「ぼ、僕…突然マスターとか意味わかんなくて。それで、さっき知らない人に攻撃されて。でも、匿ってくれて本当にありがとうございます!」
気弱そうな男は笑顔でお礼をいう。
その顔はTHE現代人といった風貌で、おそらく優しい家庭で育てられたのだろうと推察できる。
「いや、大丈夫だよ。それより、他に傷とかはない?」
「あ、す、すみません。背中のここ、お願いします…つぅ!」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
消毒をしていたセイバーがわざとらしくそう言うと、俺に鋭い目つきで目配せをする。
そう言って俺は自嘲気味に笑う。
そうか。そうだよな。これは戦争なんだ。戦争だ、だから……生き抜くためには。
俺は静かにナガンリボルバーを彼の視界の外から取り出し、彼がセイバーの機転でこちらから視界を外した次の刹那。
腰掛けていたシングルベッドの枕を右手で素早く握れば、彼の頭に打ち付けるかのように枕を思い切り押し付け、彼を床へと押し倒す。
「あっ、がっぁ!」
彼は何がなんだかわからないというふうな声調で悲鳴を上げる。そうだ、でも………。
そしてくぐもった銃声が鳴り、彼の頭蓋は跳ね上がれば、枕からは羽毛の焼けた匂いと共に、赤い血液が枕を徐々に染めていった。
「上出来だ、マスター」
「……」
「分かっていたのだろう。それとも、私を責めるか?」
「いや、ただ…俺は、地獄行きだろうな」
「少し訂正だ、マスター」
俺が彼の死体を見つめながら、自嘲気味にいると、セイバーは静かな口調でそう言った。
「元よりこんな殺し合いに巻き込まれた時点で、お互いろくな末路を辿ることはないだろう」
「さて……これからどうする、マスター?他の者共がこの男の魔力を辿ってこのホテルを特定されることは十分にあり得るぞ」
「ひとまず、ホテルは変えたほうがいいだろうね。あとは、この死体をどうするかと言ったところだけど」
俺がそう言うと、セイバーは少し思案するような顔を見せて、浴室に目をやった。
「フローリングに血は垂れていない。たっぷり血を吸い込んだ枕とカーペットと死体を浴室に投げ込み、そこに備え付けてある香水でも垂らしておけば急場しのぎにはなるだろう。朝方にはバレるだろうが」
するとセイバーが手際よくカーペットを運び始めたので、俺は、額からとぷとぷと血を流し、苦悶の表情で目を開けたままの男の瞼を閉じさせたら、そのまま枕のカバーを取り去り、男の頭に巻きつけて床に血が垂れないようにしつつ、戻ってきたセイバーに枕本体を渡す。
そしてそれから十数分後ーーー部屋にそこそこの品質であろう香水の匂いが見事なまでに充満する。
「悪くない匂いだな。血生臭さはしばらく抑えられるだろう。あとはマスター、ホテルを出るまで腕を貸せ」
「腕?いいけど」
そして俺はセイバーに右腕を向ける形で体を翻すと、セイバーがそのまま右腕に絡んでくる。いわゆる腕組みとかいうやつをしてきて。
「これは?」
「単に怪しまれないためだ。香水がぷんぷん香るのに何事もなかったように外を出ては、フロントの者が何かしらを察して部屋に行くかもしれないだろう?恥ずかしいかもしれないが、我慢してくれ」
「…………了解」
フロントの青年から生暖かそうな視線を送られつつ外を出ると、セイバーは凄く自然に腕組みを解いて。
「あの様子だと、朝方までは大丈夫だろう。ホテルから離れるには十分だ」
「だけど、わざわざあそこで殺す必要はなかったかもしれない。それこそ、浴室に男を連れ込んで首締めなりしたほうが良かったんじゃないか?」
「単純に、私がマスターを試したかっただけでもある。嫌だったか?」
「嫌ってわけじゃない。でも」
「でも?」
「いいや、なんでもない」
ふと喉から出かけた、"人殺しをしたくはなかった"という言葉を飲み込む。
今更、一人殺そうが二人殺そうが変わらない。
ロシアの時に手は今以上に汚してるんだ。
俺に、人殺しを悔やむ権利はない。
自分の未来のために、人の未来を奪うような男に、そんな権利など無いのは、とっくの昔に知ってる。
4人目のマスターはどんな人物にすべきか
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サイコ野郎
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ナルシスト
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熱血
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冷血
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典型的魔術師