聖杯戦争……。にわかには信じられなかったが、事実俺は爆殺された。もはやその事実は曲げようが無いのだろう。
時刻は夜。綺麗な青い満月の浮かぶ闇夜の空の下、俺はビジネスホテルのシングルベッドの上で一人頭を抱えていた。
サーヴァントやら魔術やら聖杯やら。
俺は頭がおかしくなったのか?と思うほどだが、生憎元からこの世界は頭がおかしかったので今更だろう。公園で実は女だったゴスロリアーサー王が転がっていたり、ハンバーガーショップで飯を食ってたら爆殺されたりだとか。とにかく糞みたいな世界には違いない。
ざーざーというようなシャワールームの篭もった水音以外はまったくもって音のない部屋の中で、改めて俺はため息を吐く。
サーヴァントとやらはあのハンバーガーショップでも見ていたが、拳銃弾じゃびくともしない化け物であり、そして一撃でそんな化け物の首を切り飛ばすことだってできるものらしいが、今現在シャワーを浴びている自分のサーヴァント……それもかの有名なアーサー王が本当にそんな化け物なのかはにわかには信じがたい。
強大なサーヴァントたちによる殺し合い。だが、サーヴァントが敵に行使する力は当然自分の雇い主にも行使できるわけで、そういったものを防ぐために、いかにも趣味悪そうな右手の甲にいつの間にか掘られてたタトゥー……令呪とかいうやつがあるらしい。
三回のみ、なんか凄いパワーでサーヴァントを呼び戻したり平伏させたり自殺させたりできるすぐれ物らしいが、正直言ってこんなタトゥーに意味あんのかと思ったりすることは多々ある。
なによりサーヴァントとかいうのは飯も食わなくていいし風呂も入らなくても綺麗なままで寝なくても百%働けるらしいのに、俺のサーヴァントは大量の飯を食うわ風呂に入るわで散々だ。
本人曰く、この聖杯戦争は不完全なもので、それが要因でマスターとの魔力の
飯以外にも魔力を変換できる方法もあるらしいが、マスターの血を飲ませたり好きでもないサーヴァントと交わったりとえげつないものしかない。つまり飯食わせるのが手っ取り早く効率的なのだ。……あの飯の食い方見てたらコイツ明らかに必要な魔力以上の飯食ってるんじゃねぇかと思うときもあるが。
何はともあれサーヴァントは仮の肉体を持った幽霊のようなもので、さっきから連呼してる魔力とかいう不思議パワーがなければその仮の肉体を維持できず力も発揮できないとかなんとか。
一般的な……アーサー王曰くこことは"違う世界線"の聖杯戦争はマスターからサーヴァントが召喚されたりするらしいのだが、ここの聖杯戦争はむりやりこの世界に召喚され、マスターと契約を取らないといけないらしい。
大体のサーヴァントはマスター候補の近くで召喚されてるらしいのだが、アーサー王は生憎マスターのいない状態での召喚で3日ほど彷徨った結果、あんなふうに公園で生き倒れてたとかなんとか。
ぶっちゃけオカルト知識ばっかで頭が痛くなりそうだが、とりあえずマスターは魔力噴き出しすぎなんでそれ抑えとけ、魔力隠さないとサーヴァントの自分もマスターに連動して魔力噴き出るから。やり方は黙想しときゃそのうち分かる、みたいなことを言われたので、現在こんなふうに考え事しながら黙想しているわけだ。
「マスター、上がったぞ。ん……うまく隠せてるじゃないか。コツは掴めたか?」
ふとリンと風鈴のように響く声が耳に届いた。どうやら長風呂が終わったらしい。
「まぁなんとかコツは掴めたけど、風呂なんか入って大丈夫なのか?お前がいないと俺はまた爆殺されそうなんだが」
「案ずるな、マスター。あの事故はマスターとのパスがうまく繋げてなかったから起こったことで、常に周りの魔力くらいは把握している。それに念には念をと、警戒の上いざというときには鎧を発現させて戦闘をできるようには整えていたから、その点は安心していい」
つまるところ、俺が死ぬことは早々無いということか。じゃあ安心して寝れそうだな。
「とはいえ、キャスターを殺したのだ。残りはセイバーの私を含めて6名か…もっとも"エクストラクラス"でも来なければの話だが」
「エクストラクラス?」
「復讐者や裁定者……いわゆる招かれざる客のようなものだ。警戒しておくに越したことはないが、基本的にエクストラクラスは無視していい。不明瞭な脅威1つより、明確な脅威が5もいるんだからな」
「まぁ、それもそっか」
寂れたビジネスホテルの一角。
小さめの四角い窓には、まるで絵画のように光り輝く月が、喧騒の光のせいで星の消え去った暗黒の中に浮かんでいる。
明日も生きられたらいいな。
そんな願いを最後に、俺は静かに眠りに落ちた。