冗談抜きで最高クラスのライダー映画だと思います。まだ公開中なのでネタバレはしませんけれど、かなり電王見返したくなりました。アマプラで視聴期間切れてませんしね!
羅刹と狼の歩く夜
午後11時、田等院駅近くの廃ビルに、陰我は現れた。
「目に隈はなし、仙人モードじゃないですね。でも木分身です。殺す気でやって大丈夫ですよ、皆さん。」
「信じるからね?まぁメグルがそんな事で嘘を吐くとは思わないからいいんだけど。」
ヒーロー組と無法者組を分けて作戦を練った。
ヒーロー組みは陽動。ヒーローによる襲撃だと考えれば俺たち無法者は分けて考えられる筈だ。
ならば、陰我は情報の出所を抜き取る為にヒーローを殺さずに捕らえようとする筈だ。陰我は今、世界最強クラスの力を持っているのだから。
だが、用心深い奴の事だ、近隣に潜んでいた本体は逃げ始めるだろう。
そこを、ナイトアイが今まで温めていた大作戦で絡め取る。
「じゃあ、戦闘開始お願いします。」
「ええ、任せておいてよメグル。」
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周囲の雑踏に紛れて陰我は廃ビルから離れるために歩き出す。
「罠か、久しく経験していなかったな。」
木分身でヒーロー達と戦闘しつつ自分は変化で顔を変え、この場から自然に離れるためだ。
だが、視線があった。因果の繋がり方からいって準イレギュラー、団扇巡か神郷数多の関係者だろう。念のため路地裏に入り顔を変える。
だが、視線があった。因果の繋がり方からいって準イレギュラー、殺すか?と迷う。だが、人の目が多すぎる。
そうして、人の目から逃れるように顔を変え、道を変え、流れていった。
だが、視線は途切れなかった。
タクシーを探す、見つからない。
レンタカー屋に入ろうとする、臨時休業だった。
駅へと向かおうとする、視線の数が多すぎて力を使わねば振り切れないだろう。
何かが、おかしい。陰我はそう感じた。
因果律予測を用いて行き交う人々の運命を見る。その結果、見えたのは陰我にとっての地獄のような事実だった。思わず声を出してしまうくらいには。
「...この周囲にいる全員が、準イレギュラーだと⁉︎」
「あ、気づかれたみたいですね。」
「しゃあねぇ、プランBだ。」
「ですねー。まぁ、そっちの方がやりたかったプランなんですけど。」
周囲にいた全員が、懐に手を突っ込む。
それを見た陰我は反射的に木鎧を発動した。超常黎明期からの戦闘経験が生んだある種の定石である。
だが、そんな事はこの作戦を立案したサー・ナイトアイにはお見通しだった。故に、この作戦に参加した
GPS機能付きの、最新式カラーボールである。
「ッ⁉︎」
瞬間、木鎧の身体操作でビルの屋上に飛びのく。だが、数多のカラーボールの中にある、自分を追尾する一発を避け切る事はできず着弾した。
「...仕方ない、殺すか。」
「そうはさせないのが、俺たちの仕事なんだよ。」
瞬間、忌々しい狼が陰我を蹴り飛ばした。
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ナイトアイの用意していた作戦、準イレギュラーの148人全員に陰我の変装パターン全てを覚えさせての大包囲網。それは、一応の成功に終わった。
今、陰我はカラーボールにより位置を丸裸にされている。これで、万が一にも逃す心配はない。
「皆、行くぞ!」
須佐能乎の中に格納していた皆を吐き出し、戦闘態勢に移行する。
「とりあえず挨拶がわりの焼夷手榴弾!」
「今度は金に糸目をつけない連発じゃ!」
「テメェら、親父の金だからって好きにやりやがってッ!」
「いいじゃねぇか、もう買っちまったんだから。」
「ですね、派手に使ってしまいましょう!」
そんな訳で開幕金の暴力である。マネーイズパワーだぜ。
「んじゃ、あれで死んだか賭けようぜー、俺死んでない方にかけるけど。」
「満場一致で死なぬ方にかけると思うぞ、主様よ。」
「まぁ、あのバケモンだしなー。」
5発の最新式焼夷手榴弾により作られた炎の中から、生えてきた木の鎧に本当に嫌になるくらい憂鬱なため息をついた。
「貴様ら、本当に油断ならんな..,」
「さらっと防いでんじゃねぇよ、化け物か。」
「多少焦げたが、まぁその程度だ。」
「知ってた、化け物だコイツ。」
「では、こちらの番と行こう...何ッ⁉︎」
陰我は、体を動かそうとして違和感に気付いたようだ。
体を拘束する、耐火性ワイヤーの存在に。
「あるるかんだけが私の個性の使い方では無いのです。中に私の糸を通したこのワイヤー、引きちぎるのは容易ではないですよ?」
「というわけでリンチ第二弾!一発目ェ!」
須佐能乎・桜花衝にて木鎧を砕き抜く。
「二発目じゃ!」
幼女と化してもなお怪力は衰えないアセロラが顔面を。
「3発目っなぁ!」
ギアを装備したジャンクドッグによる一撃は、左肩に。
「4発目ぇ!」
形意拳の技術を使った一撃が、陰我の右肩を。
それぞれが全力の一撃をかまし、陰我は完全に隙を晒した。
「これで、くたばれ!」
剥き出しになった胴体に触れ、須佐能乎の繋ぐ力を発揮して俺の中の御堂柱間の意思を陰我の柱間細胞に叩き込む。
手応えはあった。これで、終わりの筈だ。
「貴様、何をしたッ⁉︎」
「御堂柱間の意思を、お前の柱間細胞に叩き込んだ。お前は、彼女の意思によって裁かれるんだよ。」
「...ククッ、彼女の意思か。」
「そんなもの、常に感じてる。だが、それで止まるのならば俺は陰我にはなっていない。」
「...おいちょっと待て、いつのまにか目に隈出来てないか?」
「以前の戦いでタネが割れたからな。練習した。」
「そんなんでできてたまるか仙人モードッ!」
即座に須佐能乎を全力で展開する。アレだけは出させてはならない!
「皆、中へ!5人羽織だ!」
「何をしようと無駄だ、この力の前では!」
「そうでもない、俺の須佐能乎も進化している!」
ビルの屋上に、二つの巨人が現れようとしていた。
だが、タッチの差で俺の須佐能乎の展開の方が早い!
「チャージなどさせるものかよ!」
巨大な木人の形成途中で、
当然道路は割れるが、今回は大丈夫。なにせ警察が経費で落としてくれるからな!
「巡、お前心の声漏れてるってわかってるか?」
「あ、忘れてた。」
「団扇様って、かなり愉快な思考回路していますよね。」
須佐能乎・五人羽織。それは俺の須佐能乎の特性、繋ぐ事を最大限に活用した形態。五人全員の個性とエネルギーを十全に扱える俺の須佐能乎の最強形態だ。
人数が多過ぎれば雑多な個性とエネルギーをコントロールしきれずに無駄になり、人数が少な過ぎれば須佐能乎自体のパワーが足りなくなる。故の五人。戦いの日々の中で互いを深く知ったからこその力である。
さて、先制パンチの効果は...
「素直に驚嘆だ。貴様の個性は出来ることが多すぎる。」
「だったらちょっとは応えろや。」
どうやら、
「この近辺は、ナイトアイの手の者以外避難させられてる。ついでに言うなら、被害額は国が出してくれる。暴れ放題だぜ?」
「...いらぬ気遣いだな。」
「
「お前とてそうだろうが無法者。」
「これでも結構被害には気をつけてたんだぜ?」
「これからみたく、地図を書き換えるレベルじゃ暴れてないんだからな。」
「フッ、確かにそうか。」
地に足をつけた木の羅刹と黒い狼の巨人。これからの戦いは、激闘になる。そんな確信があった。
「行くぞ、才賀!」
「おう!」
才賀の個性の範囲を、須佐能乎のスケールにブースト。陰我の位置と意思を感知する。...来るッ!
「フランさん!」
「ええ!」
両手の指から力ある糸を須佐能乎のスケールにブースト。糸の結界で敵の一撃を絡め取る。
「力は、私の方が強いようだ。」
「速さは、俺たちの方が速いみたいだな。」
糸の結界をものともせずに、突っ込んでくる羅刹。その羅刹の放った一撃は、重く鋭かった。だが、ジャンクドッグの引力を使えば逸らせない事はない。しかし、放ったカウンターは躱された。
バックステップで距離をとり、仕切り直す。
こちらからの攻撃、ボクシングスタイルでのシンプルなワンツー、それにジャンクドッグの引力とアセロラのパワーを込める。
それでも、陰我の木人のガードを崩すには至らなかった。その上木人は再生しやがった。タフネスは向こうが上だ。圧倒的に。
「これ、仕留めるには何か手品が必要だな。」
「分身するというのはどうじゃ?」
「すまん、俺のチャクラ量じゃ分身しても弱くなるだけだ。」
「糸で首を絞めようにも、あの木人呼吸していませんからね。」
「やっぱ近接で殴り続けるしかねぇか。マウント取りてぇな。」
「頭が急所って訳じゃねぇと思うぜ、あの巨人。本人の位置からのエネルギーで再生してるタイプだ。」
「余計めんどくせぇな畜生。...頭か丹田の2択、どっちにする?」
「丹田だな。気の流れってのは丹田が中心になるもんだ。人型ならそこに居るのが一番いいと思うぜ。」
「私はお坊っちゃまの意見に賛成です。」
「妾も、才賀の意見に同意じゃ。」
「俺もとりあえず胴殴るのでいいと思うぜ、本体じゃなくても胴を砕けば動きは鈍る。」
「全会一致か。よし、ボディをひたすら狙うぞ!」
陰我からの回し蹴り、ビルを砕いて破片を飛ばしてくる。
そこに潜り込んで寸勁を腹に放つ。力の流れを集約したゼロ距離打撃は腹に衝撃を伝え、そこに亀裂を作った。
その隙間からは、陰我の姿は見えなかった。だが写輪眼が見せる身体エネルギーの濃さからいって、奴の本体は胴付近だろう。
「危ねぇ、巡!」
その声に、思考に割いていた脳のリソースを反射につぎ込む。
陰我は、寸勁を受けながらも木人を動かして拳を頭にハンマーのように振り下ろしてきた。当然、寸勁の衝撃の分力は減っているが、質量のある木人の攻撃は、重い。
一撃、ただそれだけでこれまで積み上げてきた小さなアドバンテージは吹き飛んだ。
「...皆、生きてるか?」
「...ああ、死んだと思ったぜ。」
「カカッ!妾に感謝せい。吸血鬼としての不死性を共有していなければ今ので主様以外お陀仏よ。」
「なんでもいいさ。戦いはまだ終わってねぇ。」
「ですね。幸い身体的ダメージは無いようです。あとは気力でなんとかしましょう。」
「うし、行くぞ!」
ダメージを受けた陰我と倒れた俺が戦闘距離に戻るのは同時だった。向こうは再生しているせいでダメージが残らない。インチキも大概にしろと言いたくなる気分だ。
「追撃をしてこなかったのは、仙術のチャージ時間か?」
「ダメージが原因とは考え辛いのぅ、あやつ妾より不死身じゃし。」
「じゃあ、プランCは殴り続けて仙術のチャージをさせないだな。」
「プランBは?」
「あ?ねぇよんなもん。」
「なんじゃそりゃ。」
周囲のビルを足場に、三次元機動を試みる。だが、陰我は常にこちらを正面に向けるように木人を操作している。仙術の感知能力は須佐能乎をしっかりと捉えているようだ。あるいは因果律予測による因果の逆算によるものか?
まぁ、要するにスピードによる不意打ちは通じないと言う事だ。なんでこんなにも隙がないんだこの化け物は。
「しからば!」
「正面突破じゃ!」
ビルを足場にして大ジャンプ。空中で一回転し、チャクラブーストによる空中機動により速度を作り、必殺の蹴りの体勢を取る!
「ライダーァア!キィイック!」
個人的にやってみたかった必殺技不動のナンバーワンを誇る、仮面ライダーの必殺技ライダーキックである。まぁ、チャクラブーストがないとただの隙だらけの飛び蹴りなので今までやれていなかっただけなのだが。
陰我の木人は、この見掛け倒しの必殺技に脅威を覚えたのか着弾点となる
「まぁ、嘘なんだけどな。」
チャクラブーストで着弾点を陰我の手前に変更、ライダーキックの踏み込みの力そのままにボディに拳を3発連撃。表面を砕き、内部を砕き、丹田から背中までを貫いた。
だが、木人は体を貫いた拳を掴み、俺の体を固定した。
「あの飛び蹴りが詐術なのは見えていた。だが、これで貴様はどこにも逃げられまい。」
「丹田じゃねぇのかよ!俺たち2択に弱いな畜生!」
「主様!愚痴っとる場合か!」
「木人解放、
「
瞬間、陰我の形成していた木人は体の大部分を木の槍に形を変え、俺たちを貫こうとしてきた。もう致命傷のコースに飛んでいる槍があるため陰我を飛ばすのでは防ぎきれない。
ネタが割れるのは面倒だが、自分に使うしかない。
そうして、自分たちの須佐能乎を飛ばした。
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陰我の目前に居たはずの狼の巨人が霞のように消え去り、木の槍の雨を回避した。これは、警戒していた団扇巡の瞬間移動であろう。
ならば、背を取る筈だと仙術と個性により感知に努めるが、団扇巡はどこにもいなかった。団扇巡の仲間たちもだ。
だが、それならば自分に使った時の瞬間移動の説明がつかない。あの一撃に、タイムラグはなかった。
異空間に飛ばす力ではない。瞬間移動でもない。とすれば、信じられないがそういう力だろう。
陰我は、半ば残った木人の拳を、
黎明期からの戦闘経験が導いたこの答え。かかった時間は1秒にも満たなかった。
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戻ってきた瞬間に、須佐能乎の目の前には、拳を構えた木人が居た。一回くらいは成功してもいいと思うんだがなあ!
木人の拳は、引力で逸らし、糸で絡めとる。今の小さくなった木人相手なら、パワー負けはしない筈だ。
「チッ、仕損じたか。」
「いや、何でほとんど初見の技を見抜けるんだよお前。やっぱ化け物か。」
「一度食らって、一度見た。ならばそれは既知の技だろう。」
「おっかねぇなぁホント。仙術なんてチート持ってるんだからちょっとは油断してくれ。」
「...タネが割れても連続して使ってこない事を見るに、インターバルが必要だな?お前の
「...さてな、会話を楽しんでるだけかもしれないぜ?」
「ぬかせ、復讐者が。」
陰我の仰る通りである。
俺の万華鏡写輪眼の右目の瞳術、それは認識したものを未来に飛ばす能力だ。以前陰我に使った時は、陰我を飛ばす事で擬似的な瞬間移動を実現させた。アセロラを救う時も木の杭を未来に飛ばす事でアセロラから取り除いたのだ。
そして今回は、自分に向けての天鳥船。木槍の波が終わる時間、約1秒ほど自分たちを未来に飛ばしたのである。
インターバルは、飛ばしたものの重さに比例する。今回飛ばしたのは俺たち5人なので、インターバルはおそらく5分程度だろう。須佐能乎は、重さには含まれない筈だ。須佐能乎はあくまで精神体であるのだから。
「さて、勝手に弱ってくれた事だし。リンチさせて貰うぞ。」
「それはどうかな。この程度の損傷の修復、2秒とかかるまい。」
「なら、1秒でボコボコにしてやるだけだ。」
木人の拳を絡め取っている糸に火遁を纏わせる。須佐能乎のブーストを入れた火遁は、陰我の木人の表皮を焼き焦がす。
だが陰我は、そんなものは意味をなさないとばかりに超速で木人の再構成を始めた。2秒で確かに再生は終わりそうだ。
「まぁ、そうはさせないんだけどさ!」
須佐能乎のブースト速度をそのままに、形意拳の型を取る。
半歩、一撃、半歩、一撃、半歩、一撃。形意拳の基本動作にて、ひたすらに頭を撃ち抜く。そして、羅刹の面を完全に打ち砕いた。だが...
「人の手応えが、無いッ⁉︎」
「お前、頭か丹田の2択ってどっちもハズレじゃねぇか!」
「お前らも乗っただろうが!」
顔のなくなった木人が須佐能乎の両腕を掴み、握り潰そうとしてくる。瞬間的に腕の発現スケールを縮小化、木人の胸を足場にしてバック宙で距離を取りつつ両腕を再構成。感知と写輪眼の二段構えで再生の様子を観察する。どうにも、なにか化かされている感がある。
再生スピードはとんでもない早さだったが、別段どこかを中心にしているかのようには見えない。
無線で、ナイトアイと連絡を取ることにする。
「ナイトアイ、聞こえますか?」
「団扇か、どうした?」
「陰我の様子が妙です。そっちで何か確認していませんか?」
「いいや、センチピーダー達と交戦していた陰我の分身がお前たちとの交戦と共に消え去ったくらいだ。予想の範疇を出ない。」
「レイン、お前はどうだ?」
「んー、特にないかな。陰我の端末は壊れたから私からのアクションは起こせないってくらい。」
「壊れたのはいつだ?」
「木人形成の時だよ。」
「不自然さはないか...どうなってんだマジで。」
再生を完了した木人が、目の前に立ち塞がる。例えるのならあれは不動の構えだ。自然エネルギーを取り込むための不動と、相手の後の先を取るための不動の合わさった隙のない構えだ。
構えに、不自然さはない。重点的に守っている点も見当たらない。
「こりゃ、色々突っかかって情報集めねぇと戦いにすらならねぇな。」
「全く、面倒じゃの。」
戦いは、まだ始まったばかりだった。
まずは前哨戦、木人との戦いです。この時点でどうすんだコレと思わせれればいいなーとは思います。