結月ゆかりの人間関係   作:アニヴィア

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 開いていただいて有難うございます。
この話だけでも読める内容だと思いますが、前話、前々話を読んだ方が内容が分かりやすいと思います。


ないものねだり

 集合場所は駅ディスプレイ前、ここ。今の時間は2時45分。待ち合わせは3時。後15分。

 服は昨日の夜悩みに悩んで胸元が白で他が黒のワンピースとジャケットに落ち着いた。

よく着る色で落ち着くしゆかりお姉ちゃんと服が似た雰囲気にもなるのも嬉しい。

髪もちゃんと整えてきた。スマホでチェック。大丈夫、乱れてない。

待ってる時間は長いなぁ。

 でもそろそろ時間かな?46分。1分しか経ってない。

何話すか考えて待とう。

きっと初めに『待たせてしまいましたか』と言われるだろうから。

『それより会えてうれしいです!』

はしゃいでみるとか。

『全然待ってないですよ。ゆかりお姉ちゃん』

落ち着いた感じとか。

『いえ、私も今着いたところですわ。ゆかりお姉様』

上品にとか。

 ゆかりお姉ちゃんの好みは一体どれだろう。

ゆかりお姉ちゃんの顔を想像したら、何か落ち着かなくなった。

どれにしよう。もう少し、考えがまとまるまでゆかりお姉ちゃん来ないで。

 「私が来たら何故駄目なんですか?」

「え、だってゆかりお姉ちゃんには良い印象を持って欲しいじゃないですか」

「そんな気負わず、いつも通りでいいですよ」

「で、も?」

 あれ?私誰と話してるの?

目を声の方向に向ける。

紫色のワンピースに黒色のパーカー。狙い通り、私と似た雰囲気の服装。

お揃いとまでは行かなくてもやっぱり嬉しい。

いつも変わらないクールな無表情。そして綺麗な紫色の瞳。

ゆかりお姉ちゃんがそこにいた。

 「…いつからそこに?」

「『それよりあえて嬉しいです』からです」

「ふぇ?」

そこからずっと声出してたの私!?

ずっと聞かれてたの!?

「安心してください」

「え、も、もしかして、私声出してなかったです?」

「いえ、小さな声だったので、私にしか聞こえていないと思います」

「それが一番問題なんじゃないですかぁぁあ!」

 うぅ。せっかくのデートが初めの一歩で躓いた。

赤くなった顔を手で覆ってぶんぶんと振る。

ゆかりお姉ちゃんはため息をついた。呆れられちゃった……。

 「あかり」

「……はい?」

「待たせてしまいましたか?」

あれ、これは。

「い、いえ、全然待ってないです」

「それはよかった。喫茶店は近くでしたよね」

「はい!駅の中だから直ぐに着きます!」

「では、行きましょうか」

「はい!」

 会ったところからやり直してくれた。

さっきの私のは見なかったことにしてくれたみたい。

嬉しくなってぴょんと腕に飛びつく。

「目立つから止めなさい」

「むー。こっちです」

するりと交わされた私は頬を膨らませてゆかりお姉ちゃんの左に並んだ。

 

 喫茶店はビルの二階。

一階の楽器店を横に見ながら階段を昇ればすぐそこ。

中に入れば白を基調とした内装に木のテーブルや椅子。

控えめな照明に音量小さめのクラシックがBGM。

うん、前来たときと変わらずゆっくり落ち着けそう。

店員さんに席まで案内してもらい、限定パフェ引換券を渡し飲み物を注文する。

私はオレンジジュース。ゆかりお姉ちゃんはコーヒー。

出来れば私もコーヒーを頼みたいけど苦くてまだ飲めない。

 

 頼んだものを待ちながら話をしていると話題が学校、そして勉強のことになった。

「そういえば、あかり。この間のテストはどうでした?」

「ふふん、結果は写真に撮ってますよ」

「……あまり得意ではなかった理系教科も伸びてますね」

「学年19位です!前回より10位くらい上がりました!」

「これならお祝いしてもいいですね。パフェ食べたら何か買いに行きましょうか」

「え、いいんですか?」

「構いませんよ。春休みに勉強させていたのは私ですし」

「やったー!」

喜びの勢いで両手がばんざーい。

 「お待たせしました。こちら限定パフェの『貴方とならどこまでも』と『いつまでも一緒に』。コーヒーとオレンジジュースになります」

何で万歳した瞬間に店員さんが来るの。

 

 

 

 

 びっくりした。びっくりした。たまたま入った喫茶店にゆかりちゃんがいるとは。

話しかけようかと思っけど、知らない子と一緒だったから取り合えず案内された席へ座る。

ゆかりちゃんのすぐ後ろの席。ゆかりちゃんの後ろ頭と知らない子が見える。

 うーん。どことなく似てるし妹なのかな?

でも私ゆかりちゃんに妹いるって話されたことないな。

いくら『弦巻さん』呼びされている私といえど、妹がいたら聞いたことあるはず。いくら『弦巻さん』でも。

……こういうときに自分を信じられないのが寂しい。

紅茶を注文して、雑誌を広げて読む振りをしながらこっそりと様子を伺う。

 知らない子が楽しそうに話す弾む声が聞こえて、楽しそうな顔が見……

あ、頬にクリームついてる。

話に夢中になっちゃったのかな。

ん、あ、あれ?、ゆ、ゆかりちゃんが頬拭いてあげてる。

相手の子、恥ずかしそうにして頬が緩んでる。

 駄目だ、何か見ちゃ駄目なものを見てる気がしてきた。

紅茶を飲んだらもう出よう。

 運ばれてきた紅茶に口をつけて落ちつ

ゆかりちゃんがあーんしてあげてる。

ゆかりちゃんがあーんしてあげてる。

紅茶でむせた。

 

 相手の子が真っ赤でりんごみたい。

そうなる気持ちは分かる。

じゃない。これは駄目だ。覗きはよくない。沸き上がる罪悪感。

ちょっと落ち着こう。ペーパータオルは、あった右。

 「ああ、弦巻さんでしたか」

「うひゃあ!」

「いきなり大声出さないでくださいよ」

「ゆ、ゆかりちゃんが驚かすからでしょ!?」

「驚かすも何も、目の前に私いるって分かってたでしょうに」

「あ、いや、ちょっと知らない子といたから話しかけづらいなって」

「あかりなら大丈夫ですよ。こっちの席に移ったらどうですか?」

そう言うとゆかりちゃんは席を離れ、正面に座っている子の隣に移った。

ゆかりちゃんが元居た席に座れってことかな。

いいのかな?呼ばれてるからいいか。

私は店員さんに伝えて席を移った。

 

 あかり、か。ゆかりちゃんにだって呼び捨てで呼ぶ相手いるよね。

 

 

 

 

 

 「ゆかりちゃんと同じクラスで友達の弦巻マキだよ。初めましてー」

ゆかりお姉ちゃんが後ろの人に話しかけたと思ったらお友達だったみたい。

私の隣に席を移したゆかりお姉ちゃんの代わりに私の正面へと座る。

金髪の長い髪と白のブラウスにデニムのパギンスに明るい笑顔。

……服の上からでも分かるくらいおっきい。

 「き、紲星あかりです。初めまして」

「あかりちゃんでいいかな?あれ、紲星?」 

「は、はい」

「ゆかりちゃんの妹かと思ったよ。違うなら彼女?」

「ふぇっ!?」

「どうしてそうなったんですか?」

彼女って一緒に待ち合わせして服見られて可愛いって言われて

「いやー仲良さ気だし」

一緒に映画見て手を重ねたり、一つのイヤホンを二人で使ったり

「あかりは二個下の親戚です。同じ学校の中等部ですよ」

確かにいつも冷静で頼りになるけれど。それは恋人とかじゃ。

じゃない、あかりって呼ばれた。落ち着こう私。

「あ、じゃあ後輩だったんだ」

「は、はい。来年にはそのまま高等部に進むと思います」

「それは楽しみだねぇ。ゆかりちゃんも可愛がってるみたいだし」 

「可愛がってる?」

「頬拭いてあげたりあーんしてあげたり。微笑ましいねぇ。可愛いねぇ」

 み、見られちゃってた。何で私はいつも恥ずかしいところを見られちゃうんだろう。

頬が赤くなるのを感じて手で隠す。

ゆかりお姉ちゃんはいつもの無表情なのに私はすぐうぅ。

 あれ、でも心なしか頬が赤い?

「あかり、何でも食べたいものを言ってみなさい。弦巻さんが奢ってくれますよ」

「何で!?」

「わ、私ですか?」

 い、いきなりそんなこと言われても。

あ、でも。小さなころに食べて以来ずっと好きなものが頭に浮かんだ。

 

 「ゆかりお姉ちゃんの作ったハンバーグが食べたいです!」

 

私の言葉で場が固まった。

 

 

 沈黙。

 

 

 沈黙を破ったのは弦巻先輩の笑い声。

わ、わ。ゆかりお姉ちゃんの頬が赤くなってる。

「あはは。いやーごめんねー?私それは奢ってあげられないやー」

笑いながら弦巻先輩がゆかりお姉ちゃんの頬をつんつんと突く。

ハンバーグってやっぱり幼くて笑われちゃうか。

「うるさいです」

「ゆかりちゃん私もハンバーグ食べたー痛い!指捻るの止めてごめんなさい!」

「そういえば弦巻さん、この後時間ありますか?」

「え、うん。あるけど。大丈夫だけど痛いよ」

「この後あかりにプレゼント買いに行くんですけど、弦巻さんこの辺り詳しいですよね」

「うん。結構来てるよ。だからそろそろ指を離してくれてもいいと思うんだ」

「あかり、どんなものが欲しいですか?」

「え、えっと、じゃあアクセサリーとか。い、痛そうです」

「あ、じゃあこの間茜ちゃんと一緒に行っていい感じだったところに行こう。ふぅ。やっと解放された」

「茜ちゃんとですか。二人の目なら信用出来ますね」

「え、私だけじゃ駄目?」

「弦巻さんの目は信用してますよ」

「…有難う」

 弦巻先輩はゆかりお姉ちゃんと仲良しなんだな。対等って感じがする。

そんな風に私も話してみたいな。

 

 

 

 

 喫茶店を出た私達は弦巻先輩の案内でアクセサリーショップにやってきた。

ショーケースと奇麗に展示されたアクセサリー。明るい店内に、商品の少ないお洒落な雰囲気。

見るからに少しお高い感じのお店。

買ってもらうのに罪悪感を感じる。

もっと手軽なものを欲しいって言えば良かった。

「あかりちゃんの好みに合うといいんだけど」

「あかり、気になるものがあれば買ってあげるから言いなさい。多少高くてもいいから」

「は、はい」

「あ、ゆかりちゃんが選んであげるわけじゃないんだ」

「私が選んだ物よりあかりが欲しい物の方がいいでしょう」

「そんなものかなぁ。あかりちゃんはどんなのが好み?」

「あ、あまり派手なものでなくて、控えめなものが」

見た目も値段も。

「うーん、じゃあこの猫ちゃんとかは?」

弦巻先輩が指で示したのはショーケースの中の銀色の猫を形どったペンダント。

可愛いけど、値段に震えた。

「も、もう少し控えめなほうが」

「そっか。じゃあ色々見ていこー。ついでにゆかりちゃんどんなのが好き?」

「私は興味がありません」

「ゆかりちゃんも色々着けてみればいいのに。ほら、この三日月のペンダントとか」

「私には似合いませんよ」

 

 弦巻先輩が指さしたショーケースを見る。

淡い金色でシンプルな形のペンダントのシリーズ。

三日月と太陽に、星。この星びびっときた!可愛い!これ!

値段は、うっ。さっきの猫ちゃんより安めだけど買ってもらうのに躊躇するお値段。

「あかり。何か気になるもの見つけました?」

「え、い、いえ、まだです」

「……。早めに見つけないと。あかりは門限が早いでしょう?」

「あ、じゃあそっちのは?」

「う、うーん」

 言われて思い出す。門限までそこまで時間がない。

他の物も探すけれど、さっき見た星のペンダントが気になってどうにも他のものが良く見えない。

弦巻さんの案内で他のお店も巡るけれど、やっぱりあれ以上の物が見つからない。

そんなことをしているうちに帰らなければいけない時間になってしまった。

 お手洗いに行ってくるので待っていてください。そう言われ私と弦巻さんは先に外へと向かった。

 

 

 「うーん、残念だけど、好きなの買ってもらいたいもんね」

「は、はい」

「今度また連れて来てもらいなよ。そのときは見つかるかもしれないからさ」

「さ、さすがにそれは迷惑じゃ」

「んー?ゆかりちゃんならきっと……おっとお帰りゆかりちゃん」

「お帰りなさい」

「お待たせしました。それよりもあかり、本当に気になるものはなかったですか?」

星のペンダントが頭を過る。でもあれは買ってもらうには高くてゆかりお姉ちゃんに悪い気がする。

ゆかりお姉ちゃんの紫色の瞳が私の目を真っ直ぐに見つめる。

考えを見透かされてしまいそうで目を逸らした。

 

 ゆかりお姉ちゃんは、ため息をついてバッグから白いケースを取り出した。

「開けて」

反射的に受け取る。

まさか、これは。

ケースを開ける。

星のペンダントだった。

「勝手に決めました。好みだったらいいのですが」

「こ、好みです。好きです」

見透かされていた。恥ずかしくなってしまう。頬が熱くなる。

「ふふ。あかりちゃん良かったね。ゆかりちゃんつけてあげたら?」

つ、つつけてあげたら?つけてもらえるの?

「そこまで……いえ、分かりました。箱貸してください」

い、いいんだ。箱を差し出す。

箱からペンダントを出したゆかりお姉ちゃんが近づいてきて首の後ろに手を回す。

顔が近い。顔が近い。良い匂いがする。唇が近い。

ゆかりお姉ちゃんの唇が動いてる。

何か話してるの?

私の心臓の音しか聞こえない。

数歩下がって首を傾げられた。あれ、何してたんだっけ。

そうだ、ペンダント。

胸元を見れば、黒い服の上に控えめに光る星のペンダントがあった。

私今どんな顔してるの?分かんないけど、見られちゃ駄目な顔だと思う。

 

 

 

 「あかり?」

あ、ゆかりお姉ちゃんの声。

「似合うねー。良かったね」

こっちは弦巻先輩の声

そ、そうだ。お礼言わないと。

「あ、有難うございます!」

「……このくらい構わないですよ」

「本当有難うございます!」

「……」

「ふふふ。あかりちゃんいいなー。ゆかりちゃん、私には?」

「今度の中間で学年5位以内に入れたらいいですよ」

「やったー!絶対無理じゃん!!」

「頑張ればきっと出来ますよ」

「あかり、残酷なことを言うのは止めなさい」

「何をー!じゃあ出来たら本当にもらうからねー!」

「はいはい。あかりは電車でしたよね」

「さらっと流されちゃった……。じゃあ私達とはここでお別れ?」

「は、はい。今日は本当有難うございました!」

頭を下げると、ペンダントが見えた。

つい口元が緩んでしまう。

「ふふふ、じゃあね」

「ええ、また」

 手を振るマキさんと自然体のゆかりお姉ちゃんを背にして私は駅に向かう。

少し進んで振り返ってみたら、まだ二人はこっちを見ていた。

嬉しくなって手を振ってみる。

マキさんは先ほどより大きく、ゆかりお姉ちゃんも小さく手を振ってくれた。

 

 

 

 

 「ねーゆかりちゃん」

「どうしました弦巻さん」

「次の中間5位以内だったら、本当に私にプレゼントしてくれる?」

「本気にしてたんですか」

「やっぱり冗談?」

「そうですね。それなら20位以内に入れたらいいですよ」

「やったー。っていっても...順位150上かぁ。勉強しないと」

「そう言って勉強初めた5分後にギター触り始めるんじゃないです?」

「うっ。も、もうしないよ。しないから勉強をお教えくださいゆかり様」

「はいはい。ところで20位以内に入ったら私がプレゼントするのはいいですけれど、私は何か貰えないんですか?」

「んー。じゃあ私が20位以内に入ったらゆかりちゃんにプレゼントするよ」

「……それだと結局、自分で自分の分を買うのと同じじゃないですか?」

「全然違うよ」

「そうなんです?」

「そうなんだよ」




 最後まで読んでいただき有難うございました。
どのくらいの文字数が適切なのかまだ分からず探り探りでやっています。
今回は試験的に前話前々話に比べて文字数をかなり多くしたのですが、読みづらい方がいらっしゃったらすいません。
 次はどのキャラクターを書きましょうか。

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