VIPってマジで魔境です、これを維持できる人は多分ナニカサレテル。
雄英高校文化祭襲撃計画
その始まりは、唐突なものだった。
神郷数多達のいる撮影スタジオのある都内某所、そこへの連絡が付かなくなった事という事をバブルガールがSNSで発見したのだ。
それは、高度に情報化された社会においてあってはならない事件だ。すぐに現地にいる警察へと連絡を入れるも繋がらない。
そうしてすぐに移動をしようと動き始めたナイトアイ事務所の面々は、しかし肩透かしに終わる。
警察からの連絡が入ったのだ。想定されていた殺人計画は起こり、それは既に解決したのだと。
倒壊した撮影スタジオと、炎上した楽屋ビル。それにも関わらず死傷者はゼロ。紛れ込んでいたとある
そんな連中の心当たりなど一つしかない。また奴らだ。
ため息をつきつつもとりあえず次に繋がる行動を取ろう。神郷数多を殺そうとする刺客は、未だ絶えた訳ではないのだから、護衛の人手は必要だろう。そう思い指示を出す。
「センチピーダー、目的地を変更だ。今回のような大事件を無傷で終えられたとは思えん、治療の為拠点に戻る筈だ。行き先は『才賀屋敷、だよね?』」
そして、その指示は自分のスマートフォンから流れ出た声に遮られた。
『こんにちわ、サー・ナイトアイ。わたしは今回の襲撃の指揮官だよ。』
「...なるほど、報告にあった電子機器にダイブする個性か。私の端末のジャックしていたのだな。」
『うん、動いてるヒーローの中で一番核心に近いのはあなただから、一応見てたの。で、良いこと思いついたからメッセンジャーになってもらおうかなーって。』
「
『うーん、ユーモアなんて考えた事なかったなー。』
『まぁいいや。あなたに伝えて欲しい事は単純、これから雄英の文化祭を襲撃する事にしたの。団扇巡の力を正確に測るために。』
「...雄英はヒーローの巣窟、団扇が行くとは思えないが。」
『行くよ。団扇巡は人死にを嫌うから、私の言う事には逆らわない。まぁ、それでも無視される可能性はゼロじゃないから直接言ってないんだけどね。あ、ナイトアイさんが団扇巡一党以外に伝えた場合でも起動させるから、文化祭の日よりも人死には出ないだろうけどそれでもすぐに何人かは殺せるんだよ、わたし。』
「...一体何をする気だ?」
『敵味方識別信号と、安全装置のジャック。』
「貴様、雄英の警備システムで人を殺させるつもりかッ!」
『うん。でも、団扇巡が来てくれるならそれを少し待ってあげようかなーって。見たいのはあくまで団扇巡の本当の実力であって生徒達の死体じゃないから。』
「...それを何故、私に伝えた?」
『団扇巡は、意味がわからないから。』
『今回は、確実に殺せる筈だったの。わたしは見てたから、団扇巡の実力を。でも、生き延びた。誰も死なせる事もなく。...団扇巡は、計算では計りきれない。あんなのズルいよ。』
その言葉を聞いて、ナイトアイは気付いた。
この少女は、恐れているのだ。計算を超えてくる団扇巡の底力を。
Plus Ultra というヒーローの精神を。
「いいだろう、伝えてやる。だが、団扇巡の実力を測ったところで無駄かもしれんぞ?」
『かもね。正直後は陰我をぶつけるしか手はないし。国内のほとんどの戦闘員は使い切ったからねー。後は小粒ばっかりだよ。』
「そういう事ではない。」
「団扇は、お前が測定した強さよりも強くなる。」
『...そうかもね。団扇巡のソレ、その強くなるの原因を解明しないと、陰我ですら負けるかもしれない。 』
「こんな単純な事がわからないとは、陰我の組織もたかが知れているな。」
『答えがわかってるなら教えてほしいものだけど、まぁいいや。じゃあ、伝えたから。』
その言葉を最後に画面から少女の姿は消えた。
「どうするんですか、ナイトアイ!雄英になんとかして伝えないと!」
「雄英の警備システムを掌握するような奴相手にか?下手な行動は下策だ。この会話とて聞かれているに違いない。...癪だが、向こうの提案に乗るしかないようだな。」
などと言いつつ筆談でバブルガールに合流地点と雄英に偽名で手紙を出せとの命令を伝えるあたり、サー・ナイトアイはただでは転ばない。
「「了解です、ナイトアイ。」」
そうして少しの寄り道の後、才賀屋敷へと一行は向かったのだった。
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「とりあえず、こんな所だ。」
筆談を交えての会話はそんな内容だった。いや、伝えるなって言われてからさらっと連絡入れるとかこの人流石だよ本当に。
「...雄英の警備システムってアレ相当ですよ?警備用のエグゼキューターとかヤベーの知ってますから。なんでそれを俺が倒せる前提になってるんですか、2割くらいで死にますよ俺。」
「8割勝てるのか...」
「まぁ今の俺なら火力の確保は出来ますからね、どっかの誰かのお陰で。」
「そうですね!どっかの誰かさんには感謝しないといけませんね!メグルさん!」
「ホントニナー。」
「棒読みッ⁉︎」
「貴様ら、唐突に漫才を始めるな。」
「いや、出来る事はもう決まってますしいいんじゃないですか?」
「ほう、言ってみろ。」
「俺とナイトアイ事務所の誰かが雄英に行って、残りは神郷の護衛でしょう?現状俺たちの中で動けるのは俺だけ、戦えるのも俺だけです。護衛は必要でしょう。神郷の近くから護衛を剥ぐのが目的かも知れないんですから。」
「...随分と慣れているな、無法者。」
「いやー、生傷の絶えない旅路だったもので。」
無言で頷く才賀とジャンクドッグ。近接担当は無茶したものだ。いや、流れ弾による傷とか多いのよ。
「それでは、バブルガールとセンチピーダーを護衛に置いておこう。この家の警備と合わせれば敵襲があっても対処は可能だろう。明日早朝からはエンデヴァー事務所から増援が来る。何も問題はない。」
「じゃあ、雄英に行くのは俺とナイトアイだけって事ですか...大丈夫です?戦力的に。」
「現地で協力を取り付ければ問題はあるまい。雄英のヒーローは優秀だ。」
確かにそうだ。なら、急いで行く必要は無い。
とすると、一つ策が思いついた。
人の集まる文化祭のパニックに警備ロボが暴れるよりも、格段に安全になる作戦を。
「...なら、ちょっと俺は別行動していいですか?」
「ふむ、なにか用事でもあるのか?」
「ちょっと紅茶が恋しくなりまして。」
筆談で理由を書けと言うナイトアイ、それに少しダーティな策があるとだけ返す。もっと詳しく言えと目で訴えてくるが、多分ナイトアイでも止めにくるだろうからここは言わないでおく。
「...仕方ない、合流はどうする?」
「現地でお願いします。じゃあ、急ぎの策なんで行きましょう。」
「...貴様、休息は取ったのか?」
「新幹線での移動中に十分取れますよ。」
そうして、俺とナイトアイは深夜の自由席で新幹線に乗り、雄英へと向かうのだった。
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目を閉じながらも周囲を警戒しつつ、体を休める。時々目を開けて広範囲個性の攻撃がないかを確かめる。これを繰り返す。
「貴様、休めていないではないか。」
「死なせるよりマシです。ま、これくらいで戦闘に支障が出るような柔な鍛え方はしてないのでご安心を。」
「まったく、厄介なものだ。」
しばらくの間沈黙が続く。ナイトアイは、何かを言いあぐねているようだった。
「どうかしたんですか?」
「...ああ、どうかしている。少し不正を考えていた。」
「バレなきゃ不正じゃないってのはよく言われる話ですよ?」
「貴様の事だ。」
「書類を改竄し、貴様が10月時点で私の事務所のサイドキックである事にする事で、貴様の犯した違法活動をどうにか出来ないかと考えた。」
「...流石に無理ですよ。死柄木の拡散させた動画は、致命傷すぎる。」
「そうだ、だがそれすらもこちらの命令による潜入捜査とする事で誤魔化す事は不可能ではない。」
「代わりに、ナイトアイが首を括る事になる。馬鹿らしい話ですね。」
「本当にな。」
「俺は別にいいんですよ。ヒーローにはなれなくても。」
「...団扇?」
「俺の夢と、陰我の存在。その二つを天秤にかけた時、陰我の存在の方が重くなっていたんです。奴を止めないと、これからも幾億もの地獄が作られる。それは、止めなきゃならない。絶対の絶対に。」
「それは、何のためにだ?」
「復讐のためと、あとはなんとなくです。」
「...なんとなくか。そんな理由で人を殺しに行くのか、貴様は。」
「いや、俺もコレがなんなのかは良く分かってないんですよ。理屈をつけて考えるものじゃないって思ってたので。...思い出したのは、ついさっきなんですけど。」
「神郷数多から託された光は、それほど大きかったのか?」
「ええ、心の闇をすっぽり覆ってくれるくらいには。お陰で俺はいつもの俺に逆戻りですよ。」
神郷の献身は、俺の光を思い出させてくれた。それは本当に、奇跡のような巡り合わせなのだろう。
だから俺は、もう迷わない。
「さて、もうすぐ名古屋だ。雄英で待っているぞ、団扇。」
「はい、ナイトアイも気を付けて。」
とりあえず時間を潰さなくてはならない、久々のラブホだろう。
「はぁ、なんかぼっちラブホに慣れてる高校生とか軽く終わってるだろコレ。」
今更ながらに思う事である。畜生。
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そうして午前7時、とある喫茶店に赴く。どちらかといえばコーヒー派の俺だが、まぁたまには紅茶を飲んでみてもいいだろう。
「これが、ゴールドティップスインペリアル!何という芳醇な香りだ!」
「違いがわかるジェントルって素敵!好きよ!」
「すいませんマスター、俺もそのゴールドティップスインペリアルってのを一杯。あとなんか軽く食えるものを。」
「はいよ。」
その声に、ギギギっと振り返る不審者ルックの二人。変装も何もしていない俺は軽く手を上げて挨拶をする。
今回の作戦を思いついたきっかけである、ジェントル・クリミナルとラブラバのお二人であった。
「ちょっと話があって、ここまで来ました。」
「まさか、私の完璧な計画が漏れていたのかッ⁉︎」
「いや、紅茶好きならこの店に来るだろうなーっていう逆算ですよ。先輩に聞いただけですけど、この店いい店らしいですから。」
まぁ半分嘘なのだがいいだろう。実際丸藤先輩に美味い紅茶を出す喫茶店があると聞いたのは本当の事なのだし。
この二人がここに来ているのは、原作知識にて知っていた。たまには役に立つあたり思い出しておいて良かったと思う次第である。
「はいよ。」
「頂きます。」
トーストセットとお高い紅茶が出される。今回は時間があるのでゆっくりと食べることにしよう。
「さて、団扇くん。何故私たちに会いに来たのかね?」
余裕を取り繕ったジェントルが言う。前会った時は気付かなかったが、この人結構動揺してるわ。声が若干震えてる。
「ちょっと手伝いに来たんですよ。まぁ、前の恩返しって事で。」
「軽いな⁉︎」
「ジェントル、この子本当に団扇くん⁉︎前会った時とは別人よ⁉︎」
「まぁまぁ細かいことは気にせずに、せっかくの紅茶が冷めてしまいますから。」
「...確かにそうだ、今はゴールドティップスインペリアルを楽しもう。」
「切り替えが早いジェントル、素敵だわ!」
「相変わらず楽しそうですねー、お二人さん。」
そうして95分、だらだらと時間を過ごした。雄英文化祭の開始まで、あと25分。
事情を言えない以上、こんな形での協力しかできないがまぁ大丈夫だろう、出る時間を数秒ズラすだけでも計画は成るのだから。
「さて、行きましょうジェントル、ラブラバさん。」
「何故君が仕切っているのかわからんが、確かに時間を過ぎている。行くとしよう。」
「ジェントルの怪傑浪漫が幕を開けるのね!」
そうして3人で喫茶店を出て
運命に修正されるかのように先頭を歩くジェントルが、角を
「おっと!」
「あ、すみません...え?」
「...よっ、出久。」
瞬間、出久は俺から目を逸らした。写輪眼による幻術を警戒してのことだろう。判断が早い。まさか5分もズラしたのにぶつかるとは思わなかった。
そしてその原因が、すぐにわかった。意図せずに閉じられる写輪眼と、出久の後ろから飛んでくる捕縛布の存在によって。
反射的に左手で布を掴み取り捕縛されるのを防ぐ。あのコースは一瞬で戦闘不能になるところだった。危ねぇ。
「...随分と、やるようになったな団扇。」
「どうもです、相澤先生。引率大変ですね。」
「プロヒーロー、イレイザーヘッドッ⁉︎」
「どうするの⁉︎大物よ⁉︎」
「緑谷、とりあえずそこの二人を抑えておけ。恐らく団扇の協力者だ。俺はこの馬鹿を簀巻きにして連れて帰る。」
「あ、そこ説得するとか言わないんですね。」
「説得は捕まえてからすれば良い。」
「合理的ですねッ!」
掴んだ半分の捕縛布を使って出久の足を絡め取ろうとする。だが相澤先生にそれは読まれており、布を首から外したわませる事によりその軌道は逸れていった。
「ちょっと団扇くん!あなたのせいで見つかったじゃない!」
「すいません、ちょっと予想外でしたね。」
「ハッハッハッ、何、紳士は慌てない。団扇巡くん、イレイザーヘッドは頼んだよ。」
「紳士...ジェントル・クリミナル!雄英に何のようだ!」
「...いや、ボロ出すぎだろ俺ら。」
「そのようだ。だがまだ致命的ではない!ラブラバ、カメラを回せ!」
ぶぁさっと羽織っていた不審者コートを放り投げ、威風堂々と名乗りを上げようとするジェントル。
その隙に動き出す俺と相澤先生。互いの持った捕縛布を引きながら接近し、膝打ちを合わせる。この動きだけでわかる。相澤先生は、俺より強い。正面からでは負けるだろう。左手を捕縛布から離し、向こうに本来の動きをされたら敗色濃厚だろう。
『
「そんな事させない!」
そうしてジェントルの張った
幸いなのは、これまで戦い続けた事により数多くの技を盗み取れた事だろう。その技全てが見切られたら俺の勝ち目はなくなる。
さて、思考を止めてはいけない。考え続けて、戦おう。
「緑谷!」
「大丈夫です!これから奴を追跡します!」
「通報してからだ!」
「...すいません、携帯忘れました!」
「チッ、仕方ない。俺の携帯でッ⁉︎」
まずはボクシングスタイル。左手のジャブで牽制し、両手を離させない。通報の時点で伝えられたと判断されるかもしれない以上、止めざるを得ない。
「やらせるわけにはいかない、事情があるんですよ!」
「どんな事情か話せ。まずはそれからだ。」
「それが出来たら苦労はしてないんですよ!」
捕縛布を握り合い、距離を測り合う俺と相澤先生。ボクシングの距離で居られるのは、この捕縛布が操られるまでだろう。写輪眼が無い今、未来予知じみた先読みで布を操り返すことはできない。先手を取る権利は向こうにある。奇襲された時点で逃げたかったよ本当に。
出久は、俺との戦いに加勢するか一瞬迷った後、ジェントルを追いかけていった。
ジェントルを雄英に忍び込ませて文化祭を中止にさせる作戦は、止められてしまうだろう。なにせ、あいつはジェントルより強いからだ。
とすれば、文化祭を中止させる為にはどうするべきかは目の前にある。プロヒーローイレイザーヘッドが無法者に倒されたならば、警戒のため中止になる可能性は十分にある。
やる理由はこじつけられた。後は戦うだけだ。
「悪いんですけど通報はさせません。ここで倒れて貰います。」
「...その理由は言えないのか?」
「命を守る為です。それ以上は。」
「...無法者も大変だな。」
「本当ですよ。でも、それしかないからやるしかない。それだけです。」
捕縛布を動かされる。足を搦めとる動きだ。
スタイルを変える。右足を前に出し、力を生み出す為に強く踏み込む。八極拳の基本、震脚であり、そこから生まれる力を十全に利用した背中からの体当たり、鉄山靠である。
ボクシングスタイルから唐突に出てきた中国拳法に相澤先生は対処が遅れ、背後に跳びのき力を逃すことしか出来ていなかった。
それはつまり、捕縛布のコントロールをある程度手放したという事だ。
武器を奪い取るチャンスである。当然左手で布を引っ張り抜く。
「これで、こっちが3mくらい。先は長いですねー。」
「いや」
相澤先生は掴まれている側とは逆の捕縛布を投げつけ、俺の左手に巻きつけてきた。不味い!
当然引っ張られて崩れた体勢に、相澤先生の拳が胸を撃ち抜く。
その鋭い痛みに、左手の握力を維持することを一瞬忘れ、捕縛布は奪い取られた。最悪だ。
胸の痛みから思わず膝をつく。肺に刺さってるか?
「この手応え、骨だけか。」
「いたいけな少年の骨折っといてそれですか。怖いですね、ヒーローって。」
「黙れ
「いえ、まだ戦えますよ。俺は。」
幸いにも、当たったのは胸。柱間細胞が最も強く侵食しているところだ。そして柱間細胞は異形型の個性なのだろう、相澤先生に見られていても再生は始まった。嬉しい誤算だ。
この分なら、気合いで抑えている侵食を早めれば戦いになるかもしれない。
足りない経験と技量は、補えばいい。それが地獄への片道切符だとしても。
「まだやるか?団扇。」
「ええ、もう治りましたから。」
その言葉と共に踏み込み、右ストレートを放つ。張られた捕縛布に防がれ衝撃は伝わらない。それどころか早業で右腕を縛られ、引っ張られ再び胸に膝を貰った。だが、意識していれば耐えられる。そのダメージを無視して頭突きを叩き込む。自爆特攻じみた攻撃だが、それでもダメージは通った。
「...正気かお前。」
「さぁ?証明できるものはありませんねー。」
軽口を叩きながらも思考は止めない。ボクシングと八極拳を軸にして、攻め入り、才賀の形意拳で虚を突いて打ち崩す。それがか細い可能性だとしても。
抹消ヒーローイレイザーヘッド。尊敬すべきヒーローが、その実力のまま高すぎる壁となり目の前に立ち塞がって居た。
新しい力を得たぜ!とは言ってもまだ無双はさせません。タイマンでの相澤先生はどう倒せばいいのかわからないレベルの強キャラですねー。