「お、お邪魔します……」
家に入った瞬間、よく知っている匂いに包まれる。
前来た時もそうだったが、この家はまずい……。どこにいても由比ヶ浜の匂いがする……。
「お邪魔されました~♪ 座って座って~」
「ど、どうも」
リビング暖色のソファーに座る。
何故かガハママが隣に座って、こちらを見る。
「生ヒッキーくんだ!」
「んな、珍しいもんでもないですよ……そういえば由比ヶ浜は?」
「はーい♪ なんですかー」
「あ、いえ、お母さんのほうではなく……」
「んー?」
にやにやしながら、ガハママがこっちを見ている。
「ゆ、結衣さんは……」
俺がそういうとにっこりと笑い、人差し指を上に立てる。
「まだ、寝てると思うな。最近夜更かししてること多かったし、根つめすぎちゃったみたい。でも、ヒッキー君が来てくれたからすぐ治るよきっと!」
「どんな理由ですか……。つーか、俺みたいな暗い奴が来たらもっと体調悪くなると思いますよ」
なんせ、元「菌」だからな。ワハハ。人間にして、元バイ菌だ。俺ってマジウイルス。でも人には移らない優しい菌なんだよ? 人と接触しないからね。むしろ人に触れたら死ぬ。
というか、いつもの癖で自虐っぽいことを言ってしまった。完全に変な奴じゃないか。
ちらっと、ガハママの顔を伺ってみると、何故か目をキラキラさせている。
「ほ、本当にひねくれてるんだ……!」
「……え?」
「かわいい~~!」
がばっと、頭を抱きしめられる。
生まれて初めての乳圧という単語が頭に浮かぶ。ふにふにでもぷにぷにでもない、ぼよんぼよんだ。息苦しさと、今だかつて味わったことのない柔らかさで頭がボーっとしてくる。
「ちょっ、ちょっと、離してくだっ、さい」
「……あ、ごめんね」
そういって、ガハママが両手を離し、解放される。
おっぱいで圧殺されるかと思った……。このママやばくない……? あやうく本当にママって呼びそうになっちまった。
「ごめんね、おばちゃんにこんなことされたら嫌よね……」
お団子頭をくしくしと触る。由比ヶ浜とおんなじ癖でやっぱり親子なんだなあと、少し笑ってしまう。
「嫌というわけじゃないんですけど……っ! じゃ、じゃなくて、本当に一児の母ですか? うちの母親も結構若いほうなんですが、女子大生ぐらいにしか見えません……」
俺がそう言うと、目をキラキラさせてまた抱きしめようとしてくるが、さっと避ける。
「残念……」
ちぇっと唇を尖らせるガハママ。そういうとこですよ、ママ。
「結衣さんもそうですけど……、お母さんも距離が近すぎます……」
「ごめんね、娘と同い年の男の子が来てくれて浮かれちゃって。しかも、あのヒッキー君じゃない?」
「どのヒッキーくんですか……」
「結衣がよく嬉しそうに、なんであんなひねくれてるんだー! って話してたから、ずっとお話ししてみたいと思ってたの」
「そ、そうですか」
由比ヶ浜よ、家でどんな話しているんだ……。
肯定的に受け取っていいんだよね? ねえ、ガハマさん?
「で、ヒッキー君、無理やり引っ張ってきちゃったんだけど、よくよく考えたら、大丈夫だった? 受験生だし、お勉強とかあるでしょ?」
「あ、大丈夫です。今日は家で英語の過去問の答え合わせやろうと思ってただけですし」
俺がそう言うと、ガハママがご立派な胸をどんっと叩いてドヤ顔をする。
「教えてあげる!」
「……はい?」
……このあと、めちゃくちゃ勉強した。