結月ゆかりの人間関係   作:アニヴィア

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眠る台風が三年ぶりに接近するようです

 ゆかりに会いたくなった。

会いに行こう。ゆかりが通ってる学校は知ってるし。

お家の用事があるけどいいや、逃げちゃえ。

靴は部屋にあるし、履いたら外に出るだけ。

私は家の窓を開いた。しまった、ここ三階だ。

 

 

 校門に背中をつけ、座って眠る少女がいた。

足元まで伸びた乳白色の髪が特徴的で、穏和な表情はいかにも気持ちが良さそうだ。

放課後であり、数え切れないほどの生徒が足音や雑多な話し声を響かせているが、その睡眠の妨げにはなっていないらしい。

「もしもーし」「大丈夫?」「風邪ひくよ?」

声をかける生徒も中にはいるが、静かな寝息を返すだけ。

次第に立ち止まる生徒達が輪を作り出す、しかしその輪はすぐに穴が開いた。

紫色の髪をした無表情な生徒が割って入ったからだ。

その生徒はしゃがみ、眠った少女と目線の高さを合わせ、名前を読んだ。

 

 

 「IA」

 

 ゆかりの声は私が眠っていても関係なく頭に届く。

目を開けると、すぐそこに紫色の瞳、相変わらず綺麗だ。

顔立ちが大人びたね。胸の大きさはあまり変わってないけど。

うーん、寝足りないや。

 「おはよ、ゆかり。久しぶり」

「おはようございます。何でここに」

「おやすみ」

ゆかりの後ろに回って背中に乗っかって、顔をゆかりの頭に埋める。

変わらない香りと程よい暖かさで落ち着く。けれど、昔より背中が狭くなっちゃた。

「……結月、また親戚か?」

「はい」

「起きたら今後こんなことが無いよう伝えておいてくれ」

「すいません、伝えておきます」

何か聞こえる。親戚だけど違う。

眠いからいいや、ぐぅ。

 

 

 香ばしい匂いに起こされた。鶏肉と油の匂いかな。

お腹減った。

目を開けると目の前が紫、そして私の体が上下に揺れてる。

ゆかりにおんぶされてた。

「おはよ、ゆかり」

「おはようございます」

「降ろして、歩く」

「分かりました」

太ももの下の手が外れて私落下、着地。

よく寝た。あくびが勝手に出てしまう、口を手で隠す。

 周りには小さなお店がたくさん並んでて、人多くて賑やか。

上を見ると屋根。

パサージュって呼ばないんだっけ、日本だと。

「ここ何て呼ぶっけ」

「商店街です」

「そうだった、何買うの?」

「今晩のご飯です」

「じゃあ桜餅作って。また食べたい」

「今からだと材料が揃わないですね」

「えー」

残念。ずぅっと食べてないのに。

「売ってるの買いますか」

「ゆかりが作ったのがいい」

「あそこのお店、あかりが美味しいって言ってましたよ」

「んー、じゃあ、そこでいいよ。あかりにも早く会いたいな」

「その時はONEも連れて来てください」

「ONE、しばらく無理。忙しくて」

「IAも同じじゃないんです?」

「うん、だから逃げて来た」

「……そうですか」

話してる間にお店の前、木造のちいさなお店、和と書かれた暖簾が入り口につけてある。

 

 ゆかりに続いて中に入ると、赤い服を着た細身のおばちゃんがいらっしゃいと声をかけてきた。

中は簡素な作りで、右に厨房とカウンター席、左にはお座敷、それとテーブルが二つで全体的にこじんまり。

厨房ではおじちゃんが背を向けてお団子作ってるところを見ると、二人で役割分担して仲良くお店をしているらしい。

ゆかりは私にメニューを見せながら桜餅以外も頼むかと聞いて、私が首を横に振るとおばちゃんに声をかけた。

「桜餅を2個と、お抹茶を2杯ください」

「はい、すぐに準備するよ」

おばちゃんがお皿に盛りつける桜餅、結構大きい。

木のフォークを置いて完成みたい。動きが滑らか。

私の視線に気づいたのか、おばちゃんはこっちを見て笑顔を作る。

「お姉ちゃんに連れて来てもらってよかったね」

「え?違うよ?」

妹じゃない、私はゆかりの左腕を抱きしめた。

 

 「私はゆかりのお嫁さん」

 

 聞いた途端におばちゃんはからからと大きく笑い出した。何が面白いんだろう。

ゆかりは相変わらず無表情。だけど頬が赤い。恥ずかしがり屋さん。

「あはは。こんな可愛らしいお嫁さんとは驚いた。おまけに1個つけてあげる」

「1個じゃゆかりの分がないよ?」

「はいはい」

まだ笑っているおばちゃんは桜餅をお皿に1個ずついれてくれた。

「4個分お金払います」

「いいよ。その代わりまた来てね」

ゆかりが取り出したお金をおばちゃんは遮り、二個分とお茶の代金だけを受け取った。

 

 テーブルに座った私達。目の前にはおばちゃんが運んでくれた桜餅と抹茶。

手を拭いて早速食べようと木のフォークを手に取ると、ゆかりが手を合わせていただきますと礼をした。

「日本ではそうだっけ」

私も真似をして手を合わせる。

「……いつから私はIAのお嫁さんになったんです?」

「私たちが出会ったときからだよ」

「そんなに昔からでしたか」

「そうだよ?だから桜餅食べさせて」

あーん、と口を開ける。

ま、ゆかりはこんなことしないって知ってるけど。

愛が足りないよね。

 ため息をついた私の口に、ゆかりが桜餅を運んだ。

口から桜の匂いがいい感じ。

味は悪くないけど、ゆかりが作った方が美味しいな。

あれ?

「どうしました」

桜餅を味わう私にゆかりが声を投げた。

むしろゆかりがどうしたの。あーんとかする性格じゃなかったじゃん。

「びっくりした。ゆかり変わったね」

「これだけ時間経てば多少は変わりますよ」

「ふーん」

ゆかりの両頬を掴んでぐいっと上げる。

表情が変わって見えるけれど、私が見たい顔にはならない。

「笑顔、減ったまま?」

「……そうですね」

「別にいいよ。ゆかりだし」

笑っても笑ってなくてもゆかりはゆかり。笑顔に惹かれたわけでもないし。

桜餅をゆかりの口元に差し出す。

ゆかりは口をつぐんで右を向いた。

右に桜餅を動かす、すると今度は左を向いた。

「あーん」

「恥ずかしいのでやめてください」

「駄目?」

「はい」

「けち」

「昔からです」

うん、昔からだね。ってことはやってくれない。仕方ない。

口を開けると、ゆかりが桜餅を運んでくれた。

苦しゅうない。苦しゅうない。

 

 

 最後にお茶を飲んで、口の中すっきり。

「美味しかったよ。有難うゆかり」

「いえ。ご馳走様でした」

ゆかりが手を合わせるのを真似して私も手を合わせる。

「おばちゃんもありがとー」

「どうもー」

声を投げると、高い声が帰ってきた。

落ち着いた。ついでに眠たくなった。

「ゆかり、お膝貸して」

「駄目です。お店の迷惑なので出ますよ」

「じゃあ背中貸して」

「分かりました」

お店を出るゆかりの背中に飛び乗る。

ゆらゆらしていい匂いがしてほどよく暖かくてお腹膨れて、気持ちよくて、ぐぅ。

 

 

 目を覚ますと、車の中だった。

もう時間切れか。あっという間だった。

何かポケットに入ってる、出してみるとノートの切れ端。

番号と書かれた横には10桁の数字。

アドレスと書かれた横にはアルファベットの羅列。

それと『今度は早めに連絡しなさい。桜餅、それに塩昆布とセロリのサラダを用意しておきます』

無機質な字が書かれていた。ONEの好物も書かれてるってことは、一緒に来なさいってことかな。

 今から行きたいんだけど、行けないし。

ま、いいや。日本では何ていうんだっけ。

そうだ、果報は寝て待て。すやぁ。

 

 

 「IーAーねーえー?」

「ONE、どうしたの?」

「ゆかり姉さんに会いに行くときは一緒に行こうって約束したよね?」

「ごめん、これあげるから許して」

「何この紙……アドレス?」

「ゆかりの。私さっきメール送ったら帰ってきたよ」

「……誤魔化されないよ?今度は僕が一人で会いにいくからね?」

「今度ゆかりに桜餅作ってもらうから一緒に食べよ」

ONEは盛大なため息を吐いた。




 最後まで読んでいただき有難うございました。
前回より評価を入れていただいた方、お気に入りに入れていただいた方、コメントを書いていただけた方、開いていただけた方、本当に有難うございます。
拙いSSですけれど、楽しんでいただけていたなら嬉しいです。
次を書く元気の源になっています。
未だに一万アクセス記念が思い浮かばないのでどうしましょうか。
 次話も書こうと思っているので、宜しければお願いします。

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