「ONE、寝ないの?」
「服が決まらなくて。こっちのポシェットと組み合わせるならこっちだけど、靴と合わないんだよね。ならこっちの方がいいかなって思うんだけど。でも色がしっくりこないし」
「なんでもいいよ。ゆかり相手でしょ?」
「IA姉さんはそれでよくても僕は駄目なの」
「ふーん。じゃ、手伝ってあげるよ」
「有難う」
「この子ゆかりね。一緒に見てもらおう」
「確かにゆかり姉さんに貰ったけどさ」
兎のぬいぐるみ、一度千切れてしまった肩に補修の跡が残っている、思い出のぬいぐるみ。
あのときは引っ張ってごめんね。
ゆかり姉さんが来た。僕は頭にきた。いらっとした。
久しぶり、三年ぶりの再開だ。なのに、なのに。
無表情、それは仕方ない。感激して涙を流しながら抱きついてくれるなんて期待してな……少ししてたけど。
集合時間の5分前に来る、これも許す。僕は一時間前に着たけどね。
野暮ったい大きな黒のショルダーバッグ。僕は今日のために選んだポシェット。まだいいよ。
服が学校の制服。何で?僕、カジュアルな食事って言わなかったっけ。
僕は精一杯選んできたのにな。
今日を楽しみにしていたのは僕だけなんじゃないかと思ってしまう。
3年ぶりの再会、その嬉しさより胸にこみ上げてくるものがあった。
「こんにちは、ONE一人ですか?」
「そうだよ。何?IA姉さんとは二人きりだったのに僕と二人は駄目なの?」
「いえ、喧嘩したのかと」
「してないよ?IA姉さんとはずっと仲良しだよ。それより何その恰好?学校帰り?」
「いえ、今日は休日なので」
「知ってるよ。何で制服って聞いてるんだけど?」
「家で一番高い服を着てきました」
……その考えは僕にはなかった。
そんな理由なら、うん、悪い気はしないかな。
「……許してあげる。じゃあ行こうか」
「はい、予約はしてるんですよね?」
「してるよ。大丈夫」
「でも意外ですね。ONEがハンバーグ屋さんですか」
「ちゃんと理由があるんだよ。分かる?」
ハンバーグは特別僕が好きな物ってわけではない。
ゆかり姉さんが特別好きな食事ってわけでもない。
ゆかり姉さん、好きも嫌いも無いし。
だけどあかりちゃんに先に聞いていたのだ。
今度ハンバーグを作ってくれる約束をしている、と。
ゆかり姉さんは勉強する人、つまり今日選んだお店なら、ゆかり姉さんが作るハンバーグの勉強になるから嬉しいはずだ。
相手と先を考えたお店選び、我ながらいいと思う。
「あかりと一緒に行くお店の下見ですか?」
「僕が下見に行くためにわざわざゆかり姉さん呼ぶと思うの?」
「違いましたか」
「全然違うよ。あかりちゃんは惜しかったけど」
首を傾げるゆかり姉さんの手を引っ張る。
勉学は学年で一位らしいけれど、頭は悪いと思う。
でも、昔と変わらない感じに何だか安心してしまった。
店員さんのサービスは割とちゃんとしてた。
チップを渡そうとして怪訝な顔をされたけれど。ここ日本だった。
清潔さを感じさせる白を基調とした店内、程よく日の光が入って奇麗だったし、流れてるBGMも食事を邪魔せず、しかし退屈させないものだった。
肝心の味も悪くないし、ゆかり姉さんも美味しいと言っていた。
値段もゆかり姉さんが無理なく払えるくらいを選んできたし、全体的によかったと思う。僕は。
けど、僕と会ってからお店を出て今まで、ゆかり姉さん、表情が全く変わらないままだ。
いや、前と変わらず笑顔減ったままだから、なんだろうけれど。
不安だ。胸に黒い不安がどろどろ湧き出してきた。
本当に楽しみにしてたのは僕だけなんじゃないかなーとか。
ゆかり姉さんは僕に誘われたから一日付き合ってくれただけなんじゃないかーとか。
日本語で何て言うんだっけか。リップサービスは違うし。
社交辞令、か。
考えれば考えるほどに頭の中が黒で満ちていく。
ため息を吐いても吐き出せない。
「ONE?」
ゆかり姉さんが僕の顔を覗き込んできた。
見てはいられない顔をしていたんだろう。
「……何?」
「そろそろ時間なので」
ゆかり姉さんがバッグを開いて、取り出したのは兎のぬいぐるみだった。
色違いで二つ。手作りかな?お店で買ったって感じがしない。
大きなバッグはこれいれるためだったのか。
でも、どこかで見たような気がするんだよな、どこだったっけ。
「……僕にくれるの?」
「IAにもです。二人とも兎好きだったので。取り合わないように二匹です」
あ、そっか昨日見た。
いや、でも、僕達別に兎好きじゃないんだけど。
ゆかり姉さんからもらったものだから、自分の物にしたくて僕達取り合ったんだけど。
そのせいで腕を千切ってしまったのは本当ごめんね。
というかそれいつの話?何年前?
よく覚えてたねそんなこと。
好みが変わってると思わなかったの?。
ぬいぐるみがプレゼントって子供過ぎない?
色々言いたいことはある。
けれどそれ以上に嬉しいと感じてしまった。
口元が緩んで力入らない。
そっか、準備してきたのは、僕だけじゃなかったんだ。
ゆかり姉さんはゆかり姉さんで、ちゃんとしてたんだ。
嬉しい。だけど、素直に喜んでるところ見せたくない。
僕のプライドが許さない。
ひったくるようにぬいぐるみを貰ってその頭で口元を隠した。
「どうしました?」
うるさい。口動かせないんだよ。
顔を横にぶんぶん振る。
落ち着くまで、待って、待って、くれ、ない。
頭に何か乗っかった。
ゆかり姉さんの手だ。
そこだけが熱い。ぼうっと火がついた。
撫でられた。火が燃え移っていく。燃え盛る。
熱出る。駄目だこのままじゃ倒れる。
頑張れ僕の口。平常心を装え、声を出すんだ。
「何?」
無理だった。たった二文字なのに裏返って震えた。
でも、もう退けない。
「落ち着くかと」
「落ち着かないよ」
「そうですか」
淡々とした声とともに手が離れていく。
いや、待って、駄目でしょ。待って待って待って。
ゆかり姉さんこそ落ち着いて。
「手を離せとは言ってないんだけど?」
「どうして欲しいんですか」
「自分で考えて」
ゆかり姉さんは首をかしげた。
どうするか迷っているらしい。
早く撫でてよ。ばぁか。
「こんな感じだったよ。本当、ゆかり姉さんって他人の気持ち考えないよね」
「うん、この話5回目。寝ていい?」
「僕もう14だよ?それでぬいぐるみって子供扱いしすぎだよね」
「ぬいぐるみずっと抱っこしてるよね」
「本当、何であんなんで人生送れてるのか不思議だよね。絶対友達出来ないよ」
「……やっぱりONEは私の妹だね」
IAは盛大なため息を吐いた。
最後まで読んでいただき有難うございました。
少し間が空きましたけれど待っていただけた方々がもしいらっしゃったら有難うございます。
ついに二十話までこれました。
これも読んでいただけた方のおかけです。
本当に有難うございます。
書いて投稿するたびいつも不安で、反応が返ってくることほど嬉しいことはないです。
次回もまた書こうと思っているので、宜しければお願いします。