【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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雄英高校1年A組

震脚、鉄山靠。その動きから派生させて後ろ回し蹴り。

スタイル変更からの高速接近アッパー。

さらにスタイル変更からの震脚、肘撃。

 

開拳、フェイントからのワンツー、小手返しなどの関節技。

 

手持ちで使える技は形意拳以外だいたい試した。だが、その全てを捕縛布により払いのけられ、返され、あらゆる場所に反撃を貰った。

 

だが、まだ終わらない。柱間細胞は俺を戦う為の体に治し、作り変えてくれる。

 

「随分なタフさだな、団扇。」

「ちょっと改造手術をしたもので。」

「...確かに、いつかの怪人じみた生命力だな。」

「いや、そこは否定してくださいよ。」

「お前には致命傷一歩先までダメージを与えた。なのに動いてくるってのは何かカラクリがある事の証明だ。それが何かは、まだわからんがな。」

「うわー、この人ガチに殺す気ですよ。いいんですか先生として。」

「教師だからだ。」

 

「お前を止めるさ、お前が取り返しのつかない罪を犯す前に。」

 

その言葉は確かに俺を思っての言葉で、その思いは強く優しく、重かった。だからつい、こんな言葉が出てしまったのだろう。

 

「...ありがとうございます、相澤先生。」

 

「でも、俺は戦います。守りたいのは、命だから。」

 

ゴーグルのせいで目が見えないが、相澤先生は俺の目を見ていた。なんとなく、そんな気がした。

 

「さて、続きしましょうか。お互い、会話で隙ができるような柔な生き方してませんし。力で決着つけましょう。」

「...そうだな。その方が合理的だ。」

 

飛んでくる捕縛布。回避する俺。そうして徐々に相澤先生の距離にされつつも、ある場所へと向かう。この状況を打開する為の切り札のある位置に。

 

「これで、どうだ!」

 

地面に落ちていたジェントルの着ていた不審者コートを相澤先生に向けて蹴り上げる。これで、一瞬目が切れる。当然のごとくコートは払いのけられてしまうが、その一瞬があれば良い!

 

「ッ⁉︎」

 

流石の相澤先生とて、視界外からのコレは避けられまい。

俺の持っている唯一の武装、ワイヤーアロウによる攻撃は。

狙いは両腕、捕縛布さえ使えなくさせれば後はどうにでもなる。

 

だが、その判断は間違っていた。狙うなら心臓か頭にするべきだったのかもしれない。まぁ結果は変わらないかもしれないが。

 

相澤先生は、高速で飛んでくるワイヤーアロウをその捕縛布で絡めとり、受け流した。見えてもいないアロウを経験だけで対処したのだ。

 

これが、雄英プロヒーローの壁。ちょっと高すぎて困るんだが。

 

「終わりか?団扇。」

 

アロウをしっかりと捕縛布で確保した相澤先生は、冷たい声で言い放った。

 

「最後の一手なら、今から打ちますよ!」

 

アロウの巻き取り機能を全開にして、その勢いのまま突っ込む。だが、相澤先生はアロウを手放すことはしなかった。そりゃそうだろう。どんなに速くても、来るところがわかっているならばカウンターは容易なのだから。

 

だが、相澤先生を倒す一撃を生む為には、初速が必要だったのだ。見切られて、ガードされてもそれを上から崩す拳打の為に。

 

拳の距離でアロウの巻き取りを止め、構える。そして特殊な歩法により速度を殺さずに力を込めた一撃を放つ。

 

形意拳の技、一定の速度で近づく事で相手の目を誤魔化す奇なる拳、五行拳の一つ、崩拳である。

 

ずっと共に戦ってきた仲間の技は、ボクシングスタイル同様の高い精度を誇る。だが、相澤先生は崩拳を知っていたのか予想していたのか、拳の打ち込まれる胴をしっかりとガードしていた。

 

ならば連撃で落とす。歩法で速度を殺さずに近づき、何度も打つ。相澤先生は、それを完璧に見切ってガードし続けていた。

 

だが、形意拳の拳は重い。しかもこちらには砂鉄付きグローブがある。相澤先生のヒーロースーツがどれだけ頑丈でも、いずれはガードしている腕が折れる。

 

そして、両腕を折ったという手ごたえがあった瞬間だった。

 

ワイヤーアロウの拘束が解除され、俺の首に捕縛布が巻かれたのは。

 

「どんな、奇術ッ⁉︎」

「お前が前に出てくる力を、利用したまでだ。」

「だが、締める腕は折りましたよ!」

「だから、足を使う。」

 

相澤先生は、俺の拳の力を受ける事で拳のレンジから離れ、首を締める力を強くした。

どんなに体が再生しても、コレは防ぎようがない。人である限り。

 

最悪なのは、連撃という無酸素運動中に締められた事だろう。俺の体にある残りの酸素は少ない。

 

だが、一手なら動ける。

 

踏み込み、打ち込む。相澤先生も終わったと思ったのかガードはしていなかった。いや、首を締めるのに動く足を使っているので出来なかったというのが正しいかもしれない。

 

俺の一撃は相澤先生の顎を揺らし、相澤先生の絞め技は俺の意識を落とした。

 

喫茶店前での激闘の結果は、相打ちだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目が覚めたとき、俺は仰向けに倒れていた。どこか懐かしい感じの天井は、朝紅茶を頂いた喫茶店のものだろう。震脚とかで結構な音出してたし、見ていたのだろう。

 

気合いを入れて起き上がろうとするも、力が入らない。コレは、今襲われたら死ぬなとなんとなく思った。

 

「起きたか、団扇。」

「相澤先生、敵は周囲に居ますか?」

「開口一番にそれか。まったく嫌な成長をしたな。」

「いや、相澤先生は腕やってて俺はこのザマとか、襲撃する側から見たらまな板の上の鯉ですよ。なんで死んでないんですか俺たち。」

「さぁな、運がいいんだろう。」

 

相澤先生は、壁もたれかかって動かないでいた。動けないのかもしれない。

 

「今、何時です?」

「9時35分だ。」

「じゃあ、もう文化祭始まってますね。」

「ああ、そうだな。」

 

沈黙が走る。お互いに探りあっているのだろう。ガチの殺し合い一歩手前の事をしていたのだから。

そうして、しばらくしてから相澤先生はポツリと話し始めた。

 

「お前のコートのポケットから、拳銃を見つけた。」

「ああ、すいません。銃刀法違反なのはわかってんですけど切り札は持っておきたいんですよ。とっておきたいとっておきって奴です。」

「何故、俺に使わなかった?」

「相澤先生は、敵じゃありませんから。」

 

その言葉になにかを納得したのか、相澤先生から毒気が抜けた。

 

「なぁ、団扇。お前が文化祭を潰そうとする理由は、話せないのか?」

「はい。どこに耳があるかわかりませんから。今のタイミングで話すと、死人が出ます。」

「ま、話した所で信じられるかは別だがな、無法者。」

「今回の話持ってきたのナイトアイですよ?信じてくださいよ、ナイトアイを。」

「その言葉自体が信じられん。だったら何故ナイトアイから連絡が来ていない。」

「...あー、駄目です言えません。多分言ったら相澤先生なら気付くんで。そしたら起動されます。このネット社会、どこにいても奴の目はありますからね。」

「どんな凄腕ハッカーを相手にしてるんだお前は。」

「ガチにヤベーのがいるんですよ、敵に。」

 

会話をしていたら、体が動くようになってきた。

相澤先生も、そのようだった。

 

両腕折った相澤先生に酸欠で満身創痍の俺。

第2ラウンドが始まるかと思った所で、携帯のバイブ音が鳴り響いた。

 

「俺の携帯みたいです、出て良いですか?」

「ああ、好きにしろ。」

 

着信ディスプレイには、あの少女が笑っている姿があった。

コイツ、やっぱ俺の携帯ハッキングしてやがったか。

 

『余計な事言ったら、分かるよね?』

「わかってるよ、畜生。」

 

そうして、少女の監視のもと通話に出る。

ディスプレイに映っていた名前は、根津校長のものだった。

 

「もしもし?」

『やぁ、団扇くん!久しぶりだね!早速で悪いんだけど、相澤先生に代わってくれるかい?』

「いや、じゃあ何で俺にかけたんですか。」

『相澤先生は今、腕を壊しているんだろう?じゃなかったらすぐに連絡が来るはずだからね!』

「じゃあ、スピーカーにしますね。変な事は言わないようにしてくださいよ?喫茶店のマスターが聞いているんですから。」

 

校長には、これで伝わるだろう。俺に連絡が来たという事は、ある程度の情報を得ているという事。その出所はナイトアイだろう。携帯を使えない状況でよくもまぁ伝えられたものだ。

 

『やぁ、相澤くん。随分とやられたようだね!』

「ええ、不覚をとりました。この一月足らずで、かなり強くなっていました。団扇は。」

『それは、良かったんじゃないかな!団扇くんはまだ、ウチの生徒なんだから!』

「あのー、なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がしたんですが。」

「あのな団扇、辞めるって電話で伝えただけで学校を辞めれる訳ないだろ。お前みたいなケースは特に。」

「...あ。」

 

すっかり忘れていた。俺は未成年(ヴィラン)保護入学制度なんてものを適用されているとんでもない爆弾だったという事を。

 

『ハハッ!気付いてなかったようだね!それじゃあ、団扇くんの正式な退学手続きの為にウチの文化祭に招待するよ!文化祭を見たら気が変わるかもしれないからね!』

「じゃあホームセンター側の喫茶店に車よこしてくださいな。俺と相澤先生と、あと出久が行くので。」

『わかったのさ!それじゃあ雄英で、待っているよ!』

 

そうして通話は切れた。相澤先生はどこか納得していないようだったが、俺が雄英に行く事には賛成のようだった。

 

「まぁ、思ったより拗れていない今のお前なら大丈夫か?」

「色々あってこんな感じに戻れたんですよ。巡り合わせって奴です。」

 

そんな会話をしていると、喫茶店のドアが開いた。出久とエクトプラズム先生だ。

 

「すいません、店の前に落ちていたビニール袋探しているんですけ...どッ⁉︎団扇くん⁉︎相澤先生⁉︎」

「おーっす出久。さっきぶり。」

「なんか凄いナチュラルにいるね、団扇くん。」

「相澤先生にボコられたけどな。いや捕縛布での首締めは死ぬかと思ったよマジで。」

「...ああ、だから団扇くんそんなぐったりしてるんだ。」

「てな訳で、今襲われたら出久とエクトプラズム先生以外戦えないから、色々頼むわ。」

「...なんか団扇くん、いつも通りすぎてびっくりなんだけど。」

「そりゃ俺は俺だし、変われねぇよ。」

「...なら、安心かな。でも言わせて。」

 

出久は、笑っていた。だが、プレッシャーが凄い。まぁ、怒られる心当たりはあるので黙っていよう。

 

「心配した。凄く。」

「...心配かけて、悪かった。」

「じゃあ皆に連絡する...って携帯忘れてたんだった。」

「ああ、それなら頼みがある。」

「...何?」

「俺が来たって事、黙っててくれ。俺が雄英に来たのは、俺の敵の目論見を挫く為であって、あの場所に戻る為じゃないんだ。文化祭を中止にしようとジェントルに手を貸したのもその一環だな。」

「皆に会う気は無いの?」

「ああ。もう、あの場所には帰れないし、帰るつもりもないから。」

「...わかった、でも条件が一つだけある。」

「...できる範囲で頼むわ。」

「僕たちの、1-Aのステージを見に来て。皆の言いたいことは全部、そこで伝えるから。」

「...わかった。」

 

そうして、プレゼントマイクの車がやってくるまで相澤先生と出久の治療をしつつ、適当な会話をしていた。お互いに積もる話もあるのだろうが、俺と出久はなんとなく大事な話をするよりも、適当な会話をしていたいと思ったのだ。

 

友人としての、適当な会話を。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「1-Aのステージまで微妙に時間ないぜ!走れよリスナー!」

「はい、ありがとうございます!プレゼントマイク先生!」

 

出久は、正面口にいた青山とともに走り去っていった。青山は、後部座席にいた俺には気付かなかったようだ。

 

「さて、俺は職員寮に寄って通形とエリちゃんを連れて行く。」

「じゃあ俺はトイレにでも。」

「お前も来い。」

「...いや、縛るのはやめて下さいよ、ちょっとしたジョークですから。」

 

正直いつどこで起動させられるかわかったもんじゃないので、ステージは影分身で見に行くつもりだったのだ。だがその目論見は潰えた。相澤先生の抹消エグすぎるわ。

 

「ハハッ!久々に見ても団扇は大丈夫そうで安心したぜ!じゃあ俺は車置いてくるわ。団扇、いい文化祭を!」

 

相澤先生に胴を捕縛布で縛られながら職員寮に向かう。なんでも、昨今の(ヴィラン)隆盛の世情を鑑みて、昨日のうちにエリちゃんの移動を行なっていたのだと。エリちゃんはこれから雄英に住むとの事なのでその予行練習も兼ねているのだとか。

 

「相澤先生、縛られたまま歩くのめちゃくちゃ目立ってるんですが。」

「縛らないと逃げるだろ、お前。」

「まぁ、そうなんですけど。」

 

そうして「あれって団扇巡?」「自警団(ヴィジランテ)がなんで学校に?」とか色々言われながら通形先輩たちと合流し、ステージに向かう。

 

「ハハッ!団扇くんはヤンチャしたからね!しばらく縛られてなよ!」

「この人、ヤンチャしたの?」

「ああ、たくさん悪いことをしたんだ。だから相澤先生に縛られてるってわけ。エリちゃんも悪い事したらこうなるから気をつけるんだよ。」

「そうなんだ。」

「そうなのさ。」

「エリちゃんは良い子だから大丈夫さ!さぁ行こう!緑谷くん達のステージに!」

 

文化祭でも相変わらずの相澤先生、休学中の通形先輩、捕縛布に縛られている謎の黒コートの俺、可愛い幼女のエリちゃん。なんだこの色物パーティ。遠巻きにめちゃくちゃ見られたぞ。不安だ。SNSとかにアップされていないだろうか。

 

「団扇くん⁉︎」

「あ、丸藤先輩。どもです。」

「君、学校に来ないでなにしているんだ!というか何故縛られているんだ!」

「いやー、ちょっと色々ありましてね。今は逃げられないように連行されてる最中です。」

「...とりあえず、皆に君が無事だと連絡を入れる。良いな?」

「はい。ご心配をおかけしました。」

 

そんな話をしていたら、「丸藤、売り子手伝って!」と声がした。丸藤先輩のクラスは屋台系の出し物のようだ。

 

「...今度からは、きちんとメッセージに返信してくれ。不安だったんだ、皆も、私も。」

「本当に、ご心配をおかけしました。」

「わかっているなら良い。それじゃあ、また。」

「...さようなら、丸藤先輩。」

 

丸藤先輩は、クラスの仲間の元へと向かっていった。

俺の中の“なんとなく”の思いが、俺にそれを見ろと言っている。

 

「団扇くん、さようならなんだね。」

「できない約束は、したくありませんから。」

 

陰我を殺すには、俺の命全てを賭してなお足りるかどうかわからない。そして、陰我を殺せたとしても俺はもう皆に会う事は出来なくなる。

 

勝っても負けても、殺しても殺されても、多分もう結末は変わらないのだ。約束の物語はもう問題なく始まっているのだから。

 

「まったく、心配させる後輩だよね!」

「すいません、通形先輩。でも、決めた事は変えません。」

「...でも団扇さん、苦しそうだよ?」

「ありがとうエリちゃん。でも大丈夫。男には、苦しい道を行かなきゃならない時があるのさ。」

「そうなんだ。」

「そうなのさ。」

 

縛られたままじゃあ格好つかないが、まぁ俺のカッコつけなどそんなものだろう。笑い話くらいになれば丁度いい。

 

「それじゃあ、早く行きましょう。もうすぐステージ始まりますから。」

「そだね!いい場所取らなきゃ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

体育館、特設ステージにて。俺は相澤先生とプレゼントマイク先生と共に後ろの方から見る。エリちゃんと通形先輩は最前列を取れたからそっちにいる。

 

「しかし、ステージで何を伝える気なんでしょうね、出久は。」

「...俺からは何も言わん。だが。」

 

相澤先生は、俺にビデオカメラを渡してきた。

 

「このステージを撮影して、動画を流そうという話だ。誰に向けてかは、言わなくても分かるな?」

「...そんな事、考えてたんですかあいつら。」

「お前の存在は、あいつらにとってどんなものだったのか。ちゃんと見て、答えてやれ。」

 

開幕のブザーが鳴る。拘束は解かれたが、逃げ出す気にはならなかった。

 

そうして、ステージは始まった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

響く音色、華麗なダンス、煌めく光、自由な演出。

そして、その全てでに伝えられる一つの想い。

 

それは、復讐をやめろとか、ヒーローを貫けとかそんなものではなかった。

 

ただ、自分たちは友達だと。

 

気付けば、涙が一筋流れていった。

 

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ステージも終わり、後片付けをしている皆を尻目に動き出す。今顔を合わせると、きっと自分の決めた最後の希望すら放り投げて皆の方に走り出してしまう。それでこれから何人死ぬかなど考えないままに。

 

「どうだ、団扇。」

「想われている。ただそれだけの事なのに、本当に嬉しくて、悲しくてもうぐちゃぐちゃですよ。」

 

「でも、だからこそ覚悟は決まりました。俺は、この陽だまりを守る為にも必ず奴に勝ちます。」

『あのステージのどこが良かったの?』

「お前は聞いてて、心が響かなかったのか?」

『わかんない。ただ、わたしの中にもよくわからないものが生まれたのは確か。誰かをただ想う事、それはあんなにも暖かかったんだね。』

「団扇、誰だその女は。」

「敵です。」

「そうか。」

「さて、そっちから声をかけてきたって事は、始めるのか?」

『うん。でも、少し趣向を変えることにする。』

 

『力が見れればいいと思ったけどそれじゃダメなんだね。君の強さの源泉は、あの暖かさ。だからそれを今の私の全力で踏みにじる。でも、君がそれを守り抜いてみせたなら、わたしは君達の暖かさを信じてみる。』

「いいのか?それで。」

『だって、あんなの知らなかったから。信じてみたくなったんだよ。』

 

その言葉と共に、警備ロボたちの暴走が始まった。

 

「...団扇、校長がお前に無線を渡せと。」

「流石ハイスペック。頼りになりますね。...行ってきます、相澤先生。」

 

相澤先生は、個性の使用を解いてくれた。これで、俺を縛るものはなくなった。

 

衣装・須佐能乎を展開する。そして飛び上がり、上空から人を傷つけようとする警備ロボを優先攻撃対象としてターゲッティング。最速で最短で、片付ける。

 

「なんだ⁉︎」

「ロボが突然壊れた?」

「紅い、閃光?俺たちを守ったのか?」

 

この文化祭を守る為には、(ヴィラン)の襲撃の事実はあってはならない。目撃者すら残さない神速で暴走した警備ロボを破壊していく。

 

だが、それにしてもロボと人の間に距離がある。何かあるな?

 

『先生方に指示して、こっそりと避難誘導は進めていたのさ!』

「校長!」

『ナイトアイから話は聞いたよ!思う存分暴れるといいさ!ここから先は、こっそりと君の支援をできるのさ!』

「ありがたいですよ、本当に!」

 

ステージ近くにいたインペリアル4機を排除し終わった後、校長の指示のもと校門前に配備されているヴェネター6機を砕く。そしてエクトプラズム先生たちが迎撃していたヴィクトリー12機を蹴り砕き、校舎を破壊しようとしていたエグゼキューターの懐に潜り込み、須佐能乎状態での桜花衝をぶち込んで破壊する。

 

かかった時間は、合計で1分。まだまだ須佐能乎のタイムリミットは残っている。

 

『校舎内は13号先生に任せて大丈夫さ!次はスタジアムの方に向かうのさ!』

「了解!」

 

スタジアム近くの森に潜伏していたインペリアル8機。インペリアルは上部にミサイルと搭載している関係上、上から叩き潰せば自身の火力で焼かれて砕ける。これを8回。

 

スタジアムへと向かう人を襲おうとしているヴィクトリー7機、ヴィクトリーは一輪だが素早い。しかも警備用のヴィクトリーは装甲が脆いなんて弱点はない。

だが、須佐能乎の身体能力なら正面から打ち砕ける。胴部分を打ち抜いて砕く、これを7回

 

立ち上がったエグゼキューターは2体。警備用のエグゼキューターには動作が遅いなんていう明確な弱点はない。硬く、強く、速いのだ。

だが、それでも須佐能乎によるチャクラブーストで動く俺よりは遅く、小回りも効かない。硬さも、須佐能乎状態での桜花衝なら打ち砕ける。問題はない。

 

桜花衝による破壊を2回。これでスタジアム周辺はクリアだ。

 

移動時間含めてこれで3分。桜花衝にチャクラを割きすぎたからか、チャクラの消費が大きい。だが、まだ休む訳にはいかない。

 

『スタジアム内にはセメントスがいるから大丈夫なのさ!次は展示会場さ!』

 

展示会場といえばサポート科の晴れ舞台。潰させはしない。

 

そこにはエグゼキューターが3機、会場を取り囲むように同時攻撃をしようとしていた。だが、壊させはしない。

エグゼキューター三機の頭を足場にして蹴り飛ばし、会場から吹き飛ばす。そして崩れた所を一機ずつ痛天脚をかまして胴を破壊する。そしてエグゼキューターの影から会場に入ろうとしていたヴェネター12機を、高速移動からの連打で打ち砕く。これで会場周辺はクリア。

 

『最後さ!市街演習場Eに残りの警備ロボ全てが集結してるのさ!ヴィクトリー80機にヴェネター45機、インペリアル30機にエグゼキューター18機!でも、市街演習場には人はいない!時間稼ぎだけで良いのさ!もうすぐ先生方が向かえるからね!』

「了解です!」

 

とはいえ、高速移動ができて警備用のロボを撃破できるのはブラドキング先生くらいしか思いつかない。オールマイトが健康なら全部任せられたかも知れないが、それは無い物ねだりだ。

 

「飛び回る必要がないのなら、足を止めて迎撃あるのみ!さぁ、来い!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

足の速いヴィクトリーが群れをなして襲いかかってくる。それを一機ずつ丁寧に打ち砕いていく。するとヴィクトリーの残骸がちょっとしたバリケードとなり次のヴィクトリーの攻撃の際の小さな隙となる。

どんなに走破性能が高くとも、ヴィクトリーは一輪。無茶はできないのだ。

 

だが、敵の物量は膨大。ヴィクトリーで作ったバリケードは、30機のインペリアルによるミサイルの一斉射により吹き飛ばされた。その衝撃は須佐能乎越しに俺にダメージを与えてくる。やっぱ実弾はきついッ!

 

「校長!増援到着はまだですか!」

『...ブラドキング先生がアクシデントで行けなくなった!しばらく一人で頑張って欲しいのさ!」

「そんなこったろうと思いましたよ!奴の目的は俺の限界を探ること、増援なんて来させないってか⁉︎」

 

その通りだとばかりにインペリアルはミサイルを繰り出してくる。俺じゃなかったら死ぬぞマジで。

 

さて、増援が望めないとすれば、速戦あるのみだ。

 

「まずは面倒なインペリアルから!」

 

ヴィクトリーとヴェネターを無視してインペリアルを攻撃しようとする。だが、それは悪手だった。エグゼキューターによるなぎ払いが俺を襲う。デカすぎて視界の中から外れていたッ!

 

吹き飛ばされ、ビル壁に叩きつけられる。

須佐能乎越しに骨が逝ったぞ畜生。柱間細胞ですぐ治るけども。

 

「後衛の層が厚すぎる。エグゼキューターから先に倒そうにもインペリアルが邪魔過ぎる。コレ、前衛から順繰り潰していく以外に手はない臭いぞ。堅実で重たい。嫌な手だ。」

 

須佐能乎のリミットは今ので縮まった。残りは10分と言った所だろう。神郷のペルソナの力を貰ってこの程度とか、正直泣きたい気分だ。

チャクラ量だけでリミットを測るならもう少し短くなる。チャクラブーストは須佐能乎の力で燃費良くなっているとはいえ、使いまくればそれだけチャクラを使う。どこかで、チャクラを練り直す時間が欲しい。

一度引くか?いや、この集団が敵意を持っていると知れたらパニックになるのは目に見えている。ここで食い止めるしかない。

 

俺の後ろには、守るべき陽だまりがあるのだから。

 

「でも、こういう時って何か不安にならないんだよなぁ。特に、お前とつるんでからは。」

 

俺を襲ってきたヴィクトリーの3体が蹴り飛ばされる。緑色の閃光を身に纏う一人のヒーローの連撃によって。

 

「正直、いまいち状況わかってないんだけど。なんで仮想ヴィランがあんな大挙してるの?」

「じゃあ何でここ来たよ、出久。」

「紅い閃光が団扇くんだと思ったから、追ってきた。」

「そりゃ、ナイスタイミング。ちょうどブラド先生がバックれてどうしたもんかと悩んでいたところだったんだ。」

「それで、とりあえずコイツらを倒せば良いんだよね。」

「ああ。悪の超凄腕ハッカーに操られた悲しき警備ロボたちさ。ぶっ壊さないと皆が危ない。」

「じゃあ、手伝うよ。団扇くん。」

「ありがとよ、出久。」

 

なんとなく右拳を出久に突き出す。

出久は、左拳をコツンと俺に付き合わせた。

 

力が、湧いてきた気がした。

 

「入試の時とは違って、柔く作られてないから気をつけろよ。」

「あはは...うん。わかったよ。」

 

あ、そういやコイツ入試のとき(ヴィラン)ポイント0だったわ。忘れてた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

襲いくるヴィクトリーの集団、 飛んでくるミサイルの雨あられ。

 

上空に飛び上がり、火焔鋭槍によりミサイルを薙ぎ払う。

それだけの時間があれば、今の緑谷出久がヴィクトリーの集団を蹴り砕くのには十分だった。あれが、ワン・フォー・オール。代々受け継がれてきた力であり、今の出久の個性だ。だが、それにしても俺の知る出久よりも強く思える。

 

「なんか凄い成長してないか?お前。」

「団扇くんこそ、なにその変身にレーザーブレード。」

「俺はほら、色々あったんだよ。」

「色々って...僕は普通に鍛えただけだよ。」

「やっぱ基礎トレかー。最近出来てないからなー。」

 

ヴェネターの群れが少し遅れてやってくる。

だが、正直ヴェネターは普通に遅いので物の数ではない。硬さも、他の警備用ロボと大差はない。火力も、そんなにない。索敵能力は高いのだろうが、既に見つかっている俺たちには意味はない。

 

機動力のあるヴィクトリーの方がよっぽど怖かったぞ。

 

「何機いるの?これ。」

「ヴェネターには触ってないから、45機だ。まぁヴェネターは弱いからインペリアルのミサイルにだけ気をつければ大丈夫だよ。」

「信用していいのかなー、その情報。」

「疑うのか?この曇りなき眼を。」

「いや、眼見えてないし。」

「あ、そうなの?」

「うん、光の点みたいな感じ。」

「マジかー。」

 

やってくるヴェネター。相変わらずのミサイルの雨。

 

ミサイルを俺が薙ぎ払い、出久が地上の敵を蹴り砕く。ただそれだけのシンプルな行動で、敵の攻撃のほぼ全てを完封できていた。

 

こんなにうまくいくはずがない、罠だ。

そうして周りを見渡してみると、違和感を覚えた。ビルの配置についてだ。

 

「嘘だろオイ、エグゼキューターってあんな器用に動くのかッ⁉︎」

 

ビル陰に隠れつつ移動を行なっていたエグゼキューターは、警備ロボを倒す為に演習場に深入りしていた俺と出久を包囲する陣形に変わっていた。

 

後ろをみると、2機のエグゼキューターが入り口を固めていた。包囲完了していたかッ!

 

「出久、すまん。囲まれた。」

「...僕が3Pを排除する。ミサイルの援護が無ければ0Pの攻撃はそこまで脅威じゃないから。」

「出久、援護なしでインペリアルを狩れるか?」

「大丈夫。団扇くんこそ、0P倒せるの?」

「火力には自信ある。エグゼキューターは任せとけ。」

 

最後のヴェネターを蹴り砕いた出久を尻目に、インペリアルを護衛するエグゼキューターに接近する。俺を狙ってくるミサイルは、出久の放った空気弾によって爆散させられた。行ける。

 

「須佐能乎・桜花衝!」

 

エグゼキューターの薙ぎ払いを最小限の空中機動で回避して胴を桜花衝で砕き抜く。これで一機。

 

エグゼキューターの残骸を盾にしてミサイルの第2陣を防ぎ、出久を迎撃しようとしているもうエグゼキューターに接近する。腕を上に弾き飛ばし、踏み込み、頭を砕く。

 

瞬間、弾け飛ぶインペリアル達、数は五つ。ミサイルが誘爆したようだ。ミサイルの発射口に空気弾を打ち込んだのだろう。緑谷出久に飛び道具は、まさに鬼に金棒という所だ。味方で良かった。

 

だが、包囲網は狭まっている。残りのエグゼキューターの射程距離は、俺と出久を捉えている。

 

16重の同時攻撃は俺と出久を無慈悲に押しつぶそうとしていた。だが、出久は気付いていてもそれに反応しない。俺を信じているのだ。

 

その気持ちに応えなくては、俺は緑谷出久の友人を名乗れない。

 

「はいだらぁああああ!」

 

衣装・須佐能乎を一部解放、右腕に力を抑えていない全力の須佐能乎を展開し、16重の攻撃を一つの拳で打ち返す。

 

手応えありだ。

 

16機のエグゼキューターは、その腕を吹き飛ばされバランスを崩し倒れた。気分はちょっとしたオールマイトだ。

 

だが、強力な力には反動があるもので。インパクトの瞬間右腕から鋭い痛みが走り始めた。この感じ、ヒビでも入ったのだろう。柱間細胞で治るとはいえ、少しの間右腕は使えない。

 

「団扇くん、はいだらって何?」

「俺にも分からん、口から勝手に出てきた。」

 

まぁ、いつの間にやら空気弾で全てのミサイルポッドをぶっ壊した出久を見ると、もう残りは消化試合だと思い始めてきたのだが。

 

「しっかし強いな。お前の新技。また命を救われたな、出久。」

「まだ終わってないんだからそんな事言わないでよ。」

「それもそうだ。じゃ、残敵掃討といきますか!」

 

残りの警備ロボを倒し終えたのは、そこから5分と経たない後だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『驚いた、倒し切っちゃったね。』

「おうとも。出久は強いだろ。」

「団扇くん、誰その子?」

「今回の黒幕。雄英のセキュリティをハックした悪の天才ハッカーだよ。」

「じゃあなんでそんな親しげなのさ。」

「俺にも分からん。まぁ、なんとなくだよ。」

「出た、団扇くんのなんとなく。」

『仲良いんだね、2人は。」

 

その少女の言葉に、俺と出久は顔を合わせて苦笑する。

 

「友人だからな。」「友達だからね。」

『...そんなのが、あの強さの理由なんだ。本当に、人って不思議。』

 

『うん、決めた。君の側に付くよ、団扇巡くん。』

「そりゃまたどうしてだ?いや、ありがたいんだが。」

『君は、1人では今の陰我の足元には及ばない。でも、だからこそ君達の方が良いって思えたんだ。』

 

『君達は、暖かいから。』

 

その言葉からは、どこか覚悟を決めたような強さがあると思えた。

彼女の言葉は真実だろう。

 

今ここに、陰我の組織は完全に瓦解した。友を想うという気持ちを込めた、只の文化祭のステージによって。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

警備ロボを倒し終わり、人心地ついた所で解除しようとした須佐能乎の中から一つの思念が感じられた。

白昼夢のようなものだろう。一瞬しか経っていなかったが、しかし確かに俺は彼女と話をした。

それは、俺に与えられたもう一つの選択肢。俺の希望と、俺の救いを放り捨ててでも行くべき価値はある。そんな願いの話だった。

 




描写をしっかりするべきか、省くべきか悩みに悩んで省く方を選んだ作者がいるらしい。
正直原作の神っぷりを超えられる気はしないのでこれでいいのだと割り切りました。ハイ。
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