メリークリスマス!してる人は激しく妬ましいのでSNSはあまり見れない悲しさ。まぁ平ジェネのネタバレ回避のためもあるんですけどねー
相澤先生との戦いと警備ロボとの戦い、その二つで俺は柱間細胞のリミッターを外した。だが、まだなんとかなると思い込んでいた。俺の体が柱間細胞への拒絶反応を起こさなかったため、大丈夫だと思っていたのだ。
それは、浅慮だった。
「...陰我を殺すまでは、乗っ取られるつもりはなかったんだけどな。」
視界の中に映る、見た覚えはないが、されどあの日からずっと感じていた少女の事を見つめる。
少女は、どこか達観したかのように笑っていた。
「安心して、乗っ取るつもりなんてないから。」
「そりゃまたどうして?」
「私は、あの日死んだから。」
視界に、昼下がりの電車のイメージが走る。これが、話に聞いていた陰我の生まれた事件だろう。
話を聞いていて、どうしようもなさに腹がたっていた事件だった。
「柱間さんも、人を助ける事じゃなくて自分が生き残る事を選べたらもっと楽だったんだろうけどな。」
「...選べないよ。誰かの命を見捨てて生き残るって、凄く辛いんだよ?」
「...愚痴りたいなら聞くぜ?俺は今、柱間さんの温情で生きているんだから。」
「ありがと。じゃあ、ちょっとだけ。」
「...私さ、別に本心からヒーローになりたい訳じゃなかったんだ。」
「...自警団作ったりとか、積極的だったのにか?」
「うん。私はただ、他人にちょっとだけ優しくしようって思ってただけ。なのにいつのまにか皆に太陽だーって言われるようになっちゃって。不思議だよね。」
「...そう思える事が、凄かったんだろ。超常黎明期の事は歴史でしか知らないけどさ。酷かったんだろ、個性持ちの扱いは。」
「...うん、私たちは普通に生きたかっただけなのにね。私たちの周りでは、いつも悲劇しか生まれなかった。だから、生き残る為には力を振るうしかなくなっていた。」
「いつだって、誰かに助けを求めてた。いつだって、死なせないでって願ってた。いつだって、いつだって。」
俺は、その叫びにならない声をただ聞いているしかなかった。慰めの言葉は、その地獄を体験していない俺には無い。だから、ただ見つめていた。
「...ごめんね、君には何も関係ないのに。」
「いや、関係はある。俺は、陰我の敵だから。」
「...そっか、ゆっくんの敵だもんね団扇くんは。こんな話を聞いて、戦い辛くなっちゃった?」
「微妙だな。」
「微妙かー。」
「元から奴とは戦い辛くなってるんだよ。不死身の殺し方は思いつかないし、心情的にちょっと同情しちまってるし。いや、殺すけど。」
「セメントだねー。」
「まぁ、伊達に違法自警団はやってないって事で。」
「...ヒーロー街道一直線だったのにね。」
「人生万事塞翁が馬、そう思わないとやってられるか。」
そう言ってちょっと不貞腐れる。今日雄英に来てから、未練が残っていることに気付いたのだ。ヒーローになるという夢への未練が。
「その言い方、ゆっくんにちょっと似てるかも。」
「最悪の褒め言葉ありがとよ。」
クスリと、柱間さんは笑った。だが、その笑い方は全てを諦めた死人の笑いだった。
だから、かなり腹が立った。細胞だけとはいえ、彼女は生きている。それなのに命を諦めていることに。
「私の人生は色々あったけど、最後には後悔しか残ってない。人の一生は死に様で決まるって話なら、私は多分落第以下。間違えて、間違えて、間違えた。その結果いろんな人を死に追いやった。今もゆっくんは誰かを死に追いやろうとしてる。だから...「止めるぞ、俺と柱間さんで。」...団扇くん?」
「人の一生が死に様で決まるってんなら、あんたはまだ終わってない。まだ意思があるんだから、生きているって言って良いはずだ。だから、後悔があるなら最後まで戦え。俺がそれに手を貸すから。」
「...どうして、そこまで優しいの?」
「別に優しくしてる訳じゃない。ただ、俺一人じゃ陰我は止められない。それを理解しているだけだよ。」
その言葉を聞いて、再び柱間さんは笑った。
「嘘つきだね、団扇くんは。」
「...そうですよ、団扇さんは嘘つきだよ畜生。」
本当は、理由なんてないのだ。俺が誰かを助けたいと思う事には。
後付けで幾らでも誤魔化してきたが、きっとこれまでにも気付いた人はいたのだろう。神郷とか、後輩とか。
「うん、やっぱり君がいい。私の心を託すのは。」
「心を託す?」
「うん。正直こうやって話していられるのは、君の須佐能乎の特性が繋ぐ事だからだと思う。だから、きっとゆっくんの中の私にも届けられる。」
「...そうか、俺の須佐能乎が細胞の中の柱間さんの意思を拾い上げて形にしてるのか。」
「...本来の私、ゆっくんの中の私の細胞は最後の、『人を救いたい』って思いだけで活動してるの。だから、ゆっくんや君を傷つけたりはしない。けど、ゆっくんが人を傷つけて、殺す側に回ってしまったのならきっと私はそれを拒絶できる。たとえ、ゆっくんが死ぬ事になっても。」
それは、御堂柱間という少女から出た、陰我を殺してでも止めるという意思だった。
「...いいのか?命を懸けて救った相手なんだろ?」
「じゃないと、ゆっくんは止まれないから。もう物語は始まってる。ゆっくんが何かをする必要は、もうないんだよ。」
「...わかった。その策、使わせてもらう。須佐能乎で柱間さんの意思を陰我に叩き込む。それでいいんだな?」
「うん。よろしくね、団扇くん。」
「ああ、任された。」
意識が薄れてきた。どうやらここでの会話は終わりのようだ。
「もしも、君が私たちの時代にいたら、私たちを助けてくれた?」
「...ああ。それは絶対の絶対だ。」
「...本当に、優しいね。君は。」
そんなもしもの言葉が、俺に最後の覚悟を決めさせた。
俺は、行く。俺の願いも、俺の救いも捨ててでも、救けると決めた。
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白昼夢から目を覚ますと、そこは市街演習場Eだった。
須佐能乎を解除して、周りを見渡す。そこには、スマホの中にいる少女と、彼女と何やら会話をしている出久がいた。
『あ、起きた。』
「団扇くん、大丈夫?」
「ちょっと体の中の美少女と会話してた。」
「...大丈夫そうだね、うん。」
『これが大丈夫ってあたり、信じられてるね。団扇くん。』
「妄言に慣れられてるってとこだわな。いや、嘘は言ってないんだけど。」
ぐだぐだな会話が始まりながらも、ゆっくりと市街演習場から逃れる。緑谷の携帯に皆から連絡が入ったのだそうだ。そりゃ、突然超速で閃光を追いかけたなんてのなら心配にはなるか。
出久の携帯に住処を移した少女は、割と好き勝手に動いていた。というかメッセージを代打ちしているようだった。出久も、結構な無茶をしていたようだ。空気弾を放った指が腫れているのが見て取れる。
「出久、指出せー。」
「あ、ありがと団扇くん。まだ調整が完璧じゃなくてさ。」
「まぁ、その辺は慣れだろ。...ハイ終わり。次はあんまり無茶すんなよ。」
『慣れてるんだね。』
「付き合いそこそこ長いからな。」
「入試以来だもんね、僕ら。」
「んじゃ、俺は校長んとこ行ってくる。退学の書類とか色々あるからな。」
「団扇くん、本当に辞めちゃうの?雄英。」
「俺さ、陰我を倒し終わったら旅に出ようと思うんだ。」
「...唐突だね。」
「だから、まぁそういう事だ。」
「どこ行くの?」
「秘密って事で。言うと多分相澤先生追ってくるからな。あんな気の抜けない戦い二度とゴメンだよ。」
「帰ってくる気は、ないんだ。」
「...ああ。」
「皆、心配してるよ?」
「...本当にすまないと思ってる。」
クラスの皆の顔を思い浮かべる。皆と、陽だまりの中でヒーローを目指す事、そこに未練がないとは言わない。
「けど、行かなきゃいけないんだ。俺はもう、知っちまったから。」
「何を?」
「助けてって言う、声にならない叫びを。」
「だから、俺は行く。」
「...そっか、団扇くんらしいね。でも、その先に団扇くんの幸せはあるの?」
「わからん。けど、行かなかったら俺は俺として終わる。それだけは、したくないんだ。」
「そっか...」
「まぁ、多分大丈夫さ。俺は、どんな環境でも生きていけるから。ヤクザの下働き8年の実績を舐めるなよ?」
「うん、それは絶対に誇っちゃいけない奴だ。」
やっぱりぐだぐだな会話に戻る俺と出久。何故かシリアスが持続しないのだ。俺たちは。
そんな時、ブラドキング先生がようやく到着した。遅くなったなー。いや、俺と出久の殲滅スピードが速すぎたのだろう。きっと。
「すまない、遅くなった。...緑谷?」
「あ、勘でやってきてくれた助っ人です。ブラド先生の代役を務めてくれたんですから感謝してくださいね。」
「いや、団扇くん。その理屈はおかしいから。」
「いや、感謝する、緑谷。無線で状況は聞いていた。お前がいなければどうなっていたかわからん。」
「いや!ブラドキング先生、頭をあげて下さい!僕はそんな大した事してませんから!」
真面目なブラド先生がやってきても、やっぱりぐだぐだ感は拭えなかった。不思議だなー。
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出久たちと別れて一路校長室に向かう。ここにやってくるのは実は初めてだ。書類上の保護者とはいえ、あまり接点はなかったから仕方ない所ではある。
「やぁ!団扇くん!久しぶりの校長さ!」
「お久しぶりです、根津校長。早速ですが退学書類の方をお願いします。」
「そんなに慌てる必要はないんじゃないかな?」
「いえ、クラスの皆と会うのは気まずいので、さっさと逃げ出したいってのが本音です。」
「ハハッ!正直だね!それじゃあ仕方ない、これが書類さ!あとは名前と判子だけで終わりなのさ!」
「ありがとうございます、校長。」
渡されたペンを握って、一度目を瞑る。
思い出すのは、辛く、苦しく、楽しかった日々。
そこから今、俺は旅立つ。
「校長先生、本当にお世話になりました。」
「こちらこそ、今日は君がいてくれて良かったよ。君の未来に幸運がある事を祈ってるよ!」
あっさりと、根津校長は俺の退学を認めてくれた。だが、それだけではないのだろう。背後のドアから見知った気配が近づいて来るのを感じる。
「行くぞ、団扇。」
「はい、相澤先生。」
二人で、一歩一歩踏みしめるように歩いていく。
道中、相澤先生は何も語らなかった。
俺からも、何かを語る気になれなかった。
だが、第2裏口を目前に捉えたあたりで、相澤先生は一言言った。
「団扇、お前は俺の生徒だ。それを忘れるな。」
「...はい。」
その不器用な気の使い方は、よく知る相澤先生のもので少し安心した。
「短い間でしたが、お世話になりました。本当に、ありがとうございました。」
そう一礼をして、雄英から離れていく。
もう二度とこの学校の土を踏むことはすまいと覚悟を持って、一度も振り返らずに。
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相澤消太は、その背中を見続けていた。
いつの間にやら自分と相撃つまでに至った有望な生徒の背中を。
「俺は、お前なら良いヒーローになるって思ったんだがな...」
これから歩んでいく過酷な運命を微塵も気取らせないような強い足取りで、少年は歩んでいった。
...もはや彼はヒーローにはなれない。陰我事件が終わり次第、彼は自分の犯してきた多くの違法捜査の槍玉に挙げられるだろう。それを庇ってくれる後ろ盾は、彼自ら捨て去ってしまったのだから結果は見えている。
そういう事をしてきた連中を、抹消ヒーローイレイザーヘッドはよく知っているのだから。
だが、その罪状の中に今日行った警備ロボ破壊事件は載せられない。監視カメラがハッキングにより狂わされていたのだから証拠がない、事が露呈した場合はそれで押し切るという校長の判断からだ。
そんな事でしか彼に助力できない自分が情けないと思う。
だが、全てを捨てて彼に助力すると決めるには、相澤消太には大事なものが増えすぎていた。
「これが、大人になるって事かね...」
煙草を吸いたい気分とは、こんな時なのだろう。だが、相澤は煙草を持ってはいない。代わりに、ポケットに入っていた飴を一つ食べた。
「甘すぎだろ、コレ。」
ラベルには練乳コーヒー味と書かれていた。
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ナイトアイと共に新幹線に乗り、才賀屋敷へと戻る。
「おう、巡。無事だったか!」
「まぁな。てかニュースになってないんだから無事に決まってるだろ。」
「それもそうですね。とはいえ団扇様なら、何かしらの過ちを犯しているのだろうなとは予想がつきます。」
「なにせ、大将だしな。」
「そこの二人、俺にどういうイメージ持ってるんだよ...」
「トラブルダイバーって思ってるんじゃない?いつものメグルみたくさ。」
「そうね。なんか知らないけど核心に突っ込んでいく変なのだし、メグルって。」
「バブルビームさん、サンドウィッチさん!」
エンデヴァーヒーロー事務所所属のサイドキック。バブルビームさんとサンドウィッチさん。高い戦闘能力と判断力を持つ有能なヒーローである。
「エンデヴァーヒーロー事務所からの助っ人は、やはり君達か。」
「まぁ、順当ですよね。メグル絡みですし。」
「メグルさん、この人たち知り合いなんですか?」
「頼れるヒーローだよ。まぁ、その分俺は逃げるべきか迷ってるんだが。」
「大丈夫大丈夫、事が終わるまではメグルは放置でいいってエンデヴァーさんの指示だから。」
「あ、事が終わったら逃げなきゃいけませんね、コレ。」
「逃がさないからね?」
『随分楽しそうだね、団扇くん。』
「まぁ、再会できて嬉しいとは思ってるからな。」
「知らない声が聞こえたんだが、誰か居るのか?」
「ああ、新しい仲間だ。」
そう言って俺はスマホを見せる。スマホの画面の中には少女が一礼をしたようで、皆各々にそれに対応していた。
「陰我の組織のネットワーク担当をしていた超凄腕ハッカーの...すまん、名前聞いてなかった。」
『酷いなー、団扇くん。まぁ言ってないんだけど。』
「ないんかい。」
思わずツッコミを入れる俺、割と愉快な性格をしているぞこの電脳少女。
『私は
「...そのコードを知っているという事は、警視庁のオフラインシステムにすら侵入していたという事か。末恐ろしいな。」
「てか名乗れよお前。」
『名前と本体の位置は秘密、だって多分余罪いっぱいあるし。』
「うん、ナイトアイ。コイツ事が終わったら絶対に捕まえて下さいね。」
「ああ、任せておけ。」
『無理だと思うけどなー。今のネットワーク技術だと、私の犯行の証拠は残らないし。』
「それは逆に研究対象として有望なんじゃないかな。」
「それでレイン、陰我を殺すための術は手に入れた。あとはどこに釣り出すかだけなんだ。協力してくれるな?」
『もちろん。でも、一度目で仕留めてね?じゃないと本体が殺されちゃうし。』
「...怖い世界ですねー。」
「いや、安心して神郷ちゃん。怖いのはこの人達だけだから。ヒーローは人を殺さないよー。」
「ヒッ!近寄らないでください!」
「あれー?」
「何か嫌われる事したんじゃないの?バブルビーム。」
「皆濃いから話が進まねえ!」
『馬鹿みたいだけど、案外楽しいね。』
その日は、十分な休息を取りつつ、あるるかんの修理の終わる2日後に陰我を呼び出そうという案が出るだけで終わった。
尚、神郷はしばらくこの才賀屋敷に泊まることとなった。神郷の両親曰く、事件がもうすぐ終わるのならばセキュリティの整った場所に置いておきたいのだと。
流石に共働きの神郷の両親はこちらに泊まる事は出来ないが、それでもこの布陣は彼らにとって安心なのだろう。
そして、翌日。
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早朝、型稽古をしている才賀とその近くで個性のトレーニングをしているフランさんに声をかける。
「ちょっと出かけてくるわ。」
「おう巡、どこまでだ?」
「ちょっと千葉の刑務所まで。ここへの襲撃はないだろうし、親父に会ってくる。」
「いってらっしゃいませ、団扇様。」
「行ってきます、才賀、フランさん。」
そうして電車で揺られること二時間弱、親父のいる刑務所に着いた。
「面会手続きにはちょっと早かったか。」
やる事もないので、SNSに投稿されていた文化祭の皆の頑張りを記録したものを読んでみることにする。出久の奴、マメだねぇ。
『愛されていたんだね、君は。』
「いたのか、レイン。」
『うん、陰我への報告は終わったし、海外との連絡も終わった。やる事はもう無いんだよ。だから着いてきちゃった。』
「プライバシーもクソもないな、まぁいいけど。」
レインと共に記録を読んでいく。芦戸のダンス練習の事、演出チームの頑張り、爆豪の『音で殺るぞ!』宣言、様々なハプニングがあったものの、それを乗り越えて一つのクラスとしての発表を完成させたのだと。
一人分の役割を残したままで。
『演出の欄に、団扇君の名前載ってたね。』
「いつ帰ってきてもいいように、って事だよな。...泣きそうだわちょっと。」
『泣いてもいいんじゃない?他に誰も居ないよ?』
「お前がいる。強がらせろよ少しくらい。俺は男なんだから。」
そして、文化祭のステージの動画に一言、『良かったぞ』とコメントして携帯をしまう。何様だと思わなくはないが、まぁ細かい事はいいだろう。
さて、敵意はない事は分かっていたが、まさかの人物の登場に少し面食らった。
「よぉ、団扇。」
「よ、心操。なんでここにいるんだ?」
チャクラコントロールで心操の洗脳を弾けるように準備しながら、そう答える。
「...お前に、話があって来た。んだが、もういい気がしてる。」
「そりゃどうしてだ?」
「お前は、なんか変わったから。」
「...まぁ、犯罪者(予定)だしな。」
「そういう事じゃなくて、雰囲気が。」
「雰囲気かー。」
「多分、吹っ切れたんだよ。俺はヒーローにはなれない。そんな感じにさ。」
「...俺が、どんなに望んでも掴めなかったチャンスを、お前は棒にふるのか?」
「ああ、棒にふる。」
「俺はヒーローになって、俺みたいな境遇の奴を助けたいって思ってた。それができる社会にしたいって思ってた。けど、それより先にやらなきゃならないことがある。」
「それが、復讐だってのか?」
「ちょっと違うな。終わらせてやりたいんだよ、陰我って奴を。もう、あいつが頑張る理由は何もないから。終わらせる誰かが必要なんだ。そして、それが出来る人間はこの世界には俺しかいない。だから、やる。」
そう、決めたのだ。復讐を取っ払った先にある俺の意思として。
「...団扇、俺はなるよ。ヒーローに。」
「ああ、応援してる。」
「お前みたいな境遇の奴を救えるくらいは、片手間にできるヒーローになってやる。だから、お前はお前の好きにやれ。」
「...ありがとよ、心操。」
そう言って、心操は駅の方へと去っていった。微妙に眠そうにしていたのは、おそらく始発でここまで来たからだろう。
そして、そんな情報を伝える奴など、1人しかいない。
「レイン、お前やりやがったな?」
『うん、君が刑務所に来るのは予想できたから、ここの行くよって仲の良さそうな心操くんを呼び出してみたの。旅に出るのには、荷物は軽い方が良いでしょ?』
「...まぁ、今回は感謝してやるよ。」
レインは、あまり信用できない。だが、多分俺に害しようとしての行動ではないのたろう。
お陰で、心残りが一つ減った。
「さて、良い時間だし面会行ってくるわ。携帯は預けなきゃなんないからお前は留守番な。」
『監視カメラジャックして覗いてるねー。』
「プライバシーもあったもんじゃねぇな本当に。」
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「よ、親父。」
「よぉ、巡。背伸びたか?」
「測ってないからわかんね。まぁ、多分伸びてるよ。成長期だし。」
「そういや、お前まだ16か。...随分と、辛い事経験した面してるけどよ。」
「まぁ、色々あったから。」
「そっか、色々か。」
「巡、実はお前の親父さんに会った。」
「...へぇ、探偵でも雇ったのかな。」
「お前の話をしたよ。ま、俺が話せるのはお前が売られてからの話だったんだが。」
「...懐かしいなー、最初の頃は隙を見せたら殺されるとか思ってたりしたっけ。」
「そこから気を抜くまでにほとんど時間かかってねえけどな。」
「だって、親父たち良い人すぎるんだよ。あんなんで警戒を続けろとかは無理があるわ。」
「にしたって馴染むの早すぎだろうが。」
「んで、父さんはなんだって?」
「...巡の父親があなたのような人で良かった。そう言って帰ってったよ。お前の事を愛してる良い父親じゃねぇかよ。」
確かに、方法はアレだったがそれは俺と母さんを思っての事だったのだろう。方法はアレだったが。うちはの血か...
「...連絡先とか交換してる?」
「なんだ?話す事でもあるのか?」
「ちょっと余裕ないときに会ったから、酷いこと言ったと思うんだ、多分。だから旅立ちの挨拶くらいはやっとこうかなって。」
「どっか旅に出るのか?お前。」
「...うん。片道で、帰ってこれない所まで。」
「何処だ?それは。」
「刑務官の人に聞かれたくないから、幻術使うね。」
そうして、親父の目と俺の目を合わせる。伝えるのは、俺の行く先の事。
「...そんな事ができるのかってのは、無粋か?」
「いや、まぁそれが普通の反応だと思うよ。ただ、俺の万華鏡写輪眼ならできる。それは嘘じゃない。」
「じゃあ、お前と会うのはこれが最後か。」
「うん、そうなる。」
「寂しくなるな。」
「...ごめん。」
「謝んなよ。」
「男が道を決めたんだ。それを後押ししねぇ親父はいねぇよ。」
「ありがと、親父。」
「ま、そんな力があるんならお前自身の幸せを追求して欲しいってのが親心って奴なんだがな。」
「いや、俺の幸せとか考えなくて大丈夫だよ。俺はどこに行っても大丈夫だから。」
その言葉に、「確かにそうだな」と納得した。
8歳でヤクザの元で割と面白おかしく暮らしていた奴が言うのだから、説得力があるのだろう。
「頑張れ、巡。俺は、お前のその行為を応援する。」
「...本当にありがとう、親父。俺は、親父の息子になれて本当に良かったって思ってる。」
「お前、最後だからって口軽くなってんじゃねぇか?」
「かもね。ま、本心だから気にしないで。」
「こっぱずかしいっつってんだよ。馬鹿息子。」
それから面会時間終了まで、とりとめのない話をした。
多分、俺と親父の別れ方は、こんな感じが一番だと思ったから。
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それから、夜までに俺の友人皆に連絡を入れた。旅に出る、もう連絡は取れない、あとは思い思いの言葉、そんな内容の連絡だ。
そんな事をしたお陰で、皆からの返信でてんてこまいだったのは、まぁ笑い話だろう。
そして翌朝。
『陰我を呼び出したのは、田等院駅近くの廃ビル。時間は夜の11時。市街地だけど、周囲に人は少ないから安心して。』
「そこなら、アレを使われても最悪須佐能乎で海浜公園辺りまで押し出せば被害は最小限にできるな。」
「まぁ、そうでなくともあやつの不死身性は跳ね上がっておる。主様の術とやらですぐに終わらせるのが唯一の勝機じゃな。」
「一応、基本的な作戦は昨夜言った通りだ。情報を元にやってきた陰我の木分身の相手を私たちヒーローがしながら、本体の位置を
「ええ。行きましょう、陰我の妄執を終わらせに。」
覚悟を決めて歩き出す。俺の全てを賭けて、戦いに行くために。
この作品も長くなりましたが、次章で最終章となります。
次回作は何書きましょうかねー、ギアスのレジスタンスルートとか、FE暁とかスプラトゥーンとかネタは浮かんでいるんですがどれも書きたくて超迷います。遊戯王もそろそろ書き始められそうですしねー。