「そうか。また……ここからなのだな」
轟々と燃え盛る炎と、宇宙まで貫いているかのように高くそびえ立っている光の柱を背に、一人の少女は漆黒の剣を硬質な地面に突き刺し、瞼を落とし、静かにそう呟く。
幾度も、幾度も目に写し、脳に焼き付けてきたその景色は、少女の感覚としてはテレビのディスプレイから流されている画像を見ているかのようで、なんの現実味もない。
少女は数え切れぬ程、この運命を変え、歪ませ、そしてより良い物へと変えようと試みた。
しかし、この"次元"では、この"時代"では、この"場所"では、何を試みようと、何を成そうと、少女の思い描く理想には遠く辿り着くことは出来ないということは、もはや分かり尽くしてしまったのだ。
そこで、少女はある行動を取った。
せめてもの抗いとして、自らを限界させた
されど……それは、けして彼女が取ろうとした行動ではなく、むしろ彼女が制裁すべきものだった。
そう。彼女は、
この繰り返される時間の中で、自らが決めた、その理想を叶えてもらうがために。
いつかであったか。
一度、若き英雄の一人が自らにこう説いてくれたことがある。
「なんで、貴女はそんなにも苦しそうな顔をしているのか。なぜ、貴女はそのように刃を震わせているのか」
剣術のけの字も分からないような、人の顔も読めないような純真な者にバレてしまうほど、少女の体はそれを拒んでいた。
だが、少女はこう答えた。
唇を噛み締め、口の端から血を垂らしながら、剣を持つ手を強く握りしめながら。
「貴様らのように弱き者たちを相手にしているから、こちらとしても快くない。だがな、私の持つ剣の刃が震えているのは、貴様らを殺すのに関して、とても楽しみであるが故だ」
英雄はそれで気を変えたか、はたまた少女の真意を汲み取ったのか。
少女を見事打ち倒したのであった。
まるで叙事詩の主役である騎士が悪役のドラゴンを征伐するかのように。
少女は、また英雄を待つ。
無限のように続くこの世界を、救うがために。
そのために、そのためだけに、少女はひたすらに我慢し、英雄を焚きつけるためだけの案山子となる道を選んだのだ。
されど。
少女は何故か剣の柄を持つ手を震わせた。
かたかたと、だが自分の意志では制御できないような、しかしとても些細な細かい手の震え。
宝石を埋めたかのように人間味のないその瞳に、何らかの感情を宿し、彼女はもう一言。
ひとつの言葉を紡ぎあげた。
「私は……私は」
「もう、こんな運命は受け入れたくはない」
「だから、だから。誰でもいいから、私を、私を」
「助けて」
ぽつり、と小さなしずくが少女の足元に落ちた。
そのしずくは少女の頬を伝い、また足元へと落ちていく。
ただただがむしゃらに、とても冷徹で残酷な魔王を演じる案山子に徹していた少女は。
その心根までも魔王へと染めたわけではなかった。
ただ運命を受け入れるだけの案山子へと変化させたわけではなかった。
故に、ある者は彼女に対し、救いの手を差し伸べた。
なんの脈絡もない、なんの関係もない赤の他人。
だがその者は己が理想を成し遂げずに死ぬ運命を信じぬまま、その運命が訪れたのにもかかわらず、その運命を知りもせずに己の理想を追い続けている大馬鹿者。
されど、その大馬鹿者だからこそ、彼女を救うための
世界は再び動き出す。
本来あるはずではなかったイレギュラーを新しく抱えたまま。