結月ゆかりの人間関係   作:アニヴィア

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 このSSを開いていただき有難うございます。
今回の話は前編、次のお話が後編になります。



引っ張ったり繋がったり

 今日はお姉ちゃんが補習だから、待たなくちゃいけない。

こんなときは図書室で時間を潰したい。

しかし、出来ない。

この間起こった事件のせいだ。

私は図書室の先生に『人目も気にせず姉と抱きしめ合っていた姉妹』と認識されてしまった。

決して私が悪いのではない。

結月先輩の巧妙にして卑劣な策のせいだ。

思い出すだけでも顔が赤くなって、ジタバタ地団駄踏みたくなる。行きづらい。

 でも、他に時間が潰せる場所ってあるかな?

ふらふら歩きながら悩んでいると珍しい子を見つけた。

高等部校舎なのに、中等部の制服を着ている子。

膝まで垂らした白い三つ編みが二つ、歩くたびに揺れているのがよく目立つ。

怯えたように身体を縮こまらせて、その視線はきょろきょろと忙しなく動いている。

 迷ってしまったのだろうか。困っているみたいだし、放っておくわけにはいかない。

「こんにちは。何か探しているの?案内しようか?」

声をかけると、その子の体がびくんと跳ねて、素早く距離を取られた。

その表情は恐怖を表していた。今にも泣いてしまいそうだ。

違うんだ。私はそんな表情をして欲しくて声をかけたわけじゃない。

ただ、貴方の助けになればいいと思っただけなんだ。

声が出ない。私も泣いてしまいそうになる。

そんな私の顔を見て、その子は勢いよく頭を下げた。

「すいません、その、私、あんまり、いきなり話しかけられるの、えっと、慣れてなくて」

続けて何度も何度も頭を下げる。

その声と、頭を上げるときに時たま見えるその顔は、本当に申し訳なさそうだ。

「だ、大丈夫だよ、謝らなくても。それより、何か探してるの?」

「え、ええっと、高等部の図書室に、本を探しにきたのですけれど、その、迷ってしまって」

「そうなんだ。じゃあ、一緒に行こう。私何度も行ってるから安心して!」

「本当ですか?有難うございます!」

申し訳なさそうな表情が、花のように明るくなった。

表情豊かな子みたいだ。

うん、この表情が見たかったんだ、私は。

 気は弱いみたいだけれど、素直に謝れるしお礼を言えるいい子みたいで気分がほっこりした。

図書室に行きづらい私の事情なんて関係ない。

私がこの子を連れて行くんだ。

 

 カウンターの先生に会釈すると、小さく笑われた後に返された。

『今日はお姉さんと一緒じゃないんですね。図書室は姉妹で抱きしめ合う場じゃないと分かっていただけましたか?』と言われた気分だ。帰りたい。帰れないけど。

高等部の図書室は中等部のそれよりも大分広い。

その広さに白い髪の子は驚いたようだ。

探すのを手伝おうかな。本の題名を聞かないと。

立ち止まった私達に、後ろから声がかかった。

 「こんにちは」

聞くと落ち着く緑色のこの声は。

「東北先輩、こんにちは、お久しぶりです!」

久しぶりに会えて嬉しくて、つい声が弾んでしまった。後ろを向くと温和な笑みを浮かべる、緑髪の長い先輩。

「お久しぶり。隣の子は後輩さん?」

「はい、迷っていたので高等部の図書室に案内してきたんです」

遅れて振り向いた白い髪の子は驚いたようで目を丸くした。

「こ、こんにちは。え、えっと、東北先輩って、ずん子さんですか?」

「うん?そうだよ、私の名前は東北ずん子。何で知ってるの?」

東北先輩は高等部2学年の学力2位で生徒会役員、中等部でもそれなりに名前は通っているのかな。

「あ、やっぱり。ゆかりお姉ちゃんと弦巻先輩から名前を聞いたことがあります」

違った。うん?今なんて?

「もしかして、貴方があかりさん?」

「そうです、そうです。始めまして、私のことも聞いてたんですか?」

「初めまして。うん、いい子だって聞いてたよ。でもちょっと怖いな。私の事はどんな風に聞いてたの?」

「ゆかりお姉ちゃんからは、家族に優しく、向上心に溢れ、何より自分に厳しい方、と」

「……照れちゃうね、そんなこと言われたら」

「弦巻先輩からは、お弁当箱の中身が全部ずんだ餅だった方、と」

「うん、今度マキさんとはお話しないとね」

順番が逆だったらお話は無かっただろうに、運が無かった弦巻先輩の無事を祈る。

 急いで話をそらさなければ。気になることがあったし。

「私、琴葉葵って言うんだ。よろしくね。ところで、ゆかり『お姉ちゃん』?」

「はい、お姉ちゃんです」

 

 嘘だ。

 

 あの無表情な結月先輩の妹がこんな表情豊かな子!?

他人の感情を考えない人の妹がこんな良い子!?

脳が理解を拒否する。

いや、もしかしたら、私みたいに離れて暮らしてたからあまり似なかったのかも?

それなら、これから影響を受けて表情を失ってしまうのかもしれない。

そんなことがこの世にあっていいのだろうか、いいはずがない。

絶望に膝が折れそうだ。

「こ、琴葉先輩、大丈夫ですか?」

「葵ちゃん、多分、いつも通り心配しすぎだと思うよ。話したいし、席に座ろっか」

二人の声によって現実に戻された私は、先に行く二人の後を追った。

 

 「あ、改めまして、紲星あかりです、中等部の3年生です」

4人掛けの席に、私の隣にあかりちゃん、正面に東北先輩が座り、改めて全員で自己紹介をした。

どうやら、姉と呼んでいても血が繋がっているだけではなく、幼いころ面倒を見て貰ってから姉と呼ぶようになったらしい。

確かに結月先輩は面倒見がいい、と思う。

お姉ちゃんも私も勉強教えてもらったことあるし、そもそも出会いの時がそうだった。

それを考えたら、そんな子がいてもおかしくない、かな。

「東北ずん子、高等部2年生。好きな食べ物はずんだ餅。よろしくね」

「高等部1年生、琴葉葵。葵でいいよ。私もお姉ちゃんがいて、名字だとどっちか分からなくなるからね」

「はい。よろしくお願いします、東北先輩、葵先輩」

頭を下げるあかりちゃんに私も下げ返した。

 

 

 偶然葵ちゃんと会って、まさかゆかりさんの妹さんにも会えるなんて珍しい日だ。

自己紹介を済ませた後は雑談になった。

あかりちゃんは人見知りする子で、それがなくても大人しい子みたいで、たまに話を振られたら返すくらいで話すのは主に私と葵ちゃん。

静かなところはゆかりさんに似ているかも。

 3人とも姉がいるから、会話は自然に姉の話になって、葵ちゃんがこの間図書室で起こった珍事について話してくれた。

「本当に恥ずかしかったです。この年になって姉に抱きつくだけでも恥ずかしいのに、しかも他人に見られるって」

「それは……恥ずかしかったよね」

図書室、恥ずかしい、で、ゆかりさんに膝枕してしまったことを思い出してしまった。

頭を降って必至に記憶を飛ばす。

「本当ですよ。結月先輩のせいで全く」

「え……ゆ、ゆかりお姉ちゃんが何か、その」

「い、いやいや、うん、私が悪かったんだ。うん、私のせい。そういえば、私のお姉ちゃん、すぐ私に甘えて欲しそうにするんですけれど、東北先輩も妹さんに甘えて欲しいって思うんですか?」

葵ちゃんはどうやら後輩が気に入ったらしい。

「思うよー。まだ小学5年生だし、甘えたい盛りだろうしね」

甘えて欲しいけど、もっと普通に甘えて欲しい。

妹は私の太ももを見てよだれを垂らす子、なんてまさか他人には言えない。

「逆に東北先輩はお姉さんに甘えたりするんです?」

「あんまりないかな。しっかりしないとね」

少し嘘っぽくて後ろめたいけれど、これも他人には秘密。

「やっぱり、大人ですよね、東北先輩は」

「ふふふ、有難う、でもやっぱり、姉は私ときりたんに甘えて欲しいみたいだよ」

「どの姉もそうなんでしょうか?」

「そうかもしれないね」

葵さんと二人で小さく笑い合う。

 

 「……ゆかりお姉ちゃんも甘えて欲しいって思ってるんでしょうか」

 笑い声に混じる小さな声に反応して、声の主を見る。

あかりちゃんが恥ずかしそうに赤い頬を抑えていた。

甘えたいし、甘えて欲しいなら積極的に甘えたい、けれどそれなりに恥ずかしい、そんな気持ちの表れだろう。

しかし、ゆかりさんは仮に甘えて欲しいと思っていたとしても行動に移さないだろうから難しいところだ。

「そういえば今日、ゆかりさんは用事って言ってたっけ」

「そうなんです。本当は一緒に図書室に来たかったんですけれど、駄目で、だから、迷ってしまって」

「葵ちゃんに会えてよかったね」

「本当に助かりました、有難うございます!」」

礼儀正しく頭を下げるあかりちゃん。

いいよいいよと手を振る葵ちゃんは嬉しそうだ。

この出会いはお互い良かったみたい。

「直接会う機会はよくあるの?」

「いえ、その、用事とかであまり無くて」

「じゃあ、メールとか電話とか普段してるんだ」

「はい。でも、用事ないのに電話は何か大袈裟だし、でもゆかりお姉ちゃんはメール苦手で、あまり仲良くお話出来なくて……」

ゆかりさんのメールは大体が一行で、しかも内容は『はい、分かりました』や『土曜日の11時ですね』のような業務連絡のようなものばかりだ。

私もマキさんも同じだから、あかりちゃんも同じなんだろう。

 しかし、メールで仲良く話をする方法、か。

私も普段メールが多い方では無いし思いつかない。

「ゆかりさんは、ゆかりさんらしいメールだよね。仲良くって難しいなぁ。葵ちゃん、何か思いつく?」

「うーん、私、あまり自分からメール送らなくて」

葵ちゃんも思いつかないらしい。

 私の身の回りでメールが多いといえば……マキさんだ。

そうだ。そういえばマキさんがこの間話してたっけ。

私が思い出したことを二人に伝えると、葵ちゃんは「普段私のお姉ちゃんが勝手にやってます」と少しげんなりして、あかりちゃんはそんなこと、したことなかったです、と目を見開いた。

しかし肝心の受け手のゆかりさんは他人の予想の斜め上を行くから、上手くいくか心配だ。

しかし、帰ったら早速選んでみます、と期待に目を輝かせているあかりちゃんを見ると、きっと上手くいくと思えた。

「ところで、葵先輩、その、聞きたいことがあるんですけれど」

「私?いいよ、何でも聞いて」

「私はあまり甘えたりの機会がなくって、だから、その、さっきみたいなお話をもっと聞いてみたいです」

「さっきのって、私とお姉ちゃんが図書室で、えーと、した話?」

「はい、そうです」

「あー。えーと……その」

参考にするつもりのようだけど、葵ちゃんは言いづらいだろう。

葵ちゃんは言葉を濁しながら私の方を向いた。

助けを求めているらしい視線に、私は助け船を出す。

「うーん、あかりちゃん、そんな体験を他人に話すのは、ちょっと恥ずかしいかも」

「そ、そうですよね。すいません」

申し訳なさそうに俯くあかりちゃん、それを見て慌てる葵ちゃん。駄目だな、これは。

「そんなことないよ!私が話してあげるね!」

やっぱりだった。力強く宣言する葵ちゃんの表情は名前とは反対に赤みが増している。

「本当ですか!?有難うございます!」

それを受けるあかりちゃんの表情は名前と同じで明るくなった。

 うん、頑張れ、葵ちゃん。

その雄姿は最後まで見届けてあげるから。

本当は見守って欲しくないだろうけれど、私も聞きたいから許してね。

今度ずんだ餅ご馳走するから。

 葵ちゃんの話は、迎えに来てくれないからウチが来た、と姉が迎えに来るまで続いた。

姉妹仲良しな話をした後に姉が見られる羞恥に耐えかね、葵ちゃんは姉の手を引いて脱兎のごとく逃げ出した。

 

 

 

 お布団の上で眠る準備をしていると、たまにずんちゃんは嬉しいことを言ってくれます。

「イタコ姉様、背中向けてください。たまには髪と尻尾を櫛で梳かしましょう」

「有難うですわ、でも、ずんちゃんも疲れているでしょう?」

「私も眠いですけれど、そのくらいは起きていますよ」

「本当?じゃあお願いしますわ」

背中を向けると、櫛が私の髪を梳かす気持ちの良い感触。

ずんちゃんはたまにこんな風に私の髪や尻尾を梳かしてくれます。

時間は決まって、きりたんからは寝息が聞こえてしばしの時間が経った後。

灯が無くとも、黒に浮かぶ銀色はよく見えるようで、迷いのない櫛の動きは私に心地良くしてくれます。

しかし、その気持ちよさに現を抜かしているわけにも行きません。

「相変わらず上手に梳かしてくれて嬉しいですわ。気持ちよくてすぐに眠ってしまいそう」

「眠ってもいいんですよ?梳かし終わったら私も寝ますから」

「ふふふ、いい妹を持って私は幸せですわ」

横になって枕に頭を乗せて、櫛の動きを感じしばらく。

気持ちよさのままに眠ってしまい寝息を立てる、芝居をします。

狐なのに狸寝入りとはこれいかに。

 部屋には眠ったきりちゃんと、眠った芝居を続ける私、そして起きているずんちゃん。

「ああ、私も眠たくなっちゃった」

ずんちゃん以外は皆眠っているはずなのに言い訳をして、私の尻尾に頭を載せました。

私は尻尾を動かして、ずんちゃんの体を包んであげます。

 『普段お仕事で家にいないイタコ姉様の代わりに、私が家を守らなければいけない』

ずんちゃんは自分の役割を理解し、炊事洗濯掃除、妹の世話まで日々してくれています。

私も仕事が早い日やお休みの日は代わりにしていますけれど、微力に過ぎません。

そのせいか、一人で何でもやってしまい、他人に甘えるを良しとしない、そんな性格に成長しました。

 しかし、偶に、本当偶に、私に甘えたくなる日があるようです。

そんなときは、私の髪と尻尾を梳かします、と言い出す日です。

皆が眠った後に偶然を装って尻尾に顔を埋める、それが精一杯の甘えのようです。

ずんちゃんに甘えられて私は嬉しいですわ。

 私の尻尾の方から静かな寝息が聞こえてきました。どうやら眠ったようです。

手で頭を撫でる代わりに尻尾を一本動かして頭を撫でます。

日々忙しい代わりに、せめて眠っている間くらいゆっくり休んで欲しいものですわね。

 「有難うございます、イタコ姉様」

驚きで心臓が飛び出るかと思いました、寝言……。寝言ですわよね?

そろそろ本当に眠ってしまいましょう。

お休みなさい、ずんちゃん、きりちゃん。

 

 

 ああ、決まらない決まらない。

もう眠る時間はとっくに過ぎてるのに、どうしよう、どうしよう。

今日は良い日だった。ゆかりお姉ちゃんには合えなかったけど、優しい先輩二人と知り合えた。

葵先輩は色々気遣ってくれたし、東北先輩は思慮深い方だった。

それはいい、いいんだけどー!

東北先輩が教えてくれた、メールで服の写真を送ってみること。

私は前に、ゆかりお姉ちゃんに貰ったペンダントを着けて会ったとき、褒められたことがある。

それが嬉しかったのを思い出したし、渡りに船だと思った、んだけど。

 何着ればいいの!?どんな題名にしたらいいの!?

私服のクローゼットを端から端まで見回って見計らって見繕って何とか服は選ぶことが出来た。

前に着た服と似た服と、ゆかりお姉ちゃんから貰ったペンダントだ。

そこまではまだ、よかった。

問題はメールの内容だ。まさか写真だけ送るわけにもいかないし。

「この服、どうですか?」どうって何がですか?と返って来そうだ。

「ゆかりお姉ちゃんに似た服で揃えて見ました!」何か恥ずかしい。

「私可愛くないですか?」絶対に無理。

助けて、ゆかりお姉ちゃん!

そうだ電話で聞けば……。

だからゆかりお姉ちゃんに聞くのは無理!

そうだ、今日会った先輩方のどっちかに……。

アドレスとか何も聞いてないし!

 落ち着こう。一旦別のことをして、気分を変えよう。

そうだ、アロマを焚こう。最近、新しいオイルを買ったんだよね。

ベルガモット、紅茶の香り。

セットして、うん、落ち着く香りで、気分が、落ち着いて、おちついて……。

ねむたく……な……て……。ぐぅ。




 最後まで読んでいただき有難うございました。
今回は、次話の話と合わせて一万字記念のSSになります。
前回より大分間が空いてしまい申し訳ないです。
後編はもう少し早く書きたいと思っているので、よろしければお願いします
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