Fate/Yamada   作:処炉崙霸β

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平等な死

 「ひぃ、ひぃ、ひぃ、くそ、くそ、くそ!」

 顔中を粘性のある涙と鼻水で汚しながら、灰色のトレンチコートのようなものを羽織った男はひたすらに薄暗い路地裏を走る。

 

 男はメフィストフェレス.....この聖杯戦争におけるキャスターのマスターであった。

家としては若いが、それなりの血統書付きの魔術師の家に生まれ、そしてその家の五代目家長として名を受けたこの男は、自身を天才と自負していた。

 

 いや、この男は天才には違いなかったのだろう。

普通の魔術師を上回る魔術回路を持ち、普遍的な属性である火でありながら、一般的に魔術師としては希少な風の属性を持つという二重属性のこの男は、一般的な"時計塔"の魔術師から見れば紛れもない天才である。

 

 若い血統ながらもそこそこの魔術師の家に生まれ、魔術師としての人生においてトップクラスの恩恵を赤子にして授かっていたこの男は、当然の如く魔術師としての生を歩み出した。

 

 有史以来存在してきた魔術師たちの目的であり、同時に神の領域たる"根源"へと至るため、他の魔術師たちと同じように魔術を研究していたこの男は、ある日突然、あっけなく死んだ。

 男がいつものように研究室で自家の魔術の研究をしていたら、唐突に心臓発作を起こし、そして死んだのだ。後継者もまだいなかったというのに。

 

 だが、そんな男は、なぜかこの世界に転移していた。

そして男の理解が追いつく前に、男の脳内へと知識が無数に流入してきたのだ。

 

 曰く、この世界は聖杯戦争の為だけに用意された世界である。

 曰く、この世界で聖杯戦争に勝利したものは、元の世界に還り蘇生されると共に、自身の持つ願いを何であれ叶える方ができる。

 曰く、聖杯戦争とは...。

 

 男は魔術師である。当然ながら男も聖杯戦争についての知識を多少持っており、そして概ねその知識とこの世界の聖杯戦争は差異がないようであった。

 普通ならばなんの冗談だと思うことだろう。

だが、この聖杯戦争の参加者たちは誰しも均しく死者であり...そしてなんらかの願いを持つ者たちであった。

 

 勿論、男の願いは決まっていた。

根源へと至ることである。なんと言っても、自分以外の有象無象を殺しさえすれば、元の世界へと戻ることができ、そして更に根源へと至ることができるのだ。魔術師の到達点へと到達することができるのだ。神になることができるのだ。そしてその名誉は世界中に響くことになるのだ。

 

 そして男は与えられた知識通りにサーヴァントを召喚した。

召喚されたサーヴァントの役職はキャスター...真名はかの有名な悪魔であるメフィストフェレスであった。

 

 男にとってメフィストフェレスは性格に合わず、むしろ嫌いな部類の者であったが、自身が勝つ為であると思い込めばそれも忘れることができ、そして今回だって、いかにもな雑魚と共に強力なはぐれセイバーを殺すことができたはずだったのだ。

 

 だが、現実は非情であった。

「はぁっはぁ、なぜだ!なぜだ!ありえない、ありえない!」

"無能な雑魚に天才が負けた"。その事実に男は混乱していた。

 

 完璧な作戦だったはずだ。

呑気に魔力を隠しもせず食事をしていた2匹を殺し、そして聖杯戦争の頂へと到達する礎を登るはずであった。

 

 だが、勝利のために必要である肝心のサーヴァントは消滅し、結果的にマスターである自分が残った。

 勝ち目はない。死ぬしかない。勝ち目が、勝ち目が。

いや、自身は天才だ。雑魚どもに負けるはずがない。無数の絶望感に苛まれる中で男はそう思い込み、そして解決策を打算していく。

 

 単純明快な話ではあるが、サーヴァントを失ったものがサーヴァントを得るには、マスターのみを殺してサーヴァントを奪うしかないーーもっとも、サーヴァントを奪うにしてもそのサーヴァントが新たなマスターに従えばの話だがーーそれでも男は自身は天才である故それが可能であると答えを出した。

 

 それに、メフィストフェレスは前々から気に入らなかった。

そうだ、どうせならあの雑魚の従えたはぐれセイバーを新たなサーヴァントとするとしよう。そうだ、アレならば多少自身にも釣り合う見た目と態度をしている。そうだ、自身は聖杯戦争の頂へと、頂へと立つのだ。

 

 

 

 

 そう思っていた刹那、男の右足が炸裂し、赤い血の霧が辺りに撒き散らされた。

 男は目をぎょろりと回して、突然走った激痛と熱の元へと視線をやろうとする。だが、残念ながら男はその痛みの原因を理解することができなかった。

 

 なぜならば、既に男の首から上は失われていたのだから。

無残な死を遂げたソレは...最後まで自身を天才であると断固として疑わなかった男の最期は、存外あっけないものであった。

 

 そして、走り逃げていた魔術師の男にあっけない死を訪れさせた者は、満月を背にただうつろに男の亡骸を見ながら、静かに唇を三日月に歪ませた。

 

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