結月ゆかりの人間関係   作:アニヴィア

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私があなたに贈るもの

 私は嬉しさのあまり思わず飛び上がった。

それを見た友達にからかわれ、恥ずかしさのあまりその場から脱出。

しかし収まらない興奮のままに両手を振ることしばらく。

よし、やっと落ち着いた。

 中等部3学年度1学期中間試験、目標は15位以上、私の順位は15位!

辛うじてだけれど、目標達成!

今回の試験は得意な問題が多く出て運が良かった。

けれど、前の私では運が良くても届かなかった順位だ。

嬉しい。本当に嬉しい。頬の緩みがしばらく取れそうにない。

 早速ゆかりお姉ちゃんに報告しよう、スマート……。

いや、駄目だ。

ゆかりお姉ちゃんは試験の結果がでた後、試験前の疲れと寝不足を解消するためだろう、ぼんやりしているか、寝ているかになる。

試験前には体調を崩していたし、そんな状態になる前にちゃんと休んで欲しいけど……。

とにかく今連絡したらお休みの邪魔になってしまうから駄目。

 

 そうだ、ゆかりお姉ちゃんで思い出した。

私が目標を達成したら、私からの贈り物を受け取ってもらう約束だ。

贈り物は何にしよう。

 前にゆかりお姉ちゃんから貰ったときは、私が欲しいと思ったものを察してもらえて嬉しかった。

私も真似したい。

直接聞かずにゆかりお姉ちゃんが欲しいものを贈って「嬉しいです」と言われてみたい。

 でも、何が欲しいんだろう。

一番必要そうなものと言えば……シャープペンシルの芯かな。

それをラッピングして受け取ってください、って寂しすぎるよね……。

うーん。お洒落に気を使う人じゃないし、食べ物も特に好物っていうのが思い当たらない。

どうしよう。

 

 

 土曜日、学校がお休みの日、私は前に弦巻先輩に案内してもらった、駅を中心に色んなお店が集まる場所にやってきた。

電車から降りると、お空に高く昇った太陽が奇麗に見える。

いいお天気、帽子を被ってきてよかった。

よし、頑張ってゆかりお姉ちゃんにぴったりの贈り物を探そう。

そして私の目標達成の報告と一緒に贈るのだ。

喜んでくれるといいな。

改札を通って一番近くの小物屋さんに足を向けた。

 

 たくさんのお店を見回って、数えきれないほどの物を見た。

小物屋さん、アクセサリーショップ、アロマ専門店、化粧品屋さん、服屋さん、靴屋さんに鞄屋さん。

薄い水色の日傘、深い緑色の扇子、小さな兎の置物、お月さまがついたブレスレット、紫色のアロマポッドに柑橘系のアロマオイル、宝石のように奇麗な石鹸、青色の帽子、少しお洒落目なスニーカー、シンプルな黒いバッグ。

 色々見て回って色々候補を見つけた、のはいいんだけれど、どれが一番喜んでくれるだろう。

こっちの方が可愛らしい、あっちの方が便利、そっちの方が癒される。

考えれば考えるほど頭の中がぐるぐるしてしまう。

うーん。これしかない!っていうものが見つかると良かったんだけどな。

次のお店に行ってみようか。

 そう思って一歩踏み出すと、帽子に何かが落ちてきた。

雨だ。濡れてしまう。

急いで近い軒下に入る。

空を見上げると、いつの間にかねずみ色だった。

傘は持ってきていないし、しばらく動けそうにない。

早く探したい足を止められたようで、ため息をついた。

 足を止めるとネガティブな考えが浮かんでしまう。

本当にぴったりの贈り物は見つかるんだろうか。見つかったとして喜んでくれるんだろうか。

私が目標を達成したから、仕方なく受け取ってくれるだけなんじゃないだろうか。

考えてしまうと頭の中が嫌な考えだらけになってしまた。

灰色の空を見ても何が変わるわけでもないけど、でもそうする他ない。

ん?後ろから音楽が聞こえる。

お家かと思ったけど違うのかな?

後ろを振り向くと、綺麗な金色の髪。

 「あかりちゃん、久しぶりー。今日は帽子被ってるんだね」

弦巻先輩がギターケースを背負って立っていた。

よく見たら後ろは楽器屋さんだった。

 

 「15位ってあかりちゃん凄いね。おめでとう!」

「あ、有難うございます」

 事情を話すと、弦巻先輩は相槌を打ちながら興味深そうに聞いてくれた。

「でも、贈り物見つからないのは困っちゃったね」

「そうなんです。せっかく私の目標達成とゆかりお姉ちゃん首位のお祝いなんですけれど……」

「あれ?もうゆかりちゃんと話したんだっけ?」

「いえ、まだです」

「何でゆかりちゃんが首位って知ってるの?」

「え?違うんですか?」

私の問いに帰ってきたのは、弦巻先輩の笑い声だった。

何で笑われたのか分からなくて、どう答えたらいいのか分からない。

笑い声と楽器屋さんから聞こえる音楽がセッションしている。

私も歌で加わるべきなんだろうか。

「ごめんね、笑っちゃって。そうだねー……あかりちゃん、ゆかりちゃんにして欲しいことってないかな?」

「して欲しいことですか?」

「うん。喜んで欲しいにも、例えば、ほら、食べ物なら食べて健康になって欲しいとか、服ならお揃いの服を着て欲しいとかあるでしょ?」

やっと笑いを収めた弦巻先輩の言葉を受けて、私は頭を捻って考える。

喜んで欲しいとばかり考えていたけれど、もう一歩踏み込んだ考えもあるのか。

当然健康になって欲しいし、お揃いの服を着てみたいけど……。

でも、別の物を思いついた。

我ながらしっくり来たと思う。

「えっと、その……時計、なんて、駄目、ですかね」

「うん?いいと思うけれど、何で時計なの?」

「その……」

理由を話すと弦巻先輩は再び笑い出した。

そんなひどかったかな……。

「……やっぱり、駄目ですかね」

「いやいやいやいや、笑ってごめんね。でも、いいと思うよ。本当に。それが一番だと思うよ」

「……本当ですか?」

「本当。今から一緒に見に行こうか。まだ時間大丈夫?」

「時間は大丈夫ですけれど、雨が」

降っているから動けない。

そう思って空を見上げると、いつの間にか雲の隙間からお日様が見えて、雨は止んでいた。

「今なら大丈夫!行こう!時計って腕時計?それとも置時計とか掛け時計?」

「え、えっと、まだ考えてなくて」

「じゃあ両方見に行こう!」

「は、はい」

明るい笑顔の弦巻先輩の後に続いて、私もお店に向かった。

 

 悩んだ結果、私は贈り物を置時計に決めた。

アナログの四角い置時計。

黒が基調で、数字と3本の針、時計の中にいる3匹の小さな兎だけは白。

始めは兎が書いてない文字盤だけのものにしようと思ったんだけれど「贈り物なんだから、もっと可愛いのでもいいと思うよ」と弦巻先輩からの助言に従って、これに決めた。

うん、可愛い。これ!だ。

 

 

 渡した日のことはよく覚えていない。

悩んで、これ!と決めたはずなのに、渡す寸前までこれでいいのかとまた考えてしまって、体が震えて、段々頭が真っ白になって。

でも、渡して、時計を見たゆかりお姉ちゃんは有難うって言って、頭を撫でてくれた。

撫でてくれた手は凄く暖くて。

その手の熱が私の頭に伝わって、気を失ってしまいそうだった。

 

 

 

 あれから何日か経った、そろそろ渡せたかな?

上手くいっただろうか。きっと上手くいっただろうな。

しかし、時計を贈った理由を思い出すとまた笑ってしまうな。

 ん、電話だ、あかりちゃんから。

噂をすれば影だな。

「はーい、マキさんだよー」

『つ、弦巻先輩、受け取って貰えました』

呼び方を変えてくれないところ、姉妹でよく似てる。

「よかったね、どうだった?」

『頭を撫でてもらいました!』

「ゆかりちゃん嬉しかったんだろうね」

『頭を撫でてもらいました!!』

「あかりちゃんも嬉しかったんだね」

 続くあかりちゃんの言葉を聞きながら、小さく笑う。

ゆかりちゃんにして欲しいことは伝わったのかな?

『体調を崩さないように、時間を見て寝て欲しいんです』だってさ。

贈り物が枕やお布団になる前に、ゆかりちゃん何とかしてあげてね。

 

 

……私の結果152位。もう少し何とかしないとな。




 最後まで読んでいただき有難うございました。
前回から今回までで、3000UAを達成したり、感想をいくつもいただいたり、高評価をいただいたり、本当に有難うございます。
私が書きたいように書いてる物を楽しんでいただいてる方がいらっしゃるのが本当に嬉しいです。
3000UA記念を今度書こうと思います。
次は少し早めに投稿出来そうです、宜しければ読んでいただけると有難いです。

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