火で燃えるチリが無数に道路の上を風と共に舞い踊り、非現実的な程に炎は大通りを喰らい尽くしている。
「それで……マスター。これからどう動く?」
片手にリボルバーを携えた黒髪の青年の後ろに立っているプラチナブロンドの少女は身に不釣り合いなほどの長さの黒剣を軽く振ると、青年に対し静かにそう問い掛けて。
「さて、どうしようかね」
だが青年はどこか曖昧な返答をすれば、どこか物憂げな表情で黙り込み。
少女は少し疲れたような顔をするが、すぐに輪とした表情に戻り、青年へと再度問う。
「マスター、ここで物見遊山も良いかもしれんがそろそろ火も強くなってきている。一旦火の手が及ばない場所まで行こうではないか」
少女のその言葉に無言の同意を示した青年はゆらゆらと、しかしはっきりとした足取りで少女の行く先へとついていく。
だが、青年はけして振り返らなかった。
そうして青年は振り返ることを、拒んだ。
立ち上る煙が幾分か遠のいたところで、近くの公園の中にあるベンチへと少女は青年を案内し、先に座れと言わんばかりの表情で少年を見つめている。
その表情にどこか思うことがあったのか、少年は口を開き。
「レディーファーストだ。どうせどちらが先に座ろうが良いじゃないか」
その言葉に少女は僅かばかり驚いたような表情をすると、そこから間髪入れずに愉快そうに微笑んで。
「フッ、そうか。ではお言葉に甘えるとしよう」
そう言って少女が遠慮なくベンチに腰掛けると、青年はのろのろと力なく腰を下ろし、気だるそうにため息を着く。
「あんた…いや、アーサー王だったか。この世界についてはどれくらい知ってるんだ?」
青年……山田太郎は可愛らしさの欠片もない、例えるならば体の関節という関節に泥でも流し込まれたかのような疲労感で塗れ切った上目遣いで、
一方のアーサー王は疲れを見せないような風貌で、太郎の声が聞こえれば、顔を向けず同じく声で返事をするが、その返事はどこか凛としており、それでいて風船の中に入った水のようなあやふやな真実味が含まれている。
「あぁ、知っている。もっとも、細かいことは知らないが……一言で表すなら、この世界は、そうだな」
王である少女は、言うべき言葉を選んでいるのか、はたまた別の理由なのか、コンマといっても差し支えないほど僅かに思案声を漏らすと、直ぐに次の言葉を紡ぎ。
「無数のページを括った本のようなものだ、様々な"ジャンル"に沿ったサーヴァントが集まり、何らかをしでかそうとしている。理解できたか?」
「あぁ、簡潔明瞭に説明してくれてありがとう。大方理解できたよ」
そう言葉を返した太郎は空気の抜けたゴム人形のようにベンチの背もたれに背を預けると、無数の雲が無限に泳ぐ空を見上げて白銀に煌めくリボルバーを、あたかも雲を掴もうとするかのように高く掲げ。
「で、さっきから右手に書かれてるこの趣味の悪い赤タトゥーはなんだ?あとマスターってなんだ?いつからアーサー王は俺の召使いになった?あとサーヴァントってここは奴隷が独立戦争でもしでかそうとしてるのか?」
「そこからか。まぁ……いいだろう、1から説明する。ただし長いから言い直さないぞ」
英霊と魔術師の二人一組が複数集まり、どのような願いでも叶えてくれるという聖杯を求めて争い合う聖杯戦争と呼ばれるものが遥か昔に造られたとのだが、英霊をそのまま現世に召喚するには些か荷が重すぎた。
そこで英霊の1側面のみを抽出して召喚することとした。例えば槍と弓の武勇を持つ英霊なら、そのどちらか一つに特化させられた英霊しか召喚でき無いというわけだ。
で、その英霊を分けるために大きく7つの役職が作られる。
剣士であるセイバー、槍兵であるランサー、弓兵であるアーチャー、騎兵であるライダー、魔術師であるキャスター、暗殺者であるアサシン、狂戦士であるバーサーカー。
その他にも裁定者やら復讐者やらがあるらしいのだが、今回のこの世界は内実的に見ると大規模な聖杯戦争らしいが、この世界にはそういうエクストラクラスとかいう部類がいないらしいので説明はされていない。
そして、その剣士とか弓兵とかで蠱毒じみたことをやらせ、無事優勝者が聖杯を手に入れたら終結ということになるらしい。ひどく悪趣味だが、それほどまでに聖杯は重要視されてるんだろう。俺はキリスト教徒じゃないのであんまり分からないが。
それで感じなのがその英霊……聖杯戦争じゃ
「俺とあんたは主従関係ということか?」
「そういうことになるな。で、その赤い紋章なのだが」
この紋章があれば、なにやら3回だけサーヴァントに一定範囲であればどのような命令でも強制的に動いてもらうことが可能らしい。
名称は令呪。呪いを命令するから令呪なんだろうか?サーヴァントなりマスターなり、この聖杯戦争を作った人間はよほど捻くれているんだろう。常人なら奴隷と主人とかいう名称はつけないどころか使おうとすらしないだろうしな。
しかしサーヴァントとマスター。
サーヴァントとマスター……?ん、待てよ?
「おい、ということはまさか」
「あぁ。我々は聖杯戦争に参加しているということになる。つまり……必然的に狙われやすくなるということだ」
カミサマ、どうやら俺の人生はまたすぐ終わりそうだ。