【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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スマブラやってました(言い訳不要)

いや、執筆して消してを繰り返してたらスマブラ発売されちゃいまして、気がついたらこんなに間が空いてしまいました。

感想は、とりあえずローラーと掃除機ナーフされろとしか言えません。まだVIPじゃないので人権ないので。


約束の物語

約束の物語。それは陰我に与する者たちの中でも高位に居る者しか知らないこの世界の秘中の秘。

 

この世界が、何者かによって作られた箱庭であるということ。

 

「今更なんだ、吸血鬼。私たちは彼女の遺言を信じて、約束の物語を成就させる為にイレギュラーを排除する。そこに異存はないはずだろう?黎明期を、あの地獄を経験した私たちならば。」

「いや、ある。否、生まれたというべきかの。」

 

「イレギュラーを排除し、定められた運命に従えば妾たちの世界は救われる。まるで道筋を定められたコミックのようにな。」

「道化と笑うか?吸血鬼。」

「笑えるものか。貴様の選んだ未来で、心を鋼にしながら剪定した命たちのお陰で、この世界が回っておる事は長く貴様を見ていた妾にはわかっておる。じゃがの...」

 

「もう、いいのではないか?」

「...何故だ?」

「約束の物語の主人公と見ていたオールマイトはもう力を失っておる。貴様の見たオール・フォー・ワンと相打つという未来ではなく、真の姿を晒しても尚立ち向かう勇気を持って勝利する事で。」

「...いや、それは団扇巡が運命を捻じ曲げたせいだ。オールマイトはあの場で死ぬ筈で、奴の残した巨悪の種は蔓延る筈だった。真の主人公がオールマイトだとは思えない。」

「貴様、相変わらずニュースなどは嫌っておるのか...」

「未来は全て既知だ。後追いの情報などに興味は持てない。」

「それでイレギュラーを暫く見逃すなど、笑い話でしかないな。」

「全くだ。だがそれも、団扇巡と神郷数多を殺せば収束していく。元の大きな流れの中に。」

「全く、どこまでも堕ちたのぅ。陰我よ。」

 

「御堂柱間ならどうしたかなど、貴様もう忘れておるな?」

 

その言葉への返答は、抜き打ちで放たれた木の槍、挿し木であった。

それを掴み取り愉快に「かっかっかっ!」と笑うアセロラ。

 

「この程度で気を荒立てるな戯け。妾でなければ死んでおったぞ。...いや、技量のおかしいあの連中なら躱すか。」

「何が言いたい、吸血鬼。」

「妾もあやつと会うまでは貴様の側じゃったから大きな声では言えぬが、それでも思うのじゃよ。」

 

「あの日、妾たちが殺す事を選ぶのではなく救う事を選んでおったらどうなっていたかなんて事をな。」

 

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御堂柱間、享年16歳

 

超常黎明期に生まれた、ひとりの少女。

 

その性格は一言で言うなら度を過ぎたお人好し。それは関わる皆が思う事だっただろう。何せ私とのファーストコンタクトは

 

「コラー!猫と私を轢いた事への謝罪も無しか轢き逃げ犯!猫は無事だけど私超痛いんだからね!」

 

私が見ていた死の運命に支配されていた猫を身を呈して庇うなんて事をしている場面だったのだから。

 

その猫を救おうとする気にはなれなかった。当時私は両親が/既知の/事故で死に、友人が/既知の/事件に巻き込まれ殺されていた事でわかってしまったからだ。運命は変えられないのだと。自分がどう足掻いても、未来は変わらなかった。

 

だから、猫を救ってみせたその少女は怪物に見えて、化け物に見えて

 

「猫ちゃん怖かったねー、もう大丈夫!私が来た!なんつって。」

 

それらの印象を全て吹き飛ばすあの笑顔から、彼女は絶望を吹き飛ばすヒーローに見えた。自分より一つ年上の、たった9歳の女の子でしかないというのに。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからの日々は、まるでジェットコースターのようだった。

 

「運命が分かる君と、運命を変えられる私が組めば天下無敵!一緒にヒーローやらない?いや、やろう!」

「人の死を見るこの目で、人を救えるの?」

「救えるよ!だってこの世界は、ヒーローが主役の世界なんだから!」

 

そんな説得に押し切られてから数年経った。本来の未来では、この近辺だけに絞っても死傷者は1000人以上はいた。それを時に戦い、時に諭し、時に騙し、時に仲間に引き込む事で、その命を救っていった。手が届かない所には、救った誰かの力を借りる事で。

 

そうして気付けば、その時代にそぐわないと迫害されていた異能持ちを受け入れる一つの集団ができていた。

 

「名付けて、ウルトラスーパーファンタスティックヒーロー戦隊軍団!」

「却下だラマ姉!盛りすぎだろ!あと戦隊軍団ってなんだ⁉︎」

「でも、盛らないとこれからの未来では埋没しちゃうよ!」

「とんなカオスを夢見てんだ!」

「えー、でもゆっくんも見れるじゃん、未来。じゃあ分かるでしょ?お姉ちゃんの苦悩が。」

「いや、そんな遠くとか見れねぇよ。世界中の誰がどんな行動をするのかって因果が折り重なって初めて未来って確定するんだぞ?人間の脳みそじゃ見た所だけしかわからねぇって。」

「じゃあ、私を見れば!...って私の未来は見えないんだっけ。」

「あと、最近じゃ吸血鬼さんとか剛鬼さんとかも見えにくくなってる。多分本来の歴史と大きく外れた行動を取ると見えにくくなるんだと思う。」

「うーん、どっちも(ヴィラン)ルートだったからねー、ヒーロー側にいるのは確かにおかしいか。」

「...だから、俺の予知に頼った人助けはあんまり長く続かないと思うよ。」

「大丈夫大丈夫!その時はその時!人海戦術とかでなんとかできるでしょ!皆なら協力してくれるだろうし!」

 

未来を知る今の私だから思う。これは警鐘だったのだと。

今まで子供でしかない私たちが無茶をしても生きてこられたのは私の未来予知でアドバンテージを取っていたからなのに。それなのにその事を深く考えてはいなかった。御堂柱間がいるなら大丈夫。そう思い込んでしまったから。

御堂柱間という太陽は、迫害されていた自分たち異能持ちにはあまりにも強すぎたのだ。

 

そうして、地獄がやってくる。

太陽ばかり見て見ることをやめていた、クソッタレな現実という地獄が。

 

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かつて助けた人に、石を投げられた。

かつて戦った敵が、徒党を組んで復讐にやってきた。

かつて見ていただけの人が、誰かを害する側に回っていた。

 

異能を持つ第一世代の子供達が、本格的に道を踏み外す時代がやってきたのだ。

これまで迫害されてきた子供達が、牙を剥く時代に。

その化け物を排除し、正しき人類を守ろうと子供への暴力が黙認された時代に。

 

もちろん最初は抗った。御堂柱間という太陽の元に集まった異能者たちは、人を害する事よりも守る事を選べる子供達だったから。

 

だが、そんな小さな抵抗はこの地獄の前ではあまりにも無力で、無意味だった。

 

「死ね、化け物どもが。」

 

何度そう言われたかはわからない。

 

「あんたなんか生まれて来なければよかったのよ!」

 

実の家族にそう言われ、殺されかけた。だから子供達(俺たち)は自立しなくてはならなかった。

 

次第に、後ろ暗い事に手を出すようになった仲間たちがいた。盗み、恐喝、そして殺し。

 

害意に晒された仲間たちは、害意でしかそれに向き合う事が出来なくなっていた。かつて太陽を見て正しくあろうとしていたのに、時代がそれを許さなかった。

 

そんな仲間たちを見捨てられなかったから、ラマ姉は皆を纏め直した。異能愚連隊と呼ばれる事になる集団に。

 

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異能愚連隊の発足から数年、地元のヤクザ者との付き合いを始めた事により、俺たちは家を手に入れた。食事を手に入れた。代わりに、異能を使っての人の殺し方を学ばされた。

 

吸血鬼さんや、剛鬼さん、ラマ姉たちのような力があるとみなされた人達は、抗争に駆り出され、そして成果を上げていた。

でも、力が足りなくて死んでしまう仲間は、大勢いた。家族にすら見捨てられて居場所がなくなって、藁をも掴む思いでやってきた新しい仲間たちもいたけれど。そんな仲間たちは十分な訓練が受けられないまま抗争に放り出され、死んでいった。

 

ラマ姉が昔言っていたようなヒーローなんてどこにもいなかった。

誰も俺たちを助けてなんてくれなくて、力を振るう事でしか存在価値を見出されなかった子供達、それが俺たちだった。

ラマ姉はいつしか、未来の話をする事はなくなっていった。今の世界を見て、それがどれだけ遠いものなのかわかってしまったかのように。

あの日僕らが見上げていた太陽は、すっかり翳ってしまっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「もう大丈夫!何故って?私が来た!」

 

そんな言葉を聞いたのは、どれだけ昔の事だっただろう。

ヤクザの使いっ走りに堕ちた俺たちは、それでも恵まれていた方だと分かる。街では、常にどこかで殺し合いが起きていたから。それに巻き込まれる浮浪児童の数など国が数えるのを放棄する程だ。そんな事なく仮初とはいえ安住を手に入れられていたのは俺たちの救いといえば救いだろう。

 

でも、仲間たちは減り続け、俺たちの中で最強の戦闘力を誇っていた剛鬼さえも死んだ。生き残った吸血鬼さんは、死ねなかった吸血鬼さんはひたすらに「すまぬ」と繰り返していた。

 

これで、仲間たちは残りたったの8人となってしまった。

 

そんな時ラマ姉が言った。「もう、逃げよう」と。

 

ラマ姉に別の組織から裏切りの打診があったのだそうだ。それに乗れば、磨り潰されるだけの今から抜け出せるかも知れないと。

 

ラマ姉の語った、久しぶりの夢の話だった。

 

でも、子供だけのそんな企みは大人にはお見通しで。ラマ姉と吸血鬼さんは張り付けにされて動けず、俺たちも縛られて。見せしめに若い順に拷問されながら殺されていった。

 

自分以外の皆が死んで、あれだけ頼りになった自分の異能ではもはや何も見えず、もうどうしようもないと死ぬのを覚悟したそんな時に、敵組織からの奇襲があった。

 

「財前組の討ち入りだ!御堂と吸血鬼を出せ!」

「なんでこのタイミングでッ⁉︎糞、御堂たちは出せない。逃げるぞ!敵の異能部隊に太刀打ちできる駒はねぇ!」

 

そうして放置される俺たち。

抗争の音を尻目に、ラマ姉たちに這って近づく。そして貼り付けている縄をひたすらに噛み、噛み、噛んだ。ラマ姉を助けたくて、でも意味はなかった。俺の無力さが本当に殺したいほど憎かった。

 

ラマ姉は、「死んだ、皆死んだ、私のせいで」とただひたすらに繰り返していた。ラマ姉は、俺たちの太陽は終わっていた。

 

その後、財前組の若衆に救助されるまで、ひたすらにラマ姉は呟き続けた。壊れたメトロノームのように。

 

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財前組の人達は、俺たちに優しかった。不器用だが暖かくて、それを味わえずに死んでしまった仲間たちが不憫で仕方なかった。

 

ラマ姉は、塞ぎ込んで動かない。

吸血鬼さんは、財前組の異能部隊に入りあの日の復讐の為に動いていた。

俺は、どっちつかずだった。ラマ姉の側を動けず、復讐の念も捨てきれない。

未来を見る筈の俺の個性は、とっくの昔に俺に真実を伝える事はなくなっている。その未来が見せる俺は、浮浪児童の一人としてただ絶望の中に生きているだけだった。

 

もう、限界はとっくの昔に超えていた。それでも狂わずにいられたのはきっとラマ姉を、御堂柱間という(ヒト)を助けたいという男のちっぽけなプライドからだったのだろう。

 

そんなギリギリの状況の中で、財前組の人と話したこんな会話が記憶に残っている。

 

「坊主、ここでの暮らしはどうだ?」

「あったかくて、居心地が悪い。」

「...ま、そんなもんか。」

「うん。俺たちに良くしすぎてて気持ちが悪いってのもある。」

「...まぁ、俺たちがお前たちに甘いのは単純な理由だよ。組長の息子がな、異能持ちらしいんだよ。触った物を動かなくするって力だ。」

「...それなら安心だよ。姿形が人じゃなくなる異能もあるから。剛鬼さんみたいに。」

「そんな連中は社会にゃ溶け込めねぇってか。世知辛いねぇどぉも。」

「でも、異能持ちかもしれないって疑われたら終わりだ。人は寄ってたかって殺しに来る。化け物は人じゃないから。」

「だから、お前たちはこんなとこにいるって訳か...」

 

「なぁ、提案つーか相談なんだが、俺はこの地域をちょっとでも異能持ちに優しい地域にできねぇかって考えてる。その為にゃあ何が必要だと思う?」

「...それ、小卒の奴に聞く事?」

「だってお前、頭悪くねぇだろ?」

「じゃあ一応言うけど、多分無理だぞ。」

「...言ってみろ。」

「太陽が必要だと思う。皆の心をあっためてくれる太陽が。異能持ちはずっと迫害されてきたから、陽だまりに居たいんだよ。」

「そりゃ、日陰者のヤクザにゃあ無理だわな。しゃーなし、あの提案受けるか。今は治安の安定化が最優先だ。」

「...あんた、偉いのか?」

「おう、そこそこな。」

 

その男が、財前組組長だと知るのは大分後になってからだった。ヤクザにしては優しいこの不思議な場所は、この人が作り上げていたのだろう。

 

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それから、しばらくは平穏な時間が過ぎていった。

大きな戦いもなく、安穏とした暮らしがあった。

 

そうしてラマ姉は、少しずつ正気を取り戻していった。

悪夢にうなされる事は毎日で、突発的に取り乱す事もよくあったが、少しずつご飯を食べるようになっていた。

 

長い時間がかかるとしても、ラマ姉はやり直せる。そう思った。

 

そして回復したラマ姉は、ある事を言い出した。

 

「死んだ皆のことを、伝えに行こう。皆の本当の家族に。」

 

ラマ姉はまだ傷を負うつもりで、でもそうしなければラマ姉は前に進めないのだとわかって泣きそうになった。

 

そして、電車に乗って元の街に戻ろうとした時に、出会いがあった。

 

「あら、あなた柱間ちゃん?」

「...あなたは?」

「覚えてないかー、まぁ柱間ちゃんが助けた人っていっぱいいるもんね。」

 

その女性は、隣の椅子に子供を一人乗せた主婦だった。こんな時代でも強い、母の姿だった。

 

「助けてなんてないですよ、全部無駄だったんですから。」

「...無駄じゃないわ。あの日助けてくれなきゃ私はこの子と出会えなかったんだから。」

「...え?」

「この子、私が柱間ちゃんに助けられた時にはもうお腹にいたの。貴女が助けた命は、明日に繋がっていたの。それって、とっても素敵じゃない?」

「...でも!私のやった事は全部間違ってて!私が出しゃばらなきゃ皆はまだ生きてるかも知れなくて!私は、私は!」

「こーら。」

 

取り乱したラマ姉を見て、女の人はラマ姉を優しく抱きしめた。

それがさも当然であるかのように優しく、暖かく。

 

「何があったかなんて聞かないわ。でも、女の涙をそんな簡単に見せちゃダメ。男の子が近くにいるならなおさらね。」

「私は、私は!」

「貴女が私を救ったから、私は貴女を抱きしめられる。この暖かさだけは絶対に間違いじゃないの。それだけは忘れないで。」

「...はい。」

 

そうして、昼時の人の少ない電車の中でラマ姉は一つの転機を迎えた。

俺はそれを、本当に憎む。

 

ラマ姉が助けた事で生まれたその少年は、異能持ちだった。

それを発端に災厄が始まる。この時代ではごく当たり前に起きる災厄が。

 

男がやってきた。ガラの悪い男が。携帯とラマ姉の顔を見比べながら。

 

「おい手前、異能持ちだな?」

「だったら?」

「化け物が人様の電車に乗ってんじゃねぇよ!ここは人間のための電車なんだよ!」

「貴方!異能のあるなしで人を判断するなんて、どれだけ器が小さいの!この子は、異能を人の為に使える優しい子よ!」

「うるせぇ!こいつはリストに載ってるんだよ!人死にを出した異能持ち集団の一員だってな!」

「出鱈目を言わないで!」

「そんなに庇うって事は、お前も異能持ちの仲間だな!」

「ええ!私は柱間ちゃんの味方をする、ただの主婦よ!」

「じゃあお前もだ!」

 

男が懐から何かを取り出し、女の人に突っ込む。

 

「...え?」

「まず一人目だ。次ぃ!」

 

血に濡れたナイフが、ラマ姉に向けられる。

 

だが、それがラマ姉を貫く事はなかった。

 

「...お母さん?」

 

現実を受け止め切れない男の子が、異能のトリガーを引いた。

その想いはなんのかは今となってはわからない。悲しみなのか、怒りなのか。

 

紫煙が、走る電車内に広がる。

 

「...まさかこのガキも、異能持...ち...」

 

車両にいた人が次々と倒れていった。俺も例外ではない。

例外なのは、強靭過ぎる生命力を持つラマ姉だけだった。

 

「毒、ガス!」

 

苦しみを抑えて踏みとどまるラマ姉。電車の非常停止ボタンを押そうか迷って、やめた。この状況を止める方法は一つしかないからだ。

 

「少年!異能を止め...嘘、気絶してる。」

 

薄れ行く意識の中で、それでも今だけは絶対に意識を手放してはならないという覚悟から目だけは閉じない。それが、力を持たなかった自分にできる唯一の戦いだから。

 

「この車両にいるのは20人前後、どれくらいで死ぬのかは不明。どうするか選ばなきゃ。このままじゃ、ゆっくんまで死んじゃうッ!」

 

そうして悩む事数秒、ラマ姉は昔のような暖かい目に戻って俺の目の前にやってきた。

 

「私、やっぱりヒーローには向いてなかったのかなぁ。多くの人より、大切な人を優先しちゃう。ゆっくん、聞いて。」

「なん、だよ。ラマ姉?」

「私、ゆっくんに酷いことする。でも、忘れないで。」

 

「この世界は、とある少年がヒーローになるまでの物語の世界なんだ。だから、きっと世界は救われる。だから希望を捨てないで。」

「...それ、いつの話だよッ!」

「未来の話。まぁ何百年後かはわからないんだけどね。」

 

ラマ姉は、俺の体に手を触れながら何かを流し込んできた。最後に「君に会えて良かった」と言い残しながら。

 

その痛みで、俺は気を失った。

 

そして、眼が覚めると俺の体には彼女の顔が浮かんでいた。

彼女の服だけが、近くに落ちていた。

 

わかってしまった。体に流れるエネルギーと拡張された脳が示す、世界の因果が見えるという事から逆算して。

御堂柱間という少女は、俺なんかを生かすために命を投げ捨てたのだと。

 

心が、凍った。

 

俺の為に命を捨てる意味がわからない。だが、救われたからには何かを残さなくてはならない。

 

紫煙はまだ広がっている。電車は止まっているが、これが毒ガスである事は分かっているのだろう。その毒ガスを止める方法は、俺にはある。

 

「運命が見えない。お前も、俺も、外れている。」

 

少年の首を手をかける。異能を止める方法は他にない。

 

ずっと自分だけ手を汚さないでいる事に引け目を感じていた。ラマ姉たちは、俺が手を汚さないでている事に誇りを感じていたのかもしれないが

 

それも今、終わる。

 

「何百年後かわからないなら、1000年未来を繋いでやる。いつかこの世界が救われるまで。どんなことをしてでも守り抜く。それができる力は、(ここ)にある。だから。」

 

「その礎として死ね、少年。」

 

首を折ったその感触が、俺に覚悟をくれた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

これは超常黎明期に、ごく当たりに起きた事件であった。

 

だが、本来の運命ではこの事件は発生しない筈だった。

 

運命の外側にいる者達は、運命を変えることができる。

 

ラマ姉があの女性を救わなくては、あの少年は生まれることはなかった。あの少年がいなければ、ラマ姉が命を捨てるような事は起きなかった。

 

運命から外れ、力を得た俺には分かる。

 

この世界は、外れた者たちの影響が多すぎる。修正しなくてはならない。正しき運命の先に待つ、約束の物語へと至る為に。

 

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「汝は、殺す事を選んでしまった。それが柱間の望みとは異なる事を知りながら。妾もそれに同調してしまった、それが柱間のためだと言い訳をして。じゃがの、人を殺して世界を守ったのだと、妾達は誇って言えるのか?守った先にいる子供達に。」

「さぁな。私たちが世界を守ったことなど、世に残す必要はない。」

「残るさ。妾達の投げた小さな波紋が団扇巡という少年を生み出してしまったのだから。...あやつ、妾が気まぐれに逃した子の息子で、妾たちが手心を加えた財前組に買われた事で難を逃れたのじゃぞ?なんたる奇縁かと笑ったものじゃ。」

「...そうか。」

「そうじゃ。」

 

陰我の纏う雰囲気が変わる。戦闘態勢を取ったのだ。

 

「団扇巡は俺たちが産んだモンスター、そう言いたいのか?」

「そう言うには、余りにも甘すぎるがな。」

「まぁ、いいさ。」

 

「殺せば、同じだ。」

「死なせんよ。あやつは妾の恩人じゃからな。」

 

瞬間、アセロラの立つ地面が爆ぜた。ただの脚力による高速接近である。それに対して、陰我は()()()()()()

 

「何を呑気な!」

 

鋭利な爪による斬撃が陰我を襲う。そのままではいくら不死身の柱間細胞を持つ陰我とて、ただでは済まないだろう。

 

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爪は、陰我の肌を傷つける事なく、見えない何かに阻まれて止まった。

 

「何ッ⁉︎」

「使えるな、仙術とやらは。」

 

陰我の目には、隈が現れていた。

それを知る者は言うだろう。それは自然エネルギーを体内に入れた事による仙人モードの証であると。

 

「貴様、外法に手を染めたかッ!」

「いや、あいにくとただの技術だ。」

 

陰我は、距離を取ろうとしたアセロラに対して近付き、拳を放った。

それを回避したアセロラは、またしても見えない何かに殴りつけられて吹き飛ばされた、日の当たるビル陰の外へと。

 

「これで終わりだ...ッ⁉︎」

「終わりはせん!物凄く痛いんじゃがな!」

 

本来の吸血鬼性を持つアセロラだったのなら太陽の下に出た時点で動けなくなるほどの激痛が走ったであろう。だが、アセロラは長年に渡る生きた木による拘束により、自然への慣れが生まれたのだ。

 

「一手先んじたぞ、陰我!」

 

そうして、アセロラは自身の影から得物を取り出した。

焼夷手榴弾である。

 

「焼けて爛れて、死に晒せ!」

「...チッ!」

 

爆音が鳴り響く。

 

超常黎明期からの技術革新により、瞬間的に一万度の高温すら出せるほどのものだ。木を使う陰我には効果があるだろう。

 

そう思って、以前から用意していた切り札だった。陰我という化け物を確実に殺す為の、アセロラという吸血鬼の切り札だった。

 

そしてそれは

 

「木鎧」

 

ただの木の鎧によって防ぎ切られた。

 

「...貴様、ちと冗談が過ぎるんじゃないか?」

 

残る策は一つしかない。しかし、それが通用するかどうかすら今のアセロラには分からなかった。

 

陰我(コイツ)はもはや、自分を超えた化け物だ。

 

「アセロラ、来たぞ!」

「なんだこの惨状、敵の個性か?」

 

「才賀!フランシーヌ!ジャンクドッグ!逃げてこの事を主様に伝えろ!陰我は以前と次元が違う!」

 

「であれば、する事は一つではありませんか?」

「だな。」

「全く、お人好しが多いねぇ。」

 

コイツを倒してアセロラを救う。そう決めて戦うことを選ぶ3人の人間。

 

その瞬間、背後の撮影スタジオが炎に包まれた。

 

「たく、今度はなんだ!」

 

そう意識が他所に向いた瞬間、殺せば死ぬ3人に向けて挿し木が放たれた。反射的に躱す才賀とジャンクドッグ。あるるかんで防ぐフランシーヌ。

 

「驚いた。今のを躱すか。...これは、侮っていたな」

「あるるかん!」

 

個性、糸を使いからくり人形あるるかんを操り陰我を襲うフランシーヌ。だが、その攻撃は囮。本命はあるるかんの背に隠れて攻め入る才賀とジャンクドッグだ。

 

「いかぬ!今の奴に近寄るな!」

「あいにくと、近づかねぇと何もできねぇもんでな!」

 

あるるかんの大振りの攻撃を容易く受け止める陰我。左右に分かれて攻め入る才賀とジャンクドッグを木鎧からの挿し木で迎撃する。当然のようにそれを避けようとする二人だが、見えない何かがその動きを阻んだ。

 

だがそれでもどこに障害があるのかを瞬時に判断して二人は回避行動をとった。ジャンクドッグは個性、引力を発動し自身に向かう挿し木を逸らし、才賀は障害となっている見えない何かを使って体勢を崩すことでだ。

 

だが、どちらの行動も意味は無かった。挿し木はその方向を変え、フランシーヌへと襲いかかったのだ。

 

「フラン!」

 

「御安心を!この程度なら!」

 

あるるかんと繋がる糸を切り離し回避行動を取るフランシーヌ。しかし三度挿し木は方向を変え、フランシーヌの持つ無線の親機を破壊した。

 

「これで、奴は現れない。」

「コイツ、何故無線の位置を知っていやがった⁉︎」

「...そういう個性じゃ。因果を逆算してあらゆる事を知る。奴の戦術の基本じゃよ。」

「ついでにこの厄介な人形も、壊させて貰った。」

「何を馬鹿な、あるるかんは強化カーボン製、そうやすやすは...あるるかん⁉︎」

 

あるるかんはその動きを止めていた。見た目には壊れた箇所はない。だが糸の力があるるかんに伝わらないのだ。

 

「内部構造を破壊した。人でないものの中ならば伝わるのがこの力だ。」

「さっきの見えない力か...面倒だねぇ。」

「...仕方ありません、あるるかんを失った私は足手まとい。人を呼びに行ってきます。」

「...確かに、火事が起きてんのにヒーローの到着が遅い、なんかされてんな。...頼むわフラン。流石のあいつも火攻めはどうしようもないだろ。」

「逃げるなら、貴様ら全員にしろと妾は言いたいのじゃがな。」

「そいつは無理だぜアセロラ!」

 

「仲間を見捨てて行けるかって話だよ!」

「...かかっ!黎明期より生きる吸血鬼たる妾を仲間と呼ぶか!誠に面白き者達を集めたものじゃのあやつは!」

 

痛みを堪えて立ち上がるアセロラ。

見えない力は驚異だが、やりようはあるだろう。細かい事は戦いながら考える。それが長きを戦いの中で生きた吸血鬼の戦闘スタイルだ。今更変えようはない。

 

「才賀!ジャンクドッグ!妾が前に出る、隙を見て動け!」

 

日の中より陰我へと高速で攻め入るアセロラ。吸血鬼としての身体能力は心臓を失って尚驚異的であった。

 

まずは一手目、勢いを乗せたただの拳。見えない何かに阻まれ陰我に届かなかった。だが、陰我の足元に力強く踏み止まった跡が出来た。見えない力は陰我と繋がっている。

 

二手目、ただの拳。見えない何かに阻まれ陰我に届く事はなかった。だが力は深く伝わったようだ。陰我の体は少し沈んだ。

 

三手目、ただの拳。陰我の足は地面を割り、木鎧の表面にヒビを入れた。

 

四手目、ただの拳。ようやく、陰我の体へと拳が届いた。

 

五手目、全力の拳。陰我はようやく防御行動を取った。

 

その瞬間に二人の男は動き出した。歩法によって高速接近した二人は、ガードをしようとした陰我の腕を一本ずつ弾き飛ばした。

 

そして、無防備になった所に拳が突き刺さる。陰我は吹き飛び、楽屋ビルの壁へとめり込んだ。

 

そして、そこに踏み込んだ三つの拳が突き刺さる。楽屋ビルの壁を破り、陰我は吹き飛んでいった。

 

反撃の木鎧のパージを合わせてだったが。

 

「チッ、いいの貰っちまった。」

「俺もだ。だが、まだ動けるぜ。」

「かかっ、やせ我慢も大概にせい人間。流石の陰我もあのダメージの修復には時間がかかる。その時間があれば十分殺せ...ッ⁉︎」

「いや、殺すな...ッ⁉︎」

 

3人は見た。まるで逆再生のように瞬時に治っていくその奇妙な身体を。

 

「これで終わりか?なら、次は私の番だな。」

 

かかった時間は1秒すら経っていないだろう。その時間があれば致命傷すら直してしまう。それが今の陰我だった。

 

「奴を殺すって、どうやるつもりだったんだ?アセロラさんよぉ。」

「流石に、あんなのは想定しとらん。生き物として死ぬべきじゃろ今のは。」

「心臓失くして生きてるあんたが言うなよ、それ。」

 

絶望的な戦いは、まだ始まったばかりだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それから30分程、戦いは続いた。

否、戦いとは呼べないだろう。一方はひたすら陰我の攻撃を躱していくので精一杯だったのだから。

 

それでも驚くべき事ではある。陰我自身とて想定していなかっただろう。吸血鬼たるアセロラはともかく、ただの人間である二人の男が30分もの間戦い続けていたなどという事は。

 

もちろん、二人は無傷ではない。陰我の見えない力を使っての打撃でダメージは受けている。

だが、倒れない。強大な者に対して、勝ち目もないのに戦い続ける。それはまさしく英雄の姿だった。

 

だが、体力という人間としての限界が二人を襲い、ジャンクドッグは肩に、才賀は腹に致命の傷を貰ってしまった。

 

それを見て、アセロラという吸血鬼は決めた。

 

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「才賀、ジャンクドッグ、この階に人を近付けるな。これより妾は切り札を使う。」

「んなもん、あるなら、さっさと、使え!」

「妾は、人としての妾を捨てる。見境なく人を襲い始めるじゃろうから、妾から人を逃してくれ。」

 

その目を見て、二人の男は彼女の決意の重さを知った。

 

「行くぞ才賀。覚悟を決めた奴を止めるってのは野暮だ。それに...俺たちはもう戦えねぇ。」

「クソッ!わかったぜアセロラ!思いっきり暴れやがれ!」

 

二人は、アセロラを一度見て、それから振り返らずに階段を上がっていった。

 

「さて、待っていてくれて感謝するぞ陰我よ。それがそなたにとって必要な事だとしてもな。」

「流石に気付くか、吸血鬼。」

「力のチャージ時間じゃろ?短いが、そなたが全く動かぬ時があった。その隙を突けぬように上手く立ち回られたがの。」

「その弱点はあまり知られたくはないな。今度お前を縫い止める時は口も止めることにしよう。」

「かかっ!安心せよ、陰我。語る口など、もはやなくなる。」

 

その瞬間、アセロラは心にしていた大きな鎖を外した。

自己暗示による衝動の抑制を。

 

黎明期、御堂柱間という少女に引き戻された吸血鬼は、今御堂柱間の残り火を殺すためにその力を解き放った。

 

ただ、人から血を吸い殺す鬼としての。封じていた自分の力を。

 

「...来るか、吸血鬼!」

 

返答はなかった。語る口など持ち合わせてはいないかのように。ただ最短最速で目の前の人間の血を吸うために走り出した。

 

その速度は、運命を見るだけの陰我だったなら対処しきれなかっただろう。ただ速い、それだけで数多の技術を凌駕していた。

 

感じて、躱して、殴る。

感じて、躱して、殴る。

感じて、躱して、殴る。

感じて、躱せなくて、防ぎ、殴る。

 

今の一撃で、再展開していた木鎧を砕かれた。

 

肉が露出した、血が流れてる。それは、気合いで抑制していた吸血衝動を解き放った今のアセロラにとってはご馳走だ。当然のように飛びつき、噛み付いた。

 

力が、吸われるのを感じる。

命が、吸われるのを感じる。

 

これが、吸血。超常黎明期にて、2000人以上の人間を吸い殺し、ひとりの勇者によって倒される筈だった化け物の切り札。

 

彼女と交わる事で、踏み止まれた最後の一人の力。

 

「ッ⁉︎」

 

このままでは血を吸い尽くされて殺される。そう判断した陰我は体内に木を生成し噛まれた右腕へと血の流れを止めた。

 

だが、それでも命が吸われる感覚は止まらなかった。

 

彼女の力の由来を知る者なら言うだろう。

 

吸血(エナジードレイン)。それは、命を吸う力なのだから。

 

陰我は、もはやこれまでと残った力で。右腕を切り落とそうとした。

 

だが、それより少し早く命が吸われる感覚は無くなった。

 

吸血鬼の体が、石となっていたからだ。

 

「...どういう、事だ?」

 

少しの間動きを止めた後、吸血鬼の頭を砕いて様子を見る。

 

感覚的にしかその力を扱えていない陰我には知るよしもなかった。

 

自然エネルギーを迂闊に扱うと、石となり朽ち果ててしまうのだという事を。

 

それは、陰我という化け物が自然エネルギーを扱う事に関して1000年に一度の天才である事がもたらした、あっけない幕切れだった。

 

「さて、一仕事終えてから上に行くか。」

 

そうして陰我は吸血鬼への警戒を解いた。因果の逆算により感知した中に、一階に残っている人間がいる事が分かっているからだ。

この戦闘を見られていたら厄介だ。今回の作戦では、自分はあくまでサブなのだから。

 

まぁ、通報もできない今の環境ならば大したことはできないだろうが、念のためだ。

 

近くのロッカーの中でうずくまっていたツノの生えた少女を確認し、その命を奪うために挿し木を放とうとする。

 

だが、アセロラは未だ死んではいなかった。石となり砕かれた分の力を無くしても、残った力で肉体を再構成したのだ。

 

そして吸血鬼の本能として人に襲いかかり

直前に見た少女の泣き顔を見て

張り付けられ、身動きも取れず、しかし暖かかったあの日々を思い出し

 

アセロラは、その身を少女の盾とした。

 

「...今の一瞬、俺を殺せる最後の隙だったというのにそちらを選ぶか。」

「妾も、驚いておるよ。」

 

体の中から爆ぜるように成長する挿し木を無視して、少女に笑いかける。もう大丈夫だと。

 

返答を待たずに自身の影の中に少女を入れる。これで、自分が死なない限り少女は生きていられるだろう。

 

この身体で、吸血鬼としての不死身性がどこまで残っているかは問題だが、まぁそこは気にしてもしょうがない。今アセロラに取れる少女を助ける手段はそれしかなかったのだから。

 

「さて、汝は妾を殺せるか?陰我よ。」

「さぁな、だがやるだけやるさ。」

 

そうして、13本もの命を吸い取る樹木を差し込み、完全に力を失った状態のアセロラを見て止めとなる大木を生み出そうとした時、陰我は、この階に火が回る事を知覚した。

 

それは、作戦失敗の合図でもあった。

団扇巡は、完全に死ぬ筈だったあの状況をひっくり返したのだろう。

またしても。

 

「...別のプランが必要だな。まずはなぜこの作戦が失敗したかの再検討だ。」

 

そうして、どうせもう死ぬのだからとアセロラを放置し、砕かれた壁から外へと出て行った。

 

「かかっ、あやつよほど主様の力を警戒しておるようじゃの。全く意味のない事を。主様が強いのは、ただ強いからだけではない。復讐を心に決めてもなお失われぬ、只人の優しさがあるからじゃというのに。」

 

「じゃから、主様は勝つのじゃよ。妾や貴様のような化け物に、人間として。」

 

そうして痛みに意識を支配されつつも、何故か不安はなくアセロラはただ待った。

 

助けに来るであろう、ひとりのヒーローの事を思って。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ざっとこんな感じじゃ。」

「...仙人モード相手によく生きてたな二人とも。」

「仙人モード?」

「ああ、動かない事で周囲の自然エネルギーを取り込む技術の事だ。目に隈が現れてたろ?それが証だ。」

「あの化け物、仙人だったのかよ。」

「して、主様は何故そんな力を知っておるのじゃ?」

「異世界由来の技術だからな、それ。」

「異世界より生まれ出ずる稀人、それが主様たちイレギュラーということか。」

「まぁ、そんな所だ。」

 

才賀とジャンクドッグの治療をしながらアセロラの話を反芻する。さて、神郷の光で強くなったとはいえ、仙人モードに勝てるだろうか。

陰我は、俺と正面からやり合う気は無いのだろう。恐らく、正面からやり合ったら何が起きるかわからないという事から。

 

俺はあの日の戦い以来陰我に情報が伝わる形で右目の力、天鳥船使っていない。それを警戒しているのだろう。仙人モードであっても殺されるかもしれない。そう考えて。

 

「しっかし、どうしたもんかねぇ。」

「すまぬ、主様よ。主様を惑わせるつもりはなかった。じゃが、伝えなくてはならぬと思ったのじゃ。今の主様を見ておったら。」

「ああ、陰我がただのクソ野郎じゃ無いってことは知ってる。あいつの拳は重かったから。...ま、今まで見ないようにしてたんだが。」

 

心が何故すっきりとしたかは、まぁ考えないようにしておく。膝の上に乗って寝てる馬鹿を見ていると、別にいいかなと思ったからだ。

 

「俺がどうしたもんかって言ったのは、奴の殺し方だよ。いや、死ぬのかあれ。ダメージ負って木になった所を焼くくらいしか思いつかないんだが、多分焼いても生き残るだろうし、そもそも仙人モードじゃあ木になるようなダメージにならないだろうし。」

「主様、それで良いのか?奴を殺せるかもしれぬ千載一遇のチャンスを不意にしたのじゃぞ?」

「いや、今戦ってたら俺死ぬわ。仙人で木遁てことはいざって時にゃアレが出てくる訳だろ?んなもん対処出来るか。」

「アレ?」

「でっかい木の仏像、出されたら問答無用で死ぬ。」

「...どれくらいじゃ?」

「わからん。」

「適当じゃのぉ主様の知識は。」

 

「そういや聞きそびれてたんだが、この世界が物語の世界だってのは本当か?」

「ああ、一応な。まぁ、陰我が世界観ぶっ壊したせいでわりと意味不明になってるけど。一応物語の本筋は変わってない。この世界は、出久がヒーローになる物語だよ。」

「待て!主様、なんと言った⁉︎」

「出久がヒーローになるまでの物語って事か?」

 

アセロラは、何かを思い悩んだ末に一言言い放った。

 

「約束の物語は、始まっておったのか...」

 

ぼんやりとしかなかった陰我たちへの違和感が、形になった瞬間だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

フランさんの運転する車に乗って、才賀屋敷に着いたのが午後7時

 

「あー、着いた!畜生、血を流しすぎてぼーっとしてきたぜ。」

「肉食って血作らねぇと戦えないなこれは。」

「妾もじゃ。久々に気疲れしたからドーナツが食べたくて仕方ない。」

「無事なのは、団扇様と私だけのようですね。」

「激戦だったからなー、今回は。でも陰我達に時間を与えたくない、休息は最小限にしないとな。...あれ、これ結構塩梅難しくね?」

 

クスリと皆が笑う。笑うくらいなら意見を出せや者共め。

 

「所で、私についての連絡ってしました?」

「ああ、シャットアウトされてなきゃナイトアイにメールが届いてる筈だ。後は向こうがなんとかしてくれるだろ。」

「じゃなくて、ペルソナを失ったって方の。」

「...いや、傍受されるとまずいからな。それは自分の口で伝えてくれ。」

「めんどくさいですねー。私、いざって時は自力で逃げられるからって警備軽くしてもらってたんですよ?」

「自業自得じゃねぇか。厳重に警備されてろ。」

 

そんな会話をぐだぐだしつつ屋敷の中に入る。そうして通された先では、ナイトアイ事務所の3人が紅茶を飲んでいた。

 

「あれ、ナイトアイどうしたんです?」

「いや何、今日の事件の規模を考えると休息を取るだろうと踏んでな、待ち伏せさせてもらった。」

「なるほど...じゃあ、俺はこれにて。ちょっとアレがアレしてアレなんで。」

「逃げる必要はない。私はお前を捕まえに来た訳ではないからな。」

「...じゃあどうして来たんですか、無法者の溜まり場に。」

 

「雄英に危機が迫っている。手を貸せ、無法者(イリーガル)

 

ナイトアイからその事実が伝えられた事が、俺の最後の分岐点に繋がる事件の始まりだった。




これまでに分岐点は色々ありました。でも全部のifルートとか考えるだけ頭痛いのでご想像にお任せします。
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