結月ゆかりの人間関係   作:アニヴィア

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教室で会えるならすぐなのに

 私、紲星あかりはベッドの上でスマートフォンを操作する。

手が震えて上手く操作できない、呼吸が乱れる。

落ち着かなくては。

大きく息を吸って吐いて。もう一度吸って、吐いて。

駄目だ、落ち着かない。震えが止まらない。

机の上には、駅前にある喫茶店の改装記念、限定パフェ引換券が2枚。

 今日こそゆかりお姉ちゃんを誘ってみせる。

電話帳から『結月ゆかり』を探し、電話をかけ、かけ、かけられずに画面を閉じ、横においた。

 

 「もー。どうしたらかけられるんだろう」

ベッドの上をごろごろ左右に転がる。

前にゆかりお姉ちゃんはlineやメールは得意じゃないって言ってたから、誘うなら電話がいいと思う。

だけど、私が遊びに誘ったら迷惑じゃないか、ちゃんと誘えるんだろうか、変なこと話さないだろうか、もし断られちゃったらどうしようか。

頭の中をネガティブな考えだけがぐるぐると回って電話をかけようとする手が止まってしまう。

 こんなことをもう何日も繰り返していた。

もうちょっと、通話のところに指を動かせばいいだけなのに……。

うーん。どうしよう。困った。

 

 そうだ、困ったときには誰かに相談すればいい。

私の中で一番頼りになる人といえばゆかりお姉ちゃん!

そうと決まれば早速電話して

「だから電話がかけられないから困ってるって言ってるでしょ!」

顔を枕に埋める。もふっ。

 

 「もー……」

顔を横に向けて時計を見る。

もう9時半。そろそろ眠らないと。ゆかりお姉ちゃんもそろそろ寝ちゃうかなぁ。

そんな時間にかけたら非常識って思われてしまいそう……。

じゃあ明日かけよ..かけれるかなぁ。

でも、引換券の有効期限がそろそろ切れちゃうから、早く誘わないと……。

 

 そうだ!

そもそも誘う手段は電話とかメールだけじゃない。

私の通う中等部の校舎とゆかりお姉ちゃんの通う高等部の校舎は少し離れてるけど同じ敷地内だからすぐに行ける。

確か高等部よりも中等部の方が早く終わるはずだから、ホームルームが終わってすぐ行けば間に合うはず。

 

 直接会いに行って誘えばいいんだ!!

何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう?

そうと決まれば今日はおやすすやぁ。

 

 

 

 そもそも直接会いに行きづらいから電話で誘おうと思ったんだった。

放課後、高等部校舎前で待ち伏せしながら思い出してしまった。

何度か高等部生徒の一団が帰っていってるけれど、その中にゆかりお姉ちゃんは見つからなかった。

 ……うぅ。先輩達の視線を感じる。

何で中等部の子がここに?誰か待ってるのかな?

ひそひそと話す声まで聞こえくる。

私一人で見知らぬ場所。さらにその視線と声を受け私の体は縮こまりぶるぶる震えてしまう。

でも、待ってたらきっとゆかりお姉ちゃんに会えるはず。

ここまで来たんだからもう少し耐えよう。頑張ろう。

そう思って私はじっと待

 「君、何か高等部に用事か?」

「はひゃあっ!?」

突然話しかけられて体がビクンと跳ねる。

 

 声の方を見れば、帰宅する生徒達に混じって、スーツ姿の男性、多分高等部の先生がいた。

私の頭が肩まで届かないくらい高い身長。

スーツが筋肉で盛り上がっているのが分かる威圧的な体。

何よりもその狼のような鋭い眼光。

ギロリと睨まれて私は固まってしまった。

 

 「さっきからそこにいるが、どうした?」

「え、えっと、その」

どうしよう、ま、まずは人を待ってることを伝えないと。

私はただ、ゆかりお姉ちゃんに会いに来ただけって。

そう思えども口が上手く動かない。言葉にならない。

 「話してくれないと分からないんだが」

埒があかないと判断されたか、私に近づいてくる。

私の足が勝手に後ろへと動く。でも相手の歩きの方が私よりも早い。

距離が縮まり相手の体がどんどん大きくなる。

ゆ、勇気を出さないと。でも、足の動きが止まらない。

 

 いや、止まった。私の足を止めたのは

 

 「先生すいません。私の親戚です」

先生の後ろから聞こえた紫色の声だった。

 

 「ゆかりお姉ちゃん!」

いた!やっと会えた!

足が勝手に前に動いていく。先生の横を通り抜けて、私はゆかりお姉ちゃんの胸へと飛び込んだ。

腕を背中に回し、額をすりすりと擦り付ける。

優しい柔らかな感触と、あったかさ。私の頭を撫でてくれる手。

見上げればいつもの無表情な顔と綺麗な紫色の瞳が見えた。

安心して口元が緩む。私の恐怖はどこかへびゅんと飛んで行った。

 

 「なんだ結月の親戚か。なら大丈夫か。すまないな、怖がらせたみたいで」

「い、いえ……」

「悪いことをしてるとは思わなかったけど、立場上注意しないといけなくてな」

 見た目は怖いけどいい先生だったみたい。私が悪いのに謝られると余計に申し訳なくなってしまう。

「い、いえ、すいません。私のせいで」

「いいよいいよ。すまなかったな」

先生は苦笑いをして去っていった。

 

 ゆかりお姉ちゃんは先生の後姿に一礼した後、私の方を見た。

「あかり、こんなところまで来てどうしたの?」

「そ、そうなんです!えっと、その」

「焦らないでいいから、ゆっくり落ち着いて言ってみなさい」

 

 深呼吸、息を吸って吐いて。もう一度吸って、吐いて。

 

 「え、えーと。げ、限定パフェの引き換え券があって、今度のお休み一緒にパフェを食べに行きませんか?」

「……。せっかく限定なら友達と行って来たらどうです?」

「ゆ、ゆかりお姉ちゃんとじゃ駄目……?」

「駄目というわけではないですが」

 ゆかりお姉ちゃんはそこで言葉を切った。

何かを悩んでいるように見える。

わ、私と行きたくないのかな……?

 

 「いえ、たまにはいいですか。一緒に行きましょう。それとあかり」

「やったー!絶対ですからね!私と一緒ですからね!」

ちゃんと誘えた!私が悩んだりここまで来たのは無駄じゃなかった!

今週末はゆかりお姉ちゃんと仲良くパフェを食べに行けるんだ!

早く家に帰って服とか何話すかとか、考えないと……。

 あれ?それと?

 

 「そろそろ落ち着きましたか?」

 

 どういうこと?と思ったけど、そういえば私ずっとゆかりお姉ちゃんに抱き着いたままだった。

はっとして手を離し後ろに下がる。

周りには数え切れない高等部の先輩達。私を見ている好奇の目の数々。

私は注目の的だった。

 

 「あ、ああ……ああああああああ!?」

恥ずかしくて顔が真っ赤なのが分かる!私は走り出す!一刻も早く!この場から離れるために!

 

 

 その後私は、校門前でゆかりお姉ちゃんに捕まった。

「何処で待ち合わせしていつ行くんですか?」

「えっと、土曜日か日曜日の午後に、駅の前で……」

「土曜日ですか、3時くらいならいいですよ。それと用事はそれだけだったんですか?」

「はい?それだけですけど」

「そうなんですか?それくらいなら電話やメールで済むと思ったんですが」

 それくらい。それくらい?あんなに悩んだのに。

「……ゆかりお姉ちゃんはまったく」

「まったく、何ですか?」

「知りませーん」

 ついっとそっぽを向く。

今度からは遠慮なくメールも電話もしよう。

首を傾げるゆかりお姉ちゃんを視界の端に納めながら私はそう誓った。




 最後まで読んでいただいて有難うございました。

第一話目のUAが現在148。想像の10倍ほどUAがあり驚きました。
まだ次回の内容やどのキャラクターで書こうかは決めていないので時間はかかると思いますが、次話も待っていただける方がいらっしゃるなら嬉しいです。
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