【完結】倍率300倍を超えられなかった少年の話   作:気力♪

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陰我戦、最終章です。あとはエピローグでこの作品は完結となります。活動報告で乗っけてる設定集とかはまとめ直すの面倒なので気が向いたらになりますねー。


とある少年の旅立ち

真数千手の残骸の上で、拳を交わす。

 

拳を一発当てるたびに、胸の迷いが軽くなる。

拳を一発受けるたびに、思いが伝わり重くなる。

 

今、俺と陰我は言葉を交わす以上に、お互いのことをわかり合ってきた。精神のリンクなんてものは俺たちの間には存在しないにもかかわらずだ。

 

心が、繋がっていく。

 

陰我は、凄惨な過去が原点(オリジン)である。

しかし、いまの陰我を作り上げているのはそれだけではない。

 

長きを生きた事で、見てきた多くの犠牲。作ってきた多くの犠牲。それら全ての呪いを一身に受けて、その上でコイツは立っている。マクロな視点で、より良い未来を作るために。この世界を救うために。

 

それのどれだけ狂気的なことか。その長きに渡り陰我はそれだけを軸に生きてきたのだ。私欲を出さず、我欲を出さず、ただいずれ来る救いの日を守り続けてきたのだ。

 

その行為は、この世界に生きる全ての人にとっては知られていない、知る意味もない、世界を守る行為である。こいつはずっと、守る為に走り続けてきたのだ。

 

その強い心に惹かれるものがないといえば嘘になる。出会い方が違えば戦う以外の方法で陰我とわかり合うこともできたかもしれない。

 

それでも、その心を受け止めて尚、ただ一点だけ譲れない点がある。

 

それは、命の価値だ。

 

コイツは、自分を含めた命の価値をロジカルに計算して、大多数の命を守る為に行動している。世界の根幹を揺るがしかねない俺たちイレギュラーを抹殺するために多くの命を巻き込んだのも、それが必要な犠牲だと判断したからである。

 

コイツ一人の価値観で。

 

俺は、それが認められない。どんな事情ががあろうと、どんな過去があろうと、全ての命は輝いているものだと俺は信じているから。

 

犠牲にしていい命なんてない。犠牲になっていい命なんてない。

 

だから俺は、犠牲になる人々を救いたいなんてことを心に決めたのだ。それが、一度死んでまた生まれた俺の命の意味だと信じて。

だからあの文化祭の日に、御堂柱間と会ってから()()()()()()

 

「貴様、正気か?」

「さぁな。でも、決めちまったんだからしょうがない。」

 

何度目かの交錯の後、自然と距離が離れる。陰我は、俺の心が信じられなかったのだろう。その動きには少しの動揺が見られた。この距離でその隙を突く体力は、今の俺にはないが。

 

「俺はお前が憎いさ。でもそれとは別に、思ったんだよ。俺の左目の力の意味は、そうなんだって。」

「俺は、貴様の家族とあの少女を、殺したのだぞ。」

「...だって、仕方ないだろ。初めて拳を合わせたあの時に心のどっかで思っちまったんだから。お前は、助けてを叫べない奴なんだって。」

 

「だから俺は、お前を救う。今のお前を止めて走り続けなくてはならない今から救う。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「...ただ一度きりしか使えない奇跡なのだろう?」

「でも、お前が生まれる前に殺すことよりもきっと俺らしい。皆は、そういう俺についてきてくれたんだから。それに...」

 

「後輩は、そんな俺を好きだって言ってくれたんだと思うから。」

「...結局のところ、貴様も愛で動くのだな。」

「そりゃそうさ。ヒーローってのは愛と勇気で生きてんだ。多分な。」

 

再び距離を詰め、拳打の応酬を繰り広げる。

陰我の守りは堅く。その拳は重い。そしてなにより、その想いは重い。長年に渡って戦い続けてきた者の強さとは違うもの、そういう巧さがこいつのスタイルにはある。

 

だが、少しずつ。少しずつではあるが俺の拳が陰我の急所に当たり始めてきた。

それは、鍛えた身体のスペック差などではない。柱間細胞に全身を委ねている俺と陰我の身体スペックは互角だ。

想いの強さの強弱なんてものではない。想いの強さは、俺も陰我も同じだから。

 

だから、その原因は、ただ一つ。

 

()()()()()()()()()()

 

自分に向けられた必殺の拳を紙一重で回避してのボディアッパーが決まる。ついに、陰我の動きが止まった。

 

その一瞬の隙に、踏み込み、力の流れを一点に集約し、解き放つ。

 

その渾身の一撃は陰我の顎を砕き、脳を揺らし、膝を付かせた。

 

「俺の勝ちだ、陰我。」

 

だが、フラフラになりながらも陰我は立ち上がってきた。まるで人形が動いているかのような不気味さで。

 

それが向こうの戦いなら、納得するまで付き合ってやる。そうでなければ、こいつの心を救う事など出来ないのだから。

 

七度、陰我は立ち上がってきた。故に七度、俺により打ち倒された。

 

だが、立ち上がるたびに陰我の違和感は強くなってきた。何かがおかしい。そう思い、次の手を打たせない為に最後のエネルギーを振り絞り、桜花衝を放とうとするも。その一撃が放たれることはなかった。

 

背後から忍び寄ってきた何者かによる拳打により、俺は海上ギリギリまで吹き飛ばされたからだ。反射的に防御が間に合っていなかったら、頭蓋が吹き飛んでいただろう。

 

「...ここに来て、伏兵ッ!」

「違う。」

 

そうして俺がダメージから立ち直り真数千手の上を見ると、倒れた体勢から崩れ落ちている木の体の陰我と、こちらを見ている裸の陰我の姿があった。

 

「...俺は、今まで分身を数多く使ってきた。それは俺の本体がアンテナとなり操っていたのだと思っていたが、違うのだな。」

「...じゃあ、どういう理屈でさっきまでボコボコにしていた陰我が木分身にすり替わるんだって?」

「上手く言語化するのは難しい。ただ、魂ががこの世界の外側のステージにある感覚だ。そこから、俺は体を動かしていた。」

「つまりアレか?魂による肉体のラジコン操作ってか?」

「お前は、未知を言語化するのが上手いな。」

「冗談じゃない。不死身だろうが死んだら死ねよ。何だ魂が外側のステージにあるって、シェルドレイクの仮説か。」

「そしてそれは、俺だけではない。それなら、お前たちイレギュラーの因果が見えないことに説明がつく。魂が違う世界にある貴様だから、この世界の魂の因果を見る俺にはお前たちの因果が見えなかったのだろう。つまり、魂の在り処の問題だな。」

 

それは、超常黎明期からこの世界にて論じられてきた問題の一つ。魂の存在証明。脳を持たない異形型の存在により、魂が脳に存在するという超常以前の学説は灰と化した。あらゆる科学的、個性的、哲学的アプローチにより超常黎明期から数百年経った今でもなお議論され続けている。その回答を掴んだのだろう。恐らく悟りのきっかけを掴むことによって。

 

「お前、どうかしてるよ。」

「奇遇だな、俺もそう思う。」

 

そうして真数千手の残骸から生まれ続ける肉の陰我達。真数千手を柱間細胞に変換して肉の体を再構築しているのが輪廻写輪眼には見える。つまり、魂を砕かなくては奴は無限に再構築を繰り返す。だがその為には、魂のあるステージに行かなくてはならない。八方塞がりだ。

 

「団扇巡。俺の答えは見つかった。それは、単純な事だったんだ。今まで、怒りと憎しみで覆われていた俺の心が導き出した命の答え。それは、当たり前の幸せを守る事。明日を当たり前のものにする事。俺の心の根底には、ずっとそれがあった。」

「じゃあお前は、間違いだらけだな。」

「そうだ、俺は道を間違え続けた。」

 

「だから誓おう、団扇巡。これからイレギュラーを排除するにあたり、他の者を巻き込んだりはしない。お前の願う、命の輝きは十分に伝わってきた。」

 

それは、今までの陰我からしたら考えられないほどの大きな譲歩だ。だが、それでも俺と陰我は一線を違えている。

 

「なら、やっぱり止めるよ。俺は、この世界の外側の人間として、この世界の外側の人間にだって生きて輝く未来があってほしいと願うから。」

「なら、平行線だな。」

「ああ、平行線だ。」

「なら、やる事は変わらない。ここで果てろ!団扇巡!」

 

一斉に襲いかかってくる陰我達。今ある手札ではどうあがいても数十人を超える陰我達を打ち倒す事は出来ない。だから、するのは迎撃ではない、思考の加速だ。

 

陰我を殺しうる手段は、魂の破壊、あるいは無力化。そんな事ができる術は俺には持っていない。だから、思考をシフトしろ。

 

魂に影響を与えうる手段。そんなものはない。

そして、肉体は無尽蔵。殺したとしても意味はない。

だから、攻めるべきは肉体でも魂でもないもの。

 

「ったく、最後の最後でコレかよ。まぁ、俺は結局コレが基本だけどさ!」

 

まず、前提として御堂柱間の存在がある。全ての木分身が本体に繋がっているのなら、あの時に御堂柱間の精神を共鳴させたことは本体へと繋がっている。それが陰我に対して効果を見せていないように見えるのは、奴が精神力でそれを抑え込んでいるからだろう。以前、奴に幻術が効かなかったのもその強靭過ぎる精神力が理由だ。そう断定する。それ以外に、勝ち目のある未来はない。だからもう全賭けだ。それ以外の未来など知るか。

 

先頭の一人の拳を身体で受け止めて、その目を無理矢理俺と合わせる。

 

「貴様、何をッ⁉︎」

「これが、俺の最後の一撃だ!幻術・写輪眼!」

 

皆から託された全ての力を、この両目に込める。ただ単純な幻術を。全力で。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

異能愚連隊の雑魚寝部屋で、目が覚めた。

懐かしい、あの日々の匂いがした。

 

「ゆっくん、起きてる?」

「...ラマ姉?」

「うん、私。」

 

彼女には、笑顔が似合う。そんな事も忘れていた。

 

だが、そんな辛くも幸せだった日々は、もはや過去だ。

 

「...団扇巡の催眠だな。ラマ姉は死んだ。もういない。」

「私は、生きてたよ。ゆっくんと一緒に。」

「...なんとなく、感じてはいた。だが、どうでもいい。俺は戦いに戻る。生きていく意味を、俺は見つけたんだ。」

「駄目だよ、ゆっくん。」

 

「その道の先で、ゆっくんは幸せになれるの?」

「どうでもいい。俺の幸せなど払ってきた犠牲に比べれば些事だ。」

「それじゃあ、私は協力できない。私はゆっくんに生きて欲しくて私の命をあげた。でも、生きるって違うんだよ。」

 

「生きる事は、使命を遂げる為に自分を捨てる事じゃない。ただ、自分の幸せを掴み取るために当たり前の中で暮らす事。私は一度死んでそうなんだって思ったの。」

「...なら、ラマ姉の生き方は間違いだらけだな。俺たちの為に自分を犠牲にし続けて、何も得られずにこうして屍を晒している。」

「でも私は、幸せだったよ。」

 

「助けたいから人助けをして、守りたいから皆を守った。結末はアレだったけど、その過程には私の幸せがあった。そこに嘘はないの。」

「...そうか。それを聞けて、少し安心した。」

 

「だが、俺は行く。まだ、戦いは終わっていないし俺の命も尽きていない。守ると、決めたのだ。」

「...ゆっくん、頑固になったね。」

「まぁ、長生きしたからな。」

「でも、それも終わり。私は、ゆっくんにはもう休んで欲しい。」

「それを俺が望まなくてもか?」

「うん。私のわがままで、間違わせてしまった命だから、私のわがままで終わらせる。だから...」

 

「一緒に死のう、ゆっくん。」

 

その声には、悲痛な覚悟が乗っていた。だからこそ、俺は...

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

俺のやった事は単純だ。一瞬、ほんの一瞬だけ陰我の意識を飛ばしただけ。それが俺の限界であり、全力だった。

 

そして、その効果は十分に発揮されたようだ。

 

肉の陰我達が、物言わぬ木へと変貌していく。

 

ただ一人、動き続けている目の前の陰我を除いて。

 

「効果がない、訳じゃあないな。」

「...ああ、俺の体が言う事を聞かなくなってきている。一つの体をコントロールすることも満足にできはしない。()()()()()()()()()()()()

 

陰我のその目は相変わらず終わっていたが、何か違うものを秘めていた。

 

「命乞いでもするのか?」

「するものか。ただ、最後まで戦う。俺の死を彼女のせいにしない為に。」

「なら、最後まで付き合うよ。」

「地獄への道連れにか?」

「この期に及んで相打ち持っていく気かよコイツ。」

「あいにくと、生き汚く負けず嫌いなタチでな。」

 

お互い、ダメージは致命的。技を使う体力はもはや存在しない。

 

故に、最後はただの拳だけ。

 

同時に一撃を放ち、木と化す体を十全に扱えなかった陰我よりも一瞬早く俺の拳が陰我の胸を打った。

 

その点から木の体はひび割れていき、陰我の体は砕けて散った。

 

残ったのは、生きているただの樹木だけだった。

 

俺の運命を決める戦いは、終わった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「輪廻眼・人間道。」

 

残った木片に向けて、輪廻眼の力の一つである人間道を使用する。触れた者の記憶を読み取るその力は、拙い使い手の技術でもなんとか目的の記憶を読み取る事に成功した。それだけ、陰我はその日の事を心の深いところで覚えていたのだろう。

 

これで、必要なものは揃った。後は左目の力を解放するだけだ。

 

そう思っていると、船がこの真数千手の残骸に近づいて来た。

真数千手の残骸の脇につけたその船からは、出久達がやってきた。

 

「団扇くん、終わったの?」

「ああ、一応な。陰我はこの通り、力のコントロールを失って物言わぬ木片になったよ。でも、一応生きてる。てかどうやったら死ぬんだこの化け物。」

「団扇、殺す事を前提にするな。」

「...相澤先生がいるって事は、全員集合って訳ですか。」

「うん、ナイトアイの指示で動いてるヒーロー達に拾ってもらって、今みんなで来たところ。」

「そうか。...じゃあ、これでお別れだな。」

「...やっぱり行くんだ。」

「ああ、行くよ。そこに助けてを叫べない人がいるから。」

「...一つだけ聞かせて。団扇くん、その道の先に団扇くんの幸せはあるの?繋がりも何もない、遠い昔の仇を助けに行った先に。」

「おいおいおい、繋がりはあるさ。」

 

「たとえ遠く離れていても、たとえ世界が違っても、たとえ時間が違っていても、途切れないで心に残る。絆って奴はそういうもんだろ。」

「...そうだね。」

 

ここにいる皆は、雄英須佐能乎を体験している。その影響か、僅かに心が繋がっているのだ。だから、皆の行かないでくれという思いは伝わってくる。それでも俺は行く。

 

「団扇、一応言っておく。お前が校長に騙されて書かされたあの書類、あれは休学届けだ。お前がいつでも帰ってこれるように色んな人が色んな手を回していた。まぁ、無駄だったみたいだがな。」

「それはすいません。でも、やっぱり帰るつもりはありません。というか多分できません。過去に飛んでからどうなるかは、実験する訳にもいかなかったので。」

「結構無計画なんだね、団扇くん。」

「まぁ、多分旅ってのはそういうもんだ。何があるのか知らないが、男は一人で行くものさってな。」

 

拾い集めた陰我の木片を、出久に託す。

 

「この木片は、間違ったやり方でもこの世界を守ろうとした馬鹿な男の成れの果てだ。どうするのかは、お前たちこの世界に生きる人間に任せる。」

「うん、任せて。ナイトアイなら悪いようにはしないと思うから。」

「それなら安心だ。」

 

「じゃあ、行ってくる。」

 

そんな風に、何気ないような振りをして。左目にチャクラを込める。

 

流れる血涙が、俺自身のまだここにいたい思いを表しているようだった。だから、最後に一言言っておくことにした。

 

「団扇くん!」

「お前たちに会えた事は、俺の誇りだったよ。ありがとう。」

 

瞬間、左目の天鳥船が起動する。

 

体が千切れていくような不快感と、満ち足りている心の満足感のギャップが、少し面白かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時空の狭間、というのだろうか。今の人類には観測できない奇妙な空間を俺は歩いていた。

ただ、陰我の残した一つの思い出だけを頼りに。

 

長い旅の途中、自分が何者かがだんだんと分からなくなってきた。

それはそうだ、こんなところ人間が居るべき場所じゃない。

 

でも、歩みは止めなかった。自分が何者であるかは多分どうでもいい。やるべき事は心の深いところで覚えている。

 

それでも、その光景を目にした時。思わず飛び込んでしまいそうになった。自分を先輩と呼び慕う、彼女の死の瞬間を。

 

「俺は、後輩を!」

 

その時、誰かに手を引かれた。

顔は見えない、だが小柄な少女である事はわかる。

 

そんな彼女に前に進めと、そう言われた気がした。

 

彼女に手を握られてからは、何故か自分の事がはっきりと思い出せてきた。俺は団扇巡。ヒーロー名はメグルだ。

 

俺は復讐の為に時を超える。それがこの、旅路の目的だ。

 

それを思い出させてくれた少女に、「ありがとう」とだけ伝えて先を歩く。

 

もう、歩みは止めない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その瞬間を、私は決して忘れない。

毒ガスの蔓延したこの車内に突如現れたその黒いコートの人の奇妙な暖かさを。

 

「...誰?」

「未来からやってきた、仮免ヒーローだよ。」

 

そうして、その仮免ヒーローはいとも簡単に毒ガスを出す少年の個性を止めた。そして霧を電車の外に放り出して、一人一人に手をかざし始めた。

 

かざされた人の顔色が良くなっていった事から、それは治療だったのだろう。最後に、ゆっくんに近づいていった。

 

「これで俺の復讐は終わりだ、陰我。」

 

そう、ゆっくんに言い残して。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

なんとなく登った、高いビルの屋上からこの世界を見渡す。

俺の生きていた時代と、街並みはたいして変わらなかった。過去に来たという実感は、あまりない。

 

陰我を生み出した、超常黎明期にありふれた事件は終わった。

これで、未来で殺される転生者と、その事件に巻き込まれた人々の犠牲はなくなった。

 

だけど多分、団扇巡が生まれる事はない。俺の魂は、今の俺と繋がっているから。陰我の理論が正しいのなら、この前世の記憶を持った俺は生まれる事はないのだ。だから俺は、あの倍率300倍を誇る母校に帰る事は出来ない。結局超えられなかったのだ、団扇巡という少年はその壁を。

 

その事を考えると、そういえば俺は裏口入学みたいなもんだったなぁと思い出す。少し笑えてきた。

 

「さて、これからどうすっかねぇ...」

 

そんな時、大通りで戦闘を始める少年と大人達の声が見えた。どうやら何かのトラブルのようだ。

 

「ま、人助けしてから考えますか!」

 

ビルから飛び降りて、少年と大人達の間に入る。まだ、仮免の期間は残っているのだ。だから、ヒーローをやるとしよう。

 

「お前ら、戻れなくなる前に止まれ!止まらないなら無理矢理止めるぞ!」

「テメェ、何もんだ!」

「未来からやってきた仮免ヒーローだ!」

 

それが、俺の長い長い旅の始まりだった。




次回、二つの世界でのエピローグとなります。

ちなみに、シェルドレイクの仮説こと形態形成場仮説は本来記憶のありかについて、脳の中ではなく種ごとの記憶がサーバーとなるフィールドに存在しており、脳とはその受信端末でしかないという仮説です。とあるゲームで知りました。
9時間9人9の扉はいいぞ、というか極限脱出ADVシリーズはいいぞ(ダイマ)

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