、男の位置も顔を見た。須佐能乎がなくても倒せるだろう。

 

「ヒーローさん、皆さんを頼みます。」

「エアバスターだ。いつまでもヒーローさんとか言うな、お前もヒーローだろうが。」

「...メグルです。じゃあ改めて任せました、エアバスターさん!」

 

敵が数秒でこちらを殺せるなら、その数秒に至る前に倒してしまえばいい。最速の移動術とワイヤーアロウでの移動で視界外を大回りして倒し切る。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さて、決めたは良いが暇だねぇ。」

「驚いた、逃げてなかったんだな。」

「ああ、相方が命を懸けたからな。俺も懸ける、それだけの事だよ。」

 

こちらを見ずに返答を返す男。なぜこちらを振り向かない?幻術対策か?

 

「よし、発火した。俺の仕事は終わり!殺して良いぜ団扇巡。」

「...何をした...ッ⁉︎」

 

男が横に退くと、その先には、炎上する楽屋ビルがあった。

 

「セカンドプランって奴さ。そもそもスタジオに来ない場合も考えて、楽屋ビルを焼く計画を立てていたのさ。まぁ、ポリタンクにガソリン入れて、屋上と入り口に置いとくだけのちゃっちいプランだがな。」

「何のために?」

「お前の心を折る為に。お前が俺を優先した為に死んだ奴が出たら、傷になるだろ?その分次の奴が殺しやすくなる。お兄さん捨て駒だけど、仲間の事も考えてるのよ。」

「そうか...なら俺がやる事は決まった。」

 

男の顔面を掴み、無理やり目を合わせて自首の催眠をかけながら言う。

 

「俺は命を助けきる。その為の光は、俺の中にあるから。」

 

男を置いて一直線にスタジオへと向かう。道中無線での連絡を試したところ、フランさんと繋がった。

 

「才賀は⁉︎」

「楽屋ビルの2階です!今坊っちゃま中心に救助活動中です!」

「了解!探す手間が省けて楽で良い!」

 

須佐能乎を展開し、飛翔する。最小限の発動で、最大限の効率を。指ぶっ壊していた時の緑谷のように考えた時この須佐能乎の使い方が頭に浮かんだのだ。

 

須佐能乎を体に沿って小さく展開する事を。名付けて衣装・須佐能乎。これなら活動時間も多少マシになるだろうという思いつきだ。

だが、これは悪くない。少なくとも3キロを数秒で飛べたのだから。

 

屋上に着地してからすぐに状況を把握する。屋上は火の海だ。須佐能乎の鎧がなければ俺も焼けていただろう。消防車の放水が始まったが即時消火には至っていない。

 

「屋上に着いた!今何階まで救助終わってる⁉︎」

「一階から三階までです。ですが足を怪我した人がいて移動速度が遅くなっています。」

「わかった!俺は六階から救助者を探す!四階か五階で合流するぞ!」

「脱出方法は私の糸によるものを考えています。代案はありますか?」

「ああ、とっておきのがある!何人の救助者でも一気に運び出せるから期待していてくれ!」

「...本当に団扇様ですか?印象が大分変わりましたが。」

「まぁ、いろいろあったんだよ。そっちは?」

「...後で説明いたします。いまは救助に集中を。」

「了解!」

 

無線を切り、「ヒーローです!救助に来ました!」と大声で叫ぶ。

 

「こっちだ!」との声に従うとすぐに人は見つかった。スタッフさんたちは、わからない状況なりに人を集めてヒーロー達がすぐ救助に取りかかれるように動いてくれたようだ。ありがたい。

 

「人数確認できてますか⁉︎」

「わからない!だが白澤さんの娘さんが見つかってない事は確かだ!」

「了解!仲間と連絡取ってみます!その子の特徴は⁉︎」

「5歳でツノのある異形型の女の子だ!」

「説明が楽でありがたいですね!」

 

「フランさん聞こえますか⁉︎」

「聞こえてます、団扇様。」

「そっちで保護してる子に、ツノのある女の子は居ますか⁉︎」

「...いません!楽屋ビルにいる事は確かですか⁉︎」

「不明ですが、居ると見て動きます!才賀はどこまで来てますか⁉︎」

「4階に先行しています!ですがお坊ちゃまとジャンクドッグ様は無線を破壊されているため連絡は取れません!」

「了解です、影分身を向かわせます!」

 

影分身を作り下の階に先行させつつ次の手を考える。煙の回りはまだそこまででもない。時間的猶予はまだある。

 

だが、無線が破壊されているという事は戦闘があったという事。陰我の手の者が紛れ込んでいたのか?今は本当に味方がいて良かったと素直に思う。

 

「皆さん、一旦皆さんだけを救助します!俺の近くに集まってください!」

「だが、どうやって⁉︎」

「俺の個性、手数は多いんです!須佐能乎!」

 

須佐能乎を展開し、この場にいる8名を最小限に発動した須佐能乎の体内に入れる。この大きさでも問題はなさそうだ。むしろ人が入った方が楽まである。どういう事だ?まぁ考察は後だ。

 

「窓から飛びます!舌を噛まないように気を付けて!」

 

窓を突き破って外に出る。こういう時、人を巻き込んで飛べるってのは楽で良い。というか俺の須佐能乎、鎧武者っぽい姿の割に自由に身体の大きさ変わるなー。俺の心がそれだけぐにゃぐにゃなのか?まぁいいや。

 

消防車の裏に着地し、須佐能乎から人を放り出す。

 

「救助者です!8名、怪我なし!後方に誘導お願いします!」

「了解だ!君は⁉︎」

「また救助行ってきます!現在六階救助完了、一階から三階の救助者はまとまってます!ですがツノの女の子が確認できてません!こっちで見てませんか⁉︎」

「...いや、確認できていない!スタジオの方に紛れ込んでいる可能性はどうだ⁉︎」

「無いです!スタジオの32名の中に子供は神郷以外いませんでした!」

「...クソ、やはり中か!消防での突入は入り口の炎が消えるまで待ってくれ!梯子車の応援を要請しようにも、通じないんだ!」

「任せて下さい!これでもヒーローなんで!」

「ああ、任せた!」

 

ワイヤーアロウで距離を稼いでからの壁走りで割った窓へと再突入する。そういや割らないでも普通に開ければ良くないか?と気付いたのはこの瞬間である。やらかしたわ。

 

気を取り直してもう一回だ。

 

「ヒーローです!誰か居ませんか!」

 

反応はない。念のため各部屋の扉を開けて中を見たがツノの子は見当たらない。とりあえず6階はクリアだ。

 

5階に降りる

 

影分身が各部屋を見回っているが、ロビーに集まっている人以外逃げ遅れてる救助者は今のところいないようだ。流石この世界の住人、災害に慣れている。

 

「ここにいるので全員ですか⁉︎」

「ああ!」

「この中に、ツノのある女の子を見た人はいませんか!六階で確認できてませんでした!」

「その子なら、下に行くのを見たわ!」

「情報感謝です!」

 

「フランさん!ツノの子が下にいる可能性が高いです!見落としの可能性がある所はありませんか⁉︎」

「...だとすれば、おそらく一階です!あの戦いに巻き込まれた子がッ!」

「なんにしても、煙の多い下に行くのは危険です!フランさんはそのまま上に!救助者を脱出させてから俺が一階を探します!」

「お願いします!そろそろ煙が黒くなり始めました。急ぎましょう!」

「ええ!」

 

「それじゃあ皆さん、脱出します!舌を噛まないように口を閉じていて下さいね!」

 

再び須佐能乎を最小限の大きさで展開。救助者6名を入れて飛んで行く。

 

「ども!五階クリア!救助者6名、怪我なしです!」

「早いな!」

「皆さん避難訓練しっかりやってるみたいですから!俺は運んでるだけです!じゃ、次行ってきます!」

 

再びワイヤーアロウで窓に突撃、五階の破った窓に突っ込む。

 

いや、人を抱える事での須佐能乎の大きさの変化を考慮すると、どうしても窓をぶち破らなかくてはならないのだ。ごめんなさい、補修会社の人!でも人命優先だから許してね!

 

と、この辺りでようやく気付く、俺の心が軽い。

 

「...神郷のやつ、何かやったか?」

 

まぁ別段困る事ではないから放置しよう。今は人命救助優先だ。

陰我に対する復讐の気持ちが消えた訳ではない。それは黒く俺の心の芯にある。だがそれとは別に、それに支配されない暖かいものが心を纏っている。そんなイメージだ。

 

さて、五階は終わり。次は四階だ。と、影分身からの情報フィードバックがやってくる。四階探索終了、才賀とジャンクドッグと合流できたが、どちらも傷を負っている。二人とも根性で動いてる気がしてならない。さっさと逃して応急処置させよう。

 

だが、ツノの子はまだ見つかっていない。とすると一階か。

 

「皆さん!メグルです!安心して下さい!」

「おせぇぞ巡...お前本当に巡か?」

「確かに、なんか馬鹿っぽくなったぞ大将。」

「確かに変わったけどさ!いや馬鹿にはなってねぇよ多分!」

「あ、わかったわ。メッキが剥げたんだコイツ。」

「ま、俺は今の大将の方がらしくて良いと思うぜ。」

「お前ら後で覚えてろよ...」

 

そんな緊張感の欠片もない会話をしていると、階段からフランさんが糸でぐるぐる巻きにしたオッサンを連れて階段を登ってきた。

 

「皆さん、遅れました!」

「いえ、ジャストタイミングです!さぁ、脱出しましょう!俺の側に!」

 

「...まさか、団扇様の偽物ッ⁉︎」

「その天丼いい加減にせぇや。」

 

須佐能乎で15名のスタッフさんと才賀たちを纏めて取り込み、窓を突き破り、壁をちょっとぶっ壊して外に飛ぶ。すまぬ、人を取り込んだ事で須佐能乎が太ったのだ。

 

まぁ、細かいことは保険に入ってるだろうこのスタジオの経営者さんに任せよう、うん。

 

「救助者15名、および負傷者3名です!」

「早いな本当に!これで全員か⁉︎」

「いえ、ツノの子が一階に取り残されているっぽいです!なんでこれから行ってきます!」

「巡!落ち着いて聞いてくれ!」

「どうした才賀、今急いでんだ。」

「一階には、アセロラの奴がいる。敵との戦いの殿に残ったんだ。」

「またしても自爆特攻かッ!オーケー、救助者2名追加な!行ってくる!」

 

「待て巡!」という声を無視して、業火に燃える入り口に衣装・須佐能乎で突っ込む。

そんで一瞬で戻る。煙これ無理だ。()()()()()

 

「才賀!お前の力が要るから準備してろ!フランさんは才賀に応急処置を!俺はもう一人助っ人連れてくる!」

 

飛翔で楽屋ビルの裏側からこちらにスタッフさん達を先導しているエアバスターさんの首根っこを掴み、再び才賀の元へと戻り、応急処置の終わった才賀の首根っこを逆の手で掴み須佐能乎の中に取り込む。

 

「巡!説明くらいしろ!」

「お前、メグルか⁉︎何すんだテメェ!」

「人命救助にあなたたちの個性が要る!手伝って貰います!」

「「事後承諾か!いや手伝うけどよ!」」

「ならよし!行きますよ!」

 

今の段階での火災での救助に必要なのは、煙を抜く感知能力と、活動と治療の為の酸素、そして障害物を無視する突破力だ。

 

それは、この3人ならクリアできる!

 

「行くぞ!」

「「おう!」」

 

3人での須佐能乎で再び火災の中に突っ込む。今度は、大丈夫だ!

 

「才賀、方向!」

「まだわからん、感知距離外だ!」

「じゃあ適当に飛ぶ!」

 

煙で前は見えないが、なんとなく壁っぽいところを伝って走る。ただ走るだけでも、この須佐能乎はかなりの出力になる。そんな時、何かを感じた。

 

「「「あっちだ!」」」

 

()()()()()()()()()()()()()人の位置に向かって真っ直ぐ進む。壁を何枚かぶち抜いたが、コラテラルダメージだ。多分。

 

そうして、辿り着いたその先には

 

数多の木に串刺しにされている、何故かさらに小さくなったアセロラの姿があった。

 

「...アセロラ、生きてるな?」

「かかっ、なんと厚い信頼じゃ。まぁ妾は死ねんがの。」

「じゃあいい。ツノの生えた女の子がこの階にいるはずだ、どこにいるかわかるか?」

「ああ、その童なら妾の影の中じゃ。無事じゃよ。」

「よし、じゃあお前を連れて脱出する。」

「どうやってじゃ?流石の主様とて、こうまで串刺しにされた妾をどうできるというものでもあるまい。」

「いや、できる。かなり痛いだろうから、催眠で麻酔かけるな。...レジストするなよ?」

「...待て、木は壁深くに根を張っておる。それが13本じゃぞ⁉︎」

「大丈夫だ。」

 

「今の俺は、ちょっとばっかし強い!」

 

須佐能乎で木を掴み、手刀で切断し、アセロラの身体から抜く。これを13回行う。

以前はあまりにも木と身体が一体化しているために危険だと思いやらなかったが、今回はまだただ単に木が刺さってるだけ。じゃあ何も問題はない。

 

「おい!見た目拷問みたくなってるけど大丈夫だよな!」

「うっさいですエアバスターさん。文句があるならこれ以外の冴えた作戦を思いついてから言ってください。」

「...ねぇよ!悪かった!」

 

そうして木の抜けたアセロラを須佐能乎の中に取り込む。アセロラの影の中に救助者がいる以上、これで作戦終了だ。

 

「じゃあ、ずらかるぞ!」

「...しかし主様よ、聞かぬのか?」

「後で聞く。今は脱出が先だ。」

「随分丸くなったの、この短期間で何があったのじゃか。」

「まぁ、何が変わったって訳でもないさ。多分な。」

 

そうして、来た道をそのまま戻り外に出る。

 

そして、アセロラの影から少女を取り出してその体調を確認したのち、心配そうにしている皆に叫ぶ。

 

「救助者2名!救出完了!撮影スタジオ、楽屋ビル、共に被害者ゼロです!」

 

「うぉおおおおお!」と歓声が聞こえた。消防、先に救助された人々、野次馬連中、それぞれが叫んでいる。

 

「60人近くを一人で助けきった!凄えヒーローだよアイツは!」

「あのコスチューム、ヴィラン潰しだ!最近各地で色んな不正を暴いてる奴だよ!」

「こっち向いてー!」

「ありがとー!超回転楽しかったですよー!」

「だからなんであれを楽しめるんだお前は!」

 

歓声の声を求めて行った行為ではないが、まぁ嬉しくない訳ではない。人々のありがとうは、暖かいから。だが...

 

「一人でやった訳じゃないんだがなぁ。」

「いいじゃねぇかヒーロー。お前は誇っていいのさ、こういう時はよ!」

「俺もいるって事忘れられてねぇか?いや、やったことなんて酸素ボンベ代わりになっただけだけどよぉ。」

「いや、エアバスターさん居なかったら皆仲良くお陀仏ですからね?今日のMVPは間違いないですよ。」

「だったらそれを警察に伝えてくれ。その分俺の評価高まるから。」

「あ、警察の取り調べとかは、エアバスターさんよろしくお願いします。」

「...は?」

「俺たち無法者(イリーガル)は、逃げるとこまでが仕事なんですよ!行くぞ才賀!アセロラ!」

「ってオイ!首根っこ掴むな!」

「かかっ!まっこと愉快じゃの!今の、いや本来の主様は!」

 

その後、無線で連絡を取ったフランさんの相変わらずのドラテクにより俺たちは現場から逃亡した。神郷をついでのように持って行って。

 

「これ、子役拉致事件とかになりません?」

「大丈夫、多分な。」

「一旦才賀邸に戻るのでよろしいですね?ジャンクドッグ様とお坊っちゃまの治療、およびあるるかんの修繕を行わなくてはならないので。」

「じゃあ、話してもらうぞ。何があったのかを。いいな?アセロラ。」

「まぁ、つまらぬ話じゃがの。」

「いや、陰我とやり合った話がつまらない訳ないだろ。」

「陰我って...あの死んだ目の男が敵の親玉だってのかよ!」

「そうじゃよ。まぁ単純な話じゃ。我は神郷数多殺人計画に陰我の奴めの出てくる気配を感じ、一人で動いておったのじゃ。」

 

そうしてアセロラは語り始めた。俺の戦いの裏で起きていたもう一つの戦いの事を。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

スタジオの裏、楽屋ビルの影。3キロ離れたところからスタジオを狙う火眼の死角となるそこに陰我とアセロラと呼ばれる吸血鬼はいた。

 

「かっかっかっ!やはりここに来たか、陰我よ。」

「吸血鬼、何故私が来るとわかった?」

「勘じゃ。」

「...なるほど、勘か。」

「さて、陰我よ。我は汝に話があって来たのじゃ。」

「話?」

「この世界の、約束の物語についてじゃよ。」

 

陰我とアセロラ。超常黎明期から生きる二人の怪物は、今こうして向かい合っていた。




テンションの戻ってきたメグルくんは、書いててかなり楽しかったです。やっぱコイツにはボケとツッコミがないと!
さて、スマブラ発売前にあともう一本書けますかねー。
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