始まりは、とある電脳少女の悪意なき行いだった。
旅に出るという少年が、あの暖かい子達と会わずに行くのは忍びないと思ったのだ。
故に、勝手にクラスメイト全員にメッセージを送った。
そこからは、とんとん拍子である。クラス全員が一斉に外出届を提出しようとし、それを相澤先生が却下しかけた所で校長がやってきた。
少年たちの細かい所作から目的を読み取った校長は、仮免を持っていない爆豪と轟の二人はイレイザーヘッドの保護下の元動く事を条件として、演習という名目で少年たちを送り出した。
それが、臨時開催の深夜パトロール演習という名の団扇巡救援作戦の実態である。
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出久に抱えられてヘロヘロの状態で、皆のいる浜辺へとたどり着く。
「よ、皆。久しぶり。」
「めっちゃ心配したんやからね!」
「そうだ!何も言わずに行ってしまうなど、あんまりではないか!」
「...言いてえことはめちゃくちゃあるが、今はいい。逃げるぞ。」
「ああ、それなんだが。」
背後で、須佐能乎が真数千手から飛ばされてきた木の槍の嵐を捌いているのを感じる。
だが、それでも防ぎきれなかった流れ矢が至近距離に着弾する。砂が飛び散り目に入りそうだ。
「ここはまだあの大仏のキルゾーンだから、下手に逃げても死ぬだけだぞ。」
「おま!さらっと死ぬとか言うなよ!」
「しかたないだろ、事実なんだから。」
「あの嵐のような戦闘規模ですと、多少の盾では防げませんね。」
「氷結を壁にするか?」
「いや、もっといい方法がある。相澤先生、お願いします!」
相澤先生に右目を向けて、天ノ逆手で光を返す。相澤先生から貰った恩は、この胸の内にある。相澤先生の教えを受けたからこそ、俺はここまで歩いてこれたのだから。
「うおぉ!相澤先生が巨人になった!」と驚く皆。相澤先生はそんな声を無視して、身体を軽く動かして何ができるのかを把握していた。
「団扇、どうなってんだこれ!お前の個性意味不明すぎるだろ!」
「実際のところ俺にも原理は分からん。ただ、心の光を形にして渡してるんだと思う。」
「...なるほど、だいたいわかった。飯田、引率だ。離れてろ。」
「わかりました!先生!」
そうして、俺は出久に抱えられたままクラスの皆と共に戦闘区域から一時離脱した。
浜辺で全力疾走したが故に足に来たであろう皆を集めて、最後の作戦を伝える。ここにいる1年A組全員の力を一つにしてあの真数千手に立ち向かうというただの力押しを。
「団扇、お前次から次へと意味わからんことを重ねるな。」
「そうだぜ!皆の力を繋ぐって、そんなことできんのかよ!」
「...待て、団扇お前の力で女子と繋がれるのか⁉︎」
「精神的にだよ!お前ビビってる割にブレねぇな!そういうとこ割と好きだよ畜生!」
「野郎に好きって言われても嬉しくねぇよ!」
「峰田、会話脱線させないで。」
「でも、正直気持ちはわかる。」
「上鳴...」
「それはそうとして、ここにいる21人全員の力を合わせたとしてあの巨体を倒すことができるのか?」
「ハッ!できるに決まってんだろ。」
「今戦ってる連中は、巨人化に加えてそれぞれの個性を使ってやがる。あの巨人のスケールでな。見た目は全員狼面のせいで分かりにくいがよ。」
「そうか!俺たちの個性をかけ合わせればあの大仏を倒せるって事か!」
「そういうわけだから、皆の力を貸して欲しい。」
「団扇、それ今更聞くこと?」
「そうだぜ!俺たちは、初めっからからお前を助けに来たんだからよ!」
「そうよ。じゃないとこんな深夜にこんな所に来るわけないじゃない、団扇ちゃん。」
「...ありがとう、皆。」
体調は、戦えるまでに回復した。だが、才賀たちがちょっと不味い状況になっている。天ノ逆手の効果が消えかかっているのだ。
「巡!もう動けるな!」
「ああ!後は任せろ!」
才賀の心の声に心で叫んで答える。才賀たちは俺に任せ最後の力を温存するようだ。それが、本当に心強い。
「見せてやる、これが俺の、俺たちの紡いだ因果!行くぞ!」
「応!」と皆の声が揃う。さぁ始めよう、須佐能乎21人羽織。改め
「絆の証、雄英須佐能乎だぁ!」
皆の心を束ねて繋ぐ。須佐能乎の中で皆は自然と手を繋ぎ、身体エネルギーを束ねて一つとし、精神エネルギーを束ねて一つとした。
その結果が、今の須佐能乎の色に現れた。今まで赤や黒で彩られていた部分が、鮮やかな虹色へと変わったのだ。おそらくは皆の心が一つに繋がった証である。
「団扇巡。それが貴様の切り札か。」
「ちょっと違う。俺たちの切り札だ。」
才賀たちの須佐能乎が相澤先生を殿に戦闘区域から外れた事を認識してから、ゆっくりと真数千手に近づく。スケールは互角。攻撃可能距離もおそらく互角。
故にこれは、敵の攻撃に対処できる十全のスピードでの接近かつ不意打ちを確実に通すための威嚇行為だ。
「初っ端からかますぞ!障子、砂藤!」
「応!」
「任せろ!」
障子の個性により、腕を複製。その数は千。そして砂藤のシュガードープの力によりパワーを倍加。そして、二人の力を一気に放出する事で破壊力はさらに倍加!
「千の掌底を破るには、千の拳を撃てばいい!」
「「「シュガーラッシュ・サウザンドフィスト」」」
射程距離に入った雄英須佐能乎を真数千手はその千の掌で迎撃する。
射程距離に入った真数千手を、雄英須佐能乎の千の拳で迎撃する。
瞬間、嵐が吹き荒れた。パワーは、雄英須佐能乎の自力にシュガードープを加え、さらに二人の力のブーストを加えてなお互角。
そして、互いの認識能力も写輪眼と自然エネルギー感知で互角。
故に、真数千手と雄英須佐能乎はその千の腕全てを失うという結果に至った。
「すまん、団扇。俺の個性を再び使うにはしばらくインターバルが必要そうだ。力が入らん。」
「俺もだ。アクセルベタ踏みし過ぎちまった。」
「結果オーライだ!こっちには、腕によらない攻撃手段がいくらでもある!尾白!飯田!常闇!」
尾白の個性により、尻尾を形成。飯田の個性により、ふくらはぎにエンジンを形成。常闇の個性により、雄英須佐能乎の影から巨大な
「超速で、連撃で、叩き割る!」
「「「「レシプロターボ・シャドーテイルダンス!」」」」
飯田の神速で距離を詰め、強靭な尾による一撃と変幻自在の
されど陰我もさるもの。真数千手を立ち上がらせて足技による迎撃を選ぼうとしていた。
まぁ、そんなことは百も承知だ。故に、先程陰我への返答と同時に口田にはアセロラが影から取り出した必殺アイテムに指示を出させたのだ。
財力でかき集めたシロアリの群れに、真数千手の足を喰らえと。
「...ッ⁉︎」
「驚いたか!俺も驚いてるよ、この馬鹿な作戦を有効にするキーマンが来てくれたことにな!流石口田だぜ!」
「ありがとう」と思念で伝わってくる。こんなとこでも照れなくていいと思うのだが、まぁそれも口田の個性だろう。
「というわけで、リンチの時間だ!」
神速の蹴り、エンジンで体の回転を加速させての尾撃、大技を振った後の隙を埋める
だが、それでも真数千手は倒れなかった。乱打も、最後の方は治った両手と自然エネルギーフィールドで対処され、致命傷には至らなかった。
そして、真数千手には化け物じみた再生能力が存在する。振り出しに戻るだ。
「弱の連打は効果がないね。倒すには大技を撃たないと。」
「いいえ、効果はありました。あの大仏は、再生のエネルギーを両手両足に集中させたようですわ。これ以上の連打を喰らわないために。つまり、どこかにあったのです。あの大仏の弱点が。」
「それなら、私に任せてよ!広範囲攻撃なら得意だよ!」
「わかった、行くぞ芦戸!このスピードのまま全力でぶっ放せ!」
「「「レシプロターボ・アシッドレイン!」」」
陰我は、これまでの戦いの結果から自然エネルギーフィールドを真数千手全体には張ることができないとわかっている。つまり、このアシッドレインに対して自然エネルギーフィールドを張った場所があるのなら、そここそが弱点だ。
そうして、陰我が自然エネルギーフィールドで守ったのは、真数千手の胸だった。心臓の位置に奴はいると断定していいだろう。
「団扇くん、そろそろ俺は限界だ!エンジンの形成が保たない!」
「すまん団扇!俺の尾もだ。」
「
「了解、3人とも充電しててくれ。口田!麗日!葉隠!お前らの個性で接近するぞ!タイミングは俺に合わせてくれ!」
チャクラブーストで高速接近。陰我は背中の千手を修復しつつもこちらの対応をしようとした。だが、迎撃距離に入ったところで一瞬の天鳥船を使う。
そうして、慣性そのままに消えたことで一瞬のペースチェンジが発生し、陰我の迎撃は回避できた。だが、天鳥船にはインターバルが必要だ。それを突かない陰我ではないだろう。当然、再生途中の手の一本を木の槍に変化させて放ってきた。これの回避は不可能だろう。
そう、本来なら。
「「
天鳥船は、飛ばしたものの重さに比例してインターバルが発生する。故に、麗日の個性により重さから解放されたものを飛ばすなら無尽蔵にできるのだ。
柱間細胞に体を明け渡した今となっては視力の喪失も無視できるレベルであるが故の荒技である。
そして、須佐能乎の発現スケールを小さくして、口田が呼び寄せた鳥の群れに紛れて接近する。葉隠の個性を使いながら。
陰我としてはたまったものではないだろう。因果律予測による感知は、無重力時空転送により断ち切られる。自然エネルギーによる感知は、鳥たちにより遮られる。そして、視界による感知は葉隠により遮られる。
完全なる隠形だ。実際、陰我のとれる手は自然エネルギーフィールドによる面攻撃しかなかった。それも、自然と共に生きる鳥たちなら息をするように回避でき、それに追随すれば俺たちの回避も容易である。
そうして、陰我の隙を突いて心の臓の前へとたどり着いた。ならば、急所を攻めるのみだ。
「耳郎!上鳴!」
スケールを戻して踏み込み両腕を掴み、耳郎の個性で耳からイヤホンジャックを作成し真数千手の心の臓へと挿しこみ個性を放つ。
「「「ライトニングビート!」」」
イヤホンジャックから流れる爆音が真数千手の胸を砕き、雷撃が陰我本体を貫く。そう思っていた。
「違う!ここがコアじゃない!腹の方に心音がある!」
「心臓は囮か!」
そうして、掴んだ両腕を掴み返されて、真数千手の頭突きが俺たちを襲った。切島の硬化で咄嗟に防御したが、ダメージは大きい。このスケールの須佐能乎でも、パワーは向こうの方が上のようだ。圧倒的に。だが、致命傷ではない。二発目の頭突きを防御する為に
そして、その一瞬前に自分たちがいた所に修復された千の掌底が飛んできた。向こうの修復は終わってしまったようだ。
「お前、素直に倒されとけよ。」
「...どの程度の威力かは分からないが、あれの狙いが俺の居場所を狙ったものだとはわかっていた。なら、罠くらい張るさ。」
「嫌だね、本当に!」
遠距離から、峰田のもぎもぎを真数千手に投げつけまくる。狙いは丹田だが、当たりさえすればどこでもいい。とはいえ向こうの再生能力がある以上、くっついた部分を切り離されてしまえばノーダメージである。
まぁ、今回は峰田のもぎもぎには拘束する役割は望んでいない。中に染み込んでいる勝己の個性のニトロのようなものを隠す為のブラフだ。
「さぁ、そのでけえ図体でかわしてみろ!」
「できたら当たって固まってくれ!この状況早く終わらせたいんだよ!」
「何かがあるというのに、わざわざ当たるものか。」
その瞬間、真数千手は座禅を組んだ状態のまま空を飛んだ。追撃のもぎもぎを投げつけまくるも回避と千腕の防御により丹田には当たらなかった。ほんと面倒くさいぞコイツ。
しかし、空を自在に動けるでもなし。形成していた瀬呂の個性でテープを射出して巻きつけ、拘束する。そのテープとて真数千手の腕により阻まれて丹田には届かなかった。
だが、このテープにも爆豪のニトロ付きだ。それによりニトロのラインは形成された。そして、起爆にはうってつけの大火力がある。
「勝己、峰田、瀬呂、焦凍!全力ぶっ放せ!」
「「「「「伝導火焔・爆心地!」」」」」
瞬間、左半身から放たれた炎による起爆により、勝己のニトロは起爆した。千の腕全てを吹き飛ばす大爆発だ。
そして、宙で爆発の衝撃を受け止めた真数千手は海の方へと吹き飛んだ。これはいい。この位置関係はとてもいい。
町への被害の考慮もなく、全力全開の一撃を放つことができるのだから。
そして、この戦闘の開始からずっと構築を続けていた天才、八百万百の切り札がようやく完成した。
「...青山さん、ようやくできましたわ!レーザーのエネルギーを収束、増幅する円形光線増幅器が!」
「フィニッシュには、やっぱり僕のキラメキが必要ってわけだね!」
「準備はいいな皆!決めるぞ!」
「応!」と心と耳で声を聞く。皆の残ったエネルギーと、今まで温存してきた出久のワン・フォー・オールの絶大なるエネルギーを繋ぎ束ねる。21の光を束ねたこの一撃、受け止められるなら止めてみろ!
「
真数千手は、その光線の威力を自然エネルギーによる探知か、あるいは因果律予測により知ったのか、本体を生かすために腹を抉り取り空へ投げとばそうとしていた。
だが、その動きは封じられた。
まだ、天ノ逆手の効力は残っている。つまり、須佐能乎を介して心は繋がっているのだ。その心が訴えていた。「決めろ!」と。
それに答えるのは、当然のことだろう。
「任されました!」
ネビルレーザーに全力を込め続ける。真数千手の再生速度を上回り、陰我本体を消しとばす為に。
だが、逃走の動きを止められ、防御のための千の腕は弾け飛び、満身創痍のはずのその真数千手は、この土壇場で
そして、光線が着弾する前に、自然エネルギーのフィールドが海水を巻き上げてU・Aバスターを減衰させた。
結局の所、この一撃は光だ。故に、光を曲げ散らす水などで減衰してしまう。
だが、それがどうした。
幾重にも重なる海の壁を貫き陰我を打ち倒す方法はとっておきのものがある。
「出久、行くぞ!」
「うん!」
絶大なエネルギーの塊であるワン・フォー・オールを繋いだ須佐能乎を介して皆に再配置。エネルギーの出口を増やすことで瞬間的にワン・フォー・オールの総合出力を21倍にする荒技。そう、この名は!
「「ワン・フォー・オール!Plus Ultra!」」
瞬間、光線の火力が爆発的に上昇する。その色は、ワン・フォー・オールの身体エネルギーと同じ、今の須佐能乎の色と同じ、鮮やかな虹色だった。
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閃光が走ったその先には、胴の消し飛んだ真数千手があった。
だが、陰我は生きている。どういう理屈かはわからない、だが、海の上に浮かぶ真数千手の頭部の残骸の上に座り込んでいるのだ。
「すまん皆、仕損じた。」
「...仕方ないよ、あの一撃でも倒れないなんて誰も思わなかったんだから。」
皆は、ワン・フォー・オールを使った影響で息も絶え絶えだ。出久が辛うじて動けているのは、ワン・フォー・オールに慣れているからだろう。
柱間細胞がなければ、俺も動けなかった。それを考えると改めてこの緑谷出久という男はとんでもないと思った。
「ケッ、クソが。」
「爆豪、心の声聞こえてんぜ。同意だよ。」
「ウチらの残りのエネルギー、全部託すよ団扇に。」
「それができるのが、この須佐能乎という光なのだろう?なら、やってみせるさ!」
皆の心から、力が流れ込んでくる。それは量としては微量だったが、その暖かさからはそれ以上の力を感じられた。
「行ってくる。皆。」
「待って。麗日さん、団扇くんに個性を。片道だけど、送るよ。」
「うん、行くで団扇くん。」
「...頼む。」
そうして、麗日の無重力で重さのなくなった俺を出久が投げ飛ばす。陰我の待つ場所へと。
「来たか、団扇巡。」
「来たぞ、陰我。」
無言で、構えを取る。木鎧を纏わないという事は、相応にダメージを負っているという事だろう。
須佐能乎は纏わない。今の残りエネルギーでは衣装でも一瞬しか張れないからだ。
最後の最後の土壇場で、お互いに個性の弾は切れていた。
それでも、戦う。
だが、その前に言葉を交わすくらいはいいだろう。
「なぁ、陰我。どうして逃げなかった?いくらでも逃げる隙はあったはずだぞ。」
「わからん。ただ...」
「私の命の答えは、お前との戦いの先にある。そう確信したからだ。お前とて、似たようなものだろう?」
「...ちょっと違うな。俺が戦うのは...」
「声にならない助けてって声が、聞こえたからだ。」
「...なるほど、だから貴様は強いのか。」
「お前だって似たようなもんだろ。始まりは、お前だってこっち側だったんだから。」
「そうだな...そうかもしれんな。」
一時の静寂が訪れる。
どちらが合図した訳でもない、示し合わせた訳でもない。それでも、俺と陰我は同時に走り出し、拳を突き出した。
「お前を倒し、その先を守り生きていく!いずれ世界が救われるその日まで!」
「やらせない!それが命を散らし涙を作るものだから!だから今ここで!お前の因果、俺が断ち切る!」
拳と拳のぶつかる鈍い音が、海の上に鳴り響いた。
異能バトルものの最終決戦は異能を絞り出しながらの肉弾戦に限る。というのが作者の好みでした。やっぱりNARUTOはいいぞ。