結月ゆかりの人間関係   作:アニヴィア

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SSを開いていただき有難うございます。
福岡方言の琴葉茜が出てきますのでご注意ください。


赤いから

 ウチの好きな色、一番は赤色。

服も赤が入ったものをよく着るし、赤色の小物を見つけたらついつい手に取ってしまうくらい好き。

けど、好きじゃない赤が二つある。

 1つは血の赤。

自分のでも他人のでも映像の中でも痛々しくて見ていられない。心臓が締め付けられてしまう。

 もう1つは、ウチの目の赤。

妹の葵も同じ目の色をしているから。

葵は可愛いし、礼儀正しいし、言葉遣いも奇麗だし、最高に可愛いし、頭もいい。

この間の試験なんか、上位50人しか乗れない掲示板にもう少しで乗りそうだった。

それに比べてウチはため息しか出ない点数。

こんな姉と同じ色の目やら、葵は嫌がっとらんとかいな。

そう考えるだけで気持ちが暗くなってどうも好きになれない。

 

 

 お昼はとっくに過ぎたけどまだ夕方とは言わない時間、ウチが思うことは一個だけだった。

気分を変えたい。

試験終わった後、それも休みの日なのに勉強せないかんとか気が滅入って仕方ない。

悪いのはウチって分かっとうけど、それもまた気が滅入る原因の一個にしか思えん。

そうして進まない勉強にため息をついたウチは、外に出た。

喫茶店で勉強って頭よさそうやし、きっと勉強も進むはず。

 

 近くの喫茶店ってどこやったかいな。

何度も来たことのある繁華街やけど、いつも葵が案内してくれるけん覚えとらん。

ふらふら歩いとりゃあその内見つかるかいな?

 あ、花咲いとう。アスファルトぶち抜く白くて小さい花。写真撮っとこ。

他にも咲いとうかいな?探してみようかいな。

そう思って頭を上げたら、前から歩いてくるほっそい体の紫髪さん。

ゆかりしゃんや。偶然出会えるって嬉しい。

 手を胸の前で振ってみる。反応がない。

手を頭の上でぶんぶん振る、段々縮まる距離、そしてウチの横を通りすぎてそのまま去っていくゆかりしゃん。

いや、待って待って待って。ウチは急いで追いかけた。

 

 「すいません、何か用事でしたか?」

「い、いや、用事はないんやけど」

追いついたゆかりしゃんをよく見ると、眼が半分くらいしか開いてなかった。

眠かったけんウチに気づかったんかな。気付いてて無視されたわけじゃなくてよかったけど、大丈夫とかいな。

 ん、ゆかりしゃんがウチの左右に視線を動かしている。どうしたんやろ。

「葵ちゃんはいないんですか?」

「うん?いや、普段は朝から晩までいつでも一緒やけど、そんないつもかっつも一緒におるわけやないとよ?」

「……そうですか」

「それよりえらい眠そうやね。どっかで休んでいかんで大丈夫なん?」

「なんとか」

「そのままやったら倒れそうやし、第一眠いのに無理して外出るやらつまらんよ?」

「ああ、いえ」

「近くで座れる場所とか知らん?いつも葵に頼りきりやけん、全然分からんくて」

「……そこに喫茶店ありますよ」

「気づかんやった」

すぐ隣の建物の二階だった。

 

 

 喫茶店でウチはイチゴのパフェを、ゆかりしゃんはコーヒーを頼んだ。

「そういや、ゆかりしゃん、これ見てくれん?」

「はい?」

突き出したスマートフォンに写っているのはウチの前回の試験結果。

赤点を取ってしまったから、数学と英語の点数が赤くなっている。

他もはっきり悪い。国語だけ少しマシやけど。

「この学校に来て初めての試験ですか」

「そうそう。難しくて難しくて本当いかんやった」

「課題の量凄かったでしょう?」

「本当そう。山が出来そうやった。え、何で知っとうと?」

まさかゆかりしゃん、赤点取ったことあるん?

「弦巻さんが去年何度か貰っていたので」

「あぁ……大変やったろうね」

そういえばマキしゃんも高等部からの人やったっけ。

「茜ちゃんも大変じゃないんです?」

「そうなんよ、やけん課題せないかんのよ、あ、ゆかりしゃん教えてくれん?」

「いいですけど、その前にいいですか?」

「何ね?」

「30分寝かしてください」

「はーい」

本当限界やったんやね。

 

 ゆかりしゃんが眠っている間に数学の課題を少しでも進めようとシャープペンシルを動かす。

公式をそのまま当てはめるくらいなら何とか出来る。

けど、その先になると難しい。

文章題を読む、意味が分からない。教科書を見ながらもう一度読む、やっぱりよく分からない。

 葵はこんな問題でもすいすい解きよったとに。

思い出すと気分が落ち込む。やっぱり姉としては勉強教えてって頼られるくらいになってみたいし。

 スマートフォンが震えた。

もう30分?いや、違う、葵からのメールか。

『課題いっぱいあったのに外にいるみたいだけど、大丈夫?』

家にいないウチを心配してくれたみたいだ。

えーと、どう返そうか。

『大丈夫!今外におるけど、ちゃんとしようよ!ゆかりしゃんに教えてもらいようと』

これでよし。気分が落ち込んでても、文章に出さないのはちっぽけなプライド。

画面を戻すと、スマートフォンの待ち受けには葵とウチの写真。

高等部入学式で撮った写真、二人制服姿で並んでいる。んー。葵可愛い。

他人にはそっくりって言われるけど、ウチからみたら顔は全然似てない。髪の色も違う、けど、眼の色だけ同じ。

何で目の色同じなんやろうね。

葵の目、奇麗な青色やったらよかったとに。

そう考えるとウチの目の色やら、あーいかん、本当いかん。

 ネガティブな考えを追い出そうと頭を振っていると、ゆかりしゃんがのそりと頭を上げた。

眠る前と違って目はちゃんと開いて、紫色の瞳が奇麗に見える。

「……何か話してました?」

どうもメールの文章打ってるとき口に出しとったごたぁ。

「ん、んー……ゆかりしゃん、ウチの目ってどう思う?」

「どうって何がですか?」

「……ウチの目の色って嫌な色やないかいな」

「はい?」

「いや、どうも、奇麗に見えんっていうか、何か」

我ながら上手く表現出来ない説明。

その途中でゆかりしゃんが顔を近づけた。

近い、本当近い近い近い、鼻と鼻が付きそう。葵以外でこんな顔近づけたことないんやけど!

「私の目に茜さん見えますか?」

「え?う、うん」

確かに、近すぎて、ゆかりしゃんの目にウチが写っているのが見える。

その顔は驚きと恥ずかしさで間抜けだ。写真に撮られたらしばらく立ち直れない。

いや、無理無理絶対無理。何でウチがウチの間抜けな顔見らないかんの?

っていうかゆかりしゃんに見られようやん!

急いで顔を逸ら、駄目、ゆかりしゃんの手で止められた。

「茜ちゃんの目、汚く見えますか?」

「い、いや、見えんけど」

「はい、私もそう思います」

その言葉を発した後、ゆかりさんの目は離れていった。

えっと、多分、ウチを元気づけようとしてくれた、とかいな?

でも、何か別の方法がなかったとかいな。

 恥ずかしくてとてもじゃないけれどゆかりしゃんを見ていられない。喫茶店の窓の方を見る。

そろそろ日が落ちそうで、夕日が奇麗に赤くなっている。

そして、窓に映ったウチの顔も夕日に負けじと赤かった。

「ウ、ウチの顔が赤いのは、夕日のせいやけんね?」

苦しい言い訳、心臓が高鳴っているから嘘って自分で分かってしまう言い訳。

ゆかりしゃんの方を見るとウチの課題をめくっていた。

「そうなんですか」

「……え、もっと、ウチに何かないん?」

「はい?」

ウチのこと恥ずかしがらせておいてそれって……。

いや、ウチも何言われたいか分からんけど、でも、もおおお。

 

 

 

 「お姉ちゃんお帰り。課題進んだ?大丈夫?私も手伝おうか?」

「葵ー。ねぇ、ウチ、ウチの目少し好きになったかんしれん」

「え?うん、お姉ちゃんの目、私も好きだよ」

「葵の目も同じ色やろ」

「そういうことじゃなくてー!」




最後まで読んでいただき有難うございました。
夏の暑さと忙しさに負けて、前回より大分間が開いてしまい、待っていただけた方には申し訳ないです。
今回は3000UA記念と、ゲージ赤色達成記念に、3000字丁度と赤色をたくさん使って書きました。
開いていただける方、お気に入りに入れていただける方、投票していただけた方、本当有難うございます。
ランキングに乗ることが出来て、心臓がはじけ飛びました。
次はもう少し早めに書けそうなので、読んでいただけると有難いです。

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