結月ゆかりの人間関係   作:アニヴィア

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このSSを開いていただき有難うございます。
前回に引き続き、福岡方言の茜ちゃんが登場しますので、ご注意ください。


気付いたら墓穴の中

 「姉妹いつも一緒で仲良いね」と言われると恥ずかしい。

小さな頃はただ嬉しかったけど、私ももう大人になってきたからかな。

 最近お姉ちゃんがこっちに引っ越してきたから、不慣れな場所で大変だろうからと案内するため一緒にいることが多いからだろう、仲良いねと言われることが多くて、どうも駄目だ。

お姉ちゃんは今でも言われると嬉しそうに笑うけれど。

そして肩を組んでくっついて来るけれど。

私は顔を赤くして慌てるばかりだ。

 

 

 「葵、先帰っとってよかよ、補習そこそこかかるごたぁ」

「うーん、どうしよっかな」

「あ、ほらもう始まるけん、教室出らな」

「そうだね……うん、終わったらここで待っててよ。迎えに来るから」

「本当?」

「うん、じゃあまた後で」

「やっぱ葵は優しかね。有難うね」

先生が準備をし始めたので、私は急いで教室を出た。

 授業が終わって放課後、赤点を取ったお姉ちゃんは補習だけど私にはない。

先に帰ってもいいと言われても、やっぱり一緒に帰りたい、じゃなくて、まだこの辺りに不慣れなお姉ちゃんを家まで案内しなければいけないし。

どう時間を潰そうかな。

あ、そうだ。図書室に行ってみよう。そこで宿題しよう。

東北先輩がたまにいるらしいし、今日もいたらいいな。

 

 

 図書室への扉を開ける。もう何度も来たのに、未だその広さに圧倒される。

でもエアコンの風に乗ってきた本の香りに落ち着いた。

中に入って、司書の先生に一礼して更に進んでいく。

ここには小説や評論だけではなく、図鑑や学習書、専門書の類いまで揃えてあって、しかも勉強用の机やテーブルも多い。

つまり勉強するに不自由がないのだ。そのため本を読みに来る人だけでなく勉強に来る人も多い。

今日は私もその一人になる。

 

 東北先輩はいないみたいだけれど、結月先輩がいた。

4人掛けのテーブルを一人で使っている。

少し悩む。

結月先輩のことは悪い人だとは思ってないけれど少し苦手だ。

何を話しても表情が変わらないし、口数も少ないからもしかしたら私は嫌われてるんじゃないかと思ってしまう。

そんなことはないってもう分かってはいるけれど。

どうしても頭の中に浮かんでしまう。

でも、離れて座る程仲悪いわけじゃない、そう信じたい。

足を結月先輩の座っているテーブルに向けた。

 

 

 「お久しぶりです、結月先輩」

「お久しぶりです。葵ちゃん」

挨拶をして結月先輩の前の椅子に座ると、結月先輩は私の左右に目線を彷徨わせた。あ、もしかして……。

「茜ちゃんは一緒じゃないんですか?」

うーん。やっぱり何か恥ずかしい。

そこまで仲良くないんですアピールしておこう。

「お姉ちゃんは補習中です。それにいつも一緒にいるわけではありません」

「この間茜ちゃんからも同じことを言われましたね」

「はい、確かに仲悪くはないですけれど、そこまででもないんですよ」

「この間茜ちゃんから、手繋いで一緒に登校したって聞きましたけれど」

「あ、あれは、手繋いで引っ張らないと、お姉ちゃんすぐ道端の花とか蝶々とか見つけて足止まっちゃうから仕方ないんです!」

「……そうですか」

「分かってます?仲いいからじゃないんですよ」

「はぁ。ところで図書室にいるの珍しいですね」

「今日はお姉ちゃん補習なので待たないといけなくて、図書室で宿題して待っていようかと」

「……仲、そこまででもないんです?」

「そうですよ?」

私の話が分かっているのかいないのか、結月先輩は首を傾げた。

全く。これだから結月先輩は。

 結月先輩の前の椅子に座って課題を取り出す。

結月先輩も宿題してるみたい。

英語か。大きな一枚。右半分やけに空白が大きいけど、英作文だろうか。

横に広げているのは教科書と和英辞書か。この図書館を有効活用しているようだ。

私も英語からしようかな。

 

 

 英語の宿題は終わって次は数学の途中。

疲れを感じながら図書館の掛け時計を見ると、そろそろ補習が終わる時間だ。

でも、今席を立つと「やっぱり仲いいじゃないですか。片時も離れたくないんですね」って言われそうで恥ずかしい。

いや、結月先輩はそんなこと言わないだろうけれど、気持ちの問題だ。

 どうしたものか、もう課題終わったので行きますねって言ったら怪しまれないかな。

いや、でもまだ終わってないし、結月先輩に見られたら嘘だとばれてしまう。

結月先輩の方を見ると、英作文に手間どっているようで、まだ半分ほど空白だった。

 

 うーん、どうしよう。悩んでばかりで動けない。

あの姉のことだ。

待っておいてと言ったけれど、放っておいたら蝶々追いかけてどこかに行きかねない。

だから早く迎えに行かないといけないけれど、上手い言い訳が思いつかない。

 そう思っていたら突然ゆかりさんが課題を片づけ始めた。

「宿題終わったので帰りますね」

「終わったんです?」

 結月先輩は教科書とプリントを鞄にしまう。

ちらりと見えたプリントにはまだ空白があった。

つまり終わってない。どういうことだろう。

「はい。私は行きますけど、葵ちゃんはどうします?」

「あ、じゃあ、私も帰ります」

何にしても都合がいい。

これなら不自然無くお姉ちゃん迎えに行ける。

そう思って私も急いで鞄に勉強道具をしまう。

 しかし、相変わらず無表情な先輩だ。ぴくりとも表情が動かない。

うん?でも、その目が、暖かく何かを見守るような目をしている、気がする。

え?何でだろう。

何でだろう、じゃないな。嫌な答えが頭に浮かんだ。

 「……もしかして結月先輩、補習が終わる時間知ってます?」

「去年弦巻さんが何度も受けていたので知っていますよ」

 そういうことか。

結月先輩からしたら、自分がいたら葵が意地張ってて帰らないから、じゃあ自分が帰れば葵も帰るだろうってことか。

考えが見透かされたことに気付いて頬が熱くなる。

 あれ?正直に話して帰るよりこっちの方が恥ずかしくない?

意地を張ってる子供扱いされてない!?

結月先輩の内心は『意地張って帰らないなんて可愛らしいですね。仕方ないから私帰ってあげますよ。これで愛する姉のところに行けますね』ってことでしょ!?

 頬の熱さが加速する。エアコンの風でも冷やしきれない。

そんな私を首を傾げながら眺めている結月先輩。

この先輩は他人の感情っていうものが理解出来ないのだろうか。

 「……私、結月先輩の事嫌いです」

「私は葵ちゃんのこと嫌いじゃないです」

「……やっぱり私も嫌いじゃないです」

「どっちなんですか」

「知りません。早く図書館から出ましょう」

背中を押して図書館から追い出す。

私の顔見えないように前歩いてくださいね先輩。

 

 

 「お姉ちゃん、補習どうだったの?」

「うん、補習はゆっくりゆーっくりやってくれるけんよかね。葵は何しよったと?」

「図書室に行ってたよ。結月先輩と一緒に勉強にしてた」

「良かったやん、ゆかりしゃんとあえて」

「それはいいけどね……それより、何で手を出してるの?」

「手繋いで帰らんの?」

「帰らないよ!恥ずかしいでしょ!」

「……駄目なん?」

「…………せめて人前はやめて」




 最後まで読んでいただいて有難うございました。
前回より、コメントを残していただけた、評価を入れていただいた、アクセスしていただいた方々、本当有難うございます。
おかげさまでランキングに載せていただいていました。本当有難うございます。
 前々より、千アクセスごとにその文字数でSSを書くっていうのをやっていたのですけれど、遅筆で追いつかず、せめて一万アクセスに行った記念に大きく何かしようと思ったのですけれど、思いつかず、どうしたものですかね。
 次も書こうと思っているので、読んでいただけると有難いです。

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