空は青々と広がり、太陽は爛々と輝き大地を照らしている。
視界を埋め尽くすは巨大なビル群。
その合間を縫うように作られているように見える広めの道路。
道路には何十台もの大小様々な車両が走っており、そこから生み出される排気ガスと太陽から発せられる熱のせいでなんとも粘ついた暑さが体中を覆っている。
そして、背中には柔らかさを感じる重み。
歩道を歩いている人間たちからは奇異な目で見られている。
そりゃそうだ。
普通に過ごしていたら、こんな真夏の昼の大都市に背中に中世にでもありそうな漆黒のドレスを身に纏った高校生ほどの少女をおんぶしている男を見ることすらないはずだ。
ああ、有り得ない。
俺でもこんなことする奴がいたら目の前のサラリーマンがするような目で見るに違いないだろうよ。
ああまったく。
一体全体、どうしてこうなった?
三十分前
「どこだここ」
先程の白い部屋から出て気を失ったかと思えば、閑静な噴水のある公園のベンチの上で寝転がっていた……なんて、今時どんな漫画でもないような演出だろうに、現に俺はその状況に遭っている。
しかし、なんというか……いい場所だ。
本当にッ…!?
おいおい。携帯電話だと?
嘘じゃない、夢でもない。確かに、噴水の近くに立っている女性が携帯電話を、まぁパカパカする方ではあるものの…確かに使っている!
嗚呼神よ!
やっと運が回ってきたんだ!苦節八十年…七十年だったか?まぁそんなことはどうでもいい!
ともかく存分に楽しませてもらうぞ!
これが、本当に本当の、俺の本当の人生の筈なんだからな!
ろくなヒーターやクーラーもない、娯楽といえば音楽を聴くが本を読むかスポーツをするかだけの時代とはもう違うんだ!更に体も若いし!
さて、そうと決まれば早速買い食いでもしようか。
いや、待て待て。まず買い食いする金は……妙だな、預金通帳には爺さんだった頃の貯金がそのまま入っている。まぁいいや、どうせこれも神の思し召しってやつなんだろう!財布には貯金の他に五万円くらい入ってたし、よほど困るってわけでもないだろう。
じゃあ、早速行くとするか。
本当に楽しみだよ、これからの人生が。
「は、腹…なにか、飯、を」
え?
何だ、このゴスロリみたいな服の白人は。しかも変なこと呟きながら倒れたし……ああいや成るほど、こういうのもいるってことはそういうアニメなりゲームなりもあるってことなんだよな。うんうん、いい事だいい事だ。じゃあ行くか。
え、何?誰も助けないの?
しかもなんで、その身内なんだろうし助けてやれよ、みたいな視線で俺を見てくるんだ?
いや、俺は助けないぞ?
俺はそんなに甘くないんだ、大体こういうのは自己責任なんだから……。
「で、今に至る、か。それでさっさと飯屋に行きたいんだが、まず第一ここ日本のどこなんだ?」