結月ゆかりの人間関係   作:アニヴィア

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もう一回!もう一回!っていうかお顔見せて!!

 「ゆかりちゃん、笑って笑って」

「はい?」

「笑顔見つけたら写真撮ってくれるんだって。試したいんだよ。ほらほら」

「別に撮らなくていいですけれど」

ベンチの隣に座るゆかりちゃんをスマホのカメラ越しに見ると、いつも通りの無表情だ。

 新しく買ったスマホの機能早速試してみたくなった、のはいいんだけど。

表情永久凍土のゆかりちゃんで試そうと思ったのは失敗だったかもしれない。

笑ってくれる気配を感じない。

でも、拒否されれば意地になるのが人情ってもんだよね。

 

 作戦① 笑い話

「私が小学校の時、テストで100点取ってね」

「嬉しかったでしょう」

「うん。もう嬉しくて本当嬉しくて、急いで親に見せたくて、学校が終わった瞬間、走って家に帰ったんだ」

「弦巻さんらしいですね」

「凄い体軽くて、もう飛んじゃいそうなくらいだったんだけど、ふと後ろに違和感を感じてね」

「はい」

「振り返ると、なかったんだ。ランドセルが」

「早く帰れそうですね」

「学校に忘れちゃってて、滅茶苦茶恥ずかしかったよ……」

「私も小学生の時似たようなことしましたよ」

「えっ!嘘!?」

「はい、嘘です」

「おのれゆかりちゃん」

結果:騙された。

 

 作戦② 褒めてみる

「ゆかりちゃん綺麗だね!」

「全く」

「可愛いね!」

「弦巻さんの方が可愛いですよ」

 熱くなった顔から火が出そうだ。

結果:カウンターされた。

 

 作戦③ くすぐり

「もー!」

「何ですか」

「もおおお!!」

「何なんですか」

結果:20分程やってみるも効果無し。

 

  

 作戦④ お願い

「ゆかりちゃん、にこってして」

「子供ですか」

「君の笑顔が見たい」

「少女漫画でしょうか」

「宝石の輝きなど、貴方の笑顔の前では霞んでしまう」

「劇ですね」

結果:これで笑ってくれるなら、そもそも始めの時点で笑ってくれてる。

 

 作戦⑤ 思いつかない

手詰まりになってしまった。

「もー。何でそんな笑ってくれないの」

「表情作るのは苦手です」

「少しだけでいいから」

「無理です」

「3,2,い」

私のカウントダウンは、私の肩に置かれた手によって止められた。

反応する暇もなく肩を抱き寄せられて、ゆかりちゃんの肩と私の肩が当たって。

間近にゆかりちゃんの顔があって、綺麗な紫色の瞳に吸い寄せられそうで。

ゆかりちゃんの唇がゆっくり言葉を紡いで。

「笑ってください」

「え、え、ええ、う、うん」

心臓の音が頭に響く。

ゆかりちゃんまで聞こえてるんじゃないだろうか。

頑張って笑顔を作りた、作れてるのかな。

私今どんな顔してるんだろ。

 

 カシャッ。

シャッターの音が聞こえた。

スマホを見ると、画面の端っこに赤面して小さく笑う私と無表情なゆかりちゃんの写真が出ている。

「撮れましたよ」

そっか、そういうことか。

ゆかりちゃんの笑顔じゃなくても、シャッターは切られるよね……

けど、

「駄目!」

「はい?」

「ゆかりちゃんの笑顔じゃないから駄目!もう一回!」

「撮れたんだからいいじゃないですか」

 

 絶対に笑顔を見てやる。

目的が変わった気がするけど、仕方ないよね。

 

 「よくない!早く」

「落ち着いてください」

「落ち着かない!笑ってくれないと、あかりちゃんに言うよ!?」

「何の脅しですか」

 

 

 

 昨日読んだ小説、今日の天気、明日までの宿題。

そんなことを毎日気軽に話せるほど、私とゆかりお姉ちゃんの距離は近くない。

電話はたまにならともかく、頻繁に掛けては迷惑でしかないだろう。

本当は毎日声を聴きたいけれど。

なんて考えながらスマートフォンを眺めていると、突然震えだした。

 弦巻先輩からの電話だった。びっくりした。

耳に当てると、明るい声が聞こてくる。

『やっほー。もしもしあかりちゃん。今、電話大丈夫?』

「あ、はい。大丈夫です」

『よかった。突然ごめんね。ゆかりちゃんを笑わせてくれない?』

「はい?」

本当に突然で声が裏返ってしまった。

『お願い!じゃあ、ゆかりちゃんに代わるね』

「え、えっと」

どうしよう、いきなりそんなこと言われても。

そんな簡単に笑ってくれるならずっと私してるし!

『すいません、弦巻さんが突然変なことを』

ゆかりお姉ちゃんの声が聴けるのは嬉しい。

けど、笑わせろって言われても……。

あ、でも、そういえば。

 

 

 頼みの綱のあかりちゃんとゆかりちゃんが電話で話し出す。

すると、ゆかりちゃんがくるりと回って後ろを向いた。

私が顔の方向に回り込むと、さらに後ろを向かれた。

これは……。

「何?何言われたの?」

「明日の天気についてです」

声が若干だけど震えている。

「絶対嘘でしょ!」

「明日雨らしいですよ」

「じゃあ傘がいるね!あかりちゃんに聞くからいいよ!」

スマホを返してもらってあかりちゃんに聞くと、あかりちゃんも恥ずかしそうだったけれど教えてくれた。

え、本当にそうなの……?

 

 正面に回れないから、ゆかりちゃんの顔を後ろから覗き込んで、耳元で囁く。

すると、両手で顔を覆って俯かれた。

指の間から隠しきれない赤が見える。

「ゆかりちゃん、格好いいね」

これだけだった。

釣られて私の顔まで熱くなってしまった。




 最後まで読んでいただき、有難うございました。
今回は、2000ua記念+10話記念に、2000字丁度+1話目を意識しながら書きました。
次も書こうと思っているので、宜しければお願いします。


……書いてるうちに3000uaに届きそうなんてそんなことがまさか。

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